博士(医学)中村 功 学位論文題名
Characterization of Adenosine Receptors Mediating Spinal Sensory Transmission Related to
NociceptiVeInformationintheRat
( ラ ッ 卜 の 脊 髄 内 侵 害 情 報伝 達 に 関 与 す る ア デ ノ シ ン 受 容 体の 特定 )
学位論文内容の要旨
背 景: アデ ノシ ンは 脊髄内 にお いて 侵害 情報 の修 飾に 重要 な役 割を 果たしていること が知 られ てい る。動物実験ではクモ膜下腔にアデノシンまたはその誘導体を投与すること によ り鎮 痛作 用が 発現 する。 中枢 神経 系の アデ ノシ ン受 容体 はAi及びA2二つのサブタイ プに 分け られ ており、両者とも脊髄内に同定されている。しかし、どちらのアデノシン受 容体 が鎮 痛作 用に関与しているのかについては明らかとはいいがたい。さらに、最近の研 究で は、 ん受 容体 の存 在とA2受容 体の サブ クラ ス(A2aとA2b)の存 在が 確認され、アデノ シン受容体の分類が一層複雑化している。
本 研究 では 新生 仔ラ ットの 遊離 脊髄 標本 を用 い、 後根 の電 気刺 激に より前根から得ら れる単シナプス反射(monsynaptic reflex; MSR)とslow ventral root potential (slow VRP)及 び隣接する後根から得られるdorsal root potential (DRP)を記録し、これらの誘発電位に対 す る ア デ ノ シン アゴ ニス トと アン タゴ ニス トの 作用 を調 べた 。MSRは一 次求 心性 線維 と a運動 二ユ ー口 ンの 直接 的シ ナプ ス伝 達で あり、姿勢保持やlocomotionなどの運動機能を 反 映 し て い る。slow VRPは一 次求 心性C線維 の興 奮が 興奮 性ア ミノ 酸お よびsubstanceP など によ ルイ ンターニューロンを介して運動二ユ一口ンに伝達される興奮性反応であり、
侵 害 反 応 を 反映 し て い る 。DRPはGABAA受 容 体に よっ て一 次求 心性 神経 終末 に誘 発さ れ るシナプス前抑制の指標であり、鎮痛に関与している。
方 法: ハ口 セン 麻酔 下に新 生仔 ラッ トを 断頭 し、 速や かに 脊柱 管を とりだした。顕微 鏡下 に脊 髄及 び神経根を遊離し、人工脳脊髄液を潅流させた記録チャンバーに固定した。
ガラ ス吸 引電 極を腰髄後根に設置し0.2 msecの矩形波を用いて各誘発電位の最大波形が得
られる刺激強度にて電気刺激した。同側の腰髄前根及び隣接する腰髄後根から得られた各 電位をコンピュ一夕ーに記録した。安定したコントロール値を得た後に薬物を人工脳脊髄 液に希釈して脊髄を潅流し、各電位の変化を計測した。
MSRとDRPは陽性 波形の最大 電圧を、slow VRPは基 線と波形で 囲まれる面積を測定 した。各薬物の容量反応曲線を求め、Hillプ口ット法にてICsoを算出した。アンタゴニス トの解離定数(KD)はSchildプ口ットにより算出した。
結 果 : 1) ア デ ノ シ ン ア ゴ ニ ス ト の MSRと slow VRPに 対 す る 作 用 選択的 Ai アゴニストである N6−cyclohexyladenosine (CHA) 及びN6‑(R)‑
phenylisopropyladenosine (R‑PIA) 、非選択的 Ai/A2 アゴニストである 5丶‑N‑
ethylcarboxamidoadenosine (NECA)は容量依存性にMSRとslow VRPを抑制した。これらの アゴニ ストはすべ てMSRよりslow VRPを より強く(5‑8倍)抑制した。一方、選択的A2 アゴニ ス卜であるCGS21680はslow VRPを 僅かに抑制 したが、MSRには10 UMまで何ら の 作用 も 示さ な かっ た。ICsoから 求めた効力 順位はMSR、slow VRPともCHA=R‑PIA
〉 NECA冫〉CGS21680であった。これら薬物の抑制作用はテオフィリン25 HM投与により 速やかに消失した。
