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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 荻 野 倫 子

     学位論文題名

    Studies on the biological activities     of Hantaan vlruSenVelopeglyCOproteinS

(ハンターンウイルスのエンベロープ糖蛋白の生物活性に関する研究)

学位論文内容の要旨

    腎症候性出血熱(HFRS)はユーラシア大陸全域で報告され、致死率5‑15%のげっ歯類媒 介性のウイルス性人獣共通感染症である。本疾患の主な流行地である中国では年間10万人以上 の患者が報告されている。病因ウイルスであるハンタウイルスは年々新たなウイルス株が分離 されるのみでなく、1993年より今まで疾患の報告がなかった南北アメリカでHFRSとは異なっ た症状を示す致死率40%以上のハンタウイルス肺症候群(HPS)が発生している。ハンタウイル スはウイルスごとに固有のげっ歯類を自然宿主としており、げっ歯類は全く無症状でウイルス を終生排泄する。

    ハンタウイルス表面を構成するエン・ベロープ糖蛋白(GIIG2)は、標的細胞上の分子と相 互作用し、ウイルスエンベロープと細胞膜の膜融合を引き起こしウイルスグノムを細胞内に放 出させ、ウイルスのライフサイクルを開始させると考えられている。したがって、Gl/G2は多 くのエンベロープウイルスと同様に、宿主域や感染個体内での標的細胞の主要な決定因子であ ると考えられているが、詳細は明らかになっていない。

    本研究では細胞へのウイルスの侵入に関与する細胞側の因子を解析することを目的とし、

Gl/G2の生物活性について、細胞への感染と感染細胞融合現象に注目して解析を行った。

    1.ウイルス感染開始の細胞表面への接着・侵入の段階における糖鎖の関与を解析するた めに、特異的な糖鎖構造を認識する多価の蛋白であるレクチンを用い、以下の知見を得た。1) Vero E6細胞へのハンタウイルス感染に、それぞれ異なる糖鎖構造を認識するレクチン6種類 を用いて、感染価に及ぼす影響を解析した。ウイルスにレクチンを混合したのち細胞に接種し た場合と、細胞にレクチンを処理した後にウイルスを接種した場合に、感染を抑制するレクチ ン(ConA.Mannoseタイプ) と感染 を増強するレクチン(DBAとSBA、GalNAcタイプ)が得 られた。これらの効果は感染前にウイルスと混合すると最も強い効果を示した。2)FACScan を用いた解析より、Vero E6細胞表面にはConA、DBA、SBAのみならず、UEAI以外すぺてが 結合した。ウイルス粒子をレクチンブロットで解析した結果、ConAがGlとG2の両方に、DBA とSBAはGlに結合した。また、DBAへの結合能を欠くP388Dl糸m胞では、ConAとSBAはVero E6細胞と 同じ効果 を示し たが、DBAはウイルスの感染を増強しなかった。またDBAとSBA

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の 競合 単糖 であ るGaINAcで 感染 増強が阻害さ れたことから、レクチン介 在性感染増強は、細 胞とウイルスの 聞をレクチンが糖鎖結合部 位を介して架橋して細胞への 接着・侵入効率を高め て いる ことによっ て起きていると考えられた 。3)細胞ヘレクチンを処理 した後、競合単糖で あ るGalNAcをさ らに 加 えた 細胞 では、ウイル スの感染が抑制された。こ れは細胞表面上に結 合 したGalNAc‑レ クチンの複合体がハンタウイ ルスの本来の侵入経路その ものを阻害したこと を示唆している 。

    以上の成績 より、ウイルス感染におけ るレクチンの効果は、ウイル スレセプターそのもの へ吸着を強めて いるか、レセプター近傍の 分子に吸着してレセプターへ の結合を容易にしてい る可能性が示唆 された。これらの知見はハ ンタウイルスの細胞へのレセ プターを検索する上で 有用な情報とな ることが期待される。

