博士(医学)中江 厚 学位論文題名
Replacements of leucine 87 in humanlnsulin receptor a,lter affinity forlnSulin ・ (ヒ 卜インスリン受容体コドン 87 □イシンの イン スリン結合における役割に関する研究)
学位論文内容の要旨
ヒ ト イ ン ス リ ン 受 容体cDNAがク ローニ ング され て以 来、typeAイン スリ ン抵 抗性 糖尿 病、I亅eprechaunism、Rabon―Mendenhau症候群などの遺伝性のインスリン抵抗性糖尿病に お いて 数多 くの 突然 変異が報告され、それによルインスリン受容体の構造と機能も次第に 解 明さ れつ っあ る。 しかし、未だインスリンと受容体との其結晶が得られておらず、正確 な 受容 体細 胞外 ドメ イン の3次 元構 造が 解明 され ていなぃ。それゆえ、インスリン受容体 の イン スリ ン結 合部 位に関しては、部位特異的変異導入法、photoボ血iゆlabebgsmdy、イ ンスリンとインスリン様成長因子(IGF)ー1受容体とのキメラ受容体の構築、さらには上記 の遺伝性のインスリン抵抗性糖尿病のインスリン受容体遺伝子解析によるところが大きぃ。
今回 、我 々は イン スリ ン受容 体遺 伝子 の異 常に より 、極 度の イン ス1Jン抵 抗性を示す kザechaun迅mの1例に おい てイ ンス リン 受容 体遺 伝子の解析を行い、その遺伝子異常を同 定 する と其 に、 その 異常部位のアミノ酸を部位特異的変異導入法により他のアミノ酸に置 換 し、 イン スリ ン作 用に及ばす影響に関して比較検討し、その部位のインスリン受容体に おける役割について新たな知見を得た。
症例は、入院時6カ月の女児で、現在」歳6カ月。主訴は高血糖、特異顔貌。在胎39週1日、
体重1552g、身長44Cm、正常分娩にて出生す。出生後耳介低位、眼球突出などの特異顔貌、
多 毛、 陰核 肥大 、皮 下脂肪の低下を認めた。さらに、出生時より低血糖を認め、その後哺 乳 後の 高血 糖、 空腹 時の 低血糖 があ るこ とか ら糖 代謝の異常が疑われ、生後6カ月の時点 で 精査 目的 にて 当科 に入 院とな った 。患 児は 第2子であるが、家族歴には特記すべきこと な ぃ。 また 、両 親に は糖尿病を疑わせる既往歴は現在のところない。両親は血族結婚では なぃ。経口ブドウ糖負荷試験では血糖は基礎値の45mg/dlから200mg/dlと高血糖が認められ、
mI値も1851U/m1から24901U/mlと 高イ ンス リン 血症が認められた。さらに、インス1Jン O.1U/kgの負荷試験では血糖は基礎値の51mg/dlより最低44mg/dlまでの低下しか認められず、
インスリン抵抗性を示嚢する所見が得られた。.
方 法は 、患 児お よびtの家族のEBvin峪により芽球化したりンパ芽球を用いて、1251−イン ス リン 結合 アッ セイ を施 行し、 上記 のり ンパ 芽球 よりgenomic以 乢へ を抽 出し 、Southem hyMdia面0nを施 行し た。 さらに 、リ ンパ 芽球 より め讎RNAを抽出した後、mRNAに精製し、
cDNAを 構 築 し た 。 そ の 後 、PCR‐ 直 接 シ ー ク エ ン ス 法 に より 塩 基 配 列 を 決 定 し た 。 同 定し たミ スセ ンス 変異 の病的 意義 を確 認す るた めに、正常型インスリン受容体(Leu87 IR冫及び変異型インスリン受容体(Pr0871R冫の発現ベクターを構築し、ネオマイシン耐性遺 伝 子 を 含 む 発 現 ベ ク タ ー で あ るpHSVne0と と も にNm3T3細 胞に 遺伝子 導入 し、 恒常 的に イ ン ス リ ン 受 容 体 を 発 現 し て い る ク ロ ー ンを 得 た 。 さら に、 変異型 イン スリ ン受 容体
(Pr087IR)の細胞内輸送とインスリン結合能に関して検討するため、pulse chase study、Cell surface biotinylation、i2sI‑インスリン結合アッセイを施行した。コドン87のインスリン受容 体にお ける 機能 を検 討す るた め、PCRを 用い た部 位特 異的 変異導入法により、コドン87番 目をそれぞれAla.neに置換した発現ベクター(Ala87IR,Ilew87‑)を構築し、Pr087IRの場合 と同 様にNIH3T3細 胞ヘ 遺伝 子導 入し 、恒 常的 に変 異イ ンスリ ン受 容体 を発 現し てい るク ローンをえて、細胞内輸送、インスリン結合能について検討した。
