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日本内科学会雑誌第104巻第7号

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Academic year: 2021

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はじめに

 骨髄不全(bone marrow failure)は造血幹細胞 の量的・質的減少により血球減少を来たした状 態を指し,その原因としては造血幹細胞自身の 量的・質的減少によるものと,非造血細胞の骨髄 浸潤によるものとがある.造血幹細胞の量的・質 的減少に基づく骨髄不全を幹細胞不全(stem cell failure)と呼ぶことがあり,再生不良性貧血およ び赤芽球癆,発作性夜間ヘモグロビン尿症,骨髄 異形成症候群はその代表的な造血器疾患であ る.非造血細胞の骨髄浸潤を来たす疾患として,

骨髄線維症,有毛細胞白血病(hairy cell leuke-mia),がんの骨髄転移などがある(表 1).  造血系は全ての血球およびリンパ球を産生し 得る能力と自己複製能を有する多能性造血幹細 胞(multipotent hematopoietic stem cell)を頂点 として,複数多系列の血球を生み出すことはで きるが,自己複製能を失った多能性前駆細胞 (multipotent progenitor),複数系列・単系列の 血球しか産生し得ない前駆細胞からなるピラ ミッドを形成している(図1).再生不良性貧血 および赤芽球癆はともに造血幹細胞・前駆細胞 の量的減少により発症すると考えられている

再生不良性貧血と赤芽球癆の

病態と治療

要 旨 廣川 誠1) 藤島 直仁2) 面川 歩1) 植木 重治1)  再生不良性貧血および赤芽球癆は,ともに造血幹細胞・前駆細胞の量的 減少により発症する骨髄不全症であり,前者は貧血,血小板減少,好中球減 少のうち2つ以上の血球減少を,後者は貧血のみを呈する.その原因は多 様であり,病因を特定できない特発性と,薬剤投与やウイルス感染症,自 己免疫疾患,妊娠などに伴う続発性がある.特発性再生不良性貧血および 基礎疾患の治療に反応しない慢性赤芽球癆には免疫抑制療法が行われる. 〔日内会誌 104:1405~1413,2015〕

Key words aplastic anemia, pure red cell aplasia, pathophysiology, immunosuppressive therapy

1)秋田大学大学院医学系研究科総合診療・検査診断学講座,2)秋田大学附属病院輸血部

Anemia:From Basic Knowledge to Up-to-Date Treatment. Topics:VI. Pathophysiology and management of aplastic anemia and pure red cell aplasia.

Makoto Hirokawa1), Naohito Fujishima2), Ayumi Omokawa1) and Shigeharu Ueki1)1)Department of General Internal Medicine and Clinical

Labo-ratory Medicine, Akita University Graduate School of Medicine, Japan and 2)Division of Blood Transfusion, Akita University Hospital, Japan.

Ⅵ. 再生不良性貧血と赤芽球癆の病態と治療

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が,前者は骨髄系前駆細胞(common myeloid progenitor),後者はより分化した赤血球系前駆 細胞(erythroid progenitor)の減少によって発 症すると推定されている.また,その病因は再 生不良性貧血,赤芽球癆ともに多様である.本 稿では再生不良性貧血および赤芽球癆の病態と 治療について概説する.

1.再生不良性貧血の病態

1)再生不良性貧血の原因  再生不良性貧血は先天性と後天性があり,前 者は先天性骨髄不全症候群(inherited bone mar-row failure syndrome)とも呼ばれる(表1).先 天性骨髄不全症候群にはFanconi貧血,先天性角 化 不 全 症(dyskeratosis congenita),Diamond- Blackfanan貧血などが含まれる.最も頻度が高 いのはFanconi貧血であるが,本邦において新た に発生する症例は年間 10 例未満と推定されて いる.Fanconi貧血はDNA(deoxyribonucleic acid) 修復分子をコードする遺伝子の先天性異常に よって発症し,現在13の責任遺伝子が同定され ている1).先天性角化不全症はテロメアの維持 機構の障害によって発症し,TERC(telomere RNA component),TERT(telomere reverse tran-scriptase)などの遺伝子変異が報告されている.  後天性再生不良性貧血には原因を特定できな い一次性(特発性)と,薬剤や化合物の投与, ウイルス感染症,自己免疫疾患,妊娠などに伴 う二次性がある(表2).薬剤に起因する骨髄不 全には,殺細胞性抗がん薬のように血球減少の 図1 造血系の階層構造

