• 検索結果がありません。

博士(学術)加藤美保子 学位論文題名

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "博士(学術)加藤美保子 学位論文題名"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

     博士(学術)加藤美保子 学位論文題名

冷戦後ロシアのアジア・太平洋外交と多国問主義      ー対欧米外交の文脈で―

学位論文内容の要旨

  

本論文はソ連崩壊後、現在にいたるロシア外交の動向を様々な公刊資料や聞き取りな どをもとに考察したものである。国際関係論の理論的整理をもとに、旧来のロシア外交 研究の蓄積を検証し、その問題点を浮き彫りにしながら、ネオリベラリズム的なアプ口 ーチをべースとして、口シアのアジア・太平洋地域の多国聞外交を分析している。また 日露、中 露など2 カ国間の関係研究に重点が置かれがちな当該地域の分析を、地域全体 として烏瞰しようとすると同時に、これを口シアの対欧州・大西洋外交との対比で検討 している。またコズィレフ期の外交を「実利を欠いた」「国益を損なった」ものと表層 的に軽視する傾向が強しゝ先行研究を退け、その含意と射程を丁寧に洗い出し、後のプリ マコフ外交やプーチン外交に与えた影響を分析している。

  

序章では、研究背景の説明、先行研究の整理及び研究目的・方法について述べている。

著者の関心は、ロシアが大国としての地位を維持するために、冷戦後の国際秩序をどの ように構想し、関わろうとしてきたのか、そのなかでアジア・太平洋地域が担う役割は どのようなものか、という点にある。

  

第一章では、先行研究において、旧西側勢カとの一体化を優先課題とする「大西洋主 義者」として批判され、本格的に論じられることの少なかった、新生口シアの初代外相 アンドレイ・コズィレフの外交構想の全体像を明らかにしている。具体的には、エリツ インとコズィレフが冷戦後秩序の機軸として想定していた、口シアと欧州・大西洋地域 の共通の安全保障空間の創出が挫折した理由、さらにはそれを通じてコズィレフの対外 構想がど のように 変化し たのか、 またし なかったのかを検証した。この章では、

NATO

拡大の他 に、ロシ アと欧 米の関係 に影響 を与えた 欧州通 常戦力条 約(CFE) 、チェチェ ン紛 争 を めぐる欧 州安全 保障協力 会議

(CSCE)

と の対立も 事例と して扱っ た。初 期の コズィレフによる外交は、欧州・大西洋地域を場とした多国聞外交を目指すが、それは 失敗し、一種のプラグマテイックな均衡政策へ傾斜し、それはプルマコフ期以後も継続 する≧またコズィレフ外相期に形成された国際制度を重視するアプ口,ーチは、力点を変 えながらもプリマコフ期からプーチン期へとっながる政策の下敷きとして継承された。

  

いわば、コズィレフ外相期は「ベレストロイカ外交の限界」としてソ連・ロシア外交

の文脈で 位置づけ られる ものであ り、

NATO

の東方拡大問題は、地理的に西(欧州)と

東(ユーラシアおよびアジア・太平洋)を二分するものではなく、口シアの国家主権の

範囲にかかわるものであった。

(2)

  第 二 章 で は 、 エ リ ツ イ ン ー コ ズ ィ レ フ 体 制 下 で 積 極 的 な ア ジ ア ・ 太 平 洋 政 策 を 打 ち 出 せ な か っ た 背 景 と し て 、 指 導 部 が 「 大 西 洋 主 義 」 へ 傾 倒 し た こ と を 原 因 と す る 通 説 と 一 線 を 画 し 、19895月 の 中 ソ 関 係 正 常 化 、19909月 の 韓 ソ 国 交 樹 立 に よ っ て 、 ロ シ ア ( ソ 連 ) が 北 朝 鮮 に 対 す る 影 響 カ を 失 っ て い た こ と が 、 北 束 ア ジ ア に お け る 口 シ ア の 影 響 力 喪 失 に は 決 定 的 で あ っ た と す る 。 口 シ ア は 、 ア ジ ア ・ 太 平 洋 と い う 広 域 の 地 域 設 定 の な か で 、 多 国 間 制 度 を 通 じ て ア ジ ア ・ 太 平 洋 国 家 と し て の 地 位 を 確 保 し 、 「 地 域 大 国 」 と し て 自 ら を 演 出 し よ う と 努 め 、 ロ シ ア の 対 ア ジ ア 多 国 間 主 義 外 交 の 萌 芽 と し て 、 ASEANの 域 外 包 括 型 協 カ に 活 路 を 見 出 そ う と し た と す る 。 要 す る に 、 ア ジ ア ・ 太 平 洋 諸 国 に よ る 制 度 形 成 の 動 き も ま た 口 シ ア の 対 外 政 策 に 影 響 を 与 え た 点 を 見 逃 し て は な ら な い 。