結果 は、 患児 のり ンパ 芽球 ではインスリン受容体の数、結合親和性の両者における低下 が認め られ 、さ らに 母に おい ても受容体数の低下が認められた。インスリン受容体遺伝子 解析の 結果 、母 由来 のgenomic DNA上でexon4からexon6を含む領域で1.3kbの欠失が認めら れ、 そ れ に よ り 母 由 来 のmRNA上 でframeshiftが お こ り 、exon6のcodon360にTAAの 終止 codonが生じていた。さらに父由来のalleleでは、479番目の塩基カ汁からCに置換し、それ により87番目のアミノ酸がI」euからProに置換するmlssense mutationが同定された。変異受 容体(Pr087IR)のpulse‑chase studyでは、Pr087IRのproreceptorの半減期はLeu87IRよりも長く、
a,l3サブユニヅトへの切断に障害を及ばしていると考えられ、proreceptorのdimer化におい て若干の障害を受けることが認められた。しかし、cell surface biotinylationでは、Pr087IRは Leu87IR同様 にaお よびBサ ブユニ ット とし て認 めら れ、Pr087IRは 、細 胞内 輸送 に若 干の 影響を 与え るが 、膜 表面 まで 輸送され主に受容体数を減少させる突然変異ではないと考え られた。さらに、変異インスリン受容体のScatchardp10t解析では、Pr0871Rのインスリン結 合親和性はLeu87瓜の約15%に低下しており,Pr0871貰のインスリン結合親和性の低下を示 す結果 が得 られ た。PCRを用 いた部 位特 異的 変異 導入 法に よるコドン87の機能解析では、
ne87瓜および心a87瓜はともにLeu87瓜と同様に細胞膜表面に存在しうることが確認された。
また、各変異型インスリン受容体のscatchardplot解析により、ma87永のインスリン結合親 和性は 、Leu87瓜の 約15%に 低下し てい が、ne87瓜の イン スリン結合親和性は、正常型の Leu87瓜の約4倍に増加していた。
イ ンス リン 受容 体に おけ るイ ンス リン 結合 部位 は、 現在の とこ ろ受 容体 の細 胞外 ドメ インが まだ 結晶 化さ れて いな いた め正 確に は明 らか にさ れていないが、Exon2によルコー ドされているaサブユニットのN末端(residue1‐119)と、EX0n6および7にコードされているa サブユニットのC末端(residue3111428)が結合ドメインであろうといわれている。今まで報 告され てい る部 位特 異的 変異 導入法によるとコドン85,86,88番目のアミノ酸は、直接イ ンスリン結合には関わっていないとされ、コドン89番目のPhenylむanme(Phe)が直接インス リンに 結合 する 残基 のー つで あると報告されている。今回、解析したコドン87番目のアミ ノ酸であるI」恥も、推定上のインスリン結合部位に含まれており、さらに、I風1自身がヒト IGF‐1受容体、DfDs。mぬヒ皮成長因子受容体、c‐erb‐B2受容体でも保存されていることか ら、イ ンス リン 結合 に重 要な 役割を演じている可能性が考えられた。今回のhprechaun沁m の一例 にお いて は87番目 のア ミノ酸がしmからPr0に置換されることにより、インスリン結 合親和 性が 低下 して いた が、 これのみでは同部位がインスリン結合に関し重要であるとは 言えなぃ。なぜならば、Proは、しばしばpolyp印tideのp−tumに見い出され、polypeptideを 曲げる 性質 を持 ち、87番 目の アミ ノ酸 にProが導 入さ れる ことにより、同部位が直接にイ ンスリ ン結 合に 関わ って いな くても、真の結合部位に影響を与え親和性を低下させうるか らである。今回のI」euのAbへの置換による結合親和性の著しい低下は87番目のアミノ酸に おける 側鎖 の重 要性 を示 唆し 、さらにneへの置換による結合親和性の増加は、87番目にお いては、pもしくはHコfanchの側鎖が重要であり、しかも同部位においては、I」恥のY―branch よりも むし ろneのD‐b孤chの 側鎖の方が適していることを示唆している。以上から、コド ン87番目のI」印は、インスリン結合に重要な役割を果たし、インスリンが直接結合する部 位である可能性が考えられた。今後、インスリン受容体とインスリンとの其結晶が得られ、
正確な結合部位が明らかにされることが待たれる。
学 位 論 文 審査 の 要旨
主 査 教 授 小 林 邦 彦 副 査 教 授 西 信 三 副 査 教 授 柿 沼 光 明 学 位 論 文 題 名
Replacements of leucine 87 in humanlnsulin receptor alter affinity forlnSulin . ( ヒ ト イ ン ス リ ン 受 容 体 コ ド ン 87 ロ イシ ン の イ ン ス リ ン 結 合 に お け る 役 割 に 関 する 研究 )
