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佐野 誠著⽝ノーフォルト自動車保険論⽞

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Academic year: 2021

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(1)

⚑. 戦後,先進諸国では,自動車産業の発達とともに,高速度交通網が張り 巡らされ,自動車が重要な輸送手段となり,人々の暮らしは便利かつ快適に なったが,負の側面として交通事故が多発し,事故被害者の救済が急務とさ れた。各国では,歴史,文化及び法意識等の事情に則した自動車被害者救済 制度が考案され,その一部は制度化されている。わが国では自賠法が1955年 に制定され,人でいう還暦を迎えており,本書はその制定後の61年目に公刊 された。

本書は,碩学による自動車保険に関する先行研究の成果を受け継ぎ執筆さ れた,ノーフォルト自動車保険制度(以下単に⽛NFI 制度⽜と略記し,ノ ーフォルト保険を NFI と略記する。)についてのわが国初の本格的な体系的 研究書である。著者の NFI 制度の研究は20年にも及ぶ。その長きにわたる 研究の成果を,⽛ノーフォルト自動車保険制度は被害者救済として最適な制 度であるか⽜という視点から体系化して,主要な諸外国の NFI 保険の歴史 及び現状を丹念に調査し,かつ,わが国の人身傷害保険の課題に対する方策 を探究したうえで,将来の展望として,自賠責保険のノーフォルト化につい て考察したのが本書である。本書を手にした誰しもが諸外国の NFI 制度を 丹念に調べ上げての考察と,先行研究の丁寧な歴史的な検討に驚くであろう。

本書は自動車保険制度研究の一つの学問的到達点を示しており,同制度を研 究する者にとって必読の書である。

⚒. 本書は,序論,(⚓つの⽛部⽜からなる)本論,結語で構成されている。

序論で,⽛ノーフォルト自動車保険制度総論⽜が論じられ,本論では,第⚑

【書 評】

佐野 誠著⽝ノーフォルト自動車保険論⽞

保険毎日新聞社,2016年10月,はしがき⚓頁,目次13頁,

本文,初出一覧,参考文献,あとがき 429頁

(2)

部で,諸外国の NFI 制度,第⚒部で,人身傷害保険の諸相,第⚓部で,わ が国における NFI 制度が検討され,最後に結語にいたる。

⚓. 序論で,著者は,諸外国には様々な自動車人身事故被害者救済制度の系 譜があって,NFI についての明確な定義は困難であると述べ,NFI を包括 的被害者救済及び紛争処理を行うニュージーランド型,スウェーデン型(ニ ュージーランド型を修正し不法行為法における損害賠償額そのものを NFI 保険制度で給付するもの),被害者の損害のうち基本的部分の給付を NFI 保 険制度で行う米国型及び自損事故を給付対象外とする責任を前提としたデン マーク型の⚔つに分類する。

⚔. 本論の第⚑部は⚓つの章からなる。第⚑章において,米国,カナダ,ス ウェーデン,フィンランド,ノルウェー,デンマーク,ニュージーランド,

オーストラリア,イスラエル及び台湾の各国の NFI 制度の概要を述べる。

第⚒章において,米国における NFI 制度を詳細に検討する。米国のほとん どの州では,修正型か,付加型か,選択型かのいずれかの NFI 制度が採用 されている(純粋型を採用する州はない)。著者は,NFI 制度の歴史的考察 を行い,コロンビア・プランとカナダ・サスカチュワン州の立法,キート ン・オコンネル案とその後の NFI 制度案に触れ,さらに NFI 制度について まわる不法行為制度との関係を制度間選択として検討し,米国の NFI 制度 の論点について考察する。広大な米国では自動車は生活の必需品であるため,

自動車保険料の高騰は無保険車の横行を招くことから,NFI 制度を導入し 自動車保険料を低く抑えるとともに不法行為訴権を一部又は全部制限してい ること等が指摘される。わが国の将来の自動車事故被害者救済制度のあり方 について示唆に富む箇所は,コロラド州のノーフォルト自動車保険制度の廃 止,フロリダ州の同制度廃止後(⚓か月後の)復活,ケンタッキー,ニュー ジャージー及びペンシルバニアの⚓州の選択ノーフォルト制度(自動車所有 者が不法行為制度と NFI 制度へのどちらかに加入選択する)及び選択連邦

(3)

ノーフォルト法案についてである。

社会保障制度も視野に入れ自動車事故被害者救済制度を検討する必要性を 思い至らせるのは第⚓章のニュージーランド事故補償制度の現状である。同 国の制度は,自動車事故を含む全ての事故被害者を対象とする包括的事故補 償制度である。人身事故に係る不法行為訴権の完全な廃止と同制度からの低 額の補償金の給付が特徴となること,包括的被害者救済であるから,わが国 の労災保険制度と自賠責保険制度などとの⽛制度間不均衡や制度化の狭間問 題⽜が克服されるものの,財源負担とリスクとの対応は困難であり不公平さ を内包すると述べる。第⚔章においては,欧州の,具体的には,英国,ドイ ツ及びフランスのノーフォルト自動車保険制度案を射程に入れて,タンク案

(1966年),ヒッペル案(1968年)及びピアソン案(1978年)を検討し,米国 のキートン・オコンネル案も加えて,各案の比較を試みる。

⚕. 第⚒部では,上記の比較法研究の成果を活かし,わが国の NFI である 人身傷害保険の課題を検討する。第⚑章では,人身傷害保険を概観する。人 身傷害保険は,民事訴権に制約を加えないので,付加型 NFI と位置づけ,

