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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

日本人と中国人のクレーム交渉談話 : 客とサービス 関係者の相互行為を中心に

胡, 敏男

https://doi.org/10.15017/1398294

出版情報:九州大学, 2013, 博士(比較社会文化), 課程博士 バージョン:

権利関係:Fulltext available.

(2)

日本人と中国人のクレーム交渉談話

―客とサービス関係者の相互行為を中心に―

胡 敏男

(3)
(4)

目 次

第 1 章 序論

1.1 研究の背景 ... 1

1.2 研究の目的と意義 ... 2

1.3 論文の構成 ... 3

第 2 章 先行研究概観及び本研究の位置づけ

2.1 本章の目的 ... 5

2.2 定義 ... 5

2.2.1 「クレーム」に関する定義 ... 5

2.2.2 「サービス関係者」に関する定義 ... 6

2.3 交渉行為に関する先行研究 ... 7

2.4 クレーム交渉に関する対照研究 ... 10

2.5 サービス関係者の言語行動に関する先行研究 ... 11

2.6 先行研究の問題点 ... 14

2.7 本研究の位置づけ及び研究課題 ... 15

第 3 章 本研究で採用した研究方法

3.1 研究方法の概略 ... 17

3.2 本研究の方法を採用する理由 ... 17

3.2.1 自然談話 ... 17

3.2.2 アンケート調査 ... 18

3.3 データの概要 ... 19

3.3.1 データの収集方法 ... 19

3.3.2 場面 ... 19

(5)

3.4 発話文の認定 ... 20

3.5 文字化の方法 ... 21

第 4 章 クレーム交渉談話の構造分析に関する対照研究

4.1 本章の目的 ... 23

4.2 分析方法 ... 23

4.2.1 構造の単位―「話段」 ... 23

4.2.2.1 「話段」に関する先行研究 ... 23

4.2.2.2 「話段」を用いて分析する理由 ... 24

4.2.2 分析の課題 ... 25

4.3

クレーム交渉談話における各「話段」の分類及び出現数

... 25

4.3.1 「クレーム交渉話段」における各話段の種類 ... 25

4.3.2

クレーム交渉談話に現れた「話段数」

... 30

4.4 クレーム交渉における各部分の展開様相に関する日中対照 ... 31

4.4.1 「前置き話段」の展開様相に関する日中対照 ... 31

4.4.2 「主交渉部分」の展開様相に関する日中対照 ... 34

4.4.2.1 分析及び結果 ... 34

4.4.2.1.1 受容的スタイル ... 34

4.4.2.1.1.1 談話例「JP5」の主交渉部分に関する分析 ... 35

4.4.2.1.1.2 談話例「JP7」の主交渉部分に関する分析 ... 36

4.4.2.1.2 対峙的スタイル ... 37

4.4.2.1.2.1 談話例「JP1」の主交渉部分に関する分析 ... 38

4.4.2.1.2.2 談話例「CN6」の主交渉部分に関する分析 ... 39

4.4.2.1.2.3 談話例「CN7」の主交渉部分に関する分析 ... 42

4.4.2.1.3 受容―対峙混在的スタイル... 45

(6)

4.4.2.1.3.1 談話例「JP2」の主交渉部分に関する分析 ... 45

4.4.2.1.3.2 談話例「JP3」の主交渉部分に関する分析 ... 47

4.4.2.1.3.3 談話例「CN1」の主交渉部分に関する分析 ... 49

4.4.2.1.3.4 談話例「CN2」の主交渉部分に関する分析 ... 51

4.4.3 「交渉を終了させる部分」の展開様相に関する日中対照 ... 54

4.5 日中両言語の各談話例に現れた「話段」の交替頻度 ... 59

4.6 本章のまとめ ... 60

第 5 章 クレーム交渉談話における客側の説得方略に関する日中対照研究

5.1 本章の目的 ... 63

5.2 データの概要 ... 63

5.3 「説得」の抽出 ... 63

5.4 理論の背景 ... 65

5.5 分析 ... 66

5.5.1 クレーム交渉場面における客側の説得方略の用例 ... 67

5.5.1.1 事情陳述 ... 67

5.5.1.2 妥協 ... 70

5.5.1.3 主張 ... 70

5.5.1.4 哀願 ... 73

5.5.1.5 質問 ... 76

5.5.1.6 非難 ... 76

5.5.1.7 警告 ... 78

5.5.1.8 第三者援助 ... 81

5.5.1.9 褒め ... 82

5.6 結果 ... 83

(7)

5.6.1

クレーム交渉場面における客側の説得方略の使用頻度 ... 83

5.7 考察 ... 85

5.7.1

クレーム交渉場面における客側の説得方略の使用傾向 ... 85

5.7.2「非難」の使用実態に見られた日中差 ... 88

5.8 本章のまとめ ... 92

第 6 章 クレーム交渉談話におけるサービス関係者の対応 に関する日中対照研究

6.1 本章の目的 ... 95

6.2 データの概要 ... 95

6.3 分析方法 ... 95

6.4 分析 ... 96

6.4.1

サービス関係者の応答の抽出 ... 96

6.4.2 サービス関係者の応答の分類 ... 96

6.4.2.1

「交渉の目的が表面化する話段」及び「交渉話段」における「応答」 ... 96

6.4.2.1.1

「交渉の目的が表面化する話段」における「応答」... 97

6.4.2.1.2

「交渉話段」における「応答」 ... 97

6.4.2.2

「対応話段」における「応答」 ... 97

6.4.2.2.1 展開パターン1:「応答部」-「展開部」 ... 98

6.4.2.2.2 展開パターン2:「展開部」のみ... 99

6.4.2.2.3 「対応話段」における「応答部」の「応答」の機能 ... 101

6.4.2.2.4 「対応話段」における「展開部」の「応答」の方向性 ... 105

6.5

結果 ... 116

6.5.1 各種類の「応答」の分布 ... 116

6.5.2 「対応話段」における「応答」の種類 ... 116

(8)

6.5.3

「対応話段」における「応答部」の「応答」の機能の分布 ... 117

6.5.4 「対応話段」における「展開部」の「応答」の方向性の分布 ... 117

6.6

アンケート調査 ... 118

6.6.1 調査対象者... 118

6.6.2 アンケート調査用紙の構成 ... 121

6.6.3

結果 ... 121

6.6.3.1 質問1

の結果 ... 121

6.6.3.2 質問2

の結果 ... 123

6.6.3.3

質問

3

の結果 ... 123

6.7 考察 ... 124

6.7.1

「対応話段」における「応答部」の「応答」の機能の分布についての考察 . 124

6.7.2 「対応話段」における「展開部」の方向性の分布についての考察 ... 125

6.8 本章のまとめ ... 126

第 7 章 クレーム交渉談話における客とサービス関係者側の言語表現

7.1 本章の目的 ... 129

7.2 客側の言語表現についての対照研究 ... 129

7.2.1 日本のクレーム交渉談話における客側の言語表現 ... 129

7.2.1.1

「のだ」文の使用 ... 129

7.2.1.2

「~よ」の使用 ... 131

7.2.1.3 命令文の使用 ... 133

7.2.2 中国のクレーム交渉談話における客側の言語表現 ... 134

7.2.2.1

命令文の使用 ... 134

7.2.2.2

語気助詞の使用 ... 136

7.2.2.3

「怒り」を直接に表す表現の使用 ... 137

(9)