  第 三 章 は プ リ マ コ フ の 対 ア ジ ア 外 交 を 分 析 し て い る 。 国 内 政 治 で の 保 守 化 と い う 圧 カ の 下 、 欧 米 と の 対 等 な 関 係 を 構 築 し つ つ 、 旧 ソ 連 の 外 交 的 資 源 を 出 来 る 限 り 回 復 さ せ る こ と が 、1996年 当 時 の プ リ マ コ フ の 対 外 政 策 の 課 題 で あ っ た 。 そ の 文 脈 の 中 で 、 彼 が 提 唱 し た 「 多 極 世 界 の 形 成 」 を 考 察 し 、 同 時 期 の 対 ヨ ー 口 ッ パ と 対 ア ジ ア の 性 格 比 較 を 行 っ て い る 。 現 実 と し て は 、NATOの 東 方 拡 大 で 対 立 し て い た 対 米 関 係 で は あ っ た が 、 決 し て 対 立 一 辺 倒 で は な く 欧 州 を め ぐ る 諸 問 題 で は 対 話 も 続 い て お り 、 他 方 で 米 国 の 単 独 主 義 へ 反 対 す る こ と で は 歩 調 を 合 わ せ て い た 中 国 と の 関 係 も 、 決 し て 協 調 一 辺 倒 で は な か っ た こ と が 重 要 で あ る 。

  第 四 章 で は 、 プ ー チ ン 政 権 の ア ジ ア ・ 太 平 洋 政 策 が 考 察 さ れ て い る 。 第 一 期 プ ー チ ン 政 権 に お け る 中 ロ 関 係 の 安 定 化 と 齟 齬 、 第 二 期 プ ー チ ン 政 権 に お け る 外 交 関 係 の 多 角 化 、 エ ネ ル ギ ー 政 策 、 ロ シ ア 極 東 地 域 開 発 を 多 国 間 制 度 の り ン ケ ー ジ と い う 論 点 で 検 討 し て い る 。 本 章 で は ま た ロ シ ア の 対 外 政 策 形 成 者 の な か に 対 中 国 外 交 に 距 離 を 置 こ う と す る 勢 カ が あ る こ と も 明 ら か に し た 。

  結 語 で は 、 ア ジ ア ・ 太 平 洋 諸 国 を ポ ス ト 冷 戦 期 の ロ シ ア の 国 際 秩 序 観 の 中 で 位 置 づ け 、 冷 戦 後 の 口 シ ア 外 交 に お け る 多 国 間 主 義 の 意 義 に つ い て 、 分 析 結 果 を ま と め て い る 。   全 体 と し て 、 ポ ス ト 冷 戦 期 の 口 シ ア 外 交 を 論 じ る 方 法 と し て 、 対 外 政 策 形 成 者 に よ る 国 際 制 度 の 解 釈 と 関 与 の 実 相 に 着 目 し 、 欧 州 ・ 大 西 洋 と ア ジ ア ・ 太 平 洋 と い う ニ つ の 地 域 に 共 通 す る プ ロ ッ ク 政 治 克 服 な る 目 標 、 各 地 域 固 有 の カ 学 を 明 ら か に し た こ と が 特 徴 で あ る 。 同 時 に コ ズ ィ レ フ 、 プ リ マ コ フ 、 プ ー チ ン と い う 三 人 の 指 導 者 が 、 共 に 冷 戦 後 の 国 際 秩 序 と し て 「 多 極 」 を 選 好 し て き た に も か か わ ら ず 、 そ れ を 実 現 す る 手 段 と し て 明 確 な 差 異 が 観 察 さ れ る こ と を 明 ら か に し た 。 第 一 に 、 地 政 学 的 ア プ 口 ー チ は 、 西 側 と の パ ー ト ナ ー シ ッ プ ( コ ズ ィ レ フ ) か ら 全 方 位 外 交 ( プ リ マ コ フ 以 降 ) へ と 変 容 し て い っ た 。 第 二 に 、 三 人 の 指 導 者 た ち は 政 策 と し て 「 多 国 間 主 義 」 を 採 用 し た 。 本 論 文 は 、 ポ ス ト 冷 戦 期 の ロ シ ア の 多 国 間 主 義 の 目 的 に は 、 @ 西 便 ゛ 諸 国 と の パ ン ド ワ ゴ ン 、 あ る い は 集 団 的 リ ー ダ ー シ ッ プ 、 @ 勢 力 均 衡 、 ◎ 地 域 の 分 断 と 対 立 を 回 避 す る た め の 保 証 措 置 、 と い う 三 つ の 側 面 が 観 察 さ れ る こ と を 分 析 し た 。 こ れ ら の ど の 側 面 に 比 重 を 置 く か と い う 点 は 、 そ れ ぞ れ の 指 導 者 、 地 域 の 国 際 環 境 に よ っ て 異 な っ て い る 。

