第5章 実証調査の結果
3. 地方公務員職務満足度とストレス度の関連
先行研究によると、職業満足度と仕事ストレス度の間には負の相関がある。ストレス度 が高いほど職業満足度が低くなる傾向がある。本調査においても同じような結果が出てお り、P<0.01でストレス指数と職業満足度の間には顕著な負の相関がある。
表5-24と表5-26を見ると、ストレス指数と職業満足度の各項目にはほぼ顕著な負の 相関があり、地方公務員のストレスが職業満足度に大きな影響を与えていることが分かる。
地方公務員のストレスを解消できれば、公務員の仕事の効率性も改善できるであろう。さ もなく、政府の公共サービスや政策制定などにも影響が及ぶと考えられる。
表5-24 地方公務員のストレス度と職業満足度の相関性
全体的満足度 ストレス度指数
全体的満足度
ピアソン相関係数 有意性.(両側)
標本数
ストレス度指数
ピアソン相関係数 -.459**
有意性.(両側) 0
標本数 325
**.
Correlation is significant at the 0.01 level(両側)84
表5-25 ストレス指数と職業満足度各項目の相関性
給料 昇進 上司 福祉 特別
報酬
作業手
順 同僚 業務の
性質 交流 全体的 満足度
給料
ピアソン相関 係数
有意性.(両側)
標本数
昇進
ピアソン相関 係数
.597*
* 有意性.(両側) 0 標本数 325
上司
ピアソン相関 係数
.501
**
461
**
有意性.(両側) 0 0 標本数 325 325
福祉
ピアソン相関 係数
.46
6** .342** .26**
有意性.(両側) 0 0 0 標本数 325 325 325
特別 報酬
ピアソン相関 係数
.651*
* .634** .716** .432**
有意性.(両側) 0 0 0 0 標本数 325 325 325 325
作業 手順
ピアソン相関
係数 .34** .324** .293** .155* .341**
有意性.(両側) 0 0 0 .042 0 標本数 325 325 325 325 325
同僚
ピアソン相関
係数 .221** .079 .277** .078 .276** .014
有意性.(両側) .004 .3 0 .309 0 .856 標本数 325 325 325 325 325 325 業務
の性 質
ピアソン相関
係数 .53** .496** .36** .254** .45** .242** .351**
有意性.(両側) 0 0 0 0 0 0 0 標本数 325 325 325 325 325 325 325
交流
ピアソン相関
係数 .535** .374** .701** .316** .648** .271** .387** .394**
有意性.(両側) 0 0 0 0 0 0 0 0 標本数 325 325 325 325 325 325 325 325 全体
的満 足度
ピアソン相関
係数 .803** .723** .752** .504** .833** .487** .413** .698** .753*
* 有意性.(両側) 0 0 0 0 0 0 0 0 0 標本数 325 325 325 325 325 325 325 325 325 スト
レス 度指 数
ピアソン相関
係数 -.341** -.251** -.414** -.187* -.361** -.214** -.272** -.340*
* -.407
** -.459**
有意性.(両側) 0 0.001 0 .014 0 .005 0 0 0 0
標本数 325 325 325 325 325 325 325 325 325 325
**.Correlation is significant at the 0.01level(2-tailed).
*.Correlation is significant at the 0.05 level(2-tailed).