7.3 サービス関係者の言語表現についての対照研究 ... 138

7.3.1

日本のクレーム交渉談話におけるサービス関係者側の言語表現 ... 138

7.3.1.3 文末における「けれども」の使用 ... 141

7.3.1.1

「~なります」の使用 ... 138

7.3.1.2

終助詞「ね」の使用 ... 139

7.3.1.3 文末における「けれども」の使用 ... 141

7.3.1.4

文末における接続助詞「ので」の使用 ... 144

7.3.1.5 「ぼかし」表現の使用 ... 144

7.3.2 中国のクレーム交渉談話におけるサービス関係者側の言語表現... 146

7.3.2.1

“不是…吗”の使用 ... 147

7.3.2.2

“是不是”の使用 ... 148

7.3.2.3 命令文の使用 ... 150

7.3.2.4

否定するマーカーの使用

... 151

7.3.2.5 語気助詞の使用 ... 152

7.3.2.6“我跟你说”の使用 ... 154

7.4 本章のまとめ ... 155

第 8 章 日本人と中国人のクレーム交渉動に関する意識調査

8.1 本章の目的 ... 157

8.2.調査1

の概要 ... 157

8.2.1 調査方法 ... 157

8.2.2.

場面 ... 157

8.2.3 回収方法及び回収率 ... 157

8.2.4.

調査対象者 ... 158

8.2.5.

アンケート調査用紙 ... 158

(10)

8.2.6 調査1

から見られた文化差 ... 159

8.2.6.1

質問

1

に関する結果 ... 166

8.2.6.2

質問

2

に関する結果 ... 162

8.2.6.3 質問3

に関する結果 ... 168

8.3 質問2

の概要 ... 171

8.3.1

調査方法 ... 171

8.3.2.

場面 ... 172

8.3.3 回収方法及び回収率 ... 172

8.3.4.

調査対象者 ... 172

8.3.5.

アンケート調査用紙 ... 172

8.3.6 調査2

から見られた文化差 ... 173

8.3.6.1.

談話例

CN5

の結果 ... 176

8.3.6.2

談話例

CN7

の結果 ... 176

8.3.6.3 談話例JP2

の結果 ... 178

8.4

考察 ... 180

第 9 章 結論

9.1 本論文のまとめ ... 181

9.1.1 クレーム交渉談話の全体的構造から見られる日中両国の違い... 181

9.1.2 客側の説得方略から見られる日中両国も違い ... 182

9.1.3.

サービス関係者側の対応の様相から見られる日中両国の違い ... 183

9.1.4 客とサービス関係者の言語表現から見られる日中両国の違い ... 183

9.1.5 日本人と中国人のクレーム交渉動機及び深刻度から見られる両国の文化差 . 184 9.2 今後の課題 ... 185

(11)

参考文献

... 187

付録

... 194

付録Ⅰ自然談話データ ... 194

付録Ⅱ調査票

1 ... 253

付録Ⅲ調査票

2... 255

(12)

図目次

1

1-1

外国人雇用の産業別 厚生労働省資料

(平成24

年)

2

2

章 図

2-1

クレームに関する分類モデル 6

5

章 図

5-1

クレーム交渉場面における客側の説得方略の使用頻度 84

5-2

5-1

各パターンの説得方略の使用頻度

87

8

章 図

8-1

各場面で発生したクレームの事態は日常生活での発生状況(日本人の場合)

159

8-2

各場面で発生したクレームの事態は日常生活での発生状況(中国人の場合)

160

8-3

クレームの事態が日常生活で発生状況に関する日中対照 160

8-4

クレーム交渉の必要性に関する結果(日本人の場合)

162

8-5

クレーム交渉の必要性に関する結果(中国人の場合)

163

8-6

クレーム交渉の必要性に関する結果(中国人の場合)

163

8-7

「交渉する」と回答した理由(CN1 の場合)

164

8-8

「交渉しない」と回答した理由(CN1 の場合)

165

8-9

「交渉しない」と回答した理由(JP6 の場合)

166

8-10

「交渉する」と回答した理由(JP6 の場合)

166

8-11

「交渉しない」と回答した理由(CN2 の場合)

167

8-12

「交渉する」 と回答した理由を分析した結果(CN2 の場合)

168

(13)

8-13

クレーム深刻度の順位づけ(日本人の場合)

169

8-14

クレーム深刻度の順位づけ(中国人の場合)

170

8-15

客側の交渉方略の使用状況 (CN5 の場合)

173

8-16

客側が使用する交渉方略 (CN5 の場合)

174

8-17

サービス関係者側の対応の方略の使用状況 (CN5 の場合)

174

8-18

サービス関係者側が使用する対応方略(CN5 の場合)

176

8-19

客側の交渉方略の使用状況 (CN7 の場合) 176

8-20

客側が使用する交渉方略(CN7 の場合)

176

8-21

サービス関係者側の対応の方略の使用状況

(CN7

の場合) 177

8-22

サービス関係者側が使用する対応方略

(CN7

の場合)

177

8-23

客側の交渉方略の使用状況 (JP2 の場合)

178

8-24

客側が使用する交渉方略(JP2 の場合)

178

8-25

サービス関係者側の対応の方略の使用状況

(JP2

の場合) 179

8-26

サービス関係者側が使用する対応方略

(JP2

の場合)

179

(14)

表目次

2

2-1 対立状況におけるストラテジー 9

3

章 表

3-1 クレーム交渉談話例の内訳 19

4

章 表

4-1 日本語談話例に現れた「話段数」 30

4-2 中国語談話例に現れた「話段数」 30

4-3 日本語談話例における「「前置き話段」の表現」 31

4-4 中国語談話例における「「前置き話段」の表現」 32

4-5 主交渉部分の展開様相の分類

34

4-6 クレーム交渉談話における「交渉を終了させる話段」の構成要素 55

4-7 クレーム交渉談話における「交渉を終了させる話段」の構成要素の出現数 55

4-8 日本語談話における「話段」の交替頻度 60

4-9 中国語談話における「話段」の交替頻度

60

5

章 表

5-1「対人葛藤」の方略行動 65

5-2

クレーム交渉場面における客側の説得方略の分類

66

5-3

クレーム交渉場面における客側の説得方略の使用頻度

84

5-4 クレーム交渉場面における客側の説得方略の分類 86

5-5

各説得方略の使用頻度

86

(15)

6

6-1 各種類の「応答」の分布 116

6-2

「対応話段」における「応答」の種類

117

6-3

対応話段における「応答」の「応答部」の機能の分布

117

6-4

対応話段における「応答」の「展開部」の機能の分布

118

6-5

被験者の内訳

119

6-6

日本人サービス関係者の被験者の概要

119

6-7

中国人サービス関係者の被験者の概要

120

8

章 表

8-1 調査1

の被調査者数の情報 158

8-2 各国製品の品質に関するアンケート結果

161

8-3 深刻度の評価に関する日中対照 170

8-4 調査2

の被調査者数の概要

172

(16)

