1.末期腎不全と腎不全症候
腎臓は,体内の水・電解質の恒常性維持,酸 塩基平衡調節,老廃物の排泄,造血,血圧調節 等生命維持の根幹に関わる重要な役割を担って いる.このような腎機能が低下した状態が慢性 腎臓病(chronic kidney disease:CKD)である. そして,腎機能の高度な低下により生体の恒常 性を維持し得なくなった状態が末期腎不全と呼 ばれる.一般的には,糸球体濾過量(glomerular filtration rate:GFR) で 15 ml/分/1.73 m2未 満 (CKDステージG5)の例で,臨床的にさまざま な程度での腎不全症候が認められる状態がこれ に該当する.腎不全症候とは,腎機能低下に伴っ て出現する以下のような諸症状を指す:体液貯 留(浮腫,胸水,腹水),循環器症状(心不全, 高血圧),電解質異常(低カルシウム血症,高カ リウム血症,低ナトリウム血症,高リン血症), 酸塩基平衡異常(代謝性アシドーシス),貧血, 栄養障害,骨代謝障害,消化器,皮膚,神経, 精神症状等.これらの発症には,大きく 3 つの 病態が関与している.すなわち,糸球体濾過機 能と尿細管機能低下に伴う水・電解質の調節障 害と酸排泄障害,腎の内分泌・代謝障害(エリ スロポエチン産生,Klotho発現,ビタミンD活性 化等),そして,有害老廃物の蓄積による障害で ある.生体に障害を惹起する老廃物は尿毒素と 呼ばれ,同定されているだけでも 100 種近くに 及ぶ1).
2.末期腎不全・新規透析導入患者の現状
1)基本的な背景 本邦では,糖尿病や高血圧等の生活習慣病患 者の増加,高齢化により,CKD罹患例は増加し ていると推定される.このようななかで,末期 腎不全・維持透析導入例数も斬増し(図1),最 1)東北大学病院慢性腎臓病透析治療共同研究部門,2)聖路加国際大学・聖路加国際病院腎臓内科Programs for Continuing Medical Education:B session;6. End-stage kidney disease and dialysis treatment:the current status and issues in Japan.
Masaaki Nakayama1)2):1)Research Division of Chronic Kidney Disease and Dialysis Treatment, Tohoku University Hospital, Japan and 2)Division
of Nephrology, St Luke’s International University, St Luke’s International Hospital, Japan.
末期腎不全と透析療法~現状と課題
中山 昌明1)2) Key words uremia,dialysis initiation,renal replacement therapy,hemodialysis,
近では 4 万人近い患者が新規の慢性維持透析療 法を導入されている(2015 年:39,462 例)2). こ の 患 者 群 の 中 心 はCKDス テ ー ジG3,4 か ら 徐々に腎機能が低下してきた例,あるいはCKD 例のなかで感染症,手術,虚血性心疾患等を契 機に急激に腎機能が低下した例である.我々が 行ってきた宮城県内のCKD患者コホート調査 (宮城艮陵CKD研究)3)では,G5 例の半数は 1 年 半未満で維持透析に導入されていたことから (図2),国内には少なくとも10万弱程度のG5患 者が存在すると推定される.ちなみに,米国の 調査では,CKD例は末期腎不全で透析導入に至 40,000 35,000 30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011 2013 2015(年) (患者数) 図 1 新規透析導入患者数の推移 近年,導入数の伸びは頭打ち傾向にあるが,毎年 35,000 人超の例が新たに透析を開 始している.(日本透析医学会) 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00 0 500 1,000 1,500 観察期間 CKD stage 1+2 CKD stage 3 CKD stage 4 CKD stage 5 CKD1+2 CKD3 CKD4 CKD5 Log-rank test p<0.000 430日 900日 図 2 CKD ステージ別の透析導入までの経過(艮陵研究) CKD G5 例では観察期間 420 日で半数の例が透析を導入されていた.
