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日本内科学会雑誌第104巻第9号

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Academic year: 2022

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(1)

はじめに

 「IgG4 関連疾患包括診断基準 2011」1)が提唱 されてから,IgG4(immunoglobulin G4)関連疾 患(IgG4-related disease:IgG4-RD)2)は我が国で 広く認知されるようになった.本疾患は,同時 性あるいは異時性に,膵臓,胆管,涙腺・唾液 腺,甲状腺,呼吸器,肝臓,消化管,腎臓,前 立腺,後腹膜,リンパ節などの全身の諸臓器に,

腫大,結節性病変,肥厚性病変などを認めるこ とが知られている.

 呼吸器領域における病変としては,自己免疫 性膵炎(autoimmune pancreatitis:AIP)に伴う 間質性肺炎の報告3)が最初であるが,その後,

肺 炎 症 性 偽 腫 瘍4)やMikulicz病(Mikulicz dis- ease:MD)に伴う様々な呼吸器病変などが報告 されてきた.

 現在では,肺門部・縦隔内リンパ節,気管支 壁,肺実質内,胸膜,血管壁など胸郭内の諸臓

器に病変が生じることが報告されており,全身 の複数臓器にわたって病変を認めることがある のと同様に,胸郭内においても様々な部位に多 彩な所見を呈し,それぞれが同時に存在するこ とも少なくない.

1.呼吸器病変の特徴

 IgG4-RDの呼吸器病変は,呼吸器外臓器で発 症したIgG4-RDの全身スクリーニング検査で異 常が指摘される症例や,胸部の検診異常を指摘 される症例など,画像検査で発見されて精密検 査が行われることが多い.これは後述するよう に呼吸器症状が乏しい症例が多いということに 起因する.

 Fujinagaら5)は,信州大学で診断された自己免 疫性膵炎(AIP)90例の膵外病変をCT(computed tomography),MRI(magnetic resonance imag- ing),Ga(ガリウム)-67シンチグラフィーにて検

1)信州大学,2)長野県立病院機構,3)富山大学保健管理センター,4)信州大学内科学第一教室

112th Scientific Meeting of the Japanese Society of Internal Medicine:Symposium:1. Recent progress in IgG4-related disease;4)IgG4-related respiratory disease.

Keishi Kubo1)2), Shoko Matsui3) and Hiroshi Yamamoto4)1)Shinshu University, Japan, 2)Nagano Prefectural Hospital Organization, Japan, 3)Health Administration Center, University of Toyama, Japan and 4)First Department of Internal Medicine, Shinshu University School of Medicine, Japan.

本講演は,平成27年4月10日(金)京都市・みやこめっせ(京都市勧業館)にて行われた.

IgG4関連疾患における最近の進歩

4)IgG4関連呼吸器疾患

久保 惠嗣1)2)松井 祥子3) 山本 洋4)

Key words IgG4 関連疾患,IgG4 関連呼吸器疾患,診断基準

(2)

討 し た. そ の 結 果, 高 頻 度 に(83 例/90 例,

92.2%)膵外病変の存在を報告した.そのうち,

呼吸器に関連する所見では,両側肺門リンパ節 腫 脹(bilateral hilar lymphadenopathy:BHL)

が,胸部CTでは54例/69例(78.3%),Ga-67シ ンチグラフィーでは 60 例/80 例(75.0%)と高 頻 度 で あ り, ま た, 肺 内 病 変 は 25 例/46 例

(54.3%)にあり,結節性病変や気管支壁の肥厚 などの所見が 30%以上に認められた(表 1).

 Matsuiら6)は,血清IgG4値の高値,胸腔内組織 に病理学的にIgG4 陽性形質細胞の浸潤があり,

IgG4-RDの呼吸器病変が疑われた 48 症例を集積 し,呼吸器内科医,放射線科医,病理医による 合同カンファレンスにて後方視的に検討した.

