■アブストラクト
自由化によって⽛効率化⽜⽛利便性⽜が図られるとされた。料率自由化と 人件費・募集関係費の削減は⽛効率化⽜とみえるが,内実は,保険事業の原 理原則からの乖離,営業拠点の縮小,事業の担い手の削減と不安定化である。
金融同質化で保険産業の社会的責任である保障機能が劣化するとともに,保 険とは何かへのこだわり,拠りどころとなる保険学もまた稀薄化し存続の危 機を迎えている。伝統的保険学である保険本質論は,非歴史的,非社会的,
非科学的な保険技術論であった。諸学もこれを踏襲し独自の視点をもたない できた。自由化がもたらした社会問題としての保険問題に対処するためにも,
諸学の課題として人類史・社会経済史に保険を位置づけることが求められて いる。⽛歴史的範疇としての保険⽜論の復権,⽛社会の協同業務⽜としての保 険(本質)と歴史的形態(疎外形態)への視座である。
■キーワード
効率化,保険本質論,⽛歴史的範疇としての保険⽜論
Ⅰ.保険⽛自由化⽜ 社会的責任と拠りどころの劣化
金融自由化そして保険自由化を,どう評価するか。その答えは,自由化の 入り口で早くに出ていたといわざるをえない。⽛自由化⽜とは,対米追従と 金融資本の国際化,市場原理(資本至上原理)への自由化にほかならない。
/ 平成29年⚙月29日原稿受領。
⽛自由化⽜と保険学
復権:小林北一郎⽛歴史的範疇としての保険⽜論
本 間 照 光
金融制度調査会,証券取引審議会,保険審議会の場で,金融各業態の代弁と 綱引きが行なわれた。いずれの審議会も自由化を不可避とし,それによって 競争力,効率化,利用者利便,国際化が図られると礼讃し,現実に発生して いる事態に向き合うことはなかった。ちなみに,金融制度調査会は,金融・
保険自由化へ踏み込んだ審議過程でいよいよ⽛発覚⽜したバブル経済破綻と 金融・証券不祥事を⽛発生⽜といい換えることで,不問にしている。
ちなみに,保障機能という独自性と社会的責任を薄める流れに合わせるこ とは,保険とは何か,どうあったらいいのかというこだわり,すなわち拠り どころとなる保険学の稀薄化でもある。それが今日,保険学会の危機として も現れているのではないか。
わたくしは,保険本質論(保険技術論)としての保険学のあり方に疑問を 持ち,模索の過程で,小林北一郎(1899-1944)の⽛歴史的範疇としての保 険⽜論の遺稿と出会った。それ以来,小林の目を借りて保険問題を保険学説 の問題として見ようとしてきた。小林の研究からすでに⚑世紀に近く,その 遺稿の発掘・刊行からも40年が経つが,この現代の危機にこそ,埋もれさせ られてきた小林の見地の復権が求められている1)。
Ⅱ.保険産業(保障機能)を劣化させた⽛自由化⽜
⚑.⽛自由化⽜が必然化した一連の保険問題
保険⽛自由化⽜の起点を,どことするか。1959年に大蔵大臣の諮問機関と して保険審議会が設置され,1969年に,いわゆる⽛自由化答申⽜(⽛今後の保 険行政のあり方について とくに自由化に対応して ⽜)が出されてい る。自由化答申が打ち出したのは,⽛競争原理の導入と経営効率の促進⽜⽛国 際競争への対応⽜である。そうしてみるとかなり早くからなのだが,一般的 には1996年とされるようである。この年,⚔月56年ぶりの改定保険業法が施 行され,11月に日本版金融ビッグバンが示され,12月に日米保険協議が最終 1) 芝田進午監修本間照光・小林北一郎⽝社会科学としての保険論⽞1983年,汐
文社。
決着した。⽛自由化⽜とは,日本の保険の規制と主権制限だった。
1985年に対米協力のプラザ合意が成り,日本国内では史上例をみない低金 利政策がとられ株式と国債・土地投機に象徴されるバブル経済が広がった。
その渦中で,89年から90年に日米構造協議が行なわれ,その一環として保険 協議があった。94年10月に日米保険合意ができ,そのだめ押しとして96年12 月に最終決着した。合意では,日本のマーケットについては,何を,いつま でに,どのような形で,⽛自由化⽜するということを約束させられ,その進 展具合をアメリカ側が数値化してチェックするという内容になっている。と ころが,アメリカ側では⽛州別保険規制の調和促進⽜という内容で,まった く逆の不平等条約となっている。日米間では,日本における生命保険と損害 保険の相互参入,リスク細分型自動車保険の認可,損害保険料率算定会と自 動車保険料率算定会の保険料率使用義務撤廃などを合意している(図表⚑)。
プラザ合意の成った1985年から始まった金融制度改革論議では,財テクの ための多様な金融商品を用意することが⽛利用者⽜のニーズに応え,負担を 軽くし,老後保障,医療保障をはじめ⽛日本型福祉社会⽜をつくる道である とされてきたのである。86年⚖月には⽛長寿社会対策大綱⽜が閣議決定され,
⽛ゆとりある老後生活に資するため⽜として,財テクが礼讃されている。し かし,待っていたのは変額保険などによる老後破産と数百に上る訴訟,⽛財 テクに泣き⽜⽛揺らぐ生活設計⽜である。金融改革と並行して推進されたバ ブル経済政策の破綻は,90年から91年春の時点ですでに誰の目にも明らかと なったのである。
ところが,91年⚖月にあい次いで出された金融制度調査会最終報告と証券 取引審議会最終報告書,そして保険審議会報告(⽛中間報告⽜90年⚖月,経 過報告91年⚔月)のいずれも,この事実にまったくふれていない。金融諸答 申は発表と同時に死文化した,といわざるをえない。事実,金融制度調査会 と証券取引審議会は,⽛最終報告⽜の半年後の92年⚑月に追加で答申を出さ ざるをえなかった。
その金融制度調査会追加答申では,91年⚖月に答申をした⽛その後,いわ
ゆる証券・金融不祥事が発生⽜,⽛金融機関の業務運営に対する各般の指導が 行われてきたために,金融機関の自主性と自己責任意識が十分に育たなかっ た⽜,⽛金融制度改革は,利用者利便の向上を主眼に行うものであって,一部 における不祥事の発生によってその意義や必要性が損われるものではない。⽜
とのべている。⽛発覚⽜が⽛発生⽜に置きかえられ,政策の破綻も不問にさ れ,金融自由化という着地点はそのままに続行されてきた。
保険自由化についても同様である。金融制度調査会と証券取引審議会が追 加で答申を出さざるをえなかった同じ年,92年⚖月に,保険審議会もまた
⽛新しい保険事業の在り方⽜を答申している。⽛当審議会としては,保険事業 及び保険関係法規の見直しに当たっては,①規制緩和,自由化による競争の
【図表⚑】:政府による保険に関する措置 1994年10月14日 日本が約束させられた主な項目 アメリカが約束した主な項目
