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目 次 第 1 章 問 題 の 所 在 と 研 究 目 的 背 景 の 説 明 本 研 究 の 意 義 と 趣 旨 研 究 の 枠 組 み... 7 第 2 章 先 行 研 究 の 整 理 職 員 のモチベーションに 関 する 先 行

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博士論文

中国と日本における地方公務員の激励制度に関する研究

--上海市と神奈川県の比較実証分析

Motivation Mechanism for Chinese and Japanese local civil

servants

----

Comparative Study Based on empirical study at Shanghai

City and Kanagawa Prefecture

横浜国立大学大学院

国際社会科学研究科

貝 蕾

BEI LEI

2013 年 9 月

September 2013

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2

目次

第1章 問題の所在と研究目的 ... 4 1.背景の説明 ... 4 2.本研究の意義と趣旨 ... 6 3.研究の枠組み ... 7 第2章 先行研究の整理 ... 12 1. 職員のモチベーションに関する先行研究 ... 12 2. 職務満足度の概念と研究の展開 ... 16 3. 心理的契約の先行研究 ... 20 4.心理的契約の構築と職員モチベーション向上の関連性 ... 27 第3章 地方公務員モチベーション向上のための人事制度とその問題 ... 29 1.中国における地方公務員の人事制度の概要 ... 29 2.地方公務員のモチベーション向上における問題 ... 38 3.中日における地方公務員モチベーション向上のための人事制度の差異 ... 40 4.中日における地方公務員モチベーション向上と心理的契約の構築の現状 ... 47 第4章 実証研究の方法と仮説 ... 53 1.研究方法と仮説... 53 2. 分析方法 ... 54 3. 研究スキーム... 60 第5章 実証調査の結果 ... 61 1. 上海市と神奈川県地方公務員の職務満足度及びストレスの現状 ... 61 2. 中日の地方公務員の個人属性と職務満足度及びストレス度の関連 ... 64 3. 地方公務員職務満足度とストレス度の関連 ... 83 4.分析結果のまとめ ... 85 5.フォローインタビュー調査の結果 ... 86 第6章 公務員激励制度の改革 ... 91 1. アンケート調査による中日地方公務員モチベーションの影響要因 ... 91 2.フォローインタビュー調査に基づく中日地方公務員激励制度の改革方向 ... 97 第7章 結論:激励制度と心理的契約 ... 100 1. 調査研究のまとめ ... 100 2. 中国公務員の激励制度の整備 ... 102 3.中国公務員の激励制度を整備するうえでの公的制度以外の課題 ... 104 おわりに:今後の研究課題 ... 113 1. 本研究の意義と課題 ... 113 2. 今後の研究について ... 114

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3 謝 辞 ... 115 参考文献 ... 116 1.英語文献 ... 116 付録1 アンケート調査紙 ... 121 付録2 フォローインタビュー大綱 ... 127

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第1章 問題の所在と研究目的

1.背景の説明 2006 年に中国で施行された公務員法では、公務員を「法に則り公務を履行し、国の公的 機関に所属し、国の財政によって賃金及び福利を受ける職員」と定義している(第 2 条)。 この定義によれば、中国の公務員は、中国共産党、人民代表大会、行政機関、人民政治協 商会議1、司法機関、検察機関、民主党派の 7 機関に勤務する中央及び地方の職員を指すと されている。2 この公務員の定義にもとづくと、中国における公務員の数は、2008 年には 659 万 7,000 人、2009 年には 678 万 9,000 人、2010 年には 689 万 4,000 人、2011 年は 689 万人と推移 している。また、これ以外にも、公務員法に基づいて管理される88 万 4,000 の組織で働い ている職員がいる。 2012 年度における公務員試験の応募者は 150 万人に達したが、公務員の採用人数は僅か 2 万人あまりにすぎず、競争率は 65.6 倍となった。また、一部では 1 万倍の競争率に達し た部署もあったとされる。 『「礼記」大学から』には、「天下を治めるには、まず自分の行いを正しくし、次に家 庭をととのえ、次に国家を治め、そして天下を平和にすべきである。」と言う、古来から 伝わる訓戒が記されているが、2000 年以上も前の封建時代の「士、農、工、商」の序列が 今でも人々の価値観に影響を与えている。「 修 身 しゅうしん 、斉家 せ い か 、治国 ち こ く 、平 へい 天下 て ん か 」は「士」の階級、 あるいはインテリゲンチャー階級の人生目標とも言える。科挙を経て朝廷の任命により官 吏になることはインテリたちの最も輝いている時である。「十年という厳しい勉強に力を 注ぐ間には、訪ねてくる人すらなかったのが、科挙に合格すると世の中に知られるように なる(十年寒窓無人問、一挙成名天下知)」という言葉そのままといえる。 封建時代から中国における官吏のイメージは「吃皇粮」3のエリートである。皇帝の代わ りに天下を管理する者であり、庶民の「父母官」とされた。すなわち、官吏は庶民の親の ような存在であって、庶民はこの者たちを常に尊敬しなければならない。優秀な官吏たる 1 「人民政治協商会議」は、中国の民主党派、団体、海外華僑等の代表によって構成される統一戦線組織 である。中国共産党及び政府の方針についての協議及び民主的監督がその役割とされる。全国人民代表大 会の開催に合わせて、毎年3 月に全国大会が開催されている。 2 中国の公務員は全て「国家公務員」であるが、中央政府やその直属機関の公務員を「中央公務員」、各 地方の公的機関の公務員を「地方公務員」の二種類に分けている。「中央公務員」も「地方公務員」も全国 範囲で募集するが、北京や上海など地域内の大学や戸籍などを条件とする地方もある。しかし、日本とは 違い、「地方公務員」と「中央公務員」の間の人材流動も日常的に行われており、「地方公務員」と「中央 公務員」の勤務する部門の相違があるだけであって、上下関係はない。 3 「吃皇粮」とは、皇帝から直接俸禄を受け、皇帝の命令により、各分野を管理する人を表す中国語。

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5 者は常に国民の利益を考えながら、朝廷に意見を提出し、皇帝の命令を受け、国民に伝え る。官吏は国民に奉仕するよりも朝廷に奉仕し、国民を治める責任をもつ。 しかし、文明の発展にともない政府の役割も徐々に変わった。公共部門の職員に求めら れる価値観や倫理観も時代とともに変化し、その結果公務員制度改革が政府の行政改革の 一環として重視されるようになったのである。 しかしながら、公務員を志望する人々は、今でも旧来の官吏のイメージでもって公務員 を職業として選ぶことが少なくないと思われる。公務員試験の応募者を対象に行われたイ ンターネット調査4によれば、安定感や社会地位が高いなど理由で公務員を志望する大学生 が多い(図1-1)。いまなお中国では、公務員という職業は「金の碗」といわれるほど 人気の高い職業であり続けている。 公務員人気の第1の理由は、安定感である。一度国家機関に入って公務員になれば、罪 を犯さない限り、解雇されることはほとんどなく、一生の仕事が保障される。これに対し、 外資系企業では競争が激しく、世界経済が不況の中、リストラされるリスクが増している。 また、公務員の給与はさして高くないが、福祉面での待遇が優れている。有給休暇が保 障されており、医療や年金も保障されている。在職中もそうであるが、定年後の年金や老 後の保障の安心感も大きな魅力になっているようである。 中国では、他の国と違い、公務員という職業は、人々に尊敬され、社会的地位が高く、 尊厳や面子のある職業とされている。 図1-1 中国の公務員試験応募者の志望理由 (出所)吉林財経大学税務学院(2012) 4「関与考公務員現状的調査報告」吉林財経大学税務学院,2012 年 11 月 安定さ, 30% 給料は普通 だが、仕事 量が多くな い, 29% 社会的地位 が高い, 24% 福祉がよい, 17%

