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乗合代理店における比較・推奨に関する 情報提供義務とその影響

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(1)

乗合代理店における比較・推奨に関する 情報提供義務とその影響

他の金融商品の販売主体に課された義務との対比から

安 田 和 弘

■アブストラクト

保険業法の改正により導入された情報提供義務の一つに,乗合代理店のみ に課される情報提供義務がある。乗合代理店という代理店の属性に着目し,

それ以外の代理店には課されない情報提供義務を課すことは,保険業法にお ける規制の態様として新たなものであるだけでなく,金融分野における規制 の態様としても新たなものである。さらに,その内容の点においても,自ら が取り扱っている商品の中に比較可能な複数の商品が存在するという情報や,

比較可能な複数の商品のうち自らが一部の商品を推奨することとした理由と いう乗合代理店の主観的事情に関する情報という,個別の商品内容にとどま らない事項を提供すべき情報としている点で,これまでにない新たなものと なっている。このような新たなタイプの情報提供義務が導入されたことによ って,保険以外の金融分野の実務等への影響が生じることも想定される。

■キーワード

乗合代理店,情報提供義務,比較推奨

⚑.保険業法への情報提供義務の導入

2016年⚕月29日に施行された保険業法等の一部を改正する法律(以下,こ の法律による改正前の保険業法を⽛改正前保険業法⽜,改正後の保険業法を

/ 平成28年⚘月31日原稿受領。

(2)

単に⽛法⽜といい,改正の前後を通じた保険業法そのものを示すときには

⽛保険業法⽜という。)により,保険会社や保険募集人等が保険契約の締結や 保険募集等を行うにあたっては,内閣府令で定めるところにより,保険契約 の内容その他保険契約者等に参考となるべき情報の提供を行わなければなら ないものとされた(法294条⚑項1))。改正前保険業法においては,このよう な積極的な情報提供義務は課されておらず,⽛保険契約者又は被保険者に対 して,・・・保険契約の契約条項のうち重要な事項を告げない行為⽜が,保 険会社や保険募集人等が保険契約の締結や保険募集を行うにあたっての禁止 行為の一つとされる(改正前保険業法300条⚑項⚑号)ことによって,一定 の情報提供を行うことが求められるにとどまっていたが,今般の改正により,

保険会社や保険募集人等に対して積極的な情報提供義務が課されることにな ったのである。

銀行法および金融商品取引法(以下⽛金商法⽜という。)では,従来から,

銀行および金融商品取引業者に対して,顧客への積極的な情報提供義務を課 しており2),この改正により,法律のレベルでは銀行法や金商法と同様に積 極的な情報提供義務が保険業法に定められたこととなる。

法294条⚑項に基づき,保険会社や保険募集人等が保険募集等を行うに際 して保険契約者等に提供すべきものとされる情報の具体的内容や提供方法等 の全般に触れることは,本稿のテーマを外れてしまうため割愛するが,保険 業法施行規則(以下,単に⽛規則⽜という。)227条の⚒第⚓項各号において その詳細が定められている。

1) 保険契約のうち,金融商品取引法が準用される特定保険契約については同項 の適用が排除されている(同条⚒項)が,同項と同様の内容が法300条の⚒に 定められており,実質的な差異は乏しい。

2) 銀行法12条の⚒第⚑項,金融商品取引法37条の⚓第⚑項等。

(3)

⚒.乗合代理店の負う情報提供義務の内容と導入の経緯

⑴ 乗合代理店の負う情報提供義務の内容

規則227条の⚒第⚓項⚔号は,⽛二以上の所属保険会社等を有する保険募集 人⽜に対し,⽛当該所属保険会社等が引き受ける保険に係る一の保険契約の 契約内容につき当該保険に係る他の保険契約の契約内容と比較した事項を提 供しようとする場合⽜には⽛当該比較に係る事項⽜を(同号イ),⽛二以上の 所属保険会社等が引き受ける保険に係る二以上の比較可能な同種の保険契約 の中から顧客の意向に沿った保険契約を選別することにより,保険契約の締 結又は保険契約への加入をすべき一又は二以上の保険契約(以下⽛提案契 約⽜という。)の提案をしようとする場合⽜には⽛当該二以上の所属保険会 社等を有する保険募集人が取り扱う保険契約のうち顧客の意向に沿った比較 可能な同種の保険契約の概要及び当該提案の理由⽜を(同号ロ),⽛二以上の 所属保険会社等が引き受ける保険に係る二以上の比較可能な同種の保険契約 の中からロ(執筆者注:同号ロを指す)の規定による選別をすることなく,

提案契約の提案をしようとする場合⽜には⽛当該提案の理由⽜を(同号ハ),

それぞれ説明すべき事項であるとして,情報提供義務の具体的内容の一つと 定めている。

この情報提供義務は,⽛二以上の所属保険会社等を有する保険募集人⽜す なわち乗合代理店および乗合代理店に所属している募集人(本稿では,両者 をあえて区別することなく,単に⽛乗合代理店⽜という。)のみに課されて いるものである。乗合代理店という代理店の属性に着目し,それ以外の代理 店には課されない情報提供義務を課すという点で,保険業法における規制の 態様として新たなものである3)

