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博 士 ( 獣医 学 ) 藤 井

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Academic year: 2021

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博 士 ( 獣医 学 ) 藤 井    啓      学位論文題名

Behavioral analysis and seroepidemiological survey of     infectious diseases in Kuril harbor seals     (Phoca vituli7za stejnegeri) around Hokkaido

( 北海 道沿 岸の ゼニ ガタ アザ ラシ の行 動学 的特性 と感 染症 に関 する     血 清 疫学 的 研 究 )

学 位 論 文 内 容 の 要旨

  ゼニガタアザラシは北海道太平洋岸から千島列島,カムチャツカ半島,コマンダー諸 島に分布し,沿岸の岩礁帯を上陸場とする.北海道におけるゼニガタアザラシの個体数 は,1970年代までに,乱獲によって劇的に減少し,同時に上陸場も減少した,1980年代 以後,個体数は漸増しているが,上陸場の数は回復していない.ゼニガタアザラシは環 境省によって絶減危惧IB類に分類され,2003年からは「鳥獣の保護及び狩猟の適正化 に関する法律」の対象種とされている.一方,魚類・頭足類を餌とするゼニガタアザラ シは,漁業にとって害獣である.近年,ゼニガタアザラシの個体数増加に伴い,被害を うける地域が拡大している.このような背景の中,ゼニガタアザラシの保護管理が,社 会的に求められている.しかし,海棲哺乳類は直接観察が難しく,また標本が得にくい ため,ゼニガタアザラシに関する研究は十分でない.本研究では,ゼニガタアザラシの 適 正 な 保 護 管 理 推 進 の 一 助 と な る べ く , 行 動 学 的 お よ び 疫学 的 研 究 を 行 っ た .

  携帯電話ネットワークを通じて,データを遠隔的に回収できるテレメトリー機器を開 発し,野生個体の追跡調査を行った.テレメトリー機器にはGPS,乾湿センサー,水深 センサー,温度センサーを内蔵した.6月末に襟裳で捕獲された6頭の0歳獣に機器を装着 し,最長88日間の追跡に成功した.GPSのデータによると,追跡期間中,既知の襟裳の 上陸場にのみ,上陸した,乾湿センサーは精度に問題があったが,少なくとも,昼間に も夜間にも上陸していることが示された.4頭の水深記録が解析され,最深の記録は水深 131mであった.水深Imより深い記録のうち,98%は50mより浅いものであった.沿岸の 波が高いときには,波が低いときよりも,深い水深を利用する傾向がみられた.3頭では 水深30m付近に記録が多かったが,残りの1頭にはその傾向はみられなかった.全ての個 体 に お い て , 夜 間 の 水 深 記 録 は , 他 の 時 間 帯 よ り 有 意 に 浅 か っ た ,   本研究によって,初めてゼニガタアザラシのテレメトリー調査が行われ,潜水行動の 一端が明らかになった.しかし,ゼニガタアザラシの生態は未だ不明な点が多い.行動

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圏や回遊パターン,採餌,潜水行動などを明らかにするため,さらに詳細な研究が求め られる.

  北 海道沿岸のゼニガタアザラシとその他のアザラシ類においてモービリウイルス,イ ンフルエンザAウイルス,Toxoplasma gondii,Neospora caninumの感染に関する,血清疫 学 的調査を行った.モービリウイルスは,過去にアザラシ類の大量死の原因となってい る .インフルエンザは,アザラシ類の死因となると同時に,人獣共通感染症としても重 要 である.r gondii,Mcaninumのアザラシ類での感染は死因となると同時に,陸上から 海 洋への病原性原虫による汚染を示す.血清サンプルは,1998年から2006年の間に,納 沙布でゼニガタアザラシ(231個体),ゴマフアザラシ(25個体),クラカケアザラシ(4 個体),アゴヒゲアザラシ(1個体)から,厚岸でゼニガタアザラシ(16個体)から,襟 裳でゼニガタアザラシ(75個体),ゴマフアザラシ(6個体)から,焼尻島でゴマフアザ ラ シ(2個体)から,浜益でゴマファザラシ(12個体)から,積丹でゴマフアザラシ(1 個体)から集められた.

  モ ービ リ ウ イル ス の感 染 に 関す る 解析に おいて, アザラシ ジステン パーウイ ルス   (PDV)に対する抗体が納沙布と襟裳のゼニガタアザラシから,イヌジステンパーウイ ル ス(CDV)に対 する抗体 が納沙布 のゼニガ タアザラ シから検出 された.納沙布のゼニ ガタアザラシの抗PDV抗体保有率は1998年が56%(5/9)なのに対し,2003年は5%(3/66), 2004年 は1%(1/79),2005年は1%(1/79)であった.このことより,1998年以前のPDV 流 行が示唆された. 2003年から2005年の抗PDV抗体陽性アザラシには,幼獣が含まれて い たことか ら,散発 的なPDV感染 が近年も起きていると考えられた.襟裳のゼニガタア ザラシの抗PDV抗体保有率は2004年が50%(14728)なのに対し,1999年は13%(1/8),