公務員志望の理由

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6 しかし、公務員を志望する若者が増える一方で、最も優秀な大卒者が公務員よりももっ と尊敬され、やり甲斐があると思われる職業を目指していることも確かである。したがっ て、より優秀な人材を政府にひきつけ、政府の効率や公共サービスを改善するためには、 職務に対する公務員の意欲すなわち「モチベーション」を高めることがきわめて重要にな る。その際には公務員の人事管理制度の改善が不可欠である。 中国の公務員管理制度改革において欧米諸国の公務員制度は参考になるが、それを中国 にそのまま適用にすることはできない。むしろ、日本の公務員制度こそが中国にとって役 に立つと思われる。その理由としては、以下の3点が考えられる。まず、日本は中国と同 じくアジアに属し、文化や伝統が似ており、人々の考え方や観念にも通じるものがある。 第2に、中国の現在の経済は戦後の日本のように急速に成長しているが、現在の中国に遭 遇しているさまざまな社会問題は、日本がかつて経験したものである。その日本が欧米の 公務員制度を輸入し、国内の制度と融合させていった経験は、中国にとって非常に参考に なるものである。日本の発展を見ると、公務員制度の整備は経済発展にとって欠かせない ポイントの一つと考えられる。中国においても、公務員制度は国の政治、経済、社会の発 展をサポートするものと考えられるようになってきている。「古き(ふるき)を以て鏡と 為し、興替(こうたい)を見るべし」という言葉のように、日本との比較を通して現在の中 国の公務員制度の短所や弱点を見つけるとともに、日本が経験してきた課題対処のノウハ ウを生かすため、制度面と非制度面から中国地方公務員のモチベーションの改善方法を検 討する。そして奉仕型政府の構築に資することが本研究の目的である。 2.本研究の意義と趣旨 (1)研究テーマの現実的意義 第16 回中国共産党大会において奉仕型政府を目指すことが決定されて以来、中国では政 府の仕事の効率や品質に注目が集まっている。2010 年 3 月 5 日に北京で開催された中国第 11 期全国人民代表大会第 3 回会議において、温家宝首相は「政府活動報告」のなかで、「奉 仕型政府の構築を引き続き力強く推進し、国民に良好な公共サービスを提供し、社会の公 平と正義を守る」ことを強調した。この発言は、公務員が国の奉仕者であることをもっと 意識すべきことを強調したものといえる。 2012 年 12 月 6 日の人民日報社会版は、人民網の強国論壇および人民日報法人ミニブロ グと共同で、「十八大(第18 回中国共産党大会)の注目されるキーワードを調査する「次 の10 年間、社会管理の強化・革新に何を期待するか」を実施した。数千人のネットユーザ ーが投票し、議論に参加したが、ネットユーザーの51.4%が「管理型政府から奉仕型政府 へのモデル変革の実現」に投票したとされる。この高い得票率は、奉仕型政府の建設を多 くの国民が望んでいることを示している。 中国では、公務員のモチベーションに影響を与える制度を「激励制度」と呼んでいる。 激励制度とは、組織をより効率的に運営するために多様な信賞必罰の仕組みを用い、職員

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7 の特定の行動や期待を強化する方法である。公務員激励制度の主な内容は3種類に分けら れる。すなわち業績評価制度、職務昇進制度、報酬管理制度である。公務員に対しては、 職員としての権利や希望についても配慮すべきであろう。奉仕型政府の構築は、基層で勤 務する公務員の業務効率と強く繋がっている。このことは、地方公務員の激励制度の改善 が、公務員管理制度改革にとって欠かせないものであることを意味している。 (2)本研究の学術的意義 本研究は、地方公務員という特定集団を調査対象とする職業満足度とストレス度の調査 を通じて、地方公務員のモチベーションを向上させるための手法を検討するものである。 そして、制度面だけではなく非制度的側面においても地方公務員をサポートする職場環境 をつくり、業務効率の向上を図るための方策を検討するものである。 業務効率については、1924 年から 1932 年にかけて、アメリカのウエスタン・エレクト リック社のホーソン工場において、メイヨー(George Elton Mayo)、レスリスバーガー (Fritz Roethlisberger)らハーバード大学の研究グループによって行われた作業効率(生 産性)・労働意欲を規定する要因を明らかにする実験(ホーソン実験)が著名である。この 研究では、実験結果と従業員たちのアンケート調査から、「人は自らが(研究対象として) 注目されていると感じると生産性を高める」という仮説が導き出された。そして、自分の 仕事が注目されている、自分の仕事はとても意味がありユニークである、自分は気にかけ てもらっている、ということが生産性に大きな影響を与えることが明らかになった。また、 レスリスバーガーはホーソン実験の結果にもとづき、従業員の生産性や労働意欲は「物理 的で客観的な作業条件(雇用待遇)」よりもむしろ、「精神的で主観的な職場の人間関係(あ るいは個人の仕事観・目的意識)」に左右されるという人間関係論的組織論を体系化させた。 したがって、公務員のモチベーションを高めるためには、前述したように、人事制度の 面だけではなく、心理的契約など非制度の面における激励制度に注目する必要がある。心 理的契約(psychological contract)は、個人と組織の間において互いに黙認する義務に対 する個人の主観的理解を意味する (Rousseau 1989)。これまでの心理的契約に関する研究 はもっぱら企業における組織と従業員の間の関係を研究してきたが、これは心理的契約の 管理のあり方が今後の企業行動に影響を及ぼすとの認識によるものである。 本論文は、この心理的契約の概念から中国の地方公務員の人事管理を考察し、現在実施 されている激励制度を分析するとともに、地方公務員を対象に職業満足度と仕事ストレス 度を調査し、地方公務員のモチベーション向上を妨げる問題点と影響する因子を分析し、 その改善方法を検討しようとするものである。 3.研究の枠組み 本研究の枠組みは、以下のとおりである。

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8 第1は、心理的契約の理論を実証研究に適用することである。そのため、まず職業満足 度と仕事ストレス度の調査をつうじて心理的契約の因子と公務員激励要素の対応を考察す る。既存研究によると、職業満足度に影響する要因は、仕事の激励方法と正の相関がある。 職業満足度に基づく社員の激励方法は数多く企業や組織で使用され、人的資源管理の一部 となっている。職業満足度とは、個人が職業に対する期待と実際の仕事状況の格差を表す ものである。満足度の高低は、個人の期待と現実の状況の2つの要素で決まる。個人の期 待と現実の状況が一致している場合、満足度は高くなる。激励理論によると、期待と効果 の格差が激励のレベルを決定する。公務員の場合も、仕事に対する期待が大きければ仕事 に熱心になり、やる気も起きるであろう。本研究では、この理論に基ついて公務員の職業 満足度を高めるための心理的契約と公務員の激励手段について検討を行う。 次に、質問紙を用いてアンケート調査を行い、その結果を集計し、そこで得られた結論 について再度調査対象者と議論する。これは調査対象である公務員から調査結果に対する 感想と意見を求めるもので、調査結果と研究仮説が一致するかしないかを検討するために 行うものである。ここでは公務員の意見と態度も貴重な情報になる。そして客観的な調査 データと主観的な感想に基づき、焦点を絞り込んだうえで公務員の激励制度について検討 する。 第2は、制度と非制度の双方の側面から効率的な激励手段を検討することである。従来 の公務員の激励に関する研究は、ほとんどが制度的観点から検討を行い、構造の改革を提 言したものであった。それらに対し本研究は、むしろ非制度的側面から公務員の勤務環境 の改善について助言を行うものである。政府と公務員の間の心理的契約は、企業の場合と 異なり、利益よりも価値感や奉仕心など精神的なもので繋がる独特な関係である。この点 について本研究では、中日両国の公務員の仕事に対する態度を比較し、互いの長所を取り 短所を補うことを志向するものである。 本研究は、実証研究と理論研究の2つの部分で構成される。主な流れを示すと、図 1―2 に示したように、最初に中国における公務員制度改革の背景を検討したのち、先行研究に ついて概観する。次に、中日の地方公務員激励制度を比較する。そして地方公務員の職業 満足度とストレス度に関するのアンケート調査とインタビュー調査を行い、地方公務員の モチベーション向上のための方策を検討する。 研究方法:実証研究 実証研究:中日地方公務員職務満足度と職業性ストレス調査 調査対象:中日地方公務員各 200 名 調査方法:質問紙とインタビュー

