博 士 ( 獣 医 学 ) 伊 東 登 学位論文 題名
セキ セイインコ(Melops むととac uis ひnd u,la とMs )に対する 抗 生 物 質 筋 肉 投 与 に 関 す る 臨 床 病 理 学 的 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
近年の小動物臨床の隆盛に伴い、愛玩鳥(飼鳥)は獣医臨床の重要な対象に なってきた。しかしながら、飼鳥の臨床に関する獣医学的知識は十分ではなぃ。
細菌感染症の治療に良く使われる抗生物質についても、その投与量や投与間隔 についての記述は、飼鳥では少なく、哺乳類での情報から推測して用いられる ことが多い。そこで本研究では小鳥の臨床で用いられることの多い抗生物質3種、
すなわちゲンタマイシン、クロラムフェニコールおよびオキシテ卜ラサイクリ ン を 選 び 、 一 般的な 飼鳥 であ るセ キセイ イン コ(Melopsittacusundulatus) に対するこれら薬物の筋肉内への投与量と投与間隔ならびに副作用としての臓 器障害を臨床病理学的に検討レた。
まず、主として血液学的および血液生化学的検査成績を指標にして抗生物質 筋肉内投与による副作用の有無を判定するための基礎資料として、セキセイイ ンコの麻酔下でのそれらの正常値を求めた。正常鳥の血液学的検査値(平均土 SE)は 、頸 静脈 採血 法では 、赤血球(RBC)数,5.215Xl06+O.171Xl06/IM13; PCV値,53.6+1.5X;ヘモグロビン(Hb)量,17.9+0.8 g/dl;平均赤血球ヘモ グ 口ビ ン含 量(MCH),34.5土1.4pg;平均赤血球容積(MCV),103.9+3.6fl; 平 均赤 血球 ヘモグ ロビ ン濃度(MCHC),33.吐+1.1%であった。また爪先切断採 血法では、RBC,4.976><106+O.096Xl06 /111II13;PCV,51.6+1.OX;Hb,17.6 +0.4g/dl;MCH,35.6+0.9pg;MCV,104.4+2.3fl;MCHC,34.2ニO.5名 であった。頸静脈採血法および爪先切断採血法の間で検査値に有意差を認めな ー209ー
かった 。頸静脈採 血による血 液生化学的 検査値(平 均土SE)は、アスパラギン 酸アミ ノ卜ランス フェラーゼ(AST),358.9十30.5IU/L;アラニンアミ丿卜ラ ンスフ ェラーゼ(ALT),9.8+1.6IU/L;乳酸脱水素酵素(LDH),405.8+45.7 IU/L; クレ ア チン キ ナー ゼ(CK),1580.9十373.6IU/L;尿酸,8.1+O.9mg/
dlであった。
次に、セキセイインコにおける上記3種抗生物質の筋肉内投与後の薬物動態を 調べた。セキセイインコ胸筋に、5 mg/kgおよぴ10 mg/kgの硫酸ゲンタマイシン を投与 後15分で最高 血中濃度はそれぞれ17.3 pg/mlおよび37.OUg/mlに達し、
その後、半減期O.5時間で減少した。100 mg/kgおよぴ200 mg/kgのコハク酸クロ ラムフェニコールナ卜リウムを投与後15分で最高血中濃度は35.3 pg/mlおよぴ 90.7 ILg/mlに達し、その後、半減期2.5なぃし2.7時間で減少した。50 mg/kg、 100 mg/kgおよび150 mg/kgの塩酸オキシテ卜ラサイクリンを投与後l一2時間で最 高血中濃度に達した。50 mg/kg投与時は2時間にわたって6.5−6.7 ILg/mlの濃度 が維持され、100 mg/kg投与時は12時間にわたって6.4−10.7 Vg/mlの濃度が維 、
持され、150 mg/kg投与時は18時間にわたって7.2−13.5 Vg/mlの濃度が維持さ れた。
硫酸ゲンタマイシンを10 mg/kgの投与量で1日3回(8時間おき)、1ないし3日 間筋肉 内注射した 場合、コハ ク酸クロラ ムフェニコ ールナ卜リウムを100 mg/
