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博士 ( 地球 環境 科学) 白木彩子

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Academic year: 2021

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博士 ( 地球 環境 科学) 白木彩子

学 位 論 文 題 名

北 海 道 に お け る オ ジ ロ ワ シ の 繁 殖 個 体 群 の 動 向 お よ び 営 巣 環 境 の 特 徴 と 餌 資 源 利 用

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

    オジ ロワシH aliaeetus albiciHaは日本で繁殖するものとしては最大級の希少猛禽類で、極東ア ジアに おける 繁殖地 の南限 にあた る北海 道では ごく少数 のっがいが留鳥として周年生息し営巣してい る。一 方、越 冬期に は多く のオジ 口ワシ が渡り 鳥として 飛来する。北海道における本種の生息環境は 数10年 前 から開発 や伐採 によっ て急激 に変わ ってき たが、 個体群 の生息の 現状に 関する 調査は ほと んどなされて,いない。本研究は、1)北海道におけるオジ口ワシの繁殖個体群の動向を予測すること、

2)個体 群の内 的な因子を推定すること、3)営巣環境の特徴や餌資源利用について明らかにすること、

4)f匿躰群の内的な因子や餌・環境資源が個体群の動向にどのように関与しているか明らかにすること、

を主な目的とした。

    営 巣っ がいの 分布や 繁殖状況 につい て1991―98年まで 調査を 行った 結果、現 在北海 道では62つ がいが 営巣し ている と推定 された 。また 、1991−98年 までに 北海道 内では3―24ケ所の営巣地が新た に創設 され、 個体群 は増加 傾向に あると 考えら れた。本 調査と既存の文献によって推定した北海道に おける11年間の 生産力 (ひと っがい 当り年 平均の 巣立ち ヒナ数)は1.12羽で、安定または増加してい る海外 の個体 群の生 産カよ りも高 かった 。また 、11年間 に観察 された208例の繁 殖結.果のうち44例 が繁殖 失敗で 、特定 された 失敗要 因は営 巣期に おける人 為的な撹乱が最も多かった。本調査開始以前 か ら 確 認 さ れ て い る 営 巣 地 (traditional nest site)と 、 そ れ 以 降 に 確 認 さ れ た 営 巣 地 (newlyーrecogruzed nest site)と の間で生産カに差はなく、近年創設された営巣地の繁殖条件の悪化 は生産カにおいては示されなかった(1章)。

    1991年と1992年に営 巣木と 営巣林の 特徴に ついて 明らか にする ための 調査を 行った 。営巣木 は 営 巣林 全 体 の 平均 値 と 比 較し て7.9m樹 高が高 く、胸 高直径 は45.6 cm太 かった。 このこ とから 、オ ジ口ワ シは営 巣木と して樹 高の高 い大径 木を選 択してい ることが示された。また、営巣木は重い巣を 安定し て支え る必要 のある ことか ら、胸 高直径 は営巣木 として利用可能な木を制限する主な要因であ ると考 えられ た。営 巣木の 樹種と しては 、アカ ェゾマツ とハンノキへの選好性が示唆された。全ての 巣は周 囲に60° 以上の 開けた 空間を 備えて おり、 この開 放空間は巣が周囲の樹冠より高いところに位 置 し て い る か 、 あ るい は 営 巣 木が 林 縁 付 近に あ る こ とで 保 持 さ れて い る と 考え ら れ た 。ま た 、 newly‑recognized nest sitesの営巣木は、traditional nest sitesの営巣木よりも舗装道路に近しゝとこ ろにあ った。 したが って、 最近営 巣を開 始した っがいの 中には、以前よりも人為的な環境に進出して いるものがいると考えられた(2章)。

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    巣の上や周囲から採集した餌の残滓と、繁殖期のっがいの採食行動の直接観察によって、っがい の餌資源利用について調べた。残滓の採集は北海道内の24ケ所の営巣地で行い、直接観察は知床半 島にある営巣地のひとっがいと、根室半島のひとっがいを対象として行なった。知床のっがいは 1988年以前から営巣が確認され、根室のっがいは1994年から営巣を開始したことが確認されている。