 その結果,臨床像,胸部画像,病理学的にコ ンセンサスが得られ,かつ胸郭外病変を有する 18 例をIgG4-RDの呼吸器病変と確定診断し,そ の解析を行った.それらの臨床像は,多くは中 高年(平均 62 歳)の男性(14 例,78%)で,

呼吸器症状を認めたのは 5 例(咳嗽,28%)の みであり,無症状の症例が多かった.血液検査 では,血清IgG,IgG4 の著明な上昇,低補体血 症や抗核抗体の陽性など免疫異常を示唆する所 見を認めたが,白血球やCRP(C-reactive protein)

などの炎症所見はほとんどみられなかった(表 2).胸部画像所見の検討では,胸郭内にみられ た病変はリンパ路に沿っており,病理学的に も,リンパ球・IgG4陽性形質細胞浸潤などの特

徴的な所見は画像所見と同じ分布を呈している ことが判明した.しかし,IgG4-RD以外のいく つかのリンパ増殖性疾患においても,胸部画像 的あるいは病理組織学的に同様の所見がみら れ,IgG4-RDの呼吸器病変との鑑別が困難なこ とから,IgG4-RDの呼吸器病変は,臨床像,画 像所見,病理学的な見地から総合的に診断を行 うべきであることが示唆された.治療において は,18 人中 15 人(83%)に副腎皮質ステロイ ド(ス テ ロ イ ド)(中 央 値 で プ レ ド ニ ゾ ロ ン 40 mg/日(range:30~60 mg/日))が使用され ていた.ステロイド治療に対する反応性は良好 であり,ステロイドを用いなかった症例のうち 1 例は自然軽快の経過をたどった.

2. 厚生労働省研究班における IgG4関連呼吸器疾患の臨床研究

 IgG4関連疾患の臓器病変の解析は,主に厚生 労働省科学研究の研究班(厚労班)が中心に行っ てきた.呼吸器病変の解析は,平成 21~23 年 度(2009 年 4 月~2012 年 3 月)において,厚 生労働省科学研究難治性疾患克服研究事業研究

「新規疾患,IgG4 関連多臓器リンパ増殖性疾患

(IgG4+MOLPS)確立のための研究」班(研究 代表者:金沢医科大学血液免疫内科 梅原久 範)の呼吸器領域分科会(代表:久保惠嗣)で は,呼吸器病変に関する多施設共同後方視調査 が行われた.一方,同年度に,「IgG4 関連全身 硬化性疾患の診断法の確立と治療方法の開発に 関する研究」班(研究代表者:関西医科大学消 化器肝臓内科 岡崎和一)の呼吸器領域分科会

(代表:三嶋理晃)では,IgG4 関連疾患におけ る肺病変の血清IgG4値の検討がなされた.梅原 班・岡崎班合同による「IgG4関連疾患包括診断 基準 2011」1)では,これらの検討内容を踏まえ て呼吸器病変の解説が加えられた.

 しかし,前述したように,呼吸器領域には,

画像的・病理学的に鑑別が必要な疾患が少なく 表1 自己免疫性膵炎(AIP)の膵外病変の胸部CT所見

胸部 CT 所見 症例数 %

両側肺門リンパ節腫脹 54/69 78.3%

肺内病変 25/46 54.3%

結節影(3-26 mm) 18/46 39.1%

気管支壁の肥厚 14/46 30.4%

小葉間隔壁の肥厚   7/46 15.2%

浸潤影   2/46   4.3%

(Fujinaga Y, et al:Eur J Radiol 76:228-238,2010より引用・

改変)

(3)

ないことから,平成 24~25 年度(2012 年 4 月

~2014年3月)に厚労班「IgG4関連疾患に関す る調査研究」班(研究代表者:京都大学消化器 内科 千葉勉)の呼吸器領域分科会(代表:久 保惠嗣)において,呼吸器病変の診断基準案が 検討され,班会議にて承認された.その後,

2014 年の日本呼吸器学会学術講演会において 診断基準(案)の内容を公開討論した後に修正・

加筆され,2015 年 1 月,「IgG4 関連呼吸器疾患

の診断基準」7)として日本呼吸器学会誌に公表 された.

3.IgG4関連呼吸器疾患の診断基準7)

1)IgG4関連疾患の呼吸器病変の名称

 2011 年 10 月にBostonで開催されたIgG4 関連 疾患の国際会議において,各臓器病変の名称が 表3 IgG4関連呼吸器疾患診断基準(抜粋)

A.診断基準

1.画像所見上,下記の所見のいずれかを含む胸郭内病変を認める 肺門縦隔リンパ節腫大,気管支壁/気管支血管束の肥厚 小葉間隔壁の肥厚,結節影,浸潤影,胸膜病変 2.血清IgG4高値(135 mg/dl以上)を認める