kg、200 mg/kgおよぴ300 mg/kgの投与量で1日2回(12時間おき)ないし3回(8 時間おき)、5日間連続筋肉内注射した場合、およぴ塩酸オキシテ卜ラサイクリ ンを50 mg/kg、100 mg/kgおよび150 mg/kgの投与量 で1日2回(12時間おき)、
5日間連続筋肉内注射した場合に起きる副作用を、臨床病理学的に検討した。そ の結果、3種の抗生物質は上記の投与量と投与間隔では、注射部位の胸筋の筋肉 障害が主な副作用であり、この場合、血清LDH活性に比較すると血清AST、ALTお よびCK活性の方が筋肉障害をよりよく反映した。
セキセ イインコに おぃて抗生物質筋肉内投与による筋肉障害に起因する血清
酵素活性上昇の病態を解析するため、鳥の胸筋中の酵素活性、障害された胸筋 か らの 酵素 の損失 率( 活性 損失 率)、 放出 され た酵 素の血中への移行の程度
(移行率)、血中からの酵素の消失速度(血中半減期)および生体からの酵素 の消失速度(総クリアランス)について検討を行った。その結果、胸筋はAST、 ALT、CKおよびLDHのいずれをも豊富に含む組織であり、障害筋肉中の4酵素の活 性損失率はほば同じであった。また4酵素の血中活性の上昇には、血中半減期と 総 ク リ ア ラ ン ス が 最 も 大 き く 影 響 し 、 そ れ に 次 い で 移行 率 が 影 響 し た 。 以上の成績から、セキセイインコに対する抗生物質の効果的と考えられる筋 肉内投与量および投与間隔は、ゲンタマイシンについては5 mg/kgまたは10 mg /kgの1日3回の投与、クロラムフウニコールについては100 mg/kgの1日3回また は200 mg/kgの1日2回の投与、オキシテ卜ラサイクリンにつ。、ては100 mg/kgま たは150 mg/kgの1日2回の投与と考えられた。またAST、ALTおよびCKは、障害組 織から血中への移行率が大きく、血中での半減期が長く、さらに生体からの消 失速度が遅いことから、セキセイインコに対する筋肉内注射の副作用としての 筋肉障害を判定する上において適切な臨床病理学的検査項目であると考えられ た。
学 位 論 文 審 査 の要 旨 主査
副査 副査 副査
教 授 前 教 授 橋 教 授 藤 講 師 安
出吉光 本 晃 田正一 田 準
学 位 論 文 題 名
セキセイインコ(Melops むととac uis ひnd u,l,a とlLS) に対する 抗 生 物 質 筋 肉 投 与 に 関 す る 臨 床 病 理 学 的 研 究
申 請者は 、ゲ ンタマ イシ ン、ク ロラ ムフウ ニコ ールおよぴオキシテ トラ サイク リン のセキ セイインコ(Melop‑sittacusundula,tus)に対 する 筋肉内 への 投与量 と投 与間隔 なら びに副 作用 としての臓器障害を 臨床病理学的に研究し、以下の成績を得た。
1.正 常な セキセ イイ ンコの 血液 学的検 査値 (平均 土SE)は、頸静脈採 血法では、赤血球(RBC)数,5.215Xl06+O.171Xl06 /rrirr13;PCV値,
53.6+1.5X;ヘモグロピン(Hb)量,17.9+O.8g/dl;平均赤血球ヘ モグロビン含量(MCH),34.5土1.4 pg;平均赤血球容積(MCV),103.9 +3.6fl;平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC),33.4土1.1%であった。
