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第6章 公務員激励制度の改革

1. アンケート調査による中日地方公務員モチベーションの影響要因

(1)男女共同参画の推進

中国も日本もまだ公務員の男女比例は1対1に達していないが、両国とも全体的に女 性公務員の満足度が高いことが分かる。男性公務員は女性公務員よりも数が多く、管理職 になっている職員も多いが、女性公務員のキャリア計画は男性と差異があると考えられる。

女性公務員は昇進の際に弱い立場にあるが、女性は地方公務員の職業に安定性を一番に求 めていることがインタビューなどから分かる。女性公務員は細かい観察力と緻密な仕事ぶ りが特徴であるので、煩雑な作業手順や定型的で反復的な地方公務員の仕事内容も女性に 向いていると思われる。

アンケート調査の結果は、「昇進」の項目のみ両国とも男性公務員の満足度が女性よりや や高いことを示している。キャリア開発の視点から見ると、女性はまだ弱い立場にいる。

日本の地方公務員採用者に占める女性の割合は、2007(平成19)年度は都道府県採用試験 の合格者で24.6%、市区採用試験の合格者で48.2%であったが、28

2010

(平成22)年度には 都道府県の合格者で25.2%、市区の合格者で44.9%となっており、国家公務員に比べて地方 公務員の女性合格者の割合が増加している。中国においても2000年から新規採用公務員の 女性の割合が年々上昇している。多数の省市において女性公務員の割合が3割以上を占め ている。2011年の全国の新規採用公務員に占める女性の割合は42%である。上海市楊浦区 のデータを見ると、2000年の女性新規採用公務員の割合は同区の新規採用公務員の50%に 達し、2010年には67%まで上昇している。それに対して公務員の管理職における女性公務 員の割合はまだ小さいままである。中央国家機関の女性幹部の割合は全体の約23%にとど まり、全国処級以上幹部職の女性公務員も16.5%にとどまっている。29女性幹部職について は「副職が多い、正職が少ない;虚職30が多い、実職が少ない」といった現状があり、所属 先も教育・文化・衛生などの部門が多く、経済・金融部門に所属する人は少ない状況にあ る。日本の地方公務員の管理職に占める女性の割合も増加傾向にあるが、いまなお低く,

2011

(平成23)年には都道府県で6.4%,政令指定都市で9.8%,市区で10.5%,町村で9.8%

となっている。31女性の公務員が年々増加し、女性の昇進志望が強くなると、今までのよう な昇進における性別格差が続くとしたら、女性公務員のモチベーションが低下する可能性 が十分にある。

282010(平成22)年度の「地方公務員における女性の採用・登用等に関する調査(概要)」によるデータ

である。

29李建国、中国全国人民代表大会副委員長兼秘書長「女性権利利益の保障実施状況について」2010 年 6 月 23 日

30顧問などの名前だけで仕事・権力のない職務上の地位。

31内閣府「地方公共団体における男女共同参画社会の形成又は女性に関する施策の推進状況」(平成 23 年 度)による。

92

アンケート調査結果からは、昇進の道が狭いとはいえ、安定性を求める女性地方公務員 にとってはまだ納得できる範囲内であることから、職業満足度は男性より高いと思われる。

男女共同参画の推進にあたっては、女性のキャリア目標も次第に高くなっていくと思われ るので、女性のキャリア開発を重視すべきであると考える。

(2)学歴偏重の現状

上海市の調査結果を見ると、院修了の地方公務員は全体的職務満足度が他の学歴出身の 地方公務員よりも顕著に高い。それに対して、神奈川県の地方公務員の結果を見ると、「特 別報酬」項目以外、全体的満足度における学歴の差異はない。

中国における地方公務員の職業の特徴は安定性であるが、昇進時の競争は激しい。他の 昇進基準と比べると、学歴が最も客観的な指標であるため、学歴は昇進の必要条件として 認識されている。近年公務員試験の人気は高く、高学歴の地方公務員も増えている。2011 年度に上海市公務員試験に合格し採用された地方公務員の

96%以上が大学卒かそれ以上で

ある。また、募集する人員の

1

割以上に対しては院修了の条件が付けられている。こうし て高学歴者は、組織に入った時点で給料も昇進も他の地方公務員より有利な位置にあると 思われているので、大学院生のなかにも公務員志望者がかなり多くなっている。したがっ て、既に公務員になった大卒職員も勤務を続けながら大学院で学び、常に高い学歴を目指 している。2006年に中国人事部は各地方政府部門に「意見」32を出し、国家人事部として 公務員が大学で公共管理学修士学位(MPA)を履修することに賛成し、積極的にサポート するとした。それを受けて各地方政府機構は、MPAを履修する公務員に対して、休暇日の 増加、学費の援助や仕事の調整などのサポート体制を整えている。MPAを履修する公務員 は週末や夜間を利用し、2年間の