第 1 章 序論

1.1 研究の背景

近年、中国人仕事や観光や留学を目的として日本を訪れる中国人の数は多い。日本政府 観光局(JNTO)

1

の統計によると、2011 年訪日外国人観光客の総数は

6,218,747

人である が、中国は韓国に続き

2

番目に多い(1,043,245)。

日本政府も、長期景気拡大戦略の一環として、2020 年までに日本を訪れる外国人観光客 数の

2000

万人への増大を期待しており、なかでも中国人観光客数が

600

万人に達すること を見込んでいる。

また、改革開放以来、中国を訪れた外国人観光客は

68

倍に増えた。2010 年、中国は世 界第三位の観光目的地となると同時に、世界最大の国内観光市場になりつつある。

2

1970

年代から

1990

年代にかけて、日本の経済発展を背景に国際的なビジネスの機会が 拡大し、ビジネスの場面で日本語が用いられる機会が多くなってきた。仕事のために来日 する外国人や海外に拠点を置く日系企業も増加してきたことから、ビジネス場面で使用さ れる日本語へのニーズが高まっている(島田・渋川

1998)。近年では、日本国内における

留学生を採用する企業の動きもみられる(金原・春原

2007)。

厚生労働省平成

24

年の『外国人雇用状況』によると、図

1-1

が示しているように、外 国人産業別雇用を産業別にみると、「製造業」が

33.0%を占め、次いで「卸売業、小売業」

14.9%、「宿泊業、飲食サービス業」が12.3%、「サービス業(他に分類されないもの)」

7.5%となっている。

また、 日本企業に就職した留学生

11,040

人のうち、中国人は

7,651

人と半数以上を占め、

第一位となっている。

1 http://www.jnto.go.jp/jpn/news/data_info_listing/index.html日本政府観光局(JNTO)

2 http://j.japanchinakorea.org/Article_Show.asp?ArticleID=3193財団法人日中韓国際貿易促進協会

(17)

1-1 外国人雇用の産業別 厚生労働省資料 (平成24

年)

以上の数値から、日常生活、旅行、職場などにおいて、違う国の人にクレームをつけた り、またはクレームをつけられたりする状況に直面する機会があることが予想される。経 済交流の発展に伴って外国人の顧客とサービス関係者とのトラブル件数がこの数年伸びて きている。例えば、ミスがあった場合、日本人サービス関係者の多くは当事者が言葉で謝 罪することを重視する。それに対して、中国人のサービス関係者はクレームについて、最 初の段階で謝罪することはまずない。それは最初に謝る日本人から見れば「不親切」、「マ

ナーが悪い」と思えるかもしれない。近年、日本人が旅行、出張、駐在などで中国を訪れ

る機会がますますに増えてきた。その中で、中国人従業員のこのような態度に驚き、カル

チャーショックを受けた人も珍しくない。

しかし、どの問題も言語の壁以上に習慣の違いや、物事の捉え方の違いから問題が発生

していると考えられる。そういった誤解が生じるのを防ぐため、まず、中国人と日本人が

互いに対処の仕方などについて理解しなければならないと思われる。

(18)

1.2 研究の目的と意義

本研究では日本と中国のクレーム交渉場面における談話を分析することによって、クレ ーム交渉場面において、日中の話者たちはどのようにコミュニケーション行動を行ってい るのかを明らかにすることを目的とする。

これまでの先行研究は談話全体における一部分の言語現象に限られたものが多い。しか し、 「交渉」行為というのは依頼、提案、反対、謝罪など様々な発話行為が含まれ、会話 参加者の相互言語行動によって構成されるものである。このような会話スタイルは静的な 構造ではなくむしろ、参与者が相互行為をするにつれ展開し変わっていく動的なプロセス を反映しているといわれる(ガンパーズ、

2004:172)。従って、クレーム交渉談話のような一

定の流れを持つ一まとまりの談話を把握するためには、相互作用を含め、談話のレベルで 分析を行う必要がある。

また、先行研究には、「友達同士の交渉談話の場面」や「接触場面」などに関する研究 が多いが、クレーム交渉場面における客とサービス業者のような明らかに社会的立場が異 なる会話参加者間の交渉行為に関する研究はまだ少ない。

本研究では、クレーム交渉場面における顧客とサービス関係者の相互行為に焦点を当て て、「クレーム交渉」という場面において、日本と中国の人々がどのようなコミュニケー ション・スタイルを用いて談話を進めているのかを考察した。さらに、そこに見られるコ ミュニケーション・スタイル

3(以下、CS)と、その CS

に影響する社会的要因と商業取引文 化を考察する。本研究は日本と中国の文化的違いを反映するものであるため、両国間の異 文化間の誤解を解消・軽減させることに貢献することができるのではないかと考えられる。

1.3 論文の構成

本論文における各章の構成は、以下の通りである。

第一章「序論」では本研究の背景、目的及び本論文の構成について述べる。

第二章「先行研究」では、まず「クレーム交渉」と「サービス関係者」の定義について、

先行研究を概観する。次に、「クレーム交渉」に関する先行研究を紹介し、先行研究の問 題点と本論文の位置づけを述べる。先行研究については、交渉に関する先行研究、クレー ム対応に関する先行研究及びサービス関係者の言語行動に関する先行研究に分けて概観す る。

第三章「本研究で採用した研究方法」では本論文で使われる研究方法及びデータについ て紹介する。また、会話参加者に関する情報(年齢、性別、関係など)も詳しく述べる。

3本稿で使っているコミュニケーション・スタイルと言う概念は、Tannen(1984,2005)の“Conversational Style”から援用したものである。彼女によると、“Conversational Style”とは「コミュニケーション」全 般における言語使用の様相(Style)を指す用語である。従って、本稿ではこれを「コミュニケーション・

スタイル」と称する。

(19)

第四章「クレーム交渉の談話の全体的構造」においては、「クレーム交渉」談話を分析 し、日中両言語クレームの交渉の談話の構造及び各段階の展開がどのように異なっている かを解明する。

第五章「クレーム交渉場面における客側の説得方略に関する日中対照研究」においては、

クレーム交渉場面において客側が自分のコミュニケーションの目的に向けてどのような説 得方略を駆使するのかを分析する。

第六章「クレーム交渉談話におけるサービス関係者側の対応に関する日中対照研究」に おいては、まず、自然談話に現れたサービス関係者側の「対応」の様相について対照研究 を行う。次に、研究の結果の原因を探るために、日中両国のサービス関係者を対象にアン ケート調査を行う。最後に、自然談話及びアンケート調査の結果に基づいて、考察を行う。

第七章「クレーム交渉談話における客とサービス関係者側の言語使用に関する日中対照 研究」においては、第六章の研究を更に発展させ、客側とサービス関係者の具体的な言語 使用を考察する。

第八章「日本人と中国人のクレーム交渉に関する意識調査」ではクレーム交渉の発生状 況、理由及び深刻度について意識調査を行うことにより日本と中国の社会的通念及び商文 化を考察する。

第九章「結論」では本論をまとめ、今後の課題について述べる。

(20)

