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標準責任準備金の20年 計算方法と計算基礎率の保守性について

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(1)

■アブストラクト

標準責任準備金制度が導入されて20年が経過した。自由化・規制緩和に伴 うリスク増大に対応するために導入されたこの制度は,生命保険会社の負債 にどのような影響を及ぼしたか。この点について,主に計算基礎率の保守性 という視点から検証するのが本稿の趣旨である。検証の結果,制度導入によ る前進点として,保険料計算基礎率と保険料積立金計算基礎率の分離,平準 純保険料式の保守性の数量的把握と開示,予定利率の保守的補整の制度化等 が挙げられることを確認した。また,これまでに主張されてこなかった論点 として,予定死亡率の保守性と予定利率の反保守性の相殺構造の解明と数量 的把握の必要性等を提示した。なお,経済価値ベースの負債評価を制度化し た場合,現行制度の弱点を補うことが期待されるものの,保険会社の過度の リスク回避を惹起する懸念等が存在することを併せて確認した。

■キーワード

標準責任準備金,計算基礎率,保険自由化

⚑.はじめに

自由化は期待と懸念を市場にもたらす。競争が促進されて市場の効率が高 まる期待と競争が行き過ぎて健全性が劣化する懸念である。保険審議会に

⽛自由化対策特別委員会⽜が設置されたのは凡そ半世紀前の昭和43年(1968 / 平成29年10月⚖日原稿受領。

標準責任準備金の20年

計算方法と計算基礎率の保守性について

河 本 淳 孝

(2)

年)⚓月であった。この⚔カ月後にあたる同年⚗月,旧大蔵省は通達⽛責任 準備金の充実について⽜を出して,健全性確保のための純保行政に着手した。

それから約四半世紀が過ぎて成立した新しい保険業法1)(以下,⽛新業法⽜)

には,競争促進と健全性確保の双方の措置が盛り込まれた。

本稿の主な目的は⚒つある。⚑つは,新業法が保険料積立金計算に及ぼし た影響を経時的に確認することにある。もう⚑つは,その確認を踏まえて,

今後の保険料積立金計算の在り方について,契約者保護の視点から,新しい 論点を提示することにある。

本稿の構成は概ね次のとおりである。まず,保険料積立金が内包する保守 性の定義や開示される情報は,新業法の前後でどのように変化したかを考察 する。そのうえで,新業法で導入された標準責任準備金の予定死亡率と予定 利率のそれぞれについて2),約20年間の変遷を経時的に検証し,両基礎率の 保守性の数量的把握と開示という視点から前進点と残された課題の整理を試 みる。

検証の期間は,平成⚗年前後から現在に至る約20年間とする。この特集号 は⽛保険自由化10年経過後の,さらにその先の10年間⽜に焦点を当てた企画 である。したがって,本稿は当然に後半の10年間の検証に一定の紙幅を当て る。しかしながら,⽝保険自由化10年特集号⽞3)には健全性をテーマとした論 文の掲載がなかったこと,また,健全性にかかる主な法改正が前半の10年間 にある程度集中したこと等を考慮して,前半10年間を含む20年間を論考の対 象とする。

言葉遣い等について前置きする。⽛保険料積立金⽜が正しい言葉遣いであ っても,⽛責任準備金⽜と記述している箇所がある。⽛実質純資産⽜は,生命 保険協会の定義とは必ずしも一致しない。主な検証の対象は責任準備金中の

1) 平成⚗年法律第105号。

2) 予定脱退率等も検証の対象とすべきであるが,紙幅に配慮して対象から除外 する。

3) 平成22年12月発行⽝保険学雑誌⽞第611号。

(3)

保険料積立金とする。断りのない限り生命保険を論考の対象とする。筆者独 自の論考は試論を含む。また,申しあげるまでもないことかも知れないが,

⽛責任準備金(保険料積立金の保守的部分を含む)は必ずしも多ければそれ で良いという単純なものではなく,責任準備金の適正水準は,支払能力(ソ ルベンシー)と契約者(および株主)還元のバランスの中に解があるものと 考えられる⽜4)点に留意しつつ論考を進める。

⚒.標準責任準備金の保守性

⑴ 料率競争と保険料積立金

自由化前の保険料積立金は,料率競争の影響をまともに受けていた。行政 は,商品の個別審査にあたり,まずは保険料の計算基礎率を認可して,それ と同じ計算基礎率を用いて平準純保険料式(以下,⽛平準純保式⽜)の保険料 積立金を計算するよう保険会社を指導していたのである5)。つまり,保険料 積立金の計算基礎率の独立性は確保されておらず,料率競争が過熱すればそ の影響が保険料積立金に及び健全性が劣化する構造にあったと言える。例え ば,貯蓄性の高い一時払契約について,政府保証のある金融機関等との間に 過当な料率競争が生じた場合,民間生保の保険料積立金の健全性劣化は不可 避であった6)

自由化後の保険料積立金は,料率競争の類が及びにくくなった。行政は,

保険料と保険料積立金の計算基礎率を一致させる指導を止めて,まずは保険 料積立金の計算基礎率(予定死亡率と予定利率)を告示に定め,そのうえで 商品毎に,保険料積立金の計算基礎率との一致は条件とせずに,保険料の計 算基礎率を審査(認可)する7)という手順に変えたのである。自由化の前後

4) 社団法人アクチュアリー会(1992)p. 1。

5) ⽛保険料及び責任準備金算出方法書⽜及び個別商品認可の審査段階で,主務 省が指導していたものと考えられる。

6) 一時払契約の保険料積立金は,契約初年度に契約全期間についての積立が必 要となるため,計算基礎率変更の影響が契約初年度にまとめて顕在化する。

7) 新業法は付加保険料を商品審査(認可)の対象から外したため,事前審査の

(4)