2) ア デ ノ シ ン ア ン タ ゴ ニ ス ト の MSRと slow VRPに 対 す る 作 用 選択的Aiアンタゴニストである8‑cyclopentyltheophylline (CPr冫はそれ自体では10 HM までMSRとslow VRPに対して有意な作用を示さなかったが、10 nM,30 nM,lOOnMにて NE(ニAの容量反応曲線を容量依存性に右方に平行移動させた。Schildプ口ットは傾きがほ ぼ1 (MSR: 1.045士0.066,slow VRP: 0.948士0.018)の直線(MSR̲r=0.998, slow VRP:r
= 0.999)とな り 、横 軸 切片 か ら 求め たpA2値は8.26と8.37であり、KD値 は5.5 nM (MSR)、4.3 nM(slowVRP)と計算された。
3)アデノシンアゴニストのDRPに対する作用
GABAA受容体を介するシナプス前抑制にアデノシン受容体が関与しているか否かを調 べ るた め に、CHA、NECA及びCGS21680の DRPに 対 する作用 を調べた。 (ニHA及び M三CAは 容 量 依 存 性 にDRPを 抑 制 し た(IC50:48.5士7.1nM.199士16nM) が、
CGS21680は1nMから3メMま で有 意 な作 用 を 示さ な かった。DRPに対す る増強作用 は どの濃度でも認められなかった。効力順位はCHA冫NE(ニA〉〉CGS21680であった。CPT 100nMはCHAの 容 量反 応 曲 線を 右 方に 平 行移 動 させ た。CPT存在下で のCHAのIC50は 2232士799nMであった。
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結論:以上の結果からアデノシンアゴニストが脊髄レベルで侵害反応に関与する神経 伝達を強く抑制することが示された。しかし、高濃度では運動機能に関連した神経伝達や GAGAA受容体を介するシナプス前抑制をも抑制することが明らかとなった。さらに、ア ゴニストの効力順位とアンタゴニストの解離定数はこれらの作用がすべてAi受容体を介 するものであることを強く示唆した。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Characterization of Adenosine Receptors Mediating Spinal Sensory Transmission Related to Nociceptive Information in the Rat
( ラ ッ 卜 の 脊 髄 内 侵 害 情 報 伝 達 に 関 与 す る ア デ ノ シ ン 受 容 体 の 特 定 )
実 験 動 物 の ク モ 膜 下 腔 に 投 与 さ れ た ア デ ノ シ ン ま た は そ の 誘 導 体 が 鎮 痛 作 用 を 発 現 す る こ と か ら 、 ア デ ノ シ ン は 脊 髄 内 に お い て 生 体 に 加 え ら れ た 侵 害 情 報 の 修 飾 に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る こ と が 推 測 さ れ て い る 。 最 近 、 脊 髄 の ア デ ノ シ ン 受 容 体 と し て Ai及 び A2二 つ の サ ブ タ イ プ が 存 在 す る こ と が 明 ら か に さ れ た 。 本 研 究 は 、 新 生 仔 ラ ッ ト の 遊 離 脊 髄 標 本 を 用 い 、 後 根 の 電 気 刺 激 に よ り 前 根 か ら 記 録 さ れ るmonosynaptic reflex (MSR)とslow ventral root potential (sVRP)及び 隣接 す る 後 根 か ら 得 ら れ るdorsal root potential (DRP)を 指 標 に 、 侵 害 刺 激 脊 髄 内 伝 達 の 修 飾 に 関 与 す る 脊 髄 内 ア デ ノ シ ン 受 容 体 の サ ブ タ イ プ を 薬 理 学 的 解 析 に よ っ て 明 ら か に す る こ と を 目 的 に 行 わ れ た も の で あ る 。 後 根 刺 激 に よ っ て 誘 発 さ れ るMSR、 sVRPお よ ぴDRPの 生 理 学 的 意 義 は 既 に 明 ら か に さ れ て い て 、 鎮 痛 作 用 と の 関 連 性 が 高 い の はsVRPお よ び DRPで あ り 、MSRは 姿 勢 保 持 や 運 動 機 能 へ の 影 響 を 反 映 し て い る と 理 解 さ れ て い る 。 