2

(3)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

(京 都女 子大 学現 代社

    

会 学 部 教 授 )

冷戦後ロシアのアジア・太平洋外交と多国間主義      一対欧米外交の文脈で―

  

本 論文 は平 成23 年

3

31

日 に提 出さ れた 。本 論文 の審査委員会は、平成

23

4

月15 日に発足し、同日に第1 回、平成23 年5 月9 日に第

2

回の審査委員会が開かれ、論文内容 の検討などが行われた。平成

23

5

月30 日に公開の口頭試問が実施され ,同日の第3 回 審査委員会において、学位授与の判定がなされた。審査結果報告書の作成のため、第

4

回 と第

5

回の審査委員会が平成22 年

5

31

日〜6 月3 日に開かれた。

  

まず審査では、本論文の史料面や理論面での特徴を中心に次のように評価した。本論文 はソ連崩壊後から現在にいたるまでの口シア外交の動向や変化を、ロシアの新聞、雑誌を 始めとする様々な公刊資料及び、論文執筆者自らがモスクワを中心に関係機関などで持続 的に聞き取った材料をもとに、十分に考察し、全体を練り直して分析を新たにしたものと いえる。国際関係論の理論的整理をもとに、旧来のロシア外交研究の蓄積を検証し、その 問題点を浮き彫りにしながら、主としてネオリベラリズム的なアプローチをべースとして、

ロシアのアジア・太平洋地域の多国聞外交を分析している。また、長年にわたる集団安全 保障や多国間レジーム・機構の欠如から日本と口シア、中国と口シア、米国と口シアなど

2

力国間関係に重点が置かれることの多いアジア・太平洋地域の分析を、その地域全体と して鳥瞰しようとすると同時に、これを口シアの対欧州・大西洋外交との対比で検討して いる。旧来の研究がロシアの対欧州・大西洋外交との連関や関係性を表層的にしかとられ ていなかったことを想起すれば、このようなアプローチの重要性は疑うまでもない。また コズィレフ期の外交を「実利を欠いた」「国益を損なった」ものと表層的に軽視する傾向が 強い先行研究を退け、その含意と射程を丁寧に洗い出し、後のプリマコフ外交やプーチン 外交に与えた影響を分析している。

3

裕 郎

子 行

     

下 畑

授 授

教 教

査 査

主 副

(4)