3) 代理店の属性に着目し,特定の属性を有する代理店のみに特別の規制を課す ことは,改正前保険業法においても存在している。例えば,銀行等である代理 店や銀行等の特定関係者である代理店に対する規制などである。ただし,改正 前保険業法においては,乗合代理店という属性に着目した特別の規制は存在し ていなかった。

(4)

同号は,乗合代理店が⽛比較⽜に関する情報を提供しようとする場合と,

⽛提案⽜をしようとする場合において行うべき情報提供の内容を定めるもの であるが,ここでいう⽛提案⽜を実際の募集の局面に即してみると,比較可 能な同種の保険商品の中から,乗合代理店が顧客に対して特定の保険商品を

⽛推奨⽜することを意味することになるため,同号の内容について⽛比較・

提案⽜ではなく⽛比較・推奨⽜と称することが一般的となっているようであ る。このため,本稿でも,同号ロおよびハに定める⽛提案⽜のことを⽛推 奨⽜と表現することとする。

同号の情報提供義務の内容を簡易に整理すると以下のようになる4) まず,乗合代理店が取り扱っている保険商品の中に,その引受保険会社を 異にする比較可能な同種の複数の保険商品が存在することが,同号に定める 情報提供義務が発生する前提状況となる。このような保険商品が存在しない 場合には,保険募集を行う主体が乗合代理店であったとしても,当該乗合代 理店は,同号の情報提供義務を負わない。

次に,乗合代理店が取り扱っている保険商品の中に,その引受保険会社を 異にする比較可能な同種の複数の保険商品が存在する状況において,顧客に 対して,そのうちの一部の保険商品の推奨を行う5)のか,そうした推奨を行 わない6)のかによって,情報提供義務の有無および内容が変わり得ることと

4)⽛簡易に⽜としたのは,同号イ,ロ,ハは必ずしも排他的ではなく,これら のうちの複数の情報提供義務が発生することもあり得るためである。例えば,

引受保険会社を異にする比較可能な同種の複数の保険商品のうち,そのすべて ではない複数の保険商品を推奨するとともに,推奨する複数の保険商品につい てそれらを比較した事項を提供するという募集方法を採用する場合には,前段 のプロセスに関して同号ロまたはハの情報提供義務が発生し,後段のプロセス に関して同号イの情報提供義務が発生することになる。

5) 引受保険会社を異にする比較可能な同種の複数の保険商品のすべてではない が複数の保険商品を提案するケースと,引受保険会社を異にする比較可能な同 種の複数のうちの一の保険商品のみを提案するケースとが含まれる。

6) 引受保険会社を異にする比較可能な同種の複数の保険商品のすべてを提案す るケースと,そのいずれも提案しないケースとが含まれる。

(5)

なる。

そうした推奨を行わない場合には,引受保険会社を異にする比較可能な同 種の複数の保険商品についてそれらを比較した内容を示すのか,そうした比 較を示さないのかによって,情報提供義務の有無が分かれることとなる。そ うした比較を示すことさえしないのであれば,その保険募集を行う乗合代理 店は,同号の情報提供義務を負わない7)。一方,比較可能な同種の複数の保 険商品についてそれらを比較した内容を示すのであれば,その保険募集を行 う乗合代理店は,同号イの⽛当該比較に係る事項⽜の情報提供義務を負うこ ととなる。なお,この比較情報の提供を行うにあたっては,不当な比較表示 等を行うことを禁止している法300条⚑項⚖号に抵触しないようにする必要 がある。

これに対し,乗合代理店が取り扱っている保険商品の中に,その引受保険 会社を異にする比較可能な同種の複数の保険商品が存在する状況において,

乗合代理店が顧客に対して,そのうちの一部の保険商品を推奨する場合には,

規則227条の⚒第⚓項⚔号の情報提供義務を負うことが確定し,いかなる理 由に基づいて推奨する保険商品を選別するかによって,情報提供義務の具体 的内容が定まることとなる。顧客の意向に,より沿っていることを理由とし て推奨する保険商品を選定するのであれば,同号ロの情報提供義務を負うこ とになり,それ以外の理由で推奨する保険商品を選別するのであれば,同号 ハの情報提供義務を負うことになる。

同号ロの情報提供義務を負う場合に提供すべき情報は,推奨しないことと なった他の保険商品の概要と,推奨することとした保険商品の推奨理由であ る。この推奨理由は,推奨することとした保険商品が,推奨することとしな かった保険商品よりも顧客の意向により沿っていると判断した理由というこ

7) 顧客が当初から特定の保険商品を希望してきたケースや,同一保険会社で更 改契約(継続契約)を締結するケースを別にすると,比較情報の提供も推奨も されないなかで,顧客がどのようにして保険商品を選択するのかという疑問は 生じ得る。

(6)

とになるため,保険商品の内容等8)の客観的な事項が示されるべきことにな ろう。

同号ハの情報提供義務を負う場合に提供すべき情報は,推奨することとし た保険商品の推奨理由である。この推奨理由は,推奨することとした保険商 品が顧客の意向により沿っているという理由以外のものであるから,乗合代 理店としてその保険商品を売りたいと考えた理由が示されることになろう9)

以上が同号の内容であり,同号に規定する三つの類型をあえて簡略化して 整理するとすれば,同号イは比較のみを行い推奨を行わない場合,同号ロは 比較に基づく推奨を行う場合,同号ハは推奨のみを行い比較を行わない場合,

