博 士 ( 医 学 ) 鈴 木 聡 子
学位論文題名
Exposure of normal monocyte‑derived dendritic cell to human immunodeficiency virus typel particles leads to induction of apoptosis in co‑cultured CD4 十as well as CD8 十Tcells .
(HIV ―1 粒子吸着単球由来樹状細胞により誘導されるCD4 並 び に CD8 陽 性 T 細 胞 の ア ポ ト ー シ ス )
学位論文内容の要旨
ヒ ト 免 疫 不 全 ウ イ ル ス1型 (HIV−1) は 、 後 天 性 免 疫 不 全 症 候 群 (AIDS) の 原 因 ウ イ ル ス で あ る 。AIDS病 態 進 行 は 、HIV−1の 主 要 な 感 染 漂 的 で あ るCD4陽 性T細 胞 の 減 少 に よ る 免 疫 カ の 低 下 で 特 徴 付 け ら れ る 。 し か し 、 こ の 細 胞 減 少 はCD4陽 性T細 胞 の み な ら ず 、 CD8陽 性T細 胞 やB細 胞 と い っ た 、 免 疫 担 当 細 胞 全 体 に 及 ぶ こ と が 明 か と な っ て い る 。 こ
の 細 胞 減 少 の 機 構 に つ い て は 不 明 な 点 が 多 い が 、 感 染 者 生 体 内 で 認 め ら れ る 現 象 と し て 、 リ ン パ 節 肉 で は ウ イ ル ス に 感 染 し て い な い 細 胞 に ア ポ ト ー シ ス が 誘 導 さ れ て お り 、 試 験 管 内 に お い て は 、 感 染 者 由 来 末 梢 血 リ ン パ 球 は 活 性 化 刺 激 を 加 え る 事 に よ り 、 健 常 者 に 比 し 高 率 に ア ポ ト ー シ ス を 起 こ す 事 が 知 ら れ て い る 。HIVー1感 染 者 のT細 胞 に お け るHIV一1ゲ ノ ム 陽 性 率 は0.1% 以 下 で あ る と す る 報 告 、 さ ら に 産 生 ウ イ ル ス の 大 多 数 は 非 感 染 性 粒 子 で あ る と の 報 告 も 併 せ て 考 慮 す る と 、 感 染 者 生 体 内 に お け る 免 疫 細 胞 の 減 少 は 、HIV―1感 染 ・ 増 殖 に よ る 直 接 的 な 細 胞 傷 害 と い う よ り は む し ろ 、 細 胞 傷 害 性 因 子 ( 細 胞 ) の 誘 導 に 伴 う 間 接 的 な 効 果 に よ り 引 き 起 こ さ れ る 可 能性 が 強 く 示 唆さ れ る 。
そ こ で 本 研 究 で は 、T細 胞 と の 接 触 に よ りHIV‑1粒 子 をT細 胞 へ 受 け 渡 す 役 割 を 担 っ て い る 事 が 示 唆 さ れ て お り 、 生 体 内 で の ウ イ ル ス 伝 播 に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る 樹 状 細 胞 に 着 目 し 、 非 感 染 細 胞 の ア ポ 卜 ー シ ス 誘 導 へ の 関 与 を 検 討 し た 。 ま たHIV‑1感 染 者 に お い て 産 生 さ れ る ウ イ ル ス 粒 子 の 大 多 数 を 占 め て お り 、 病 態 へ の 関 与 が 示 唆 さ れ な が ら も 、 ほ と ん ど そ の 解 析 が 進 ん で い な い 非 感 染 性 のHIV‑1粒 子 が ア ポ 卜 ー シ ス を 誘 導 す る 可 能 性 に つ い て 検 討 を 行 っ た 。