質問紙:Paul E.Spector's JSS(Job Satisfaction Survey)

職業性ストレス簡易調査票(東京医科大学、1998. 2004 年改訂) 結果統計:SPSS17.0(Statistical Package for the Social Sciences)

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9 図1-2 研究のフロー 理論的研究については、図1-3に示したように、主に中国と日本の公務員制度を検討 し、公務員人事管理の視点から公務員を激励するための制度について整理する。一方、実 証研究では、中日の地方公務員(上海市と神奈川県)を対象に、職業満足度と仕事ストレ ス度を調査し、その結果を分析する。調査に際して、日本と中国において共通の調査紙を 使い、両方の職務満足度と仕事ストレス度を調査し、そのデータを統計ソフトを用いて解 析する。具体的な流れは図1-4に示したとおりである。 図1-3 理論研究のスキーム 研 究 設 計 ア ン ケ ー ト 調 査 と イ ン タ ビ ュ ー 地 方 公 务 员 激 励 制 度 の 構 築 先 行 研 究 の ま と め 問 題 提 出 中 日 地 方 公 務 員 激 励 制 度

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10 図1-4 実証研究のスキーム 先行研究 職員モチベーショ ンについて 職務満足度の先行 研究および仕事ス トレス度の関係 職員モチベーショ ン向上と職務満足 度の関連 心理契約の先行研 究 心理契約と職員モ チベーション向上 の関連性 地方公務員激励システ ムの問題点 人事制度の概要 モチベーション向 上における問題 中日地方公務員激 励制度の差異 中日公務員心理契 約の構築現状(現 存の意識調査結果 の比較) 激励システムの改善 公務員制度の基礎 原則の見直す 激励制度の改善 激励システムを完 備するための制度 上以外の要求 実証研究の 仮説

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11 なお、職業満足度と心理的契約の各項目には正の相関があることは明らかであるが、実 際に職業満足度の項目を通じて心理的契約を構築する研究はほとんど行われていない。そ の原因は、心理的契約の概念が抽象的なものであり、その内容も組織と従業員の暗黙の認 識に関わるものであることから、影響要因を定量化することが難しいためである。先行研 究では職業満足度とストレス度、心理的契約の間に相関関係があるという結果が出ている が、項目上の対応についてはまだ曖昧である。一方、モチベーションに関する先行研究は 蓄積があり、成熟した分野とも言える。そこで、本研究はモチベーション理論を基礎的な 理論枠組みとし、さらに職業満足度とストレス度を通じて公務員の激励制度を考察するこ とにしたい。 心理的契約について述べると、これまでの心理的契約の実証研究は、企業と従業員の間 で行われる行動や契約の破棄などに注目してきた。研究対象は企業と従業員、管理者と職 員、授業員同士などが多い。研究内容も心理的契約が従業員の行動をいかに影響するか、 心理的契約を破棄される時の結果や影響、企業内心理的契約の構造分析などである。これ らの研究の目的は、企業内労使関係を効率的に調整し、企業と従業員の双方の自己実現を 可能にすることにあるといえる。 政府と公務員の間の心理的契約に関する研究はまだ少ないが、政府部門も組織として人 事管理を行っており、心理的契約が組織と公務員の間に存在する。心理的契約には暗黙性 と客観性の特徴があり、公務員の作業行動や仕事態度にはもちろん、政府部門の行政効率 や政府イメージにも影響を与えるものである。中国は近年、奉仕型政府を構築するという 目的から、公務員の職業倫理や作業効率に対する要求が日々厳しくなってきている。公務 員は特別な職業として社会各方面から注目を浴び、責められることも多い職業である。そ れゆえ公共部門への心理的契約の応用について検討し、中日両国の地方公務員に対する非 制度的な激励手段を検討する意義があると考える。

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第2章 先行研究の整理

1. 職員のモチベーションに関する先行研究 (1)激励理論 モチベーション(motivation) とは、一般的には広い意味で「意欲(やる気)」や「動 機づけ」といった意味で使われている。モチベーション理論は動機付け要因論とも呼ばれ る。本論文では、広義のIncentive Theory(激励理論)について、その動向を整理する。 主な激励理論は3つの種類に分けられる。すなわち、内容型激励理論、過程型激励理論、 及び行動操作型激励理論である。 1)内容型激励理論 内容型激励理論は、激励の原因や激励効果がある要因を研究する理論である。ここには 主に以下のような理論がある。第1は、マズローの人間欲求の 5 段階理論である(Maslow 1943)。マズローによれば、低段階の欲求の大分が満たされると、高段階への欲求が人間 の動力になる。高段階の欲求は低段階の欲求より価値が高いため、人間の欲求構成は動態 的で、発展的であるとされる。 図2-1 マズローの5段階欲求理論

2つ目は、アルダーファー(Alderfer)の ERG 理論である(Alderfer 1972)。生存欲求 (E:existence)は、物質的・生理的な欲求をすべて含み、飢え、賃金、労働条件などすべて に対する欲求である。関係欲求(R:relatedness)は、自分に重要な人々(家族・友人・上司・ 部下・敵など)との関係を良好に保ちたいという欲求をいう。成長欲求(G:growth)は、自分 の環境に創造的・生産的な影響を与えたいとする欲求で、これが充足されれば人間として

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13 の充実感が得られるとされる。また、低段階の欲求が満たされなければ高段階の欲求が起 こらないとは限らず、併存も可能と考える。そして高次の欲求が満たされないと、低次の 欲求に退行するとしている。 第3は、アメリカの心理学者ディビッド・C・マクレランド(David C. McClelland)が提 唱したモチベーション理論の一つである欲求理論である(McClelland 1976)。従業員には、 達成動機(欲求)、権力動機(欲求)、親和動機 (欲求)の3つの主要な動機ないし欲 求が存在する。達成動機(欲求)(need for achievement)は、ある一定の標準に対して、 達成し成功しようと努力する。権力動機(欲求)(need for power)は、他の人々に、何ら かの働きかけがなければ起こらない行動をさせたいという欲求である。そして親和動機(欲 求)(need for affiliation)は、友好的かつ密接な対人関係を結びたいという欲求をさす。 欲求の高低は、従業員のキャリア管理または組織の発展に対する重要な因子となる。達成 動機が高い従業員は、職場の環境さえ整えれば、問題解決能力を充分に発揮することがで きる。権力動機が高い従業員は、競争を恐れないうえに、他人に影響を与えることを好む ので、管理職に合っている。そして職場の雰囲気も従業員の効率に影響があるとされる。 従業員の親和欲求を満たすことで、より信頼的で帰属感のある組織になることができると する。 第4が、ハーツバーグ(F. Herzberg)の二因子理論である(Herzberg 1959)。これは、人間 には2 種類の欲求があり、苦痛を避けようとする動物的な欲求と、心理的に成長しようと する人間的欲求という2つの欲求があるとする説である。つまり、仕事における満足度が、 「満足」に関する要因(動機付け要因)と「不満足」に関する要因(衛生要因)に分かれ るとする考え方である。「仕事に動機づける」とは、集団あるいは組織の内での彼らの仕 事への態度をプラスに向かわせる効力をいう。ここでいう集団とは、緩くあるいは固く結 合している団体が想定され、その団体の結合力は構成員の態度をいい、構成員の態度は、 団体の行動を統制する効果と関係する。ハーツバークは、仕事上の「不満を回避・防止す る動機づけ」の根拠を衛生学の原理(principal of medical hygiene)に求めたことから、 「衛生要因(factors of hygiene)」と呼んでいる。衛生要因は、職場における劣悪な環境 や状況、精神的な健康も含めた健康の危険から回避させる効果をいい、仕事上の不満を取 り除くことで、従業員の満足を維持できるという意味で、衛生要因もまた、仕事の満足に 貢献していると考えられている。 この理論によれば、管理者はまず従業員の「衛生要因」を満たし、職員の消極的情緒や 不満を取り除く。そして、「動機付け要因」を探し、従業員のモチベーションを高め、仕 事効率の向上を目指す。 2)過程型激励理論

