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博 士 ( 地 球 環 境 科 学 ) 津 田 賢 一

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Academic year: 2021

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博 士 ( 地 球 環 境 科 学 ) 津 田 賢 一

     学位論文題名

    Molecular genetic and physiologicalStudieS OntranSCrlptionalCO ‐ aCtiVatorSmultiproteinbridging     factorls ( MBFls ) fromA 鰡 ろ 勿 ゆ お 競 ロ 彪 碗 ロ

(シロイヌナズナ転写情報仲介因子MBF1 の分子遺伝学生理学的研究)

     ,学位論文内容の要旨

  全 て の 生 物に お い て 、転 写 制 御 はゲ ノ ム 情 報を 発 現 す るた め の 最 も重 要 な ステッ プであ る 。転 写 因 子 は遺 伝 子 の 転写 調 節 領 域に 結 合 し 、そ の 遺 伝 子の 転 写 を 正ま た は負に 調節す る こと で 、 複 雑な 生 物 学 的プ ロ セ ス を制 御 し て いる 。 転 写 のコ ア ク チ ベー タ ーは、 遺伝子 特 異的 な 転 写 活性 化 因 子 と普 遍 的 な 転写 因 子 と を結 び っ け るこ と や ク ロマ チ ン構造 や転写 因 子の 修 飾 に よっ て 、 転 写を さ ら に 活性 化 す る こと が 知 ら れて い る 。 シロ イ ヌナズ ナのゲ ノ ム配 列 が 明 らか と な り 、植 物 は 酵 母や 動 物 よ りも 全 遺 伝 子に 比 べ て 転写 因 子の遺 伝子の 占 める 割 合 が 多い こ と が わか り 、 こ のこ と は 植 物に お い て 転写 の プ ロ セス は 他の生 物に比 べ より 複 雑 で ある こ と を 示唆 してい る。。 しかし ながら 、植物 におけ る転写の 分子メ カニズ ム、特に転写コアクチベーターの機能については不明な点が多い。

  転写 コアク チベータ ーの一 種であ るmultiprotein bridging factorl(MBF1)は転写活性化因 子、主にbasic region/leucine zipper (bZIP)型転写因子とTATA box binding protein (TBP)との間 を 橋渡 し す る こと に よ っ て転 写 を 活 性化 す る こ とが 酵 母 や 動物 で 知 ら れて い る。MBF1のア ミ ノ酸 配 列 は 真核 生 物 の 間で 高 度 に 保存 さ れ て いる の で 、 全て の 真 核 生物 に とって 重要度 の 高 い タ ン パ ク 質 の ー っ で あ る と 考 え ら れ る 。 しか し 、 植 物のMBF1の 研 究 はほ と ん ど な さ れ て い な か っ た 。 従 っ て 、 植 物 のMBF1を 研 究 す る こ と は 植 物 に お け るMBF1の 生 理 機 能 を 知 る と と も に 、 植 物 の 転 写 メ カ ニ ズ ム の 解 明 に も っ な が る と 考 え ら れ る 。   植 物 のMBF1に 関 し て い く っ か の 報 告 が さ れ て い る 。 ト マ ト で はER24と 呼 ば れ るMBF1 ホ モロ グ が エ チレ ン 処 理 によ っ て 誘 導さ れ 、 ジ ャガ イ モ で は病 原 菌 の エリ シ ターや 傷害、

サ リ チ ル 酸 や エ チ レ ン の 前 駆 体 な ど でmRNAの 蓄 積 量 の増 大 が 見 られ る 。 ま た、 砂 漠 に 育 つ 植物 で あ るRetama raetamで は 熱 スト レ ス に よっ て 誘導さ れ、タ バコで は熱ス トレス と乾 燥 ス ト レ ス を 同 時 に 与 え る こ と に よ っ て 誘 導 さ れる 。 こ の よう に 植 物 のMBF1は 様 々 な ス ト レス で 誘 導 され る こ と から ス ト レ ス応 答 に 関 わる 因 子 な ので は な い かと い う推測 がなさ れている。