    2.ハン タウ イル ス 感染 細胞 の細胞融合に 関与する細胞側の因子を解 析することを目的と し て 実 験 を 行 い 、 以下 の 知見 を得 た。1)Vero E6細胞(ATCC c1008)を 親株 とし 、5代以 内 の継代歴の亜株(Low‑passaged subline,LPと定義)はハンタウイルスに感染し細胞融合を発現 した。150代以 上の継代を繰り返した亜株(High−passaged subline,HPと定義)はハンタウイル スに感染したが 細胞融合を発現しなかった 。これらの違いが細胞自身の 性質か混合した性質の 細胞の集団によ るものか明らかにするため に、限界希釈法を用いてそれ ぞれの亜株を元にクロ ー ニン グを 行っ た。 そ の結 果、 細胞融合を示 したLP亜株からのクローン12株はすべて亜株と 同 等の 細胞 融合 能を 発 現し 、細 胞融 合 を示 さな ぃHP亜株 からクローニン グしたクローン3株 はすべて細胞融 合を示さなかった。したが って、ハンタウイルスに感染 した細胞の細胞融合能 の感受性は、細 胞自身の性質であることが 明らかになった。これらの確 立されたクローンの代 表 株 を 以 下LPとHPと 定 義 し た 。2)LPとHPの 間で ウイ ルス の増 殖 能と 細胞 表面 上 のGl/G2 発現量に大きな 違いは見られなかった。し たがって、細胞融合抵抗性に は細胞側の分子が関与 し て い る と 考 え ら れた 。3)感 染と 非 感染 細胞 の混 合 培養 で、 感染LPは 非 感染LPとHP細 胞 の 両方 と細 胞融 合し た が、 感染LPと 非 感染HPの 場合 、細 胞 融合 して いる 非感 染HP細胞の割 合 は 、 非 感 染LPと 比 較 し て 明 ら か に 低 か った 。ま た 感染HPは 非感 染のLPとHPとは 細胞 融 合 しな かっ た。 これ ら の成 績か らHP細 胞上 のGl/G2が不 活化されており 細胞融合能を欠損し て いる 可能 性とHP細 胞 上に 細胞 融合 に 必要 な分 子が 欠損 している可能性 が示唆された。4) 感 染HP細胞 をト リプ シ ン処 理し て新たにモノ レイヤーを形成させると、 播き直してから4‑24 時 間の 問の み細 胞融 合 を発 現し た。 こ れら の結 果か ら、 細胞融合抵抗性 のHP細胞上のGl/G2 は細胞融合に対 して不活化の状態であるが 、播き直してからモノレイヤ ーを形成する問に一過 性に細胞融合に 対して活性を回復する、と いうことが示唆された。した がって、細胞融合抵抗 性に関与する分 子は細胞が仲長しモノレイ ヤーを形成する間に制御され ている分子であると考 えられた。

    これらの分 子とエンベロープ糖蛋白と の相互作用やメカニズムを解 析することにより、ハ ン タ ウ イ ル ス の エ ン ベ ロ ー プ 糖 蛋 白 の 振 る 舞 い を 理 解 で き る と 期 待 さ れ る 。

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学位論文審査の要旨

     学位論文題名

    Studies on the biological activities      ●

    of Hantaan vlrus envelope glycoproteins

(ハンターンウイルスのエンベロープ糖蛋白の生物活性に関する研究)

  腎症候性出血熱(HFRS)はユーラシア大陸全域で報告され、致死率5‑15%のげっ歯類媒介性のウイル ス性人獣共通感染症である。ハンタウイルスはウイルスごとに固有のげっ歯類を自然宿主としており、げ つ歯類は全く無症状で ウイルスを終生排泄する。ハンタウイルス表面を構成するエンベロープ糖蛋白 (GIIG2)は多くのエンベロープウイルスと同様に、宿主域や感染個体内での標的細胞の主要な決定因子 であると考えられているが、詳細は明らかになっていない。

  本研究では細胞へのウイルスの侵入に関与する細胞側の因子を解析することを目的とし、Gl/G2の生物 活 性 に っ い て 、 細 胞 へ の 感 染 と 感 染 細 胞 融 合 現 象 に 注 目 し て 解 析 を 行 っ た 。   1.ウイルス感染開始の細胞表面への接着・侵入の段階における糖鎖の関与を解析するために、特異的 な糖鎖構造を認識する多価の蛋白であるレクチンを用い、以下の知見を得た。1)Vero E6細胞へのハン タウイルス感染に、それぞれ異なる糖鎖構造を認識するレクチン6種類を用いて、感染価に及ぼす影響を 解析した。ウイルスにレクチンを混合したのち細胞に接種した場合と、細胞にレクチンを処理した後にウ イルスを接種した場合に、感染を抑制するMannose特異的レクチン(ConA)と感染を増強する(blNAc特 異的レクチン(DBAとSBA)が得られた。これらの効果は感染前にウイルスと混合すると最も強い効果 を示 した 。2)FA岱c卸を 用い た 解析 より 、VemE6細胞 表面 に はCbn、DBA、SBAのみならず、UEAI 以外すべてが結合した 。ウイルス粒子をレクチンブロットで解析した結果、のnAがG1とG2の両方に、