に関する規定となっているといえる。そして,これら三つの類型のいずれに ついても,当該乗合代理店において取り扱っている保険商品の中に,比較可 能な他の保険商品が存在するという情報を,実質的に顧客に提供することが 求められるという点において共通性を有している。

⑵ 乗合代理店の負う情報提供義務の導入経緯

乗合代理店に課される情報提供義務が導入されるにあたっては,金融審議 会⽛保険商品・サービスの提供等に関するワーキンググループ⽜(以下

⽛WG⽜という。)において議論が行われている。

WG では,乗合代理店において,より高い手数料を得ることができる保険 商品を顧客に勧めているケースがあるのではないかとの疑いもあること等か ら,乗合代理店においてその推奨する商品の選別の適切性をどのようにして 担保すべきであるかという論点10)が,乗合代理店が⽛公平・中立⽜であると 8) 保険商品の内容以外の理由による選別が同号ロに該当することもあり得る。

例えば,自動車保険において,事故対応拠点数が多いことを理由として特定の 保険会社の商品を推奨するケースなどである。

9) 保険会社向けの総合的な監督指針(以下⽛監督指針⽜という。)Ⅱ-⚔-⚒-⚙

⑸③では,同号ハの推奨理由に含まれるものとして,⽛特定の保険会社との資 本関係やその他の事務手続・経営方針上の理由⽜が挙げられている。

10) WG 第⚒回議事録等。

(7)

標榜して活動することの是非に関する論点とも絡みながら11)議論された。

議論の過程においては,乗合代理店が⽛公平・中立⽜であると標榜して募 集活動を行うことを禁止すべきであるとする意見や,乗合代理店に対して誠 実義務や手数料開示義務を課すべきであるとする意見も出された12)。最終的 には,乗合代理店が⽛公平・中立⽜であると標榜して募集活動を行うこと自 体は禁止せずに,⽛所属保険会社と顧客との間で中立である⽜との誤解を顧 客に与えないようにすることを求めること,乗合代理店に対して誠実義務や 手数料開示義務を課すのではなく13),⽛情報提供義務の一環として,①当該 乗合代理店が取り扱う商品のうち,比較可能な商品の全容を明示するととも に,②特定の商品を提示・推奨する際には,当該推奨理由をわかりやすく説 明することを求めることが適当である⽜とされた14)

規則227条の⚒第⚓項⚔号の内容を WG での議論の結果と比較すると,

⽛当該乗合代理店が取り扱う商品のうち,比較可能な商品の全容を明示する⽜

との点については,比較可能な商品の全容を示すべき場合を乗合代理店が比 較情報の提供を行う場合に限定しているという点に若干の差異があるものの,

⽛特定の商品を提示・推奨する際には,当該推奨理由をわかりやすく説明す る⽜との点については WG の結論に沿ったものとなっており,概ね WG で の議論の結果が反映されたものであるといえよう。

11) 乗合代理店が⽛公平・中立⽜であると標榜しながら,手数料の高い商品を勧 めることがあるとすれば,そうした標榜をしない乗合代理店が手数料の高い商 品を勧めること以上に不適当なのではないか,という問題意識があったことが うかがえる。

12) WG 第10回説明資料⚑-⚑等。

13) 手数料開示義務を課すのであれば,乗合代理店に限定して同義務を課す積極 的な理由は見あたらないように思われる。手数料等の開示義務を定めている銀 行法や金商法においても,そうした差異は設けられていない(銀行法施行規則 13条の⚓第⚑項⚒号,金商法37条の⚓第⚑項⚔号等)。

14) WG 報告書⽛新しい保険商品・サービス及び募集ルールのあり方について⽜

(www.fsa.go.jp/news/24/singi/20130611-2/01.pdf)。

(8)

⚓.複数の投資信託を販売する者に対する金融商品取引法の規制 乗合代理店に限定して情報提供義務を課すという規則227条の⚒第⚓項⚔

号の内容が,保険業法以外の金融関連法令において,どの程度一般的なもの であり,どの程度目新しいものであるかを検討するにあたり,金融分野にお いて,その置かれた状況が乗合代理店と類似している者に対して,どのよう な規制がされているかを確認する。

金融分野において,その置かれた状況が乗合代理店と類似する者としては,

投資信託販売会社(証券会社,登録金融機関となっている銀行など)であっ て,その設定,運用する投資運用業者が異なる投資信託を販売している者が 挙げられる15)

投資信託販売会社は,投資信託の設定,運用を行う投資運用業者から委託 を受けて投資信託の販売を行う者である16)。一の投資運用業者が設定,運用 15) 確定拠出年金において,加入者がその年金資産の運用のためにその年金資産 を振り向けることとなる複数の運用の方法(預金その他の金融商品)のそれぞ れについてその内容に関する情報を提供すべきものとされている運用関連運営 管理機関(企業型における企業型運用関連運営管理機関等および個人型におけ る個人型運用関連運営管理機関。確定拠出年金法24条,73条)は,複数の商品 内容を加入者に提示することを自らの業務としている点で乗合代理店と類似す るところもあるが,加入者に対して提示する商品の販売主体となっていないと いう点で,乗合代理店とは決定的な差異がある。

