はじめに
遺伝子導入技術の進歩と免疫機構に対する理 解の深まりにより,遺伝子改変T細胞を用いた がん免疫療法の進歩が著しい.なかでも,CD19 を標的としたキメラ抗原受容体(chimeric anti- gen receptor:CAR) 導 入T細 胞 療 法(CD19- CAR-T)療法の,難治性B細胞性腫瘍に対する極 めて高い治療効果が脚光を浴びている.本邦に おいては,2019年3月,CAR-T療法「tisagenlec- leucel(KymriahⓇ:キムリア)」が再生医療製品 として承認された.対象は,小児及び若年成人 の再発または難治性の急性リンパ芽球性白血病
(acute lymphoblastic leukemia:ALL) 及 び 非 Hodgkinリ ン パ 腫(non-Hodgkin Lymphoma:
NHL)である.5月の薬価収載時に1回の投与コ
ストが 3,349 万円に設定されたことから,医療 保険財政に与える影響を懸念する議論が巻き起 こっている.同療法は,既に2017年8月に米国 食品医薬品局(Food and Drug Administration:
FDA)により承認され,同じくCD19-CAR-T療法 であるaxicabtagene ciloleucel(YescartaⓇ)も同 年 10 月にNHLを対象として承認されている.
CD19-CAR-T療法の臨床的成功により,細胞免疫 療法に対する期待がますます高まっているが,
一方で,臨床開発の過程でCAR-T作製,再発な らびに有害事象等の問題点が明らかになった.
本稿では,CAR-T療法のコンセプト及び臨床開 発の現状と課題について概説する.
キメラ抗原受容体導入T細胞療法
要 旨
キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor:CAR)導入T細胞療法 大嶺 謙
(CAR-T療法)は,遺伝子改変技術により,T細胞に腫瘍特異性と機能増 強を付与して用いる免疫細胞療法の1つである.B細胞性造血器腫瘍に対 する劇的な臨床効果を背景に,2019年3月に本邦でもCD19特異的CAR-T 療法が承認された.今後,がん免疫療法の大きな柱として,本治療法の開 発のスピードとスケールが拡大するであろう.一方,重篤な副作用や寛解 を持続させるための方策,固形腫瘍に対するCARの開発等,取り組むべ きさまざまな課題が明らかになっている.
〔日内会誌 108:1375~1383,2019〕
Key words キメラ抗原受容体(CAR),CD19,“on-target,off-tumor”効果,
サイトカイン放出症候群(CRS),ゲノム編集技術
自治医科大学内科学講座血液学部門,同 免疫遺伝子細胞治療学(タカラバイオ)講座 A New Era of Cellular Therapy. Topics:III. Chimeric antigen receptor T-cell immure therapy.
Ken Ohmine:Division of Hematology, Department of Medicine, Jichi Medical University, Japan and Division of Immuno-Gene and Cell Therapy
(Takara Bio), Jichi Medical University, Japan.
Ⅲ. キメラ抗原受容体導入 T 細胞療法 トピックス
1.CAR-T療法とは(図1~3)
CARは,免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変 部 を 一 本 鎖 抗 体(single chain variable frag- ment:scFv)の形で利用し,そこに抗原刺激を 細胞内に伝えるCD3
ζ
のシグナル伝達ドメイン をつなげた受容体分子である.このコンセプト は,1980年代後半に,本邦のKuwana1)やイスラ エルのEshhar2)のグループから提唱された.現 在のところ,CARを導入する細胞として,患者 の末梢血からアフェレーシス等で採取された自 己T細胞が用いられている.採取したT細胞をサ イトカインや抗体によって刺激した後,ウイル スベクターやトランスポゾンを用いてCAR遺伝 子を導入する.この遺伝子導入T細胞を培養に より,輸注目標細胞数まで増幅させたうえで輸 注する.CAR-Tの輸注前には,主に制御性T細胞 の抑制を目的として化学療法による前処置が行 われる.輸注されたCAR-Tは患者体内で腫瘍細 胞に結合すると,シグナル伝達ドメインにより 機能が活性化される.T細胞受容体(T-cell recep- tor:TCR)が主要組織適合性抗原(major histo- compatibility complex:MHC,ヒトにおいては human leukocyte antigen:HLA)に提示された 抗原のみを認識できるのに対し,CARはscFvを 介して腫瘍の細胞表面の蛋白や糖鎖を認識す る.よって,CAR-T療法は対象が特定のHLA患者 に限定されず,また,HLAの発現を減弱あるい は欠失させることで免疫監視機構から逃れてい る腫瘍細胞に対しても有効である.scFvとT細胞シグナルドメインの基本骨格の みからなる第一世代と呼ばれるCARは,増幅能 やサイトカイン産生能等の抗腫瘍活性が不十分 で,臨床試験においても十分な抗腫瘍効果が得 られなかった.そこで,T細胞の増幅と抗アポ トーシス伝達に関わるCD28,OX40,4-1BB等の 共刺激シグナル分子を組み入れた“第二世代 CAR”が開発され,臨床的に用いられている.