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過程型激励理論とは、人の動機付けから行動に移すまでの心理変化を研究する理論であ る。これまで、主に人間の行動に決定的な影響因子を探し、要因間の関係を整理し、人間 の行動予測やコントロールについて研究が行われている。

その一つが、ブルーム(Victor H. Vroom)の期待理論である(Vroom 1964)。期待理論の モデルは、以下の数式のように、モチベーションの向上には3の構成要素があり、少なく とも1つの要素がゼロに近ければ、モチベーションはゼロに近くなる。 努力×成果×報酬の魅力=やる気(モチベーション向上) そもそも目指すべき目標が魅力的でなくてはやる気にならない。そして報酬が魅力的で あっても、「やればできる」と思えなくては努力する気にはなれない。また、その努力が きちんと報酬に結びつくという確信が持てなければ、本気にはなれない。ここから組織管 理においては、以下の3つの「期待」を与えることが求められる。 ・合理的な目標を設置する。「やればできる」という目標が従業員の動力や期待になる。 ・従業員の希望レベルを高める。成果の意義を理解させれば、努力する意義がわかる。 ・結果と期待の関係を把握する。期待が高すぎると、成果が出ても期待外れの失望がう まれる。これは従業員のモチベーション向上に不利となる。

また、アダムス(John Stacy Adams)は公平理論を唱えた(Adams 1965)。これは、 人は「自分の仕事への取り組みと対価としての報酬」と、「他人の仕事への取り組みと対 価としての報酬」を比較し、その内容に不公平を感じる場合、公平性を感じるような状態 に近づく行動をとるように動機づけられるという理論である。 Qp/Ip=Qo/Io(人が自分の貢献と報酬の比と他人の貢献と報酬の比) 不公平を感じた場合、その不公平を解消するために、以下の6つの行動のいずれかを 採るとされる ・自分の貢献を変化させる(もっと頑張る・頑張らない) ・自分の報酬を変化させる(報酬の返却・報酬の増加を要請) ・自分の主観的な貢献と報酬の比を変える(自分の経験や能力を従来より低く評価す る・追加の報酬として福利厚生を認識する) ・比較を行わない(その場から退場する、辞職) ・比較する他者に働きかける(他者に対してもっと頑張るように要請する・他者に対 して頑張らないように要請する) ・比較する他者を他の人に変える(比較対象を変える)

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15 したがって、組織管理者は従業員に対する評価の公平性を重視しなければならない。 従業員の不公平感は人的資源の流失や職場のモチベーション低下につながるので、評価 の透明性や報酬の規定化も必要である。 3)行動操作型激励理論 行動操作型激励理論は、人間の行動を変化させ、目標に誘導する研究である。その代 表的なものが、スキナー(Burrhus Frederic Skinner)の強化理論である(Skinner,1938)。 スキナーのオペラント行動 (operant behavior) とは、その行動が生じた直後の環境の変 化(刺激の出現もしくは消失)に応じて、その後にその行動が生じる頻度が変化する行 動をいう。つまり、ある行動を生起させる要因に対し、行動がある環境に操作を加える ことで変化をもたらすことによる。ここには、以下のの4種類の行動強化手段がある。 ・好子出現による強化(正の強化) ・好子消失による弱化(負の弱化) ・嫌子出現による弱化(正の弱化) ・嫌子消失による強化(負の強化)5 組織の管理者は、従業員の欲求を好子と嫌子に仕分け、従業員の行動に適切な強化を 行う。また、毎回行動操作のフィードバックを重視し、情報を更新する。従業員のモチ ベーションの向上を図るためには、正の強化を主な手段とすることが求められる。 また、ハイダー(F.Heider)は、帰属理論(Attribution Theory)を提示した(Heider 1958)。 人間は、ある出来事を認知する際に原因帰属を試みる。ハイダーは初期の帰属理論の提唱 者であり、人間の行動は基本的に能力や意思などの内的な要素と状況や偶発性などの外的 な要素の二つに帰属することが可能であり、行動はこれら内的要因と外的要因が相互に関 係していると論じる。 組織の従業員や管理者は、個人の行動を組織の発展に結び付けるためのさまざまな理由 を考えることができる。内的要因あるいは個性に要因がある人間については、能力、趣味、 性格、努力の程度など個人の特徴を原因と考える。一方、外的要因あるいは外部環境に原 因がある人間には、社会の評判、企業の設備、仕事内容、職場環境、天気の変化など外部 の変化を理由と考える。内的帰属型の人間には努力、勤勉などの性質があり、外的帰属型 の人間には楽観的、めげない人が多いとされる。したがって管理者は、従業員の帰属種類 を理解し、仕事に挫折する時、従業員を効率的に励ます方法を見つけることが重要になる。 経済発展や社会文明の進化にともない、人的資源は市場競争において最も重要な要因 になってきている。組織の運営や効率は組織構成員のモチベーションと強く関わっている 5強化(reinforcement)とは、オペラント行動の自発頻度の高まりをいう。弱化(罰 punishment ともいう) とは、オペラント行動の自発頻度の低まりをいう。好子(強化子 reinforcer、強化刺激ともいう)とは、 出現したことによって直前のオペラント行動の自発頻度を高めた刺激である。嫌子(罰子 punisher、嫌悪 刺激ともいう)とは、出現したことによって直前のオペラント行動の自発頻度を低めた刺激である。

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16 ことから、研究者たちは100年以上ものあいだモチベーションの理論を研究し、さまざまな 視点から人の行動の理由や人を激励する方法を探究し続けている。人間の考えが言葉にな り、言葉が行動になり、行動が習慣になり、習慣が人格をつくり、人格また人間の言葉を つうじて行動に移される。人の行動の源は欲求であり、人の欲求によって人の目標も変化 する。また、人の行動を強化することも可能である。それは、現代の企業や組織が多かれ 少なかれ激励理論を従業員や構成員の激励制度に活用していることからも明らかである。 本研究もまた、激励の理論を土台として、地方公務員のモチベーションを、激励制度を通 じて向上したいと考えるものである。 2. 職務満足度の概念と研究の展開 (1)職務満足度の概念と影響因子 職務満足度の研究は、アメリカの管理学者ホポック(R. Hoppock)の『職務満足度』 (Hoppock 1935)に始まる。ホボックは初めて「職員満足度(Job satisfaction)」という 概念を持ち出したことで知られる。1930年代の職務満足研究の萌芽期において、ホポック は研究を重ね、ある一定の言説を導きだした。それは、職務満足とは彼らの仕事と生活と が独立して存在するものではなく、相互依存関係にあるのではないかという言説であった。 ホポックは、彼らの生活や家族との関係、健康やコミュニティの中での自分の社会的地位 など、あまり職務満足に影響を及ぼすとは思われない極めて私的な満足もまた、職務満足 に影響を与えると考えた。つまり、ホポックは、職務満足を決定する要因は、仕事だけで なく、家庭や、その職業の社会的地位、また、その人の職業内での地位の高さが、職務満 足に影響を与えるのではないかと考えたのである。 一方、ハーツバーグ(Herzberg)の職務満足の研究は、集団の中での人の職務態度と職 務満足の関係性に着目し、どのような満足が職務態度に効果的な影響を及ぼすのか探求し たものである(Herzberg 1959)。この研究を軸に、ハーツバーグは仕事の動機づけ、職場 のやる気と規範、労働を取り巻く環境との関係を明らかにし、後には、これらの研究の集 大成として「動機づけ衛生理論(Two-factor theory)」という仮説を提示している。 各時期における主な研究の内容は、表2-1のようにまとめることができる。

