• 検索結果がありません。

日本の中小ファミリー企業における

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "日本の中小ファミリー企業における"

Copied!
52
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)〈プロジェクト研究論文〉. 2021 年 3 月修了(予定). 日本の中小ファミリー企業における 「ムコ後継者」による第二創業の成功要因分析 学籍番号:57193086-0. 氏名:腹子. 達朗. ゼミ名称:ベンチャーと新規事業のマネジメント 主査:長谷川 博和 教授. 概. 副査:永井 猛 教授. 要. 筆者は結婚を機に、義父が経営するファミリービジネスの事業承継を目的として、2015 年に外部 から転職してきた非血縁跡取り、所謂「ムコ後継者」である。2021 年より、筆者が経営者のバトン を引き継ぐ予定だが、テクノロジーの発展や世界的に猛威を振るっている新型コロナウイルスによ って社会構造の変化が激しくなっている状況下、既存本業に依存した経営に限界が見えてきており、 3 代目の事業承継者である筆者の代で、第二創業を成功させる必要がある、という筆者自身の問題 意識が本研究の背景にある。 本研究のリサーチクエスチョンは、 「日本の中小ファミリー企業におけるムコ後継者の視点から、 計画的かつ組織的に本業を支える次なる柱となるような新規事業を創造し、第二創業を成功させる ための成功要因は何か」と設定し、この問いを明らかにすることを本研究の目的としている。 上記のリサーチクエスチョンに対し、関連分野の先行研究を整理することにより、重要な要素を 抽出した上で、筆者独自の考察を加える形で 3 つの初期仮説を導出している。 研究手法としては、事例研究を採用し、実際に 6 名に対してインタビューを行うことを通じて、 仮説の検証及び修正を行い、最終的な結論・考察へと繋げている。 結論としては、3 つの初期仮説の内、初期仮説①「ムコ後継者は、プリンシパル・エージェント 問題を解消するだけでなく、ファミリー企業が陥りやすいデメリットを解決できる存在として、イ ノベーションや企業変革の切り札になりえる」については概ね検証され たことから、結果を踏まえ、 ムコ後継者が持つ優位性について考察している。 初期仮説②「ムコ後継者が第二創業を成功させる前提条件として、スリー・サークル・モデルの 3 つのサブシステムの内、Business 面での貢献を通じて、Ownership の主導権を握ることが重要で ある」については検証されなかったことから、仮説自体を取り下げている。 初期仮説③「ムコ後継者が、新規事業創造を通じた第二創業を成功させるためには、 7 つの成功 要因を満たすことが必要である」については、結果を踏まえ 、 「「基本原則 4 要因」を満たした上で、 「新成功 4 要因」を満たすことが必要である」という形で仮説を修正している。 考察では、今後の研究のさらなる発展を目指し、思考の軸となるキーワードの抽出を試みており、 ムコ後継者が築ける「適度な距離感」という概念を提唱している。最終的に、この「適度な距離感」 がファミリー企業における「イノベーション」と「内部ガバナンス」という観点で、非常に重要な 役割を果たしているとまとめている。. 1.

(2) 目次 第一章 序論 .............................................................................................. 3 第一節 研究の背景 ................................................................................ 3 第二節 リサーチクエスチョン・研究の目的 ......................................... 3 第三節 本論文の構成............................................................................. 3 第二章 ファミリービジネスについて ....................................................... 5 第一節 ファミリービジネスの定義 ....................................................... 5 第二節 ファミリービジネスに関する理論的背景 .................................. 5 第三節 ファミリービジネスのメリット・デメリット ........................... 6 第三章 先行研究 ....................................................................................... 7 第一節 非血縁跡取り(ムコ後継者)による経営に関する先行研究 ...... 7 第二節 ファミリービジネスの経営モデルに関する先行研究 ................. 8 第三節 アントレ(イントラ)プレナーシップに関する先行研究........ 11 第四章 先行研究からの考察・仮説の導出 .............................................. 17 第一節 初期仮説① .............................................................................. 17 第二節 初期仮説② .............................................................................. 18 第三節 初期仮説③ .............................................................................. 21 第五章 研究手法 ..................................................................................... 25 第一節 初期仮説まとめ ....................................................................... 25 第二節 研究手法(事例研究) ............................................................ 25 第六章 事例研究 ..................................................................................... 26 第一節 恵藤計器株式会社(瀬口力也 代表取締役社長) .................. 26 第二節 有限会社三田三昭堂(三田英彦 代表取締役) ...................... 28 第三節 株式会社大都(山田岳人 代表取締役) ................................ 30 第四節 株式会社ナベヤ(岡本知彦 代表取締役社長) ...................... 34 第五節 M 社(T・J 代表取締役社長) .............................................. 36 第六節 株式会社協同商事(朝霧重治 代表取締役兼 CEO) .............. 39 第七章 仮説の検証・修正、結論・考察・研究の限界 ............................ 43 第一節 事例研究のまとめ ................................................................... 43 第二節 仮説の検証・修正 ................................................................... 46 第三節 結論・考察・研究の限界 ......................................................... 48 謝辞 .......................................................................................................... 51 参考文献 ................................................................................................... 52. 2.

(3) 第一章 序論 第一節 研究の背景 2020 年版中小企業白書によると、日本の企業数は 359 万社あり、この内、中小 企業は 358 万社と全体の約 99.7%を占めている。石井(2018)によれば、日本に おける中小企業の約 96.7%が、資本金 1 億円未満の同族企業であり、同族企業の定 義は様々あるものの、同族企業は特定のファミリーで所有されていることが多く、 「中小企業≒同族企業≒ファミリー企業」と広く一般的に理解されるようになっ ている。従い、ファミリー企業は、日本経済の基盤であると言える。 ファミリー企業を対象とした研究は、海外では半世紀ほど前から盛んに行われ ている一方で、淺羽(2015)によれば、日本のファミリービジネス研究は盛り上 がりつつあるとはいえまだ日が浅く、分かっていないことが多いとされている。 筆者は結婚を機に、義父が経営するファミリービジネスの事業承継を目的に、 前職の総合商社を退職し、埼玉県草加市に本社を構えるヒガノ株式会社(以下: ヒガノ)に転職をしてきた「ムコ後継者」である。 ヒガノは、創業約 80 年の歴史を持つ製造業で、本業は精密板金・機械加工をベ ースに、建築業界向けにインテリア製品・エクステリア製品の製造及び販売を行 っている。オーナー企業として、伝統的かつ独自の社風が色濃く残る会社におい て、現在筆者は取締役副社長として、実質的な会社の舵取りを任されている。 2020 年になって策定した自社の事業承継計画に基づくと、2021 年 5 月の株主総 会で現社長が退任し、筆者が後継者としてバトンを引き継ぐ予定だが、アナログ かつ労働集約的な既存本業を軸とした一本足打法にも限界が見えてきている 。テ クノロジーの発展や世界的に猛威を振るっている新型コロナウイルスによ って社 会構造の変化が激しくなっている状況下、3 代目である筆者の代で、第二創業を成 功させる必要がある、という筆者自身の問題意識が本研究の背景にある。 尚、本研究では「ムコ後継者」という独自の特定用語を用いて いる。これは、 Mehrotra et al.(2013)において、非血縁跡取りと定義されている用語とほぼ同 義であり、先代経営者の実子の配偶者及び、養子縁組娘婿を含むものとする。. 第二節. リサーチクエスチョン・研究の目的. 本研究のリサーチクエスチョンは、 「日本の中小ファミリー企業における、ムコ 後継者の視点から、計画的かつ組織的に本業を支える次なる柱となるような新規 事業を創造し、第二創業を成功させるための成功要因は何か 」と設定し、この問 いを明らかにすることを本研究の目的としている。 尚、本研究は、ムコ後継者である筆者自身の問題意識が背景に存在するものの、 研究を通じて得られる示唆は、ムコ後継者に留まらず、ファミリービジネス及び、 非ファミリービジネスに関わる全ての方に寄与するものとしたい。. 第三節. 本論文の構成. 次の第二章では、まず第一節においてファミリービジネスの定義を行っている。 第二節ではファミリービジネスに関する理論的背景について まとめている。その 3.