3.病理所見上,呼吸器の組織において以下の①~④の所見を認める a:3項目以上,b:2項目

①気管支血管束周囲,小葉間隔壁,胸膜などの広義間質への著明なリンパ球,形質細胞の浸潤

②IgG4/IgG陽性細胞比>40%,かつIgG4陽性細胞>10 cells/HPF

③閉塞性静脈炎,もしくは閉塞性動脈炎

④浸潤細胞周囲の特徴的な線維化

4.胸郭外臓器にて,IgG4関連疾患の診断基準を満たす病変がある

〈参考所見〉低補体血症

自己免疫性膵炎診断基準の花筵状線維化に準ずる線維化所見

硬化性涙腺炎・唾液腺炎,自己免疫性膵炎,IgG4関連硬化性胆管炎,IgG4関連腎臓炎,後腹膜線維症 B.診断1.確定診断(definite):1+2+3a,1+2+3b+4

組織学的確定診断[definite(histological)]:1+3-①~④すべて 2.準確診(probable):1+2+4,1+2+3b+参考所見

3.疑診(possible):1+2+3b

(松井祥子,他:日呼吸誌 4:129-132,2015より抜粋)

表2 IgG4関連疾患の血液検査所見

N=18 Median(range,%)

血清IgG(基準値<1,700) mg/dl 3,628(2,191~7,534)

血清IgG4(基準値<108) mg/dl 1,635(374~6,490)

血清IgE(基準値<170) U/ml 367(34~2,560)

末梢血白血球数 /μl 7,330(4,480~13,700)

CRP mg/dl 0.29(0.01~5.25)

sIL-2R(基準値<500) U/ml 1,750(1,162~3,990)

KL-6(基準値<500) U/ml 259(213~660)

補体の低値 5例/10例(50%)

抗核抗体の陽性 12例/18例(67%)

リウマチ因子の陽性 6例/15例(40%)

sIL-2R:soluble interleukin-2 receptor

(Matsui S, et al:Respirology 18:480-487,2013より引用・改変)

(4)

検討された.呼吸器領域では,「IgG4 関連肺疾 患」および「IgG4 関連胸膜炎」の 2 つの名称が 提案され採択された8).しかし,厚労班呼吸器 分科会における検討では,肺内から胸膜に連続 する病変もあることから,「IgG4 関連疾患包括 診断基準 2011」の解説にある「IgG4 関連呼吸 器病変」の名称との整合性も鑑み,胸郭内の諸 臓器の病変を総称して「IgG4 関連呼吸器疾患

(IgG4-related respiratory disease:IgG4-RRD)」と した.

2)診断基準

 IgG4-RRDの診断は,(1)画像所見(肺門縦隔 リンパ節腫大や気管支血管束の肥厚など),(2)

血 清IgG4 高 値(≧135 mg/dl),(3) 病 理 所 見

(病変部位への著明なリンパ球・形質細胞浸潤,

IgG4/IgG陽性細胞>40%,かつIgG4陽性細胞>

10 cells/HPF,閉塞性動脈炎・静脈炎,浸潤細 胞周囲の特徴的な線維化),(4)胸郭外臓器病 変(硬化性涙腺・唾液腺炎,自己免疫性膵炎,

IgG4関連硬化性胆管炎,IgG4関連腎臓病,後腹 膜線維症)の存在の 4 項目により行う(表 3,

図)7,9).また,診断の確定には,Castleman病,

膠原病関連肺疾患,サルコイドーシス,悪性リ ンパ腫や肺癌などの悪性疾患などとの鑑別診断 を行う必要がある.特にCastleman病は,胸部画 像所見ではIgG4-RRDと同様の病変分布をとり,

組織学的にもIgG4 陽性形質細胞を多数認め,

IgG4-RRDと酷似する病態を示すことから,その 鑑別は慎重に行う必要がある10)

 主な鑑別診断としては,Castleman病はIgG4- RRD患者より平均罹患年齢は若く,高IL(inter- leukin)-6 血症による全身的な炎症所見(CRP高 値,血小板増多,貧血など)を伴うことが多い.

また,治療においては,ステロイドに対する反 応性はIgG4 関連呼吸器疾患に比して良好では なく,抗IL-6 レセプター抗体(tocilizumab,ア クテムラ®)が使用される.

