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第7章 結論:激励制度と心理的契約

2. 中国公務員の激励制度の整備

(1)公務員激励制度の基礎原則 1)精神的激励と物質的激励の統一

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年以前の計画経済時代には、公務員の激励方法は精神的激励だけであった。物質的 な激励方法は批判され、人のモチベーションはもっぱら自律的に調整されるものとされた のである。改革開放の初期においては、市場経済の影響から物質的利益が極端に重視され たことから、公共機関も物質的な面ばかりを目標にし、公務員も国の奉仕者としての観念 が薄くなった。かかる反省から、公務員の激励制度においては、公務員の精神的な面と「経 済人」の面の双方を配慮し、物質的激励と精神的激励を適切に調和させて公務員のモチベ ーションを向上させることが目標とされるべきである。

2)組織目標と個人目標の統一

地方公務員の個人的利益と組織の利益を一致させるためには、個人のキャリア計画を組 織目標に結び付けることを考えるべきである。公務員個人の仕事の発展と組織の発展が結 びつけられれば、職場での連帯感や個人の使命感が生じやすくなる。

とくに地方の現場にいる公務員は、公務員総数の 7 割を占めており、国民と直接接触し ていることから、その仕事ぶりは政府にとってきわめて大きな意味を持つ。したがって、

政府は現場の公務員に対する関心をもっと持つべきである。

また、各年齢層の希望や特徴に応じてキャリア計画を立てる必要がある。新人公務員は 研修や実習に熱心に参加するが、中年層はもっぱら昇進や処遇改善に関心があることから、

それぞれのニーズを踏まえて人材を活用することが望ましい。

3)激励の基準と結果の統一

どのような組織においても、適切な激励と公正で客観的な評価が必要である。変化の少 ない地方公務員組織ではとくにそうである。それがなければ、組織に期待される行動や高 いモチベーションを実現することは困難である。

(2)激励制度の改善 1)業績評価

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地方公務員の評価制度に業績主義を導入する必要がある。その際の評価の重心は、「徳」

や「勤」から「能」や「績」に移すべきである。

まず、部署や職務ごとに詳しい評価指標を立てる必要がある。部門や職位の違いを明 らかにするとともに、定量的で操作しやすい具体的な指標を開発することが重要である。

そして公務員自身にも評価プロセスに参与する権利を与える必要がある。評価指標の設 定、評価結果の監督など評価プロセスに公務員が積極的に参加することによって、評価に おける自律性と公平性が保障されるからである。

最後に、フィードバックが必要である。確実なフィードバックによって、新たな評価の 力点や改善点を見つけることができる。地方公務員も評価結果から自分自身の長所と短所 に気付き、自分に合った目標を設定することができる。組織と公務員にとって適切なフィ ードバックがあれば、新しい評価手法を適切に開発することができるであろう。

2)昇進

昇進に際しては、部署の人員構成の合理化が必要である。各年齢層、学歴層、そして研 究型人材と管理型人材や実践型人材など多様な人材が配置され、多様なルートを通じ、平 等に昇進する。

そして、地方公務員の職級の調整も大きな意味がある。昇進速度が低いことや昇進の機 会が狭いなどの問題は公務員のモチベーション低下の原因の一つであることから、職級を 調整して昇進機会を増やし、公務員のモチベーションに影響を与えることである。

また、公募による昇進の制度の実践が望まれる。今まで地方公務員の昇進方法は自然昇 進、委任昇進、競争昇進三つである。そのうち自然昇進とは勤務年数によって昇進するこ とで、委任昇進は命令による昇進のことである。この2つの昇進ルートは一般的なもので あるが、今後は競争昇進を推進すべきである。「競争昇進制度」とは、組織内向けの職位募 集から、申請の受付、書類選考、組織内の投票、筆記試験、面接、考察、選考結果の公示 など一定のプロセスを通し、公開による公平かつ公正な方法で職位募集を行うものである。

昇進の機会が多くなり、昇進のルートが透明化になれば、地方公務員の仕事へのやる気を 導き出すことができる。たとえ結果的に昇進がかなわなくても、職員のモチベーションは 高まるであろう。

3)報酬管理

中国では公務員法は制定されたが、公務員の給与に関する法律はまだ整備されていない。

そのため収入の不透明性や不公平性が問題になっている。地方公務員のグレーゾーン収入 を避けるためには、収入制度の法律化も必要である。特に地方手当の透明化と貨幣化など 根本的にグレーゾーン収入を避けるシステムが必要である。給与システムの法制化の強化 は公務員の報酬管理の基礎になるものである。

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心理学の研究によれば、業績による収入は

10%-15%の間で最も機能すると考えられて

いる。地方公務員の給与も構成要素の合理化が必要である。そして地方間の格差について は、地方公務員の給与と地方の民間企業の平均給与の比較調査を行ったうえで、公式に地 方の格差係数を計算すべきである。そして地方格差係数でもって地方間の消費水準を調整 し、地方公務員の給与の詳細を定めることが望ましい。

3.中国公務員の激励制度を整備するうえでの公的制度以外の課題

(1)キャリア開発の推進

1)地方公務員のキャリアデザイン

凌文辁らの「中国における職員―組織承諾のモデル研究」(2001)によれば、キャリア開 発がうまくいくと予測する地方公務員の割合は

22%であり、78%の地方公務員は将来のキ

ャリア開発に対して「分からない」か「良くない」と評価している。日本の地方公務員意 識調査にも類似な結果がある。日本経営協会の「若手社会人就労意識ギャップ調査報告書