(4) 中でもエージェンシー理論に注目して、第三節ではファミリービジネスにおける 「所有と経営の一致」がもたらすメリットとデメリットについて述べている。 第三章では、先行研究を整理している。第一節では非血縁跡取り(ムコ後継者) による経営に関する先行研究を取り上げ、第二節ではファミリービジネスの経営 モデルに関する先行研究について触れ、第三節ではアントレ(イントラ)プレナ ーシップに関する先行研究について述べている。 第四章では、先行研究からの考察・仮説の導出を行っている。第一節ではファ ミリービジネスにおける理論的背景及び、非血縁跡取り(ムコ後継者)による経 営に関する先行研究を踏まえ、筆者独自の考察を加えることで初期仮説①を導出 している。第二節ではファミリービジネスの経営モデルの中でも、スリー・サー クル・モデルに注目し、その延長線上で議論されている時間による変化という観 点から、筆者独自の考察を加えることで初期仮説②を導出している。そして第三 節では、 アントレ(イントラ)プレナーシップに関する先行研究から抽出した 要素をベースとし、ドイツ企業 SAP SE のケーススタディを踏まえた上で、そこ に筆者独自の考察を加えることで初期仮説③を導出している。 第五章では、第一節において初期仮説のまとめを行った上で、第二節で研究手 法について整理している。 第六章では、具体的な事例研究対象として 6 社に対して行ったインタビューの 内容を第一節から第六節に亘って紹介している。 第七章では、第一節で事例研究のまとめを行った上で、第二節で仮説の検証及 び修正を行い、第三節において最終的な結論・考察・研究の限界へとつなげてい き、本研究のまとめとしている。. 4.

(5) 第二章 ファミリービジネスについて 第一節 ファミリービジネスの定義 本節では、ファミリービジネスの定義について確認する。 ファミリービジネスの定義に関して、入山・山野井(2014)は、「同族所有」と 「同族企業」に区分する考え方を提示しており、下記図表 1 の通り、(1)非同族 企業、 (2)所有の程度は低いが、経営の中枢に創業家一族のメンバーがいる企業、 (3)創業家一族が所有のみしている企業、(4)創業家一族が所有も経営も行う企 業、といった分類ができるとしている。 本研究では、ファミリービジネスとは、 (4) 「創業家一族が所有も経営も行う企 業」、と定義する。 図表 1. 「同族所有」と「同族企業」による分類. (出所)入山・山野井 (2014)より抜粋. 第二節. ファミリービジネスに関する理論的背景. 本節では、ファミリービジネスに関する理論的背景について整理する。 入山・山野井(2014)は、広範な文献サーベイを通じて、ファミリービジネス 研究のための理論視座をまとめており、①エージェンシー理論、②資源ベース理 論、③社会情緒資産理論の 3 つの理論群に大別している。 まず、エージェンシー理論とは、あるビジネス行為において、依頼人(プリン シパル)が代理人(エージェント)に対してその行為の遂行を依頼する関係に焦 点を当てている。企業の所有と経営が分離している場合、株主がプリンシパルで あり、経営者がエージェントとなる。同理論ではいくつかの仮定があり、プリン シパルとエージェント間でビジネス上の目的が異なること、プリンシパルとエー ジェント間に情報の非対称性が存在し、プリンシパルはエージェントの行動を完 全に把握できない状況を想定している。従い、エージェントはプリンシパルの意 向に沿わず、自らの便益だけを優先するエージェンシー問題が発生すると言われ ている。 次に、資源ベース理論とは、企業の持続的な競争優位には、その価値創造に繋 がるような、希少で模倣不可能な経営資源が必要であるとする理論である。淺羽 (2015)によれば、資源ベース理論に依拠したファミリービジネスの研究におい ては、主に人的資本、社会資本、我慢強い投資、継続性、ガバナンス構造、組織 文化といったファミリービジネス特有の資源が競争優位をもたらすとの主張があ 5.

(6) るとしている。 そして、3 つ目の社会情緒資産理論について、淺羽(2015)は、ファミリービジ ネスを所有する創業者一族が、財務的リターンだけでなく、事業を通じて得られ る非財務的な価値にも関心があるという視点に立った考え方であるとしている。 非財務的な価値について、入山・山野井(2014)は、主に 3 つあると指摘してい る。第一に、ファミリーのアイデンティティを企業と感情的に強く結びつけ、企 業を保有・経営し続けることに強い関心を持つこと。第二に、事業によるファミ リーの永続性という観点で、一族の象徴である企業を子孫に伝えていくことに関 心を持つこと。そして第三は、ファミリー内での利他主義であり、助け合いを通 じた一族間の幸福に関心を持つことである。. 第三節. ファミリービジネスのメリット・デメリット. 前節では、ファミリービジネスに関する理論的背景について触れてきたが、そ の中でもエージェンシー理論に着目して、ファミリービジネスにおける「所有と 経営の一致」がもたらすメリットとデメリットについて整理したい。 <メリット> 淺羽(2015)によれば、経営者が多数の株式を保有している場合、所有と経営 が一致することから、エージェンシー問題は緩和され、経営者は企業価値の最大 化を目指すことが指摘されており、ファミリーによって所有・経営されているフ ァミリービジネスは、プリンシパルとエージェントとの利害の一致によるエージ ェンシー問題の緩和というメリットを享受できる構造であるとしている。 入山(2019)は、ファミリービジネスにおける「所有と経営の一致」により、 プリンシパルとエージェントが一枚岩でビジョンを共有しており、目的の不一致 がないことに触れている。一般的な日本企業の問題の一つに、任期がある程度決 まっているリスク回避的な内部昇進社長が、大胆な戦略を打ち出せないことが挙 げられるが、ファミリービジネスの場合は、大胆な戦略を打ち出しても 、解任リ スクが小さく、結果的に経営者がリスク回避的ではなくなり、大胆な戦略を打ち やすい。更に、短期的な株価上昇だけではなく、長い目で見た企業の永続的な繁 栄を志向し、ブレの無い戦略が打てるメリットがあるとしている。 <デメリット> 一方で、ファミリービジネスにおける「所有と経営の一致」がもたらすデメリ ットも存在する。淺羽(2015)は、ファミリービジネスの負の側面として次の 3 つを指摘している。第一に、ファミリービジネスにおいては、所有と経営の両面 で創業者一族が強い影響力を有しているので、牽制機能が働きにくく、経営者が 暴走してしまうこと。第二に、一族の社員が昇進しやすいなどの身内びいきが横 行し、一族以外の社員のモチベーションが低下してしまうこと。そして第三に、 経営者を一族から選ぼうとすると、限られた経営者人材プールの中から選ばざる を得ず、必ずしも優秀な人材が経営者になるとは限らないことである。 6.

