博士(医学)山田幹二 学位論文題名
2 型糖尿病モデルラットの糸球体病変進展に於ける 腎血行動態異常の意義
学位論文内容の要旨
1.諸言
2型糖 尿 病に おける 腎症の発 症と進展 におけ る腎血行 動態異 常の意義 はいま だ明確で は な い. そ の意義 を実験 的に明ら かにす る目的で ,ヒ卜類 似の病 態を示す2型 糖尿病モ デ ル動物 であるOtsuka Long‐Evans Tokushima Fatty ratくOLETF)を用いて,腎血流の自 勤調節能ならびに糸球体内圧を観察し,糸球体の病理学的変化との関連を検討した.更に,
腎 皮質 の 表 層と 深 層 に存 在 す る糸 球 体は機 能や形態 カ蠍る 為,腎血 行動態 異常並び に 糸球体 病変の 出現カ鐸 ミなる可 能性が あり,そ れらの 部位的特 性についても評価した.
2.材料と方法
雄性OLETF (n=5)及 び同系 対照の雄 性LongーEvans Tokushima Otsuka rat (LETO: n=5) を 対 象と し ,10,20,30,40週 齢 にて体重 ,血圧 測定,24時 間蓄尿 ,採血を 施行し,
40週齢 にて病 理組織学 的検討 を行った .また,OLETF (n=15),LETO (n=15)を同様な条件 で飼育し,30週齢にて腎血行動態・糸球体内圧測定を施行した・
30週齢のOLETF(n〓10),LETO(n〓10)に,thiobutabarbiturcrteを腹腔内投与し痲酔 した.右大腿動脈より腹部大動脈内に挿入したカテーテルより平均動脈圧(MAP)を測定し,
腹部 大動脈 の腎動脈 分岐直ヒ の手動 クランプにて,腎灌流圧(RPP)を任意のレベルに調節 した.次に腎動脈に装着した電磁流量計で総腎血流量(RBF)を,laser‐doppler flow meter の プ ロ― ブ を 腎皮 質 表 層と 深 層 に それぞれ 刺入し皮 質表層(SBF),深 層血流 信号(DBF) とした.前測定を2回行った後(baseline:B,time control:C),RPPを8W‑‑93rrrnHg (mild clamp: El)及 び70〜80rnmHg (moderate clamp: E2)とし, 各パラメ ータを測定した.ク ラ ン プを 解 放 後, 腎 血 行動 態 の 安 定を 待 っ て一 酸 化 窒素 合 成 酵素(NOS)阻害薬 である M‑nitro―L‑arg、nine脆thルester(L‐NAME)を艙弧)1/h/kg体重で持続静注後,各血行 動態パラメータを測定値し投与前値と比較した.
30週 齢 ラッ 卜 (oL叮F陥5,LET0忙5)を 対 象 に,Auklandら の 方 法よ り 部 分 的皮 質 除去 により 糸球体を 露出し, マイク ロパンク チャ― 法による 直接穿 刺にて内圧を測定し た . 腎表 面から 瘡底を 約2分 割し, 表層糸球 体,傍髄 質糸球 体とし, 内圧を 比較した . 40週 齢ラ ットの 腎臓の組 織標本 を用いて ,腎皮質 の表層 リ3を 皮質表 層糸球体 ,深層 リ3を深層糸球体とし,それぞれの硬化指数(SI)と糸球体容積(Vコを半定量的に評価した。
そ れ ぞれ の 糸 球体 は 各50〜1齣 個に っ き 計測 し , 個体 ご と の平 均値を 観察値 とした.
結 果 は平 均 値 土SEで 表記 し , 各 ラッ 卜間の比 較、表 層、深層 間の糸球 体内圧 の比較は
分散 分析(ANOVA)にて 検 定し た. 表層、深層間の病理組織の計測値の比較は対応のあ る t検 定に よっ た. いず れ も有 意限 界をP.05と した .
3.結果
10週齢から血糖値,尿蛋白はOLETFで有意に上昇し,以後有意差をもち更に上昇した・
20週齢以降OLETFはLETOに比べて多尿,糸球体過剰濾過を示した.
腹 部大 動脈 クラ ンプ によ るRPPの調 節は 各設 定値(E1,E2)でOLETF,LETO両群間に差 は 無 か った .OLETFのRBFは 定常 状態 から ,E1(84.0土4.3め ,E2(71.3土4.8め と有 意 に低 下し ,LETOと,比べても明らかに低下した.SBFはRPPの低下において,E2で初めて 両群 とも 有意 に低下したが,群間に有意差はなかった.DBFはOLETFでE1(92.2士1.8め,
E2(83.9士1.7め とい ずれ も定 常状 態か ら 有意 に低 下し た.E2に おけるOLETFのDBFは LETOより有意に低かった.
