博 士 ( 医 学 ) 金 森 正 剛
学 位 論 文 題 名
ラ ジ オ イ ム ノ ア ッ セ イ に よ る べ ン ゾ ジ ア ゼ ピ ン 系 薬 剤 の マ ス ス ク リ ー ニ ン グ の 開 発
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
緒 言
現在,数多く のBenzodiazepine (BDP)系 薬剤が臨床上使用されており,これらが自殺,
他殺の目的やその補助的手段として使用されているケースも多く,法医学的にもBDP系薬剤の マススクリーニ ング法の確立が望まれている 。
と こ ろ で ,BDP系 薬剤 のー っで あ るdiazepamのradioimmunoassav (RIA)はdiazepam に対する特異性 が高く,他のBDP系薬剤のス クリーニングには適さない。そこで著者はBDP の 代謝 物で あるbenzophenoneくBP)に着 目し ,こ のうち2―amlno―5―chlorobenzophe‑
none (A―CBP) と2―amlno―5―nitrobenzophenone(AーNBP) に対 する 抗体を別個 に 作 製し2種類 のRIAを 確 立した 。一方,ラットにdiazepamあ るいはnitrazepamを投与し , その尿を酸加水 分解して,総BP量をRIAで測 定し,本法のマススクリーニング法としての有 用性にっいて考 察した。
材料および方法 1.免疫原の作製
A―CBPある いはA―NBPの2位 の アミ ノ基 にス ペーサーとして無 水コハク酸を導入し,
2―hemisuccinylamino―5―chloroben20phenone(HSA―CBP)お よ び2―hemisuc‑
cinylamino−5ーnitrobenzophenone(HSA、NBP)を合成した。こ れらを混合酸無水物法 に よ り 牛 血 清 ア ル ブ ミ ン(BSA)に 結 合 さ せ て2種 の 免 疫 原HSA−CBP―BSAとHSA― NBP―BSAを作製した。
2.抗体の作製
各々の免疫原(1 mg蛋白量)を生理食塩水に溶解し,Freundの完全アジュバントとともにウサ ギに 皮下注射した。十分な抗体価が得られたのち全採血し,抗CBP血清と抗NBP血清を得た。
89
3.BPの合 成
各BDp系 薬 剤10mgに5NHCl lOmEを 加 え ,100℃ の 水 浴 中 で150分 聞 反 応 さ せ た 後 ,2N NaOHで 中 和 し 酢 酸 エ チ ル でBPを 抽 出 し た 。抽 出 物 は ト ルエ ン を 展 開 溶 媒と し た 薄 層 クロ マ ト グ ラフ ィ ー で 分 離後 , 各BP部分 を か き 取 ルア セ ト ン で 溶出 し た 。RIA用 の 標 識 化合 物 と し て は[CHヨ ― 。H]→diazepamおよ び [CHr゜H] 亠flunitrazepamを 酸 加 水分 解 し て [3H] ― 2亠methylamino―5―chlorobenzophenoneく'H―CBP) お よ び [3H]‑2‑ methylamino― 5−nitro―2′−fluorobenzophenoneく3H−FBP)を 得た。
4.RIA 1)操 作法
0. OIMリ ン酸ナ トリウ ム緩衝生理食塩水,O.3%7・グ口ブリン溶液,検体試料,標識化合物 お よ び 抗 血 清 各100/LEを 加 え て 室温 で2時 間静置 後,ポ リエ チレン グリコ ール6000液を加 え BoundとFreeを分 離 し た 。 残存 白 色 沈 澱 物に 蒸 留 水 を 加え 撹 拌 溶 解 後 ,そ の 放 射 活 性を 測 定 し た 。 抗CBP血 清 と °H−CBPを 用 い たRIA―Iお よ び 抗NBP血 清 と3H−FBPを 用 い たRIA‑nを 行った 。
2) RIA―IとRIA‑ IIの検量 線
RIA―Iに はA―CBP(10 pg〜5ng)を ,RIA ‑ JIに はAーNBP(lpg〜lng)を 段 階 的 に 加 え て , 結 合 し た ト ル チ ウ ム 標 識 化 合 物 の % を 算 出 し , 検 量 線 を 求 め た 。 3) RIA―Iお よびRIAーHにお ける 各BPの交 差反応 性