(7) 第三章 先行研究 第一節 非血縁跡取り(ムコ後継者)による経営に関する先行研究 本節では、非血縁跡取り(ムコ後継者)による経営に関する先行研究について、 取り上げる。 Mehrotra et al.(2013)は、1949 年から 1970 年の間に上場した日本企業(金 融機関を除く)1,433 社を分析対象とし、1962 年から 2000 年までの統計分析に基 づいた研究を行っている。長期に亘る ROA やトービンの Q などの経営成果を調べ た結果、ファミリー企業の業績は、非ファミリー企業に比べて、有意に高いこと を明らかにしている。 更に、同研究では、ファミリー企業を、①創業者が経営するファミリー企業、 ②血縁関係にある後継者が経営するファミリー企業、③創業家に養子として入っ た非血縁跡取り(ムコ後継者)が経営するファミリー企業、④サラリーマン経営 者が経営するファミリー企業、という 4 つに分解して分析を重ねており、結果と して、③創業家に養子として入った非血縁跡取り(ムコ後継者)が経営するファ ミリー企業の業績が、(①創業者が経営する ファミリー企業と並んで)、特に優れ ていることを明らかにしている。 具体的には、下記図表 2 から読み取れるように、③創業家に養子として入った 非血縁跡取り(ムコ後継者)が経営するファミリー企業は、非ファミリー企業と 比較して ROA が 0.904%ポイント高くなり、売上高成長率は 0.504%ポイント高くな る。また、②血縁関係にある後継者が経営するファミリー企業と比較すると ROA が 0.560%ポイント高くなるという分析を行っている。 この Mehrotra et al.(2013)の研究は、他の先進国と比べて、日本ではファミ リー企業の業績が相対的に優れている、という例外性に着目した点にユニークさ があるだけではなく、統計を通じて定量的に分析している点において、非常に価 値の高い研究だと言えるが、敢えて課題を指摘すれば、分析結果に対する因果関 係については、明らかになっていないことが挙げられる。 図表 2. 企業統治パターンと業績に関する回帰分析結果. 7.

(8) (出所)Mehrotra et al. (2013)より抜粋. 同研究の結果を踏まえ、入山(2019)は、日本で最も業績が高い企業統治パタ ーンは、③創業家に養子として入った非血縁跡取り(ムコ後継者)が経営するフ ァミリー企業であると述べている。また、第二章第三節で触れたファミリービジ ネスの負の側面の内、経営者人材プールが限られているために、必ずしも優秀な 人材が経営者になるとは限らないという問題を解決できる存在として、ムコ後継 者を挙げている。その理由として、ムコ後継者の選抜に際しては、時間をかけて 企業の外部・内部から選び抜かれた人が迎えられることから、資質が劣る人材を 経営者に登用するリスクが小さくなることを指摘している。その上で、ムコ後継 者はファミリーの一員でもあることから、 「所有と経営の一致」により、プリンシ パルとエージェントの間の目的の不一致が解消され、ブレの無い戦略が打ちやす く、ムコ後継者は、エージェンシー理論の「いいとこ取り」ができる存在である と指摘している。. 第二節. ファミリービジネスの経営モデルに関する先行研究. 本節では、ファミリービジネスの経営モデルに関する先行研究を整理する。 <スリー・サークル・モデル> ファミリービジネスの経営モデルについて、奥村(2015)によれば、ハーバー ド・ビジネススクールの研究者達が、ファミリー企業の経営における問題解決を 目指し、経営モデルの開発を行ったとされており、代表的なものとしてスリー・ サークル・モデルがある。(下記図表 3 参照) 図表 3. スリー・サークル・モデル. (出所)Gersick et al.(1997)の図を引用した奥村(2015)より抜粋. スリー・サークル・モデルは、 「ファミリー」「ビジネス」「オーナーシップ」の 3 つの要因からファミリービジネスが構成されると考える。 落合(2016)は、ファミリービジネスは 3 つの要因が有機的に絡み合いながら 8.

(9) 営まれるものであり、非ファミリービジネスとは異なり、要因間の様々な利害関 係の調整が必要とされる複雑な経営主体であると述べている。奥村(2015)は、3 つの要因の内どの要因の比重が大きいのかによって経営のタイプが異なり、経営 のタイプの違いによって経営の関心事も異なることから、スリー・サークル・モ デルを活用し、それぞれに異なる経営関心に対して的確な経営実務上の処方箋を 書くことを可能にすると述べている。 <パラレル・プランニング・プロセス・モデル> また、奥村(2015)は、ファミリービジネスを合理的かつ健全なものとするた めに、近代経営手法の導入は避けられないとしており、特に戦略計画及び、管理 手法の導入が必要であるとしているが、経済合理性に導かれた経営計画の指し示 す企業目標と、ファミリーが先祖代々守ってきた固有のビジョンや目標が対立し がちであることを指摘している。この問題の解消に取り組み、長期的にファミリ ービジネスの業績を高めることを可能にする考え方として、パラレル・プランニ ング・プロセス・モデル(PPP モデル)がある。(下記図表 4 参照) 図表 4. パラレル・プランニング・プロセス・モデルの概要. (出所)長谷川・米田(2015)より抜粋. 長谷川・米田(2015)では、PPP モデルの基本的な考え方とは、企業経営サイド とファミリーサイドを同時並行的に考えていくことであると述べており、以下の ように考え方を整理している。 ① 価値観の明確化: ② ③ ④ ⑤. ファミリービジネスが共有する価値観について ファミリーメンバー間で合意を得ること。 ビジョン: ファミリービジネスのビジョンを作成し、共有すること。 戦略: ファミリーの参加とビジネス戦略をプランニングすること。 投資: 財務的・人的資本への投資を行うこと。 ガバナンス: 良好な企業統治を持続させるためにファミリーとビジネス 双方のガバナンスを確保すること。. 一方で、長谷川・米田(2015)では、パラレルプランニングの作成・実行は容 易ではなく、専門的なアドバイザーのヘルプが必要になると指摘している。具体 的には、信頼できる顧問、社外取締役、コンサルタント、仲裁人といったプロフ 9.

(10) ェッショナルにプランニングのプロセスへの参加を要請することをイメージして いる。また、プランニングに際しては、全てのファミリービジネスに適用できる 「絶対的な解」は存在しないことを理解するだけでなく、時間の経過とともに計 画自体も変化が必要になることにも留意し、ほぼ絶え間なくプランニングに修正 を加え続けることの重要性についても触れている。そして、この企業経営サイド とファミリーサイドの両者の計画を並列的に行うことで、企業の永続性を確保す ることにつながると説明している。 <4C モデル> 奥村(2015)は、ファミリー企業の永続性の研究にもいくつかの経営モデルが あるとしており、最も代表的なものとして 4C モデルを挙げている。4C モデルは、 欧米のファミリービジネス企業 24 社のケース分析から導出されたモデルであり、 各産業分野における好業績かつ高い永続性を持ったファミリービジネスの特異な 経営特性を見出したものである。具体的には、以下 4 つの C の組み合わせからフ ァミリー企業の経営が成り立っていると整理されている。 ① ② ③ ④. Continuity (継続性 - 夢の追求) Community (コミュニティー - 同族集団のまとめ上げ) Connection (コネクション - 良き隣人であること) Command (コマンド - 自由な行動と適応). 一つ目の継続性とは、ファミリーが掲げるミッションを継続的、かつ情熱的に 達成しようと、長期的観点で投資を行う姿勢であるとしている。会社とは自分た ちの夢の実現のための手段であり、会社に対してスチュアードシップを発揮する ものであると述べられている。二つ目のコミュニティーとは、社員を強い価値共 有集団にすることであり、そのために社員を厚遇し、社員から高い忠誠心と主体 性を引き出すことが重要であるとされている。三つ目のコネクションとは、企業 を取り巻く様々なステークホルダー(顧客、取引先、地域、社会全般)との良好 な関係性を気づくことであり、日本の近江商人の商売のベースにある、売り手よ し・買い手よし・世間よし、という「三方良し」の考え方に通じるものと考えら れる。そして、四つ目のコマンドとは、ファミリー企業は、上場しているような 非ファミリー企業と異なり、外部株主の意向にあまり左右されることがないこと から、比較的独立的に行動できるとされている。奥村(2015)は、4 つの C は絶妙 なバランスの上に成り立っており、ファミリー企業が永続的に成功するためには、 この 4 つの C のどれかに経営が傾かないことが肝要であると指摘している。 これまで取り上げてきた経営モデルが示唆するポイントとしては、ファミリー 企業の経営は、ファミリーという独自要因が企業経営の中に入り込むことによっ て、経営自体が複雑かつ困難なものになることだと言える。第二章 第三節で触れ たファミリービジネスのメリットを最大限に発揮し、一方でファミリービジネス が陥りやすいデメリットを抑えるためにどのような経営モデルを構築するのか、 10.