また爪先切断採血法では、RBC,4.976X l06+O.096Xl06 /ITlff13;PCV, 51.6十1.OX;Hb, 17.6+O.4g/dl;MCH,35.6+0.9pg;MCV, 104.4 土2.3 fl;MCHC,34.2+0.5%であった。頸静脈採血法および爪先切断 採血 法の間 で検 査値に 有意 差を認 めな かった 。頸 静脈採血による血液 生化 学的検 査値 (平均 土SE)は、 アヌ パラギ ン酸 アミノ卜ランスフェ ラーゼ(AST),358.9十30.5 IU/L;アラニンアミノ卜ランスフウラー ゼ(ALI),9.8+1.6IU/.L;乳酸脱水素酵素(LDH),405.8+45.7IU/L; クレ アチン キナ ーゼ(CK),1580.9+373.6IU/L;尿酸.,8.1+0.9 mg/dlであった。
2.セキセイインコ胸筋に、5 mg/kgおよぴ10 mg/kgの硫酸ゲンタマイシ ンを 投与後15分 で最高 血中 濃度は それ ぞれ17.3p g/mlおよぴ37.Opg /mlに 達し 、その 後、 半減期O.5時間で減少した。100 mg/kgおよび200
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mg/kgのコハク酸ク ロラムフェニ コールナ卜リ ウムを投与後15分 で最高 血中濃度は35.3弘g/mlおよび90.7pg/mlに達し、 その後、半減 期2.5 なぃし2.7時間で減少した。50 rng/kg、100 mg/kgおよぴ150 mg/kgの塩 酸オキシテ 卜ラサイクリ ンは投与後1−2時間で最高血中濃度に達した。
50 mg/kg投与時は2時間にわたって6.5−6.7弘g/mlの濃度が維持され、
100 mg/kg投与時は12時間にわたって6.4ー10.7弘g/mlの濃度が維持され、
150 mg/kg投与時は18時間にわたって7.2―13.5弘g/mlの濃度が維持され た。
3.硫酸ゲンタマイシンを10 mg/kgの投与量で1日3回(8時間おき)、1な いし3日間連 続筋肉内注射 した場合、コ ハク酸クロラム フェニコールナ 卜リ ウ ムを100 mg/kg、200 mg/kgお よ び300 mg/kgの 投与 量 で1日2回
(12時間おき )なぃし3回(8時 間おき)、5日 間連続筋肉内注 射した場 合、および 塩酸オキシテ 卜ラサイクリ ンを50 mg/kg、100 mg/kgおよび 150 mg/kgの 投与量で1日2回(12時 間おき)、5日間 連続筋肉内注 射した 場合に起きる副作用を、臨床病理学的に検討した。.その結果、3種の抗 生物質は上 記の投与量と 投与間隔では、注射部位の胸筋の筋肉障害が主 な副作用で あり、この場 合、血清CK活性に加えて血清ASTおよびALT活性 が筋肉障害を反映することが明らかとなった。
4.セキセイ インコの胸筋 中の酵素活性 、障害された胸 筋からの酵素の 損失 率 (活 性 損失 率 )、 放 出された酵素の 血中への移行 の程度(移行 率) 、 血中 か らの 酵 素の 消 失速度(血中半 減期)および 生体からの酵 素の 消 失速 度 (総 ク リア ラ ンス)について 検討を行った 。その結果、
胸筋はAST、ALT、CKおよびLDHの、いず.れをも豊富に含む組織であり、障 害筋 肉 中の4酵 素 の活 性損 失率 はほば同じで あった。また4酵素の血中 活性 の 上昇 に は、 血 中半 減 期と総クリアラ ンスが最も大 きく影響し、
それに次いで移行率が影響した。
以 上 のよ うに 、 申請 者 はセキ セイインコに 対する抗生物 質の効果的 な筋肉内投 与量および投 与間隔を明らかにするとともに、血中のA ST、 ALTお よ びCK活性 が 、筋 肉 内注 射 の副 作用 と して の 筋肉 障 害を 判定す る上におい て適切な臨床 病理学的検査項目であることを明らかにした。
これらの知 見は小型鳥類 の臨床学に大きく寄与するものであり、よって 審査員一同 は伊東登氏が 博士(獣医学)の学位を受けるに十分な資格を 有するものと認めた。
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