Multi-potent stem cell Multi-potent progenitor Oligo-potent progenitor Uni-potent progenitor 造血幹細胞 多能性造血前駆細胞 前駆細胞(複数系列) 前駆細胞(単系列) 自己複製能 赤血球 血小板 好中球 好酸球 好塩基球 単球 樹状細胞 リンパ球 表1 骨髄不全の原因 病因 疾患 I.造血幹細胞の量的・質的減少 1.先天性 Fanconi貧血 先天性角化不全 Diamond-Blackfan貧血

Congenital dyserythropoietic anemia 遺伝性鉄芽球性貧血 2.後天性 再生不良性貧血 赤芽球癆 骨髄異形成症候群 発作性夜間ヘモグロビン尿症 原発性骨髄線維症 II.非造血細胞の浸潤・増殖 骨髄線維症 有毛細胞白血病 がんの骨髄転移

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招来を予測できるものと,抗けいれん薬や抗菌 薬,非ステロイド系抗炎症薬,抗甲状腺薬など のように予測不能のものがある.肝炎ウイルス 感染に伴う骨髄不全症は肝炎後再生不良性貧血 としてよく知られているが,HIV(human immu-nodeficiency virus)感染症,ヒトパルボウイル スB19 感染症に伴う再生不良性貧血も報告され ている.妊娠に伴う再生不良性貧血の発症機序 は不明である.  特 発 性 再 生 不 良 性 貧 血 の 中 に も,TERCや TERTの遺伝子変異が検出される例が報告され ているが,特発性再生不良性貧血の多くは,後 述するいくつかの臨床的観察および病態研究に より,造血幹細胞に対する自己免疫学的な機序 を介して造血不全が発症すると考えられてい る. 2)特発性再生不良性貧血の免疫病態  特発性再生不良性貧血が自己免疫疾患である という推察は,重症再生不良性貧血に対する一 卵性双生児ドナーからの骨髄移植後の生着不全 (engraftment failure)の経験に始まっている. すなわち,一卵性双生児においては遺伝的背景 が同一であるにもかかわらず,ドナーから単に 骨髄細胞を輸注しても造血機能は回復せず,造 血の回復にはレシピエントに対する免疫抑制的 な前処置が必要であることが明らかにされた. その他,再生不良性貧血に対する免疫抑制療法 の有効性2),同種造血幹細胞移植後の移植片対 宿主病に伴う骨髄不全症の存在,試験管内にお ける自己の造血幹細胞の増殖に対するリンパ球 の抑制作用の証明,CD8 陽性T細胞のオリゴク ローナルな増加,およびkinectin,DRS-1(diaze-pam-binding inhibitor-related protein-1),moesin などに対する自己抗体の存在などの報告は,再 生不良性貧血が自己免疫疾患であることを強く 支持するものと考えられる.  造血細胞に対する免疫学的攻撃のメカニズム として,細胞傷害性T細胞(cytotoxic T lympho-cyte:CTL)の関与が強く想定されているが,免 疫学的機序による造血抑制はCTLによる細胞傷 害のみではなく,可溶性のメディエーターに よっても引き起こされると推定されている.イ ンターフェロンγやTNF-α(tumor necrosis fac-tor-α)はin vitroにおいてヒト造血幹細胞のマー カーであるCD34 陽性骨髄細胞のアポトーシス を誘導すること,再生不良性貧血患者における 骨髄細胞がインターフェロンγを産生している ことが報告されている.  免疫学的なプレッシャーが造血系にかかって いることを支持する証左として,glycosylphos-phatidylinositol(GPI)アンカー膜蛋白が欠損し た造血細胞が再生不良性貧血患者において少数 ではあるが検出されること,GPIアンカー膜蛋 白欠失血球が存在する再生不良性貧血は免疫抑 制療法に良好な反応性を示すことを挙げること ができる3,4).また,中尾らの金沢大研究グルー

プから,HLA(human leukocyte antigen)アリ ルが片方欠失した造血細胞が 13%の再生不良 性貧血患者で観察され,それは第 6 番染色体短 腕(6p)の片親性 2 倍体(uniparental disomy: UPD)によるという興味深い報告がなされてい る5).すなわち,CTLからの免疫学的攻撃を免れ た造血細胞が,臨床的に再生不良性貧血と診断 される時点では優勢となっていることを示唆し ている.欠失しているHLAは特定の 4 つのアリ 表2 後天性再生不良性貧血の原因 病型 病因 Ⅰ.一次性 特発性再生不良性貧血 Ⅱ.二次性 予測可能な薬剤(殺細胞性抗がん薬) 予測不可能な薬剤 化学物質 放射線 ウイルス感染 自己免疫疾患 妊娠 Ⅲ.特殊型 肝炎後再生不良性貧血再生不良性貧血―PNH症候群 平成25年度改訂版「特発性造血障害疾患の診療の参照ガ イド」(http://zoketsushogaihan.com)より引用改変