実 験 に 用 い た ラ ッ ト 新 生 仔 遊 離 脊 髄 標 本 は 確 立 さ れ た 実 験 手 法 で あ る 。 指 標 と し て 記 録 し たMSR、sVRPお よ びDRPを コ ン ピ ュ ー タ ー 処 理 を 行 っ て い て 測 定 値 は 信 頼 で き る 。 さ ら に 、 薬 理 学 的 解 析 に は 、 十 分 な 実 験 例 に 基 づ ぃ て 確 立 さ れ た 手 法(Hillプ ロ ッ ト お よ びSchildプ ロ ッ ト ) を 用 い て い る 。 し た が っ て 、 実 験 デ ー タ に 対 す る 信 頼 性 は 高 い と 評 価 さ れ る 。 得ら れた 結果 は次 のよ うに 要約 され る。
1) 選 択 的Aiア ゴ ニ ス ト で あ るN6ーcyclohexyladenosine (CHA)及 びN6−(R)― phenylisopropyladenosine (R―PIA)、 非 選 択 的Ai/A2ア ゴ ニ ス ト で あ る5`‑N− ethylcarboxamidoadenosine (NECA)は 濃 度 依 存 性 にMSRとslow VRPを 抑 制 し た 。 一 方 、 選 択 的 A2ア ゴ ニ ス ト で あ るCGS21680はslow VRPを 僅 か に 抑 制 し た が 、MSR に は 何 ら の 作 用 も 示 さ な か っ た 。IC50か ら 求 め た 効 力 順 位 はMSR、slow VRPと
夫 一
修
盛 研
野 間
物
菅 本
劔
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
もCHA=R−PIA冫NECA冫 冫CGS21680で あ っ た 。 こ れ ら 薬 物 の 抑 制 作 用 は テ オフイ リ ン 投 与 に よ り 速 や か に 消 失 し た 。2) 選 択 的Aiア ン タ ゴ ニ ス ト で あ る8− cyclopentyltheophylline (CPT)はNECAの濃 度反 応曲 線を 右方 に平 行移 動さ せた。
Schildプ ロ ッ ト か ら 求 め たpA2値は8.26と8.37であ り、KD値 は5.5nM(MSR)、
4.3nM(slowVRP) と 計 算 さ れ た 。3)CHA及 びNECAは 濃 度 依 存 性 にDRPを 抑 制 した が 、CGS21680は 有 意 な 作 用 を 示 さ な かっ た。 効力JIl頁 位はCHA冫NECA〉冫 CGS21680で あ っ た 。CPTはCHAの 濃 度 反 応 曲 線 を 右 方 に 平 行 移 動 さ せ た 。 以 上 の結 果から 申請者は、脊髄レベルで侵害反応に関与する神経伝達を強く抑制するアデ ノシ ンアゴ ニストは、アゴニストの効力順位とアンタゴニストの解離定数からこれら の作 用がす べてA1受 容体 を介 する もの であ ると 結論 して いる 。学位 論文の公開発表 に際 して、 副査の劔物教授より、使用したアデノシン受容耐拮抗薬の的確性、アゴニ ス トの 作 用 がwashoutで は 消 失 しな い 理 由 、A2及 びA3受 容 体 の 中 枢 神 経 系 におけ る 役割 に つ い て 、副 査の 本間 教授 から 、slowVRPの生 理的 意義 、ア デノ シン 受容体 のク ローニ ング、幼若ラットの脊髄における神経支配、内因性アデノシンの役割につ いて 、主査 の菅野教授からは本研究で得られた成果の臨床的意義などについて質問が あったが、学位申請者は自己データや文献的知識に基づぃて概ね妥当な回答を行った。
本 研究は 、脊髄における侵害刺激伝達の修飾に関与するアデノシンおよびアデノシ ン受 容体ア ゴニ スト が作 用す るの はア デノ シン 受容 体A1サブ タイプ であることを薬 理学 的に明 確にしたものであって、臨床における疼痛管理の薬物療法に新たな視点を 与え るもの と審査員一同は高く評価した。加えて、医学及び専門領域における申請者 の深 い学識 を認め、申請者が博士(医学)を受けるのに十分な資格を有するものと判 定した。