MPA

課程を勉強することで修士の学位を取得することが できる。

MPA

の学位を取得した公務員は公務員研修や昇進で優先されることもある。現在、

MPA

は勤続歴

3

年以上の公務員に高い人気がある。

いまでは多くの大卒公務員が政府機関で働きながら

MPA

などの修士の学位取得を目指 しており、他の職員と差を付けることで昇進や昇給を実現しようとしている。地方公務員 は民間企業のように残業が多く、毎日さまざまな仕事に追われ、疲れていることも事実で あるが、それにもかかわらず、退庁後に学校に向かい、授業に参加しなければならない。

そのうえ週末も授業があるため家族との時間は激減し、個人の健康にも負荷が多いと思わ れる。学業と職業の両立が簡単ではないことは明らかであり、バランスをとるためには、

仕事の手を抜くか学業を懈怠するかのいずれかを選択することになる。結果として、仕事 に尽力することもできず、学業も中途半端になるに違いない。本研究のアンケート調査と フォローインタビュー結果からみれば、地方公務員が在職したまま学業を行うことにはあ まり賛成できない。

中国の公務員が学歴ブームに乗らなければならないという事情には原因がある。地方公

32「公務員が在職しながら公共管理学修士課程(MPA)を履修することについて意見」国家人事部、2006 年

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務員の昇進基準が不透明だからこそ、公務員たちは学歴という唯一客観的条件を重視する ことになるのである。また、昇進基準の曖昧さも、公務員に対する低い評価の原因となっ ている。激励制度は単一の項目だけで成り立つものではない。一つの項目は他の激励項目 と結び付いており、互い影響を与え合う。

(3)昇進機会の狭さと

40

代以上の職員のモチベーション低下

日本の地方公務員の場合も、40歳以上の中年の公務員は昇進の機会がさらに狭くなるこ とから、「特別報酬」に対する期待は若い公務員よりも高い。神奈川県の地方公務員の勤務 年数別の調査結果を見ると、「20年以上」勤務する地方公務員の全体的満足度は「6-10年」

や「11-20年」勤務する公務員より顕著に低くなっている。そして、前述の年齢層の結果と 同じく、「昇進」の項目においてのみ、「20年以上」勤務する調査対象者は「6-10年」や「11-20 年」勤務する公務員よりも満足度は低く、有意な差があることが分かる。一方、上海市の 調査結果では、全体的な職務満足度に相違はないものの、「業務の性質」因子に関してのみ 年齢別の相違が顕著に存在する。「41歳-50歳」の「業務の性質」項目の満足度は「30歳以 下」や「30歳-35歳」よりも低く、有意な差がある。

40

代の地方公務員は、中年になると、

20

30

代の青年と比べて家庭の負担が重くなると同時に、キャリアの倦怠期に入る。地方 公務員の仕事にも既に慣れたので、仕事に対する熱情や誇りも段々に消えていく。40代で はなかなか管理職にはなれず、昇進の機会は更に狭くなるので、ストレスが溜まりやくな る。

中国の地方公務員は神奈川県ほど年齢の格差がないが、今後地方公務員の採用や任命が さらに規範化されると、日本のように「年功序列」と「業績主義」の衝突が生じる可能性 があると思われる。また、昇進に挑戦する場合でも、40代の公務員は、20代や

30

代の若 手のように在職のまま大学院に通う余裕はないであろう。40代の公務員の多くが家庭を持 ち、共働きが当たり前の中国では、育児や子供教育を手伝うことも避けられない。休日や 退社後の時間は家庭のために使うことが多いため、仕事以外のことに力を入れることは難 しいと思われる。年齢も学歴も有利ではない状況では、中国の

40

代の地方公務員のモチベ ーションを高めることは簡単ではないといえよう。

日本では、行政改革の結果、地方公務員の人員構成や組織運営が徐々に変化してきて いる。そこでのモチベーションを高める一つの方法は、同年代の人間を採用することで ある。人間は環境や同世代の行動に影響を受けやすい特徴がある。したがって同年代の 人が職場にいれば、その人の考え方やモチベーションが周囲に影響を与えることができ る。横浜市は、「組織を活性化し、市政への多様なニーズに応える」(人事委員会事務局 任用課)ため、2006年度から社会人採用試験を実施している。当初

35

歳であった受験 者の年齢の上限を、2008年度に

59

歳に引き上げたところ、2723人の申し込みがあり、

2007

年度(1385人)から倍増となった。倍率は

22.62

倍に達している。同課によると、

合格した

95

名は、メーカー、金融、情報システムなど様々な業界からの転職者であり、