16) 投資信託販売会社は,投資信託の販売時に,投資運用業者からではなく投資 信託を購入した顧客から販売手数料を受領しており,投資信託販売会社と投資 運用業者との関係が,投資信託の販売の委託であると法的に評価すべきもので あるかは疑問もある。もっとも,投資信託販売会社は,顧客が当該投資信託販 売会社から購入した投資信託を保有している期間中,分配金の支払事務や運用 報告書の交付事務等を投資運用業者からの委託に基づいて行い,その対価(代 行手数料。なお,投資信託販売会社が受領する代行手数料の算定方法は,交付 目論見書に記載される。)を受領していることや,投資家から販売時に販売手 数料を受領しない投資信託(いわゆるノーロード型)における代行手数料がそ れ以外の投資信託と比べて高く設定されることが多いことなどからすると,投 資信託販売会社は投資運用業者から委託を受けて投資信託の販売を行っている

(9)

する投資信託のみを販売するのではなく,複数の投資運用業者がそれぞれ設 定,運用する投資信託を販売していることが多いようである17)

複数の投資運用業者がそれぞれ設定,運用する投資信託を販売している投 資信託販売会社の場合,その主たる投資対象18)や運用方法19)が類似してお り,投資信託を購入しようとする投資家からみて比較可能な複数の投資信託 を販売していることも当然にあり得る20)。そのような状況において,店頭に 来店した顧客あるいは証券外務員等が往訪している顧客に対して投資信託の 勧誘を行うにあたり,当該投資信託販売会社が取り扱っている多数の投資信 託のうちの一部の投資信託のみの提案がされているであろうことは容易に想 像されるところである。

投資信託販売会社がこのような提案を行う状況は,規則227条の⚒第⚓項

⚔号ロ,ハが対象とする,乗合代理店が比較可能な保険商品のうちの一部の 保険商品のみの提案を行う状況と極めて類似しているものといえよう。

それでは,このような状況にある投資信託販売会社に対して,金商法はど のような規律を設けているであろうか。

金商法では,金融商品取引業者等が行う広告について一定の事項を記載す べきこと(同法37条),金融商品取引契約を締結しようとするときはあらか じめ顧客に対して一定の事項を記載した書面(契約締結前交付書面)を交付

と評価することは妥当であると考えられる。

17) 例えば,ネット証券大手の楽天証券では投資運用業者63社の投資信託2232本 を取り扱っている(平成28年⚘月24日現在 https://www.rakuten-sec.co.jp/

web/fund/find/)。

18) 投資信託の投資対象としては,国内株式,国内債券,外国株式,外国債券な ど様々なものがある。

19) 投資信託の運用方法としては,いわゆるアクティブ型かパッシブ型か,ブル 型かベア型かなど様々なものがある。

20) 楽天証券では,国内株式を主たる投資対象とする投資信託については396本,

海外債券を主たる投資対象とする投資信託については701本を取り扱っている

(前掲注17))。

(10)

すべきこと(同法37条の321))等を定めているが,当該金融商品取引業者等 が他の比較可能な金融商品を取り扱っていることは,記載すべき事項とはさ れていない。同様に,当該金融商品取引業者が,特定の金融商品の提案をす る場合における,当該金融商品の提案をする理由についても,契約締結前交 付書面に記載すべき事項とはされていない。また,投資信託を販売するにあ たって顧客に交付しなければならないものとされている目論見書(交付目論 見書)および顧客から請求があれば交付しなければならないものとされてい る目論見書(請求目論見書)のいずれについても,投資信託販売会社が他の 比較可能な投資信託を取り扱っていることや,当該投資信託を提案する理由 は,記載すべき事項とはされていない22)

このように,複数の投資運用業者がそれぞれ設定,運用する投資信託を販 売している投資信託販売会社が特定の投資信託のみの提案をする場合におい ても,他に比較可能な投資信託を販売していることや,特定の投資信託のみ の提案を行っている理由を契約締結前書面や目論見書に記載して顧客に認識 させることは求められていない。

また,金商法は,いわゆる適合性原則に反するような勧誘を行わないよう にすべきことを定めているが(同法40条),これはあくまで⽛顧客の知識,

経験,財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と 認められる勧誘⽜を行わないことを求めるものである。勧誘する個別の金融 商品ごとに適合性原則に反しているかどうかが判断されることとなるもので あって,その勧誘を行うことが適合性原則に反しないような複数の金融商品 が存在する場合に,そのうちのいずれかの金融商品のみの提案等を行うこと が適合性原則との関係で問題となるものではない。このため,複数の投資運 21) 直接的には書面交付義務として定められているが,交付すべき書面に記載す べき事項が定められていることからすると,書面交付という形式での情報提供 義務が定められているといえよう。そのため,本稿では,この書面交付義務も 情報提供義務に相当するものとして取り扱っている。

22) 交付目論見書につき特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令15条⚑号,

請求目論見書につき同府令16条⚑号。

(11)

用業者がそれぞれ設定,運用する投資信託を販売している投資信託販売会社 がそのうちの特定の投資信託のみの提案をする行為そのものが,適合性原則 に反することとはならない。