○透明性及び手続の保護
•保険事業や料率認可,行政指導の文書化
•開発利益の保護(新商品開発者の利益)
•行政不服申立の適用
•諮問機関の設置と外国保険会社の陳情
•保険規制に係る情報へのアクセス
•届出及び申請に対する手続き上の保護
•自主規制機関の権限の制限
•州別保険規制の調和
○規制緩和措置
•商品及び料率の自由化とスケジュール化
•保険事業者及び保険仲介者に対する免許付与
•保険仲介人の解禁
•簡易保険の規制
•国境を超えた取引
•保険事業者の免許審査
○⼦系列⽜取引の改善
○日米間の毎年の協議
○措置の実施状況の報告と評価
•合意内容履行状況などの毎年⚑回の報告
•合意された措置の達成度合の定性的,定量的評価
*日本の報告義務は細部にわたり列記されている
出所:⽝シンポジウム・どこへ行く⽛不払い・取り過ぎ問題⽜⽞(2007年⚖月)。
促進,事業の効率化,②健全性の維持,③公正な事業運営の確保,の⚓つを 指針とし,これら指針で示された方向に基づいて検討を行った⽜。
この答申にもとづいて95年,56年ぶりに保険業法が改定され96年に施行さ れた。改定された保険業法では,保険会社の⽛固有業務⽜として保障(補 償)の他に資産運用業務を位置付け,⽛付随業務⽜⽛法定他業務⽜として⽛国 債等の募集,金融債権の取得または……⽜をあげ,省令・通達による金融先 物取引,スワップ取引,ディリバティブなど金融投機も可能とした。保険業 法改定は,生損保の相互参入,相互会社の株式会社化,保険商品の届出制,
生保募集人の一社専属制の緩和,保険仲立人制度にも道を開いた。
ところが,日米保険協議の最終決着を保険審議会会長が新聞報道ではじめ て知るなど,自由化の過程はきわめて不明朗で,国民経済と国民生活の立場 から検討されたものとはいいがたい2)。保険行政もまた,それまでの実質監 督主義から自由化・事後チェックへと変更された。
利差益の極大化追求で逆に巨額の逆ザヤがもたらされたとはいえ,日米保 険合意の翌年の97年からあい次いだ生命保険会社の破綻は単にバブル経済の 後遺症によるものとはいえない。銀行救済のためのバブル破綻後の長期にわ たる実質ゼロ金利政策と自由化の影響が大きいし,逆ザヤを死差益(危険差 益)と費差益で埋める過程で,保険金不払い・保険料取り過ぎが2005年~6 年に社会問題化し,2005年の保険業法改定による共済規制,TPP(環太平 洋連携協定)と日欧 EPA(経済連携協定)へと続いている。そして,現下 の特別利益供与と代理店手数料問題,自動車保険の事故と料率問題など,玉 突きの連鎖,連続的で構造的である3)ó 4)。
2) ⽛保険審議会の作業が開始されようとする矢先に日米の保険協議の妥結があ りました。私にとりましても青天のへきれきと申しますか,何の情報も知らさ れておりませんでしたので新聞を見て驚いたような次第です。⽜⽛これには恐ら く政治的判断が非常に強く働いたことであろうし,私達の知り得ないところで そういう判断が働いただろうと思います。⽜(水島一也⽛保険審議会報告と生保 事業の展望⽜⽝文研論集⽞120号,1997年⚙月)。
3) 本間⽛制度改革の理念の中味が問われる⽜(⽝インシュアランス⽞生保版新年
⚒.⽛効率化⽜と称する劣化
自由化による⽛効率化⽜は,短期的視野からはそのようにみえるにすぎな い。⽛効率化⽜⽛利益拡大⽜⽛グローバル化⽜と⽛総合金融機関⽜指向は,自 らの拠りどころとなる保障産業としての独自の社会的役割の稀薄化であり,
稀薄化への無自覚である。ちなみに,保険会社各社のホームページからは,
“保険”という独自色が消えている。自ら⽛⽝昔は保険会社だった⽞と言われ たい SOMPO⽜(⽝日経ビジネス⽞2017年⚘月21日号)を指向するところであ る。
効率化と利益は,主に,⑴⽛自由⽜競争と裏返しの寡占化 保険会社の 合従連衡,生保から損保・損保から生保への進出,異種金融資本との提携・
グループ化,銀行窓販対策,総合金融機関化,異業種への参入,異業種から の参入,保険販売網の多様化,⑵保険の協同性と合理性の後退 保険商
特集号,1996年⚑月),同⽛料率算出団体は社会の財産 破壊へ向かう日米 の責任⽜(同・生保版第3745号,1997年⚔月⚓日),同⽛“平和産業”としての 保険・再保険事業の制約と再生 テロ・戦争・大成火災破綻⽜(同・損保版,
第3986号,2002年⚔月11日),同⽛保険経営の責任と義務の履行が問われる時 原理・原則に立ち返る⽜(同・損保版,第3927号,2001年⚑月18日),同
⽛経営破綻から不払い問題へ 保険⽝自由化⽞政策・経営の帰結⽜(⽝月刊国 民医療⽞No. 245,2008年⚒月),全日本損害保険労働組合編⽝シンポジウム・
どこへ行く⽛不払い・取り過ぎ問題 ⽛自由化⽜新局面を迎えた損保の展望 を語る⽞(2007年⚖月),参照。
4) ⽛〔日米保険〕合意が形成される前には,日本の保険業界とりわけ損害保険業 界には,正当な主張がありました。⽝米国より理不尽としか言い様のない要求 が次々と出されるという形で協議が進められ⽞⽝日本国内において十分な議論 をした上での自由化でなく,日米協議において日本の保険の自由化が決められ てしまったことは遺憾でありました⽞(井口武雄⽛損保協会長離任にあたって⽜
⽝損保企画⽞No. 648,1997年⚗月)⽜(本間⽛TPP ⽝共済⽞で起きたことが 全ての分野で起きる⽜⽝東京保険医新聞⽞2013年⚖月15日)。ところが,その後,
業界からその声は消え,逆に,⽛多くの規制緩和が実現し,幅広い保険商品や サービスを消費者の皆さんに提供できるようになりました⽜(日本損害保険協 会⽛日本の損害保険ファクトブック2002⽜)と,自由化と保険合意に積極的に 合流していくことになった。
品・料率の自由化(商品と価格の自由化),⑶リスク改良と無関係の展開 海外資本の国内への進出と裏腹の M&A(企業の合併・買収)など海外進 出によって得られている。損害保険の2016年度正味収入保険料のうち海外比 率は,東京海上 HD 37%,MS&ADHD 19%,SOMPOHD 18%である5)。ま た,保険会社の株主構成に占める外国法人の割合は40%台となっている6)。
⑴生命保険と損害保険のいずれにおいても寡占化が強まり,損保では⚓メ ガグループによるマーケットシェアが90%を超えている。格差と貧困・未婚 と少子化で国内市場は先細りとなり,寡占化のもとでの先細り市場の奪い合 いは正常な競争にはならない。⑵保険商品・料率の自由化による純保険料の 参考純率化は,保険金不払いと保険料取り過ぎへの抑止力を弱める。また,
