2~3 (略)
個別具体の事案で妥当な結論を導くための拡張解釈 75 は、個別類型として規定された行 為の外延を不明確なものとし、文言の無理な解釈によって個別に不正競争行為を列挙して
75 前掲脚注 65 参照。
このように、何が工業上、商業上の不正な競争行為であるのかは時代とともに変遷し、
あらかじめその全てを類型化することは困難であり、現在発展途上のビジネスに関する不 正競争行為など経済社会の変化に応じて発生する新しい不正競争行為に対して現行法は無 力であり、また将来発生するビジネスについても、個別類型の追加を待っていたのでは不 十分で、現行法での事前の対応は期待できない。
②判例法理の適切な形成・発展への影響
新たな立法が容易ではないことから、裁判においては、①現行法の解釈を拡張して適用 することにより新たな不正競争行為に対応する方法、②民法第709条により損害賠償請求の み認める方法のいずれかにより、当該事案の解決としてはできるかぎり妥当な救済が図ら れている。
しかし、このような暫定的な救済によって当面の保護を図り、判例の蓄積を待って必要 に応じて個別類型を創設するという現行法のスタイルは、以下のような問題点がある。
(a)現行法の解釈
個別具体の事案で妥当な結論を導くための拡張解釈
75は、個別類型として規定された行
物を第三者が使用することについてのコントロールを及ぼすことができなくなり、第三者 のただ乗りの差止めや、情報成果物の希釈化、汚染化の防止については法的な救済を得る ことができない。
また、損害賠償額の立証は容易ではなく、実務上は、被った損害の全てを金銭賠償で回 収できるわけではなく、侵害の救済という観点からは差止請求を認める必要があるとの指 摘もある。
③事案に応じた柔軟な対応に限界がある
民法709条は一般条項として違法行為に対する損害賠償を認めているため、侵害行為の態 様と被侵害利益の重要性などを総合考慮して事案に応じた細かな事実認定により損害賠償 請求を認めることができる。そして、同種事案が集積した場合には、その不正競争行為の 要素について類型化して不正競争防止法において規制されることがある。
しかし、この場合には、類型的に不正競争性が認められる行為について規制することに なるため、個別具体的な事案における不正競争行為の最大公約数となる部分を抽出するこ とになる。この結果、不法行為責任が認められている範囲がすべてカバーされるとは限ら ず、規制しようとした不正競争行為の一部が保護の対象から外れてしまう場合がある。
④比較法的検討
各国の不正競業法を概観すると、ドイツ、スイスなどの先進諸国の不正競争防止法では、
いわゆる一般条項を有しているものが多く、比較法的観点、法制度の発展という観点から、
個別列挙でない条項の導入がふさわしいとの指摘がある。
⑤パリ条約との関係
パリ条約第10条の2では、「工業上又は商業上の公正な慣習に反するすべての競争行為は 不正競争行為を構成する。」と規定しており、その趣旨を実現するためには個別列挙でない 条項の導入によって対応することが望ましいとの指摘がある。
(ⅱ)本研究会での議論
研究会では、他人の成果物を無断で利用して自己の利益を図るという行為は原則として 許されないのだということは、現在の我が国で一般的にコンセンサスを得ていると言って 良いと思うとの意見が示された。また、現行の限定列挙的な不正競争行為類型には入って いないから法的に文句を言われる筋合いはないと考える者もおり、事前の差止請求が認め られないことに伴いそれによって多大な損害を被っているのに何らの救済も受けられない 者がいるので、一般的あるいは補充的規定を設けて、利益を得るために社会的に妥当と思 われない行為をすることは不正競争行為と評価されるということを明示しておけば、健全
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な商慣習も生まれるし、具体的事案において妥当な結論を得ることが可能になると思うと の意見が示された。更に、他人の成果物にタダ乗りしてまで儲けようとは思わない良心的 な業者なら、このような規定により不利益を負うおそれはなく、危惧することもないので はないかとの意見が示された。
一方で、抽象的な条項を設けざるを得ないという点に関して、もう少し説得力のある議 論が必要であるとの意見が示された。例えば、営業秘密に関しては、有用性だけではなく、
秘密管理性も要件となっているのにも拘らず、有用性だけで保護の対象とすることには相 応の十分な検討が必要ではないかとの意見も示された。