このほか,金商法は,上記の契約締結前交付書面に記載すべき事項の一つ として,⽛手数料,報酬,費用その他いかなる名称によるかを問わず,金融 商品取引契約に関して顧客が支払うべき手数料等の種類ごとの金額若しくは その上限額又はこれらの計算方法⽜⽛及び当該金額の合計額若しくはその上 限額又はこれらの計算方法⽜を挙げている(同法37条の⚓第⚑項⚔号,金融 商品取引業に関する内閣府令(以下⽛業府令⽜という。)81条⚑項)。このた め,投資信託販売会社が投資信託を販売するにあたっては,投資信託販売会 社が得ることとなる販売手数料等を顧客たる投資家において認識することが ひとまず可能となっている23)。ただし,かかる規律は,投資信託販売会社に 一律に適用されるものであって,複数の投資運用業者がそれぞれ設定,運用 する投資信託を販売する投資信託販売会社に限って適用されるものではない。

また,あくまで顧客が購入しようとしている投資信託の販売手数料等を記載 すべきこととされているものであって,販売手数料等が異なる他の投資信託 を販売していることの記載を求めるものではない。

このように,複数の投資運用業者がそれぞれ設定,運用する投資信託を販 売する投資信託販売会社が,そのうちの特定の投資信託のみの勧誘,提案を 23) なお,ここで記載すべきものとされているのは,あくまで顧客が支払うべき 手数料等であって,顧客以外の者から金融商品取引業者が受領する手数料等は 含まれていないことに留意されたい。巷間⽛投資信託は手数料が開示されてい るが,保険は手数料が開示されていない⽜などといわれることもあるが,これ はある程度は正しいといえるものの,完全に正しいといえるものではない。投 資信託販売会社が顧客以外の者(例えば,当該投資信託の信託財産で購入して いる外国籍ファンドの管理者等)から手数料等を受領することがあるとしても,

その事実は契約締結前交付書面等に記載すべき事項とはされていないのである

(業府令70条の⚔第⚑項⚒号ニに基づく措置として顧客にその事実を開示すべ きものとされていると解するならば別であるが,実務上,そのような解釈が確 立されているようには見受けられない)。

(12)

行うことに関して,金商法は,規則227条の⚒第⚓項⚔号のような直接的な 規律を設けてはいない。

ただし,やや包括的,抽象的な義務を定めるものではあるが,同法36条は,

⽛金融商品取引業者等並びにその役員及び使用人は,顧客に対して誠実かつ 公正に,その業務を遂行しなければならない。⽜と定めている。このため,

当該投資信託販売会社が取り扱っている複数の投資信託のうちの一部の投資 信託のみの提案,勧誘を行うことが当然に誠実公正義務に反することとなる ものではないが,誠実公正義務に反するような形態で,一部の投資信託のみ の提案,勧誘を行うことは認められないものと考えられる24)。おそらくかか る規律が,複数の投資運用業者がそれぞれ設定,運用する投資信託を販売す る投資信託販売会社が,そのうちの特定の投資信託のみの勧誘,提案を行う ことに対する,金商法による唯一の規律であろう。

⚔.規則227条の⚒第⚓項⚔号の規制内容の新規性

こうしてみると,規則227条の⚒第⚓項⚔号は,乗合代理店という代理店 の属性に着目し,それ以外の代理店が課されない情報提供義務を課すという 点で,保険業法における規制の態様として新たなものであるのみならず,金 商法においても類似した規制が見当たらないという点で,金融分野における 新たな態様の規制となっていることがわかる。

同号の規制内容において,その新規性が際立っているものとしては,以下 の⚒点が挙げられる。

第一に,同号イ,ロ,ハのいずれについても,自らが取り扱っている商品 の中に比較可能な商品が存在するという情報を提供する義務を乗合代理店に 負わせていることである。

24) 金融審議会金融分科会第一部会第40回の説明資料中,手数料開示のあり方に 関連して,⽛業者が自己の利益のため⽜に⽛顧客の利益を損ねているのではな いかという点に問題の本質があり,誠実公正義務の問題として捉えるべきとの 意見があるが,どう考えるか⽜との記載がある。(http://www.fsa.go.jp/singi /singi_kinyu/siryou/kinyu/dai1/f-20051207_d1sir/02.pdf)。

(13)

情報提供義務が積極的には定められていなかった改正前保険業法に限らず,

情報提供義務等が明示的に定められている金商法,銀行法においても,情報 提供すべきこととされる事項は,顧客が購入ないし契約の締結(以下⽛購入 等⽜という。)をしようとしている個別の商品の内容やリスクに関するもの であり25),顧客が購入等をしようとしている商品以外の商品が比較可能なも のとして存在するという事実は情報提供すべき事項には挙げられていない

(金商法37条の⚓第⚑項各号,業府令82条⚑項各号,銀行法12条の⚒第⚑項,

同法施行規則第13条の⚓各号等)。

多少なりとも,他にも商品が存在することを顧客に知らせることを求めて いるものとしては,銀行等が保険代理店となる場合について,⽛保険募集に 係る保険契約の引受を行う保険会社の商号又は名称の明示,保険契約の締結 にあたり顧客が自主的な判断を行うために必要と認められる情報の提供その 他の事項に関する指針を定め,公表し,その実施のために必要な措置を講じ ていること⽜をその要件の一つとしている規則212条⚒項⚒号,212条の⚒第