で,保険料計算と保険料積立金計算の優先関係は逆転した。新業法は,付加 保険料の競争を促進する一方で,純保険料が財源となる保険料積立金の独立 性を確保したのである。

こうした変化は生保の資産運用の在り方にも影響を及ぼした。自由化後の 生保の資産運用は,市場要求利回りの達成を目標とした最適分散投資に加え て,負債要求利回りの充足を目的とした保守的な資産配分や負債デュレーシ ョンとの整合性にも意識を向けるようになった。

⑵ 平準純保式の保守性

平準純保式で計算した保険料積立金は保守的部分を内包している。この保 守性を数量的に評価して,広義自己資本または実質純資産に算入する考え方 には一定の合理性がある。しかしながら,新業法前の純保行政時代には,こ うした保険料積立金の保守性評価の必要性が説かれることはなかった。

新業法はこうした状況を一変させた。保険行政は剰余金の単年度完全還元 から自己資本充実に大きく舵を切り,平準純保式の保守性を定義して,その 評価と開示を義務付けた。ソルベンシー・マージン(以下,⽛SM⽜)総額中 の⽛全期チルメル式責任準備金相当額超過額⽜(以下,⽛全チル式責準超過 額⽜)8)は,平準純保式の保守性を評価した価額である。

SM 比率の計算方法は,中堅生保の大量破綻を経て,厳格化された。金融 庁は平成21年⚘月28日に,⽛ソルベンシー・マージン比率の見直しの改定骨 子(案)⽜9)を発表して,標準責任準備金制度の下では,⽛全期チルメル式責任 準備金を上回る部分(解約返戻金相当額超過部分ではない)をソルベンシ

対象は純保険料に限定される。

8) 正確な定義は,⽛貸借対照表の責任準備金(危険準備金を除く)のうち,全 期チルメル式責任準備金相当額と解約返戻金相当額のいずれか大きい金額を超 える金額⽜である。わが国生保では前者が後者より大きいことが常態であるた め,SM 総額の内訳表示では⽛全期チルメル式責任準備金相当額超過額⽜とだ け表記している会社が多い。

9) ソルベンシー・マージン比率の算出基準等に関する検討チーム(2007)。

(5)

ー・マージンと見ることは可能⽜10)であるものの,⽛無制限にマージン算入を 認めることは,適当ではない⽜11)として,平準純保式の保守的部分の SM 総 額算入に上限を設けた12)。ただし,この規制の実効性には課題があり実際に この算入上限に抵触した事例はこれまでのところ存在しない。また,この改 正を含めた新業法後の SM 比率規制の改正の状況と評価については,宇野典 明(2016)pp. 83-135を参照いただきたい。

平成28年⚓月末の生保大手⚔社の⽛全チル式責準超過額⽜を図表⚑に示し た。最も金額の大きい第一生命は1õ9兆円強,⚔社平均では1õ2兆円強である。

SM 総額に占める割合は,第一生命が28õ6%,⚔社平均で19õ0%であり,そ の規模は SM 総額中の⽛基金等又は資本金等⽜と比べても見劣りしない。ま た,⽛全チル式責準超過額⽜の評価額は,増減の激しい⽛有価証券等の評価

10) 植村信保(2007)p. 2。

11) 金融庁(2009)p. 2。

12) 負債性資本調達手段等(資本性の高い一定のものを除く)と合算して中核的 支払余力(純資産,価格変動準備金,危険準備金及び異常危険準備金,配当準 備金未割当部分および持込資本金等の合計額)を算入限度とする(平成24年⚓

月期末決算から適用)。

図表⚑ SM 総額中の⽛全チル式責準超過額⽜等

出典:生保⚔社のディスクロージャー資料に基づいて筆者が作成

(単位:億円,%) 平成28年⚓月末

全チル式責準超過額 基金等又は資本金等 SM 総額に

占める割合 SM 総額に

占める割合 日 本 生 命 14ó598 12õ0 15ó489 12õ7 第 一 生 命 19ó330 28õ6 11ó330 16õ8 明治安田生命 9ó668 14õ2 10ó795 15õ8 住 友 生 命 6ó458 21õ5 6ó247 20õ8

⚔ 社 平 均 12ó514 19õ0 10ó965 16õ6

(6)

差額金等⽜に比べて安定している13)

平準純保式には,例外規定がある14)。行政が特別の事情を認めれば,チル メル式のままでいることは可能である。また,平準純保式をチルメル式に変 更して差益を認識することもできる15)。なお,チルメル式は,発生主義の費 用認識を原理としており,監督会計としては例外的に認めるものであるが,

企業会計としては健全なところもある。

エンベディッド・バリュー(以下,⽛EV⽜)16)中の保険契約価値も平準純保 式に起因する評価額である。しかしながら,保険契約価値は保険契約の将来 価値を評価したものであり,保険料積立金の保守性を評価したものではない。

⑶ 予定死亡率の保守性

新業法は,予定死亡率の保守性の数量的把握を制度化しなかった。予定死 亡率が一定の保守性(安全割増)を含むことは法令に明記したものの,安全 割増がもたらす保険料積立金の保守性の数量的把握について契約者保護の視 点からの検討は行われなかった。

①保守的補整と保険料

予定死亡率の保守的補整は,新業法前にも行われていた。日本全社生命 表17)(第⚑回~第⚔回)では,2ç(区間外確率2õ28%)の保守的補整(安

13) わが国の生命保険契約の責任準備金は基礎率をロックインするため,⽛全チ ル式責準超過額⽜は予測値からのブレが少ない。

14) 例外的な扱いは,旧業法と新業法の双方に各々存在する。

15) 経営危機時に,計算方法変更差益を計上した事例がある。

16) 平成27年度末現在,EV を開示している生保は,国内26社中19社(大手⚔社 では,日本生命を除く⚓社)。ただし,国際会計基準審議会(IASB)は,負債 の経済価値ベース評価における EV の採用には否定的である。主な理由は,計 算方法の統一が不十分で比較可能性に問題がある,企業会計に馴染まない,株 価・金利の変動やデュレーション・マッチの状況に応じて大きく変動する等で ある。