  次 に 、 審 査 で は 本 論 文 の 独 自 性 や 学 問 的 貢 献 に つ い て 審 議 を 行 い 、 次 の よ う に 整 理 し た 。   本 論 文 は 、 ロ シ ア 外 交 に 関 す る 資 料 を 丹 念 に フ オ 口 ー し て お り 、 か つ ア ジ ア ・ 太 平 洋 地 域 に 関 す る 外 交 を 、 そ の 部 分 だ け 切 り 取 る の で は な く 、 ロ シ ア 外 交 全 体 の 枠 組 の な か で 分 析 す る と 同 時 に 、 理 論 的 な 観 点 も 射 程 に お い た 意 欲 的 な 作 品 で あ る 。 特 に コ ズ ィ レ フ 外 交 が ニ つ の 章 に わ た っ て 取 り 扱 わ れ お り 、 そ れ ぞ れ ー つ の 章 で 分 析 さ れ た プ リ マ コ フ と プ ー チ ン の 外 交 の そ れ と 比 べ れ ば 、 コ ズ ィ レ フ 外 交 の 分 析 に は か な り の 厚 み が あ る 。 こ の 分 析 は 論 文 全 体 に と っ て の 白 眉 と も い え る 部 分 で あ り 、 こ れ 自 体 を 切 り 離 し て 刊 行 す る こ と だ け で も 本 研 究 の 成 果 は 大 い に ア ピ ー ル さ れ よ う 。 全 体 と し て 評 価 し て も 、 ロ シ ア の ア ジ ア ・ 太 平 洋 政 策 に つ い て 包 括 的 な 分 析 を 行 っ て い る こ の 研 究 は 、 わ が 国 の ロ シ ア 外 交 研 究 に 新 し い 視 角 を 提 示 し 、 ま た 国 際 的 な レ ベ ル に お い て も 新 し い 知 見 を 提 供 し て い る 。   第 一 章 で は 、 コ ズ ィ レ フ 外 相 期 を 「 ベ レ ス ト 口 イ カ 外 交 の 限 界 」 と し て ソ 連 ・ ロ シ ア 外 交 の 文 脈 に 位 置 づ け た こ と が 第 一 の 成 果 で あ る 。 第 二 の 成 果 は 、NATOの 東 方 拡 大 に よ っ て 形 成 さ れ た 対 外 政 策 に お け る 対 立 軸 は 、 地 理 的 に 西 ( 欧 州 ) と 東 ( ユ ー ラ シ ア お よ び ア ジ ア ・ 太 平 洋 ) を 二 分 す る 論 争 で は な く 、 ロ シ ア の 国 家 主 権 の 及 ぶ 範 囲 や 、 軍 事 ブ ロ ッ ク (NATO)か 全 欧 州 安 全 保 障(CSCE)か と い う 論 争 で あ っ た こ と を 指 摘 し た こ と で あ る 。   第 二 章 で は 、 ロ シ ア の ア ジ ア 政 策 に お け る 北 東 ア ジ ア と 東 南 ア ジ ア そ れ ぞ れ の 意 義 と 両 地 域 の 関 連 性 を 指 摘 し た 点 に 加 え 、 ロ シ ア を 取 り 巻 く 国 際 情 勢 だ け で な く 、 ア ジ ア ・ 太 平 洋 諸 国 に よ る 制 度 形 成 の 動 き が ロ シ ア の 対 外 政 策 に 影 響 を 与 え た 側 面 を 指 摘 し た こ と が 成 果 と い え る 。

  第 三 章 で は 、 「 多 極 世 界 の 形 成 」 と い う レ ト リ ッ ク の 多 用 に も か か わ ら ず 、 現 実 の プ リ マ コ フ 外 交 で は 、NAI'Oの 東 方 拡 大 で 対 立 が 先 鋭 化 し て い た ア メ リ カ と の 関 係 に お い て 、 対 立 一 辺 倒 で は な く 欧 州 通 常 戦 力 条 約(CFE)の 適 合 化 な ど で 相 互 に 受 け 入 れ 可 能 な 案 を 模 索 す る 対 話 が 続 け ら れ て い た こ と を 指 摘 し た こ と が 成 果 と み な せ る 。   第 四 章 で は 、 ロ シ ア の 対 外 政 策 形 成 者 の な か に 中 国 と の 関 係 を 相 対 化 し よ う と す る 勢 カ が あ る こ と を 、 ア ジ ア ・ 太 平 洋 地 域 主 義 に 対 す る モ ス ク ワ の 関 心 と 実 際 の ア プ ロ ー チ を 通 じ て 明 ら か に し た こ と に あ る 。

  以 上 の 審 査 の 結 果 、 本 審 査 委 員 会 で は 一 致 し て 、 申 請 者 に 博 士 ( 学 術 ) の 学 位 を 授 与 す     

る こ と が 妥 当 で あ る と の 結 論 に 達 し た 。

4‑

参照

関連したドキュメント

プログラムに参加したどの生徒も週末になると大

氏名 学位の種類 学位記番号 学位授与の日付 学位授与の要件 学位授与の題目

氏名 学位の種類 学位記番号 学位授与の日付 学位授与の要件 学位授与の題目

学位授与番号 学位授与年月日 氏名 学位論文題目. 医博甲第1367号

学位授与番号 学位授与年月日 氏名

ポートフォリオ最適化問題の改良代理制約法による対話型解法 仲川 勇二 関西大学 * 伊佐田 百合子 関西学院大学 井垣 伸子

目標を、子どもと教師のオリエンテーションでいくつかの文節に分け」、学習課題としている。例

関西学院大学手話言語研究センターの研究員をしております松岡と申します。よろ