⚒項⚒号が挙げられる程度である。

従来からの情報提供義務が,主として,購入等をしようとしている個別の 商品の内容やリスクを顧客に正しく認識させることを通じて,当該商品の購 入等を行うか否かの判断を顧客が適切に行えるようにすることを確保すると いう考え方に立脚していると見受けられるところ,規則227条の⚒第⚓項⚔

号の情報提供義務は,従来からの情報提供義務だけでは必ずしも十分である とはいえず,これに加えて他の商品の存在を顧客に認識させることによって,

比較可能な商品のうちのいずれの商品の購入等を行うかの判断を顧客が適切 に行えるようにすることを確保することが適切であるという新たな考え方を 導入しているものと解される。顧客が個別の商品の内容について説明を受け,

納得して購入等を行ったとしても,顧客にとってよりよい商品が他に存在す 25) 金商法では,金融商品取引業者等の商号や登録番号等,金融商品取引業者自 身に関する情報を提供することも求められている(金商法37条の⚓第⚑項⚑,

⚒号,業府令82条⚑項11,12号等)。

(14)

る可能性があるにもかかわらず,そのことを知らされないままであったとす るならば,真に理解してその商品の購入等を行ったとはいえないものであっ て,その商品の購入等を行うか否かの判断を顧客が適切に行えるようにする ことが確保されているとはいえないとする考え方が,その底流として存在し ているのであろう。

このように,顧客が購入等をしようとしている商品以外の商品に関わる事 項を情報提供義務の対象とするという同号の内容は,従来からのものとは異 なる性質の事項を情報提供義務の対象とするものであって,この点において,

その新規性が強く認められるものである。

第二に,同号ハにおいて,保険商品の売り手である乗合代理店の主観的事 情というべき推奨理由を情報提供義務の対象としていることが挙げられる。

先に述べたように,情報提供義務が積極的には定められていなかった改正 前保険業法に限らず,情報提供義務等が明示的に定められている金商法,銀 行法においても,情報提供義務の対象となる事項は,顧客が購入等しようと している個別の商品の内容やリスクといった,当該商品に関わる客観的な事 項が中心である26)

これに対し,同号ハは,乗合代理店が取り扱っている保険商品の中に,引 受保険会社を異にする比較可能な複数の保険商品が存在する状況において,

顧客の意向により沿っているという理由以外の理由で選別した保険商品を推 奨する場合に,顧客に対して,その推奨理由を示すことを求めている。この 推奨理由については,合理的なものである必要がある27)と解されるが,監督 指針Ⅱ-⚔-⚒-⚙⑸③において,同号ハの推奨理由となり得るものとして

⽛特定の保険会社との資本関係やその他の事務手続・経営方針上の理由⽜が 挙げられているように,必ずしも客観的なものである必要はない。⽛経営方 26) 前注のとおり,金商法では,金融商品取引業者等の商号や登録番号等,金融 商品取引業者自身に関する情報を提供することも求められているが,それらの 情報も客観的事項に関する情報である。

27) 平成27年⚕月27日に公表されたパブリックコメント結果 No.521(http://

www.fsa.go.jp/news/26/hoken/20150527-1/01.pdf)。

(15)

針上の理由⽜とは,当該乗合代理店としてその保険商品を推奨することにし ているという以上の意味を有するものではないし,⽛特定の保険会社との資 本関係⽜についても,それ自体は客観的な事実ではあるものの,当該乗合代 理店が推奨している保険商品それ自体に関する客観的事実ではなく,当該乗 合代理店がその保険会社(乗合代理店と資本関係を有している保険会社)の 保険商品を販売したいという主観的事情の背景としての客観的事実であるに すぎない。同号ハの情報提供義務の対象となる推奨理由とは,乗合代理店が その保険商品を推奨することとした⽛動機⽜ともいうべき主観的事情であり,

それを合理的に示すことが求められているのである28)

ところで,このような販売主体側の主観的事情を情報提供義務の対象とし ている例は,銀行法,金商法その他の金融関連法令のみならず,金融商品販 売法や消費者契約法等の消費者保護関連法令にも見あたらない29)。この点で,

同号ハの内容の新規性は極めて際立っている。

⚕.規則227条の⚒第⚓項⚔号の内容の新規性による影響

このように,規則227条の⚒第⚓項⚔号は,①比較可能な商品が存在する こと,および②乗合代理店の主観的事情としての推奨理由,を乗合代理店が 顧客に対して負う情報提供義務の対象に含めている点で,他の法令に類を見 ない新規性を有している。

このような新たな内容を有する規制が設けられる結果,同号が直接の規制 対象としている乗合代理店の実務に影響が生じるだけではなく,間接的な影 響が生じることも考えられる。間接的な影響が生じる可能性があるものとし 28) 同パブコメ結果では,乗合代理店が手数料水準を主たる理由として特定の保 険商品を推奨する場合には,そのことを説明する必要があるとしており,乗合 代理店が手数料水準を主たる理由として推奨する保険商品を選択すること自体 は否定していない。

29) これらの法令においては,販売主体側の主観的事情がどのようなものである かは,顧客がある商品の購入等を行うか否かの意思決定をするにあたって,重 要な影響を及ぼす事情であるとはいえないとの評価がされているのであろう。

(16)

ては,同号に反するような事例における損害賠償等の私法上の権利義務への 影響,投資信託販売会社など保険以外の金融分野における事業者の実務ある いはこれらの事業者に対する規制への影響などが考えられる。