17) 生命保険協会が,昭和44年から平成⚒年までの間,概ね⚕年に⚑度の頻度で 発表した経験生命表。生命保険協会の死亡率調査委員会(医師とアクチュアリ

(7)

全割増18))が施されていたものの,補整の上限を前回生命表の死亡率の1õ0 倍としていたため,事実上,死亡率の上昇を理由とする保険料の値上げはで きない仕組みになっていた。

ーで構成)が,当時の生保全20社の契約データに基づいて算出した。

18) 2

ç

の安全割増は,⚑年定期の死亡保険の収支が赤字となる確率を2õ28%程 度に抑えることが統計学的に期待される水準。

図表⚒ ⽛生保標準生命表2007(死亡保険用)⽜のシーリング

出典:⽛生保標準生命表(死亡保険用)⽜に基づいて筆者が計算 死亡保険金10万円の年掛け保険料(男性)

(単位:円) 年齢(歳)

生保標準生命表

1996 生保標準生命表

2007 合計保険料

⓪ 粗保険料

① 安全割増2

ç

② 合計保険料

③􀀽􀀽①􀀫􀀫② ③/①

(倍) 1õ3倍シー リング

20 121 61 27 88

1õ44 79

22 98 69 26 95

1õ38 90

24 92 67 24 91

1õ36 87

26 84 60 21 81

1õ35 78

28

82

65 20

85 1õ31 85

30

83

68 20

88

1õ29 88

32

86

74 19

93

1õ26 93

34 95 76 19 95 1õ25 95

36 117 92 20 112 1õ22 112

38 131 105 21 126 1õ20 126

40 159 126 22 148 1õ17 148

(注⚑) 粗保険料とは粗死亡率(安全割増等で補整する前の死亡率)で計算した保

(注⚒) 安全割増は数学的危機論による保守的補整2険料

ç

分の保険料

(注⚓) 標本件数は800万件(男性400万件,女性400万件)

(8)

新業法後の生保標準生命表19)は,2çの安全割増は引き継いだものの,補 整の上限を粗死亡率20)の1õ3倍に改めたため,死亡率の上昇を理由とする保 険料の値上げができる仕組みに変わったことになる。

図表⚒は,保守的補整の上限(以下,⽛シーリング⽜)が保険料に及ぼす影 響を試算した結果である。1õ0倍シーリングを適用した場合,⽛合計保険料

③⽜は⽛合計保険料⓪⽜を超えることができないため,28歳~32歳の⽛合 計保険料③⽜は⽛合計保険料⓪⽜まで引下げられる。結果として,図表中 の全ての年齢において,値上げはできない。他方,1õ3倍シーリングを適用 した場合,28歳,30歳,32歳で値上げが可能である21)

②保守的補整と保険料積立金

保険料が安全割増(2ç,経過年齢ごとに1õ3倍上限)によって保守的に補 整されると,保険料積立金も同様に保守的に補整される。試算したところ,

保険期間30年の定期保険(20歳加入)の年掛保険料は安全割増によって1õ19 倍に増えるのに対して,保険料積立金はピーク時(経過19年目)でも1õ07倍 にしか増えない(図表⚓)。

何故こうした計算結果になるかと言えば,安全割増によって増加した年掛 保険料は契約期間満了まで保険料積立金として保護されるのではなく,保険 期間中の年度末を迎える度に保険料積立金の洗替等によって剰余金等に転化 する部分を含んでいるからである。

19) 標準責任準備金の予定死亡率を定める生命表。保険業法第122条の⚒第⚒項 第⚒号の規定により日本アクチュアリー会が内閣総理大臣から委託を受け,保 険業法第116条第⚒項(同法第199条により準用される場合を含む)の規定に基 づいて作成する生命表。

20) 被保険者の死亡実績から統計的に推計した死亡率(安全割増等の補整を加え る前の死亡率)。粗死亡率で計算した保険料(保険金の期待値)を本稿では粗 保険料と言う。

21) 補整の最終段階ではないため,出来上がりの純保険料が値上げになるとは限 らない。

(9)

保険料を年掛から一時払(経過⚐年)に変えると,影響の全体像を掴み易 くなる。図表⚓に示したとおり,保険料と保険料積立金は共に安全割増によ って1õ20倍となる。

一時払の保険であっても,毎年度末の負債の洗替等によって,安全割増は 保険料積立金から剰余金等に変わり,その一部は配当財源あるいは実質純資 産の形成に貢献することが予め想定されている。しかしながら,こうした契 約者の貢献が,公正かつ衡平に評価されて剰余金分配等に反映されるかと言 えば,残念ながら,そのような考え方が徹底されている訳ではない。安全割 増の厚い保険契約と安全割増の相対的に薄い保険契約との間には内部補助22) が存在する。⽛保険原理は,個々の保険契約について,その等価性が実現さ れているかを重視するものであるが,あくまでも理念としての原理であって,

現実には貫徹されているわけではない⽜23)。また,⽛伝統的な保険数理の限界 は,収支相等の法則を保険料計算原理として墨守していることに集約され る⽜24)。こうした現状の背景には,保険契約者を群団とみる⽛保険数理的危 険団体概念⽜25)が少なからず作用しているものと考えられる。