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ルに限られていることも明らかにされており, 再生不良性貧血の病態を形成しているCTLの標 的抗原は,これらの特定のHLA分子により提示 されるアミノ酸モチーフを有した抗原であるこ とを示唆するものと考えられる.

2.再生不良性貧血の診断

 貧血,好中球減少,血小板減少のうち少なく とも 2 つ以上の血球減少を認める患者を診た場 合,汎血球減少を来たし得る他の疾患,すなわ ち,急性白血病,骨髄異形成症候群,骨髄線維 症,有毛細胞白血病,発作性夜間ヘモグロビン 尿症,巨赤芽球性貧血,がんの骨髄転移,悪性 リンパ腫,多発性骨髄腫,脾機能亢進症,全身 性エリテマトーデス,血球貪食症候群,感染症 などを除外することによって,再生不良性貧血 と診断する.薬剤や化学物質,放射線によるも のが除外でき,また妊娠が否定されれば,ほぼ 特発性再生不良性貧血と診断可能であるが,特 殊型として,肝炎後再生不良性貧血,発作性夜 間 ヘ モ グ ロ ビ ン 尿 症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:PNH)に伴う再生不良性貧血― PNH症候群がある.特発性再生不良性貧血と時 として鑑別が難しいのは,芽球割合の少ない骨 髄異形成症候群と重症の骨髄不全を伴うPNH, 有毛細胞白血病である.有毛細胞白血病は成熟 B細胞の腫瘍化によるリンパ系腫瘍で汎血球減 少を来たし得るが,その際にみられる骨髄不全 は腫瘍細胞の浸潤および二次的な線維化に起因 する.

3.再生不良性貧血の治療

 再生不良性貧血の治療方針は被疑薬を中止 し,支持療法を行いつつ,造血回復を目指すこと である.再生不良性貧血の原因となり得る薬剤 および化学物質のリストは特発性造血障害調査 研究班のホームページ(http://zoketsushogaihan. com/)を参照されたい.支持療法には輸血療法, 感染症に対する造血因子製剤および抗菌薬治 療,輸血後鉄過剰症に対する鉄キレート療法が ある.  特発性再生不良性貧血の予後および治療方針 は血球減少の程度によって決定される重症度に よる.軽症および輸血を必要としない中等症 (stage 1および2)の場合には,経過観察ないし 蛋白同化ステロイドが従来用いられてきたが, 本重症度では保険適応外ではあるものの,シク ロスポリン内服も選択肢である.中等症に対し て抗胸腺グロブリン(anti-thymocyte globulin: ATG)は保険適応があるものの,免疫抑制作用 が強いため,この中等症に対して使用する場合 には治療のリスクについて十分な説明が必要で ある.  定期的な輸血を必要とするやや重症(stage 3)から好中球数 200 未満になるような最重症 (stage 5)の重症再生不良性貧血では,40 歳未 満でHLA一致同胞ドナーのいない患者および 40歳以上の患者の場合,ATGとシクロスポリン の併用療法が原則である.ATGはヒト胸腺細胞 で動物を免疫して得られた製剤であり,免疫動 物はウマとウサギの 2 つの製剤がかつて市販さ れたが,2008年以降米国を除いてウマ由来ATG を使用することができなくなった.ウマATGと ウサギATG製剤の優劣について解決されるべき 課題が残されている.シクロスポリン単剤投与 に反応する再生不良性貧血患者も存在するが, ATGとシクロスポリンの併用療法に較べて効果 は劣ることが報告されている.40歳未満でHLA 一致同胞を有する場合には,骨髄移植が第一選 択の治療となる.