85 4.分析結果のまとめ
公務員のストレス度と職務満足度は負の関係にあり、ストレス指数とほとんどの職務満 足度因子は負の相関にある。
職場での女性の立場が弱いとは言え、公務員の性別別の職務満足度の相違は顕著ではな い。上海市と神奈川県の女性公務員の平均職務満足度は男性よりやや高い。ここでは調査 結果は仮説と異なっている。
年齢を見ると、全体的な職務満足度には相違はないものの、上海市公務員には、「業務 の性質」の因子においてものみ、年齢別の相違が顕著に存在する。神奈川県の調査結果で は、「昇進」項目に関して年齢別の相違が顕著に存在している。「30-35歳」の調査対象は
「41-50歳」や「50歳以上」の調査対象より満足度が高く、有意な差がある。「特別報酬」
項目も「36-40歳」の調査対象は「41-50歳」の調査対象より顕著に高い。
学歴については、上海市の調査結果によると、学歴が「修士以上」レベルの公務員は低 学歴の公務員より「上司」、「同僚」、「交流」の3つの因子で職務満足度が高い。神奈川県 の地方公務員は、上海市と違い、高卒の公務員も 1 割を占めている。そして全体的満足度 に学歴による差異はないが、「特別報酬」項目には有意な差がある。「修士修了」者の満足 度は「高卒」と「大卒」より顕著に高い。したがって日本は仮説に一部一致する。
上海市の公務員調査の結果では、勤務年数と公務員の職務満足度の関連性は少ない。た だし、新人公務員(勤務年数
1
年未満)の調査結果をみると、上司に対する満足度がその 他の勤務年数の公務員より高い。これは公務員の職場では人間関係がとりわけ重視される ことから、公務員ならではの結果といえよう。神奈川県の地方公務員のうち「20年以上」勤務する公務員の全体的満足度は「6-10年」や「11-20年」勤務する公務員よりも顕著に 低い。そして前述の年齢層の結果と同じく、「昇進」の項目のみ「20年以上」勤務する調 査対象者は「6-10年」や「11-20年」勤務する公務員よりも低く、有意な差があることが 分かる。
今回の調査対象者である上海公務員
200
名の全体的職務満足度の平均点数は124.65
であり。中位(126)に達していない。仮説の通り、地方公務員の職務満足度は全体的に低いといえ る。しかし、同じ地方公務員である神奈川県の職員は、全体的職務満足度の平均点数は
126.24
と、標準中間値よりやや高い。「業務が煩雑性から地方公務員は全体的に職務満足度が低 い」という仮説とは一致していないが、「日本の地方公務員の職務満足度は中国より高い。」という仮説とは一致する。
また、「日本の地方公務員のなかで民間企業での勤務経験をもつ者は、企業と公共部門の 差異を強く意識したうえで公共部門を選んでいるため、民間企業に勤務した経験がない公 務員よりも全体的満足度が高い。」との仮説とも一致していない。ただし、人間関係の項目 以外は、民間企業の勤務経験者は確かに他の調査対象よりも満足度が高くなっている。
86 5.フォローインタビュー調査の結果
(1)組織から見る地方公務員の現状
上海市の人事管理者も神奈川県の人事担当者も、地方公務員に対する人材像はほぼ似て いるとみられる。具体的に述べると、国民と地域のために、全身全霊を捧げ、奉仕する人 間である。どの国においても、公務員に求める最高の質は公正・無私であろう。
この点について、上海市のある公務員人事管理者は、公務員の無私精神の有無は試験や 一回二回の面接で見極められるものではないと述べた。公務員採用の時点では、履歴書、
試験の得点と面接でしか応募者を知る手段がないため、成績が優秀で能力がある応募者を 採用する結果になる。公務員試験ブームが続いている中国では、専門性の高いエリートが 公務員になることが多くなるが、そこでは国民に対する奉仕精神の有無が決定要素になる。
奉仕型政府の構築には公務員一人一人の努力が必要である。その際に自らをサービスの提 供者とするか、国民の管理者とするか。公務員の評価だけではなく、国の公共機関全体の 効率性と潔白度に係わる問題である。