22) ここで言う内部補助とは,ある種類の保険契約の損失を他の種類の保険契約 の余剰で補うこと。

23) 堀田一吉(2014)p. 16。

24) 大塚忠義(2015)p. 84。

25) 宇野典明(2017 a)p. 21。

図表⚓ 安全割増(2ß,1õ3倍上限)が保険料と保険料積立金に及ぼす影響 30年定期保険,男性20歳,保険金10万円,予定利率1õ5%

保険料(年掛) 保険料積立金(年掛)

経過19年(注) 保険料積立金(一時払) 経過⚐年 安全割増なし(円) 安全割増

あり(円) 増加

(倍) 安全割増

なし(円) 安全割増 あり(円) 増加

(倍) 安全割増

なし(円) 安全割増 あり(円) 増加

(倍) 108 129 1õ19 825 879 1õ07 2ó602 3ó110 1õ20

(注)経過19年は保険期間30年の定期保険の保険料積立金のピーク 出典:⽛生保標準生命表2007(死亡保険用)⽜に基づいて筆者が計算

(10)

⽛あらゆる保険には,何らかの内部補助が発生している⽜26)。しかしながら,

⽛近代的保険における相互扶助は,同質のリスクで構成されている保険集団 の間で,確率的計算を根拠として結果的に発生する相互扶助⽜27)であるため,

⽛内部補助は原理的には生じてはならないことになる⽜28)

新業法は,相互会社について,⽛剰余金処分の際にそのすべてを社員配当 として分配するようには求めておらず,さらに社員の退社時にもそれを払い 戻すように求めていない⽜29)。すなわち,⽛保険事業継続に必要な内部留保は 社員自治によって認められる⽜30)という立場を取ったわけであり,個々の保 険契約ばかりではなく保険群団としても等価性は貫徹されず,新業法は⽛エ ンティティ・キャピタルの存在を認めている⽜31)と解することができる。

⑷ 予定利率の保守性

新業法前に予定利率の保守的補整32)が行われていたかどうかは定かではな い。生命保険協会は,予定死亡率(日本全社生命表)の改定を発表する際に,

予定利率の改定を併せて発表していた33)。ただし,予定利率の算定ルールは 開示しておらず,発表された予定利率に保守的な補整が施されているか否か の検証は困難であった。

新業法は,この点を一新した。予定利率の算定と補整のルールは段階的に 明文化された。まずは,1996年⚔月から向こう⚓カ年の予定利率2õ75%(続

26) Dorfman(1978)p. 25。

27) 堀田一吉(2014)p. 112。

28) 堀田一吉(2014)pp. 112-113。

29) 宇野典明(2017 b)pp. 38-39。

30) 岩原紳作(1995)p. 20。

31) 宇野典明(2017 b)p. 39。

32) 直近の市場金利をそのまま予定利率として採用するのではなく,安全を見込 んだ予定利率とするために,市場金利よりも低い金利を予定利率として採用す ることを,本稿では予定利率の保守的補整と言う。ただし,安全率係数による 補整が真に保守的と言えるか否かについては個別具体的に検証が必要である。

33) 予定事業費率の改定も併せて発表されるのが慣例であった。

(11)

く⚒カ年は2õ0%)が告示34)に明文化された。次いで,平成13年⚔月には,

予定利率の保守的補整(安全率係数35))の決定ルールが告示に明文化された。

安全率係数による保守的な補整を図表⚔に示した。観察期間対象金利が高 金利期に入ると,安全率係数による保守的補整の幅が大きくなる。しかしな がら,安全率係数導入後程なく観察期間対象金利は⚑%台からゼロ近傍へ下 落したため,高金利期の大幅な保守的補整は未だ経験していない。

1996年⚔月に,予定利率が3õ75%から2õ75%に引下げられたことによっ て,一時払死亡保険の保険料積立金がどの程度の影響を受けたかを試算した

(図表⚕)。予定利率の⚑%引下げによって,一時払死亡保険の保険料積立 金(経過⚐年)は契約年齢と保険期間に応じて1õ10倍~1õ64倍に増加する。

図表⚔ 予定利率の補整(一時払契約は除く。平成28年⚖月以降)

34) 大蔵省告示第48号(平成⚘年⚒月29日)。

35) 標準責任準備金の計算に使用する予定利率に施す保守的な補整に用いる係数。

平成13年⚔月以降はこの係数を用いて標準利率を計算しなければならない。た だし,保険料計算に用いる予定利率については,同様の保守的な補整を施す義 務がない。

(単位:%) 観察期間対象金利 標準利率 安全率係数による保守的な補整

▲ 1õ00 ▲ 1õ00 ―

0õ00 0õ00 ―

1õ00 1õ00 ―

2õ00 1õ75 ▲ 0õ25

3õ00 2õ25 ▲ 0õ75

4õ00 2õ75 ▲ 1õ25

5õ00 3õ00 ▲ 2õ00

6õ00 3õ25 ▲ 2õ75

7õ00 3õ50 ▲ 3õ50

8õ00 3õ75 ▲ 4õ25

出典:⽛平成八年大蔵省告示第四十八号⽜に基づいて筆者が作成

(12)

ただし,この増加が保守的と言えるか否かを判断するには,既契約を含む 全体の予定利率36)と総資産運用利回りの大小関係を確認する必要がある。当 該大小関係が順ザヤであれば保守的であり,逆ザヤであれば反保守的である。

市場金利は刻々と変動する。実際のところ,1996年⚔月に保険料積立金の 予定利率を⚑%引下げた数カ月後,10年国債応募者利回りは2õ75%を割り込 み翌年度には⚑%台まで低下して逆ザヤへの転落が懸念された。

