はじめに
間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell:MSC)
は組織再生や免疫調整等の作用を有し,さまざ まな疾患への臨床応用が試みられている.日本 国内では,造血幹細胞移植後の急性移植片対宿 主病(graft-versus-host disease:GVHD)を適応 とする再生医療等製品として,2015年に他家骨 髄由来MSC(テムセル®HS注,JCRファーマ株式 会社)が製造販売承認された.既に 300 例を超 える(私信)急性GVHD患者に保険診療として 投与されている.また,2018年には,外傷性脊 髄損傷に対する再生医療等製品として,自家骨 髄由来MSC(ステミラック®注,ニプロ株式会 社)が製造販売承認された.このように,間葉 系幹細胞を用いた細胞治療は,夢物語ではな く,日常診療として実用化されている.本稿で は,既に多数の投与実績がある急性GVHDに対 するMSC治療の臨床応用開発の経緯や成績等を
紹介すると共に,造血幹細胞移植におけるMSC 利用の新しい試みやMSC治療の今後の展開につ いて述べる.
1.MSCの性質
MSCは間葉に由来する体性幹細胞の 1 つで,
骨髄,脂肪組織,胎盤,臍帯ならびに歯髄等広 範な組織に存在する.フラスコで培養すると,底 面に付着して紡錘形を呈し(図 1),培養条件に よって骨芽細胞,脂肪細胞あるいは軟骨細胞等 さまざまな系統へ分化し得る.また,自己複製能 を有する.International Society for Cellular Ther- apyからはMSCの定義が示されている(表 1)1). 骨髄内でMSCは間質を構成し,造血幹細胞の 維持,自己複製,増殖ならびに分化等を支持す る微小環境を形成している.この点に着目し,
MSCはmesenchymal stromal cellとも称される.
また,種々のサイトカインや液性因子を産生
骨髄由来間葉系幹細胞
要 旨
間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell:MSC)は骨髄内で造血を支 村田 誠 持している.また,免疫反応を抑制的に制御する.この性質を利用して, 日本では造血幹細胞移植後の急性移植片対宿主病(graft-versus-host dis- ease:GVHD)を適応とする.骨髄由来MSCが製造販売承認されており,
全例を対象とした使用成績調査が行われている.MSCを用いた細胞治療 は高額であり,適正使用のためのガイドライン作成が望まれる.骨髄由来 以外のMSC治療の開発も進められている.
〔日内会誌 108:1369~1374,2019〕
Key words 間葉系幹細胞,造血幹細胞移植,移植片対宿主病,生着,免疫
名古屋大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科学
A New Era of Cellular Therapy. Topics:II. Bone marrow-derived mesenchymal stem cells.
Makoto Murata:Department of Hematology and Oncology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Japan.
Ⅱ. 骨髄由来間葉系幹細胞 トピックス
し,T細胞,B細胞,NK(natural killer)細胞,
単球ならびに樹状細胞等の免疫担当細胞に対し て抑制的に,制御性T細胞に対して促進的に作 用する2).さらに,炎症部位や組織傷害部位に 集積しやすい性質もある.MSCはHLA(human leukocyte antigen)分子を発現しているものの,
そ の 発 現 レ ベ ル は 低 く, 共 刺 激 分 子 で あ る CD80,CD86,CD40 等を発現していないため,
非自己T細胞を刺激しない.この性質により,
HLAの異なるMSCを患者に投与しても,T細胞に よる攻撃(拒絶)から免れることができると考 えられている.さらに,樹立及び培養が容易で あり,増殖能が高く,凍結保存することが可能 である.以上より,HLAの一致・不一致を問わ ず,他家由来のMSCを患者に投与する治療が可 能となる.
2.MSCの臨床応用
国内外で,約 400 課題ものMSCを用いた臨床 研究が進められている(ClinicalTrials.gov,2019 年2月時点).対象疾患は,関節リウマチ,全身 性 エ リ テ マ ト ー デ ス,Crohn病, 心 筋 梗 塞,
Parkinson病,脊髄損傷,変形性関節症ならびに GVHD等,多岐に亘る.前述のとおり,日本で は急性GVHDと外傷性脊髄損傷に対するMSC治 療が保険診療として行われている.