第2章 先行研究概観及び本研究の位置づけ

2.1 本章の目的

この章では、まず、 「クレーム交渉」及び「サービス関係者」を定義する。次に、交渉行 為に関する研究、クレーム対応方略に関する対照研究及びサービス関係者の言語行動に関 する先行研究の三つの領域における先行研究について論じ、先行研究における問題点や不 十分な点を明らかにする。最後に、本研究の位置づけ及び研究課題について述べる。

2.2 定義

ここでは、まず「クレーム交渉」とは何か、即ち、「クレーム交渉」について定義してお きたい。また、 「サービス関係者」についての定義も述べる。

2.2.1

「クレーム」

4

に関する定義

顧客クレーム行為に関する研究は

1970

年代から始まり、現在に至るまでに

40

年の歴史 を持つ。顧客クレーム行為を定義した代表的研究は

Day & Landon(1977)などである。

一般に受け入れられているのは

Singh

が提出した概念である。

Singh(1988)では、顧客クレ

ームは一連の多重な行動を含み、消費行為で感じられた不満が引き起こしたものだと述べ られている。

また、顧客クレームの分類について、

Day & Landon (1977)では下記のように分類されて

いる。

Day & Landon (1977)が提出した二段階の分類は図2-1

に示される。

まず、顧客のクレーム行為を行為的反応(行動をとる)と非行為的反応(行動をとらない)に 分ける。次に、行為的反応をさらに公開行動と個人行動に分ける。公開行動というのは直 接店に改善や賠償を求めたり、消費者協会や裁判所に訴えたりする行動である。個人的行

4 英語の「クレーム(claim)」とは、原義では単に要求の正当性を主張することである。本稿で取り上 げる「店に改善や賠償を求める」に相当するのは英語の「コンプレイント(complaint)」である。

しかし、『広辞苑第五版』(1998)によれば、日本語の「クレーム」は一般には権利の主張という意味であ るが、売り手または買い手が、売買契約条項に関する違反行為によって生じた苦情を相手方に対して主張 する意味も含まれるため、本稿では「クレーム」という用語を使用することにした。また、「クレーム」に 相当する中国語は見あたらないが、「店に改善や賠償を求める」と中国語の「索赔」はほぼ同義であるため、

「索赔」という表現を用いることとした。

(21)

動は店を排斥したり、知り合いに訴えたりする行動である。

クレーム

行動をとる 行動をとらない

公開的行動 個人的行動

店に改善や賠償を求める 商品やサービスを排斥する

法的行為をとる 知人に訴える

消費者協会に助けを求める

Day & Landon (1977)

2-1 クレームに関する分類モデル

本研究では

Day&Landon(1977)に倣い、

「店に改善や賠償を求める」行為を本研究の「ク レーム」とみなすことにする。

また、 「クレーム交渉」を「客が店に改善や賠償を求める際に、サービス関係者に対して、

自分の要求をどう主張するか、また、サービス関係者側が客側の主張に対してどのような 対応をするか、という相互的な言語コミュニケーションプロセス」と定義する。

2.2.2「サービス関係者」に関する定義

飯盛(2004)によれば、「サービス産業とは、いわゆる三次産業を指すことがあり、この場

合には、一次・二次産業以外の幅広い業種を含む。例えば不動産業、運輸・通信業、電気・

(22)

ガス・水道・熱供給業、医療・福祉、飲食宿泊業などである。一方、対個人・対事業所サ ービス等といった狭義のサービス産業を指してサービス産業と呼び、これを政策対象とす ることも多い。」とされている。

個人向けサービス業というのは、主として個人に対して日常生活と関連して技能や技術 を提供し、または施設を提供するサービス及び娯楽あるいは余暇利用に係るサービスを行 う事業である。例えば、小売業、美容業、洗濯業、旅行業、家事サービス業、結婚式場業、

宅配便配送業などである。

事業所向けサービス業というのは主として事業所や団体に対してサービスを提供する業 者である。例えば、法務税務、警備業、廃棄物処理業、ソフトフェア業などである。

本研究では個人と個人との間で起こったクレーム交渉談話の分析を行うため、 「事業所向 けサービス業」と取引相手との間の交渉は研究の対象としない。従って、本研究では「小 売業、美容業、洗濯業、宅配便配送業などの個人向けサービス業に従事している人」を 「サ ービス関係者」と呼ぶことにする。

以上、「クレーム交渉」及び「サービス関係者」の定義について概観した。次に、「交渉 行為に関する先行研究」、 「クレーム対応に関する先行研究」及び「サービス関係者の言語 行動に関する先行研究」に分けて、クレーム交渉に関する先行研究について概観し、先行 研究における問題点について言及する。

2.3 交渉行為に関する先行研究

これまでの交渉行為に関する研究は椙本(1999)、大和(2009)、

Jones

(1993) 、 李善雅(2001)、

Lee・松崎(2009)、Ohbuchi & Takahashi(1994)

、などがある。その中で、交渉場面に遭

遇した場合、言語学の視点から見ると日本語母語話者と非日本語母語話者の対処はどのよ うに異なるかを示している先行研究については李善雅(2000)、 李・松崎(2008)、

Ohbuchi &

Takahashi(1994)である。

椙本(1999)は社会言語学の観点から、社会制度、上下関係がある会話者と対等な立場の会 話者が、会話の上で互いの力関係をどのように調整しながら会話を行っているのか、特に、

ある課題について解決を目的とする会話において、課題解決案に対するなんらかの合意に

至るまでの会話の連鎖に焦点に当てて分析を行った。データとしては、ある課題について

解決を導き出すことを目的とする会話で、仕事上の上下関係がある会話者の会話と仕事上

で対等な立場の会話者の会話の二つからなる。分析した結果、上下関係がある会話者の会

話では、不同意の連鎖はいずれも上位からのものであった。一方、対等な立場の会話者の

会話では、特定の会話者が最終決定の発話を行うことはなかった。また、不同意を行って

相手が妥協した場合、不同意を述べた会話者がさらに最終決定の発話を行うこともなかっ

(23)

た。

大和(2009)では、それぞれ異なる大学で日本語を教えている

30

代から

40

代前半の日本 語教師

5

人が日本語教材を作成する段階で行われた話し合いの会話を資料として取り上げ、

会話参加者間に見られる意見の不一致部分から意見交渉部分へ移行していく部分を対象と し分析を行った。

彼女は意見交渉の過程を、(1)意見の不一致が表面化するシークエンス、(2)自分の意 見の主張と説得のシークエンス、(3)意見調整を試みるシークエンスの

3

段階に分け、議 論上の会話参加者の立場と会話参加者間の関係を「立ち位置」と呼び、交渉のそれぞれの 段階での会話参加者の議論における「立ち位置」がどのように変化していくかを観察した。

一人の会話参加者の様子をシークエンスごとに比較したところ、意見の不一致が表面化 するシークエンスにおいて、話し手が発話順番や発話のタイミングという規範から逸脱す る行為を行うことにより対峙する意見と立場の違いを示すふるまいが見られた。

