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博 士 ( 医 学 ) 田 中 学 位 論 文 題 名

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Academic year: 2021

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     博 士 ( 医 学 ) 田 中 学 位 論 文 題 名

ヒ ト内在性レトロウイルス ERV3 遺伝子導入ラットの 樹立とその分子生物学的及び病理組織学的解析

学位論文内容の要旨

  内在性レトロウイルスは真核生物のゲノ厶内に見られる感染性レトロウイルスに似た 配列を示す遺伝子の総称で、生物の種を問わず広く分布している。ヒトにも多数の内在 性レトロウイルスが見出されてきており、ゲノムの約1%にも達すると考えられている。

それらの大部分は遺伝学的に不活化された状態で存在するのみだが、そのうちのいくつ かは遺伝子の発現が確認されている。当教室ではヒト内在性レトロウイルスのうち実際 にmRNAのヒ トでの発現 が確認されている内のーつであるERV3に着目し従来より研 究してきた。ERV3は約9.9kbの1コピー型のヒト内在性レト口ウイルスで、両端をLTR ではさまれた中にga罰pD丶enレに相当する領域のあるほぼ全長のレト口ウイルス遺伝 子構造が保たれている。舮丶p甜領域の発現は確認されていないが、スプライシングを 介してenv領域の約3.5kbのmRNAの転写が確認されている。このe口レ領域に約1.8kb に及ぷ蛋白読み取り枠が保存されており、ENV蛋白の産生が予想されている。従来まで にいくっかのERV3の性質が見い出されてきたが、現在のところその機能や病原性、存 在意義は不明である。本論文ではこの状況を打開するためERV3遺伝子を導入したモデ ル動物の作製を行った。導入遺伝子はヒト末梢血から採取したゲノムDNAよりlon醫 PCR法を用いて目的の遺伝子をいくっかの断片に分けて増幅精製し、遺伝子配列を確認 した後一つにっなげて、ERV3遺伝子の全長(9.9kbp)をクローン化した。このクロー ン化遺伝子の細胞内での発現は、ラット繊維芽細胞株W31ヘ遺伝子導入し、ERV3特異 的プライマーを用いたRT.PCRを行い、増幅産物のDNA塩基配列を決定することによ りERV3eロレ領域の転写産物であることを確認した。遺伝子導入ラットの作製はク口ー ン化遺 伝子のWKAHmkmSlc系ラ ット受精卵へのマイクロインジェクション、操作卵 の偽妊娠ラットへの移植により行った。一連の操作により、3頭の遺伝子導入ラットを 得、そのうち2頭が継代化(ETR5系、ETR16系)された。ERV3卸レ領域をプローブと したサザン解析からはETR5系は導入遺伝子が一箇所にタンデムで数コピー導入されて おり、ETR16系は一個所で1コピーの遺伝子導入が考えられた。RT.PCRを用いた全 身臓器 でのERV3enレmRNAの発 現の検討では、ETR5系では、肺、副腎、唾液腺、腸 管、骨格筋、脾臓、胸腺、リンパ節、末梢血、涙腺、卵巣に発現が見られ、ERV3伽レ をプローブとしたノーザン解析では特に涙腺、唾液腺に強い発現が見い出された。発現