1)MSCを用いた急性GVHD治療
(1)海外
2003 年,Le Blancらは,非血縁ドナーから末 梢血幹細胞移植を受け,種々の免疫抑制薬に抵 抗性の急性GVHDを合併している 9 歳男児に対 し,母親の骨髄由来MSCを投与し,著明な改善 を得たことを報告した.次に,Le Blancらは,
ヨーロッパで多施設共同第II相試験を行った
(表 2: 報 告 1). ス テ ロ イ ド 治 療 抵 抗 性 急 性 GVHD患者 55 例に対し,HLA一致または不一致 の骨髄由来MSCを 1 回(27 例)または 2 回以上
(28 例)投与した.重篤な副作用を認めず,完 全寛解(complete response:CR)率 55%,CR
+部分寛解(partial response:PR)率71%と良 好な結果を得た.
米国では,Osiris社が健常成人骨髄由来MSC製 剤(後のProchymal®)を製造し臨床試験を行っ た.Martinらは, ステロイド治療抵抗性急性 GVHDに対する二次治療として,何らかの二次 治療薬+Prochymal®(163 例)と何らかの二次 治療薬+プラセボ(81例)を無作為比較する第 図1 培養フラスコの底面に付着して
紡錘形を呈する間葉系幹細胞
表1 International Society for Cellular TherapyによるMSCの定義1)
1.通常の培養下でプラスチック製フラスコの底面に接着する.
2.CD105,CD73,CD90の発現が陽性(≧95%).
3.CD45,CD34,CD14またはCD11b,CD79αまたはCD19,HLA-DRの発現が陰性(≦2%).
4.in vitroにおいて骨芽細胞,脂肪細胞,軟骨細胞へ分化する.
MSC:mesenchymal stem cell
III相試験を実施した(表 2:報告 4).全身評価 では,CR率35%vs. 30%と差を認めなかったが,
肝と消化管のGVHDについては,高いCR率(肝:
76%vs. 47%,消化管:82%vs. 68%)が確認さ れた.その後,小児に対する追加試験が行われ,
2012年,Prochymal®は,カナダとニュージーラ ンドで小児の急性GVHDに対する治療薬として 承認された.また,その後,米国においても人 道的使用(compassionate use)として使用可能 になった.
(2)国内
国内では,JCRファーマ社が米国より輸入した 骨髄液を用いて,Osiris社のProchymal®と同様の 培養法でMSCを製造し,臨床試験を行った(後の テムセル®HS注).grade II~IVのステロイド治療 抵抗性急性GVHD 14例におけるCR率57%(表2:
報告 6),grade III~IVのステロイド治療抵抗性 急性GVHD 25 例におけるCR率 48%等の試験結 果を得て(表2:報告10)3),2015年9月,国内 初の他家由来再生医療等製品として承認を受け た.適応症は造血幹細胞移植後の急性GVHDで,
対象年齢に制限はない.急性GVHDに対する標 準一次治療はステロイド薬の全身投与である が,その有効率はおよそ6割にとどまる4).ステ ロイド治療抵抗性の急性GVHDに対する二次治 療として,現在,日本では抗胸腺細胞免疫グロ ブリンとMSCの 2 種類が保険診療として投与可 能になっている.
テムセル®は,液体窒素の入った専用のカート により,凍結された状態で移植施設に運搬され てくる.恒温槽を用いて使用前に解凍し,生理 食塩液で希釈し,緩徐に点滴静注する.MSCは 表2 急性GVHDに対するMSC治療の試験結果
症例数 年齢,歳 MSC 効果,% 報告**
合計 Grade II Grade
III~IV 中央値
(範囲) ドナー 投与細胞数,
中央値(範囲) 投与回数 CR CR+PR 55 5 50 22(0~64) 血縁,非血縁 1.4(0.4~9.0)×106/kg/回 1~5 55 71 1 13 0 13 58(21~69) 非血縁 0.9(0.6~1.1)×106/kg/回 1~5 8 16 2 31 21 10 52(34~67)(Prochymal非血縁 Ⓡ) 2.0 vs. 8.0×106/kg/回 2 88 vs. 67 88 vs.100 3
244* No data No data No data (Prochymal非血縁 Ⓡ) 2.0×106/kg/回vs. プラセボ 8 No data 82 vs.73 4
12 0 12 4(0~15) (Prochymal非血縁 Ⓡ) 2.0(2.0~8.0)×106/kg/回 8 58 75 5 14 9 5 44(4~62)非血縁(テムセルⓇ) 2.0×106/kg/回 8 57 93 6 37 0 37 7(0~18) 血縁,非血縁 2.0(0.9~3.0)×106/kg/回 1~3 65 86 7 31 11 20 28(1~65) 非血縁 1.5(0.8~3.1)×106/kg/回 2~11 29 74 8
25 7 18 (20~65) 非血縁 1.1×106/kg/回 2~4 46 71 9
25 0 25 33(5~66)非血縁(テムセルⓇ) 2.0×106/kg/回 8 48 60 10 33 0 33 7(3~18) 血縁,非血縁 1.2(0.5~2.8)×106/kg/回 1~4 55 76 11 58 3 54 55(19~71) 非血縁 0.99(0.45~2.08)×106/kg/回 1~6 9 47 12 46 0 46 28(1~72) 非血縁 計6.81(0.98~29.78)×106/kg No data 7 50 13 CR:完全寛解,CR+PR:完全寛解+部分寛解
*MSC投与群は163例
**1:Lancet 371:1579-1586,2008,2:Bone Marrow Transplant 43:245-251,2009,3:Biol Blood Marrow Transplant 15:804- 811,2009,4:Biol Blood Marrow Transplant 16:S169-S170,2010,5:Biol Blood Marrow Transplant 17:534-541,2011,6:Int J Hematol 98:206-213,2013,7:Br J Haematol 163:501-509,2013,8:Biol Blood Marrow Transplant 20:375-381,2014,9:
Biol Blood Marrow Transplant 20:1580-1585,2014,10:Int J Hematol 103:243-250,2016,11:Stem Cells Int 2016:1641402,
2016,12:Stem Cells 34:357-366,2016,13:Bone Marrow Transplant 52:859-862,2017.