また、自分の意見の主張と説得のシークエンスでは、強い主張や説得を試みる表現を用 いながら、意見の対立が表面化している二人の会話参加者が、お互いの主張を展開し、自 分の意見へ相手を巻き込むこと、説得することを繰り返していることが見られた。この時 点では、二人は互いの意見の異なる部分をより明確にし、それぞれが相手に挑戦する関係 をとっていることが分かった。

さらに、意見調整を試みるシークエンスにおいて、一方の会話参加者は自分の意見を主 張するだけではなく、意見の食い違っている参加者の意見にも耳を傾け、合意へ向けて話 し合っていこうとする姿勢を示し、または互いに相手の意見を部分的に認め、自分の意見 の中で妥協点を示し、グループ内の対立する二人の「立ち位置」を調整している。このよ うに、このシークエンスにおける歩み寄りからは、意見が異なる会話参加者が互いに相手 への意見に近づけようとしている様子が伺える。

Jones(1993)では、話者の間に見られる対立状況においてどのような言語表現やパラ言

語のストラテジーが講じられるかについて論じている。また、実際の会話で起こった様々

な対立場面を考察し、そこでのストラテジーを詳しく述べており、それをまとめたものが

次の表

2-1

である。

(24)

2-1 対立状況におけるストラテジー(Jones,1993)

明示的 非明示的

言語 非言語 発話選択のストラテジー 発話選択のストラテジー リズムの変化

容認・反対 反対の覆い隠し (沈黙や同時発話を誘発 する可能性)

謙遜・反対 対立の無視 頻繁な笑い 反対・説明 対立からの離脱 有標の韻律の使用 謝罪を伴う反対 スピーチ・スタイル

のスイッチ (有標の声のトーン、大き さ、イントネーション、強

勢、高さを含む)

あからさまな反対 繰り返し・並立的表現の 使用

歩み寄り

流暢でない話し方 引きあがり

反対の談話標識を使用

李善雅(2001)は、議論の場における言語行動に関して、日本語と韓国語の類似点と相違点、

及び日本語母語話者と韓国人学習者の日本語による会話に見られる類似点と相違点につい て、ロールプレイの形で調査を行った。

その結果、日本語母語話者では、自分の意見をストレートに表現する自己優先型より、

相手配慮に重点を置く相手優先型を好む傾向が見られた。一方、韓国人学習者では、相手 配慮型より自己主張優先型を好むと断言はできないものの、相手配慮型を用いるときも日 本語母語話者とは違って、相手の意見への同意や自分の意見の不十分な点を言うときの表 現が具体的ではなく、発話の長さも短いという傾向が見られた。このことから、韓国人学 習者は相手配慮を用いるときも、直接的な自分の意志表明に重点を置くということができ ると言える、としている。

Lee・松崎(2009)は、日本人と中国人の20

代女性

8

名ずつを対象にロールプレイを依頼

することにより交渉場面における日本人と中国人の言語行動を分析した。結果は以下の通 りである。

まず、母語場面における日本人同士と中国人同士の交渉の進め方については、日本人同

士は双方の情報を確認しながら、実際に遭遇しそうな状況を話すなど、相手の立場への理

解を示す「共感型」の会話スタイルを用いて交渉を進めていく傾向がある。一方、中国人

同士は自分の意見を通すために、断定的な話し方で自分の主張に有利な意見を表明する「説

得型」の会話スタイルを用いて積極的に自ら創作した考案内容を述べる傾向がある。

(25)

また、接触場面においては、日本人も中国人も母語話者での意見の述べ方をそのまま接 触場面に持ち込むのではないため、両者の言語行動は近くなっている。日本人は、共感的 態度が見えない中国人の相手から期待通りの反応が出なかったり、理解されなかったりす る場合、 「説得型」の会話スタイルに切り替え、提示情報の確認を繰り返す傾向がある。一 方、中国人は、共感的態度を示す日本人の相手には、自分に有利な情報を表明する「説得 型」の使用を抑えて、自分の主張に不利な意見をも表明する「共感型」の会話スタイルを 取り入れ、共感を示す傾向がある。

Ohbuchi &Takahashi(1994)は、日本人とアメリカ人の大学生が日常生活で交渉する時に

実際に用いた解決方略を比較した。その結果、アメリカ人は日本人と比べて、固執、要求、

説得などの直接的な方略を多く用いるのに対して、日本人は回避を用いる傾向が極めて強 いことを報告している。また、両国の学生の解決方略の違いについて、日本人は対人関係 維持志向や葛藤が生じた責任は自他共有であるとみなす傾向がアメリカ人より強いことを 理由にあげて説明している。

交渉場面に関する対照研究を観察した結果、日本人母語話者の交渉の仕方について「相 手配慮型」や「共感型」と結論付けた研究が多かった。しかし、クレーム交渉場面という 客とサービス業者のような明らかに社会的地位が異なる会話参加者間の交渉行為について は、先行研究の結果と異なる結論が得られることが予想される。

2.4 クレーム対応に関する先行研究

言語学の観点からのクレーム対応に関する先行研究はまだ少ない。ここでは服部(2008) 、 服部(2009)の研究を概観する。

服部(2008)では、海外でビジネス日本語を学ぶ日本語学習者22名と日本語母語話者24 名を対象に、ビジネス場面でクレームの電話を受ける際の会話をとりあげ、ロールプレイ による調査を実施することにより、終結部でどのようなやりとりが行われるかを分析、そ れぞれのパターンを抽出した。

そして、 「終結の前触れとして現れる終結のメタメッセージを理解することができるか」、

「人間関係を再確認する機能を持つ発話にはどのような表現が現れるか」及び「自ら円滑 に別れの最終確認が行えるか」の3点について日本語母語話者との比較研究を行った。

その結果、日本語学習者は安定した状態で終結できず、段階を踏まず唐突に終結したり、

自ら別れを切り出すことができないという傾向が示された。この結果に対しては、日本語

学習者はクレームという場面設定を通常とは異なり、人間関係の維持が重要であることは

認識できたものの、相手との人間関係構築が成されたかの判断まではできず、その不安感

(26)

から受身的な応答をしたとされた。また、人間関係を再確認する機能発話(おもに謝罪)

がなかったケースが多くみられ、これが日本語学習者の特徴でもあったことから、クレー ムに対する返答が責任の所在と利益に関わるため、安易な「謝罪」を避けた者がいた可能 性が示唆された。

服部(2009)では日本人ビジネス関係者10名を対象に、ビジネス場面でクレームの電話 を受ける際の会話をとりあげ、ロールプレイによる調査を実施することにより、終結部で どのようなやりとりが行われるかを分析した。

その結果、JBは、終結への流れを自ら作り上げ、「これ以上話すことはない」という意 味が含意された発話を示した上で終結の段階を進めているというある共通した傾向が全て のケースに示された。

「別れの最終確認がどのように行われるか」という点について、「別れの挨拶」の切り 出しが同時になされたり、完全な文を形成しないものでも「別れの挨拶」であると認識さ れ、そのまま終結に至るという結果もみられた。また、会話の終結における「別れの挨拶」

