第5章 実証調査の結果
1. 上海市と神奈川県地方公務員の職務満足度及びストレスの現状
(1)上海市と神奈川県公務員の職務満足度の状況
最初に、全体的な満足度を見ると、上海市公務員の平均値は
124.65、 JSS
標準中間値126
未満で、全体的満足度は低いと考えられる。一方、神奈川県の公務員の全体的満足度の平均値は
126.24、標準中間値以上で、上海市の調査対象より、満足度が顕著的に高い。
表5-1にあるように、上海市の公務員調査対象のなかで最も高い点数を示しているも のは、「同僚」の
17.55
であり、2番目に高い「業務の性質」よりも2
ポイント高くなって いる。また、JSS
標準中間値以上の項目としては「同僚」、「業務の性質」のほかに、「上司」(15.41)、「交流」(14.03)があがっている。この4つの項目は組織内の人間関係や組織自 体の特性認識など柔軟性があるものに対する満足度である。それに対して、標準中間値以 下の項目には「給料」、「昇進」、「福祉」、「特別報酬」が入っており、これは激励制度の中 心的な項目と考えられる項目の方が満足度が低いことを示している。特に「作業手順」と いう項目は
10.90
点と低得点となっており、地方公務員の不満が明らかである。表5-1 上海市地方公務員の職務満足度各項目平均値と標準偏差 給料 昇進 上司 福祉 特別
報酬 作業
手順 同僚 業務
性質 交流 全体的 満足度 標本数 172 172 172 172 172 172 172 172 172 172 平均値 12.9 11.78 15.41 13.45 13.7 10.9 17.55 15.46 14.03 124.65 標準偏差 3.19 3.21 3.69 2.33 3.65 2.64 2.49 3.98 3.25 19.43
神奈川県の公務員の調査結果を見ると、標準中間値(14)以上の項目については、上海 市の調査対象と一致している項目が多い。最も高い点数を示しているのも「同僚」の
16.64
であり、「上司」「交流」「福祉」「業務性質」の4項目も標準値以上の点数を示している。そのなかで、「福祉」だけは上海市の調査対象の結果と異なり,4位になっている。中国の 公務員についてはグレーゾーン収入が多いと批判されるが、公務員の「福祉」に対する低 い満足度とその項目における標準偏差の低い点数は吟味される必要があると思われる
それに対して、「作業手順」の項目は両国とも最低値になっている。前述したように、両 国の国民とも政府の仕事の手続きの長さを批判しているが、公務員も同様にその煩雑さを 認識しているといえよう。「特別報酬」「給料」、「昇進」のような業績収入も標準中間値以 下となっており、これらは地方公務員の激励制度としては作用していないといえる。
本研究では、仮説
H1
として「中国は公務員が多く、業務の煩雑性から地方公務員は全 体的に職務満足度が低い。日本の地方公務員は住民の奉仕者としての自覚が強いため、職 務満足度は中国よりも高い」を立てたが、調査結果は仮説と一致していることが分かる。62
表5-2 神奈川県公務員の職務満足度各項目平均値と標準偏差
標本数 最小値 最大値 平均値 標準偏差
給料 153 5.00 20.00 12.8431 2.79360
昇進 153 4.00 22.00 12.2549 2.88035
上司 153 4.00 24.00 15.6601 3.83400
福祉 153 5.00 23.00 14.4510 2.57503
特別報酬 153 5.00 23.00 13.4379 3.01930 作業手順 153 4.00 21.00 11.6471 2.95018
同僚 153 8.00 24.00 16.6405 2.45114
業務の性質 153 4.00 43.00 14.4379 4.20186
交流 153 6.00 66.00 14.8693 5.14870
全体的満足度 153 73.00 177.00 126.2418 16.82144 有効標本数 153
(2)上海市と神奈川県公務員の仕事ストレス度の現状
1)上海市の地方公務員の個人属性によるストレス度の変量分析
本調査では、上海市の地方公務員の最近