⑴ 私法上の権利義務への影響

まず,同号に反するような事例における損害賠償等の私法上の権利義務に どのような影響が生じうるかについて,あえて極めて簡略化した事例として,

商品内容等がまったく同一であって,保険料のみに差異がある⚒社の保険商 品(相対的に保険料が高い保険商品の引受保険会社を⽛A社⽜,相対的に保 険料が安い保険商品の引受保険会社を⽛B社⽜とする。)を取り扱っている 乗合代理店Xが,B社の保険商品の存在を示すことなく(当然ながら,A社 の保険商品を推奨する理由を示すこともなく),A社の保険商品のみを顧客 に案内し,その保険商品の商品内容について正しく説明し,顧客がその商品 内容に納得して,保険契約の締結に至ったという事例(以下⽛本想定例⽜と いう。)を想定して,検討する。

本想定例における乗合代理店Xの行為が同号ハに違反するものであること は明らかである。また,仮に,Xが同号ハに定める情報提供義務を履行して いたならば,顧客においてXがB社の保険商品をも取り扱っていることを認 識し,最終的にB社の保険商品を選択して保険契約を締結していた可能性が あることも明らかである30)

ここで,Xが同号ハに定める情報提供義務を履行していなかったことを事 後になって認識した顧客が,X(さらには保険業法283条に基づいてA社)

に対し,Xが同号ハに定められている情報提供義務を履行しなかったために,

保険料が割高な保険契約を締結させられ,A社の保険商品の保険料とB社の 保険商品の保険料との差額に相当する額の損害を受けたとして,その賠償を 求めたとしたら,この賠償請求は認められるであろうか。

30) 乗合代理店Xが同号ハの情報提供義務を履行した結果,顧客がXの推奨する A社の保険商品の契約締結に至る可能性もあることは当然である。

(17)

少なくとも,現時点においては,この賠償請求は認められないであろう。

その違反によって生じた損害について賠償請求が認められることとなる私 法上の情報提供義務は,当該商品の購入等を行うか否かに関する判断に影響 を及ぼすべき情報を提供すべきことを内容とする信義則に基づく義務31)であ ると考えられるところ,顧客が購入等をしようとしている商品(保険商品や 金融商品)の内容やリスクを正しく認識できるに足りる情報が提供されれば,

当該商品の購入等を行うか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報の提供 はされているといえ,これに加えて,顧客が購入等をしようとしている商品 以外の商品に関する情報までも提供する義務はない32)と考えられる。顧客が 商品の購入等をしようとしている相手方(本想定例におけるX)から購入等 をすることが可能であるか否かはともかく,顧客が購入等をしようとしてい る商品以外により自らにとって好ましい商品(本想定例でいえば,B社の保 険商品に限らず,A社以外の保険会社が引受保険会社となる保険商品)が存 在している可能性があることは,あえてその旨の情報の提供を受けるまでも なく,一般消費者たる顧客においても自明であり,その旨の情報提供を受け ないことにより顧客が当該商品の購入等を行うか否かに関する判断に影響が 及ぶものではないと解されるからである。このことは,顧客が商品の購入等 をしようとしている相手方が取り扱っている商品の種類の多寡によって異な るものではない。

本想定例において,顧客は,乗合代理店Xを取扱代理店とする保険契約を 締結しなければならない何らの理由もないのであり,Xが提案したA社の保 険商品以外の保険商品が世上存在し得ること,そのような保険商品の中には 31) 私法上の説明義務が信義則に基づくものであることにつき,最判平成23年⚔

月22日民集65巻⚓号1405頁。

32) 顧客が購入等をしようとしている商品以外の商品に関して,誤った内容の情 報を提供してはならない信義則上の義務はあり得るが,これは情報提供義務と は異なる性格の義務であろう。一定の事項に関する情報を提供しなればならな いという情報提供義務と,誤った内容の情報を提供してはならないという義務 とは区別される必要がある。

(18)

A社の保険商品よりも自らにとって好ましい保険商品があり得ることは当然 の前提としたうえで,Xが提案したA社の保険商品の契約締結を行っている のであり,かかる状況はXがA社の専属代理店である場合と何ら変わるもの ではない。そうであるにもかかわらず,XがA社の専属代理店であれば私法 上の情報提供義務に違反することにはならず,XがA社とB社の乗合代理店 である場合には私法上の情報提供義務に違反することとなるという結論に妥 当性があるとはいえないであろう。

規則227条の⚒第⚓項⚔号の情報提供義務はあくまで保険業法に基づく義 務であって,私法上の義務ではないところ,保険業法が改正されることによ って私法上の義務の内容が直接的に変わるわけではなく,保険代理店が顧客 に対して負う私法上の情報提供義務の内容が,保険業法の改正の前後で劇的 に変化することはないというべきだからである。

しかし,このような整理は,あくまで現時点におけるものであって,将来 的にもかかる整理が妥当であり続けることを当然に意味するものではないと 考えられる。むしろ,将来的には本想定例における乗合代理店Xの行為が私 法上の情報提供義務にも違反するものとされ,顧客の賠償請求が認められる こととなる可能性があることは否定し難いようにも思われる。