(11) 直面する状況や時代の変化に応じて都度最適解を探し求め、絶え間のないアップ デートが求められる。. 第三節. アントレ(イントラ)プレナーシップに関する先行研究. 本節では、まずアントレプレナーシップに関する先行研究について整理する。 入山(2019)では、アントレプレナーの定義付けに関して、最も影響を及ぼし ているのは「イノベーションの父」と呼ばれる経済学者ジョセフ・シュンペータ ーであるとしている。具体的には、 「新結合」という既存の知と知を新しく組み合 わせて、イノベーションに繋げる行為を実行する人は全てアントレプレナーであ るという。このアントレプレナーシップの領域は非常に多岐に亘っており、入山 (2019)では、米国のビジネススクールで利用されているアントレプレナーシッ プの代表的教科書「New Venture Creation」の構成を引用して、「ヒト・コト・カ ネ」でまとめている。 一つ目の「ヒト」に関しては、創業者・起業家の個性や特性に関する先行研究 があるといい、ビッグファイブと言われる起業家の個性についての統計解析を通 じた実証研究、アントレプレナーシップ・オリエンテーション( EO)と言われる 起業家特性を測る指標を用いた実証研究、そして、起業家の思考パターンに関す る実証研究などが行われているとしている。二つ目の「コト」については、新し い事業機会を見つけることが主要なテーマであり、事業機会は発見するのか、そ れとも創造するのか、といった論争が存在するとしている。三つ目の「カネ」に ついては、ファイナンスの観点から不確実性を明示的に取り込んだリアル・オプ ションの考え方が、ベンチャーファイナンスに応用されていたり、投資家と経営 者との間におけるエージェンシー理論を用いた研究 に応用されているとしている。 また、入山(2019)は、今後アントレプレナーシップの領域が更に拡大すると 述べており、既に以下の 4 つの新しいアントレプレナーシップ領域が顕在化しつ つあるとしている。 ① ② ③ ④. インターナショナル・アントレプレナーシップ(国際アントレ) ソーシャル・アントレプレナーシップ(社会アントレ) インスティテューショナル・アントレプレナーシップ(制度アントレ) イントラプレナーシップ(企業内アントレ). 一つ目のインターナショナル・アントレプレナーシップについては、ボーング ローバルと呼ばれるようなスタートアップ企業を対象にしている。二つ目のソー シャル・アントレプレナーシップについては、社会的・公共的な目的を優先して 設立されたスタートアップ企業を対象にしている。三つ目のインスティテューシ ョナル・アントレプレナーシップは、通常であれば政府機関が主導して取り組む べき制度改革を、民間人が旗振り役として大きな社会ムーブメントを起こしなが ら進める行為を対象にしている。そして、四つ目のイントラプレナーシップにつ いては、イノベーションを求める企業の中で、起業家のように振る舞う社員が台 11.

(12) 頭したり、起業家人材を育成しようとする動き自体に注目するものである。 これまで、アントレプレナーシップの研究領域について整理してきたが、その 中でもイントラプレナーシップに注目する。正に自社において求められているの は、コーポレートベンチャリングと呼ばれる新規事業創造の観点と、筆者自身が 起業家となり、イノベーションを起こすことで第二創業を実現することであり、 ファミリービジネスに活かせる企業内アントレの要素の抽出を試みる。 Antoncic・Hisrich(2001)は、イントラプレナーシップの視座は、大企業の再 興や業績向上に有益であるだけでなく、中小企業にも同様に有益であると述べて おり、以下図表 5 の通り、イントラプレナーシップに必要な独自の 4 つの要素を 挙げている。 図表 5. Antoncic・Hisrich(2001)イントラプレナーシップに必要な 4 要素. (出所)筆者作成. Alpkan et al.(2010)では、イントラプレナーシップの視点から、企業の革新 的な業績向上に直接的または相互作用的に影響を及ぼす要因について分析してお り、以下の図表 6 の通り、プラスの影響がある要素と、マイナスの影響がある要 素を挙げている。(※マイナスの影響がある要素については赤×を付けている。) 図表 6. Alpkan et al.(2010)革新的業績向上に影響する要素. 12.

(13) (出所)筆者作成. Cyntia(1992)は、企業におけるイノベーションと競争優位を確立するための 要素に関する広範な先行研究をレビューした結果として、以下図表 7 の通り、4 つの重要な要素を挙げている。 図表 7. Cyntia(1992)イノベーションと競争優位を確立するための 4 要素. (出所)筆者作成. Burgelman(1983)は、フィールドスタディを通じて、大企業におけるコーポレ ートベンチャリングのプロセスについて分析を行っており、以下の図表 8 の通り、 4 つの重要な示唆を得られたとしている。 図表 8. Burgelman(1983)コーポレートベンチャリングの 4 つの示唆. 13.

(14) (出所)筆者作成. 続いて、イントラプレナーシップの文脈を踏まえ、日本の第二創業に関する先 行研究についてもレビューする。林・山田( 2017)は、第二創業がもたらす構造 転換に関する 4 つの論点を以下図表 9 の通り整理している。. 図表 9. 林・山田(2017)第二創業に関する 4 つの論点. (出所)筆者作成. 鉢嶺(2005)は、第二創業の特徴として、企業にとって既存事業を抱えた中で の取り組みとなることを挙げており、第二創業を成功に導くために必要な要素に ついて、以下図表 10 の通り整理している。 図表 10. 鉢嶺(2005)第二創業を成功に導くために必要な要素. 14.

(15) (出所)筆者作成. これまで取り上げてきたイントラプレナーシップと、日本の第二創業に関する 、 6 つの先行研究から抽出した要素について整理したものが、以下図表 11 である。. 図表 11. 先行研究から抽出した要素を整理した星取表 Intrapreneurship. 成功要因. 1) A ntoncic H isrich. 2) A lpakan. 3) C ynthia. 第二創業 4) B urgelm an. 5) 林・山田. 〇. ①業界の状況/タイミング/危機認識. 6) 鉢嶺. 〇 〇. ②既存業務の見直し・財務基盤 ③既存事業の戦略見直し・組織再編成. 〇. ④本業の周辺領域に事業拡大. 〇. ⑤新しい製品・サービスの創造. 〇. ⑥トップマネジメントの支援・関与. 〇. 〇. 〇. 〇 〇. 〇 〇. ⑦失敗を許容する文化・リスクテーキング. 〇. ⑧分権化された自律的なチーム. ×. ⑨業績連動報酬制度. ×. ⑩外部リソース調達(人材・資金). ×. 〇. 〇. 〇. 〇. 〇 〇. ⑪行動計画・コミットメント. (出所)筆者作成. 15.

(16) 16.