両方法の調査結果から、オジ口ワシはさまざまな水域に生息する魚類と鳥類を主食とし、哺乳類も少 数利用していることが示された。餌クラスの比率について餌の残滓と直接観察による結果を比較した ところ、残滓の分析では鳥類が知床で88.9%、根室で75.0%を占めたが、直接観察では魚類が知床で 76.6%、根室で91.1%を占めた。直接観察による結果は実際に利用された餌クラスの比率をより正確 に反映していると考えらるが、餌鳥類については残滓によって種構成の検討が可能であると考えられ た。残滓から同定された餌鳥類種の出現頻度について比較したところ、調査地域間および本研究と 1963―73年に行われた調査結果との間で、利用された餌種の構成は異なっていた。このことからオジ 口ワシは特定の餌種に専門化せず、空間的あるいは経時的な動物相の変化に対応して柔軟に利用餌種 を変えることが示唆された。直接観察により供給源を確認できた餌のうち、根室のっがいではその全 てが、知床のっがいでは45%が、漁業活動や水産加工場から投棄された人間由来の餌であった。この ことから、北海道では繁殖期のっがいによる人為的な餌の利用は一般的な現象になっていると考えら れた。また、1章において示された生産カの高さには、このような人為的な餌資源の利用が影響して いる可能性があった。さらに近年新たに営巣を始めたっがいの中には、繁殖期の主要な餌として人為 的な 餌 資 源を 利 用 する こ と で営 巣 地 を創 設 し た ものがい る可能性 が考え られた(3章 )。

    個体標識を施した若烏の巣立ち以降の追跡調査を行い、出生地からの移動分散と餌資源利用、生 存の状況について調べた。発信機を装着した当歳幼鳥6個体は9―10月に出生地からの分散を開始し、

全ての個体が河川で再発見された。この時期、河川には大量のサケ・マスが遡上しているが、採食技 術の未熟な当歳幼鳥にとって衰弱したり死んだサケ・マスは容易に得られる餌であり、その利用は生 存率にも影響することが考えられた。若鳥の採食環境は季節によって異なり、春・夏期は湖や湾で、

秋期は河川で標識個体の集中がみられた。越冬期にはほとんどの若烏が人為的な採食環境で観察され、

64%が水産加工場で確認された。当歳幼鳥の生存率の下限推定値は60%で他地域個体辞との比較から 高い値であると考えられた。この生存率には秋期に豊富なサケやマスが利用できることや、越冬期に 人為的に供給される餌の利用が影響していると考えられた(4章)。

    以上のことから、北海道で繁殖するオジ口ワシの個体群は近年増加傾向にあり、この増加は個体 群の高い生産カと生存率によって加入する繁殖個体数が営巣っがいの死亡数を上回っているために維 持され得ることが示された。また、これらの生産カや生存率には人為的に供給される餌の利用が影響 していると考えられた。さらに、人為的な環境の改変によルオジ口ワシにとって好適な営巣環境は減 少したと考えられていたが、近年では以前にはみられなかった人為的な環境への営巣や、人為的な餌 資源を繁殖期の主要な餌として利用するっがいの出現によって、潜在的に営巣可能な環境は拡大して いる可能性がある。ただし、繁殖失敗の多くが人為的な撹乱によることや、営巣木が不足する可能性、

人為的な餌資源の不安定陸など、今後個体群の生産カや生存率を低下させる要因の存在も考えられた。

また、他地域個体群との問に個体の移出入のある可能性があり、今後は極東アジアの繁殖地域全体を 視野に入れて調査を進める必要がある。

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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査   教授   戸田正憲 副査   教授   甲山隆司

副査   教授   藤巻裕蔵(帯広畜産大学)