すなわち,私法上の情報提供義務は,当事者間の信義則に基づくものであ ると考えられるところ,金融分野の事業者がその事業を行うにあたり,当該 事業者の行う事業を規制する法令等(銀行法,保険業法,金商法等)で定め られている義務を当該事業者が履行することが,当該事業者と取引を行う顧 客と当該事業者との間において当然の前提となっているとも解される。また,

単に法令等で定められていることのみをもって,法令等において定められて いる義務を事業者が履行することが当事者間の当然の前提になっているとは いえないとしても,事業者がそうした義務を履行することが一種の商慣習と なっているような状況に至っているならば,事業者がそうした義務を履行す ることは当事者間の当然の前提となるとも解される。このような解釈を前提 とすると,乗合代理店が同号の情報提供義務を果たすこともまた当事者間の

(19)

信義則上の義務の一部を構成し得るものであり,乗合代理店が同号の情報提 供義務を果たさない場合には,当事者間の信義則上の義務にも違反するもの として,それにより顧客に生じた損害を賠償すべき義務を負うと解すること が,あながち不合理な解釈であるとは言い難いこととなろう。

規則227条の⚒第⚓項⚔号が施行されてからそれほどの期間が経過してい ない現時点においては,乗合代理店が同号に定める情報提供義務を履行する ことが,乗合代理店とその顧客との間の当然の前提となっているとは解し難 いが,時の経過とともに,乗合代理店が同号に定める情報提供義務を履行す ることが乗合代理店とその顧客との間の当然の前提となっていくならば,乗 合代理店が同号に定める義務を履行しないことが顧客に対する信義則上の義 務に違反することとなると解され,それにより顧客に生じた損害を賠償すべ き義務を負う(本想定例でいえば,乗合代理店Xが顧客に対し,A社の保険 商品の保険料とB社の保険商品の保険料との差額について賠償すべき義務を 負う)こととなる可能性はあると考えられる。

⑵ 保険業法以外の金融分野における事業者の実務等への影響

これまでに見たように,規則227条の⚒第⚓項⚔号が定める情報提供義務 の内容は,保険業法のみならず,他の金融分野における法令にも類を見ない 新たな内容のものとなっている。また,複数の投資運用業者がそれぞれ設定,

運用する投資信託を販売している投資信託販売会社のように,その置かれた 状況が乗合代理店と類似している事業者も存在する。

仮に,同号が定める情報提供義務が履行されることによって,顧客による 保険商品の選択および契約締結の意思決定がより適切に行われることが確保 されているという事実が確認できるとすると33),投資信託販売会社など,そ の置かれた状況が乗合代理店と類似している事業者においても,同号の定め る情報提供義務と同様の情報提供が行われることが顧客保護の観点から適切 33) 反対に,このような事実が確認できないとすると,同号は乗合代理店に対す

る過剰な規制なのではないかとの疑念が生じ得る。

(20)

であると解されることとなることは自然である。

そうなった場合には,同号の定める情報提供義務と同様の内容の義務が,

金商法など保険業法以外の法令においても定められるようになることが想定 されるほか,法令で定めるまでには至らなくても,実務上,同号の定める情 報提供義務に基づく情報提供と同様の情報提供が行われることになっていく ことも想定される。

例えば,銀行は,顧客保護管理態勢の構築が求められているところ34),銀 行が,乗合代理店にも,複数の投資運用業者がそれぞれ設定,運用する投資 信託を販売している投資信託販売会社にもなっている場合において,保険商 品の販売に際しては同号の定める情報提供義務に基づく情報提供を行う一方 で,投資信託の販売に際してはそれと同様の情報提供を行わないとすること とするならば,法令上の義務違反はないとしても,投資信託の販売における 顧客保護に不足があるのではないかという疑問が生じることは十分に考えら れる。そうすると,こうした疑問が発生することを回避するために,投資信 託の販売に際しても,同号の定める情報提供義務に基づく情報提供と同様の 情報提供をするとの判断を銀行が行うようになることもまた考えられること になる。さらには,銀行が投資信託を販売する際に,同号の定める情報提供 義務に基づく情報提供と同様の情報提供をするようになるならば,銀行以外 の投資信託販売会社が投資信託を販売する際にも,同号の定める情報提供義 務に基づく情報提供と同様の情報提供をするようになっていくこともあり得 よう。

このように,同号の内容の新規性は,単に保険募集の実務に影響を与える だけでなく,投資信託などの他の金融商品の販売に関する法規制や実務にま で影響を与える可能性を秘めているといえる。

34) 金融検査マニュアル⽛顧客保護等管理態勢の確認検査用チェックリスト⽜等。

(21)

⚖.結 び

以上のとおり,規則227条の⚒第⚓項⚔号が定める情報提供義務は,情報 提供義務を定めている他の法令において一般的に情報提供義務の対象とされ ている,顧客が購入しようとしている個別の金融商品の商品内容等に関する 事項とは大きく性格の異なる事項を情報提供すべき事項としており,その内 容において極めて高い新規性を有している。

乗合代理店がこの情報提供義務を果たすことを通じて,顧客がより主体的 に保険商品の選択を行うことができるようになることが期待されるとともに,

上記で見たような高い新規性を有する内容の情報提供義務が保険業法に定め られたことが,情報提供義務を定めている他の法令,あるいはそうした法令 に基づいて行われている実務に対し,どのような影響を及ぼしていくことに なるのか注目される。

(筆者は弁護士)

参照

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