樹状 細胞 は健 常 人由 来末 梢血 単球 を イン ター □イ キン4(IL‑4) 、顆 粒球・マク 口ファー ジ 刺 激 因 子 (GM‑CSF) 存 在 下 で 分 化 さ せ 、HIV‑1の 代 表的 実験 室株LAI由来 で 、細 胞へ の 吸 着能 は有 する もの の 逆転 写酵 素を 有さ な い為に、細胞内にてウイル ス複製を行えない非感 染 性 のL‑2粒 子 の 吸 着 を 行 っ た 。 そ の 後 、 健 常 者 由 来 末梢 血T細胞 との 共培 養 を行 い、 ア ポ トー シス 誘導 の可 能 性に つい て検 討を 行 った 。そ の結 果 、少 なく とも共培養3日目より 初 期 ア ポ 卜 ー シ ス 細 胞 の 指 標 で あ る アネ キ シンVとの 反 応性 が陽 性のT細 胞が 、L‑2粒 子非 吸 着 樹 状 細胞 との 共培 養 を行 った 場合 に比 レ 、高 率に 出現 する 事 が明 かと なっ た 。こ の傾 向 は 共 培 養7日 目 に お い て も 認 め ら れ 、 前 者 が 約18% な の に対 し、 後者 は 約34%と2倍 程度 高い 割合 であ り 、こ の傾 向は 数 人の 異な るホ スト由来の 樹状細胞を用いた場合も再現 性が確 認 さ れ た 。 さ ら に 断 片化DNAを有 するT細 胞の 割 合も 上記 の如 く2倍程 度の 増 強を 示し た。
こ のこ とか ′らHIVー1粒子 吸着 を うけ た樹 状細 胞はT細 胞に ア ポトーシ スを誘導レ得る事が 明 か と な っ た 。 さ ら に こ の ア ポ ト ー シ ス はCD4陽 性T細 胞 の み な ら ずCD8陽 性T細 胞 に も 誘 導 さ れ て い た 。 こ の ア ポ ト ーシ ス にHIV‑1関連 のア ポト ーシ ス にお いて その 重 要性 が示 唆 され てい るFasシ ステ ム が関 与す る可 能性 に つい て、Fas抗原 のア ンタ ゴ ニス トを 添加 し てア ポトーシスの抑制効果を検討 したが、非添加時が60.6% なのに比し、添加時では51.1% と その 効果 は非 常 に弱 いも ので あり 、 異なる アポトーシスの経路も関与 している可能性が示 唆 さ れ た 。 続 い て 、 樹 状 細 胞 は 強 カ な 抗 原 提 示 細 胞 と してT細 胞と の接 触 によ りT細胞 の 活 性 化 を 促 す事 が知 られ て いる ため 、L‑2粒 子吸 着後 の 樹状 細胞 のT細胞 活性 化能 に 変化 が 認 めら れ るか 否か につ い て検 討を 行っ た。 そ の結 果、ウイルス粒子吸着後 の樹状細胞と非吸 着 樹 状 細 胞 とのT細 胞活 性化 能 はほ ば同 等で あ った 。次 に、L‑2粒子 吸着 樹 状細 胞と 共培 養 を 行っ たT細胞 の細 胞周 期 にお いて 非吸 着樹 状 細胞 との 共培 養を 行ったT細胞に比し、GO/G1
ピ ー ク の 減 少 が 認 め ら れ た た め 、 さ らに 詳細 に 解析 を行 った とこ ろ 、Ki‑67抗原 陰性 のGO 期の 細胞 数の 割 合は 両T細 胞 群に おい て変 化 は無 かっ たの に対 し 、 L‑2粒 子吸着樹状細胞と 共培 養を 行っ たT細胞 にお い て、Ki‑67抗 原陽 性Gl期細 胞 の割 合が 約半数に減少 していた。
この 事か ら、L‑2粒子 吸着 樹 状細 胞と共培養を行っ たT細胞は樹状細胞により活 性化を受け、
細 胞周 期を まわ す 過程 のGO期か らGl期 に至 る前 にア ポ トー シス を起 こす 事 が示 唆さ れた。
本 研 究 で は 樹 状 細 胞 がHIV−1粒 子 の 吸 着 を受 ける こと で 、T細 胞 にア ポト ーシ スを 誘 導 する事を種々の実験におい て提示した。
学 位 論 文 審 査 の 要 旨
学 位 論 文 題 名
Exposure of normal monocyte‑derived dendritic cell to human immunodeficiency virus type1 particles leads to induction of apoptosis in co‑cultured CD4 十 as well as CD8 十 Tcells ・
(HIV ―1 粒子吸着単球由来樹状細胞により誘導されるCD4 並 び に CD8 陽 性 T 細 胞 の ア ポ ト ー シ ス )