さらに,複数の共刺激シグナル分子を組み入れ
た“第三世代CAR”の開発が進められている.
2.CARの標的分子の選択
CARの理想的な標的抗原は,腫瘍細胞に恒常 的に発現している一方で,正常細胞では発現の 低い,あるいは発現していない分子であるが,
腫瘍特異的な融合蛋白や遺伝子変異に伴う標的 分子の同定は容易ではない.CAR-Tが正常細胞 に発現する分子を認識し傷害する“on-target,
off-tumor”効果が複数の臨床試験で観察されて いる.乳癌や胃癌に対する抗体医薬トラスツズ マブ(ハーセプチンⓇ)の高親和性抗原認識部 位を利用したERBB2/HER2 特異的CAR-T療法の 臨床試験においては,CAR-Tが正常肺細胞に発 現しているERBB2 に反応した結果,サイトカイ ン放出に続く肺障害により死亡した症例が報告 されている3). 消化管腺癌を対象としたCEA- CAM5 特異的CAR-T療法の臨床試験においても,
正常肺組織に発現する同分子にCAR-Tが反応し たことによる急性呼吸不全が観察されている.
また,腎癌を対象としたcarbonic anhydrase IX
(CA IX)特異的CAR-T療法の臨床試験では,正 常胆管上皮細胞に発現しているCA IXを介した 肝障害が生じている.免疫細胞療法では,種差 や免疫環境の違いから,動物を用いた前臨床研 究により“on-target,off-tumor”効果の検討が 不十分であることがある.CARに自殺遺伝子を 搭載することで,輸注後のCAR-Tの動態をコン トロールする方策も試みられているが,重篤な 毒 性 が 急 激 に 進 行 し た 場 合 に は, 体 内 か ら CAR-Tを除去しても,その反応を抑え込むこと は困難となることから,標的分子の選択は慎重 にする必要がある.
3. B細胞性造血器腫瘍に対する CD19-CAR-T療法の成功
B細胞性NHLに対する標準的治療薬である抗
図2 T細胞へのCAR遺伝子導入と抗腫瘍効果
CAR遺伝子を搭載したベクター(遺伝子の運び屋)により遺伝子導入を行うと,腫 瘍特異的なCAR-T細胞が得られる.CAR-T細胞は腫瘍を認識すると活性化し,細胞傷 害性顆粒やサイトカインを産生により腫瘍細胞を攻撃する.
CAR:chimeric antigen receptor,RNA:ribonucleic acid,DNA:deoxyribonucleic acid 細胞傷害活性 サイトカイン産生細胞傷害活性 サイトカイン産生 遺伝子導入
CAR遺伝子を搭載した ウイルスベクター
RNA DNA
染色体への挿入 染色体への挿入
CARの持続的発現 CARの持続的発現
CAR-T細胞
腫瘍細胞
腫瘍抗原の認識 腫瘍抗原の認識 図1 CARの分子構造
腫瘍細胞の表面抗原に結合する抗体の重鎖,軽鎖領域を単鎖抗体(single chain variable fragment:
scFv)の形で利用し,そこにT細胞内に刺激を伝達する分子であるCD3ζをつなげた受容体分子で ある.そこに,CD28,4-1BB等の共刺激シグナル分子を組み入れることで,CAR-Tの機能が増強される.