の切り出しの主体は固定的ではないことが示されたが、終結への道筋をつけるのは常に受 け手であることにかわりはないことが分かった。

さらに、「人間関係の再確認」「別れの挨拶」へと発話が移行する際、受け手が自らの 名前を名乗り、今後何かあった時の連絡先を明らかにするものであるため、JBは一時的な 責任の所在を表明するものであることが観察できた。

2.5 サービス関係者の言語行動に関する先行研究

サービス関係者の言語行動に関する研究は杉戸・沢木(1979) 、

Tsuda

(1984)、山本(2004)、

呉(2006)、金(2007)などがある。

杉戸・沢木(1979)では「衣服を買う」という言語行動について、全体的構造を記述し ている。全体的構造としては会話導入部分の「情報の仕入れ」から「精算」まで16段階に 分け、それぞれの段階の主導権に焦点を当て、売り手の積極的な働きを示している。

Tsuda(1984)ではセールス、デパート、家庭の訪問販売、の3つのカテゴリーに分け

た場面での録音および、フィールドノート、販売業者や客に対するアンケートやインタビ ューをデータとして、日米セールス会話の対照分析を行った。

その結果、まず、米国の場合では、雑談は全体の構造におけるいずれの段階でも見られ

るのとファーストネームで客を呼称することがあるため、販売業者と客は平等な立場に立

っていることが分かった。それに対して、日本の場合では、販売業者が敬語や丁寧表現を

使っているものの、客のほうがくだけた言い方も使用しているという点や、販売業者がま

(27)

ず所属する会社を出し自分のアイデンティティを表わす点、挨拶や謝罪・感謝の表現が多 い点などが米国とは異なると記述している。

また、セールス会話の全体的な構造については、挨拶、身分証明、アプローチ、交渉前 終結、いとまごいという六つの段階に分けた。この6段階中、交渉段階における言語的ス トラテジーについて以下の3点を取り上げている。

まず、重要な点を強調するため使われる反復(repetition)ストラテジーと商品の説明の際、

肯定の意味の形容詞やbest のような最上級が用いられる修辞的なストラテジーである誇張

(exaggeration)ストラテジーは、日米の共通点であると記している。それに対し、敬語の 表現を日本で見られるストラテジーとして取り上げている。その他、客に商品を勧める際 の日米の差について、“I think that~/If you~/How about”などで勧誘している日本人のほ うが、“ You should/Why don’t you get”で表現する米国人より丁寧であると述べている。

山本(2004)は、デパートの婦人服売り場の店員による接客ロールプレイの録音データを分 析資料とし、店員と客の間の「商品勧め」表現の談話展開の流れや表現ストラテジーを観 察した。

分析した結果、やりとりの「開始部分」では店員は客のニーズをより的確に把握し、後の 商品の紹介や説明へと無理なく談話を展開させるために、店員が「客エリア」で話題を留 め置く可能性が高いことが分かった。

やりとりの「プロセス部分」では、店員は「商品説明+「ので」などの接続助詞+店員の 意見述べ」という表現形式を用いて、自分の「勧め」を根拠のあるものとしながら、「商品 勧め」の談話を構成しようとすることがあることが分かった。

さらに、客が商品の購入を明示するような「決定直前部分」においては、 「店員エリア」

でのやりとりが多く、 「商品勧め」の談話の終盤近くになってから、店員が自身の意見を積 極的に提示するような例が多く見られた。

これらの談話展開について考察から得られた効果的な「商品勧め」のための店員の留意 点については、次のようにまとめられている。

①「開始部分」での客のニーズの的確な把握

店員は最初から「勧め」を強く推し進めようとするのではなく、まず、客の商品への 要望や使用目的を客の「述べ」によって明らかにし、それらを的確に把握することで、

商品の紹介や説明へと展開を移行することが有効な場合がある。

②ニーズ引き出し後の「商品エリア」でのやりとりの伸長

やりとりの中盤に入って「商品勧め」の核心へと向かうためには、商品に関する情報 領域におけるやりとりを十分に伸長させることが有効となる場合がある。その場合、

店員は、 「商品勧め」の「押し付けがましさ」を客にむやみに提示しないようにする

ため、 「情報伝え+接続助詞+促し」の表現形式を用いるなど、上位者である客への

表現上の配慮を提示しながら「勧め」を行うことが必要である。

(28)

③「決定直前部分」における店員の「意見述べ」

客が商品の購入を明示するような場面では、商品の説明と組み合わせた上での店員は 「意見述べ」や「ほめ」や「サービスへの言及」を効果的に行うことで、客と商品と を強力に結びつけ、客の購入をより確実なものとすることができる場合がある。

呉(2006)は、韓国の市場で行われた値段交渉の自然談話に参加する相互行為者―売り 手と買い手―が、それぞれ自分の目標を遂行するためにどのような説得ストラテジーを駆 使しているのか、そしてコミュニケーションが決裂せず円満に行われるためにはどのよう な

FTA

ストラテジーを駆使しているのかを記述、考察したものである。このストラテジー は以下のようにまとめられている。

1、韓国都心大型市場での値段交渉談話における説得ストラテジー

①繰り返し

②基調の変化

ⅰ哀願

ⅱ驚き、怒りの表出

ⅲ警告

ⅳ無心

③沈黙

2、FTA 修復のポライトネス・ストラテジー ① 笑い

② おどけ ③ 感情への訴え

呉(2006)によれば、韓国都心大型市場における値段交渉の場面で、話者たち-売り手と買 い手-は、繰り返しの言語的技法や基調の変化、沈黙などのストラテジーを駆使し、現在 のインタラクションにおける自分の目的を達成しようとする。しかし、値段交渉プロセス に使われたこのような説得ストラテジーは、B&Lのポライトネス理論の観点からみると、

「他の人から邪魔されないで、自由に行動したい」というネガティブ・フェイスに正面か ら違反しているFTAである。従って、値段交渉過程でFTAが行われた後、一般的にそれを 修復するためのストラテジーがコミュニケーション参加者によって行われている。

金(2007)は、接客談話資料を用いて発話の文末に現れる表現形式に注目し、そのストラテ ジーを考察した。

まず、発話文を最後まで言い切っているかどうかを基準として、断定文末と断定回避文 末という二種類に分けている。また、 「断定文末」と「断定回避文末」の使用率を見ると、

いずれも断定文末が一番高くなっているため、接客言語行動は基本的に丁寧体の断定文末

によるものが多いと言える。更に、 「断定文末」と「断定回避文末」のストラテジーについ

(29)

て、金(2006)は以下のようにまとめている。

断定文末における終助詞などを使わずに言い切る形式は、基本接客のマニュアル表現で 用いられること、また、商品を売るために客とインタラクションを展開していく発話にお いては、終助詞をつけたり、方言形式や敬語動詞を使ったりするストラテジーが確認でき た。断定を回避する文末形式は、途中終了型と接続助詞終了型のように言い切らないこと で客の気遣いを示すストラテジーや、会話のスムーズな流れを保つ体言終了型の働きも確 認できた。