HIV‑1感 染により 誘導さ れるT細胞減少はAIDS病態の主な機序である。そこで本研究で は、T細胞と の接触に よりHIV‑1粒子をT細胞 へ受け 渡す役割を担っている事が示唆され ており、生体内でのウイルス伝播に重要な役割を果たしている樹状細胞に着目し、非感染細 胞のアポトーシス誘導への関与を検討した。またHIV‑1感染者において産生されるウイル ス粒子の大多数を占めており、病態への関与が示唆されながらも、ほとんどその解析が進ん でいない非感染性のHIV‑1粒子がアポトーシスを誘導する可能性について検討を行った。
DCは 、 単球 をGM‑CSFとIL‑4処 理 す るこ と に より 得 た 。こ のDCを 健 常 者 由来 末梢血T 細胞と1:20の割合で共培養した。その後の死細胞率、プ口ピディウムイオダイド染色、annexIn Vとの 反応性 から、共 培養し たCD4+およびCD8+T細 胞にアポ トーシ スが誘導 されること が明かになった。さらに、このアポトーシスはマイトジェン処理なしでも、恐らくDCのマ イト ジ ェ ン効 果 に より 標的T細胞がGOか らGlに移 行した時 点で引 き起こさ れてい た。
このよ うに、HIV‑1粒子 吸着を受けたDCは周辺のT細胞のアポトーシス誘導に関与して いることが明かとなった。
副査の志田教授からのHIV‑1感染におけるアポトーシスと病態との関連性に関する質問 に対し、感染者のりンバ節において健常者に比し高率にアポトーシスが誘導されている報告 や感染者のりンバ球が試験管内において容易にアポトーシスを起こす報告例をあげ、AIDS 病態の本 質であ る免疫細 胞の減少はアポトーシスによる可能性を論じた。またCD8陽性T 細胞にもアポトーシスが誘導される機序についての質問には、HIV‑1感染により誘導される
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サイトカインネットワークが細胞をアポトーシス感受性にし得る環境をっくりあげている可 能性を他者の論文を引用しつつ説明した。免疫学的研究と治療法の開発とに関して、本研究 の今後のAIDS治療における応用の可能性についての質問に対し、本研究のような基礎研究 の積み重ねが様々なAIDS病態の本質を明らかにし、ひいては治療法の開発のっながる可能 性を述べた。続いて副査の皆川教授より本研究で認められる樹状細胞によるアポトーシスは HIV‑1感染におけるどのステージで起こっている可能性が考えられるのかという質問に対し、
CD4陽性T細胞 数が維 持されて いるよ うに見え るステー ジにお いても樹状細胞がT細胞の 異常な活性化を誘導しこれが後にアポトーシスっながる可能性が考えられ、急激の細胞減少 が認められる時期に限らず、感染の全ステージに渡って、樹状細胞はアポ卜ーシス誘導に関 与している可能性が考えられる事を述べた。また実際の感染者における非感染性粒子をどの ように検出するのかという質問に対し、現在までのところ感染者内で産生されることが予想 されて いる非感 染性HIV‑1粒子はGagや 半定量的RT‑PCR等で粒 子数とし ては検 出できる が、非感染性と感染性粒子として区別して分離する事は困難であると述べた。最後に主査の 長嶋教授 よルアポトーシス誘導に必要なHIVの最小コンポーネントに関する質問に対し、
gp120である可能性が高い事を述ベ、また他者の報告を引用し、gp120によるアポトーシス はgp120と 抗gp120に対する抗体を用い、CD4の架橋をおこう事で誘導される事を述べた。
本論文は未だ明確にされていないHIV‑1誘導性の非感染細胞のアポトーシス誘導の機序 と非感染 性HIV‑1粒子の関与を明かにした点で評価され、今後、AIDS病態を解明していく 上で有用な情報を提供すると考えられる。
審査員一同はこれらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども合 わせ、 申請者が 博士( 医学)の 学位を 受けるに 充分な資 格を有 するもの と判定 した。
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