事業費の削減は,付加保険料を削減し一見したところ契約者の支払う保険料 を安くするかにみえる。しかし,事業費の削減の内実は,社費(人件費,物 件費),募集関係費(代理店手数料,営業職員に対する経費),顧客と対面し 保険サービスと査定サービスを提供する拠点の統廃合,削減,会社機能の安 上がり下請化・代理店への移管,雇用の劣化(採量労働制・みなし労働時間 の拡大,人減らし,異種雇用・非正規への転換,長時間過密労働,サービス 残業など)にほかならない。ちなみに,⽛店舗が近くにあり便利だから⽜を 選好理由としてあげるのが民保で5õ4%,かんぽ生命で29õ1% である(前掲,
⽛生命保険に関する全国実態調査⽜)。⑶海外でのビジネスと外資依存は,国 内での保険事業の後退と不安定要因の広がりを意味する。
⑴ ⑵ ⑶を通じた,また社費と募集関係費からなる事業費の削減を通じて 遂行される利潤の極大化,株価と株主利益増大の効果は,外資など株主利益 のためのいっそうの⑴ ⑵ ⑶への投資,銀行窓販対策などマーケット拡大,
金融保険寡占化の源資として動員されることになる。そもそも,金融資本の 巨大寡占化と利潤を求めての国際化によって,人類と諸国民の福利がもたら
5) ⽝週刊ダイヤモンド⽞2017年⚔月29日⚕月⚖日合併号。
6) 日本保険学会2015年大会,小藤康夫⽛シンポジウム・グローバリゼーション と保険業⽜報告レジュメ。
されるとするのは易きに過ぎる。⽛自由化⽜の先を,保険行政も保険経営も 展望できないのではないか(図表⚒)。
1992年⚖月の保険審議会答申,1996年施行の改定保険業法,金融ビッグバ ン,日米保険協議最終結着を受けて,98年に⽛損害保険料率算出団体に関す る法律⽜の改定による損害保険料率の自由化,その後のリスク細分型自動車 保険の発売,金融業態間の相互参入,保険から異業種への参入と異業種から 保険への参入,保険商品の銀行窓口販売(窓販)解禁,代理店手数料をはじ め代理店制度の自由化などが進められた。自由化の過程で保険をめぐる社会 問題が引き起されたが,今も自由化を象徴する問題が起っている。
金融庁⽛平成27事務年度 金融レポート⽜(2016年⚙月)は,⽛保険会社か ら金融機関代理店への販売サポート⽜を問題視している7)。自由化でもたら
7) ⽛〈保険会社から金融機関代理店への販売サポート〉
多くの保険会社が,金融機関代理店に対し,販売サポートとして,販売手数 料の上乗せキャンペーンや募集人(販売員)向けのインセンティブ供与を幅広 く実施している。
販売手数料の上乗せキャンペーンについては,新商品の早期定着や他社の販 売手数料率への対抗等を目的として,商品や期間を限定した上で,通常よりも 0õ5~1õ5%程度上乗せした手数料を提示している。また,販売員向けのインセ ンティブについては,販売員の保険商品取扱に対するモチベーションアップを 目的として,販売実績に応じて,賞品贈呈等を行っている。粗品贈呈に留まる ケースが多いものの,中には食事会・研修旅行へ招待する事例も見られる。
こうした販売サポートは,多くの保険会社(商品提供側)と金融機関代理店
(商品販売側)の間で実施される中,付与競争の様相を呈しており,最終的に,
顧客が支払う保険料を上昇させる要因の一つとなっている。⽜
【図表⚒】:保険料の構成
保 険 料
純 保 険 料 保 険 金
付加保険料 事 業 費 社 費 人 件 費 物 件 費 募集関係費 利 潤
された金融及び異業種間の相互参入,金融と保険資本の巨大寡占化,多様化 したかにみえる生損保の販売網の国民・契約者からの離反,利便性後退,代 理店手数料ポイント制度による中小・プロ代理店の代理店手数料削減と金融 機関代理店などへのシフト・上乗せ特別利益供与である。
そして,損害保険の収入保険料の⚖割を占める自動車保険では損害率改善 のためとして,保険料を上げ保険金支払いを抑制している。2009年から2014 年まで⽛参考純率⽜の引き上げを続けた。そして,同じ保険料率10等級であ っても,前年無事故で10等級となった場合は翌年の割引率50%となり,前年 度13等級で事故があり10等級となった場合は23%に引き下げられる。その後 も⚓年間⚔年目まで,⽛前年度事故有無事故割引率⽜が適用され続ける(図 表⚓,⚔)。保険金を請求すると保険料の大幅アップとなり,保険金を請求 させない,請求しないという誘導になっているのである。その結果,表向き の損害率は2011年度71õ1%が16年度56õ5%と改善されたかにみえる。
これらは,個別の事例として済まされるものでない。自由化による金融相 互参入,販売網多様化,算定会制度の改定と料率自由化の帰結であり,構造 的である8)。
8) 生命保険においては,店舗数が1995年⚓月末の19,193店舗(生命保険協会
⽝生命保険事業概況⽞)から,⽛営業拠点は支社約1,600店舗弱,支部・営業所の 機関約⚑万2,000店弱⽜(損害保険事業総合研究所⽝生命保険の実務知識⽞2014 年)と5,000店ほど減少している。職員数についても1995年⚓月末に内勤職員 103,280人,営業職員420,084人だったが,内勤職員は2005年⚓月末71,086人ま で10年間ほど減少を続け,その後の10年間で回復に向い2016年⚓月末106,596 人(うち,かんぽ生命6,279人)と20年前の水準に戻している。営業職員は20 年間ほぼ一貫して減少し続け2016年⚓月末232,586人(同1,099人)となってい る(⽝生命保険事業概況⽞)。販売網の多様化,個人代理店の廃業や法人代理店 への吸収統合,営業店舗の統廃合,銀行窓販拡大や異業種からの参入による代 理店使用人数の激増などによって,一見したところ,生命保険経営は自由化の 結果⽛効率化⽜されたかにみえる。事業費率は1985年度18õ0%,93年度14õ4%,
2015年度12õ1%(生命保険協会⽝生命保険の動向⽞)と減少している。しかし,
これは保険事業の異種金融機関や異業種への拡散の結果であり,国民経済や国 民生活に対する保障機能は逆に不安定化し劣化をたどっているといわざるをえ
ない。銀行などの経営の都合による販売中止・撤退などが,くり返されている のである。
また,世帯加入率は2003年⽛全生保⽜91õ7%から2015年89õ2%と減少し,