静注すると,その多くがまず肺に捕捉されるた め,点滴中は動脈血酸素飽和度の低下に注意す る.国内臨床試験においても,肺の循環障害に 関連すると評価された有害事象が39例中5例に 観察されている.なお,全例を対象とした使用 成績調査が義務付けられている.
(3)治療成績のまとめ
13試験336症例を対象としたmeta-analysisで は,急性GVHDに対するMSC治療のCR率は28%,
CR+PR率 は 72% と 報 告 さ れ て い る5). 急 性 GVHDに対するMSC治療の代表的な試験結果を 表 2にまとめた.MSCドナーの年齢や性別,患 者とのHLA適合度は治療効果に影響を与えな い,MSCの継代回数の少ない方(1 または 2 回)
が多い方(3または4回)よりも治療効果が高い といったことが報告されている.また,MSC治 療によって,原疾患(白血病等)の再発や感染 症の発症は増加しないとの報告がある一方,サ イトメガロウイルス抗原血症や肺炎関連死亡は 増加するとの報告もある.
以上,急性GVHDに対するMSC治療成績につ いて要点をまとめたが,詳細は血液内科専門雑 誌を参照されたい6).
2) 造血幹細胞移植におけるMSC利用の新しい試み
(1)慢性GVHDの治療と予防
慢性GVHDに対するMSC治療も試みられてい る.強皮症様の皮膚症状が改善したといった有 効例が報告されている.
Gaoらは,慢性GVHDに対するMSCの予防投与 に関する無作為比較試験を行った7).HLA不一 致ドナーからの末梢血幹細胞移植後 4 カ月か ら,臍帯血由来MSCを 1 カ月毎に最大 4 回投与 したところ,慢性GVHD発症率が有意に低下し た(27%vs. 49%).治療に難渋することの多い 肺の慢性GVHDは1例も発症せず,有害事象や原 疾患再発の増加は認められなかった.近年,日 本では,非血縁ドナーからの末梢血幹細胞移植 が増加しつつある.末梢血幹細胞移植は,骨髄
移植や臍帯血移植と比べ,慢性GVHDの発症率 が高いため,新たなGVHD予防法の確立が求め られている.
(2)MSC併用移植
MSCは骨髄微小環境を形成し,造血支持作用 を有する.そこで,造血幹細胞移植時にMSCを 投与すれば,GVHD発症を抑制すると同時に,
移植後の血液回復を促進する可能性がある.な かでも,骨髄移植や末梢血幹細胞移植と比べて 生着率が低く,生着速度が遅い臍帯血移植で は,MSC併用による生着率向上及び早期血液回 復により期待がかかる.海外からMSC併用臍帯 血移植の試験結果が報告されており,生着率は ほぼ 100%,好中球回復までの期間は 3 週間未 満と良好な成績が得られている.しかし,いず れの試験も小児を対象としており,患者体重kg あたりの移植造血幹細胞数は多い.患者体重kg あたりの移植造血幹細胞数が少ない成人でも同 様の成績が得られるかについては,未だ明らか でない.