(17) 第四章 先行研究からの考察・仮説の導出 第一節 初期仮説① 本節では、第二章第二節で触れたファミリービジネスにおける理論的背景及び、 第三章第一節で取り上げた、非血縁跡取り(ムコ後継者)による経営に関する先 行研究を踏まえて、筆者独自の考察を加えることで初期仮説①を導出する。 第二章第二節では、ファミリービジネスにおける理論的背景を整理し、 次の第 二章第三節では、その中でもエージェンシー理論に着目して、ファミリービジネ スにおける「所有と経営の一致」がもたらすメリットとデメリットについて整理 した。メリットとして挙げられるのは、プリンシパルとエージェントとの利害の 一致によってエージェンシー問題を緩和できること。また、「所有と経営の一致」 により、プリンシパルとエージェントが一枚岩でビジョンを共有しており、目的 の不一致がないことから、結果的に経営者がリスク回避的ではなくなり、大胆な 戦略を打ちやすいこと。更には、短期的な株価上昇だけではなく、長い目で見た 企業の永続的な繁栄を志向し、ブレの無い戦略が打てることがある。 一方、ファミリービジネスが陥りやすいデメリットとして挙げられるのは、所 有と経営の両面で創業者一族が強い影響力を有しているので、牽制機能が働きに くく、経営者が暴走してしまうこと。一族の社員が昇進しやすいなどの身内びい きが横行し、一族以外の社員のモチベーションが低下してしまうこと。経営者を 一族から選ぼうとすると、限られた経営者人材プールの中から選ばざるを得ず、 必ずしも優秀な人材が経営者になるとは限らないことがある。 第三章第一節では、非血縁跡取り(ムコ後継者)による経営に関する先行研究 について取り上げて、ムコ後継者が経営するファミリー企業は、非ファミリー企 業やその他ファミリー企業(血縁関係にある後継者やサラリーマン後継者が経営 する企業)との比較で、相対的に業績が良いという分析結果が出ていることにつ いて述べた。ムコ後継者は、選抜された優秀な経営人材であるという点において、 ファミリービジネスが陥りやすいデメリットである、限られた経営人材プールに より必ずしも優秀な人材が経営者になるとは限らない、という問題を解決できる 存在として、期待できるのではないかと考えられる。加えて、ム コ後継者はファ ミリーの一員でもあることから、 「所有と経営の一致」によるエージェンシー理論 の「いいとこ取り」ができる存在であるとも言える。 また、筆者自身(ムコ後継者)として経験から、ムコ後継者の優位性として挙 げられるのは、良い意味でファミリー企業のカルチャーに染まっていないことか ら、客観的な目線で企業を捉え、健全な危機感を抱き、企業変革の必要性を感じ ることができること。外部経験・知見を活かし、ファミリー企業にはない人的ネ ットワークを活用することができること。変なしがらみが無いことから、大胆に 新しいことに取り組みやすいことが挙げられる。 「イノベーションの父」と呼ばれ る経済学者ジョセフ・シュンペーターによれば、イノベーションとは 、既存の知 と知の新たな結合であるとされているが、筆者が考えるムコ後継者の優位性には、 このイノベーションに繋がる要素が含まれて おり、ムコ後継者はイノベーション の切り札になりうるのではないかと考える。 17.

(18) 以上を踏まえ、以下の通り、初期仮説①を設定する。 <仮説①> ムコ後継者は、プリンシパル・エージェント問題を解消するだけでなく、 ファミリー企業が陥りやすいデメリットを解決できる存在として、 イノベーションや企業変革の切り札になりえる。. 第二節. 初期仮説②. 本節では、第三章第二節で触れたファミリービジネスの経営モデルの中でも、 スリー・サークル・モデルに注目し、その延長線で議論されている時間による変 化という観点から、筆者独自の考察を加えることで初期仮説②を導出する。 奥村(2015)によれば、スリー・サークル・モデルの延長線上に、ファミリー ビジネスの進化形を捉えるスリー・ディメンジョン・モデルがあるとして おり、 ファミリー軸、ビジネス軸、オーナーシップ軸という 3 つの要素は変わらないも のの、ファミリービジネスの時間による変化を分類するものとされている。この 時間による変化をスリー・サークルに取り入れる考え方をベースに、ムコ後継者 のケースについて検討を試みる。 スリー・サークルにおける時間による変化について、筆者は以下 3 つのポイン トがあると考える。それは、ファミリービジネスの後継者のパターンや事業承継 の時機・プロセスによって、①サークルの大きさが変わる、②サークルが大きく なる順番がある、③サークルの大きさや順番に影響する要因がある、 というもの である。このポイントを検討するに際して、下記図表 12 の通り、スリー・サーク ルの 3 つの要素をそれぞれ、ファミリーは「家族の関係」、ビジネスは「仕事での 貢献」、オーナーシップは「株式保有と経営権」と定義する。 図表 12. スリー・サークルの 3 つの要素に関する筆者の定義. (出所)筆者作成. 18.

(19) まず、ファミリービジネスの後継者パターンとして、血縁者である実子後継者 のケースについて分析する。筆者知人からのヒアリング内容を踏まえると、実子 後継者の場合、ファミリービジネスに入社するルートとしては、新卒で入社する パターンと、外部経験を積んだ後に中途入社するパターンがある。その後、一般 社員と同じレベルからの下積みを積んでいくこともあれば、比較的早い段階 から 幹部社員として経営に携わることもあるが、親族内承継を相続の観点から円滑に 進めていくために、場合によっては入社前から株式移転を進めていくことも少な くないようである。ヒアリング内容をまとめたものは、下記図表 13 の通り。 図表 13. 実子後継者における事業承継プロセス. 新卒で入社(外部経験無). ビジネスでの貢献. 株式移転. 経営権譲渡. (Fam ily). (B usiness). (O w nership). (O w nership). 外部経験後、中途入社. 株式移転. ビジネスでの貢献. 経営権譲渡. (Fam ily+B usiness小). (O w nership). (B usiness). (O w nership). 実子後継者. (出所)筆者作成. 上記内容を踏まえ、実子後継者におけるスリー・サークルについて検討する。 実子後継者の場合、ファミリーの血縁者ということで、元々、Family(家族の関 係)のサークルは比較的大きい状況からスタートしていると考えられる。また、 入社前から株式移転が進んでいるケースもあることから、小さいながら Ownership (株式移転)のサークルも存在すると言える。その後、入社に伴い、少しずつ Business(ビジネスでの貢献)も進み、最終的にはスリー・サークルのバランス が整っていく流れが想定される。実子後継者におけるスリー・サークルの検討は、 下記図表 14 の通り。 図表 14. 実子後継者におけるスリー・サークルの検討 Ownership Ownership. Ownership. Family. Family. Business. Family. Business. (出所)筆者作成. 次に、ムコ後継者のケースについて分析する。筆者知人からのヒアリング内容 を踏まえると、ムコ後継者の場合、ファミリービジネスに入るルートは複数存在 する。基本的には先代の実娘との結婚が契機となっており、恋愛結婚を経てムコ 19.

(20) 後継者になるパターンや、事業承継が前提となるお見合い結婚を経てムコ後継者 になるパターン、後継者不在を理由に後天的にムコ後継者になるパターンなどが 考えられる。但し、ムコ後継者の場合、いずれのパターンにおいても、まずはビ ジネスでの貢献が求められ、その貢献が社内外で認められて初めて、徐々に一族 の仲間入りを果たし、事業承継に向けた株式移転も行われることが多いと考えら れる。ヒアリング内容をまとめたものは、下記図表 15 の通り。 図表 15. ムコ後継者における事業承継プロセス. 恋愛結婚は許すが、お手並み拝見 (B usiness小) 先代の導きによって 親族仲間入り. 実力を見てから、結婚を許可 (B usiness小) ムコ後継者. (Fam ily) ビジネスでの貢献. 経営権譲渡. (B usiness大). (O w nership). 承継ありき、お見合い結婚. 株式移転. (B usiness小). (O w nership). 当初想定せず、後から持ち掛け (B usiness小). (出所)筆者作成. 上記内容を踏まえ、ムコ後継者におけるスリー・サークルについて検討する。 ムコ後継者の場合、実子後継者と異なり、ファミリーにとってはよそ者であるこ とから、Family(家族の関係)のサークルは無い状況からのスタートとなる。一 方、外部経験があることで Business(ビジネスでの貢献)のサークルは持ち合わ せているものの、中途入社するファミリービジネスの事業においては経験が無い ことからサークル自体は小さく、またサークルの色も異なる色で表現される。 ま ずは、Business(ビジネスでの貢献)が求められ、その貢献が認めらて、初めて Family(家族との関係)及び、Ownership(株式の移転)のサークルが大きくなり、 最終的にはスリー・サークルのバランスが整っていく流れが想定される。 ムコ 後継者におけるスリー・サークルの検討は、下記図表 16 の通り。 図表 16. ムコ後継者におけるスリー・サークルの検討 Ownership Ownership. Business. Business. Family. Business. (出所)筆者作成. 20. Family. Business.