⽛民保⽜で76õ1%から78õ6%,⽛県民共済・生協等⽜18õ3%から28õ4%と著増し ている。世帯年間払込保険料は⽛全生保⽜53õ3万円から38õ7万円と大幅に減少 し,⽛民保⽜で38õ5万円から37õ0万円と大きくは変っていない(生命保険文化 センター⽛昭和27年度〔2015年度〕生命保険に関する全国実態調査⽜,2015年 12月)。これを合わせてみると,全般的な所得低下があり,なかでも中間層の 縮小と低所得世帯の困窮度が増していることから,低保障・低料金の契約への シフトが進んでいることを示している。民保については一見したところ横ばい で推移しているかにみえるが,2003年の統計にはなかった⽛かんぽ生命⽜が 2015年分には加わってのことであり,既存の民保としてはやはり減少傾向にあ るといえる。
【図表⚓】:無事故/事故有別に保険料を適用
事故が⚑件あり保険金を受け取った場合,⚓年間⽛事故有⽜区分を適用し,そ の間無事故であれば,そののち⽛無事故⽜区分を適用することになります。
無事故 18等級
⚔年後
(残存期間)事故有 15等級
(3) ▶ 16等級
(2) ▶ 17等級 (1)
⚑年後 ⚒年後 ⚓年後
⚓等級下がる 事故
出所:損害保険料率算出機構⽝2016年度自動車保険の概況⽞
【図表⚔】:事故前の適用無事故割引等級13等級・割引率49%
出所:⽝損保のなかま⽞第460号,2017年⚘月⚑日。
翌年契約 無事故なら14等級
割引率50% 事故有なら10等級
割引率23% 割引率の差 27%
⚒年後の契約 無事故なら15等級割引率51% 無事故でも11等級
割引率25% 割引率の差 26%
⚓年後の契約 無事故なら16等級割引率52% 無事故でも12等級
割引率27% 割引率の差 25%
⚔年後の契約 無事故なら17等級割引率53% 無事故でも17等級
割引率53% 割引率の差 0%
(日本損害保険協会資料から作成)
Ⅲ.保険学は⽛自由化⽜と保険問題に向き合ってきたか
⽛発覚⽜を⽛発生⽜といい換えたように,金融・保険自由化政策は,現実 に起っている現代の金融・保険問題,そして自由化でひき起された問題に向 き合ってきたとはいいがたい。保険学はどうであろうか。
1995年の日本保険学会の共通論題は⽛新保険業法について⽜で,基調報告,
雇用や労働分配率の劣化,社会保障の後退や逆再分配を進める今ここの政策 にあっては,人びとは自助・自衛をよぎなくされ,一時的には自助としての保 険に加入することになるだろう。しかし,社会保障の営利化政策はほどなく限 界に達し,社会の安定性が底抜けとなっては,自助・保険もまた縮小せざるを 得ない。国内市場の狭Ҳの打開を海外に求めた,戦前戦中の日本にみられたこ とである。
損害保険については,営業店舗数が1995年度6,502店から2015年度2,713店 42%に激減,従業員数は1995年度114,630人が2006年度84,845人とほぼ10年間 減り続け,その後回復し2015年度120,353人と20年前の水準に戻している。事 業費率は1995年度41õ4%が2015年度32õ4%にまで激減し,なかでも社費のうち 人件費は減り続け,32õ5%が27õ5%と大幅にダウンしている(⽝インシュアラ ンス損害保険統計号⽞各年版)。そして,代理店実在数は1997年度623,741店が 2016年度196,043店と激減し,代理店使用人は2000年度116万人が2016年度206 万人と激増している(日本損害保険協会ニュースリリース)。銀行等の副業で ある。激減した代理店の中でも副業・個人代理店の減少,もともと数が少なか った専業代理店(プロ代理店)の減少率が著しい。自由化政策と経営の結果で あり,当該代理店の問題にとどまらず,保障機能の全般にわたる不安定化と劣 化といわざるをえない。同じことは,対面販売により家計保険分野で役割をは たしてきた生保の営業職員,損保の外勤・直販社員制度の縮小についてもいえ る(崔 桓碩⽛保険募集チャネルの多様化と消費者ニーズ⽜早稲田大学保険規 制問題研究所編⽝保険販売の新たな地平⽞2016年,保険毎日新聞社,参照)。
なお,早くに次のような問題が広がっていた。⽛雇用の多様化 人件費総 体の削減に向け,損保産業では人員の削減とあわせ,雇用の多様化が急ピッチ ですすめられている。総合職,業務職,一般職といった従来の雇用区分に加え,
エリア社員,職種限定社員,嘱託,派遣社員,アルバイト・パートといった多 様な雇用形態が混在し,従来の仕事内容についてもそれぞれの層にシフトされ ている。……何とか日々しのいでいるというのが実状となっている。⽜(全日本 損害保険労働組合産業民主化対策部⽛⽝自由化⽞⚕年,職場からの問題提起 奪われた真の⽝健全性⽞をとりもどす,その視点と課題⽜2003年⚙月)。
池尾和人⽛金融改革の中での保険制度改革⽜などであった。そして,2008年 の大会シンポジウムは⽛自由化後10年の検証⽜であり,2015年大会は⽛⽝グ ローバリゼーションと保険業⽞ 創立75周年大会シンポジウム⽜で,基調 講演が池尾和人⽛金融グローバル化の30年 回顧と展望⽜である9)。
9) 1995年度日本保険学会大会でのわたくしの質疑(要旨)は次のように記録さ れている。
⽛池尾先生は,金融制度改革の遅れによって劣化現象が起こったと言われた が,これは事実とは異なるのではないかという感想を持った。遅れではなくて,
強力な政策推進下でバブルの金融環境が作られ,保険会社も含め金融機関が積 極的にそれに合流していったのではないか。バブル経済は金融改革とか金融政 策,金融機関の行動とは別のところで,先生の報告にあった“外部環境の変 化”などによって起こったということはできないと思う。
実際,金融制度改革のこれまでの論議では,自由化,規制緩和,効率化はす なわち利用者利便の向上であり,これが自明のこととされて,自由化,効率化,
バブル国民経済との矛盾は検討されてこなかったのではないか。結果として,
戦後半世紀にわたってなかった金融・生活危機が引き起こされている。これを 推進してきた政策と学説には重大な責任があると言わざるを得ない。遅れが劣 化をもたらしたとして一層の推進を続けていくのは,危険な実験をくり返すこ とになるのではないか。これでは契約者や国民の利益にも,金融経済上の利益 にすらもならないのではないか。今日,非常に高い代償を払わざるを得なくな っているわけだから,その現実から学んで,改革と契約者・国民生活の利益に ついて今一度根本的に再検討すべきではないか。もう一度立ち止まって,学説 等を見直してみる必要があるのではないか⽜(⽝インシュアランス⽞〔生保版〕