予定利率の市場金利に対する感応度は低い37)。このため,金利下降局面に おいて,予定利率の引下げは市場金利の動きに遅れる傾向がある。この傾向 がしばしば逆ザヤを生む。金利下降局面が長く続く環境下では,死差益によ る利差損の相殺が半ば常態化する。問題は,こうした相殺が保険料積立金の 内部にも存在することである。保険料積立金の内部では,予定死亡率の保守 的補整(死差益の発生源)に起因する保険料積立金の増加と予定利率の反保 守的補整(利差損の発生源)に起因する保険料積立金の減少との間に相殺が 生じている。死差益を生む保障性商品と利差益を生む貯蓄性商品との間には 内部補助が存在しており,その原因が保険会社による計算基礎率の安全率設 定にあるとなれば,こうした内部補助がいかなる場合において容認されるか 36) 予定利率引下げの影響は新契約のみであり,既契約は影響を受けない。なお,

総資産運用利回りの市場金利に対する感応度も相応に低い。

37) 主な原因は,予定利率変更の刻みが0õ5%(一時払いは除く)であること。

図表⚕ 予定利率⚑%引下げが保険料積立金に及ぼす影響(一時払死亡保険) 経過⚐年の保険料積立金(男性,死亡保険金10万円)

保険期間20年 終 身

予定利率

3õ75% 予定利率 2õ75% 増加

(倍) 予定利率

3õ75% 予定利率 2õ75% 増加

(倍)

契約 年齢

20歳 1ó290 1ó417 1õ10 13ó419 21ó977 1õ64 30歳 2ó135 2ó384 1õ12 18ó544 28ó110 1õ52 40歳 4ó835 5ó416 1õ12 25ó810 36ó049 1õ40 出典:⽛生保標準生命表2007(死亡保険用)⽜に基づいて筆者が計算

(13)

を契約者保護の視点から検討する必要が生じる。

⑸ 経済価値評価と保険料積立金の保守性

金融庁が導入を検討している保険負債の経済価値評価は,標準責任準備金 の20年に直接的な影響を及ぼさなかったものの,今後の制度改正に影響を及 ぼすことが想定される。⽛生命保険商品の保険料には,いわゆる安全割増部 分が含まれており,この部分によって剰余が生じた場合には,満期時などに 事後的に契約者配当として清算されるという方式がとられていることが多 い⽜38)。この安全割増を財源とする保険料積立金の保守的部分は,IFRS17や ソルベンシーⅡにおいては,保険料積立金が内包するリスク・マージンと認 識されており,保険金支出の最良推計部分とは区分されている39)。また,こ のリスク・マージンは,保険料積立金から保険金支出の最良推計部分を控除 した差額として算出されるため,保険料積立金の計算基礎率が保守的であれ ばその保守性を反映した厚みになる。しかしながら,こうした IFRS17やソ ルベンシーⅡにおけるリスク・マージンの算出方法は,あくまでも保険を群 団とみなして計測したものであり,個々の契約者が負担した不確実性の対価 の厚みを反映したものではなく,保険群団単位の概算(引き算方式等)にと どまっている点には留意が必要である40)

38) 米山高生(2007)p. 22。

39) わが国の法定の保険料積立金は最良推計部分とリスク・マージン部分を区分 していない。

40) 金融庁は2007年以降,保険監督者国際機構(IAIS)の定める保険基本原則

(ICP)に準拠した経済価値ベースの SM 規制の在り方について,フィールド テスト等を通じて導入の検討を続けている。欧州のソルベンシーⅡで重視され る経済価値ベースは,ソルベンシーⅠが抱えていた課題の解消に資するものの,

金利に対する感応度が大きく,保険会社の過度なリスク回避行動を惹起する懸 念が指摘されている。なお,全米保険監督者協会(NAIC)はソルベンシーⅡ で重視される経済価値ベースの採用について今のところ慎重な姿勢を示してい る。

(14)

⚓.標準死亡率の20年

⑴ 死亡率の推移

経験生命表41)の死亡率の推移を図表⚖に示した。わが国で初めて男女別の 経験生命表が作られたのは1981年であった。以降の37年間で,経験生命表の 男女別死亡率は著しく改善した。⚐歳~60歳の死亡率は全体で1/2程度,乳 幼児・若年層に限定すると1/3~1/4程度に低下した(図表⚖の⽛変化⚑⽜)。

また,新業法下で作成された⽛生保標準生命表1996⽜以降の22年間で,⚐歳

~60歳の死亡率は全体で2/3程度に低下した(図表⚖の⽛変化⚒⽜)。経験死 亡率の改善は,保険料引下げの余地を生むので,消費者と保険会社の双方に とって望ましい。

生保標準生命表の死亡率は,粗死亡率に補整を加えて作成する。補整には,

裁断(選択効果の考慮),平滑化(年齢別死亡率の凹凸補整),若齢・高齢補 整(標本が不足する年齢の補整)および安全割増(2çの保守的補整,1õ3倍 シーリング)等がある。図表⚗に示したとおり,生保標準生命表の死亡率は,

ほぼ全ての年齢において保守的に補整された部分(粗保険料の1õ0倍を超え る部分)を持つ42)

この保守的な補整のための保険料(安全割増)は,契約者が負担する。し たがって,保険料の安全割増部分を財源として形成される保険料積立金に対 しては,それに相応しい保護が必要となる。しかしながら,先述のとおり,

保険料積立金の安全割増部分の契約者保護のあり方については,これまでに 議論された形跡がほとんど見当たらない。また,保護すべき対象や金額を明 らかにするためには,出来る限り精緻な数量的把握が欠かせないが,こうし た視点からの研究が十分に行われてきたとは言い難い43)

41) 生命保険契約の被保険者の死亡経験を分析・加工して作られた生命表。

42) 補整の最終段階ではないため,出来上がりの保険料の倍率は若干異なる可能 性がある。

43) 法令に基づく数量的把握や開示が欠かせないという趣旨ではなく,保険会社 内部の管理会計として,ある程度標準化された計算方法が必要ではないかとい

(15)