  私 は ゲ ノ ム配 列 が 明 らか と な っ てい る シ ロ イヌ ナ ズ ナ に注 目 し た 。デ ー タ ベース 解析に よ り 、 シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ に は3つ のMBF1ホ モ ロ グ(AtMBFla,AtMBFlb,AtMBFlc)が存 在 す る     ―224―

(2)

こ と が わか り 、アミ ノ酸配列 を比較 したとこ ろ、AtMBFlaとAtMBFlbとの相 同性は90% 以 上と高く 保存され 、AtMBFlcとはそれぞれ50%程度と低いことが分かり、シロイヌナズ ナ のMBF1は2つのグ ループに 分けられ ること を示した 。これ までは、 ほとんどの種では 一 種類のMBF1し か報告 がなかっ たので 、シロイ ヌナズナにおいて複数の遺伝子が見っけ ら れたこと は大変興 味深い 発見であ る。私 はこれら の3つ のシロ イヌナズ ナMBF1ホモロ グ がMBF1として の機能 を保持し ている ことを、 酵母のmbfl欠損変異株を用いての相補性 試 験で確か めた。ま た、ゲルシフトアッセイやファーウェスタンアッセイを用いて3つの シ ロ イ ヌナ ズ ナMBF1全て が酵母 のbZIP型転写 活性化 因子であ るGCN4と普 遍的転写 因子 で あるTBPとに結合 して橋渡しする能カがあることを確かめた。これは植物におけるMBF1 の 機能を示 した初め ての報告である。シロイヌナズナの各組織から全RNAを抽出し、ノー ザ ン 法 に よ っ て そ れ ぞ れ のMBF1の 発 現 プ ロ フ ァ イ ル を 調 べ た と こ ろ 、AtMBFlaや AtMBFlbは花組 織での 発現が比 較的高 く、AtMBFlcは葉や根で発現が高く花組織では比較 的低いことが分かった。また、AtMBFlが関わるプロセスを明らかにすることを目的に、様々 な 植物ホル モンを与 え、そ の結果蓄 積され たmRNA量をノーザン法により調べた。その結 果 、AtMBFlaやAtMBFlbは ホ ルモ ン 処 理に よ っ てmRNA量の 変 動 は見 ら れなかっ たが、

AtMBFlcはアブ シジン 酸によって誘導されることが明らかとなった。このことからもシロ イ ヌナズナ のMBF1は2つのグ ループに 分けら れること が示さ れ、それ はアミノ酸配列解 析の結果とー致していた。

  私 はシ ロ イ ヌナズナ のMBF1を解 析するこ とで植 物におけ るMBF1の機 能を調べ ていく こ とを目的 としてい たが、 ここまで の研究 では植物のMBF1機能の全体の把握までには至 っ ていなか った。そ こで、 植物のMBF1を構造的 に比較することで分類した。現在報告が あ る30種 の 真 核生物の アミノ 酸配列を 用いて、 系統樹 を作成し たとこ ろ、植物 のMBF1 はAtMBFlaとAtMBFlbが属 するPlant groupIとAtMBFlcが 属するPlant group IIに分類さ れることが分かった。両グループの遺伝子の存在が報告されているのほ現在のところシロ イ ヌナズナ だけであ るので 、シロイ ヌナズ ナのMBF1の詳細な発現解析を行うことは、グ ループの発現特性、グループ特異的な機能の解明に至るのではないかと考えた。そこで、

シ ロイヌナ ズナのMBF1のそれぞ れのプ ロモータ ー領域をクローニングし、その下流にレ ポ ーター遺 伝子とし てGUS遺伝子を っなぎ 、これらの遺伝子を植物体に導入した。GUS遺 伝 子産物の 活性をも とにし て、それ ぞれのMBF1の転写活 性を調 べたとこ ろ、AtMBFlaや AtMBFlbでは葯 や莢の 中の種子で発現が高いことが分かった。このことはシロイヌナズナ に お い てAtMBFlaとAtMBFlbは花粉 形成や種 子形成 に関与し ている 可能性を 示唆す るも の である。 一方、AtMBFlcでは幼植物体ではその発現はあまり見られず、成長とともに全 身で発現してくることが分かった。