(21) 以上の考察から、ムコ後継者におけるスリー・サークルの形成については、ま ずは、Business(ビジネスでの貢献)が求められ、その貢献が認めらて、初めて Family(家族との関係)及び、Ownership(株式の移転)のサークルが大きくなり、 最終的にはスリー・サークルのバランスが整っていく流れが見えてきた。 これは、ムコ後継者である筆者自身の経験とも整合していると言える。 ムコ後 継者としてファミリービジネスに入社した後は、まずは Business(ビジネスでの 貢献)を通じて社内外から信頼される存在となり、最終的に Ownership(株式保有 と経営権)を握ることが重要であり、それからようやく第二創業に向けた事業戦 略や組織改革を実行に移すことができるようになるのではないかと考える。 以上を踏まえ、以下の通り、初期仮説②を設定する。 <仮説②> ムコ後継者が第二創業を成功させる前提条件として、 スリー・サークル・モデルの 3 つのサブシステムの内、 Business 面での貢献を通じて、Ownership の主導権を握ることが重要である。. 第三節. 初期仮説③. 本節では、第三章第三節で取り上げたアントレ(イントラ)プレナーシップに 関する先行研究から抽出した要素をベースとし、SAP SE のケーススタディーを踏 まえて、そこに筆者独自の考察を加えることで初期仮説③を導出する。 第三章第三節では、アントレ(イントラ)プレナーシップに関する先行研究の 中から、特に海外のイントラプレナーシップに関する先行研究と、日本の第二創 業に関する先行研究に注目し、それぞれの先行研究が示唆する重要な要素を抽出 することで、星取表(図表 11)を整理した。そして、初期仮説③を導出するにあ たり、コーポレートベンチャリングの観点で、筆者が近年最も影響を受けた ドイ ツ企業 SAP SE のケーススタディーを行うことで、同社の後天的なイノベーション の起こし方を学び、筆者独自の考察へと繋げる。 SAP SE(以下 SAP もしくは同社)は 1972 年にドイツで設立された。同社 HP 内 資料によれば、世界全体の売上高は約 3 兆 3,000 億円、従業員数は約 100,000 人 であり、日本法人である SAP ジャパンは 1992 年に設立されている。主にビジネス 向けのソフトウェア開発を手掛けており、会計・物流・販売・人事などの大企業 向け基幹システムパッケージ(ERP ソフト)の販売においては世界一の圧倒的なシ ェアを誇っている。 しかし、2000 年代から同社は停滞期に入り、既存の ERP ソフト事業が伸び悩む ようになる。また、会社の成長に伴い、組織が肥大化・官僚化し、多くの優秀な 人材が同社を退社する流れができてしまう。更に、マイクロソフト、オラクル、 IBM といった競合他社が SaaS を中心としたクラウドサービスを展開する中で、 同社は完全に乗り遅れてしまう。 そのような状況下、2010 年にビル・マクダーモット氏とジム・スナーベ氏の共 同 CEO 体制が発足する。データベース大手企業の買収をきっかけに、同社専用の 21.

(22) データベース SAP HANA をリリースし、それ以降 HANA を事業の中核に据え、次々 とクラウドサービス企業を買収している。また、従業員にとって働き甲斐のある 組織作りを重要な経営課題に据えて、人事評価基準を統一するだけでなく、人材 の多様性を促進し、組織を再活性化することに成功している。その結果、同社の 2019 年度の売上高は、2010 年との比較で 2 倍以上に伸びている。 SAP ジャパンの常務執行役員(本稿執筆時点)である大我氏によれば、同社の変 革の鍵を握るのは「3 つの P」であるとしている。(下記図表 17 参照) 図表 17. SAP の企業変革の鍵を握る「3 つの P」. (出所)同社資料より抜粋. 一つ目の People が意味するところは、できるだけ社外の異邦人と交わり、これ まで同社になかった新しい関係や交流を持つことで、オープンイノベーションに よる共創環境を構築すること。更に、同質性から抜け出すために、外部から新し い血(人材)を入れることも積極的に行っており、人材の多様性による組織の活 性化を実現した。具体的な指標(本稿執筆時点)として、社員の国籍は 145 カ国、 最年少取締役の年齢は 34 歳、女性従業員比率は 34%、女性管理職比率は 26.8%、 直近 5 年間の買収企業数は 10 社、顧客数は 44 万社であり、世界トップクラスの 人材の多様性を誇っている。 二つ目の Place が意味するところは、本社など既存の基幹事業を束ねている城 下町(ドイツ)から離れることであり、大胆な企業変革を実現するためには、お 膝元から物理的に離れた遠い距離から考えることが大切であるとしている。象徴 的な動きとして、イノベーションの聖地と呼ばれるアメリカ西海岸のシリコンバ レーに新規事業の拠点を構え、出島の成果を本社に逆輸入するスピンインを行っ ている。更に、経営トップが強いコミットメントを表明し、社内起業の推進、各 種アクセラレーションプログラムなどの充実を図り、社内起業家人材の育成にも 力を入れている。 三つ目の Process が意味するところは、企業文化を変革するために欠かせない 社員のマインドセットにおいて、共通言語やフレームワークを作り上げることの 22.

(23) 重要性を表している。一般的に共通言語やフレームワークがあることで、何かを 実行する際のスピード感が圧倒的に変わると言われており、具体的に同社ではデ ザインシンキングを軸に据えて企業変革に取り組んできたという。SAP ジャパンの 大我氏は、このデザインシンキングを、 「イノベーションを起こすためのマニュア ル」と表現している。 以上の SAP のケースからの学べることは、企業におけるビジネスモデルの大転 換を伴う大胆な企業変革において、①異邦人と交わり、多種多様な人材を活用す ること、②城下町から離れて、既存事業とは別次元のスピード感と新しいルール で新規事業を推進すること、③共通言語・フレームワークを掲げ、社員が同じ方 向を向いて再現性ある意識改革を行うこと、であると考える。 そして、これらの要素を筆者自身(ムコ後継者)におけるファミリービジネス に当てはめて考えてみると、以下のように整理できる。   . People:新しい血を入れる(ムコ後継者/外部人材/M&A) Place:出島を作る(既存事業から離れた場所・異なるルール) Process:経営理念の再定義(時代に合わせた見直しと社員への浸透). 図表 11 で抽出した重要な要素をベースとして、先行研究で複数指摘がなされ優 先度の高い項目を中心に整理を行った上で、本節で得られた学びを加える形で、 独自の成功要因をまとめると、以下の 7 つに整理できる。 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦. 業界課題の認識/健全な危機意識 既存事業・組織再構築/安定した財務基盤 既存事業周辺領域に新製品・サービスを拡大 トップの関与/失敗を許容する文化 新しい血を入れる(ムコ後継者/外部人材/M&A) 出島を作る(既存事業から離れた場所・異なるルール) 経営理念の再定義(時代に合わせた見直しと浸透). そして、上記で整理した独自の成功要因を、本研究においては、ムコ後継者に おける第二創業の成功 7 要因として定義する。(下記図表 18 参照). 23.