⑵ 死亡率の計算過程の変更点

①安全割増計算の標本数

標本数の大小はプ―リング効果の多寡を決める。わが国の経験生命表は,

日本全会社生命表(昭和44年)から⽛生保標準生命表2007⽜まで,安全割増 う考え方。

図表⚖ 経験生命表の死亡率推移(男性,10歳刻み)

出典:⽛日本全社生命表⽜⽛生保標準生命表⽜に基づいて筆者が計算

年齢

死亡率(‰) 変化⚑

(倍) 変化⚒

日本全会社生命表 生保標準生命表 (倍) 1981年

① 1985年

② 1990年

③ 1996年

④ 2007年

⑤ 2018年

⑥ ⑥/① ⑥/④ 0 2õ78 1õ28 1õ37 1õ10 1õ08 0õ81 0õ29 0õ74 10 0õ40 0õ25 0õ19 0õ15 0õ14 0õ10 0õ25 0õ67 20 1õ40 1õ19 1õ19 1õ14 0õ84 0õ59 0õ42 0õ52 30 1õ03 0õ87 0õ86 0õ84 0õ86 0õ68 0õ66 0õ81 40 2õ04 1õ73 1õ67 1õ56 1õ48 1õ18 0õ58 0õ76 50 4õ62 4õ59 4õ42 3õ79 3õ65 2õ85 0õ62 0õ75 60 12õ09 11õ06 10õ22 10õ22 8õ34 6õ53 0õ54 0õ64

図表⚗ 生保標準生命表の保守的補整(男性,10歳刻み)

出典:⽛生保標準生命表⽜に基づいて筆者が計算

年齢

生保標準生命表

粗死亡率(‰) 死亡率(‰) 保守的補整(倍)

1996年

① 2007年

② 2018年

③ 1996年

④ 2007年

⑤ 2018年

⑥ 1996年

④/① 2007年

⑤/② 2018年

⑥/③ 0 1õ14 1õ01 0õ76 1õ10 1õ08 0õ81 0õ96 1õ07 1õ07 10 0õ11 0õ13 0õ07 0õ15 0õ14 0õ10 1õ36 1õ08 1õ43 20 0õ90 0õ61 0õ50 1õ14 0õ84 0õ59 1õ27 1õ38 1õ18 30 0õ65 0õ68 0õ57 0õ84 0õ86 0õ68 1õ29 1õ26 1õ19 40 1õ36 1õ26 0õ96 1õ56 1õ48 1õ18 1õ15 1õ17 1õ23 50 3õ47 3õ30 2õ34 3õ79 3õ65 2õ85 1õ09 1õ11 1õ22 60 9õ45 7õ71 5õ35 10õ22 8õ34 6õ53 1õ08 1õ08 1õ22

(16)

計算時の標本数は男女各々400万件であった。ところが,⽛生保標準生命表 2018⽜は同標本数を100万件に変えた(変えた理由は開示されていない)。標 本数が⚔分の⚑になると,プ―リング効果にも大きな差が出て,各年齢の安 全割増保険料は⚒倍に跳ね上がる。(図表⚘)。

図表⚙に,安全割増による粗保険料の補整過程を示した。⽛生保標準生命 表2007⽜の計算過程の一部であり,標本数は男女各々400万件である。⽛合計 保険料③⽜の⽛粗保険料①⽜に対する倍率⽛③/①⽜は,20歳~28歳は1õ3 倍超,32歳~40歳は1õ3倍以下である。したがって,⽛1õ3倍シーリング後の 合計保険料⽜は,前者は粗保険料の1õ3倍まで引下げられ,後者は⽛合計保 険料③⽜がそのまま使われることになる。

図表⚙の安全割増の負担は公平とは言えない。若年の負担が相対的に重い。

図表10は,⽛生保標準生命表2018⽜の計算過程の一部である。標本数は男 女各々100万件である。合計保険料の粗保険料に対する倍率⽛③/①⽜は,

図表⚙に示した全ての年齢で1õ3倍を超えている。したがって,⽛1õ3倍シー リング後の合計保険料⽜は全ての年齢で1õ3倍まで引下げられる。その結果,

安全割増の負担は,図表⚙と比べて公平になる。

安全割増の負担を全体で見た場合,保守的に補整された部分(粗保険料の 図表⚘ 標本数の大小(∞~100万件)によるプ―リング効果

出典:⽛生保標準生命表2007⽜に基づいて筆者が計算

死亡保険金10万円の年掛け保険料(男性)

年齢(歳) 粗保険料 (円)

プーリング効果(標本数別の安全割増保険料)(円)

∞ ⚑億件 1000万件 400万件 100万件

20 61 0 5 17 27 55

24 67 0 5 15 24 48

28 65 0 4 13 20 41

32 74 0 4 12 19 39

36 92 0 4 13 20 40

40 126 0 4 14 22 45

(17)

1õ0倍を超える部分)は,⽛生保標準生命表2007⽜が1õ13倍であったのに対し て,⽛生保標準生命表2018⽜は1õ24倍と相対的に重くなっている。

②観測年度以降の死亡率改善の考慮

⽛生保標準生命表2018⽜は,観測年度以降に実現した死亡率改善を粗死亡 率に反映させた。昭和44年以降の経験生命表で,この補整が行われたのは今 回が初めてである。⽛生保標準生命表2018⽜の観察年度は2005年度~2011年 度(2010年度を除く)であるため,観察年度から⚗年~13年が経過している。

図表⚙ 安全割増の計算過程(標本数:男女各々400万件)

出典:⽛生保標準生命表2007⽜に基づいて筆者が計算

死亡保険金10万円の年掛け保険料(男性)