  こ れまでの 報告や 私の研究 から植物 のMBF1は様々なストレスに応答して発現すること が知られているが、植物におけるMBF1の発現パターンの統一的な見解は得られていない。

そ こで、両 方のグル ープの 遺伝子を 保持し ているシロイヌナズナにおけるMBF1のストレ ス 応答を調 べること で、植 物のMBF1の ストレス に対する応答様式をはっきりと定義でき るのではないかと考えた。シロイヌナズナに様々なストレスを与え、それらの植物から全

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RNAを 回 収 し 、 ノ ー ザ ン 法 に よ りmRNAの 蓄 積 量 を 調 べ た 。 そ の 結 果 、AtMBFlaや AtMBFlbは 様々 な スト レス にい ずれ も顕 著な応答を示さなかった。とこ ろが、AtMBFlc は熱ストレスや乾燥ス トレス、過酸化水素による酸化ストレスで顕著趣応答が見られた。

乾燥ストレスやABAは酸化ストレスを引き起こすこ とが知られているため、これらの結果 よ りAtMBFlcは 酸 化ス トレ スに おい て何 らか の役 割を 持っ てい るこ とが示唆された。

  シロ イヌ ナズ ナに実験材料とすることによって、植物におけるMBF1は2グループに分     け ら れ 、そ れぞ れ別 の 役割 を持 って いる 可能 性を 示す こと がで きた と考 える 。

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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査   助教授    山崎健一 副査   教授   森川正章 副査   教授   田中    歩 副査   教授   山本興太朗

     (北海道大学大学院理学研究科)

     学位論文題名

    Molecular genetic and physiological studies on transcriptional co‑activators multiprotein bridging     factor Is (MBFls) from Arabidopsis thalia7za

(シロイヌナズナ転写情報仲介因子MBF1 の分子遺伝学生理学的研究)

  全 て の 真 核生 物 に お いて 、 転 写 のコ ア ク チ ベー タ ー は 、遺 伝 子 特異的 な転写 活性化 因子 と 普遍 的 な 転 写因 子 と を 結び っ け る こと や ク ロ マチ ン 構 造 や転 写 因子 の修飾 によっ て、転 写 を さ ら に 活 性 化 す る こ と が 知 ら れ て い る 。 転 写 コ ア ク チ ベ ー タ ー の 一 種 で あ る multiprotein bridging factorl (MBFl)は転写活性化因子、主にbasic regioMeucine zipper (bZIP) 型転 写因子とTAI、A box binding protein (TBP)との間を橋渡しすることによって転写を活性化 す るこ と が 酵 母や 動 物 で 知ら れ て い る。 MBF1のアミ 丿酸配 列は真 核生物 の間で 高度に保 存 されている重要なタンバク質である。

  植 物 のMBF1に 関 し て い く っ か の 報 告 が さ れ て い る 。 ト マ ト のMBF1が エ チ レ ン 処 理 に よ っ て 誘 導 さ れ 、 ジ ャ ガ イ モ のMBF1で は 病原 菌 の エ リシ 夕 一 や 傷害 、 サ リ チル 酸 や エ チ レ ンの 前 駆 体 など でmRNAの 蓄 積 量の 増 大 が見 られる 。また 、砂漠 に育つ 植物であ るRe細mロ rロ ピf mで は 熱 スト レ ス に よっ て 誘 導 され 、夕バ コのMBF1で は熱ス トレス と乾燥 ストレ ス を 同 時 に 与 え る こ と に よ っ て 誘 導 され る 。 こ のよ う に 植 物のMBF1は 様 々 な スト レ ス で 誘 導 さ れ る こ と か ら ス ト レ ス 応 答 に 関 わ る 因 子 な の で は な い か と 考 え ら れ て い る 。   津 田 君 は ゲノ ム 配 列 が明 ら か と なっ て い る シ口 イ ヌ ナ ズナ の デ ータベ ース解 析によ り、

