博士(獣医学)池井暢浩 学位論文題名
カルバコール,コレシストキニン刺激によって始動する刺激 一放出連関に及ぼす局所麻酔薬の抑制作用にっいて:
ラット膵腺房における解析
学位論文内容の要旨
刺激一放出連関という言葉は副腎髄質からのカテコールアミンの分泌反応 にお いて、 アセ チル コリ ン(ACh)刺激によって開始される一連の細胞内で の事象にっいて用いられたものである。その後、膵臓の外分泌細胞を含む多 種多 様な分 泌系 にも 用い られる ようになり、細胞内Ca2゛がこれら連関の重 要なシグナルであることが知られている。膵外分泌反応は、多種類の受容体 を 介 して 調 節 さ れ て いる が、代 表的 な生 理活 性物質 には
ACh
,コ レシ スト キニン―パンクレオザイミンがあり、細胞内Ca2゛濃度([Ca 2+ll)の動態 を変化させ消化酵素の放出を刺激する。副 腎髄 質 細 胞 に お いて テトラ カイ ンは
ACh
刺激 によ るカテ コー ルア ミン 分泌 を抑制 し、 その 機構 が細胞 外Ca2゛の細胞内への流入抑制にあることが 報告 されて いる 。神 経細 胞では 局所麻酔薬がCa2゛チャンネルを始めとする 様々 なイオ ンチ ャン ネル を抑制 し、筋標本ではプロカインはCa2゛誘発性のCa2
゛ 放 出 や カ フ ェ イ ン 誘 発 性Ca2
゛ 放 出 を 抑 制 し て い る 。今 回の実 験に は、 ラッ ト遊離 膵腺房標本を用い、Ca2゛感受性のある螢光 色素 、Fura−2を用 いた [Ca2゛ ]| 測定 と分泌 測定 を組 み合 わせて行い、
ACh
の誘 導 体 で あ る カ ル バ コ ー ル (CCh) あ る い は コ レシス トキ ニン ーオ クタ ペプタ イド (CCK−8
)がそ れぞ れの 受容体 に結 合す ると ころから開始 される刺激一放出連関における[Ca2゛]tの役割を局所麻酔薬、プ口カイン を用いて薬理学的に分析した。分泌反応に対するプ口カインの抑制効果を孵 置法で検討した後、[Ca2゛]tの変化と分泌反応の変化を時間的に対応させな がら解析するため、標本を周辺灌流して検討した。また、プロカインを初め とする局所麻酔薬はムスカリン受容体を受容体レペルで抑制することも知られ ているが、その作用については一定の見解が得られておらず、局所麻酔薬の種類によりムスカリン受容体への作用やその他の効用が異なるようである。そこ で、ムスカリン受容体のりガンドである[N―methyl―3H]ーscopolamine chloride
( [
3H
] ーNMS
) と ボ ル 卜 ン と ノ 、 ン タ ー 法 に て125J
を 標 識 し たCCK
ー8
( [
1251
] ―BH
―CCK
―8
) を 用 い て ム ス カ リ ン 受 容 体 あ る い はCCK
受 容 体 の 結 合 実 験 を 行 い 、CCh
あ る い はCCK
一8
の そ れ ぞ れ の 受 容 体 と の 結 合 に対するプロカインの効果を検討した。ムスカリン受容体は各種アンタゴニストを用いた薬理学的な実験から、現在 で は
Mi
、M2
、M3
、M4
に 分 類 さ れ 、 膵 腺 房 細 胞 はM3
に 分 類さ れ てい る 。ム スカリン受容体のMi、M2の各亜型に対する各種局所麻酔薬の親和性は異なり、局所麻酔薬に対する親和性の相違により、ムスカリン受容体の亜型分類の可能 性 も あ る 。 そ こ で 、
CCh
刺 激 に よ っ て 引 き 起 こ さ れ る 膵 外 分 泌 な ら び に[
3H
] −NMS
の膵 腺 房と の結合 に対する各 種局所麻酔 薬、テトラ カイン、プ 口カイン、アミノ安息香酸エチル、リドカイン、ジブカインの抑制効果を比較 検討し、合わせて各種局所麻酔薬の構造活性相関にっいても検討した。以上の 一連の実験から以下の結論を得た。1
.局 所 麻酔 薬 、プ ロ カイ ン (O.03
−1 0mM
)は ラ ット 遊 離膵 腺房 細胞に おい て各種濃度 のコリン作 動性刺激物 質、CCh
刺 激によって 引き起こさ れる アミラーゼ分泌を抑制した。各種濃度のプロカイン存在下におけるアミラ―ゼ 分 泌 量 とCCh
濃 度 と の 関 係 を分 析 する と 、プ 口 カイ ン はCCh
の受 容 体へ の 結合 を競合的に 抑制してい ることが示 唆され、プ 口カインの 親和定数、pA2
は5
.OO士O
.08であった。2