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の主 体は ヒト の場 合よ り もや や長 い約4.Okbで 、ヒ トと同様の約3.5kbの発現もそれよ りも 弱い なが らも 発現 し てい た。ETR16系 でtまRT‑PCR解析で|よ 、涙腺と唾液腺にの み発現が確認され、ノーザン解析ではヒトと同じ約:3.5kbでの発現が涙腺に強く、唾液 腺 に は そ れ よ り も 弱 く 認 め ら れ た 。ETR5系 のmRNAに 対 し て 、 転 写 開 始 点 の 上流 や pbly(A)siteの 下 流 にプ ライ マー を設 定しRT‑PCR法で 検討 した 結果 、ETR5系 の4.Okb の発現は遺伝子のタンデムな導入により 通常よりも上流で転写開始が生じたり、あるぃ は下流の遺伝子の一部を巻き込んだ発現 の可能性が示唆された。しかし、実際の蛋白産 生には影響がないと考えられた。ヒトで の高発現臓器であることが知られている胎盤で は 、ETR5系 で 胎 生12日 以 降 にRT‑PCR法 に よ り 発 現 が 確 認 さ れ 始 め 、 胎 生16日で は 遺伝子導入された胎児の胎盤のほぽすべ てで発現し、妊娠後期まで継続していた。胎児 本体 では 胎齢16日 での 発 現が 確認 され た。 しか し、通常のノーザ ン解析では胎齢16日 の 胎 盤 、 胎 児 と も 検 出 感 度 以 下 で あ っ た 。 一 方 、ETR16系で はRT‑PCR法 によ って も 胎 生19日 の 胎 盤 に 発 現は 確認 され なか った 。最 も高 発現 であ ったETR5系 の涙 腺で の 蛋白 発現 を、ERV3 enレ 領域の合成ペプチドを免疫した兎抗血清を 一次抗体として用い たウ ェス タン 解析 にて 行 った 。そ の結 果、ETR5系の 涙腺 に特 異的 な約85kDaのバンド が確 認さ れた 。こ の分 子 量はDNA塩基 配列 から 予想 さ れる 蛋白 分子 より 大き なもので あ っ た が 、 こ のENV蛋白 には8箇所 の糖 鎖結 合の 可能 なア ミノ 酸配 列部 位 が想 定さ れ てお り、 その 糖鎖 がす べて結合してい る可能性が考えられた。2系 統のラットについて 生後320日 まで 経時 的に 観察 及び 各臓 器の 組織 像を 検 討し たが 、コ ント ロー ルのWKAH ラットとの間に有意な差や病変は見い出せなかった。上記の結果を踏まえて考察すると、

導 入 遺 伝 子 自 体 は 生 体内 でヒ トと 同様 のス プラ イシ ング を示 すmRNAの 発 現が 確認 さ れ 、 特 にETRIG系 は ヒ ト と 同 じ1コ ピ ー 型 の 遺 伝 子導 入でERV:3発 現の 作 用と して も ヒト と同 様の もの を期 待 でき る。ETR5系で は約0, 『 )kbのmRNAの 付加 が確 認された もの の蛋 白の 産生 に影 響がないと考え られた。従来よりERV;3には サイトカインによる 発現 調節 が見 られ 、ま たLTR内にグルココルチコイド受容体が作用 すると考えられてい るTGTTCT配 列 が 見 ら れ、 従来 より 高発 現臓 器と して ステ ロイ ドホ ルモ ン が関 与す る 臓器 が報 告さ れて いる 。 ヒト 涙腺 でのERV3発現 の検討は行われて いないが、ラット涙 腺で はア ンド ロゲ ン受 容体が存在して おり、今回得られた2系統に 共通して涙腺が高発 現であったのはこのアンド口ゲン受容体 に関連している可能性が考えられる。現在のと ころ 樹立 した ラッ トで は 涙腺 を含 め病 変は 確認 されず、通常の状 態ではERV3の病原性 は低 いも のと 考え られ た が、 類似 ウイ ルス など の感染による分子 相同性を介してこの ENV蛋 白に 対し て免 疫反 応が誘導される場合も想定される。また、 ヒト培養細胞ではあ る種 のサ イト カイ ンがERV3 enレの発現を制御することが知られて おり、炎症などによ る局 所で のサ イト カイ ンの発現を介し たERV3 enレの発現増強がそ の炎症を修飾するこ とも 考え られ る。 一方 、ERV3 enレ領 域に は免 疫抑 制 性に 働くp15E類似 構造 や細胞融 合に 関連 するgp70類似 構 造の 塩基 配列 が保 持さ れており、ヒト胎 盤での高発現は母児 間の免疫学的バリアーや胎盤での合胞体 形成に関連している可能性やヒト胎児での単核 球の分化に関与している報告もあり、発 生分化の解析にも有効な材料を提供するものと

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考えられる。以上の事より、今回樹立されたERV;3ラットは今後のヒト内在性レトロウ イルスの解析に極めて有効であると考えられる。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