年齢(歳) 粗死亡率 (‰)

粗保険料(円)

保険料(円)安全割増

合計保険料

③􀀽􀀽①􀀫􀀫②(円)

③/①(倍)

1õ3倍シーリ ング後の合計 保険料(円)

20 0õ61 61 27 88 1õ44

79

24 0õ67 67 24 91 1õ36

87

28 0õ65 65 20 85 1õ31

85

32 0õ74 74 19

93

1õ26

36 0õ92 92 20

112

1õ22 40 1õ26 126 22

148

1õ17

図表10 安全割増の計算過程(標本数:男女各々100万件)

出典:⽛生保標準生命表2018⽜に基づいて筆者が計算

死亡保険金10万円の年掛け保険料(男性)

年齢(歳) 粗死亡率 (‰)

粗保険料(円)

保険料(円)安全割増

合計保険料

③􀀽􀀽①􀀫􀀫②(円)

③/①(倍)

1õ3倍シーリ ング後の合計 保険料(円)

20 0õ50 50 52 102 2õ04

65

24 0õ51 51 44 95 1õ86

66

28 0õ46 46 36 82 1õ78

60

32 0õ60 60 37 97 1õ62

78

36 0õ66 66 36 102 1õ55

86

40 0õ96 96 41 137 1õ43

125

(18)

その間に実現した死亡率改善を考慮した補整である。

この補整によって,粗保険料は当然に安くなる。20歳~40歳の男性の粗保 険料は14%~15%程度(図表11),安全割増の1õ3倍シーリング後の合計保険 料でも11%~12%程度安くなる。

観測年度以降の死亡率改善の考慮は,一見では,保険料積立金の保守性確 保に反する措置と映る。しかしながら,この補整が既に確定した過去の死亡 率改善の考慮であることを考えると,そもそも保守性にかかる問題ではなく,

本来行うべきであった補整を今回初めて行ったと言う整理になる。

⚔.標準利率の20年

⑴ 予定利率の推移

旧業法下では,予定利率は生命保険協会が発表していた。予定利率の業界 内の競争は制限されていたので,全ての生命保険会社は原則としてこの生命 保険協会が発表した予定利率を使って保険料と保険料積立金の両方を計算し ていたことになる。生命保険協会は,予定利率の改定について,長期の市場 金利の変動に耐えられる水準かどうかを判断基準としていたものの,具体的 な改定ルールは開示しなかった。

新業法下では,生命保険協会に代わって行政が,保険料積立金計算に用い 図表11 観測年度以降の死亡率改善の考慮

出典:⽛生保標準生命表2018⽜のデータを用いて筆者が計算 死亡保険金10万円の年掛保険料(男性)

年齢 (歳)

粗保険料(円) 死亡率改善考慮の効果

死亡率改善を考慮せず① 死亡率改善を考慮② ②÷①

20 59 50 0õ85

24 60 51 0õ85

28 54 46 0õ85

32 70 60 0õ86

36 77 66 0õ86

40 112 96 0õ86

(19)

る予定利率(標準利率)を告示に定めることになった。平成13年⚔月には44), 安全率係数が導入された。これにより,旧業法下では不明瞭であった予定利 率の改定ルールは明瞭になり,保守性は保持され,逆ザヤの発生は抑止され ることが期待された。

図表12に,平成元年から平成29年までの,国債応募者利回りと保険料積立 金計算に用いる予定利率の推移を示した45)。斜線部分は,保険料積立金計算 の予定利率(破線)が資産運用利回りの指標金利である10年国債応募者利回

図表12 国債応募者利回り(10年)と予定利率(保険料積立金計算)の推移

出典:公開データ等に基づいて筆者が作成

44) 安全率係数の制度化に加えて,死亡率以外の予定発生率を責任準備金の計算 基礎率とする保険(第三分野商品を除く)についても標準予定利率の使用が義 務付けられた。

45) 予定利率の保守性の評価にあたっては,国債利回り(市場金利)ではなく総 資産運用利回りを観察対象としたいところであるが,業界を代表する総資産運 用利回りが見当たらないため,今回は断念した。

(20)

り(実線)より高い水準にあり,逆ザヤの発生が懸念される期間である。

10年国債を15年国債に入れ替えても,斜線部分は無くならない。安全率係 数の導入により斜線部分の面積は小さくなると期待していた人にとっては,

残念な結果となっている。図表13は,平成24年度以降について,10年国債応 募者利回りを15年国債流通利回りに代えて作成したグラフである。生命保険 会社の資産運用のデュレーション・ターゲットは近年長期化しており,⽛生 保各社の保有する国債のうち残存期間が10年超のものは,平成⚘年度末はわ ずか約13%に過ぎなかったが,平成24年度末には79%と大幅に増加してい る⽜46)

図表13 国債流通利回り(15年)と保険料積立金予定利率の推移

出典:公開データ等に基づいて筆者が作成

46) 勝野健太郎(2014)p. 103。

(21)

⑵ 予定利率の保守性が改善されない理由

安全率係数が導入されても,予定利率の保守性は改善しなかった。低金利 期には,安全率係数による保守的補整はほとんど無力になる。何故こうした ルールを採用したのであろうか,考え得る理由はいくつかある。

⚑つ目は,低金利期であれば,死差益との相殺を半ば当て込んだ利回り競 争を続けても大きな問題は生じないであろうという楽観的な想定があったの ではないかという視点である。安全割増のルールを作成した時点では,これ ほどの低金利の長期化やマイナス金利政策の導入は想定できなかったであろ う。