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17 表2-1 各時期の研究者の主な視点 研究者 主な視点 ホポック(Hoppock 1935) 労働者の職業に対する心理的及び生理的の満足感、労働者の仕事と環境 に対する主観的な体験 タ ネ ン バ ウ ム(Tannenbaum 1958) 個人が自分の職業に対する満足状況 ポーター=ロッカー(Porter & Locker,1969) 職業満足度の決定因子は職員の職業期待と実際所得の間の認識格差に ある ロッカー(Locker,1976) 仕事や仕事環境に対する組織構成員の積極的な姿勢 ディビス(Davis, 1977) 自分の職業に対する好き嫌いの程度 ロビンス(Robbins, 1997) 職業に対する一般的な感覚、個人の職業満足度が仕事効率に積極的ない し消極的な影響を与える可能性 ノエ(Noe,2000) 人は職業に対し一種愉快な感覚をもつ。その愉快感はある仕事やある責 任に対する価値観から生じる。 許士軍(台湾)(1997) 職員の職業満足度は職業に対する感情や感覚の体験である。満足度の影 響因子はその人の期待価値と実際所得価値の格差である。格差が小さけ れば満足度が高くなる。格差が大きくなると満足度が低下する。 時勘・慮嘉 (2000,2001) 職業満足は、組織構成員の自分の職業特徴に対する評価である。実際所 得の価値と期待の価値を比較し、仕事各方面に対する態度や感情の満足 感がその満足度である。 表2-2 職務満足度の影響因子に関する研究者の主な視点 研究者 主な視点 ホポック(Hoppock, 1935) 職業満足の影響因子:疲労、仕事内容の単一、職場設備、リーダーシ ップ ハーツバーク(Herzberg, 1959) 物理環境(職場の状況、設備)、社会環境(組織管理に対する態度、帰 属感、同一感)、個人心理(従事する職業の価値に対する感覚、態度、 上司のリーダーシップ) フ リ ー ド ラ ン ダ ー (Friedlander,1963) 社会環境(職場環境、技術環境)、職員心理(自己実現、認知など) ブ ル ー ス & ブ ラ ッ ク バ ー ン

(Bruce & Blackburn, 1992), ロック(Locke, 1976),ブルーム (Vroom, 1982) 決定因子:挑戦性がある仕事、公平的な報酬、優れた職場環境、積極 的な同僚関係 ゲスト(Guest, 1998) 職業満足度は個人の主観的な理解が主な内容であり、個人の主観的感 覚を測ることは可能。心理的契約において個人の認識だけでなく、組 織側の認識を測ることは困難。職業満足度と心理的契約各項目の正の 相関性を明らかにした。 熊勇清、屈雅丹(2007) 数量化相関分析の結果、心理的契約構築の程度と職業満足度には顕著 な正の線形相関がある。心理的契約の各因子(個人発展、業務性質、 人間関係などの因子)も職員職業満足度と顕著な正の相関がある。 表にあるように、研究者の研究分野によって、観察角度も変化し、職務満足度に対する 定義の注目点も異なる。共通するのは、職務満足とは,組織成員が自分自身の仕事内容,

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18 職務特性,仕事環境など客観的なものを知覚することで形成される主観的な感情であり, 組織成員の意識あるいは行動に対して何らかの影響をおよぼす概念という点である。組織 構成員の職務満足を高めれば高めるほど、彼らの仕事への動機づけ(work-motivation)が 高まり,結果として高い成果を達成することが可能である (2)職務満足度の測定方法 職務満足度の研究は、主に影響因子の分類と測定方法の探策の2つの方向に分かれてい る。理論仮説が異なれば、測定方法も異なり、異なる測定方法により影響因子の項目分類 も相応に変化する。 職務満足度の測定に際しては、調査紙が用いられることが多い。現在でも広い範囲で使 用される調査紙として、以下のものがある。

・JDS(Job Diagnostic Survey):この調査紙は、「職務特性モデル(job characteristics model)」を提唱したハックマンとオルドハム(Hackman and Oldham, 1976)が開発したも ので、現在の仕事情況を測定し、従業員のモチベーションを高めるため、新たな仕事設計 が必要かどうかを判断するものである。

・JDI(Job Descriptive Index):JDIは、職務満足は組織構成員が特定の組織に所属し, 特定の職務に従事することにより形成されるものであり,仕事内容そのもの,職務権限, 職場における人間関係,作業条件,組織に対する忠誠心,給与,地位などに対して,どの 程度の満足を感じているのかを示すものである。このような職務満足を測定する尺度とし て,スミスらによるJDIが広く使用されている(Smith et al, 1969)。JDIは,多次元の職務 満足尺度であり、職務満足を,①仕事自体への満足,②給与への満足,③昇進への満足, ④監督への満足,⑤同僚への満足,これらの五つの尺度でとらえ,各尺度9~18項目の,計 72項目で測定する

・MSQ(Minnestoa Satisfaction Questionnaire):この調査紙は1967年ミネソタ大学の ワイスらにより設計された(Weiss,1967)。これは、従業員が持っているワークモチベーシ ョン(仕事への意欲)について、取り巻く環境や置かれている状況などさまざまな要素を 基に分析し、自分のいまのワークモチベーションの状態や傾向を数値化するシステムであ る。MSQ診断では、長式フォーム(100問)と短式フォーム(内部満足度、外部満足度、 一般満足度の3つの分尺度がある)に分けている。MSQでは、次の3つを測定することがで きる。(1)自分のやる気の高さ(100点満点で得点化)、(2)やる気の高さに対して自分が 掲げている成果の度合い(自己評価と、過去の蓄積データによる統計的評価)、(3)自分の モチベーションスタイル(モチベーションの要因)。

・JSS(Job Satisfaction Survey):本研究ではJSSを使用する。JSSはスぺクター(Paul E. Spector)が1994年に開発したもので、全部で36問から成り、職業の9つの側面(給料、昇 進、上司、福祉、特別報酬、作業手順、同僚、業務の性質、交流)を含んでいる(Spector 1994)。 この調査紙は、NPO組織やサービス業などの組織従業員の職業満足度を測るために作られ