ヒ ト内在性レ トロウイ ルス ERV3 遺伝子導入ラットの 樹立とその分子生物学的及び病理組織学的解析

  内 在 性 レ 卜 口 ウ イ ル ス と は 真 核 生 物 の ゲ ノ ム 内 に 見 ら れ る 感 染 性 レ ト 口 ウ イ ル ス に 類 似 し た 配 列 を 示 す 遺 伝 子 の 総 称 で 、 ヒ ト を 含 め 真 核 生 物 に 広 く 分 布 し て い る 。 そ れ ら の 大 部 分 は 遺 伝 学 的 に 不 活 化 さ れ た 状 態 で 存 在 す る の み だ が 、 一 部 で はmRNA発 現 が 確 認 さ れ て い る 。 申 請 者 は 多 数 あ る ヒ ト 内 在 性 レ ト 口 ウ イ ル ス の う ち 今 ま で に 研 究 実 績 の あ るERV3に 着 目 し 、 研 究 を 行 っ た 。ERV3は 約9.9kbの1コ ピ ー 型 の ヒ ト 内 在 性 レ ト □ ウ イ ル ス で 、 ほ ぼ 全 長 の レ ト 口 ウ イ ル ス 遺 伝 子 構 造 が 保 た れ て お り 、env領 域 のmRNAの 転 写 、 蛋 白 読 み 取 り 枠 の 保 存 が 見 ら れ 、ENV蛋 白 の 産 生 が 予 想 さ れ て い る 。 現 在 の と こ ろ そ の 機 能 や 病 原 性 、 存 在 意 義 は 不 明 で あ る 。 本 論 文 で は こ の 状 況 を 打 開 す る た めERV3 遺 伝 子 を 導 入 し た モ デ ル 動 物 の 作 製 を 行 っ た 。 導 入 遺 伝 子 はERV3遺 伝 子 の 全 長 を ヒ ト ゲ ノ ムDNAよ りlong PCR法 を 利 用 し 分 離 精 製 し 用 い た 。 導 入 遺 伝 子 の 発 現 能 を 血vltroで 確 認 し た 後 、WKAHラ ッ ト 受 精 卵 へ の マ イ ク 口 イ ン ジ ェ ク シ ョ ン に よ り 遺 伝 子 導 入 ラ ッ ト を 作 製 し た 。 一 連 の 操 作 に よ り 、2系 が 継 代 化(ETR5系 、ETR16系 ) さ れ た 。 サ ザ ン 解 析 か ら はETR5系 は タ ン デ ム で 数 コ ピ ー 導 入 が 、ETR16系 は1コ ピ ー の 導 入 が 考 え ら れ た 。 RT‑PCRを 用 い た 検 討 で は 、ETR5系 で は 、 肺 | 副 腎 、 唾 液 腺 、 腸 管 、 筋 、 脾 臓 、 胸 腺 、 リ ン パ 節 、 末 梢 血 、 涙 腺 、 卵 巣 に 発 現 が 見 ら れ 、 ノ ー ザ ン 解 析 で は 特 に 涙 腺 、 唾 液 腺 に 強 いERV3 envの 発 現 が 見 ら れ た 。 発 現 の 主 体 は 約4.Okbで 、 ヒ ト と 同 様 の 約3.5kbの 発 現 も 弱 く 認 め ら れ た 。ETR16系 で はRT‑PCR、 ノ ー ザ ン 解 析 と も 涙 腺 と 唾 液 腺 に の み 発 現 が 確 認 さ れ 、 約3.5kbで の 発 現 が 涙 腺 に 特 に 強 く 認 め ら れ た 。ETR5系 のmRNAに 対 し て 、 さ ら にRT‑PCR法 で 検 討 し た 結 果 、ETR5系 の4.Okbの 発 現 は 通 常 よ り も 上 流 で の 転 写 開 始 や 、 下 流 の 遺 伝 子 を 巻 き 込 ん だ 発 現 の 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 ヒ ト で の 高 発 現 臓 器 で あ る 胎 盤 で は 、ETR5系 で 胎 生12日 以 降 にRT‑PCR法 に よ り 発 現 が 確 認 さ れ 始 め 、 妊 娠 後 期 ま で 継 続 し て い た 。 胎 児 で は 胎 齢18日 で の 発 現 が 確 認 さ れ た 。 そ の 一 方 、ETR16系 で は 胎 盤 に 発 現 は 確 認 さ れ な か っ た 。ETR5系 の 涙 腺 で の 蛋 白 発 現 を 、ERV3 env領 域 の 合 成 ペ プ チ ド の 兎 抗 血 清 を 用 い た ウ ェ ス タ ン 解 析 に て 行 っ た 結 果 、 特 異 的 な 約85kDaの バ ン ド