2.6 先行研究の問題点

以上、交渉行為に関する先行研究、クレーム対応に関する先行研究、サービス関係者の 言語行動に関する先行研究という三つの分野の研究について概観した。

これらの研究が日本語教育や異文化コミュニケーションへの理解に貢献することは確か である。しかし、以下のような問題点も存在している。

① 交渉場面に関する対照研究を観察した結果、日本人母語話者の交渉の仕方について「相 手配慮型」や「共感型」と結論付けた研究が多かった(李善雅(2001)、

Lee

・松崎(2009)、

Ohbuchi & Takahashi(1994))

。しかし、これら研究については、そうした観念的なも

のがそれぞれの国の文化について画一的で不正確な像をもたらすことになっている。 ク レーム交渉場面という客とサービス業者のような明らかに社会的地位が異なる会話参 加者間の交渉行為については、先行研究の結果と異なる結論が得られることが予想され る。

② これまでの先行研究は談話全体における一部分の言語現象に限られたものが多いが、 話 者間の相互行為を観察するものがすくない。 クレーム交渉談話のような一定の流れを持 つ一まとまりの談話を把握するためには、 相互作用を含め、談話のレベルで分析を行う 必要がある。

③これまでの先行研究では、交渉の場面においてどのようなストラテジーを用いるかにつ いて分析したものが多く、具体的にどのような言語表現や言葉を用いるかに関しては言 及していない。

④クレーム対応の先行研究に関しては、相手の顔が見えない電話会話から得られる結果に 限っている。対面型の会話をデータとして研究するものはまだ少ない。

⑤接客場面において店員がどのように対応するかに関する先行研究(山本(2004)、呉(2006)、

(30)

金 (2007))は珍しくないが、いずれも店員の言語行動のみに重点を置き、客と店員の相互 行為に関する研究は少ない。また、客と店員の間に「対立」が起こって交渉をする必要が ある場合に、店員がどのように対応するのかに関する研究は見当たらない。

2.7 本研究の位置づけ及び研究課題

本研究では、 「クレーム交渉場面」という社会的な場面を取り上げて、自然談話分析を通 して、日本と中国におけるそれぞれのクレーム交渉談話の全体的構造を明らかにする。ま た、会話参加者の相互行為に焦点を当てて、クレーム交渉談話における客とサービス関係 者のそれぞれのコミュニケーション行動を明らかにする。さらに、そこから見られる相違 点、及びその相違点を生み出す社会的、文化的な要因は何かを考察する。

本研究における具体的な研究課題は以下の通りである。

研究課題1:日本と中国におけるクレーム交渉談話の構造を分析する。また、談話の展開 の順序がどのように異なっているかを明らかにする。

研究課題2:日本と中国のクレーム交渉談話において、客側がどのような説得方略を使う かについて対照分析を行う。また、その相違点を生み出す社会的、文化的な 要因は何かを考察する。

研究課題3:日本と中国のクレーム交渉談話において、客側の主張に対するサービス関係 者側の対応の仕方がどのように異なるかについて分析する。また、その相違

点を生み出す社会的、文化的な要因は何かを考察する。

研究課題4:日本と中国のクレーム交渉談話における客とサービス関係者側のそれぞれの 言語表現を分析する。

研究課題5:本研究の結果を踏まえて、日本と中国のクレーム交渉談話における客とサー

ビス関係者の相互行為的側面の統合的な分析を行い、それぞれの会話スタ

イルを考察する。さらに、言語と社会・文化の相関関係を解明する。

(31)
(32)

第 3 章 本研究で採用した研究方法

3.1 研究方法の概略

本研究では、まず、日本語母語話者と中国人母語話者の自然談話を録音することにより、

両国の人がクレーム交渉場面においてどのように行動するのかについてデータを収集した。

日本語母語話者日本語談話

7

組、中国語母語話者中国語談話

7

組、計

14

組を録音、文字化 して、談話の構造及び会話参加者の言語行動について対照分析を行った。次に、談話に見 られた現象の原因を探るために、日中両国の人に対してアンケート調査を行った。

3.2 研究方法の理由

ここでは自然談話及びアンケート調査を利用し研究を行う理由について述べる。

3.2.1 自然談話

本研究では日中両国の人がクレーム交渉場面においてどのように行動するのかについて 自然談話を収集するという方法を使用した。その理由は以下のとおりである。

キャスパー(2004:136-137)によれば、口頭によるインタラクションを伴う言語産出に よりデータをとり談話の特徴を調べる際には、自然談話、誘出会話、そしてオープンエン ド(回答者が自由に答える形式)のロールプレイを使用する。これら

3

種のデータ収集法 についてキャスパーは次のように述べている。

これら三つのタイプの口頭によるインタラクションの明らかな違いは、 「自然談話」

が研究者の目的ではなく参加者の目的によって動機づけられる構造化されるのに対 し、 「誘出会話」と「ロールプレイ」は研究目的のために生み出されるという点で ある。このことは、社会言語学及び語用論的観点からすると、コミュニケーション活 動はその目的によって前もって構造化されているため、2 つのタイプの誘出データの どちらも自然談話と同じではありえないことを強く示唆している。

キャスパー(2004: 136-137)

ロールプレイは「前もって定義された社会的枠組みや状況の『シナリオ』のなかで、参

与者が特定の『役割』を『引き受け』 、 『演じる』社会的あるいは人間的活動である。 」と定

義することができる。 (David.C.& Danny.S 1989:15-16)ロールプレイを使う場合、同一の

状況設定での対処方法を収集しやすいという利点がある。しかし、客とサービス関係者の

(33)

間のクレーム交渉談話を研究する場合、クレームを対処することを全く経験したことがな い一般の人を対象としてロールプレーをさせると、信頼性を持つデータが入手できないと 考えられる。

誘出会話はロールプレーとは異なり、参与者は自分自身と違う社会的役割を担うことは ないが、研究者によって割り当てられた談話上の役割を演じる。本研究では、客とサービ ス関係者の間のクレーム交渉談話をデータとして収集したものであるため、この方法にす る場合、現実のサービス業に携わっている人を集めて、誘出会話を演じさせなければなら ないことになる。それには多大な労力がかかるのでかなり困難であると思われる。しかし、

そういう人を集めたとしても、実際の対面式交渉場面では彼らがその相手(客)に申し訳 ないと感じたり、または相手(客)から強く主張されたりした場合、理想的に頭の中で考 えていた方法が使えないことも現実には起こり得る。従って、誘出会話で得たデータは現 実の対処方法とは異なっている可能性があることは否定できない。

口頭によるインタラクションを伴う言語産出によりデータをとる方法以外に、言語産出 アンケートにより発話を分析するという方法もある。言語産出アンケートは特定な状況や 場面などを設定し、参与者にどのように行動するかを考えさせる方法である。しかし、 「交 渉」場面の会話は会話参加者の相互言語行動によって構成される動的なプロセスである。

そういうプロセスを事前に設定することは不可能であるため、言語産出アンケートにより データを収集することは適切ではないと考えられる。

以上、談話分析を行う際によく使われるデータ収集の方法について概観した。自然談話 により、もっとも自然かつ信頼性があるデータを入手することができるため、本研究では 自然談話でデータを収集するという方法を使用した。