CAR:chimeric antigen receptor 第1世代CAR
単鎖抗体(scFv)
ヒンジ& 膜貫通領域
共刺激分子
(CD28 or 4-1BB)
CD3ζ 構造
●抗原特異性
●抗原親和性
●抗原結合能
●細胞増幅↑
●体内存続能↑
●殺腫瘍細胞能↑
●細胞増幅
●活性化トリガー 第2世代 機能
CAR 重鎖
軽鎖
CD20抗体医薬・リツキシマブの臨床的成功は,
リンパ球の分化抗原が適当なCAR標的分子とな り得ることを示している.同じくB細胞の分化 抗原であるCD19 は,B細胞性白血病,リンパ腫 細胞に広く発現している一方で,造血幹細胞や 他の正常組織には発現していない.CD19を治療 標的とした場合に起こり得る正常B細胞の抑制 に伴う低ガンマグロブリン血症については,免 疫グロブリン製剤を投与することで,重篤な感 染症を回避することができる.また,CD19は血 中に可溶性フォームの形で存在しないため,
CD19-CARの 抗 原 結 合 部 位 が 奪 わ れ る こ と な く,標的分子としては適当である.
2010年以来,米国における再発・難治性ALL を対象とした複数の臨床試験において,CD19- CAR-T療法の有効性が示されている.患者背景,
CAR遺伝子のデザイン,前治療ならびに投与細 胞数等はさまざまであるが,70~100%の極め て高い寛解率と一定の寛解持続期間が得られて
いる4~7)(表,図 4).さらに,60~95%が微小 残存病変(minimal residual disease:MRD)陰 性の深い寛解に至っており,従来の抗がん薬に 比し,驚異的な治療効果が得られている.また,
経静脈的に投与されたCAR-Tが脳脊髄液(cere- brospinal fluid:CSF)中に出現すると共に,輸 注前にCSFに存在した白血病細胞が消失した症 例も報告されていることから,治療攻略が困難 な中枢神経病変に対する効果も期待できる.再 発・難治性NHLを対象とした臨床試験において も,一定の治療成績が得られているが,概して ALLの治療成績には及んでいない8,9).その理由 として,腫瘤性の病変であることやCAR-T作製 に用いるT細胞の質の違い等が挙げられている.
4.CAR-T療法における再発
米国においては,CD19-CAR-T療法を施行され た例は既に 1,000 例を超えている.長期寛解を 図3 CAR-T療法の流れ
アフェレーシスにより得た患者の末梢血T細胞にCAR遺伝子を導入し,増幅する.
患者体内の免疫環境を調節するための化学療法による前処置を行った後に,CAR-T細胞を輸注する.
CAR:chimeric antigen receptor 病院
製造施設
アフェレーシス
T細胞単離
遺伝子導入 CAR-T 拡大培養
凍結
T細胞活性化
✚
✚
製造・品質検定 2 ~ 4 週間
製品化 病勢コントロール
病勢コントロール
輸送
輸送 輸送輸送
前処置 前処置
維持する例がある一方で,治療不応例や短期間 のうちに再発する例が観察されている.寛解の 持続には輸注されたCAR-Tの体内存続が重要で あり,疲弊化分子やアポトーシス関連分子の発 現が低く,未分化なT細胞分画にあるCAR-Tの割 合と治療奏効の相関性が示されている10).現在 のところ,CAR-Tの作製には,T細胞の全分画が 用いられることが多いが,今後は,CAR-T作製 に用いるT細胞の分画や質に関する詳細な検討 がなされるであろう.
CARの分子構造に含まれるマウス由来のscFv 内のエピトープに対する内因性の免疫応答によ り,CAR-Tが排除されている事象が観察されて いる5).これに対し,前処置を強化し,CAR-Tの 免疫学的排除を回避する方策がとられている.