夫 也

   

   

隆 哲

木 池

吉 小

授 授

教 教

査 査

主 副

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が確 認された 。この分 子量は塩 基配列か らの予想よ り大きく、糖鎖結合部位に糖鎖が結 合 し てい る 可 能性 が 考え ら れた。2系統のラ ットについ て生後320日 まで経時 的に観察 及 び 各臓 器 の 組織 像 を検 討 したが 、コント 口ールのWKAHラ ットとの 間に有意 な差や病 変は見い出せなかった。上記の結果を踏まえ申請者は以下のように考察した。 導入遺伝 子 自 体 は 生体 内 でヒ ト と 同様 の スプ ラ イ シン グ を 示すmRNAの 発現 が 確 認さ れ 、特 に ETR16系 は1コピ ー 型の 遺 伝 子導 入 でヒ ト と 同様 の も のを 期 待で き る 。ま た 従来 よ り ERV3の 発 現に は サイ ト カ イン やステ□ イドホル モンの関与 が報告さ れており 、ラッ卜 涙腺 ではアン ド□ゲン 受容体が 存在して いることか ら、涙腺での高発現と関連が考えら れ る 。現 在 の とこ ろ 明ら か な病変 は確認さ れず、通常 の状態で はERV3の病原 性は低い も の と考 え ら れる が 、今 後 類似ウ イルスな どの感染や 、炎症な どによるERV3の発現増 強 、 交叉 反 応 によ る 変化 も 考えら れる。一 方、ERV3のヒト 胎盤での 高発現は 母児聞の 免疫 学的バリ アーや合 胞体形成 に関連し ている可能 性や、単核球の分化に関与している 報告 もあり、 発生分化 の解析に も有効な 材料を提供 するものと考えられる。以上の事よ り 、 今回 樹 立 され たERV3ラッ 卜は今後 のヒ卜内 在性レト口 ウイルス の解析に 極めて有 効であると考えられる。

  申請 者 の 学位 論 文内 容 の 発表後、 副査の小 池隆夫教授 からERV3発現 の臓器特 異性に つ い ての 見 解 を求 め られ 、 またERV3蛋 白が血中 に流れてい る可能性 について の質問が あっ た。また 、ERV3を選択 した理由 、ERV3とヒト 疾患との関 与、特にSjogren症候群と の関連についての質問があった。

次 い で 副 査の 守 内哲 也 教 授よ りERV3遺伝 子 の 構造 、 導入 遺 伝 子の 塩 基 配列 に つい て の 質 問 が あ っ た 。 さ ら に 、 検 出 し たmRNA、 蛋 白 の シ ー ク ェ ン ス の 確 認の 必 要性 、 mis‑poly(A) splicingの説明、加齢に伴う変化に関する質問があり、今後の研究方針につい ての意見を求められた。

最 後 に主 査 よ り皮 膚 移植 で の拒絶 の有無、HTLV‑I感染実験に 関する助 言、また 中枢神 経 系 の発 現 に つい て の質 問 や、ERV3ラ ットの今 後の可能性 に関する 助言を受 けた。申 請 者 はい ず れ の質 問 にも 過 去の文 献や、実 験結果など を引用し つつ適切 に解答し た。

  今 回 樹立 さ れたERV3ラ ッ トは ヒ トと 同 様 のERV3mRNAを 発 現し て お り、ERV3遺 伝子 を持 つモデル 動物とし て貴重な 存在で、 今後の更な る解析により内在性レト□ウイルス の生物学的意義の解明が期待される。

審 査 員一 同 は 、こ れ らの 成 果を高 く評価し 、大学院課 程におけ る研鑚や 取得単位 など も併 せ申請者 が博士( 医学)の 学位を受 けるのに充 分な資格を有するものと判定した。

参照

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