副査   助教授   福田弘巳 副査   助教授   露崎史朗

学 位 論 文 題 名

北 海 道 に お け る オ ジ ロ ワ シ の 繁 殖 個 体 群 の 動 向 お よ び 営 巣 環 境 の 特 徴 と 餌 資 源 利 用

  日 本 に 生 息 す る 最 大 の 希 少 猛 禽 類 で あ る オ ジ ロ ワ シ は 、越 冬 期 に渡 来 す るほ か 極 東ア ジ ア に お け る 繁 殖 地 の 南 限 で あ る 北 海 道 に ご く 少 数 の っ が い が 留 烏 と し て 周 年 生 息 し 営 巣 し て い る , 北 海 道 に お け る 本 種 個 体 群 の 生 息 の 現 状 に 関 す る 調 査 は ほ と ん ど な さ れ て い な い 。 本 研 究 は 、 北 海 道 に お け る オ ジ ロ ワ シ の 個 体 群 の 動 向 と 餌 や 環 境 資 源 お よ び 内 的 な 因 子 と の 関 係 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し て い る 。 現 在 北 海 道 で は62っ が い が 営 巣 し て い る と 推 定 さ れ た 。 ま た 、1991−98年 ま で に 北 海 道 内 で は3‐24ケ 所 の 営 巣 地 が 新 た に 創 設 さ れ 、 個 体 群 は 増 加 傾 向 に あ る と 考 え ら れ た 。 北 海 道 に お け る11年 間 の 生産 力 (1っ が い 当り 年 平 均 の巣 立 ち ヒナ 数 ) は1.12羽 で 、 安 定 ま た は 増 加 し て い る 海 外 の 個 体 群 の 生 産 カ よ り も 高 い こ と か ら 、 北 海 道 の 個 体 群 は 増 加 し て い る と 考 え ら れ 、 調 査 結 果 と 一 致 し た 。 ま た 、11年 間 に 観 察 さ れ た208例 の 繁 殖 結 果 の う ち44例 が 繁 殖 失 敗 で 、 特 定 さ れ た 失 敗 要 因 は 営 巣 期 に お け る 人 為 的 な 撹 乱 が 最 も 多 か っ た 。 本 調 査 開 始 以 前 か ら 確 認 さ れ て い る 営 巣 地 と 、 そ れ 以 降 に 確 認 さ れ た 営 巣 地 と の 間 で 生 産 カ に 差 は な く 、 近 年 創 設 さ れ た 営 巣 地 の 繁 殖 条 件 が 悪 化 し て い る 可 能 性 は 示 さ れ な か っ た (1章 ) 。

北 海 道 に お け る オ ジ ロ ワ シ の 巣 は1ケ 所 を 除 い て 全 て の 営 巣 地 で 樹 上 に あ り 、 営 巣 木 は 営 巣 林 全 体 の 平 均 値 と 比 較 し て 樹 高 が 高 く 、 胸 高 直 径 も 太 か っ た 。 営 巣 木 の 樹 種 と し て は 、 ア カ エ ゾ マ ツ と ハ ン ノ キ へ の 選 好 性 が 示 唆 さ れ た 。 全 て の 巣 は 周 囲 に60° 以 上 の 開 け た 空 間 を 備 え て お り 、 こ の 開 放 空 間 は 巣 が 周 囲 の 樹 冠 よ り 高 い と こ ろ に 位 置 し て い る か 、 あ る い は 営 巣 木 が 林 縁 付 近 に あ る こ と で 保 持 さ れ て い る と 考 え ら れ た 。 1960‑ 70年 代 に 調 査 さ れ た 営 巣 木 と の 間 で 胸 高 直 径 に は 変 化 が な か っ た が 、 巣 の 高 さ は 低 か っ た の で 、 周 囲 の 樹 高 が 相 対 的 に 低 く な っ て い る 可 能 性 が 考 え ら れ た 。 オ ジ ロ ワ シ の 営 巣 木 は 重 い 巣 を 安 定 し て 支 え る た め に あ る 程 度 以 上 の 太 さ が 必 要 で あ る こ と か ら 、 胸 高 直 径 は 営 巣 木 と し て 利 用 可 能 な 木 を 制 限 す る 主 な要 因 で ある と 考 えら れ た 。 ま た 、1992年 以 降 に 確 認 さ れ た 営 巣 木 は そ れ 以 前 か ら あ る 営 巣 地 よ り も 舗 装 道 路 に 近