る例よりもそれ以前の段階での死亡例が多いと 報告されているが4),本邦では,少なくとも腎 臓専門医のいる施設に通院しているG5 例では, 高齢者であっても透析導入の発生率がはるかに 多い(図 3)5).この事実は,超高齢者であって も,腎保護に配慮することの医学的重要性を示 している. 2)最近の患者群の特徴 新規導入患者の医学的背景は,今世紀になり 大きく変貌している.1990年代までは,透析導 入例の基礎疾患では慢性糸球体腎炎が主因を占 めていたが,現在では,この比率は低下し,代 わって糖尿病性腎症が全体の 43.7%と 1 位と なっている2).また,導入患者の平均年齢は毎 年上昇し(男性 68.4 歳,女性 71.0 歳),この 10 年間で3歳以上上昇している.患者年齢層では, 後期高齢者群が40%と最多である.このような 状況を反映し,現在では,透析導入の時点で, 既に重篤な心血管合併症,フレイル状態,さら に認知症を合併している例も珍しくなくなって きた.しかしながら,これらの患者の透析導入 後の生命予後は極めて不良である.このような なかで,透析導入の適否を巡る適切な判断につ いては社会的にも重要な問題点となっており, 患者の尊厳を重視した透析非導入に関するガイ ドラインも整備されている6).
3.透析導入基準
種々の内科的治療に抵抗性の腎不全症候が出 現した場合,生命維持のためには腎代替療法(透 析療法・腎移植)が必要となる.特に心電図異 常を伴う高カリウム血症,うっ血性心不全,肺 水腫,高度の嘔気・嘔吐の消化器症状を呈する 例には,緊急に遅滞なく透析治療を開始する必 要がある.しかしながら,腎機能低下と腎不全 症候の出現の時期には個体差があり,患者によ りさまざまである.GFRが 10 ml/分/1.73 m2以 上であっても消化器症状が出現する例もある一 方で,GFRが極めて高度に低下しても自覚症状 を伴わない例もある.また,症状も感冒を契機 に比較的突然・急激に出現する例もあり,無症 候性の例であっても慎重な経過観察が必要であ る.このため,ある程度まで腎機能が低下し, 尿毒症症状の出現が予期されるような例では, 計画的に維持透析の導入が行われるのが一般的 になっている.国内では透析導入のガイドライ ンが整備されている.日本透析医学会から示さ れている内容を表に示す7,8).なお,透析導入の 超後期高齢者 後期高齢者 前期高齢者 Rate, 1,000 persons/year 1 ~ 2 65 ~ 74 75 ~ 84 >_85 3ab 4 5 1 ~ 2 3ab 4 5 1 ~ 2 3ab 4 5 ■Death ■ESKD 1,000 800 600 400 200 0 (年齢) 図 3 高齢者年齢層別の CKD 病期別:死亡・透析導入発生率(艮陵研究) G5 期ではいずれの年齢層でも死亡よりも透析導入頻度が高かった.適切な時期については,以前から議論があった が,海外で行われた無作為化比較対照試験(早 期導入と標準的導入の比較)では,より早期か ら透析治療を開始することによる有益な成績は 確認されていない9).現時点では,患者のさま ざまな自他覚症状を指標にタイムリーに治療を 開始することが専門家間のコンセンサスであ る.なお,国内患者における導入時期の平均GFR は約 7 ml/分/1.73 m2と報告されている.