4.赤芽球癆の病態

1)赤芽球癆の原因  赤芽球癆は正球性正色素性貧血と網赤血球の

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減少および骨髄赤芽球の著減を特徴とする貧血 であり,その原因は多様である.大きく分けて 先天性と後天性に分類される.後天性は急性と 慢性に分類され,急性型の多くは感染症および 薬剤による.後天性赤芽球癆の原因は多様で, 明らかな基礎疾患を有しない特発性と,胸腺 腫,大顆粒リンパ球性白血病や悪性リンパ腫な どのリンパ系腫瘍,自己免疫疾患,感染症,薬 剤性などの続発性に分類される.特発性造血障 害に関する調査研究班は2004年度と2006年度 に全国調査を行い,明らかなヒトパルボウイル スB19 感染症を除く成人の赤芽球癆 185 例を集 積した.その結果,本邦において最も多い病因 は特発性赤芽球癆であり,次いで胸腺腫関連赤 芽球癆,大顆粒リンパ球性白血病関連赤芽球 癆,悪性リンパ腫関連赤芽球癆が続き,その他 自己免疫疾患,骨髄異形成症候群などが含まれ ていた.  先天性赤芽球癆としてDiamond-Blackfan貧血 がよく知られており,リボゾーム蛋白をコード する遺伝子変異がその原因の 1 つと考えられて いる.後天性赤芽球癆の原因が多様であること を反映して,赤血球系前駆細胞の障害メカニズ ムもまた多様である(図 2).  後天的な遺伝子変異による骨髄異形成症候群 が慢性赤芽球癆の病像を初期症状として発症す ることがある.薬剤による赤芽球癆の発症メカ ニズムはよくわかっていない.ウイルス感染に よる赤芽球癆として有名なのがヒトパルボウイ ルスB19 感染症である. ヒトパルボウイルス B19 は一本鎖DNAウイルスで,赤血球系細胞に 発現するP抗原を介して細胞内に侵入する.ヒ トパルボウイルスB19 感染症は通常self-limited であるため,同ウイルス感染による赤芽球癆が 発症しても重篤な貧血を生ずることは稀である が,基礎疾患に溶血性貧血を有する場合には赤 血球寿命が短縮しているため,赤血球系造血の 障害が短期間であっても,重篤な貧血を呈し得 る.また,HIV感染症や化学療法による免疫不 全患者ではヒトパルボウイルスB19 の持続感染 を引き起こし,慢性の経過を辿ることがある.  特発性赤芽球癆や胸腺腫関連赤芽球癆,大顆 図2 赤芽球癆の病因・病態 赤血球系前 駆細胞 遺伝子変異 ・Diamond-Blackfan 貧血 ・骨髄異形成症候群 薬剤 感染症 ・ヒトパルボウイルス B19 自己傷害性リンパ球 ・特発性 ・胸腺腫関連 ・大顆粒リンパ球性白血病 自己抗体 ・特発性 同種抗体 ・ABO major 不適合同種 造血幹細胞移植 EPO 機能不全 ・抗 EPO 抗体 赤芽球低形成 網赤血球減少・貧血

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粒リンパ球性白血病関連赤芽球癆における造血 障害は,自己傷害性リンパ球あるいは特異的抗 体による赤血球系前駆細胞に対する細胞障害, 内因性エリスロポエチンに対する自己抗体産生 などによると推定されている.次項では赤血球 系前駆細胞に対する自己免疫現象により発症す ると推察されている後天性慢性赤芽球癆の免疫 病態について概説する. 2)後天性慢性赤芽球癆の免疫病態  特発性慢性赤芽球癆の患者血清IgG(immuno-globulin G)分画中に赤血球系造血に対する抑 制因子が存在することが 1973 年にKrantzらに より初めて報告された.自己抗体の性質とし て, 赤 血 球 系 前 駆 細 胞(colony-forming unit-erythroid:CFU-E)や成熟赤芽球に対する 補体依存性細胞溶解を示すもの,抗エリスロポ エチン(erythropoietin:EPO)活性を示すもの などが報告されているが,自己抗体の抗原特異 性はいまだ明らかにされていない.一方,特発 性赤芽球癆や胸腺腫関連赤芽球癆においてク ローナルなT細胞の増加がみられることや,後 述する大顆粒リンパ球性白血病関連赤芽球癆の 存在,そしてシクロスポリンの有効性などか ら,自己傷害性リンパ球も赤血球系造血の抑制 作用に関与していることが推定されているが, 自己抗体の場合と同様にその抗原特異性は不明 である.  大顆粒リンパ球性白血病の発症にSTAT3

(sig-nal transducer and activator of transcription 3)の 遺伝子変異が関与していることが最近報告され た.大顆粒リンパ球性白血病関連赤芽球癆の症 例においてもSTAT3遺伝子の変異があることが 本邦の石田らにより報告されており,さらに, 大顆粒リンパ球性白血病の診断基準を満足しな い再生不良性貧血や骨髄異形成症候群の症例に おいてもSTAT3遺伝子の変異が検出される場合 があることも報告されている.これらの事実 は,自己免疫性骨髄不全症候群の病態における 病的T細胞クローンの役割を支持するものと考 えられる.