. 受容 体 結合 実 験の 結 果からも、 各種濃度の プ口カイン (O
.01
―lo mM
) は 競 合的 に [3H
]ーNMS
のム スカリン受 容体への結 合を阻害す ることが確 認 さ れ た 。 プ ロ カ イ ン の 受 容 体 と の 結 合 定 数 、p Ki
は4‑ 63
土0.10
で あ っ た 。3
.CCh
刺激 に よっ て 引き 起こされる 膵外分泌反 応に対する 各種局所麻 酔 薬の抑制効果は、テ卜ラカイン=プロカイン>ジブカイン冫アミノ安息香酸 エチ ル>リドカ インの順序 であった。 また分泌抑 制の程度は [3H
]ーNMS
の ム ス カ リ ン 受 容 体 へ の 結 合 阻 害 の 程 度 と 良 く 一 致 し た 。4
. プ口 カイ ン、 リドカ インおよびアミノ安息香酸エチルの[3 Fl]‑NMS
のムスカリン受容体への結合阻害、あるいはムスカリン性アゴニストによっ て引き起こされる生体反応の阻害程度を比較することにより、ムスカリン受 容体 のMi、M2
、M3
の 亜型 を区別 でき るか もし れない 。また、局所麻酔薬 の膵腺房細胞のムスカリン受容体との結合には、カルボニル基とアルキル基 の問にある程度の距離が必要であり、いほうが有利であろうと推測される。
剖 を 果 し て い な い よ う で あ る 。
カルボニル基とべンゼン環の距離が短 また、カルボニル基はあまり大きな役
5
.プ 口カイ ンはCCh
刺激 によ って 引き起 こさ れる [Ca2゛]iの変化の様 相 を 変 え た 。3
ロM
のCCh
の持 続 的 刺 激 に よ っ て 引 き 起 こさ れ る 最 初 の[Ca 2+]iの 上昇 とそ れに 引き続 くゆ っく りとし た減少は、0.3mMプ口カ イン 処理 によ って振 動性の[Ca2゛]|変化に形を変えた。この振動性の
[
Ca2
゛ ]i
の変化 は、 プロ カイ ン非存 在下 での0.3
ルM
のCCh
刺激に よっ て引き起こされる変化に酷似していた。またプ口カイン存在下において、3
〃M
のCCh
刺 激に よ っ て 引 き 起 こ さ れ る 第1相 の振 動性 [Ca2゛ ]i
の変 化は 、灌 流刺 激した 時の アミ ラー ゼ分泌 の初 期相 によく一致していた。6
.0.3
―3mM
の プ 口 カ イ ン は 、CCK
―8
で 孵 置 刺 激 し た 時 の ア ミ ラ ー ゼ 分 泌 を 抑 制 し な か った 。 し か し 、1 0mM
の 高 濃 度プ ロ カ イ ン は 、3 0pM
とlOOpM
のCCK
一8
刺 激 時 の ア ミ ラ ー ゼ 分 泌 の み を 有 意 に 抑 制 し た 。3 mM
以 下 の プ 口カ イ ン は 、[125I
] ―BH
−CCK
ー8
と 膵 腺 房 の 受 容体 との結 合に 効果 はなか ったが、1 0mMプ口カインは、僅かではある が 有意 な結合 抑制 を引 き起こ した 。7
. プ ロ カ イ ンは 、 持 続 的なCCK
一8
刺激 によ って引 き起 こさ れる 最初の 一 時的な[Ca2゛]i
の上昇を抑制した。そしてこの[Ca2゛]iの変化は、分泌反応 における初期相での有意な抑制と呼応していた。しかしナょがら、CCK一8
に よって引き起こされる分泌反応に対するプ口カインの影響は僅かであり、初期 相に引き続く持続的な第二相には殆ど効果はなかった。学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
菅 野 富 夫 中 里 幸 和 斉 藤 昌 之 原 田 悦 守
学 位 論 文 題 名
カルバコール,コレシストキニン刺激によって始動する刺激 ―放 出連 関に 及 ぼす 局所 麻酔 薬の 抑制 作用にっいて:
ラット膵腺房における解析
膵 外 分 泌 線 は 、 膵 腺 房 組 織 と 膵 導 管 組 織 に よ っ て 構 成 さ れ て い る 。 膵 腺 房 組 織 の 分 泌 反 応 は 、 主 と し て 、 迷 走 神 経 系 を 介 す る 神 経 性 調 節 と 、 コ レ シ ス 卜 キ ニ ン(CCK)に よ る 内 分 泌 性 調 節 を 受 け て い る 。 こ れ ら 調 節 の 機 構 を 解 析 す る た め に 、 申 請 者 、 池 井 暢 浩 氏 は局 所麻酔 薬を用い て実験を 行い、 次のよう な結果 を得た。