L‑NAME投 与 前 値 を10弼 と し た 各 相 対 値 で は ,RBFはOLETF( 翰.87士5.4496)で LET0(49.32士1.78| こ上ヒペ有意に低下し,DBFもOLETF(38.8@土5.@796)でLET0(73.82士 12 .7396)に比べ有意に低下した・
糸球体内圧は,OLETFでは表層(57.5土3.8nmHg),深層(78.S土Z.7nrnHg)と,LETOより表 層く48.Z士Z.InrnHg),深層(58.5士1.6rnnHg)ともに高く、いず物ラッ卜でも表層に比べ て深層糸球体内圧力鵯に高かった・
4 0i匿蝋冷でのv6は表層,瀦ともOLETFてと太きく,瀦甍苺日許本でOLETF(2.17士0.36X 1げ ル め ,LET0(1.27士0.@6X船 ルめ と有 意差 を認 め た.SIは 表層 糸球 体でOLETF(1.31 土0.12),LET0く0.68土0*92),深層糸球体でOLETF(1.84士0.12),LETO(O.99士O.的)といず れ もOLETFで 有意 に高 く, また 両群 とも 深層 では 表 層のSIに 比較 し有 意に 高か った .
4.考察
OLETFでは 腎血 行動 態の 自勤 調節 能が 障害され,腎皮質深層血流が表 層に比べて強く 障 害 さ れ て いた .更 に,L‑NAMEの 投与 によ りRBFとDBFの低 下がLETOに比 較L′有 意 に 強いこと より,OLETFの腎血行動態異 常にNOの過剰作用が関与する可能性が示唆された・
糸 球体 内圧 はOLETFで 有意 に上 昇し ,糖 尿病の発症以後認められる尿蛋 白排泄の増加と 糸 球体 濾過 値の 上昇をあわせると,この時期に糸球体内圧ヒ昇とともに 過剰濾過が出現 し てい るも のと 考えられた.こうした糸球体血行動態異常も深層糸球体 でその傾向が強 い 可能 性が ある .こうした一連の機能的異常は,糸球体構成細胞の形質 変換や直接的な 障害をも たらし,更に糖尿病状態がその病態を促進し,糸球体硬化に進展することが知ら れ てい る. 今回 観察した糸球体肥大と硬化の部位が腎血行動態異常の分 布と一致するこ とからも ,糖尿病によってもたらされる腎自動調節能の障害と,それと関連した糸球体内 圧 上昇 カ鉢 蒲態 に おけ る糸 球体 障害 の発 症と 進展 に深 く関 与し ている ものと推察され た.
5.結語
2型 糖尿 病モ デル ラッ 卜で あるOLETFでは 糖尿病発症後,腎血 行動態の自動調節能は 障害され,糸球体内圧は上昇する.腎血 行動態異常は腎皮質表層よりも深層で強く出現 し,糸球体障害と密接な関係を有する.
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
2 型糖尿病モデルラットの糸球体病変進展に於ける 腎血行動態異常の意義
本 研 究 で は 、 ヒ ト 2型 糖 尿 病 類 似 モ デ ル 動 物 で あ る Ot suka Long‑ Evans Tokushima Fatty (OLETF)ラ ッ 卜 と そ の 同 系 対 照 で あ る Long‑ Evans Tokushima Ot suka(LETO)ラ ッ ト を 用 い て 、 糖 尿 病 の 腎 糸 球 体 障 害 に お け る 腎 血 行 動 態 異 常 の 病 態 生 理 学 的 意 義 に っ き 検 討 し た 。
糖 尿 病 で 出 現 す る 腎 血 行 動 態 異 常 の 解 析 は こ れ ま で1型 糖 尿 病 及 び そ の 実 験 モ デ ル 動 物 に 限 ら れ 、2型 糖 尿 病 に お け る 詳 細 な 報 告 は な く 、 そ の 病 態 的 な 意 義 は い ま だ 明 ら か で は な ぃ 。 そ う し た 理 由 の ー っ と し て こ れ ま で ヒ 卜2型 糖 尿 病 に 対 応 す る 良 好 な 疾 患 動 物 モ デ ル が 存 在 し な か っ た こ と が 上 げ ら れ る 。 今 回 の 実 験 対 象 と し たOLETFラ ッ ト は 、 早 期 よ ル イ ン ス リ ン 抵 抗 性 を 示 し 生 後20週 前 後 で 糖 尿 病 を 自 然 発 症 し 、40週 齢 以 降 で 糸 球 体 硬 化 病 変 が 出 現 し ヒ ト の 糖 尿 病 性 腎 症 に 類 似 し た 結 節 性 病 変 を 認 め る に 至 る 。 