(3)我々の試み
マウス実験において,骨髄内輸注されたMSC は骨髄内に生着するが,静脈内輸注されたMSC は骨髄内に生着しない.また,マウスのMSC併 用移植モデルにおいて,MSCを骨髄内輸注する と,静脈内輸注した場合に比べ,より高い生着 促進効果が得られる.そこで,我々は,MSCに よる生着促進効果とGVHD抑制効果の両者を期 待し,成人の臍帯血移植患者に対し,血縁者骨 髄由来MSCを移植当日に患者の骨髄内に輸注す る「MSC骨髄内輸注併用臍帯血移植」の第I相試 験を,「再生医療等の安全性の確保等に関する法 律」に則って進めている(図 2)8).
3.今後の展開 1)特定の分画への純化
松崎らは,ヒト骨髄中CD271(LNGFR)陽性/
CD90(Thy1)陽性細胞をsingle cell sortingし,
増殖能に優れたMSCクローン(rapidly expand- ing MSC clone:REC)を分離することに成功し た9).RECは 分 化 能 や 遊 走 能 も 高 く, ま た,
VCAM-1(vascular cell adhesion molecule-1)を 発現しており,マウスに静注した際に肺への捕 捉率が低いことが確認されている.ただし,抗 炎症作用や造血支持作用の強弱については,十 分明らかにされていない.このように,今後は MSCを特定の分画に純化して患者に投与する試 みがなされていく可能性がある.
2)MSCの細胞源
骨髄由来以外のMSCも臨床応用されつつあ る.国内では,Crohn病と急性GVHDに対する羊
膜由来MSC治療(北海道大学病院と兵庫医科大 学病院,2017 年発表),急性GVHDに対する臍 帯由来MSC治療(東京大学医科学研究所附属病 院,2018年発表)等の医師主導治験が進められ ている.企業治験としては,富士フイルム社が iPS(induced pluripotent stem)細胞由来MSCを 急性GVHDに対して投与する試験の開始を発表 した(2018 年).また,JCRファーマ社が骨髄 由来MSCテムセル®の適応症を表皮水疱症へ拡 大する計画(2018年)と,新たに開発した歯髄 由来幹細胞を急性期脳梗塞に対して投与する臨 床試験開始(2019 年)を発表している.MSC は,その源となる組織が異なると,性質もやや 異なると言われている.いずれ,目的に応じて,
異なる細胞源のMSCを使い分ける時代が来るか 図2 MSCの骨髄内輸注を併用する臍帯血移植の第I相試験
MSCドナーから骨髄10~20 mLを採取し,MSCを培養,増幅して凍結保存す る.臍帯血移植当日,解凍したMSCを骨髄内輸注し,その4時間後に臍帯血を 静脈内輸注する.
MSC:mesenchymal stem cell,GVHD:graft-versus-host disease,
G-CSF:granulocyte-colony stimulating factor 10~20 ml骨髄
骨髄採取
骨髄単核球 MSC
培養増幅 約4週間 MSCドナー
臍帯血
静脈内輸注 骨髄内輸注
?
GVHD予防移植日
G-CSF
・・・
0.2~2.0×106/kg 移植患者
移植前処置
4時間
MSC
もしれない.
3)細胞外小胞(EV)
細胞外小胞(extracellular vesicle:EV)とは,
核酸やタンパク,miRNA(micro ribonucleic acid)
等を内包するナノサイズの小型膜小胞体のこと である.MSCがさまざま作用を発揮するにあた り,分泌するEVが重要な役割を担っていること が明らかにされている10).また,治療抵抗性 GVHD患者1例に対し,培養した骨髄由来MSCが 分泌したEVを投与したところ,症状の改善が得 られたとの報告もある.将来,MSC治療は,細 胞自体を投与するのではなく,MSC培養上清か ら回収したEVを投与する非細胞治療に変化す る可能性もある.
おわりに
今後,さまざまな疾患への適応拡大が見込ま れるMSC治療であるが,その高額な治療費を看 過することはできない.前述の急性GVHDを適 応とするテムセル®の価格は 1 バッグ約 87 万円 である.小児(36 kg以下)であれば 1 回 1 バッ グ,成人(36 kg超)であれば 1 回 2 バッグを使 用する.添付文書の用法用量に従えば 8 回投与 するため(実際には症状をみながら早期中止可 能),小児で約700万円,成人で約1,400万円と なる.あとに続く細胞治療の良きモデルとなる よう,全例調査結果に基づいて,投与回数や投 与のタイミング等投与法を最適化し,且つ,適 正な投与患者を選択するための使用ガイドライ ンをできるだけ早期に整備することが望まれる.
著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容 に関連して特に申告なし
文 献
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