局 所 麻 酔 薬 、 プ ロ カ イ ン(0.03ー10mM)1ま ラ ッ ト 遊 離 膵 腺 房 細 胞 に お い て 各 種 濃 度 の コ リ ン 作動 性 刺 激物 質 、 カル バ コ ー ル(carbachol, 以下CChと 省 略 する ) 刺 激 によ っ て 引 き 起 こ さ れ る ア ミ ラ ー ゼ 分 泌 を 抑 制 し た 。 各 種 濃 度 の プ ロ カ イ ン 存 在 下 に お け る ア ミ ラ ー ゼ 分 泌 畳 とCCh濃 度 と の 関 係 を 分 析 す る と 、 プ 口 カ イ ン はCChの 受 容 体 へ の 結 合 を 競 合 的 に 抑 制し て い るこ と が 示唆 さ れ 、 プ口 カ イ ンの 親 和 定数 、pA2は5.00 +0.08であ っ た 。 受 容 体 結 合 実 験 の 結 果 か ら も 、 各 種 濃 度 の プ 口 カ イ ン(0.01ー10mM)は 競 合 的 にlN‑
mcthyl‑H】 ・scopolamincchl而dc(以 下PH]‐NMSと省略 する) のムスカ リン受容 体への 結合 を 阻 害 す る こ と が 確 認 さ れ た 。 プ 口 カイ ン の 受容 体 と の結 合 定 数、pKは4.63土0.10で あ っ た 。CCh刺 激 に よ っ て ぅ1き 起 こ さ れ る 膵 外 分 泌 反 応 に 対 す る 各 種 局 所 麻 酔 薬 の 抑 制 効 果 は 、 テ ト ラ カ イ ン = プ ロ カ イ ン 冫 ジ プ カ イ ン > ア ミ ノ 安 息 香 酸 エ チ ル 冫 リ ド カ イ ン の 順 序 で あ っ た 。 ま た 分 泌 抑 制 の 程 度 はPH】 ・NMSの ム ス カ リン 受 容 体へ の 結 合阻 害 の 程 度 と 良 く 一 致し た 。 プロ カ イ ンはCCh刺激 に よ って 引 き 起こ さ れ る細 胞 内 (ニa2゛濃 度 ( 以 下
【Q2゛ ]iと 省 略 す る ) の 変 化 の 様相 を 変 えた 。3ロMのCChの 持 続的 刺 激 によ っ て 引 き起 こ され る最初 の【くニa2゛】iの上昇 とそれに 引き続 くゆっく りとレ た減少は 、0.3mMプ口カイン 処理 によっ て振動性 の【C譬゛]i変化 に形を変 えられ た。この 振動性 の【Q2゛】i変化は、プロ カ イ ン 非 存 在 下 で の0.3ロMのCCb刺 激 に よ っ て 引 き 起 こ さ れ る 変 化 に 酷 似 し て い た 。 ま た プ ロ カ イ ン 存 在 下 に お い て 、3ロMのCal刺 激 に よ っ て 引 き 起 こ さ れ る 第1相 の 振 動 性
【Ca2゛ 】i変 化 は 、 潅 流 刺 激 し た 時 の ア ミ ラ ー ゼ 分 泌 の 初 期 相 に よ く 一 致 し て い た 。 0.3−3mMの プ 口 カ イ ン は 、 コ レ シ ス ト キ ニ ン ー オ ク タ ペ プ タ イド ( 以 下CCK‐8と 省 略 す る ) で 孵 置 刺 激 し た 時 の ア ミ ラ ― ゼ 分 泌 を 抑 制 し な か っ た 。 し か し 、10mMの 高 濃 度 プ ロ カ イ ン は 、30pMと100pMのCCK‐8牽u激 時 の ア ミ ラ ー ゼ 分 泌 の み を 有 意 に 抑 制 し た 。 3mM以 下の プ ロ カイ ン は 、B01ton‐Huntcr法 に て1251を標 識 し たCCK‐8と 膵 腺 房の 受 容 体と
の結合に 効果はな かった。 プロカイ ンは、持 続的なCCK‑8刺 激によって 引き起こ される 最初の一時的な【く譬゛]の上昇を抑制した。そしてこの【くニa2゛liの変化は、分泌反応におけ る初期の相 での有意 な抑制と 呼応して いた。以 上の結果 から、池井氏は次のような結諭 を導いた。 ラッ卜遊 離膵腺房 標本にお いて、プ ロカイン はムスカリン受容体の競合的な アンタゴニ ストであ り、 CCK‑8によ って引き 起こされ る分泌反応においては初期の分泌 相において のみ僅か な抑制効 果を引き 起こす。 この研究 は、膵外分泌反応の神経性調節 と内分泌性 調節とを プ口カイ ンによっ て区別す ることが できることを示すものであり、
基礎獣医学 に寄与す るところ が大きい 。よって 、審査担 当者一同は、申請者、池井暢浩 氏が博士(獣医学)を受ける資格があるものと認めた。