それに対して、神奈川県の人事担当者は、奉仕精神より地方公務員の専門性を強く求め ている。日本の地方公務員は地域間の転勤が少ないが、部門間の異動は多い。特に新人公 務員の場合は、各部門を移動しながら組織の運営を理解し、知識を身につけることが求め られる。神奈川県の場合、2009 年の人事制度改革により、10 年間の勤務の後、およそ 35 歳のときに自分自身の関心がある分野を志望することができる。この制度は地方公務員に 選択権を与え、モチベーションを高め、興味のある分野に関する専門性を高め、公共組織 の効率性の発揮に貢献すると考えられる。しかし、実際にこのルートを利用して志望先に うまく異動できた公務員は 3 年間で僅か数名しかいないのも現実である。従来のジェネラ リスト型公務員の育成方法を改善し、ジェネラリストよりも専門性がある職員を育成する ことが求められている。もっとも、人事管理者が決めた道が、その公務員が希望する分野 とずれがある場合は、両者は妥協しなければならない。無論、立場が弱い地方公務員は組 織に従う状況が多いであろう。地方公務員が管理職に就きたくない理由として、責任を負 いたくないという理由のほかに、地方公務員のキャリアデザインが自発的なものではない ことも理由にあるであろう。神奈川県のような人事制度改革が進められれば、公務員のキ ャリアデザインは自発的なものになり、モチベーション向上の激励因子になると思われる。
上海市と神奈川県の人事管理者はそれぞれ地方公務員に求める人材像にギャップがあり、
それらを無くすために公務員の採用試験、昇進方法、研修などの激励制度に取り組んでい るが、公務員や公務員管理者の観念が時代とともに変わっていくにはまだ時間がかかるで あろう。
(2)公務員からみた地方公務員という仕事
上海市の新人公務員に当時公務員を志望した理由を聞くと、「安定感」、「福祉がいい」、「休 日確保」など公務員に対するイメージ的な概念しかないようである。しかし、公務員の職
87
場を経験し、2、3年が経つと、公務員として感想や考え方は変わっていく。「福祉がいい」
という利点や職業として「安定感」はあるが、職場における「競争」は企業と変わらない ほど激しいという。基層公務員の数が多いため、管理職になる道もいろいろと難しい状況 がある。仕事の煩雑さや手続の反復など、地方公務員ならではの無力感も感じられる。そ して、公務員にとって避けられないものが、職場の人間関係である。年に2回の人事評価 がボーナスに結び付いているが、職場の安定性のために評価はほぼ同じである。その上、
人間関係の円滑は、部門内部だけではなく、部門間でも必要と見られている。一方で、「休 日の確保」も期待とは異なっている。上海市の公共機関や政府機関は組織が大きいため、
各部門の仕事量は実に多い、忙しい時期になると、休日出勤もよくあるという。国民は公 務員を批判するが、現場の公務員も職場に対する意見や不満をためているのである。ある 公務員歴
3
年の職員は、「最初、公務員試験に受かった時は確かにモチベーションもやりが いも感じましたが、雑用に追われているうちに忘れました、初心を。」と語っている。しかし、地方公務員の職場には多くの欠点があると同時に、仕事の価値を感じる時もあ るとの意見もあった。大規模なプロジェクトに参加し、無事に完成した時や、市民の力に なったと感じた瞬間には、公務員になってよかったと実感することもあるという。
つまり、自分の能力が生かし、人の役を立った時こそが、仕事のやり甲斐と価値を認識 する時と言えるであろう。地方公務員の職業の性質が地味で反復する作業が多いからこそ、
公務員の発想やアイデアなどを重視しなければならないと考える。地方公務員の仕事に対 する興味が、公務員のモチベーションを高める鍵となっているかもしれない。地方公務員 にキャリアデザインの権利を与え、地方公務員の小さなアイデアを試す機会を与え、理想 の追求をサポートするなど、公務員の自発的な成長を尊重することが重要と考えられる。
(3)実証研究の結果に関する議論
女性の職場での立場が弱いとは言え、公務員のあいだでは性別別の職務満足度の相違は 顕著ではない。上海市と神奈川県の女性公務員の平均職務満足度は男性よりやや高い。そ の理由については、上海市と神奈川県のインタビュー調査では意見が分かれている。
地方公務員は給与が横並びで昇進しにくいという特徴をもつが、それに対する認識にお いて男女差があるのが原因であろうと、上海市の公務員は述べている。あるいは、男性と 女性の認知の視点が違うことから、公務員の職場に対する態度も違ってくるのかもしれな い。男性は競争心が強く、個人の能力や属性を重視し、過程よりも結果を求める場合が多 く、職場においても昇進という結果を求めている。女性は環境を認識したうえで、その環 境に適応する行動や態度を整えることが多い、結果よりも過程における自己実現で満足す る。この心理学的な考え方は女性ならではの答えであろう。
神奈川県の人事担当者によれば、女性は公務員という職業の「安定感」を一番に求めて いるので、昇進や仕事内容に対する欲求が男性より少ないと考えられる。その理由として、
女性は結婚や出産後に家庭と仕事を両立させる時、家庭を仕事より重要な位置に置くこと