3っ のMBF1ホ モ ロ グ (AtMBFla,AtMBFlbAtMBFlc) カ 存 在 する こ と を 明ら か に し 、ア ミ ノ 酸 配 列 を 比 較 し た と こ ろ 、AtMBFlaとAtMBFlbと の 相 同 性 は90% 以 上 と 高 く 保 存 され 、 AtMBFlcと は そ れ そ れ50% 程 度と 低 い こ とが 分 か り 、2つの グ ル ー ブに 分 け ら れる こ と を 示 し た 。 こ れ ま で は 、 ほ と ん ど の 種で は 一 種 類のMBF1し か 報 告 がな か っ た ので 、 シ ロ イ ヌ ナズ ナ に お いて 複 数 の 遺伝 子 が 見 っけ ら れ た こと は 大 変 興味 深 い発 見であ る。津 田君は こ れ ら の3つ の シ ロ イ ヌ ナ ズ ナMBF1ホ モ ロ グ がMBF1と し て の 機 能 を 保 持 し て い る こ と     ―227―

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を、酵母のmbfl欠損変異株を用いての相補性試験で確かめた。また、ゲルシフトアッセイ やフ ァー ウェ スタンアヅ セイを用いて3つのシ口イヌ ナズナMBF1全てが酵母のbZIP型転 写活 性化 因子 であるGCN4と普遍的転写因子であるTBPとに結合して橋渡しする能カがあ る こ と を 確 かめ た。 これ は植 物に おけ るMBF1の機 能を 示し た初 めて の報 告で ある 。   現 在報 告が ある30種 の真 核生 物 のMBF1のアミノ酸 配列を用いて、系統樹を作成した と こ ろ 、 植 物 のMBF1はAtMBFlaとAtMBFlbが 属す るPlant grouplとAiMBFlcが 属す る Plant group lIに分類されることが分かった。両グループの遺伝子の存在が報告されているの は現在のところシロイヌナズナだけであるの で、シロイヌナズナのMBF1の詳細な発現解 析を行うことは、グループの発現特性、グルーブ特異的な機能の解明に至るのではないか と考えた。そこで、シロイヌナズナのMBF1の それそれのプロモ一夕ー領域をクローニン グし、その下流にレポーター遺伝子としてGUS遺伝子をっなぎ、これらの遺伝子を植物体 に導 入し た。GUS遺伝子産物の活性をもとにして、そ れそれのMBF1の転写活性を調べた ところ、AtMBFlaやAiMBFlbでは葯や莢の中の 種子で発現が高いことが分かった。このこ とは シロ イヌ ナズ ナに おい てAtMBFlaとAtMBFlbは花 粉形成や種子形成に関与している 可能性を示唆するものである。

  これまでの報告や津田君の研究から植物のMBF1は様々なストレスに応答して発現する ことが知られているが、植物におけるMBF1の 発現パターンの統一的な見解は得られてい なぃ。そこで、シロイヌナズナに様々なスト レスを与え、それらの植物から全RNAを回収 し、 丿ー ザン 法に よりmRNAの蓄 積 量を 調ぺ た。 その 結果 、At,MBFlaやAtMBFlbは様々 なストレスにいずれも顕著な応答を示さなか った。ところが、AtMBFlcは熱ストレスや乾 燥ストレス、過酸化水素による酸化ストレスで顕著な応答が見られた。乾燥ストレスやABA は酸化ストレスを弓1き起こすことが知られているため、これらの結果よりAtMBFlcは酸化 ストレスにおいて何らかの役割を持っていることを示唆した。シロイヌナズナを実験材料 とす るこ とに よって、植 物におけるMBF1は2グループ に分けられ、それそれ別の役割を 持っている可能性を示した。

  審査貝一同は、これらの成果を高く評価し、また研究者として誠実かつ熱心であり、大 学院課程における研鑽や取得単位なども併せ申請者が博士(地球環境科学)の学位を受け るのに充分な資格を有するものと判定した。

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参照

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