2012(行政・自治体版)」によると、若手職員におけるキャリアデザインの有無について

は、「持っている」が

40%であり、「持っていない」が 60%となっている(日本経営協会 2012)。

本研究のアンケート調査の結果も、「昇進」についての満足感は中日両国とも中間値(14)

よりかなり低く、中国が

11、日本が 12

にとどまっている。フォローインタビューにも地方 公務員のキャリア開発に対する批判的な見解が多く見られた。神奈川県の人事管理者も、

公務員のキャリアデザインを人事制度改革の重要な一環として注目している。人事制度改 革の導入から

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年間、神奈川県では組織をあげて公務員のキャリア開発に力を入れてきた。

新制度では、採用後

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年間は各部門を経験し、組織の全体像を理解しながら自分の関心の ある分野を見つけ、能力開発に取り組む。そして

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年後に自ら興味が持っている部門への 配属を申請することができる。現在はまだ制度が始まって間もないことから、期待通りの 配属がかなった公務員は少ないが、公務員に選択の権利を与えることが重要と考えられる。

中国の地方公務員に対するインタビューでは、大部分の公務員はキャリアデザインを期 待しているが、多くの公務員は政府組織はキャリアデザインができる環境を整えてないと 感じでいる。

2006

年に施行された公務員法では、公務員の昇進を単純な職級昇進から、職級と職位の

「双道制」の昇進ルートに移すことを定めている。公務員の昇進機会が多くなれば、公務 員のキャリア開発の多様性を保つことができるであろう。昇進の機会が与えるだけではな く、公務員という職業のキャリアデザインができる環境も重要である。中国の政府機関の 部門は規模が大きく仕事の内容も複雑であるから、日本のように

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年間にわたって配置換 を行うことは難しい。また、同じ部門で仕事を続けることで専門性や経験を積み重ね、自 分の関心にある分野を深く探求することもできるというメリットもある。したがって、組 織は業務だけに注目するよりも、その職員の潜在的能力や関心に気付き、サポートするこ

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とが大事である。公務員の探求精神を促し、関心がある分野に挑戦する機会を与えること も、地方公務員キャリアデザインの重要な一環であろう。

昇進は、地方公務員のキャリアデザインの手法であるとともに、公務員モチベーション の向上を保障するものである。地方公務員が自分の仕事に興味をもち、自己挑戦するとい うことは能力面のキャリアデザインであり、公務員のモチベーション向上の前提となるも のであると考えられる。いかなる小さな発想やアイデアでも、奨励することよって公務員 一人一人のやる気を引き出すことができるであろう。

2)女性公務員に対するサポート

本研究のアンケート調査では、上海市も神奈川県も女性地方公務員の全体的満足度は男 性よりやや高く、「昇進」、「作業手順」、「業務性質」、「交流」などの項目において も男性地方公務員より得点が高いという結果が出ている。しかし、インタビューの結果に よると、女性は男性より昇進しやすいわけではない。女性公務員は、作業手順に満足して いるわけではなく、職場では弱い立場にあるため、キャリアの期待も少ない。しかし、こ のような状況も徐々に変化していくと思われる。上海市女性委員会の 2005 年の調査結果を

みると、

58.4%の女性公務員が昇進に対して「とても期待する」や「期待する」を選択して

いる。この割合は同じ調査を受けた男性公務員よりも

0.7%高い。中国でも日本でも女子大

学生、女子院生の割合は上昇しており、高い目標のキャリアデザインを持つ女性も多数存 在する。公務員を志望し、その仕事に自己実現を期待する女性は日々増加している。女性 公務員の職業に対する期待が大きくなっているのであれば、公共部門の職場環境、人事制 度、そして上司の態度も変化する必要がある。もし職場環境を相応に整備できなければ、

両者の間の相互期待のズレは拡大し続けていくことになる。その格差はやがて両者の心理 的契約の破棄にも到るであろう。心理学の研究は、心理的契約の破棄は従業員の態度や行 動にも負の影響を及ぼし、組織の効率にも損失が及ぶことを明らかにしている。また、心 理的契約の違反行為は従業員の消極的な行為(離職、懈怠など)に顕著に正の相関があり、

従業員の積極的な行動や態度(仕事効率、組織に対する承諾、職務満足度、組織忠誠度な ど)に顕著に負の相関があることが分かっている(魏峰・張文賢 2004)。政府組織は、こ うした公務員の心理的契約の変化に注意を払う必要がある。女性地方公務員に対する職場 のサポートも「転ばぬ先の杖」とも言えるであろう。

日本では、女性公務員をサポートするため、さまざまな工夫を行っている。2004(平成

16)年7月に日本政府は、女性の幹部職員への登用を促進するための実効性のある育成・

登用方策を多様な観点から検討することを目的に「女性幹部職員を育成・登用するための 研究会」を設置した。人事院では、この研究会の報告書を受けて、2005(平成

17)年から

女性幹部職員の育成・登用に向けた施策を展開し、女性公務員の採用から、多種類の職務 経験や職場研修など、女性公務員のキャリアをサポートし、女性公務員が家庭と仕事を両 立できる職場作りに取り組んでいる。