3.2.2 アンケート調査

本研究では「クレーム交渉談話」を研究するために、自然談話でデータを収集するとい う方法を使用した。しかし、多種多様な人々がどのように対処するのかを自然談話により 観察するには、多種多様な人々がクレーム交渉する状況が自然に発生するのを待たねばな らず、それには莫大な時間がかかる。また、実際のクレームが起こっている場面を録音し 分析を行うため、プライバシーを重視する企業や店に断られることもよくあるので、大量 な自然談話データを収集するのはかなり困難である。

従って、収集した自然談話のデータにより汎用性を持たせるために、収集した会話デー

タを基づいた大規模アンケート調査を行った。

(34)

3.3 データの概要

この節では、データの収集方法及び収集期間、録音場面の内訳、会話参加者の概況につ いて述べる。

3.3.1 データの収集方法

本研究では、2009 年から

2012

年にかけて、8 名の日本語母語話者(外国への留学歴が ない日本人) 、10 名の中国語母語話者(日本語の学習歴がない中国人)に依頼し、日常生活 におけるクレーム場面に遭遇した際に、その場面の会話をステレオ

IC

レコーダーで録音し てもらった。より自然なデータを収集するために、録音資料は研究のデータとして使われ ることを客側の依頼者に事前に伝えたが、サービス関係者側には会話内容を録音すること を告げなかった。録音した後、サービス関係者側に調査の目的と会社と個人の情報に関す る説明を行い、承諾を得た。

3.3.2 場面

本研究でデータとして取り扱うのは

2009

年から

2012

年の間に収集したクレーム交渉場 面談話計

14

5

である。日本語と中国語それぞれ

7

会話ずつである。

談話の内容は表

3-1

に示される通りである。

3-1 クレーム交渉談話例の内訳

日本人母語話者の談話例 中国人母語話者の談話例 JP1

腕時計を購入して

1

週間

で、ガラスの部分が割れた ので初期不良として無料で 修 理 して も らい たか っ た が、

4500

円の修理代がかか ると言われたため、店の人 と交渉する談話

CN1

一回修理してもらった靴が また壊れたため、返品しても らうように交渉する談話

JP2

購入した商品が他の支店で は安かったから、差額金を 返金してもらうために交渉

CN2

店で購入した商品が壊れた ので修理をしてもらう時に

90

元の費用が必要だと言わ

5 分析結果の適切性と汎用性を高めるために、なるべく多くの場面でのデータを収集しようと思ったが、

企業の情報などプライバシー保護の原因で利用できないデータを外したため、承諾を得たデータのみを本 研究の分析対象とした。

(35)

する談話 れたため、その費用を安くす るように店の人と交渉する 談話

JP3

購入したピアスの製造国の 証 明 書が 見 つか らな い た め、返品しようとする交渉 の談話

CN3

携帯電話を購入して三日目 で、液晶が割れたので、初期 不良として交換してもらう ために交渉する談話

JP4 普通の 2 倍の料金を払っ

て、速達扱いで頼んだのに、

予定を過ぎても届かなかっ たため、輸送会社の店員に クレームをつける談話

CN4

宅配便が予定より三日過ぎ ても届かないので、配送料金 の

2

倍の金額を賠償しても らうために交渉する談話

JP5 パソコンを買って8ヶ月に なった。今までに修理に 2 回出したが、またスピーカ ーが音割れするので、修理 してもらうための交渉談話

CN5

一度クリーニングに出した 鞄が壊れて戻ってきたので、

店側に賠償を求めるために 交渉する談話

JP6

契約は後

1

ヶ月でちょうど

1

年間になるので短期違約 金を払わなくてもいいかに ついて賃貸管理会社と交渉 する談話

CN6

購入した土鍋が欠陥商品で あるという報道を見たので 店側に返品の依頼をしたが、

「店頭では返品できない」と 言われたため、店側と交渉す る談話

JP7

届いた商品が割れたので、

交換してもらうように交渉 する談話

CN7

スーパーで買ったフライド チキンが変質したようなの で交換してもらうように交 渉する談話

3.4 発話文の認定

杉戸(1987)によると、発話には次のような二種類のものがあるという。 「あいづち的発話」

には①「ハー」「アー」「ウン」「アーソーデスカ」「サヨーデゴザイマスカ」「ソーデ スネ」などの応答詞を中心とする発話。②先行発話をそのまま繰り返す、オーム返しや単 純な聞き返しの発話。③「エー「」「マア」「ホー」などの感動詞だけの発話。④笑い声。

⑤実質的な内容を積極的に表現する言語形式を含まず、(単なる繰り返し以外の、名前、動

詞などを含まず)また、判断・要求・質問など聞き手に積極的な働きかけもしないような発

(36)

話などが含まれている。また「実質的発話」というのはあいづち的な発話以外の種類の発 話、何らかの実質的な内容を表す言語形式を含み判断、説明、質問、回答、要求など事実 の叙述や聞き手への働きかけをする発話であると述べられている。

本研究では杉戸(1987)を参考にしたうえで、文字化した会話のすべての発話を「実質 的発話」と「あいづち的発話」に分ける。

また、一人が長く話している場合、「発話文」を基本的には構造的に終わっているかどう かを基準として区切る。

宇佐美(2003:4)によれば、 「発話文」の定義は、会話という相互作用の中における「文」

とする。そして、以下のように認定する。基本的に、ひとりの話者による「文」を成して いると捉えられるものを「1発話文」とする。しかし、自然会話では、いわゆる「1語文」

や述語が省略されているもの、あるいは最後まで言い切られない「途中終了型発話」など、

構造的に「文」が完結していない発話もある。そのような場合は、話者交代、間などを考 慮した上で、 「1発話文」であるか否かを判断する。

本研究では宇佐美(2003:4)に従い、基本的には構造的に構造的面で「発話文」を判断する が、文末が省略された形で言いきられた発話、話者が自分で最後まで言い切らず言いよど んだ発話や途中に相手の話が始まり、結果的に話者の発話が終了した発話なども「1 発話文」

として扱う。

3.5 文字化の方法

文字化については、ザトラウスキー(1993:59)を参考にしながら、以下のような方法で 書き取った。

文字化方法:

// //の後の発話はすぐ下に書かれている相手の発話と同時に発せられたことを示 す。

(0.3) ( )の中の数字は10

1

秒単位で表示される、沈黙の長さを示す。(0.3)は

0.3

の沈黙である。

― 「―」の前の音節は長く伸ばされていることを示す。 「―」の数が多いほど、長く 発せられたことを示す。

、 日本語の場合、ごく短い沈黙、あるいはさらに文が続く可能性がある場合の「名 詞句・副詞・従属節」の後に記す。

, 中国語の場合、ごく短い沈黙、あるいはさらに文が続く可能性がある場合の「名 詞句・副詞・従属節」の後に記す。

。 文が終了することを示す。

上昇のイントネーションを示す。

表 5-4  クレーム交渉場面における客側の説得方略の分類  カテゴリー          方略                  定義(意図)  「論理型説得」          事情陳述      状況を詳しく説明することにより、相手に理解して  もらいたい                          質問              状況などを相手に確認したい  「感情型説得」      妥協          相手の抵抗感を減らしたい  哀願          懇願して相手に自分の状況を理解して

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