No. 3681,1995年12月⚗日 掲載誌には質問者の氏名は記されていない)
(本間⽛金融・保険改革と協同組合保険の課題⽜下⽝共済と保険⽞1996年⚕月 号)。
⽛[質問](青山学院大学・本間照光)青山学院大学の本間です。⚒つほどお 聞きしたいと思います。⚑つ目は植村先生と堀田先生にお聞きします。もう⚑
つは上柳先生にお聞きしたいと思います。
⚑つ目ですが,そこそこの収益で経営すべきだということで,私もまったく その通りだと思います。それと自己責任を問えるかとういことですが,私は問 えないと思います。なぜかと言うと個別保険会社を選択するということでは,
とれるかもしれません。しかし今起こっている事は,そうではない。金融・保 険全般の危機です。それについて契約者・国民,あるいは市民として責任はと れない。
それからもう⚑つ,破綻の原因になってきている金融投機ですね。金融再保 険の問題です。大成火災については破綻にしないでも良かったのではないか回 避できたのではないかという疑問が,相当まだ残っているなということです。
分からないことですね。これまで自由市場に任せる,市場が決める,自己責任 だということできました。しかし今非常に膨大な税金が全世界で投入されよう としているわけですね。そうすると今保険についても大きな検証の時期を迎え ています。われわれの学問も試されているのではないかと思います。自由化の 流れの中でプラスの側面とマイナスの側面があって,プラスの側面が大きくて 不可避であって正しかったということなのだろうか。その事自身がやはり問わ れるんじゃないか。なぜかと言うと,プラスとマイナスが別々に出てきていな いのではない。一見するとプラスと見えることが,実は大変な命取りになって いるということはないだろうか。保険事業にとって決定的なことがらが何なの か,その価値判断に照らして検証される必要があります。
効率化を図ったあげく実は管理部門や営業と顧客とのつながりが切れていっ たということはないだろうかですね。これが⚑点です。
それから上柳先生についてですが,法曹関係の関係者の方は,おそらく熱心 のあまりだと思いますが消費者保護の名で,実は国民主権,消費者主権を規制 しているということが,あるのではないか。あるいは,そこについてのかなり 甘い認識があるのではないかと思います。無認可共済について金融行政が動い たと。消費者保護も動き出したと言いますが,私がかねてから指摘しているの は問題とされるべき本質は無認可共済ではなくて,無認可保険であり,規制が 必要なのは無認可保険であり共済ではないと。それから行政が動いたのではな くて,これは保険のマーケット拡大のためにアメリカ政府とアメリカの保険業 界が動いたのですね。それに日本の保険業界も合流して,消費者の保護ではな いということです。そうすると,やはり本当のところをもう一度考えてみる必 要が。消費者保護の名で消費者主権を縛ったら,どうなります? 逆になりま すね。おそらくこれは熱心さのあまりだと思いますけれど,もう一度考えてみ る必要があるのではないかと。保険商品の買い手に対する消費者保護と,自分 たちで自分たちを支える協同自治としての消費者主権の保護は異なるのではな いでしょうか。⽜
(⽛自由化後10年の検証 2008年度大会シンポジウム⽜⽝保険学雑誌⽞第604 号,2009年⚓月)。
⽛【本間照光(青山学院大学)】
本日の池尾先生の基調報告では,現代化として銀行,証券,保険の生損とい った業態概念を解消していった先に成功がある,という趣旨のお話だったと思 います。日本の改革は10年遅れだ,敗者復活戦だ,人材育成だと。
実は池尾先生は,20年前,1995年の保険学会大会で,大会のテーマが57年
〔56年〕ぶりの⽛新保険業法について⽜でしたが,⽛金融改革の中での保険制度 改革⽜という基調報告をされていて,20 年後の今日につながっているわけで す。1995年の基調報告でも,10年遅れの遅れに失した改革で日本が全力で追い かけても,先行集団はさらに先を行っているとのことでした。お聞きしたとこ ろによれば,今日の他の報告者の方々も,その大きな枠組みを与件として,前 提されているように見受けられました。幾つかの疑問符は付いていましたけれ ども。
そこでお聞きしたいのですが,先行する諸国のうちで,どこに現代化,成功 事例があるのかということです。成功事例は,海のかなたの空想の世界にしか 存在しないのではないでしょうか。私は成功事例があるのではなくて,転落競 争を繰り広げてきたのではないかと考えています。その背景に,改革の名で推 進された政策と経営,学説があって,それに起因して起こっているということ は,われわれ学問研究に携わる者にとっても,非常に大きな責任があるのでは ないでしょうか。
私は95年の大会で,改革なるものの一層の推進によって,危険な実験を繰り 返すことになるのではないか。それはやってはいけないということを発言しま した。95年の学会は,金融改革,そして保険制度改革,翌96年に94年の合意の 駄目押しで日米保険合意が強行されました。そして金融ビッグバンですね。翌 97年から,次々と日本の生命保険会社が⚓分の⚑つぶれていきました。それは 何となくつぶれたわけではないのです。この一連の流れの中で起きたことです。
金融グローバリゼーションへの進出が早かったから損保が生保に先行したので はなく,逆です。駆け込み乗車をした生保が破綻し,遅れた損保の痛手が少な かったのです。学問的検証と再出発が求められています。
その日米保険合意を演出し,指導[主導]した AIG 保険がリーマン・ショ ックで破綻しました。ですから,これは日本国内の問題であるとともに,国際 的な金融保険の問題でもあるということです。私は,問題の立て方が大きく違 っているのではないかという具合に感じました。金融工学なる錬金術が可能な のではなくて不可能だということを踏まえてこそ,初めて展望が見えてくるの ではないかと思います。言うならば本業回帰です。各業態,保険業はもちろん そうですけれども,その本業回帰を堅持してこそ未来が見えてくるのではない かと。今は業界にとっても先が見えないのではないでしょうか。改革の遅れが 劣化をもたらしたのではなく,事実は改革なるものによって劣化がもたらされ たのであります。求められるのは錬金術師ではなく,それが不可能だと自覚し 動じない人材です。
実は遅れていると見えたことが遅れているのではなくて,事業の本質に基づ