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19 たものであるが、公共サービスを提供する地方公務員にも適用できるものである。なお、 スぺクターは2004年に調査紙の改訂版を発表している(Spector 2004)。 調査紙を使う職務満足度調査以外には、インタビューによる談話法や臨界事象法も多く 用いられている。臨界事象法は、①職務上のきわだった好感情あるいは悪感情の経験に関 連した事象系列を、被験者に回想してもらうための構造化された面接質問,②被験者の回 想から得られた事象系列の特定職務要因へのコード化、③被験者の回想から得られた事象 系列の特定効果へのコード化の3つから構成される。また、職務満足度の研究対象も、企 業職員から各業界の従業員にまで拡大されている。 (3)職務満足度と仕事ストレスの関連性 「ストレス」という言葉は、もともとは工学用語として用いられていたが、それを医学・ 生理学・心理学用語にしたのは、カナダの生理学者ハンス・セリエ(Selye)である (Selye,1936)。セリエが発表した学説は「ストレス学説」と呼ばれ、1936年から「ストレ ス」という言葉が社会科学分野に使われ始めた。 アメリカの心理学者リチャード・ラザルス(Richard Lazarus)は認知的評価の観点から ストレス理論を提唱している(Lazarus 1984)。ラザルスは、人が出来事などと遭遇し刺激を 受けると、その刺激に対し1次評価と2次評価という、2つの評価プロセスが存在してい るとする。最終的にこの2つのプロセスを得て選択されたコーピングが実行されるが、そ の結果によって再度コーピングの成否が評価され、失敗であればコーピングの再選択、ま たはストレス反応が強まり、解決されれば成功体験として次回の刺激への評価に繋がって いくのである。 つまり仕事ストレスとは、個人と環境の間のバランスが崩れたから生まれるものである。 職場の要求が個人の能力及び利用できる資源の限界を超え、生活と仕事のペースが調査で きず、心理的バランスが維持できない状況において生じる症候である。 深刻なストレスが個人に与える影響は情緒・心身・行動の3つの側面で反応を生じる。 新しい形態の作業組織、労使関係、雇用形態を原因する職場のストレスは、いま大きな問 題となっている。欧州労働安全衛生機関(EU-OSHA)による最近の研究によれば、2005 年のデータでは、ストレスに起因する業務関連疾患の件数は全体の22%を占めたとされて いる。同じ研究によれば、ストレスを感じる人が最も多かったのは教育・保健部門と農林 狩猟漁業(いずれも就業者の28.5%)であり、特に仕事上の不安を抱える労働者の割合が高 かったのは教育・保健部門(12.7%)、公務・国防(11.1%)、農林狩猟漁業(9.4%)とな っている。 組織行動学における仕事ストレスと職務満足度間の研究結果によると、仕事ストレスと 職務満足度両者とも従業員の仕事心身状況及び職務業績に影響を与える要因である。許小 東(2004)は、インテリゲンチャー型従業員の仕事ストレスが職務満足度に大きな影響を 及ぼしており、仕事ストレスと職務満足度の間負の相関があることを示した。仕事で溜ま

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20 たストレスが従業員モチベーションを下げる要因でもあり、ストレスの増加により職務満 足度も低下し続ける。また、従業員個人の属性(例えば、性格、年齢、経験など)及び組 織の属性(例えば、組織の経済形態、組織文化、組織の地理位置など)もストレス原因と なり、ストレス解消にあたって検討しなければならない要因とされる。 一般的には、職場はストレスを一定程度緩和し、労働者が負のストレスの影響を受けず に、より生産的になることを可能にすることができる。このためには、仕事に関連したス トレス要因を職場の他のリスク同様、リスク評価及びリスク管理の仕組みに組み込む必要 がある。また、家庭やワーク・ライフ・バランスに配慮した柔軟な労働時間編成など、外 部ストレス要因に適応する道を提供することも手段の一つである。 本研究では、公務員を調査対象にストレスを測量し、職務満足度との関連性を検証した いと考える。そして、公務員個人の仕事ストレス解消の方法を整理し、公務員全体をサポ ートできる激励方法を検討する。 3. 心理的契約の先行研究 (1)心理的契約の定義 心理的契約に初めで明確な定義を与えたのはアージリス(Argyris)である(Argyris 1960)。 アージリスは、心理的契約は暗黙の契約であり、雇員たちと組織の間にあって互いの具体 的期待に応じる約束であるとした。その2年後にレヴィンソンら(Levinson et al.)は心理的 契約の特徴として発展性について指摘した(Levinson et al.1962)。レヴィンソンらによれば、 雇員と組織の間にある心理的契約は無意識の動機により変わり、片方の期待が相手の利益 と衝突する可能性もある。また、心理的契約の両者には、個人雇員と組織代表の経営者が 含まれ、心理的契約の内容は団体に適用するものと個人的なものの両方が含まれている。 そして環境、事情または認識によって、契約内容は変化していく。同じ早期の研究者であ るシャイン(Schein)も独創的な研究を行った(Schein 1965)。シャインは、組織側の視点か ら心理的契約の内容を企業文化の形で明示すべきであるとして、互いに満足する心理契約 を結ぶことは企業にとって非常に重要なことであることを提唱した。 他には、心理的契約を社会交換理論の延長として研究する学者もいる(Blau 1964; Goulnder 1960)。早期の研究者はそれぞれ研究の力点が異なり、概念もちぐはぐであった が、やがて多くの研究の積み重ねをつうじて心理的契約について公的な定義がつくられて いった。 ルソー(Rousseau)が提唱した心理的契約の定義は、「当該個人と他者との間の互恵的な交 換について合意された項目や状態に関する個人の信念」というものである(Rousseau 1989)。 ルソーによる再定義が、心理的契約研究に与えた最大のインパクトは、分析単位の転換で ある。個対個レベルという初期設定を変更し、心理的契約を従業員の知覚現象と捉えなお したことで、組織とは一体誰を指すのかという問題を解決しなくとも、心理的契約の測定 が可能となった。

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21 ルソーによる心理的契約の主体は個人であり、つまり個人が組織との間に生じる取引関 係上の相互義務に対する期待である。この概念と初期の研究の違いは3点ある。すなわち、、 契約の力点は期待よりも義務、義務の基礎はニーズや利益よりも約束、そして心理的契約 は両方の合意よりも個人視点という点である。このルソーの研究によって心理的契約は個 人の心理モデルとして研究されることになり、心理的な分野になったといえる。 表2-3 心理的契約の定義の変遷 研究者(年) 心理的契約の定義 概念の特徴 アージリス (Argyris,1960) 職長は従業員が受動的なリーダーシップの下で最も高い 業績を示す傾向にある事を知っており、また従業員もそれ に同意しているために、両者の関係は心理的な労働契約と でも呼ぶべき形で発展する 個対個レベル 意識されない レ ヴ ィ ン ソ ン (Levinson et al. 1962) 交換当事者が滅多に自覚することがないが、お互いの関係 を規定する一連の相互期待 個対個レベル 意識されない 履行への拘束力 変更・調整 シャイン (Schein,1965,1978) 個人が組織に対して様々な期待を抱き、そして組織も彼に 対してさまざまな期待を抱いている事 個対個レベル 具体的項目 変更・調整 履行への拘束力 ルソー (Rousseau,1989) 当該個人と他者との間の互恵的な交換について合意され た項目や状態に関する個人の信念 個人レベル 知覚された合意 具体的項目 履行への拘束力 (2)心理契約の内容 ルソー以降の研究は内容指向のものが多いとみられる。つまり、心理的契約に含まれる 具体的な契約内容を探求する研究である。 1)心理契約の形成 ルソーの 2001 年の研究から、心理契約の土台は雇用関係に対する個人の感覚概要である ことが分かる(Rousseau 2001)。モリソンとロビンソン(Morrison and Robinson 2004)によ れば、人の早期雇用関係の概要は、家族、学校、友人などの価値観から影響を受けている。 あるいは、個人の心理契約の形成には、社会参加初期で受けた影響が非常に重要である。 一旦個人の心理的契約が完成したら、それを変更することには個人自身も抵抗がある。 社会参加の初期において新人たちは新たな情報を集め、自分なりの心理契約を完成させ る傾向がみられる。しかし、その新たな心理的契約を完成するまでの時期の長さについて は、学者たちのそれぞれの調査に基づく結論がある。例えば、最初の3 ヶ月が形成時期と 認定するもの(Tekleab 2003)、8週間とするもの(Thomas and Anderson 1998)、1年と するもの(Dulac et al. 2006)など、様々な研究結果がある(DeVos et al. 2003)。