5.赤芽球癆の診断

 正球性正色素性貧血と網赤血球数の著減があ り,骨髄検査にて赤芽球の著減が確認できれ ば,形態学的に赤芽球癆と診断される.網赤血 球は通常1%未満であり,2%を超える場合には 他の疾患を考慮すべきである.通常白血球数お よび血小板数は正常範囲であるが,基礎疾患に より,特に大顆粒リンパ球性白血病においては 白血球数の異常を呈することがある.  貧血の発症に先行する感染症の有無および薬 剤服用歴の確認は極めて重要である.もし,被 疑薬があれば中止ないし他剤に変更して約 1 カ 月間経過観察し,この経過観察中に病因診断を 行う.赤芽球癆の原因となり得る薬剤のリスト は前述の特発性造血障害調査研究班のホーム ページを参照されたい.  続発性赤芽球癆の診断に必要な具体的なプロ セスは,画像検査による胸腺腫およびリンパ系 腫瘍の有無,末梢血塗抹標本の鏡見による大顆 粒リンパ球増加の有無,リンパ球サブセット (CD4/CD8),T細胞抗原受容体のクロナリティ, ヒトパルボウイルスB19 のDNAの有無,血清エ リスロポエチン濃度,固形腫瘍の有無などに関 する検査を行うことである(図 3).  ヒトパルボウイルスB19 の初感染による赤芽 球癆は通常急性発症をとるが,HIV感染症や臓 器移植,化学療法後などにおいて慢性の赤芽球 癆を引き起こすことがあるので,慢性型の赤芽 球癆においてもヒトパルボウイルスB19 のDNA 検査を行うべきである.

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6.赤芽球癆の治療

1)赤芽球癆の治療方針  赤芽球癆の初期治療は被疑薬の中止である. 貧血が高度で日常生活に大きな影響が出ている 場合には,赤血球輸血を考慮する.薬剤性赤芽 球癆の場合,外因性エリスロポエチンの投与後 の抗エリスロポエチン抗体による赤芽球癆を除 いて,原因薬剤の中止後1カ月以内に改善する. 赤芽球癆の診断後 1 カ月を経過しても貧血の自 然軽快がみられない場合,そして基礎疾患の治 療によって貧血が改善しない場合には,免疫抑 制療法を考慮する. 2)免疫抑制療法  後天性慢性赤芽球癆に対する免疫抑制薬とし て,副腎皮質ステロイド,シクロスポリンおよ びシクロホスファミドが古くから使用されてい るが,どれが最も優れているかについて検証し たランダム化比較試験は,現在まで国内外を問 わず行われていない.後天性慢性赤芽球癆に対 する免疫抑制療法の主な課題は,初回寛解導入 療法に最適な薬剤は何か,寛解維持療法はどれ くらいの期間必要か,再発・難治例に対する標 準的治療は何かという点である.  後天性慢性赤芽球癆に対する最適な治療を確 立するために,特発性造血障害に関する調査研 究班(小峰班・小澤班)は 2004 年と 2006 年に 後ろ向き全国調査を行い,ヒトパルボウイルス B19 感染症によらない成人赤芽球癆 185 例を集 積し,病型・病因別の標準的治療を提案してき た6~8)  特発性造血障害に関する調査研究班による疫 学調査によれば,特発性赤芽球癆および胸腺腫 合併赤芽球癆に対する第一選択薬は禁忌がない 限りシクロスポリンであり,大顆粒リンパ球性 白血病関連赤芽球癆に対する寛解導入療法にお いてはシクロホスファミドにやや優位性がある と思われるが,副腎皮質ステロイドおよびシク ロスポリンも選択肢として考慮される9)  また同研究班による長期予後調査により,特 発性慢性赤芽球癆,胸腺腫関連赤芽球癆および 大顆粒リンパ球性白血病関連赤芽球癆において 血液学的寛解を得た後の貧血再発は死亡リスク になり得ることが明らかにされた10).したがっ て,貧血を再燃させないための寛解維持療法は 重要である.  寛解維持療法に最適な薬剤は効果および長期 投薬に伴う有害事象の観点から考慮されなけれ ばならない.シクロホスファミドには二次がん リスクの増加と生殖器毒性があり,副腎皮質ス テロイドには糖尿病,骨粗鬆症と骨折リスクの 増加,感染症の増加などの問題点がある.シク 図3 赤芽球癆の診断手順 • 正球性正色素性貧血 • 網赤血球の著減 • 骨髄赤芽球の著減 • 薬剤服用歴 • 先行感染症の有無 • 自然寛解の有無 • 末梢血塗抹標本 • 末梢血リンパ球サブセット 骨髄細胞染色体検査 画像検査 • T 細胞抗原受容体遺伝子再構成 • ヒトパルボウイルス B19-DNA • 血中エリスロポエチン • 自己抗体 赤芽球癆の 形態学的診断 赤芽球癆の病因診断(病歴聴取) 赤芽球癆の病因診断(検査) 平成 25 年度改訂版「特発性造血障害疾患の診療の参照ガイド」 (http://zoketsushogaihan.com)より引用改変