(24) 図表 18. ムコ後継者における第二創業の成功 7 要因 Intrapreneurship. 成功要因. 1) A ntoncic H isrich. 2) A lpakan. 3) C ynthia. 第二創業 4) B urgelm an. 5) 林・山田. 〇. ①業界課題の認識/健全な危機意識 ②既存事業・組織再構築/安定した財務基盤. 〇. 〇. ③既存事業周辺領域に新製品・サービスを拡大. 〇. 〇. ④トップの関与/失敗を許容する文化. 〇. 〇 〇. 〇. 〇. ⑤新しい血を入れる(ムコ後継者/外部人材/M & A ) ⑥出島を作る(既存事業から離れた場所・異なるルール) ⑦経営理念の再定義(時代に合わせた見直しと浸透) (出所)筆者作成. 以上を踏まえ、以下の通り、初期仮説③を設定する。 <仮説③> ムコ後継者が新規事業創造を通じた第二創業を成功させるためには、 「7 つの成功要因」を満たすことが必要である。. 24. 6) 鉢嶺. 〇.

(25) 第五章 研究手法 第一節 初期仮説まとめ 本節では、第四章で導出してきた初期仮説のまとめを行う。 <仮説①> ムコ後継者は、プリンシパル・エージェント問題を解消するだけでなく、 ファミリー企業が陥りやすいデメリットを解決できる存在として、 イノベーションや企業変革の切り札になりえる。 <仮説②> ムコ後継者が第二創業を成功させる前提条件として、 スリー・サークル・モデルの 3 つのサブシステムの内、 Business 面での貢献を通じて、Ownership の主導権を握ることが重要である。 <仮説③> ムコ後継者が新規事業創造を通じた第二創業を成功させるためには、 「7 つの成功要因」を満たすことが必要である。 本研究においては、以上 3 つの初期仮説を設定する。. 第二節. 研究手法(事例研究). 初期仮説を検証するための研究手法としては、事例研究を採用する。 詳細は以下の通りである。 【調査対象】 ・対象企業は、日本の中小ファミリー企業とする。 ・ファミリー企業の定義は、所有と経営が一致している企業とする。 ・2 代目以降のムコ後継者による新規事業創造を通じて、 第二創業を実現した企業を対象とする。 ・ムコ後継者の定義は、実子の配偶者、養子、養子縁組娘婿を含む。 ・ヒアリング対象は社長経験者もしくは現役社長とする。 【調査手法】 個別インタビュー形式(オンライン) 【調査期間】 2020 年 7 月~9 月 【質問項目】A:ムコ後継者における「Business・Family・Ownership」の優先順 位 B:ムコ後継者が第二創業を成功させるための成功要因 C:ムコ後継者が果たせる役割/ムコ後継者だからできること 本研究では、以上の研究手法に基づき、6 社の現役社長からお話を伺った。. 25.

(26) 第六章 事例研究 第一節 恵藤計器株式会社(瀬口力也. 代表取締役社長). 恵藤計器株式会社は千葉県美浜区に本社兼工場を構えるファミリー企業である。 主な業務内容は、計量器全般の販売・はかりの製造・修理・保守管理であり、「は かりの恵藤」として実績を積み上げ、地域産業から信頼される存在になっている。 2020 年 3 月に創業 70 年を迎え、今後は市場が求める価値の変化に対応し、様々な 産業の生産性・効率性の向上に貢献すべく、自動はかり等の更なる高付加価値製 品の技術習得を目標に掲げている。 代表取締役社長である瀬口力也氏(以下:瀬口氏)は、同社初のムコ後継者と して、4 代目社長の立場にある。前職は株式会社 NTT ドコモでキャリアを積んでい た。瀬口氏の奥様は、先代(3 代目)の実娘(4 人姉妹の 3 女)であるが、姉妹の 中に経営者になりたいというタイプがいなかったため、先代は事業承継候補とし てムコ後継者に活路を見出すことになった経緯がある。 【質問項目】A:ムコ後継者における「Business・Family・Ownership」の優先順 位 瀬口氏は、まず Ownership(経営権獲得)にこだわったと話している。具体的に は、事業承継という意思決定に際し、先代との間で経営権の移譲及び株式配分に ついて詰めの協議をしていた。その前提として、先代に対して経営資料を全て開 示してもらうよう依頼し、瀬口氏(自身も中小企業診断士の資格を持つ)の人的 ネットワークから中小企業診断士や事業承継に詳しい税理士と一緒に、事業継続 性や財務健全性などを徹底的にチェックしている。 Ownership に着目した理由は、後継者として、①経営することへの正統性を持ち、 社内外において、雇われ経営者ではないとの意思表示をするため、②先代の庇護 の下で経営をしていると成長が遅くなると考え、最終意思決定者として自分自身 の成長を早めるためであったと話している。 これに対して先代は深い理解を示し、事業承継は計画的に進んでいった。 「社長 をやって欲しい」と持ち掛けられて、軽く受諾するような後継者候補よりも、中 身をしっかりと理解した上で引き受けてくれる後継者候補の方が、精神的に安心 できるという面があったと考えられる。結果的に、事前に経営資料を全て開示し て欲しいと後継者世代が持ち掛けたことがきっかけで、それが先代世代への信頼 醸成に繋がったケースと言える。 次なる優先順位として挙げているのは Family である。特に一族の中でのキーマ ンは義理の母だったと話しており、瀬口氏に事業承継して欲しいと願い、 再三に 渡り背中を押す存在だったとのこと。外堀を埋めるかのように、会社の近くに良 い土地を探し出し、そこに家を建てるよう提案までしてくれたというエピソード が印象的である。一方、先代である義理の父は終始遠慮がちだったとのこと。一 流企業に就職していた瀬口氏のキャリアのことや瀬口氏のご両親の気持ちを考え ると、事業承継に関して無理強いはできないという思いが背景にあったのではな いかと瀬口氏は振り返る。この先代からムコ後継者に対する配慮と、それに対す 26.

(27) るムコ後継者から先代に対する配慮の存在が、同社の経営の根底にあるものと感 じられた。 【質問項目】B:ムコ後継者が第二創業を成功させるための成功要因 瀬口氏はまず、⑤新しい血を入れる、⑥出島を作る、⑦経営理念の再定義の 順 番で、3 要因の重要性を指摘している。 その中でも、要因間の前後関係及び、相互作用を重視しており、⑤ムコ後継者 という新しい血を入れて、⑥その後継者に経営権を渡して実質的な経営を任せ、 ⑦その後継者が経営理念を再定義するという流れが重要であるとしている。 事業 環境の変化が激しい状況下、先代世代が設定した経営理念の良い所は残しつつ、 時代に適合する形で後継者が経営理念を再定義し、社内に浸透させることの重要 性について触れている。 次の段階で重要な要因として、①健全な危機意識、④トップの関与、②既存事 業の再構築、③既存事業周辺領域に新製品・サービスを拡大、の順番で 4 要因を 挙げている。 計量器の業界において既存事業の継続だけでは、縮小均衡に陥るが、新規事業 として自動化など付加価値の高いサービス事業を行えば 、まだ成長が可能である ということは、外部から入社した瀬口氏には自明のこととして理解できる 。一方 で、同社においては、社歴が長いこともあり、現状維持バイアスが非常に強く働 いており、既得権益も存在し、変化したくないという社員の抵抗をも経験したと 瀬口氏は話している。このことから、健全な危機意識を持つこと及び、その問題 意識に基づいてドラスティックな企業改革に踏み込むことが いかに難しい(イン センティブが働きにくい)かが見て取れる。 まず瀬口氏は、健全な危機感を社内に植え付けるために社員全員と一対一の面 談を実施し、自社の置かれた状況・抱える課題・なぜ既存事業の見直しと新規事 業が必要か、ということを徹底的に伝え続けることからスタートした。初めはな かなか成果に繋がらなかったものの、少しずつ共感する社員が現れ、既存事業の オペレーションは安心して任せられる状況を作り出すことができるようにな って いる。 一方、新規事業創造については、既存社員のボトムアップに期待するのは限界 があり、ここで必要になるのがトップの関与である。新規事業が軌道に乗るまで はトップ自らが推進役となり、仕組みとして機能するまで全精力を傾ける。そし て、事業化できたタイミングで、チームに自律権を持たせて任せていくスタイル を取っているとのこと。ここでもやはり要因間の前後関係及び、相互作用の重要 性があると指摘している。 【質問項目】C:ムコ後継者が果たせる役割/ムコ後継者だからできること 瀬口氏は入社後まもなく、同社が抱える構造的な課題や事業運営における様々 な無駄や余剰人員に気づけたと話をしており、これは、ムコ後継者として外部目 線で客観的に会社を見ることができたからであると振り返っている。また、 瀬口 27.