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(新人、上司、指導者)と会社の構造的側面(人的資源管理)の2つの側面がある Rousseau 1995)。また、個人要因も心理的契約の形成に影響を与えるとする研究もある。例えば、ラ ジャなど(Raja et al.)は個人の性格に力点を置く一方(Raja et al. 2004)、コイルとニュ ーマン(Coyle-Shapiro and Neuman)は気質を重視する(Coyle and Neuman 2004)。以 前の雇用経験、個人気質、組織での影響など因子もまた個人の心理的契約の形成に大きな 影響を与える。 2)心理的契約の分類 いくつかの研究では、心理的契約の内容を,業務契約と関係契約の2つに分けている。 この区分は,マクニール(Macneil)の分類方法に基づくものである(Macneil 1980)。 業務契約は,契約期間が短期的であり,契約の経済性を主な特徴とする。他方,関係契 約は義務や権利の経済性の側面だけでなく,忠誠心や所属組織による支援のように社会情 緒的要素との交換関係に基づいている(Morrion and Robinson 1997)。表2-4は、心理 的契約を2つに分類し,いくつかの分析視点を設けて両契約の相違を示したものである。 ただし,これは数多くの解釈が成立する心理的契約から共通項を抽出し,整理した結果で あり、心理的契約の連続体の両極を示しているに過ぎない(Rousseau 1995;1990;Rousseau and Wade-Benzoni 1994)。 表2-4心理契約の2分類:業務契約と関係契約の比較 業務契約 比較視点 関係契約 経済性 個人の興味、関心の中心 経済性、情緒 局所的 契約対象の認識 全人格 閉鎖的 特定化契約の時間軸の幅 開放的、無限 明文化 契約の公式化の程度 成文化、習慣化 静的 契約の安定性の程度 動的 限定的 契約の範囲 広範囲 公然、観察可能 契約の明確度合い 主観的、慣習的 また、業務契約と関係契約の分類方法についての研究も進んでいる。オレアリーとシェ ンク(O’Leary-Kelly and Schenk)は、関心の中心、存続期間、内容、安定性という4つの因 子によって業務契約と関係契約を分けている(O’Leary-Kelly and Schenk 2000)。また、セ ルスら(Sels et al.)は、明確性、範囲、安定性、存続期間、交換の対称性、契約レベルとい う6の因子で心理的契約を分類している(Sels et al. 2004)。

心理的契約の内容指向研究の目的には、以上のように2つのものがある。一つは心理的 契約内容の発見そのものを目的とするものであり、心理的契約の内容の相違は、組織にお

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23 ける立場の違いではなく、どの組織に所属するかということによって規定される可能性を 示している。もう一つは心理的契約の内容を規定する先行変数を特定することを目的とし るものであり、勤務年数、世代、職位、雇用形態、仕事上の経験、個人の価値観、人間関 係、組織側による履行、過去の所属組織、個人特性などが含まれる。 内容指向の心理的契約の研究には問題点もいくつかある。それらには以下のようなもの がある。 ・影響する潜在因子が一貫しない。 ・契約が共有されるレベルが明らかにされていない。 ・アジアの企業において成立している心理的契約が明らかにされていない。 (3)心理的契約の不履行と破棄 心理的契約の研究には、契約内容に注目する以外に、組織側による心理的契約の履行状 況とりわけ契約不履行に対する従業員の評価と、それがもたらす結果に注目する研究もあ る。 ルソーは、従業員たちが組織側が契約した義務を遂行しないことに敏感に反応するとす る(Rousseau 1989)。また、契約破棄と契約不履行の区別も明らかにする必要がある (Morrison and Robinson 1997)。契約破棄とは、義務を遂行しないことを個人に認識される ことである。一方、契約不履行とは、契約が破棄されることについての個人の情緒的体験 である。

心理的契約破棄の結果は実証的研究をつうじてまとめられている。すなわち、心理的安 否の減少(Conway and Briner 2002)、組織から離れたい気持ちの増進(Tekleab and Taylor 2003)、仕事満足感の減少(Tekleab and Taylor 2003)、組織への不信感(Robinson 1996)、 組織への忠実度(Coyle-Shapiro and Kessler 2000)、雇員義務完成度の減少(Coyle-Shapiro and Kessler 2002;Robinson et al. 1994)、組織に対する悲観的態度(Johnson and

O’Leary-Kelly 2003)などが示されている。また、一つの契約破棄から雇員側と組織側双方 の契約破棄が繰り返されるという連続的契約破棄の可能性もある。 心理的契約の評価にも2つの研究視点がある。組織による契約不履行が従業員の態度・ 行動に対して与える影響を直接検討する研究には、組織コミットメント、信頼、離職意図、 組織市民行動、職務満足度、業績などがある。もう一方は、契約不履行と態度・行動の関 係に影響を与える要因を特定しようとする研究であり、公平性、不履行理由の正当性、フ ルタイム・パートタイム、組織への信頼、組織サポート、伝統を重視する程度、原因帰属 のスタイル、パーソナリティなどの研究がある。 しかしながら、心理的契約の契約不履行と破棄の研究にも問題点が残っている。それは 以下のようなものである。 ・心理的契約に対する期待度の調整効果が十分に検討されていない。 ・契約の不履行にもかかわらず、すぐに関係が解消されない場合、そこにはどのよう

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24 な調整作用が働いているかを研究すべきである。 (4)心理的契約の今後の研究課題 心理的契約は、組織支援感知(POS)、リーダ―・メンバー交換論(LMX)などと同じく 社会交換理論の応用理論と言われることがある。心理的契約の破棄について、個人が契約 破棄された時の対処もまた職場関係に対する認識に関する研究の一つであり、社会交換論 の貢献があることが分かる。しかし、心理的契約はすでに多くの学者の注目を引きつけて おり、独立の研究分野として確立されている。 下の表は、これまでの研究内容を整理し、心理的契約の研究範囲を示したものである。 表2-5 主な研究内容のまとめ 概念 内容構造 契約違反 ル ソ ー 学 派 (Rousseau 1989,1990) 心理的契約とは、職員と組 織の間にあるお互い黙認 する義務に対する職員個 人の主観的理解 要素説: 1.交渉型心理的契约、関係型心 理的契约(Rousseau & McLean1993) 2.交渉項目、関係項目.団体成 員項目(Rousseau &Tijoriwala 1998) 心理的契約違約発展パター ン(Morrison & Robinson1997:3つの段 階:約束を履行しない、契 約を破る、契約違反 古典学派(Tsui, et al.19 97) 心理的契約とは、職員と組 織両方の主観的理解 特徴説: 仕事内容、人的資源管理制度、 激励制度、個人発展、社会交流 (Freese & Shalk 1996)

心理的契約違反の違約モデ ル(Turnley & Feldman 1999):違約の解読に関す る要因、職員の行動に影響 を与える要因 心理的契約理論はまだ科学性が欠如する部分があり、その理論の土台は社会交換論にあ るといった指摘もされている(Guest 1998)。また、契約破棄についての研究はすでに飽和 状態に達し、雇員側に対する理論と相容れないことがあるため、統計の変数を変更し、新 たな視点で心理的契約の影響因子などを測量することも指摘されている(Conway and Briner 2005; Taylor and Tekleab 2004)。

また、従来の研究における矛盾点や説明が足りない曖昧な部分を補足する必要もあると 考える。例えば、雇員の契約破棄に対する解釈と対応についての研究や、契約破棄の経験 が個人の心理的契約形成に与える影響に関する研究などである。