また,マウス由来scFvを有するCAR-T療法への 抵抗例に対して,ヒト化scFvで構成されるCAR の臨床効果が示されている.
一方,ALLに対するCD19-CAR-Tの臨床試験に おいては,遺伝子変異により白血病細胞膜上の
CD19 分子が欠失したクローンによる再発例が 観察されている.CD22を標的としたCAR-T療法 の臨床試験においても,寛解後再発した 8 例中 7 例の腫瘍細胞でCD22 の発現低下が観察され ている11).このように,単一の分化抗原を標的 とした治療では,標的抗原が陰性の腫瘍細胞に よる再発のリスクがある.そこで,複数のscFv を 1 つのベクターに組み込んだ“tandem CAR”
の開発が進んでいる.
5. CD19以外の造血器腫瘍を対象とした CARの開発
造血器腫瘍を対象とした新規のCARとして は,前述のCD22の他,B-cell maturation antigen
(BCMA)特異的CARの臨床開発が進んでいる.
BCMAはTNF(tumor necrosis factor)レセプター ファミリーであり,骨髄腫細胞の抗アポトーシ ス及び増殖に関わる分子である.成熟B細胞及 び骨髄腫細胞に発現している一方で,他の組織 表 ALL及びNHLを対象とした主なCD19-CAR-T療法の臨床試験成績
施設または 臨床試験名
製品名
NCI Axicabtagene
ciloleucel
FHCRC
Iso-cel MSKCC
JCAR015 ELIANA試験
Tisagenlecleucel JULIET試験 Tisagenlecleucel
ZUMA-1試験 Axicabtagene
ciloleucel 疾患評価
対象患者
小児・若年ALL n=20
成人ALL n=29
成人ALL n=53
小児・若年ALL n=75
DLBCL n=93成人
DLBCL,TFL,
PMBCL n=108成人
治療効果 CR 70% CR 100% CR 83% CR 81% Best ORR 52%
Best CR 40% Best ORR 82%
Best CR 58%
引用 Lee DW, et al:
Lancet, 2015
Turtle CJ, et al:
J Clin Invest, 2016
Park JH, et al:
N Engl J Med, 2018
Maude SL, et al:
N Engl J Med, 2018
Schuster SJ, et al:N Engl J
Med, 2019
Neelapu SS, et al:N Engl J
Med, 2017 ClinicalTrials.
gov NCT01593696 NCT01865617 NCT01044069 NCT02435849 NCT02445248 NCT02348216 NCI:National Cancer Institute,米国国立がん研究所
FHCRC:Fred Hutchinson Cancer Research Center,フレッドハッチンソンがん研究所
MSKCC:Memorial Sloan Kettering Cancer Center,メモリアルスローンケタリングがんセンター ALL:acute lymphoblastic leukemia,急性リンパ芽球性白血病
DLBCL:diffuse large B-cell lymphoma,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫 TFL:transformed follicular lymphoma,形質転換濾胞性リンパ腫
PMBCL:primary mediastinal B-cell lymphoma,原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫 ORR:overall response rate,全奏功率
CR:complete response,完全奏功
には発現がない.難治性骨髄腫を対象とした臨 床試験においては,80%以上の奏効率,27~
74%の寛解率が得られている12~14).
T細胞性腫瘍に対しては,CD5,CD7 等の汎T 細胞分化抗原特異的CARが開発されているが,
CARを導入するT細胞自身がこれらの標的抗原 を発現していることが問題となる.そこで,ゲ ノム編集技術により,CD7 等の発現を抑制した T細胞を作製し,そこにCARを導入する試みがな されている15).
6.CAR-T療法の有害事象と対策
CAR-Tの臨床開発の過程において,従来の化 学療法や低分子化合薬とは異なる特異的な毒性 が報告されてきた.サイトカイン放出症候群
(cytokine release syndrome:CRS)と神経毒性 は特に留意すべき有害事象であり,CAR-T療法
の施行にあたっては十分な対策が求められる.