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ロスポリンの主な有害事象は腎機能障害である が,特発性慢性赤芽球癆に対する寛解維持効果 は強力であることから,現時点において寛解維 持療法に推奨される薬剤はシクロスポリンであ ると思われる.なお,寛解維持に必要なシクロ スポリンの血中濃度は明らかにされていない が,2 年以上寛解を維持している特発性慢性赤 芽球癆におけるシクロスポリン維持量は初期投 与量の約 40%であったことが報告されている. したがって,初期投与量の約50%までシクロス ポリンを減量した後は,慎重に減量を行うこと が求められる. 3)続発性慢性赤芽球癆の治療  胸腺腫関連赤芽球癆における胸腺腫摘出術の 貧血に対する効果は,近年否定的な報告がなさ れている.悪性リンパ腫に同時発症した赤芽球 癆に対しては,化学療法の効果に伴って貧血の 改善が期待できる.化学療法後に発症した赤芽 球癆はヒトパルボウイルスB19 感染症によるこ とがあるので留意が必要である.免疫不全に伴 う持続性ヒトパルボウイルスB19 感染症に対し て静注用免疫グロブリン製剤が有効である.妊 娠に伴う赤芽球癆は分娩後 3 カ月以内に自然軽 快するが,次回の妊娠時に再発しやすいことが 報告されている.ABO major不適合同種造血幹 細胞移植後赤芽球癆に対する治療介入が赤血球 系造血の回復に貢献することを支持するエビデ ンスは得られていない.

おわりに

 再生不良性貧血および赤芽球癆はいずれも造 血幹細胞・前駆細胞の障害によって発生する造 血不全であり,薬剤,ウイルス,自己免疫現象, そして妊娠などに伴う続発性の病型があるこ と,さらに特発性では免疫抑制療法が有効であ るという多くの共通点がある.両疾患において 自己傷害性リンパ球の関与が重要であることを 支持するエビデンスは蓄積されてきているが, 発症の引き金となる抗原,自己傷害性リンパ球 の特徴,そして造血障害のエフェクターはいま だ十分明らかにされていない.再生不良性貧血 および赤芽球癆は希少疾病であり,病態解析を 行うことは必ずしも容易ではないが,これらの 疾患における免疫病態を明らかにすることは, 自己免疫疾患の発症メカニズムを解明すること に貢献するものと信ずる. 著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容 に関連して特に申告なし

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文 献

1) D’Andrea AD : Susceptibility pathways in Fanconi’s anemia and breast cancer. N Engl J Med 362 : 1909―1919, 2010.

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4) Sugimori C, et al : Minor population of CD55-CD59-blood cells predicts response to immunosuppressive therapy and prognosis in patients with aplastic anemia. Blood 107 : 1308―1314, 2006.

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8) Hirokawa M, et al : Long-term response and outcome following immunosuppressive therapy in thymoma-associ-ated pure red cell aplasia : a nationwide cohort study in Japan by the PRCA Collaborative Study Group. Haemato-logica 93 : 27―33, 2008.

9) Sawada K, et al : Acquired pure red cell aplasia : updated review of treatment. Br J Haematol 142 : 505―514, 2008.

10) Hirokawa M, et al : Long-term outcome of patients with acquired chronic pure red cell aplasia(PRCA)following immunosuppressive therapy : a final report of the nationwide cohort study in 2004/2006 by the Japan PRCA Collaborative Study Group. Br J Haematol 2015.

参照

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   ︵大阪讐學會雑誌第十五巻第七號︶