九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
ディーゼル噴霧のL2Fによる詳細計測および数値予測 に関する研究
駒田, 佳介
https://doi.org/10.15017/1441292
出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
氏 名: 駒田 佳介
論文題名: ディーゼル噴霧の
L2F
による詳細計測および数値予測に関する研究 区 分: 甲論 文 内 容 の 要 旨
小型高速ディーゼル機関は,
200 MPa
以上の高圧で1
サイクル当り最大7
回の多段噴射を可 能とする噴射技術により,有害排出物の大幅低減と40%を超える熱効率を両立させており,温
暖化抑制に有用な原動機とみなされている.更なる燃焼の改善には,ディーゼル噴霧の微細構 造と支配因子の解明が不可欠であるが,特に噴霧中心核は,高速の液滴が高い数密度で存在す るために既往の計測法では速度や数密度に追従できず,詳細情報が得られていなかった.本論文は,噴霧中心核のような高速高数密度の液滴流動場においても,液滴の速度と直径を 同時に計測できるレーザー2 焦点流速計(L2F)を中心とする噴霧の計測システムを開発し,実 際の小型高速ディーゼル機関の筒内および噴射条件を模した定容容器内の噴霧に適用して,噴 霧内の詳細情報を初めて明らかにするとともに,従来のマクロ噴霧モデルに基づく予測結果と の比較からその問題点を明らかにし,異なる雰囲気場においても噴霧挙動を精度良く予測でき る噴霧モデルを構築することを目的としたものである.各章の内容を以下に要約する.
第一章は,小型高速ディーゼル機関における技術開発や近年の環境保護規制の動向から起稿 し,ディーゼル噴霧内の液滴に関する計測法および数値予測法の発展過程に関する言及を経て,
噴霧中心核に対する情報の不足が現象の理解と数値モデルの確立を阻害していることを通じ て,本研究の位置付けと目的および社会的,学術的な意義を明らかにしている.
第二章では,ディーゼル噴霧内部の液滴計測と数値予測に関する既往研究から重要なものを 選抜して要点と結論を抽出し,先ず,液滴計測については,位相ドップラー流速計や焦点深度 補正を利用した粒径の直接測定などにより,噴霧が充分に発達した段階の致達距離や粒径分布 に関する理解は進んでいるものの,噴霧形成の起点となる噴孔直後においては,粒子速度と粒 子数密度の双方に適合する計測法が確立しておらず,分析が進展していないことを指摘してい る.次に,噴霧の数値予測については,噴孔から
2 mm
程度までは純然の2
相流問題として取 り扱う試みも存在するものの,噴霧全体への適用は今後も期待できず,液滴分裂と噴霧の発達 過程を描写するマクロ数理モデルが必須であるが,現在の噴霧モデルは噴霧下流の情報のみに 基づいて構築せざるを得ず,噴射条件や雰囲気条件に応じてモデル定数の頻繁な調整が必要と なり,数理モデルが備えるべき普遍性が損なわれていると洞察している.第三章では,著者が開発と製作を主導したディーゼル噴霧計測用の
L2F
システムの概要と 特徴を測定原理も含めて解説した後,実機用噴射ノズルから準定常的に噴射される噴霧の中心 核近傍にL2F
を適用して得られた一連の測定成果について詳説している.先ず,ディーゼル 噴霧は,本質的には中心部における液滴の絶対流速が100 m/s
超,数密度が10
4 個/mm3超に 達する特異な気液2
相流であり,その内部構造の把握には10 m
以下の液滴を検出できる微 小な検査体積と,高数密度に由来する偽通過信号の除去との両立が必須となることを,仮想の 液滴群を対象とした解析に基づいて論じている.この要求仕様に対し,レーザービームを分岐して
2
つの近接した集光光学系に入射し,出力ビームの最狭部である焦点から後方散乱孔を再 集光して検出器に導くことで,焦点間の液滴速度と液滴径を同時計測するL2F
の原理的優位 性を明らかにしている.最終的に,波長835 nm
の半導体レーザーを光源としてビームウェス ト3 m,ビーム間隔17 m
を実現し,対物レンズで分離した各焦点からの散乱光信号をアバ ランシェ光検出器で増幅した後,サンプリング周波数160 MHz
のField Programmable Gate Array
で高速処理するシステムを完成させている.このL2F
の適用対象として,実機用の5
噴孔噴 射ノズルを選択し,1噴孔からの噴霧を詳細に観察した結果,実機噴射系においては,噴孔直下の
l/d=50 (d:
噴孔径,l:
測定位置=6 mm)までに液柱から液滴群への遷移が完了し,その後は急速に液滴の微粒化が進行することや,
l/d=50
では噴射圧が高い条件で平均粒径が大きく観察 されること等,これまでに知られていなかった事実を明らかにしている.さらに,光学系の精 密さと引き換えに失っていた装置の耐圧性や測定位置の再現性を,複合レンズによる作動距離 拡張とL2F
本体の複胴化による気密保持,および定容容器に対する噴射ノズルの耐圧浮動支 持により克服し,より実機に近い3.0 MPa
までの流速計測に初めて成功している.第四章では,先ずディーゼル噴霧に対する既往のマクロ数理モデルを概観し,基本概念に応 じて考案した分類を適用することで,それらの適用限界と問題点を明らかにしている.その上 で,ディーゼル噴霧の数値予測で最も頻繁に用いられる一次分裂モデルであるブロブ法と,二 次分裂モデルである
KH-RT (Kelvin-Helmholtz and Rayleigh-Taylor)複合モデルにおけるモデル
化の整合性や低い計算負荷などの優位性を指摘した後,ディーゼルエンジン内の燃焼予測CFD
コードとして世界的な標準となっているKIVA-3V
にKH-RT
モデルを実装して,前章の噴射条 件に対する数値予測を実行することで,その妥当性を詳細に検討することに初めて成功してい る.その結果,ブロブ法とKH-RT
複合モデルの組合せに,小型高速エンジンに推奨されてい るモデル定数を与えた場合,大気圧条件では液滴径とその半径方向分布,および液滴の流速や 到達距離ともに妥当な計測結果が得られるが,加圧条件下では液滴の分裂が過大評価され,数 密度が実測値の数100
倍に達することを明らかにしている.このような極端な圧力依存性を生 じている原因として,先行して噴射された液滴群によるドラフト効果による空気抵抗の低減や 空気流動の誘起などが,離散液滴モデルとLDEF (Lagrangian-Drop, Eulerian-Flow)法の枠組みで
は正しく反映されないことを指摘している.最終的に,Kelvin-Helmholtz 分裂モデルにおいて 分裂後の子液滴群を収納するパーセルの追加を加圧雰囲気下では廃することで,パーセルの加 速度的増加による微粒化を抑制することに成功し,従来よりも普遍性の高い噴霧の数値予測が 実現できるとしている.第五章では,本論文全体で得られた結果を総括し,学術的・工学的貢献に言及している.