4.透析治療の実際(図4)
慢性維持透析療法には,血液透析(hemodialy-sis:HD)と腹膜透析(peritoneal dialysis:PD) がある.基本的にHDは通院型,PDは在宅型治 療である. HDは血液を体外に導出し,透析液が流れる人 工腎臓を介して,溶質の拡散と限外濾過の原理 により,血液中の老廃物と過剰な水分を除去 し,一方で,電解質,アシドーシスを是正する 治療法である.外来治療のために血管アクセス (一般的には橈骨動脈と前腕の皮静脈を吻合す る)を設置する必要がある.1 回の治療時間は 平均 4 時間で,これを週あたり 3 回を基準に行 う.PDは生体膜を利用し,拡散と浸透圧勾配の 原理により,透析液と腹膜毛細血管の間で溶質 除去と水分除去を行う.腹腔内に透析液を注入 し,透析液は4~5時間停滞させた後に排液,こ れを1日3~4回繰り返す.オリジナルの方法で は,これを連日実施する.透析液の注排液のた めに,専用の留置型カテーテル(テンコフカテー テル)を腹壁から設置する.5.透析療法の現状と課題
1)国内の現状 本邦には,2015 年末時点で 32 万人を超える 表 本邦の透析導入基準 表 A 日本透析医学会:維持血液透析ガイドライン〈2013〉 「腎機能からみた血液透析導入のタイミング」から抜粋 ●透析導入時期の判断は,十分な保存的治療を行っても進行性に腎機能の悪化を認め,GFR<15mL/min/1.73m2になっ た時点で必要性が生じてくる(1D).ただし実際の血液透析の導入は,腎不全症候,日常生活の活動性,栄養状態を総 合的に判断し,それらが透析療法以外に回避できないときに決定する(1D). ●腎不全症候がみられても,GFR<8mL/min/1.73m2まで保存的治療での経過観察が可能であれば,血液透析導入後の 生命予後は良好であった.ただし腎不全症候がなくとも,透析後の生命予後の観点から GFR2mL/min/1.73m2までに は血液透析を導入することが望ましい(2C). エビデンスの質: High(A),Moderate(B),Low(C),VeryLow(D) 推奨度:強(1),弱(2) 表 B 日本透析医学会:腹膜透析ガイドライン(2009) 「第一章導入」から抜粋 ●腹膜透析導入に際しては,血液透析,腹膜透析,さらに腎移植に関する十分な情報の提供を行い,同意のもと決定す る.(委員会オピニオン) ●腹膜透析の有用性を生かすために,患者教育を行い,計画的に導入する.(エビデンスレベルⅢ) ● CKD ステージ 5(糸球体濾過量 15.0mL/min/1.73m2未満)の患者で,治療に抵抗性の腎不全症候が出現した場合, 透析導入を考慮する.(委員会オピニオン) ●糸球体濾過量が 6.0mL/min/1.73m2未満の場合は透析導入を推奨する.(委員会オピニオン) 注釈:「維持血液透析ガイドライン:血液透析導入」と「腹膜透析ガイドライン」で透析開始の腎機能の推奨レベルが違っている. 腹膜透析では残存腎機能の程度が治療効率に大きく影響するため,腎機能がある程度存在している段階で治療を開始することが推奨 されていることが理由である.エビデンスレベル III:非ランダム化比較試験維持透析患者数が報告されているが,これは国 民人口あたり 400 人弱に 1 人の割合である.世 界的に見ても,人口割合あたりの数としては台 湾に次いで 2 番目に多い.しかしながら,治療 法としては,国内患者の主体はHDであり,PD の普及率は3%弱にとどまっている2).慢性疾患 患者の積極的な社会復帰のためには,在宅医療 の普及が期待されるが,本邦の普及率は先進国 のなかでは最も低い.この背景には,長期PDに 特有な合併症の問題に加え,患者への医療情報 や支援制度等社会的要因の影響も大きいとされ る.ちなみに,2015 年において,HD新規導入 例は37,265例,PD新規導入例は2,197例,腎移 植は 1,661 例であった.透析療法全体の治療継 続期間は 5 年未満が半数であるが,一方,15 年 を超える長期例も 15%を占め,その多くはHD 治療例である.PDは生体膜を利用する治療法で あるため,5 年未満でHDに治療を変更する例が 多いのが現状である. 2)治療成績 患者予後に関して,年間死亡者数は 2011 年 以降,3 万人を超えており,患者の粗死亡率は 9%台で推移している2).これには死因の 33% を占める心臓脳血管合併症に加え,25%を超え る感染症死亡が年々増加していることが影響し ている.治療法別の予後成績については,国内 外の報告ではHD,PDの短中期的にはほぼ同等 である. 3)治療の現況 透析患者に共通して認められる腎性貧血,二 次性副甲状腺機能亢進症,カルシウム・リン代 謝異常に対する薬物療法は,この10年間で飛躍 的に向上した.一方,血液浄化療法としての透 析治療そのものに関しては,基本的な治療内 容・方法は大きくは変わっていない.しかしな がら,国内の最近のトレンドとして,尿毒素の 除去向上を目指して,大量置換液を用い,廃物 図 4 透析治療の概要:血液透析(A)及び腹膜透析(B) 血液透析は一般的に血液を毎分 200 ml 程度の速度で導出し,血液浄化を行う.4 時間の治療で使用する透析液は 150 l を超える.古典的な連続式携帯型の腹膜透析(CAPD)では,腹腔内に 1.5~2 l の透析液を注入し,その後, 4~6 時間停滞後に排液する操作を 1 日 4 回繰り返す.1 日あたりに使用する透析液量は 6~8 l となる. 抗凝固薬 ダイアライザー 血液ポンプ 動脈側 (脱血) 透析液 廃液 静脈側 (返血) 透析用 監視装置 透析液 供給装置 脱血 返血 血液 注液 排液 透析バッグ 腹腔内 A 血液透析(hemodialysis:HD) B 腹膜透析 (peritonealdialysis:PD)