ヒト イ ンス リ ン 受容 体cDNAがク ロ ー ニン グ され て以来 、遺伝性 のインス リ ン抵 抗性糖尿病 において 数多くの 突然変異 が報告さ れ、イン スリン受容体の構 造と 機能が次第 に解明さ れつっあ る。しか し、未だ 正確な受 容体細胞外ドメイ ン の3次元 構 造 が解 明 されておら ず、受容 体におけ るインス リン結合 部位に関 し ては 、 不 明な 点 が 多い 。 本研 究 は 、イ ン スル ン 受容体遺 伝子異常 症である Leprechaunismの1例 にインスリ ン受容体 遺伝子の 異常を同 定し、異 常部位のア ミノ 酸を部位特 異的変異 導入法に より他の アミノ酸 に置換し 、受容体における イ ン ス リ ン 結 合 部 位 と の 関 連 に つ い て 解 析 し た も の で あ る 。 症例ヰま低出生体重児であり臨床上Leprechaunismに特徴的な所見を有しており、
イン スリン抵抗性が認められた。患児のりンパ芽球ではインスリン受容体の数、
結合 親和性の両 者におけ る低下が 認められ 、さらに 母におい ても受容体数の低 下 が認 め ら れた 。 イ ンスリン受 容体遺伝 子解析の 結果、母 由来のgenomic DNA 上 でexon4からexon6を 含む領域 で1.3kbの欠失が 認められ 、exon6のcodon3 56 にTAAの 終 止codonが 生じ、父 由来のalleleでは 、87番目の アミノ酸 がLeuから Proに置 換 す るミ ス セン ス変異が同 定された 。同定し たミスセ ンス変異 の病的 意義 を確認する ために、 正常型イ ンスリン受容体(以下、Leu87 IR)及び変異型 イン スリン受容体(以下、Pr087IR)の発現ベクターを構築し、ネオマイシン耐性 遺 伝子 を 含 む発 現 ベ クターとと もにNIH3T3細胞 に遺伝子 導入し、Pr087IRの細 胞内動態とインスリン結合能に関して検討した。
Pulse‑chase studyでproreceptorの細胞内動態を見ると、Pr087IRのproreceptor
はdimer化とa,pサプユニットへの切断に若干の障害を受けることが認められた。
しかし、cell surface biotinylationでみた受容体の膜発現検索では、Pr087IRは 膜表面まで輸送されることが示された。Scatchard plot解析によるインスリン結 合 親和 性の 検討で はPr087IRはLeu87IRの 約15%に低下していた。次いで、コド ン87の イン スリン 受容 体に おけ る機 能を 検討するため、PCRを用いた部位特異 的 変異 導入 法により、コドン87番目をそれぞれAla,Ileに置換した発現ベクタ ー を構 築し 、NIH3T3細 胞ヘ 遺伝 子導 入し 、前 述と 同様 の検 討を 行っ た。その 結 果 、Ala87IRの イ ン ス リ ン結 合親 和性 は、 正常 型のLeu87IRの 約15%に 低下 し てい たが 、Ile87IRのインスリン結合親和性は約4倍に増加していることを認 めた。イ.ンスリン受容体におけるインスリン結合部位に関しては、Exon2によ ル コー ドさ れてる ロサ ブユ ニッ トのN末 端と、Exon6および7にコードされてい る ロサ ブユ ニット のC末端 が結 合ド メイ ンであろうとぃわれている。コドン87 番 目の アミ ノ酸で あるLeuは、 推定 上の インスリン結合部位に含まれており、
さらに、ヒトIGF‑1受容体、Drosophila上皮成長因子受容体でもこの部分は保存 さ れて いる ことから、インスリン結合に重要な役割を演じている可能性が考え ら れた 。ま たLeuのAlaへの置換による結合親和性の著しい低下は87番目のアミ ノ酸における側鎖の重要性を示唆し、さらにIleへの置換による結合親和性の増 加 は、87番 目にお`ゞては、pもしくはァ‑branchの側鎖カ逗要であり,さらに 同 部位 にお いては、Leuのy‑branchよりもむしろIleのp‑branchの側鎖の方が適 し てい るこ とを示 唆し 、コ ドン87番 目のLeuはインスリンが直接結合する部位 で ある 可能 性が高い。審査に当たって、副査の柿沼教授から変異蛋白の示す幾 っ かの 生化 学的機能と変異の関係、人工的に変異導入した細胞の増殖機能とく に発ガンとの関係について、副査の西教授から母親の変異とaffinityについて、
結晶化による構造解析の限界、2つの異なるmutantを細胞導入した実験の有無、
主 査の 小林 教授から他の既知のmutantと今回のmutantから導き出せる結諭につ い て、 細胞 内processingにおけるmutant等について質問があった。何れの質問 に 対し ても 、申請者は自己の実験結果や文献を引用し、また豊富な知識に基づ い て明 解に 解答し た。 審査 員一 同は 、こ れらのインスリン受容体コドン87Leu が イン スリ ン結合に重要な役割を果たしていることを明らかにした成果を高く 評 価し 、申 請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有するものと 判定した。