 サルコイドーシスは,胸部画像検査において BHLを認めるため,IgG4-RRDと鑑別が困難であ ることがある.しかし,血清IgG4の上昇や組織 におけるIgG4陽性細胞の浸潤はなく,気管支鏡 検査などで十分な検体が得られれば,組織学的 な鑑別は難しくない.

図 IgG4-RRD(自己免疫性膵炎合併例)の気道病変と組織像

A:‌‌胸部CT所見では,縦隔リンパ節腫大(青△)と気管支壁の肥厚(白↑)がみら B:‌‌肥厚部位の気管支粘膜下には,茶色に染色される著明なIgG4陽性形質細胞の浸れる.

潤(IgG4染色)を認める.

(Ito M, et al:Eur Respir J 33:680-683,2009より引用・改変)

A

B

(5)

 膠原病や血管炎に関連する肺病変は,組織学 的にIgG4 陽性形質細胞を認めることが報告さ れているため,基礎疾患の診断基準に照合しな がら全身的な評価を行い,その呼吸器病変につ いてIgG4-RRDとの鑑別を行うことが望まれる.

4.今後の課題

 IgG4-RRDに対する今後の課題に触れたい.

1)肺単独病変の症例収集と解析

 本症の肺単独病変の存在に関しては,現時点 では一定の見解が得られていない.単独病変が 存在する場合,その頻度や診断基準の見直しが 必要かもしれない.

2)呼吸器病変の適正治療と予後の解析

 本症の治療には一般にステロイドが有効であ るが,その必要量や治療期間などの検討が必要 と思われる.また,自然軽快する例も散見され るため,自然軽快例の特徴や頻度を明らかにす ることも必要であろう.難治例があるかどうか の検討も必要で,その場合の治療法としてのリ ツキシマブ(リツキサン®)や免疫抑制薬の効果

の検討も重要である.

3)診断基準の再評価

 今回提案した診断基準の妥当性につき,多数 例の検討のうえ再評価が要求されよう.

4)診療ガイドラインの作成

 同時に,診療ガイドラインの作成も検討され たい.

5)呼吸器病変診断のための基礎的検討

 本症の診断にはIgG4 の測定が必須であるが,

鑑別診断上,本症の特異的検査の探索が重要で あろう.

おわりに

 IgG4-RDおよびIgG4-RRDの背景,IgG4-RRDの 病態および診断基準について概説した.この診 断基準は,最近上梓されたばかりである.上記 の課題など今後さらに検討されたい.

著者のCOI(conflicts of interest)開示:本論文発表内容 に関連して特に申告なし

文 献

1) IgG4関連全身硬化性疾患の診断法の確立と治療方法の開発に関する研究班,新規疾患,IgG4関連多臓器リンパ増殖 性疾患(IgG4+MOLPS)の確立のための研究班:IgG4 関連疾患包括診断基準 2011.日内会誌 101 : 795―804, 2012.

2) Stone JH, et al : IgG4-related disease. N Engl J Med 366 : 539―551, 2012.

3) Taniguchi T, et al : Interstitial pneumonia associated with autoimmune pancreatitis. Gut 53 : 770―771, 2004.

4) Zen Y, et al : IgG4-positive plasma cells in inflammatory pseudotumor(plasma cell granuloma)of the lung. Hum Pathol 36 : 710―717, 2005.

5) Fujinaga Y, et al : Characteristic findings in images of extra-pancreatic lesions associated with autoimmune pacre- atitis. Eur J Radiol 76 : 228―238, 2010.

6) Matsui S, et al : Immunoglobulin G4-related lung disease : clinicoradiological and pathological features. Respi- rology 18 : 480―487, 2013.

7) 松井祥子,他:IgG4 関連呼吸器疾患の診断基準.日呼吸誌 4 : 129―132, 2015.

8) Stone JH, et al : Recommendations for the nomenclature of IgG4-related disease and its individual organ system manifestations. Arthritis Rheum 64 : 3061―3067, 2012.

9) Ito M, et al : Central airway stenosis in a patient with autoimmune pancreatitis. Eur Respir J 33 : 680―683, 2009.

10) 山本 洋,他:呼吸器系の鑑別疾患(1),IgG4関連疾患 実践的臨床から病因へ―IgG4研究会モノグラフ―.中村 誠司,住田孝之監修.前田書店,金沢,2015, 61―70.

 

参照

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10) Takaya Y, et al : Impact of cardiac rehabilitation on renal function in patients with and without chronic kidney disease after acute myocardial infarction. Circ J 78 :

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