の除去効果が高いオンライン血液透析濾過が普 及しており,通常の治療時間を超える長時間HD (夜間オーバーナイト等),PDとHDと組み合わ せた本邦独自の治療法である併用療法も行われ ている.ただし,これらの患者予後に対する検 証は十分ではなく,今後の課題である.一方で, 透析治療の合併症を減らすという面では,我々 は最近,電解水素水を用いた血液透析システム を開発し,その医学的有用性を検証し,報告し ている11).また,海外からは,吸着システムを 用いた全く新しい携帯型・埋め込み型の治療シ ステムが考案される等12),新しいテクノロジー による治療法の開発も進んでいる.
おわりに
透析医療の本来の基本的な目的は患者の社会 復帰にあり,これに対して現行の透析医療は大 きな社会貢献を果たしてきた.しかしながら, 社会の高齢化が進むなかで,透析患者の中心も 高齢者となり,透析医療が担う社会的目的も変 容しつつある.移植医療にはドナー不足という 大きな課題があり,また,ヒトへの腎臓再生医 療は未だ実現化していないことから,透析医療 が担う社会的・医学的役割は未だに大きい.こ の意味で,時代の変化と要望に的確に応える透 析医療制度の再整備と展開が期待される. 著者のCOI(conflicts of interest)開示:中山昌明;講演 料(中外製薬,鳥居薬品,バクスター),寄附講座(東 北大学病院,日本トリム) 文 献1) Vanholder R, et al : European Uremic Toxin Work Group. A bench to bedside view of uremic toxins. J Am Soc Nephrol 19 : 863―870, 2008.
2) 日本透析医学会:図説 わが国の慢性透析療法の現況.2015 年 12 月 31 日現在.2016.
3) Nakayama M, et al : Different clinical outcomes for cardiovascular events and mortality in chronic kidney dis-ease according to underlying renal disdis-ease : the Gonryo study. Clin Exp Nephrol 14 : 333―339, 2010.
4) Keith DS, et al : Longitudinal follow-up and outcomes among a population with chronic kidney disease in a large managed care organization. Arch Intern Med 164 : 659―663, 2004.
5) 山本多恵,他:後期高齢者CKD患者では死亡リスクが腎死を上回る.第 58 回日本腎臓学会学術集会.演題番号: O-083.2015―06. 6) 日本透析医学会血液透析療法ガイドライン作成ワーキンググループ,透析非導入と継続中止を検討するサブグルー プ:維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言.透析会誌 47 : 269―285, 2014. 7) 日本透析医学会:維持血液透析ガイドライン:血液透析導入.透析会誌 46 : 1107―1155, 2013. 8) 日本透析医学会:2009 年版 日本透析医学会「腹膜透析ガイドライン」.透析会誌 42 : 285―315, 2009. 9) Cooper BA, et al : A randomized, controlled trial of early versus late initiation of dialysis. N Engl J Med 363 :
609―619, 2010.
10) Bello AK, et al : Assessment of Global Kidney Health Care Status. JAMA 317 : 1864―1881, 2017.
11) Nakayama M, et al : Novel haemodialysis (HD) treatment employing molecular hydrogen (H2)-enriched dialysis solution improves prognosis of chronic dialysis patients : A prospective observational study. Sci Rep 8 : 254, 2018. doi : 10.1038/s41598―017―18537-x.
12) Fissell WH, et al : Achieving more frequent and longer dialysis for the majority : wearable dialysis and implant-able artificial kidney devices. Kidney Int 84 : 256―264, 2013.