スウェーデン型に比較的近い(ただし,スウェーデンの交通保険は,わが国 の無保険車傷害保険と類似し,填補する損害額を民法上認められるべき損害 額〔裁判基準損害額〕とする)という。このような人身傷害保険約款に損害 額基準が組み込まれている点を,人身傷害保険の法的性質からどのように理 解すべきかという観点から,第⚒章で,人身傷害保険の被保険者死亡の場合 の死亡保険金請求権の帰属の問題及び請求権代位の範囲の問題を考察する。

著者の主張によれば,人身傷害保険の性質は,損害保険契約説でもなく定額 保険契約説でもない第三の契約説であり,あるべき商品性という視点から,

損害保険契約として,人身傷害死亡保険金請求権は被保険者の法定相続人に 承継されるべきであるが,ニュージーランド事故補償法で具体的な補償項目 ごとに支払損害額を明記するように,人身傷害基準損害額を協定損害額とし て填補する契約と解し,請求権代位規定を挿入すべきであるという。

(4)

第⚓章では,人身傷害保険と疾病について扱う。傷害保険約款には,一般 に,既存の身体の障害又は疾病が影響した事由により,傷害が重大となった 場合は,その事由がなかったときに相当する額を保険金として支払うと定め る⽛限定支払条項⽜が定められている。著者は,この⽛限定支払条項⽜は,

⽛素因減額を規定した条項ではな⽜く,⽛事故による身体障害を担保するとい う傷害保険の保険商品としての特性⽜からの規定であると述べる。請求権代 位との関係については,限定支払条項適用事案では,⽛保険金は加重傷害部 分(……)を除いた部分に対する支払い⽜であるから,⽛それは素因減額の 部分には充当され⽜ず,限定支払条項⽛不⽜適用事案では,⽛保険金は加重 傷害部分を含む全ての損害に対する支払い⽜であるから,⽛請求権代位の局 面では,……差額説の観点から素因減額の部分に優先して充当されると解す べきである⽜と主張する。請求権代位の局面と保険金請求の局面に分けて限 定支払条項の適用のあり方を分析する考察は緻密である。そのうえで,人身 傷害保険はサード・パーティ型制度による填補と比べ手厚い給付が被害者に なされるべきとの商品性から,賠償の局面では,素因の寄与割合に比例した 減額がなされるが,限定支払条項適用の局面では,既存の疾病等の影響部分 は填補されず,素因減額よりも大幅な減額がなされる場合もあるとし,支払 限定条項適用による給付の差は商品の陥穽であると論じる。

⚖. 第⚓部で,わが国の NFI 制度について深く考察する。第⚑章では,現 行の自賠責保険制度の概要を説明し課題をあぶりだす。運行供用者責任,製 造物責任及び営造物責任と自賠責保険,任意対人賠償保険,政府保障事業及 び NASAV(自動車事故対策機構)を包括して自動車事故被害者救済制度と 理解しても,なお救済されない被害者が残ることを問題視し,この救済ネッ トの綻びを浮き彫りにする。これに対する弥縫策等として考案された藤岡案,

吉川案,小暮案,金澤案及び加藤案の各改革案に対する検討と評価を第⚒章 で丁寧に試み,著者の自賠責保険のノーフォルト化案が示される。著者の慧 眼とすべき点は,ITS(高度道路交通システム)が普及した将来をも想定し,

(5)

そのときの自動車事故は,車両搭載装置の欠陥を原因とする製造物責任等が 前面に問われるという意味において,従来とは異なる⽛自損事故⽜であり,

このような自動車運転者には自己責任を問うべきではなく救済されるべきで あるとし,⽛自損事故⽜被害者を救済するための一つの方策として,著者の 改革案が示されることである。この詳細を検討するのが第⚓章である。

第⚓章は,NFI 制度の事故抑止力減少の問題,保険料高騰化傾向の問題 など,第⚑部での諸外国の NFI の問題点の検討結果を活かして考案された,

著者の自賠責保険改革案の重要な部分である。すなわち,著者は,⽛強制保 険+任意保険⽜という二元制度を維持したうえで,自賠責保険部分のノーフ ォルト化を唱える。その⽛基本設計は,ファースト・パーティ型制度を基本 とし,サード・パーティ制度を併用した独立合併型ノーフォルト保険制度⽜

であり,⽛運行供用者責任という損害賠償制度を存続させることを前提とし た強制保険部分のみの変更であ⽜る。その柱は,民事訴権を残し保険者の請 求権代位による事故抑止機能を維持させ,自動車所有者に付保義務を課し,

保険事故の規定には傷害事故⚓要件を外して運行起因性を要件と定め,実損 填補方式とし,慰謝料も給付対象に含めるなどというものであり,現行制度 と共通性を残しており,保険実務的にも制度変更の敷居を低くするものとい えよう。以上の考察を踏まえて,結語にいたる。

⚗. 国際的に自動運転の実用化競争が激化している。自動運転車事故に対し 誰が責任を負うのか,保険による被害者救済は万全なのか等の素朴な疑問に ついて答えが示されることは,自動運転車走行が社会的に受容されるために は必要である。その際,現行の自動車保険制度を見直しするか否かを問わず,

著者の本書を貫く問題意識,すなわち,NFI 制度は本当に自動車事故被害 者にとって理想の制度であるかという問いが持つ意味は大きい。

著者による,自動運転車事故に対する NFI 制度についての次作の公刊が 今から待ち遠しい。

(評者:香川大学教授 肥塚 肇雄)

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