2
ヶ月のストレス度を調査した。平均得点は6.01
で、軽度ストレス症状があり、休憩を求める状況である。つまり、50%の上海市の地方公 務員の調査対象者は、平均以上のストレスを溜めている。ストレス症状がない調査対象者 は4
割(69名)、軽度ストレス症状の調査対象は38%(66
名)、相当なストレスが溜まっ ている調査対象者は22%(37
名)と、6
割の調査対象が普通以上のストレスを感じている。表5-3 上海市地方公務員のストレス度現状
ストレス症状なし 軽度ストレス症状 重度ストレス症状 調査対象人数
69
名66
名37
名比率
40% 38% 22%
また、表5-4によると、性別上、上海市の男性公務員の職業ストレスは女性より溜ま りやすい。本調査の調査対象のストレス度は平均以上であり、男性の得点が女性よりも高 いが、顕著な差異はみられない。
年齢上の差異をみると、年齢層によりストレス度も変化している。30歳は境界線と見ら れ、
30
歳から35
歳の地方公務員のストレス度は最も低くなっている。生涯キャリアからみ ると、この年齢層の公務員は仕事にも慣れ、キャリアの発展期に入り、ストレス度が他の 年齢層より低いことが理解できるであろう。30歳以下の地方公務員は、組織への加入時間 が短く、仕事に対する探察や環境に慣れるまで時間が掛かるので、一定のストレスを感じ ている。一方、36歳以上の地方公務員は、昇進機会が狭く、地方公務員組織の中で生涯キ ャリアのボトルネックに入り、ストレスも溜まりやすくなる。したがって、このような年63
齢の変化がもたらす心理変化にも配慮すべきであるといえる。
学歴の範囲からみると、学歴が高いほどストレス度得点が低くなる。高卒の地方公務員 のストレス度得点は8点で、大卒や修士号を取った人は今回の調査の平均値は
6.1
点以下で ある(大卒の平均は5.8
点で、修士号取得者は4.7
点)。これは地方公務員の生涯キャリア における学歴の影響を明確に示している。表5-4 個人属性によるストレス指数 ストレス度指数・性別
性別 平均値 標本数 標準偏差
女性 5.66 64 4.01
男性 6.22 108 4.85
合計 6.01 172 4.55
ストレス度指数・年齢
年齢 平均値 標本数 標準偏差
30歳以下 5.56 52 4.49
30-35歳 5.05 40 4.36
36-40歳 6.66 38 4.87
41-50歳 6.9 40 4.38
50歳以上 7 2 7.07
合計 6.01 172 4.55
ストレス度指数・学歴
学歴 平均値 標本数 標準偏差
高卒 8 1
専門学校・短大 7.12 41 4.65
大卒 5.86 114 4.47
修士号 4.71 14 4.51
修士号以上 0 2 0
合計 6.01 172 4.55
ストレス度指数・勤続年数
勤続年数 平均値 標本数 標準偏差
1年以内 6 5 6.16
1-3年 6.29 17 4.52
3-5年 5.45 20 5.02
6-10年 5.23 22 3.85
10年以上 6.23 108 4.58
合計 6.01 172 4.55
ストレス度指数・職務
職務 平均値 標本数 標準偏差
一般事務 6.23 73 4.72
副科長 5.8 46 4.06
正科長 5.92 48 4.75
副処長 5.6 5 5.59
合計 6.01 172 4.55
64
2)神奈川県の地方公務員個人属性によるストレス度の変量分析
神奈川県の地方公務員のアンケート調査でも、半分以上の調査対象が普通以上のストレ スを感じている。神奈川県の公務員ストレス度の平均得点は
6.05
で、上海市の調査対象者 と同じであり、軽度ストレス症状があり、休憩を求める状況である。ストレス症状がない と答えた調査対象は4
割(65名)で、軽度ストレス症状の調査対象は35%(53
名)で、厳重なストレスが溜まっている調査対象は
23%(35
名)である。6割の調査対象は、普通 以上のストレスを感じていることがわかる。表5-5 神奈川県公務員のストレス度の現状
ストレス症状なし 軽度ストレス症状 重度ストレス症状 調査対象人数 65名 53名 35名
比率 42% 35% 23%