(28) 氏は大企業での勤務経験があり、若い内から物事を論理的に整理して課題を抽出 し分析するトレーニングを積んできており、外部経験が活きているとも言え、そ れゆえ上述の通り、健全な危機感を持つことができたと考えられる。 その他、閉鎖的になりがちな経営体制においては、ムコ後継者が入ってくるこ とで、身内びいきを排除し、経営層の多様化を実現することができるメリットを 挙げている。更に、ムコ後継者個人においては、従来のキャリアを捨ててファミ リービジネスに飛び込んでくる過程で少なからずリスクを取っているため、より 大胆に行動し、意思決定を行うことができる実感を持たれているという話 もされ ている。 また瀬口氏は、 (実子後継者と比較して)ムコ後継者の方が、先代が任せようと するインセンティブが働きやすい点について指摘している。実子後継者の場合は、 いくつになっても先代側から子供として見られてしまう傾向があるが、ムコ後継 者の場合は、これまで積み上げてきたキャリアを捨ててまで跡継ぎとしてきても らっているという観点から、先代の頭の中にムコ後継者の両親の顔が浮かび、多 少なりとも負い目を感じる部分がある。そして、早めに経営を任せないと申し訳 ないという思いが生じることで比較的スムーズな承継に繋がり、実際の事業承継 も早く進み、バトンが早い段階で次の世代に 渡ることで、事業環境の変化に対応 しやすくなり、結果的に企業業績が向上するのではないかと分析している。. 第二節. 有限会社三田三昭堂(三田英彦. 代表取締役). 有限会社三田三昭堂は、群馬県館林市に本社を置くファミリー企業であり、1928 年に印章店として創業以来、文具販売業を中心に地域の発展に貢献してきている。 現在の主な業務内容は、文具の企画製造販売・事務用品販売・情報関連機器販売 及び保守であり、時代の変化に応じた独自の付加価値を提供する姿勢を貫いてい る。特に異業種連携を通じた商品開発に力を入れ、自社で企画製造販売を行って いる万年筆・インク・革小物などのオリジナル製品は大手 EC サイトや大手雑貨店 などで広く販売されており、知る人ぞ知るブランドとしてファンに愛され ている。 代表取締役である三田英彦氏(以下:三田氏)は、3 代目社長の立場にある。前 職は日本電気株式会社(以下:NEC)でキャリアを積んでいた。三田氏の奥様は先 代の実娘であり、子供の頃から、結婚相手が家業の跡継ぎになると言われて育っ てきた経緯があり、三田氏は奥様とのお付き合いの段階から跡継ぎとしての適性 を見定められていたという背景がある。 【質問項目】A:ムコ後継者における「Business・Family・Ownership」の優先順 位 三田氏は、まず Business(ビジネスでの貢献)が最優先だったと話している。 三田氏が同社に入社した 1990 年は日本全体がバブル経済のピークを迎えていた時 期であり、それ以前の同社業績は比較的良かったものの、バブル経済の崩壊と共 に業績が落ち込んでいき、社員からは「ムコが来てから業績が落ちた」と批判を 受ける状態で、正に針の筵の状態だったと振り返る。そのような状況下、三田氏 28.

(29) は営業一兵卒から業務をスタートさせているが、汚名を返上すべく猛勉強を続け、 ビジネスでの貢献を通じて周囲に存在を認めてもらうしか方法がなかったと 話し ている。 また、それまでの同社事業は 100%地元の顧客を相手にしていたこともあり、三 田氏は地域で顔を売ることが肝要と考え、地元の社会活動団体(商工 会議所・青 年会議所・消防団など)に最大 12 団体ほど所属し、積極的な活動も行ってきてい る。 ビジネスでの貢献が評価されるようになったのは、新規事業の創出がきっかけ である。従来の文具販売業は納期と価格の勝負でしかなかったが、この事業に未 来がないと感じた三田氏は前職の NEC での知見を活かし、情報関連分野での新規 事業を立ち上げた。具体的には、まだパソコン(Windows95)が普及する前にワー プロを拡販することからスタートし、紙文化から OA 化への波を捉え、OA 機器導入 支援からアフターサービスまでを手掛ける OA 化推進事業を主導した。この事業は これまでの文具販売業の消耗品売り切り型事業と異なり、顧客と継続的に接点を 持ちうる新しい新規事業であり、先代世代社員には手出しができず、三田氏の貢 献を認めざるを得ない状況を作り出すことができた事例である。 それでも尚、外部から入社した三田氏への風当たりは強く、先代世代 も簡単に は認めてくれず、事業承継を通じた世代交代も進まず、会社の体質は変わらぬま まであったとのこと。変革の契機となったのは 1995 年、三田氏自身が「クーデタ ー」と表現する思い切った経営改革である。 まず着手したのは、古参の親戚役員 について、親族会議に諮り勇退して頂いたこと。その件に関して は、まず社長で あった義母に相談し、三田氏自身の進退をかけて(離婚も視野に入れて)強い気 持ちで推し進めている。同社の将来を真剣に考え抜いてのことであり、親戚役員 の息のかかった従業員を少しずつ入れ替えていくことで、経営体制の刷新を図っ ている。 更に、新規事業として郊外に大規模店を出店し、これまでの文具販売業とは一 線を画す事業をスタートさせた。最後まで役員として残っていた義母に関しても 「この新しい業態にはついていけない」と諦めてもらう形で 勇退してもらうきっ かけを作り、これが事業承継の機会となっている。 三田氏は次なる優先順位として Family を挙げているが、先代世代や一族のカル チャーに染まるのではなく、客観的な視点から先代世代と適切な距離を置いてい ることが見て取れる。 【質問項目】B:ムコ後継者が第二創業を成功させるための成功要因 三田氏はファミリー企業自体や事業を地域の顧客と一緒に作り上げていくイメ ージを持っており、まず「地域ガバナンス」という新たな考え方について触れて いる。これは前述した、三田氏の積極的な地元での社会活動に表れていると言え る。 その上で三田氏は、①健全な危機意識、⑦経営理念の再定義、⑤新しい血を入 れる、⑥出島を作る、という順番で 4 要因の重要性を指摘している。 29.

参照

関連したドキュメント

 研究開発(R&D)に資金や人材等余裕の少ない中小企業は従来の延長線上のプロダクトやプ

4.調査結果 (1)仮説1の検証

作業仮説 本調査データは、 製品開発活動の 組織的、 戦略的な特質に 関する多元的な 分析を可能にするもの であ るが、

たわけではないが,建築学系の研究が主流であった。本稿では,社会科学系の先行研究に依

業では「経営者との相性を含め仕事の仕方」が異なっていることを理解しているかどうかが大企業か

を前に私どもの会社理念と相手方の取引条件に大きな

 まず第1章では、中小企業会計基準の機能と開

中国における創業・投資ファンドの発展と 中小企業資金調達 李 彭 目 次 はじめに 第一章 市場経済化の進展とベンチャー体制の確立