CRSは,輸注後のCAR-Tが体内で産生する過剰 なサイトカインによる全身性の炎症反応であ る.また,このサイトカインにより活性化され たマクロファージ等の免疫担当細胞もCRSの病 態に寄与する.発熱,筋痛,全身倦怠感,低血 圧ならびに低酸素血症が典型的な症状である が,時に血管透過性症候群や心機能異常,肝腎 障害,播種性血管内凝固症候群を合併し,多臓 器不全へ至る例もある.低血圧,呼吸不全に至っ た症例の多くは集中治療部での管理を要する.
CAR-T輸注後 2 週間以内に発症することが多く,
発症後 1~2 週間で収束へ向かう.CD19-CAR療 法におけるCRSの発症頻度は 18~100%と幅広 く,ALLを対象とした臨床試験における重症CRS 例は 8~46%と報告されている4~9).血中のIFN
(interferon)-
γ
,可溶性gp130,IL(interleukin)-6 ならびにIL-10 等のサイトカインの急激な上昇 図4 ELIANA試験における寛解持続期間(文献7より)75例中61例(81%)における寛解後の再発するまでの期間 1.0
0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0
0 2 4 6 8 10
Monthes since Onset of Remission
12 14 16 18 20 22
61 No. at Risk
No. of patients, 61 No. of events, 17
median duration of remission, not reached
probability of Continued Remission
54 43 33 23 18 8 7 3 1 0
がみられ,CRSの重症度を予測するバイオマー カーとなり得るとの報告もあるが,日常臨床に おいては,これらの検査項目を随時測定するこ とは難しく,CRP(C-reactive protein)やフェリ チン値がCRSの有用な指標として用いられてい る.ステロイドの全身投与はCRS治療の選択肢 の 1 つであるが,同剤を大量に長期間投与する ことで,CAR-Tの体内存続を抑制する可能性が ある.一方,抗IL-6 抗体医薬トシリズマブの有 用性が複数の臨床試験で認められており,CRS に対する治療薬として本邦でも承認された.
CRS重症化のリスク因子として,CAR-T輸注時の 腫瘍量が示されている.
CAR-T輸注後に,昏迷,せん妄,感覚鈍麻,
失語ならびにけいれん等の非特異的な神経・精 神症状が観察される4~9).けいれん重積発作,
脳浮腫による死亡例も報告されている.本症候 はCRSに附随して起こることが多いことから,
サイトカインの中枢神経への影響が示唆される が,CRSを伴わない例やCRSが収束した後に発症 する例もあり,発症機序は未だ不明である.特 異的な画像所見はみられず,輸注前の中枢神経 病変の存在との関連も認めていない.大多数例 で,後遺症を残すことなく回復するが,けいれ ん重積や脳浮腫による死亡例の報告がある.ト シリツマブの効果は明らかでなく,重症例に は,神経内科医の早期の介入と集中治療室にお ける綿密なモニタリングが求められる.
7.固形腫瘍に対するCAR-T療法の課題
固 形 腫 瘍 を 対 象 と し たCAR-T療 法 に つ い て も,積極的に開発が進められているが,難治性 膠 芽 腫 患 者 に 対 す るIL-13Rα
2(interleukin-13 receptorα
2)特異的CAR-T療法の著効例16)等,一部に臨床的効果が示されているに過ぎない.