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いところにあった。したがって、最近営巣を開始したっがいの中には、以前よりも人 為 的 な 環 境 に 進 出 し て い る も の が い る こ と が 考 え ら れ た ( 2 章 ) 。 巣の上や周囲から採集した餌の残津と、繁殖期のっがいの採食行動の直接観察によっ て、っがいの餌資源利用について調ぺた。残津の採集は北海道内の24 ケ所の営巣地で 行ない、直接観察は知床半島の1 っがいと、根室半島の1 っがいを対象として行なった。

知床のっがいは1988 年以前から営巣が確認され、根室のっがいは1994 年カゝ ら営巣を 開始したことが確認されている。両方の調査結果から、オジ口ワシはさまざまな水域 に生息する魚類ナ鳥類を主食とし、哺乳類も少数利用していた。餌の残滓による結果 と直接観察による結果を比較したところ、直接観察では鳥類よりも魚類の比率が高く 残滓の分析では鳥類の比率が魚類よりも高かった。直接観察による結果のほうが実際 に利用された餌クラスの比率を正確に反映していると考えられるが、餌鳥類について は残滓によって種構成の検討が可能であると考えられた。残滓から同定された餌鳥類 種の出現頻度について比較したところ、調査地域間および本研究と1963 ‐73 年に行わ れた調査結果との間で、利用された餌種の構成は異なっていた。オジロワシは動物相 の変化に柔軟に対応して利用餌種を変えることが示唆された。直接観察により確認で きた餌のうち、根室のっがいではその全てが、知床のっがいでは45 %が、漁業活動や 水産加工場から投棄された人間由来の餌であった。このことから、北海道では繁殖期 にっがいが人為的な餌を利用することが一般的な現象になっていると考えられた。ま た、1 章において示された生産カの高さには、このような人為的な餌資源の利用が影響 している可能性が考えられた。さらに近年新たに営巣を始めたっがいの中には、繁殖 のための主要な餌として人為的な餌資源を利用することで営巣地を創設したものがい る可能性が考えられた(3 章)。

   標識を施した若鳥について巣立ち以降の追跡調査を行い、出生地からの移動分散と餌 資源利用、生存の状況について調べた。発信機を装着した当歳幼鳥6 個体は9 −10 月に 出生地から分散を開始し、全ての個体が河川で再発見された。この時期、河川に見ら れる大量の衰弱したり死んだサケ・マスは採食技術が未熟な当歳幼鳥にとって容易に得 られる餌であり、生存率にも大きく影響することが考えられた。若鳥の採食環境は春 夏は湖や湾、秋期は河川に集中した。越冬期にはほとんどの若鳥が水産加工場などの 人為的な採食環境で観察された。当歳幼鳥の生存率は60 %と推定され、他地域個体群 の生存率と比較して高く、餌条件の厳しい越冬期の前に豊富なサケやマスが利用でき ることや、越冬期に人為的に供給される餌の利用が影響していると考えられた(4 章)。

   以上のことから、北海道で繁殖するオジロワシの個体群は人為的な環境に営巣したり 人為的な餌資源を繁殖期の主要な餌として利用するっがいの出現によって、潜在的に 営巣可能な環境は拡大しており、これが近年の増加傾向を示す原因となっている可能 性を示唆している。ただし、繁殖失敗の多くが人為的な撹乱によることや、営巣木が 不足する可能性、人為的な餌資源の不安定性など、今後個体群の生産カや生存率を低 下させる要因の存在も考えられた。また他地域個体群との間に個体の移出入のある可 能性があり、今後は極東アジアの繁殖地域群全体を視野に入れて調査を進める必要が ある。

   本研究はこれまでほとんど研究成果がなかった極東地域のオジロワシについて数多

くの知見をもたらしたものであり、ここで得られた結果は生態を知る上で貴重な資料

となるだけでなく、レッドデータブックで準絶減危倶種に指定されている本種の保全

のために貢献するものであると考える。

(5)

   審査員一同は、これらの成果を高く評価し、また研究者として誠実かつ熱心であり、

大学院課程における研鑚や取得単位なども併せ申請者が博士(地球環境科学)の学位

を受けるのに充分な資格を有するものと判定した。

参照

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