⚒つ目は,責任準備金対応債券制度の浸透である。これにより,総資産運 用利回りの市場金利に対する感応度が低下して,金利変動に対する免疫力が 増したという視点である。平成12年度決算から,責任準備金対応債券に分類 された債券は時価評価を逃れて償却原価法に基づく評価ができるようになっ た。償却原価法の下で,商品別に精緻なキャッシュフロー・マッチングを行 い,資産運用利回りと負債要求利回り(予定利率)の双方をロックインして,

且つ順ザヤを確保できるのであれば,市中金利の周期的な変動に対して一喜 一憂する必要はない。しかしながら,自由化された市場において,こうした 理想的な ALM は実現しない。それゆえに,ロックインの負債要求利回りと ロックインできない資産運用利回りの不整合が少なからず存在していること を前提として予定利率の保守性の在り方を考えなければならない。

⚓つ目は,権威ある専門家の不在である。アクチュアリーは予定死亡率の 専門家ではあるが,予定利率の専門家ではない。行政はアクチュアリー会に 生保標準生命表(予定死亡率)の起案を依頼するが,予定利率の起案は依頼 しない。仮に依頼したとしても,アクチュアリー会は引受けないであろう。

なぜならば,アクチュアリー会には答えがない。予定利率の決定について,

確かな答えを導く計算モデルや決定原理は存在しないのである。それゆえに,

新業法下においても,旧業法時代と同様に,生保大手数社が非公式な場で予 定利率変更ルールを決めて行政に伝える形を取らざるを得ない。

(22)

⚔つ目は,事業継続困難時に既契約の予定利率引下げを可能とする法律47) ができた安心感である。これは,保険会社と保険契約者による逆ザヤ問題の 自治的解決を可能とする制度と言える48)。既契約の予定利率引下げは,実質 的にはデフォルトであり,諸外国には例をみない不利益変更を容認する制度 である。また,この法案はその検討過程において,保険契約者ばかりではな く生命保険会社においても反対論が多数を占めたため,平成13年⚖月発表の

⽛生命保険をめぐる総合的な検討に関する中間報告⽜(金融審議会金融分科会 第二部会)への記載が見送られた経緯がある。それにも拘らず,平成15年⚘

月に,既契約の予定利率引下げは制度化された。この制度の利点として,破 綻前の条件変更によって公的資金と生保業界の費用負担49)を回避できる点,

既契約の予定利率引下げによる破綻回避は長期には契約者等保護に資するこ とが期待できる点等が挙げられているものの,課題点も指摘されている。主 な課題点の⚑つは,契約者の集まりを団体とみなして集団的異議申立ての不 成立を確認しただけで不利益変更が成立する点である。もう⚑つは,事業継 続困難の判定に影響を及ぼす保険計理人による⚓号収支分析の将来予測にお いては,⽛モンテカルロ方式のキャッシュ・フロー分析によって判断するこ とが最善とはいえないものの,次善の策であると考えられる⽜50)にもかかわ らず,決定論的シナリオが主に用いられている点である51)

⑶ 一時払商品の標準利率

標準利率の算出ルールは,平成26年⚖月に大きく改正された。平成13年⚔

47) 平成15年法律第129号。

48) 旧業法には,相互会社社員は剰余を配当として享受する代償として剰余が負 値となった場合は自らが補填を行うこと(旧業法第46条),行政は基礎書類変 更の効力を既契約へ遡及適用させる命令ができること(旧業法第10条第⚓項)

が定められていたが,いずれも新業法で廃止されていた。

49) 生命保険契約者保護機構の財源負担。

50) 宇野典明(2004)p. 26。

51) 保険計理人の⚓号将来収支分析において,確率論的シナリオ法等の使用が排 除されている訳ではい。

(23)

月に安全率係数が導入されて以来の大きなルール改正であった。改正の目的 は,⚑つは一時払契約の標準利率算出ルールの独立であり,もう⚑つは高金 利期の保守的補整の強化であった。

一時払契約だけを対象とした新しい標準利率算出ルールは,貯蓄性の高い 他業態の商品との利回り競争を意識したものであった。標準利率の市中金利 に対する感応度を上げるために,標準利率の見直しの頻度を増やして,参照 する金利を応募者利回りから流通利回りに変更したのである。その一方で,

市中金利が高騰した場合に懸念される料率競争の行き過ぎを予防するために,

⚔%を超える対象金利の保守的補整を強化した。こうした改正により,一時 払商品の価格競争力は,中・低金利期については向上し,高金利期について は低下した。

⚕.おわりに

標準責任準備金制度の20年について,計算基礎率の保守性という視点で経 時的に検証し,前進点と課題点を確認した。また,その確認を踏まえて,今 後の保険料積立金計算のあり方について,契約者保護の視点から検討すべき 新しい論点を提示した。

新業法は,保険料積立金が内包する保守性の一部(全チル式責準超過額)

の数量的把握を制度化して,生命保険会社の支払能力の可視化を一歩前進さ せた。一方,保険料積立金が内包する安全割増部分は,契約者によるソルベ ンシー形成貢献の程度に応じた保護や配分という視点が希薄であり,そうし た保護や配分に必要となる契約者持ち分相当額の数量的把握は行われていな い。また,保険料積立金の内部には,予定死亡率の安全割増部分と予定利率 の逆ザヤ部分とが相殺される内部補助の構造が存在しており,保障性商品の 契約者の保護と貯蓄性商品の契約者の保護が相反する場面も想定される。な お,経済価値ベースの負債評価が制度化された場合,現行制度の弱点の一部 を補うことが期待されるものの,リスク・マージン(安全割増)の算定方法 は,保険群団単位の概算(引き算方式等)にとどまっている等の課題が存在

(24)

する。こうした課題について,契約者保護の視点から議論と研究が深まるこ とに期待したい。

(筆者は明治安田ライフブランセンター株式会社勤務)

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参照

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