2003年は7%(1/15),2005年は0%(0/24)であった.このことより,2003年以前の散発 的 なPDV感染と ,2003年のサ ンプリン グが終わっている2003年の冬期から2004年の問の PDV流 行が示唆 された.CDVに対する 抗体は,2003年から2005年の間,毎年1頭の納沙布 の ゼ ニ ガ タ ア ザ ラ シ か ら 検 出 さ れ , 散 発 的 な CDV感 染 が 示 唆 さ れ た .   イ ンフルエ ンザAウイ ルス感染 に関する 解析では ,抗インフ ルエンザAウイルス抗体 が,納沙布のゼニガタアザラシからのみ検出された,抗体保有率は1998年が11%(1/9), 2003年 が3%(2/66),2004年が12%(7/59),2005年が6%(5/77)であり,散発的なイ ン フルエン ザAウイル ス感染が 示唆された,近年の抗体陽性個体に,幼獣が含まれてい る ことから,感染は近年も起きていると考えられた.抗体陽性サンプルを用いて赤血球 凝 集阻害試験(HI試験)を行ったところ,10サンプルからH3亜型ウイルスに対する抗体 が ,2サンプ ルからH6亜 型ウイル スに対する抗体が検出された.抗H6亜型ウイルス抗体 を 持つ2サン プルは, 抗H3亜型ウ イルス抗体も保有しており,これらの個体は両亜型へ の 感染経験があると考えられた.H6亜型ウイルスに対する抗体がアザラシ類から検出さ れたのは,本報告が始めてである.

  F gondii感染に関する解析では,2005年の納沙布のサンプルのうち4%(3/77)から抗 F gondii抗体が検出され,散発的な感染が示唆された,Mcaninum感染に関する解析では,

納 沙布のゼニガタアザラシとゴマフアザラシ,厚岸のゼニガタアザラシ,襟裳のゴマフ     ―1121―

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アザラシから抗〃. caninum抗体が検出された.納沙布のゼニガタアザラシの抗〃.caninum 抗体保有率は2003年が2%(1/66),2004年が5%(4/79),2005年が10%(8/77),同じく納 沙布のゴマフアザラシでは2004年に11%(1/9)であった,厚岸のゼニガタアザラシ,襟 裳のゴマフアザラシの抗〃.caninum抗体保有率は,2005年に各々,8%(1/12),25%(1/4) であった,このことより,〃.caninumの散発的な感染が示唆された.2005年の抗Fgondii 抗体陽性個体のうち2個体が,抗〃. caninum抗体陽性個体のうち3個体が幼獣であり,感 染が近年も起きていることが示唆された,アザラシ類でのr gondii,〃.canznum感染は,

陸上から海洋への原虫による汚染を示唆する,

  本研究によって,北海道沿岸のゼニガタアザラシにおける,アザラシ類の大量死の原 因となり得る感染症,人獣共通感染症,本来陸上に感染環を持つ感染症の存在が示唆さ れた.これは,ゼニガタアザラシの疫学研究が,本種の保護管理,人獣共通感染症防除,

沿岸環境モニタリングのために,重要かっ有用であることを示す.現在のところ,感染 症 に よ る 目 に 見 え る 問 題 は 起き て い な い が , 継 続 的 で 多 様 な 研 究 が 望 ま れ る .

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学位論文審 査の要旨 主査   助教授   鈴木正嗣 副 査    教 授    葉 原 芳 昭 副 査    教 授    片 倉    賢 副査   助教授   迫田義博

     学位論文題名

Behavioral analysis and seroepidemiological survey of     infectious diseases in Kuril harbor seals     (Phoca vituli7za stejnegeri) around Hokkaido

( 北海 道 沿 岸の ゼ ニガ タ ア ザラ シ の 行動 学的特性 と感染症 に関する     血 清疫 学 的 研究 )

  申請者は,ゼニガタアザラシの適正な保護管理推進の一助とすることを目的に,基礎 的な生態の解明を目的とした行動学的研究,およびジステンパーウイルス,インフルエ ンザAウイルス,Toxoplasma gondii,  Neospora caninumといったアザラシ類の大量死の原 因となり得る感染症および人獣共通感染症に関する血清疫学的研究を行った,その結果,

以下のことが明らかにされた.

  1)GPSの 測位デー タによる と,襟裳 で捕獲され た追跡個体は,既知の襟裳の上陸場 にのみ上陸し,他の上陸場への移動は確認されなかった,この結果は,過去の研究から 示唆された,北海道のゼニガタアザラシが道東集団と襟裳集団に分けられるという仮説 を支持する.

  潜水深度記録の解析によると,最深の記録は水深131mであった.また,水深Imより深 い記録のうち98%は50mより浅いものであり,本種が沿岸域に定着的であることが示唆さ れた .4頭のう ち3頭では 水深30m付近 に記録が多 く,水深30m付近を採餌等によく利用 することが示唆された.全ての個体において,夜間の水深記録は他の時間帯より有意に 浅かった.

  2)モ ービリウ イルスの感染に関する解析において,アザラシジステンパーウイルス

(PDV)に 対する抗 体が納沙 布と襟裳 のゼニガタ アザラシから,イヌジステンパーウイ ルス (CDV)に対す る抗体が 納沙布の ゼニガタア ザラシか ら検出さ れた.抗PDV抗体保 有率は1998年の納沙布(56%)および、2004年の襟裳(50%)で高く,流行の発生が示唆さ れた .近年の 抗PDV抗体陽性個体に幼獣が含まれていたことから,感染は近年も起きて いると考えられた.

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