こうした消極的な意見に対しては、抽象的な条項が導入されることにより、具体的な条 項では救済が困難な事案について法的判断が求められるようになるので、これまで潜在的 であったニーズが顕在化する可能性があるのではないかといった効果が期待されうるとの 意見が示された。また、新たな不正行為が生じる度に、毎年、法改正を行うコストは多大 なものがあることから、一般条項のような条項を設けることで、適正な競争秩序を形成し ていくことは社会全体のコストを考えると十分納得できるものだと考えるとの意見が示さ れた。
(2)他の法律との関係
補充条項の規定内容にも関連するが、民法における損害賠償による救済の原則や、独占 禁止法・景品等表示法の私訴による差止請求、保護期間満了後の知的財産の扱いなど、他 の法律との関係についてどう考えるべきか。この点については、補充条項を検討する際に は十分考慮する必要がある。
(3)補充条項の導入に伴う懸念と対処
(ⅰ)問題意識
不正競争防止法に補充条項を導入した場合、予見可能性の低下、事業の萎縮効果などの 懸念が想定されるが、このような懸念に対し現実的な萎縮効果はどの程度生じるのか。ま た、これに対処するための方途(適用除外など)はどのようなものが考えられるか。
①予見可能性が損なわれる
事業者にとって、何が正当な競争行為であり、何が不正な競争行為であるのかを、その 都度裁判所の判断を待たないと不明であるのは事業活動の予測可能性を害することになり かねないとの指摘がある。
②どのような行為が対象となるか想定できない
不正競争行為を個別類型化することによる対応を図った後になお、いかなる行為が不正
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競争行為として想定されるのか明確ではなく、社会通念上、不正競争行為であるとコンセ ンサスが得られた行為について、その都度、個別類型化を図っていくことにより十分対応 することが適切であるとの指摘がある。
(ⅱ)本研究会での議論
一般条項を導入することについては、予てより予見可能性が損なわれることが問題であ るとの指摘がある。本研究会においても、具体的な構成要件が規定されない条項が追加さ れた場合、その違反が差止めという強力な効果をもたらすことから、企業内コンプライア ンス活動の一環として対応するにあたって困難を伴い、ビジネス活動への萎縮効果を生じ るのではないかといった懸念が示された。
この意見に対しては、何の基準もない現在の状態の方が萎縮効果は生じているのではな いか。例えその外延が明確ではなくても、不正競争防止法に一般条項を置くことで判断の 指針ができて、良い効果を及ぼすと思う。何も法的規制がないことで、民法709条に依存し、
不正競争防止法の要件を欠いていても、何となく悪そうだというので損害賠償が認められ てしまう方が問題であるとの意見も出されたが、民法の不法行為と不正競争防止法の間に 何らかの規定を設けるというコンセンサスは得られていないのではないかとの意見があっ た。
また、予見可能性や対象が不明瞭になるといった懸案については、平成5年に検討した 際にもあり、当時、ドイツ不正競争防止法では、非常に細々したことを一般条項で規制し ていたため、日本の国情に合わない、予見可能性を害するといることが議論されていた。
しかし、今回の議論は、「補充条項」という形で特定された条項である。近年の判例をみ ると、他人が投資・労力をかけたもの、特定された類型の創造物、知的財産権法で保護さ れていないものについて、ある要件を立てて保護がされている。従って、予見可能性が損 なわれるという心配はないのではないかとの意見が示された。
補充条項の要件としては、商品等表示としての使用ではない他人の成果や名声の不正な 利用などが考えられるとの意見が示された。一方で、 「成果」には何が含まれるのか不明で あり、成果について限定されないような条文が掲げられると萎縮すると言う意見があった。
そして、補充条項として新たな条文を設ける場合に、差止請求は、相手方が特に悪性の 高い場合、あるいは著しい損害が発生する場合にのみ認めるといった限定を付すことで萎 縮するという懸念は払拭できるのではないかとの意見が示された。
また、補充条項を検討する上では、品質・原産地誤認表示(不正競争防止法第2条第1 項第13号)や、信用毀損行為(不正競争防止法第2条第1項第14号)などの条項を拡大す る形での補充条項も考えられるのではないかとの意見があった。
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ドキュメント内
Microsoft Word - 01お知らせ doc
(ページ 78-83)