金融自由化・保険自由化とそこに起った一連の金融・保険問題は,保険学 説と保険研究の試金石でもあったといわざるをえない。ちなみに,自由化の 過程で,⑴遺族のための保険が会社のための保険に転化していると大きな社 会問題となった団体定期保険(団体生命保険)問題(いまだ未解決である),
⑵団体定期保険の背後の⽛他人の生命の保険⽜契約100年の問題,2008年保 険法制定における団体保険法規定・他人の生命の保険契約の明確化回避,⑶ 公的介護保険制度(2000年実施)における要介護認定や社会保険の二重性
(保険性,社会性)の検証の欠如(図表⚕),⑷無認可保険が無認可共済とさ れた,日米保険合意の延長上にある共済規制,⑸2011年福島原発事故と原子 力損害賠償制度・原子力保険の問題,戦争保険など,いずれもいのちとくら しの大もとの重大な社会問題であり,現在進行形だ。保険問題は,行政と経 営,保険学にとっての試金石であり,試金石に耐えられてこそ他に換えがた い独自の威信を示すことができるだろう。そして,学問には現実との厳しい 緊張関係が求められている10)。
【図表⚕】:歴史的発展・重層構造 A 保険 ˡˡˣ 社会保険
保険原理 ……… 保険原理
ˡˡˣ 社会保障
B 社会原理………社会原理
О
自助(セルフ・ヘルプ)を土台Ј
くものであり,むしろ強みだということを確認して,事業も学問も進んでいく べきだと思いますが,諸先生はいかがですか。⽜
(⽛グローバリゼーションと保険業 創立75周年記念大会シンポジウム(2015 年))⽝保険学雑誌⽞第632号,2016年⚓月)。
10) 紙数の制約があり,ごく限定して付論としたい。
⑴団体保険が社会問題化すると1996年から⽛総合福祉団体定期保険⽜が発売 され,遺族の取り分と会社取り分を区分したので問題は解決したとされた。し かし,従業員が死亡して企業が損失を被るとする主張が,近代社会で許される
のかという根本問題が残っている(本間⽛問題を温存する新型団体定期保険⽜
⽝朝日新聞⽞1996年⚙月12日。同⽝団体定期保険と企業社会⽞,1997年,日本経 済評論社)。しかも,なお⽛社員の団体保険無断契約 文書偽造の疑い⽜と 問題は後を断たない(⽝日本経済新聞⽞名古屋版,2011年11月10日)。そして,
従業員の任意加入のBグループ保険では問題がないとされてきたが,出向させ た従業員の保険を会社が出向を理由に一方的に解約させ,遺族によって最高裁 で争われた事例がある。
⑵なお,1934年の発売以来70年代半ばまで,日本でも保険約款で企業の保険 金受取りを禁止していた(本間⽛団体定期保険普通保険約款の系譜 ⽝遺族 保障⽞・⽝企業の受取り禁止⽞を明記⽜⽝青山経済論集⽞第51巻第⚑・⚒・⚓号,
1999年12月)。そして,団体定期保険は⽛他人の生命の保険契約⽜でもあり,
1911年に同意主義となったが,当時,保険監督当局,保険業界の指導者,学界 のいずれも,契約の前提として被保険利益の存在を自明としていた。昭和戦中 期に⽛被保険利益を要しない⽜(大森忠夫)との異説が生まれ,それが今日の 通説となっている。しかし当該論者もかつては,被保険利益の存在を自明とし ていたのであり,まったく逆の学説へ転換しながらその理由を説明していない。
商法・保険法学者もこれを検証していない(本間⽛団体保険の本旨・法理・倫 理⽜⽝共済と保険⽞2000年⚕月号。同⽛日本商法⽝他人の生命の保険契約⽞の 系譜 ⽝利益主義⽞を包摂する⽝同意主義⽞⽜⽝青山経済論集⽞第52巻第⚔号,
2001年⚓月。同⽛日本における⽝他人の生命の保険⽞100年 現行通説の学 説史上の位置⽜⽝保険学雑誌⽞第588号,2005年⚓月)。然るに,2008年,100年 ぶりの保険法改定・商法からの独立でありながら,他人の生命の保険契約も団 体定期保険問題も不問に付された(⽛保険契約法の現代化と保険事業 2007 年度大会共通論題⽜(⽝保険学雑誌⽞第599号,2007年12月)でのわたくしの
⽛質問⽜を参照していただきたい)。
⑶2000年から公的介護保険が実施されたが,手ばなしの礼讃と全面否定に分 かれながら,保険方式にともなう要介護認定の問題は検討されることがなかっ た。⽛どちらも保険と社会保険を⽝技術⽞としてしか理解せず,歴史的社会的 存在として認識していないことからきています。それらを自助からの作用と反 作用,社会保障の発展と逆流の中に位置づけることができていないのです⽜
(本間⽛保険・社会保険・社会保障の関係⽜⽝福祉のひろば⽞2005年⚒月号)。
⑷また,日米保険合意の延長上に,保険マーケット拡大として共済規制が行 なわれた。
⽛質問票(青山学院大学 本間 照光)
① 共済と名乗っていても不特定を相手とする実質的保険については,⽛無認 可保険⽜として改正前の保険業法で規制できたし,規制しなければならなか
ったのではないか。
② 国会提出資料では,現行を,制度共済,特定の者を対象とする根拠法のな い共済,不特定の者を対象とする保険会社の⚓つに区分している。不特定の 者を対象とする無認可保険業者が問題となり業法を改正しながら,その業者 の存在が現行のどこにも出ていないのはきわめて不自然。協同組合保険とし ての実体をもつ共済と,共済を自称する無認可保険業者を,ひとくくりにし て規制することには無理があり,こうした考え方は拙速を否めないと考える がどうか。
③ 消費者保護の名によって消費者主権と協同自治そのものを規制することは,
日米の保険業界のマーケット拡大のために問題をすりかえたとの批判に回答 できず,保険事業の将来展望上も支障となる。また,共済を規制することで その団体の本来業務をも困難にすることになっては,金融庁の権限を逸脱す るのではないか。
⽛質問票(青山学院大学 本間 照光)
小樽高商出身の小林北一郎氏(1899-1944)は,⽛歴史的範疇としての保険⽜
論を提唱している。共済の理解は,保険の歴史的・社会経済的把握に関わる保 険学説史の根幹の問題と考えるが,これをどのように理解し位置付けたらよい か。⽜
(⽛いわゆる⽝無認可共済⽞問題の総合的検証について 2005年度大会共通論 題⽜⽝保険学雑誌⽞第592号,2006年⚓月,開催校,小樽商科大学)。
なお,本間⽛TPP を先取りする共済の危機
協同組合はどこに行こうとするのか⽜(⽝世界⽞2013年12月号),⽛共済研究会シ ンポジウム・共済の灯を消してはならない!⽜パート⚑-⚗(⽝賃金と社会保 障⽞1461号/2008年⚓月下旬号 1644号/2015年10月下旬号),参照。