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25 今までの研究を理論研究と実証研究の2つに分けると、それぞれの特徴は表1-6のよ うに示すことができる。 表2-6 心理的契約に関する先行研究の特徴 理論研究 心理的契約の概念、内容,構造お よび違約結果など理論の一部に注 目した分析 心理的契約の形成原因、本質、形成過程 についての研究ははまだ未熟 実証研究 組織が心理的契約を破棄した場合 の結果や社員の態度変化などを中 心に研究 心理的契約の継続が社員と組織に与える 良い影響についての研究は少ない 研究対象 企業の社員に対する研究が多い 公共部門の職員の研究はまだ少ない 本研究では、地方公務員の心理的契約について検討したいと考える。冒頭で述べたよう に、中国の公務員法は公務員を「法に則り公務を履行し、国の公的機関に所属し、国の財 政によって賃金及び福利を受ける職員」と定義している(第 2 条)。本研究では国の公的機 関に所属する公務員を主な調査対象とする。 公務員は一般企業の職員と違い、特別な職業とみられている。地方公務員の離職率や辞 退率は一般企業より遥かに低い。しかし、組織の職員に対する高い効率の要求や職員の組 織に対する暗黙的期待も他の組織と同じように存在する。公務員の転職率が低い情況では、 仕事のストレスが溜まり、職務満足度が低下しでも、自己心理の調整や消極的な行動に移 るしか解消する方法はほとんどない。 企業に勤務する職員の心理的契約の研究はまだ萌芽段階であるが、公共部門の職員の心 理的契約についての専門的な研究はさらに少ない。西欧諸国においても、心理的契約の調 査よりも公共部門の職員の職務満足度などが重視されている。公共部門の職員の職務満足 度については、全国的な世論調査などの手段をつうじて地域別、部門別、性別、職位別の 因子について深い分析が行われている。それに対して心理的契約について研究はまだ概念 の構成、影響因子など基礎研究レベルに止まっている。このように公共部門の職員を対象 とした研究が少ない上、国情の違いから、西欧諸国における研究成果は中国公務員研究の 参考にできないことが多いとみられる。 中国国内の心理的契約や公務員心理的要求の研究をみると、表1-7にあるように、公 務員に対する心理的契約の目標は変化し続けている。

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26 表2-7 中国公務員の心理的契約目標の変遷 伝統的な心理的契約構築の目標 新たな心理的契約構築の目標 注目点 給料の安定さ、仕事の連続性、社 会地位、忠誠度、“吃皇粮”、権力、 政治統治権 多様性、奉仕性、効率、能力、行政能 力、昇進機会、公共利益優先、社会職 能 構築基礎 上司の評価、人間関係、学歴、出 身、能力 社会評価、知識、能力、公共利益、奉 仕性、 人間性の仮説 X 理論、コントロール、実物報酬を 重視 Y 理論、モチベーション、内面的な報 酬を重視 価値観 階級社会、身分社会、 能力主義、成果主義、契約社会 利益観念 個人利益と名誉を重視 公共利益を重視 動機 官僚、“父母官” 国民代表、奉仕者 政府責任 職業の保障、収入の安定性、名誉 のある仕事 研修機会、職業発展、競争能力、公正 的報酬 公務員の責任 従順、服従、几帳面、人生奉仕、 政府の命令遵守、上司からの任務 を完遂 イノベーション、奉仕心、学習能力、 業績、ネットワーク、自己発展、公共 利益を守る 公務員の役割 受動的に命令に従う執行者 積極的なイノベーション型人材 昇進 上司のニーズへの注目、組織配置 への服従、組織目標への奉仕 積極的な自己生涯管理、国民ニーズに 注目、キャリア開発のための研修や研 究 職業態度 能力に見合う報酬 自己開発によるキャリアアップ 仕事視点 トップダウン型、政策実施を重視 ボトムアップ型、公共サービスを重視 仕事対象 上司と関係者 全国民 近年における中国の心理的契約の研究をみると、2005 年に趙深徴が「失衡与重構:変革 環境下公務員的心理契約及管理方略」を発表している(趙深徴 2005)。これは、政府の行 政変革と公務員の心理的契約の間の相互影響を示したもので、行政改革の過程における政 府と公務員の心理的契約の変化を整理し、サービス型政府を構築するためには公務員改革 が必要であると述べている。政府改革には、マクロ的な戦略思考ととも、ミクロ的な各部 門の公務員の「心のケア」も不可欠であるとされる。趙深徴は、人本化管理、願望式管理、 参加式管理及び激励式管理など4つのルートで公務員と政府の間の心理的契約を維持また 再構することを論じている。 また、2007 年には、中国科学技術大学の衛琳、趙定濤、梁樑が「中国政府与公務員間心 理契約的討論研究」を発表している(衛琳・趙定濤・梁樑 2007)。これは、公務員の行動

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27 に影響を与える要因を探求したものであり、客観環境、政治理論、法律制度など顕性的な 因子と、文化観、公平観、価値観など隠性的な因子の双方をまとめたうえで、和諧的な心 理的契約の「10 原則」を提唱した。10 原則とは、システム原則、動態性原則、相互性原則、 フィードバック原則、文化性原則、公平性原則、発展性原則、激励性原則、効率性原則、 自発性原則である。そして、心理的契約を構築するために、各段階の管理上の注意点を分 析し、心理的契約を中国の公共管理分野に適用する可能性を示している。 また、2007 年の衛琳、趙定濤の「中国職級公務員心理契約的比較研究」では、実証的研 究をつうじて公務員の心理的契約の影響因子を測定し、職級別に影響因子が公務員に与え る影響のレベルを検討し、公務員の心理的契約モデルを構築している(衛琳・趙定濤 2007)。 翌年には靳宏が「中国的公務員心理契約管理研究」を発表し、公務員の心理的契約の構築 要因を人本管理、願望管理、参加管理及び激励管理に分類している(靳宏 2008)。 前述したように、心理的契約の公共部門職員に関する研究はまだ成熟していないが、地 方公務員は国民に直接接する政府の窓口であり、奉仕型政府を国民が最も実感する場所と も言えることから、地方公務員の心理的契約を検討する必要性は充分あると考えられる。 4.心理的契約の構築と職員モチベーション向上の関連性 職務満足度と心理的契約の相関性については、アメリカにおいても中国においても研究 が行われている。しかし、職業満足度の定義の多様性や心理的契約の項目分類の変動性か ら、両者の相関性についての研究方法も多様なものがある。アメリカの心理学者ゲスト (Guest)の視点の一つは、職務満足度には明確な主観的理解性があり、個人の主観感覚を 測ることで測定することができるが、それに対して心理的契約の測定は相対的に困難であ る(梁启華2008)。なぜならば、心理的契約には組織と従業員の双方の暗黙的な理解と感覚 が含まれているからである。個人の主観理解や期待は操作できるが、組織の暗黙な理解と 期待は操作し難いであろう。とはいえ、職務満足度の各要因と心理的契約の各項目のあい だに正の相関性が顕著にあることはほかの研究でも明らかにされている。 中国の研究のなかでは、2007 年に中南大学の熊勇清と屈雅丹が調査紙を利用し、定量的 分析をつうじて心理的契約と従業員満足度の関係を検討している(熊勇清・屈雅丹 2007)。 この実証研究では、相関性分析についてはPEARSON 相関分析法を選び、統計ソフトは SPSS12.0 を使い、心理的契約と従業員満足度のデータ分析を行っている。その分析結果を 見ると、従業員の心理的契約の実現度と従業員満足度が顕著な正の相関 (r=0.795**,sig=0.01)にある。心理的契約の各構成因子を分析すると、「個人発展」と従 業員満足度の相関性が強く、相関係数は 0.769 である。回帰分析の結果から、従業員の心

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28 理的契約の実現度と職務満足度に顕著な正の線性相関性があることが示されている。また、 心理的契約と職務満足度は高い正の相関があり、心理的契約の各構成面(個人発展因子、 仕事自体因子、人間関係因子など)は従業員満足度と顕著に相関している。 本研究においても、地方公務員激励制度の一環として、心理的契約の側面を検討したい と考えている。職務満足度とストレスの項目から心理的契約の構築の方向を検討し、非制 度の面から地方公務員のモチベーションを向上するための方策を考察する。 また、先行研究を整理すると、職務満足度の研究はほぼ成熟した分野と思われる。心理 的契約の各項目とも高い相関指数が示されており、非制度面における激励制度の推進、す なわち職務満足度の報酬、昇進、上司、福祉、特別報酬、作業手順、同僚、職業性質など の項目を通し、地方公務員職業各方面の満足度を合理的に測ることができると考える。そ して満足度の高い項目を強化し、満足度の低い項目に力をいれ、改善を図る。地方公務員 の期待を動力に変え、組織からのケアを受けながら自己発展・自己実現のモチベーション を高めることができれば、公共部門の組織と公務員のあいだにも Win-Win の循環ができる と思われる。

参照

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