ー 方 、 腎 の 糸 球 体 で は 皮 質 表 層 と 深 層 に お い て そ の 構 造 と 機 能 が 異 な っ て お り 、 糸 球 体 障 害 の 出 現 や 進 展 も そ れ に 伴 い 相 違 す る 可 能 性 が 示 唆 さ れ て い る 。 し か し 、 糖 尿 病 の 糸 球 体 障 害 に 関 し て 糸 球 体 の 部 位 的 な 相 違 は こ れ ま で 解 析 さ れ て い な い 。 以 上 の 背 景 の も と 、 OLETFラ ッ ト に お け る 腎 血 行 動 態 と 糸 球 体 障 害 の 関 係 を 検 討 し た 。 対 象 と な っ た30週 齢 雄 性OLETFラ ッ ト は 対 照 の 同 性 同 週 齢LETOラ ッ ト に 比 ベ 体 重 、 血 糖 、 収 縮 期 血 圧 、 尿 蛋 白 排 泄 量 は 有 意 に 高 〈 、 明 ら か な 糸 球 体 過 剰 濾 過 を 示 し た 。 麻 酔 下 で 評 価 し た 総 腎 血 流 と 皮 質 深 部 血 流 は 、OLETFラ ッ ト で 腎 灌 流 圧 の 変 化 に 対 し て 大 き
〈 変 動 し 、 血 行 動 態 調 節 機 能 と し て の 自 動 調 節 能 の 障 害 が 示 さ れ た 。 更 に 、 非 特 異 的 一 酸 化 窒 素 合 成 酵 素 阻 害 薬 で あ るAP‑nitro‑Lーargininemethylester(L‑NAME) の 持 続 静 脈 内 投 与 (10‑6m ol/h/kg) に 対 す る 総 腎 血 流 と 皮 質 深 部 血 流 の 変 化 率 がOLETFラ ッ ト で は 有 意 に 大 き 〈 、 内 因 性 ― 酸 化 窒 素 の 産 生 亢 進 が 腎 深 部 で の 血 行 動 態 異 常 の 一 因 と 考 え ら れ た 。 ま た 、 同 週 齢 のOLETFラ ッ 卜 とLETOラ ッ 卜 に お い て 、 部 分 的 皮 質 除 去 に て 糸 球 体 を 露 出 し 、 直 接 穿 刺 法 で 内 圧 を 測 定 し た 。 い ず れ の 群 に お い て も 皮 質 表 層 に 比 べ て 深 層 の 糸 球 体 内 圧 が 有 意 に 高 < 、 そ れ そ れ の 部 位 でOLETFラ ッ ト で はLETOラ ッ 卜 に 比 べ て 有 意 な 上 昇 を み た 。 40週 齢 に お い て 採 取 し た 腎 病 理 切 片 で 糸 球 体 容 積 、 糸 球 体 硬 化 を 定 量 、
夫
敬 彦
隆
知
池 木
柳
小 吉
小
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
半定 量的に評価した。OLETF ラッ卜では表層ならびに深層で
LETOラットに比ベ糸球体は 大き<、硬化の程度も強かった。また、この傾向は深層糸球体で著しかった。したがって、
○LETF ラットでは糸球体内圧の安定化が障害され、その結果として糸球体障害が進展し、
その傾向は深層糸球体で強いことが示唆された。
本研究で、2 型糖尿病類似の病態における腎血行動態異常の存在と糸球体障害における その重要性が初めて明確に示された。また糖尿病における糸球体の機能ならびに形態を部 位 別 に解 析 した 報 告は こ れま で 存在 せ ず、 そ の意 義 は 大き い もの と 考え ら れた 。
発表 後、吉木教授から
OLETFラットの全身性の動脈硬化・発症遺伝子の報告、深層糸 球体の硬化機序の他の疾患での可能性及び
L‑NAMEの作用機序についての質問があった。
冫欠 いで小柳教 授から
OLETFラットの食餌摂取量,
OLETFラットでのレプチンの意義、
OLETF
ラットの多尿出現時期、高血糖・尿糖出現時期、及び腎の
NO産生についての質問 がなされた。
最後に小池教授からは、糸球体硬化が臨床的に部位的差異をもって出現するかについ て の 質問 が あっ た 。こ れ らの 質 問に 対 して も 、申 請 者 は概 ね 適切 な 回答 を レた 。
この 論文はヒト
2型糖尿病類似モデルラットを用い腎血行動態異常と糸球体病変との 関連を腎皮質糸球体の部位的解析という観点から検討したとして高<評価され、今後臨 床上においても糖尿病の血行動態異常が糸球体病変
fこ関連する可能性を踏まえつつ、そ の治療法確立の―助となる可能性が期待される。