RIAーIに はR7位 に ク ロ ー ル 基 あ る い は ブ 口 ー ム基 を 有 す るBPを ,RIA−1Iに はR7位 に ニ ト 口 基 を 有 するBPを それ ぞ れ 加 え て ,各 々 の ト リ チウ ム 標 識BPに対 する抗 血清と の結合 を50% 抑制 する各BPの量を 求め ,交差 反応率 を求め た。
5. diazepam nitrazepamの回 収率
正 常 ラ ッ ト 尿1縦 にdiazepam,nitrazepamを一 定 量 加 え 酸加 水 分 解 し てBPと し た のち , RIA―Iあ るい はRIA‑Hで損lJ定し, 回収率 を求め た。
6. diazepamとnitrazepamの動 物投与 実験
ラ ッ ト にdiazepam (0.15mg/kg)あ る い はnitrazepam (0.08mg/kg)を 腹 腔 内注 射 し た 後 , O−3,3―6,6―9,9―24時 間 の 各 蓄 尿 を 酸 加 水 分 離 し てBPと し た 後 , 酢 酸 工 チ ル で 抽 出 し , こ れ ら をRIA・Iあ る い はIIで 測 定 した 。 ま たdiazepam投 与 ラ ッ トの 尿 の 一 部 を中 性 に し た の ち 遊 離 型diazepamを 酢 酸 工 チ ル で 抽 出 し , こ れ を 直 接RIAに よ り 測 定 し た 。
結 果 と 考 察 1 .BP のRIA
1)免疫 原の作製と抗体産生
ハ プ テ ン のBSAlモ ル に 対 す る 結 合 度 はHSA亠CBPが約12モル ,HSAーNBPが 約9.6 モルであ った。また,これらをウサ ギに6カ月聞免疫後,HSA ‑ CBP―BSAにっいては800 倍 ,HSA・NBP・BSAに っ い て は20倍 希 釈 可 能 な 抗 血 清 を 得 る こ と が で き た 。 2)検量 線
RIA・Iで は100pgか ら3000pgのA―CBP,RIAーHで は10pgか ら300pgのA‑ NBPを 添加する ことによって標識化合物と 抗体との結合が逆S字状に阻止され,A・CBPは150pg, AーNBPは30pgまで測定可能であった 。なお,RIA‑I,RIAー且にお ける10例の1ntraassay とinterassayによる変動係数はそれ ぞれ3.1%と4.6%および10.2%と12.3%であった。
3)各BPに対する交差反応性
RIAーIに お い てA−CBPと の 反応 性に 対し ,各BPはcyclopropyl ‑ methylamino― CBPに対 して は約250%を 上限 と し, 下限 は2−amlnoー5―bromobenzoylpyridineで12 %の交差 反応を示したが,nitrazepam由来のA・NBPに対しては1.0%と反応性が低かっ た。これ らのことから本抗体はR,位 の―NH−CH2―部のみならず2′位,R7位のハロゲン 基をも強 く識別していることが分か る。一方,RIA‑皿において,A・NBPに対する交差反 応性を100%とすると,R7位にニト口基をもつ各BPに対してはその交差反応性は300%以上 と良好な 結果が得られた。このこと からRIA‑Hの反応系ではR|位 の‑ NH・CHよ.部のみ な ら ず ,BPの2′ 位 の ハ 口 ゲ ン 基 の 有 無 を も 強 く 認 識 し て い る こ と か 分 か る 。 2. diazepam nitrazepamの回収 率
diazepamあるいはnitrazepamを正常 ラット尿に添加し,酸加水分 解により得られた各BP の回収率は それぞれ93.1土3.3%,91.2土4.3%であった。
3. BDP投与後のラット尿中BPの経時 的変化
diazepam nitrazepamのいずれ にっいても,尿中総BP量は最 初の3時間で最も多く,そ の後動物の 個体差はあるものの漸滅していった。また,diazepam投与ラット尿にっいて総BP 量 と 遊 離 型diazepamを比 較し た とこ ろ,diazepam量 は2分 の1から6分 の1であ り,di‑
azepamが 検 出 さ れ な か っ た ラ ッ ト に お い て もBPと し て 検 出 可 能 で あ っ た 。
‑ 91
結 論
BDP系 薬 剤 の 尿 中 か ら の マ ス ス ク リ ー ニ ン グ の 目 的 でBDPを 酸 加 水 分解 し て 得 ら れるBP の う ち で ,A―CBPとA−NBPを 抗 原 と し て そ れ ぞ れ の 抗 体 を 作 製 し , こ れ ら のRIAを 確 立 し 考 察 を 加 え た 。