⑸さらに,戦争保険が核戦争保険に転換されようとしながら,論評はおろか 報じられることすらもなかった(本間⽛参戦体制と核戦争保険 戦争保険 の核戦争保険化がもたらすもの⽜(上)(下)⽝損保調査時報⽞No.175,No.176,
1980年⚕月,⚖月。後に,本間⽝保険の社会学 医療・くらし・原発・戦 争⽞1992年,勁草書房,所収)。ちなみに,2008年⚙月15日,リーマン・ショ ックが起り世界金融危機へと広がった。翌16日に損害保険会社の AIG が破綻 し,即座にアメリカ政府が救済に動いた。戦争保険と軍事機密の漏洩を防ぐた めであり,⽛AIG 問題には,隠された軍産複合体問題がある⽜と指摘されてい る(品川正治⽝激突の時代 ⽛人間の眼⽜⽞vs.⽛国家の眼⽜⽞2014年,新日本 出版社)。
なお,わたくしは⽛原子力保険のパラドックス 核時代と原子力損害賠 償制度⽜(⽝技術と人間⽞1982年⚓月号)以降,折にふれてこの問題を検証しよ
Ⅳ.保険⽛自由化⽜の過程での保険学の変貌
⚑.自由化対応で“保険とは何か”の稀薄化
保険⽛自由化⽜の要求に対し,日米合意後は日本側が一方的に受け入れて きた。自由化は,日本の国民経済と国民生活の必要から自主的主体的に求め られたわけではない。企業価値と株主利益の極大化を至上とする自由化は,
国際化を標榜しながら実は今ここというきわめて短期狭伓な金融資本の見地 からのことだ。自由化の過程は,保険産業の独自性を失う過程であり,それ は同時に“保険とは何か”への稀薄化,個々の努力はあったとはいえ総じて,
拠りどころとする保険学説を失っていく過程にほかならなかった。
ちなみに,伝統的保険学(保険本質論)は,保険の本質なるものを個人的 主観的な加入動機に求め,最後は⽛保険は保険技術⽜と収束する⽛保険技術
うとしてきた。最近では次のとおりである。⽛原子力損害賠償の責任主体 国策と商業ベース,象徴する製造物・電力債⽜⽝経済研究⽞第⚖号,2014年⚓
月,青山学院大学経済研究所。⽛加害者保護へ向かう原子力損害賠償制度 議論なき改訂,再び事故へ⽜⽝協同組合研究誌にじ⽞No. 650,2015年夏号,JC 総研。⽛原発保険 原賠で賄えない福島事故⽜⽝エコノミスト⽞2017年⚒月
⚗日号。⽛原賠制度の虚構とリスクの現実⽜⽝経済研究⽞第⚙号,2017年⚓月。
⽛原賠制度という虚構 保険が機能しないリスクとコストの現実⽜⽝科学⽞
vol. 87 No. 4,2017年⚔月,岩波書店。
ちなみに,東日本大震災の翌年2012年の日本保険学会大会シンポジウムは,
⽛巨大災害・巨大リスクと保険⽜であった。シンポジウムでは,⚙名の報告 者・総合司会者で,原子力発電所爆発事故そして原子力損害賠償制度・原子力 保険に触れたのは皆無である。パネルディスカッションでも,フロアからを含 めてこれについての発言がなかった(⽝保険学雑誌⽞第620号,2013年⚓月)。
保険学界は,他に代えがたい保険研究の意義を自覚し示し得ないでいるのでは ないか。⽛〔東日本大震災では〕自然災害がいのちと暮らしの根源をおびやかす 原発災害へと続いた。人類史上初めてのことである。そもそも核燃料で支えら れた日常生活そのものが,それ以前の日常とは決定的に異なるものになってい た。日常が異なるとき,非日常としての災害の意味もちがってくる。核時代に おいて,自然災害は自然災害としてとどまることができない。そして,世界の 原賠制度史上最大で最初の⽝賠償措置額⽞大幅超過となり,現在進行中であ る。⽜(前掲,本間⽛原賠制度という虚構⽜)。
論⽜であった。⽛保険の本質⽜⽛⽝保険⽞の概念,保険とよばれるものに共通 の概念として規定しようというのであれば,それは,保険を一つの技術とし て把える以外に途はない。⽜(近藤文二⽝社会保険⽞1963年,岩波書店,68ペ ージ)。それが検証されることなく,社会科学,経済学,社会政策学,社会 保障論,社会保険論,共済理論など諸学の理解にも受けつがれてきた。歴史 的社会的存在である保険を,非歴史的形而上学的にとらえようとする問題を かかえていたのである。
戦後,保険本質論を克服する努力は,⽛保険ファンド論⽜⽛保険資本論争⽜
として展開された。その流れにおいて,1930年代における小林北一郎
(1899-1944)⽛歴史的範疇としての保険論⽜を復権する動きもみられた。し かし,その後育てられることはなく,やがて,その理論的苦闘が存在したこ とも忘れられていった。そうではあったが,保険本質論とその批判者のいず れも,“保険とは何か”にこだわり追求するものではあった。
しかし,1980年代以降,それも稀薄化し,自由化の過程で決定的となった。
⽛保険技術⽜なるものについても,時に恣意的にとりあげられるにすぎない。
保険をめぐる社会問題が多発していながら,今,保険学は学説史の空白の中 にあるのではないか11)。
11) 本間による以下の論稿を参照していただきたい。前掲⽝社会科学としての保 険論⽞(1983年)。同⽝保険の社会学 医療・くらし・原発・戦争⽞(1992年)。
⽛社会保険理論の経済学的位置 社会保障理論構築のための一作業⽜⽝北海学 園大学経済論集⽞第37巻第⚒号,1989年10月。⽛保険をめぐる消費者主権と福 祉⽜同第38巻第⚔号,1991年⚓月。⽛小林北一郎は,伝統的保険学(⽛分配⽜主 義的保険本質論)への保険学批判を通じて,⽛歴史的範疇としての保険⽜を体 系的に把握し,将来社会における⽛保険の社会化はすなわち〔いわゆる〕保険 の消滅である。⽜ことを洞察した。自由な研究を許さなかった昭和初期に,そ の時代との格闘のただ中で,小林は,⽛保険の肯定的発展⽜⽛保険の〔自己〕否 定的発展⽜⽛保険の社会化(保険の消滅)⽜の歴史的過程をとらえたのである。⽜
(⽛保険からみた社会政策・社会保障の再検討 社会保障政策と理論の問題所 在⽜⽝変化の中の労働と生活⽞社会政策学会研究大会・社会政策叢書第17集,
1993年,啓文社)。⽛保険・共済の歴史性と社会性 立ち位置を照らす保険研 究の回復⽜⽝協同組合研究⽞第36巻第⚑号,2016年12月,日本協同組合学会。
⚒.⽛社会の協同業務⽜としての保険と歴史的形態
現代をいかにみるか。現代を認識するためには,それを歴史の過程の中に 相対化し,未来社会を展望する視野の中に位置づけることが求められる。保 険についても同様であるばかりか,⽛社会の協同〔共同〕業務⽜(⽛保険ファ ンド⽜⽛相互扶助⽜)が保険という形をとってあらわれる歴史的段階に至って はじめて,いわゆる保険が登場するのであってみれば,歴史的社会的範疇と してとらえられたとき,その保険を通じて歴史と社会そのものがみえてくる だろう。保険は⽛社会⽜と社会的存在である人びとの状態,いのちとくらし,