CARの標的抗原を見出すことの難しさについ ては既に述べたが,固形腫瘍に対するCAR-T療 法の臨床的成功を困難にしているその他の要因
として,CAR-Tの腫瘍局所へ遊走能や免疫微小 環境におけるCAR-T活性の抑制がある17).標的 細胞が血管内や骨髄,リンパ組織に存在する造 血器腫瘍とは異なり,固形腫瘍ではCAR-Tが腫 瘍局所まで遊走し浸潤することで,はじめて抗 腫瘍効果が得られる.固形腫瘍においては,こ の過程を調節しているケモカインとその受容体 を介する接着機構が阻害されている.そこで,
CAR-TにCCR4やCCR2b等のケモカイン分子を共 発現させ,CAR-Tの遊走能を強化する試みがな されている17,18).また,CCL5を発現する腫瘍溶 解ウイルスとの併用により,腫瘍局所への浸潤 と存続を強化することが示されている18).腫瘍 細胞が存在する免疫微小環境において,CAR-T の機能が抑制される要素として,①線維芽細胞 やヘパラナーゼ等の物理的・解剖学的バリア,
②低酸素や糖・アミノ酸代謝環境,③腫瘍細胞 が産生する生理活性物質やサイトカイン,④制 御 性T細 胞 やmyeloid-derived suppressor cells
(MDSC),腫瘍関連マクロファージや好中球等 の免疫抑制細胞,⑤PD-1(programmed cell death 1)をはじめとする免疫チェックポイント分子 が同定されている.Tamadaらのグループは,サ イ ト カ イ ン と ケ モ カ イ ン を 同 時 に 産 生 す る IL-7/CCL9 産生型CARを開発し,CAR-T自身の直 接的な抗腫瘍効果のみならず,他の免疫細胞と 協調して抗腫瘍効果をもたらすシステムを開発 した19).また,CAR-T輸注と免疫チェックポイ ント阻害薬との併用療法やCARにCD40 リガン ド等の活性チェックポイント分子を組み入れて 機能を強化した次世代CARの臨床試験が行われ ている.
8.非自己のT細胞を用いたCAR-T
CAR-T作製のプロセスは,一般に10~20日を 要し,その後,品質試験を経る.現状では,
CAR-T療法の対象患者は,従来の化学療法に難 治例であることから,患者末梢血T細胞採取か
ら輸注までの期間,病勢コントロールを要す る.ELIANA試験7)では,登録後に 75 例中 65 例
(87%)で化学療法を行っており,CAR-T輸注ま での期間が 45 日間(30~105 日間)であった.
また,シアトルグループの小児ALLを対象とし た臨床試験では,同意取得から輸注まで53日間
(29~156 日間) を要している20).CAR-Tの作 製・管理の観点から見た場合に,質や量の不均 一性,作製時間ならびにコストの面で医薬品に 劣る.非自己T細胞から作製したCAR-Tが開発さ れれば,“off-the-shelf製剤(必要なときにすぐ に棚から取り出して使用可能な製剤)”としてこ れらの課題を克服できる.ただし,非自己T細 胞から作製したCAR-Tを用いる場合には,患者 の拒絶反応やCAR-Tが患者の臓器を傷害する移 植片対宿主病(graft-versus-host disease:GVHD)
のコントロールが必要となる.近年,ゲノム編 集技術を用いて内因性TCR遺伝子をノックアウ トし,CARを発現させて用いる“ユニバーサル CAR-T療法”の開発が行われている.既にこの システムを用いた臨床試験が行われており21), 複数例でMRD陰性のCRを得ているが,軽症の GVHDも観察されている.これは,ゲノム編集 の過程で,TCRの発現が十分に抑制されなかっ たT細胞による反応と考えられる.今後,ゲノ
ム編集技術の精度をさらに上げることが求めら れる.
おわりに
免疫チェックポイント阻害薬の臨床的成功と 時を同じくして登場したCAR-T療法により,が ん免疫療法が一躍脚光を浴びている.近年,技 術革新の著しいゲノム編集技術と組み合わせる ことでT細胞の特性と機能を自在に制御するこ とが可能となり,T細胞療法の発展はもはやと どまるところを知らないように思われる.一 方,本稿で概説した事項以外に,細胞の運搬,
管理,ベクターの長期モニタリングならびにコ スト等,臨床現場を取り巻く状況にも検討すべ き課題は多い.本邦におけるCAR-T療法の臨床 開発は端緒についたばかりであり,米国や中国 に対して大きく遅れをとっている.今後,さら にスピードとスケールが拡大すると予想される がん免疫細胞療法の開発に対応するため,産官 学が協調し,より洗練された臨床開発システム が構築されることを期待したい.
著者のCOI(conflicts of interest)開示:大嶺 謙;寄附 講座(タカラバイオ)
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