1. HSA―CBPお よ びHSAーNBPを 有 機 合 成 後 , こ れ ら をBSAに 縮 合 さ せ た も の を 抗 原 と し て ウ サ ギ に 免 疫 し , そ れ ぞ れ800倍 ,20倍 に 希 釈 し て 使 用 可 能 な 抗 血 清 を 得 た 。 2. 本2種 類 の 抗 体 を 用 い て , 確 立 さ れ たRLAに よ りA―CBPとA・NBPは 少 な く と も そ れ ぞ れ150pgと30pgま で 測 定 可 能 で あ っ た 。 ・
3. 本2種 類 の 抗 体 は , 多 く のCBP誘 導 体 とNBP誘 導 体 に 交 差 反 応 性 が あ っ た 。 4.diazepam投 与 ラ ッ ト 尿 中 の 総BP量 を 経 時 的 に 検 討 し た 結 果 ,deazepamが 検 出 さ れ な か っ た 尿 か ら もBPと し て は 検 出 可 能 で あ っ た 。
5.3,4か ら2種 類 のRIAは , 繁 用BDP系 薬 剤 の 尿 中 か ら の マ ス ス ク リ ー ニ ン グ に 有 用 で あ る こ と が 明 ら か と な っ た 。
学位論文審査の要旨
ベン ゾジア ゼピン 系薬剤 は今 日広く使用されており,これの関与している法医学的事例も多く,
そのマ スス クリー ニング の確立 が望 まれて きてい る。
申 請 者 の 行 った の は , こ の薬 剤 に 関 す る法 医 中 毒 学 的 研究 で あ り ,ラジ オイ ムノア ッセイ (RIA)に よ る こ の 薬 剤 の ス ク リ ー ニ ン グ 法 の 開 発 を 試 み た も の で あ る 。 すな わち,
@ こ の 薬 剤 に属 す る 多 くのも のに反 応する 抗体を 作製 するこ とを考 えて, 化学 構造の 上で共 通性が より 強く認 められ る代謝 物に 着目し ,ジア ゼパム とニト ラゼ パムの 各々のべンゾフェノン 体に対 して 抗体を 作製し た。
一 巳
哉
浩 勝
秀
沢 崎
藤
寺 宮
齋
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
るために,ラットにジアゼパム並びにニトラゼパムを投与し,得られた尿を加水分解して総ベン ゾフェノン量を測定した。
具体的には,
@ジアゼパムおよびニトラゼパムのべンゾフェノン体のアミノ基に無水コハク酸を導入した 後,混合酸無水物法によって牛血清アルブミンに結合させたものをウサギに免疫して抗血清を得 た。
◎この 抗血清を用いて2種のRIAを確 立した。標識化合物として は,トリチウムでラベル さ れた ジア ゼ パム およ びフ ルニ ト ラゼパムを加水分解したべ ンゾフェノン体を用いた。
◎ラットにジアゼパム並びにニトラゼパムを腹腔内注射した後,尿を経時的に採取し,それ を 加 水 分 解 し た 後 , 前 記2種 のRIAで 総 ベ ン ゾ フ ェ ノ ン 量 と し て 測 定 し た 。 その結果,
@ジ アゼ パ ムの べン ゾフ ェノ ン 体のためのRIAでは150pgか ら3000pgの範囲で,またニ 卜ラゼパ ムのべンゾフェノン体のため のRIAでは30pgから300pgの 範囲で測定可能であるこ とがわか った。また抗体の交差反応性は十分に広く,2種のRIAによルベンゾジアゼピン系薬 剤のべンゾフェノン体を広く検出できることがわかった。
◎ジアゼパムあるいはニトラゼパムを投与したラットから得られた尿を加水分解して得られ る総ベンゾフェノン量は,未変化体よりも数倍多く,投与後長時間を経過しても,陽性の結果を 得ることができた。
以上のように,
ジアゼパム並びにニトラゼパムの代謝物に対する抗体を作製することにより,多くのべンゾジ アゼピン 系薬物をスクリーニングすることのできる2種のRIAを確立することができ,その有 用性が動物実験により確認された。
口頭発表時の試問に際し,宮崎勝巳教授よルベンゾジアゼピンをべンゾフェノンにするための 加水分解の条件にっいて,並びにべンゾジアゼピン類似薬物に対する交差反応性にっいての質問 がなされたが,申請者は概ね適切な回答をしたものと考えられる。
また副査の宮崎勝巳教授・齋藤秀哉教授に学位論文に関して個別に試問を受け,学位授与につ いて可の判定がなされた。
本論文はべンゾジアゼピン系薬剤のマススクリーニング法に関して,有用性の高い試みを行つ たものであり,学位の授与に値するものと判定される。
93