人間性(ヒューマン・ネーチャー,人間の自然),リスクを映し出す鏡であ る。
いかなる時代いかなる社会であっても,自然と結びそれをもととして人間 相互に結びつくことで,⽛社会⽜が成り立っている。そして,社会の維持に とって生産と構成員を支える保険ファンドは不可欠である。その意味で,現 下のいわゆる保険は⽛社会の協同業務⽜(⽛保険ファンド⽜⽛相互扶助⽜)の資 本主義的形態(姿)にほかならないといえよう。発達した生産力と商品経済の もとで,人びとが自然から離れるとともに,人びとの結びつきもまたバラバ ラになる。つまりは,社会の協同性(共同性) 相互扶助が失われる。こ の協同性が失われた⽛原子に解体した社会⽜で,だれもがバラバラであるほ どに,そのバラバラをお金でつなぐ,偽似〈社会的〉ないわゆる保険が生ま れ,巨大な保険産業がそびえ立つ。今日理解される⽛剰余労働⽜⽛必要労働⽜
にしても,分配が資本分配率・労働分配率としてあらわれる特定の時代の歴 史的形態への認識だ。そして,保険ファンドは不変の固まりではなく,社会 が運営される関係性とプロセスであり,保険も共済も本来は社会を運営する 能力である。たとえば,医療の保険ファンドというものが固定してあるわけ ではない。医療や健康は,仕事の仕方,環境や社会保障のあり方とか,生活 全般に関わって変動するからだ。
⚓.保険労働論の欠落 保険学の過去と現在
今ここを超えた歴史的視点と保険という枠を超えた視点を持とうとするこ とで,対象が相対化され,歴史と保険もみえてくる。逆に行政や経営という 保険事業の枠内をみたり枠内にとどまりみていては,保険を展望することも できないだろう。それを象徴するのが,保険学における労働論,保険労働論 の欠落である。保険労働論が欠落していることによって,諸学と保険学の視 野が狭められてもいる。特定の歴史的社会的形態を超えて人類史をみる,そ のためには労働という視点が不可欠だ。そして,人類史に位置づけて歴史的 社会的範疇として保険をみるには保険労働論を欠くことはできない。今ここ にある保険労働を通じて,それ自身を超えていくその歴史的社会的役割を展 望するということである。
もっとも,保険労働論が欠落しているからといって,保険・共済は,働く 従業員,営業職員,代理店,仲立人など,広く保険労働者によってさまざま に担われていることはいうまでもない。戦争と戦争保険で崩壊した保険産業 は,廃墟の中から再建されてきた。行政,経営者,保険を担う人びとにも共 通して“保険と何か”の希求と“平和産業”としての自覚があった。ちなみ に,敗戦の翌年1946年に生まれた全損保は,⽛平和日本の建設⽜⽛損害保険の 社会的使命の達成⽜を宣言し,⽛経営参加により損害保険事業の民主化を期 す⽜を綱領に掲げた。社会問題としての保険問題が続発する今日,保険理論 の再構築にとっても,あらためて保険労働論が求められている12)。
12) 保険労働者こそ,保険事業が真に,a,保険契約関係者の利益を保護し,国 民生活の安定をもたらすものとなっているのか,また,b,健全な発達をして いるのか,を熟知しているはずである。⽛保険関係法規の見直し⽜に際して,
⽛保険事業の在り方⽜を検証するリトマス紙は,契約者や国民との日々の関わ りのなかにある保険労働である。⚑枚のビラ,職場新聞が浮かび上がらせる。
⽛⽛社会の共同業務⽜としての保険の本質があり,それを担う保険労働の本質 がある。その本質が現実には,社会の共同業務の疎外,保険の資本主義的形態,
そして,それを担わされる保険労働の変質としてあらわれている。保険労働者 の喜びは本質の反映であり,苦悩は疎外形態の反映といってよいだろう。⽜
(本間⽛この保険労働の威信こそ保険事業の至宝⽜⽝21世紀への起点⽞2000年⚙
月,全損保)。
⽛この⽝時代をみつめ明日につなげる⽞には,働く一人ひとりの苦しみがに じみ出ている。苦しみは,保険の仕事への誇りとよろこびの裏がえしだ。個人 的であるとともに社会的であり,それぞれに保険の⽛社会的責任⽜を自問して いる。
⽛人々の暮らしを⽝保険⽞という助け合いの仕組みによって支える仕事がし たい,そう思って入ったこの業界の実態に⽜(本社30代女性)。⽛損害保険に従 事していると胸を張って言える日がまた来るのでしょうか⽜(システム20代男 性)。⽛損保産業は,こんな不安定な産業ではないはずだ。補償を売っている人 間が会社の将来や,産業に不安を持っている⽜(外勤)。⽛代理店経営が将来に わたって見通せるような展望ある政策に転換してもらいたい⽜(内務50代男性)。
⽛被災地に実態調査に行きました。⽝ありがとう⽞と言われました。入社の時に,
面接官に言った⽝社会的責任⽞という言葉を思い出しました。(システム40代 男性)。⽛社会的役割を果たすには何をすべきか考え,実行していきたい⽜(損 サ20代女性)。⽛損保業界で働く者として,日本の復興に役に立ちたい⽜(本社 30代男性)。⽛もう一度,保険のあるべき姿にもどす為に,組合員および日本国 民に働きかけていく必要がある⽜(営業女性)。
証言のよろこびも苦しみも,“祈り”に似ている。なぜだろうか。今回の証 言のすべてが,31年前の⽝過当競争⽞…⽛アア!人間性を取り戻したい,まと もな仕事がしたい⽜(出先営業30代男性)と共通しているのである。
東日本大震災においては,地震保険の査定と支払いが各社の協調のもとで行 われた。他方で,対応が競争の具とされることもなくなっていない。地震保険 は政府の再保険と合わせてつくられているが,火災保険に対する付帯率は2011 年度に⚕割をこえた。また,⽛護送船団方式⽜の最たるものだと批判され,各 社の料率遵守義務を廃止してつくられた損害保険料率算出機構ではある。しか し,10年が経過して,大数の法則を実現する社会の共同財産として,料率算出 機能が再び見直されつつある。
証言は,社会の共同業務としての保険の原理・原則に立ち返ることなしには,
保険事業と国民生活の展望がないことを語っている。自分のために生きること が同時に社会のみんなのためになるとの職業倫理が,民間企業で働く人びとに よって共有されている。日本ばかりか世界の労働世界と労働運動においても,
特筆にあたいする。⽜
(本間⽛保険を担う人びとの誇りと苦しみ ⽝社会の共同業務⽞の今⽜⽝未来 をみつめ明日へつなげる⽞2012年⚙月,全損保)。
なお,保険労働論と銘打ってはいないが,保険労働の本質を考えるうえでさ まざまな労作がある。たとえば,労災職業病に苦しみ一人ひとりと立ち上がっ