DBAとSBAはG1に 結合 した 。ま た 、DBAへ の結 合能 を欠 くP388Dl細 胞で は、DBAはウイルスの感染 を増強しなかった。ま たDBAとSBAの競合単糖であるGalNAcで感染増強が阻害さ れたことから、レク チン介在性感染増強は、細胞とウイルスの間をレクチンが糖鎖結合部位を介して架橋して細胞への接着・

侵入効率を高めていることによって起きていると考えられた。3)細胞ヘレクチンを処理した後、競合単 糖であるGalNAcをさらに加えた細胞では、ウイルスの感染が抑制された。これは細胞表面上に結合した GaNAcーレクチンの複合体がハンタウイルスの本来の侵入経路そのものを阻害したことを示唆している。

以上の成績より、ウイルス感染におけるレクチンの効果は、ウイルスレセプターそのものへ吸着を強めて いるか、レセプター近傍の分子に吸着してレセプターへの結合を容易にしている可飽陸が示唆された。

  2.ハンタウイルス感染細胞の細胞融合に関与する細胞側の因子を解析することを目的として実験を行 い、以下の知見を得た。1)VemE6細胞(ATCCc1008)を親株とし、5代以内の継代歴の亜株(bwーpassaged

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郎 紀

二 知

川 川

有 皆

授 授

教 教

査 査

主 副

(4)

subline.LPと定義)はハンタウイルスに感染し細胞融合を発現した。150代以上の継代を繰り返した亜株

(班曲―pasSagedsubli鴫HPと定義)はハンタウイルスに感染したが細胞融合を発現しなかった。これらの 違いが細胞自身の性質か混合した性質の細胞の集団によるものか明らかにするために、限界希釈法を用い てそれぞれの亜株を元にクローニングを行った。その結果、細胞融合を示したLP亜株からのクローン12 株はすべて亜株と同等の細胞融合能を発現し、細胞融合を示さなぃHP亜株からクローニングしたクロー ン3株はすべて細胞融合を示さなかった。したがって、ハンタウイルスに感染した細胞の細胞融合能の感 受性は、細胞自身の性質であることが明らかになった。これらの確立されたクローンの代表株を以下LP とHPと定義した。2)LPとHPの間でウイルスの増殖能 と細胞表面上のG1パ詑発現量に大きな違いは見 られなかった。したがって、細胞融合抵抗性には細胞側の分子が関与していると考えられた。3)感染と 非感染細胞の混合培養で 、感染LPは非感染LPとHP細 胞の両方と細胞融合したが、感染LPと非感染HP の場合、細胞融合している非感染HP細胞の割合は、非感染LPと比較して明らかに低かった。また感染HP は非 感染のLPとHPとは細胞融合しなかった。こ れらの成績からHP細胞上のGl船2が不活化されてお り細胞融合能を欠損している可能性とHP細胞上に細胞融合に必要な分子が欠損している可能性が示唆さ れた。4)感染HP細胞を卜リプシン処理して新たにモノレイヤーを形成させると、播き直してから牛24 時間の間のみ細胞融合を発現した。これらの成績から、細胞融合抵抗性のHP細胞上のG1船2は細胞融合 に対して不活化の状態であるが、播き直してからモノレイヤーを形成する間に一過性に細胞融合に対して 活性を回復する可能陸が示唆された。したがって、細胞融合抵抗性に関与する分子は細胞が伸長しモノレ イヤーを形成する間に制御されている分子であると考えられた。

  公開発表において、副 査皆川教授から、ハンタウ イルスのレセプターとLMEか ら示唆されるGaNAc を有する分子との関連性、病原性と細胞融合現象との関連性についての質問があった。次いで、副査高田 教授から他のウイルスでLME架橋説の報告の有無にっいての質問があった。申請者は実験結果に基づき、

また文献的知識を用いて、概ね適切に回答し得た。

  この論文の知見は今後ハンタウイルスの細胞へのレセプターを検索する上で有用な情報となることが期 待される。また、これらの分子とエンベロープ糖蛋白との相互作用やメカニズムを解析することにより、

ハ ン タ ウ イ ル ス の エ ン ベ ロ ー プ 糖 蛋 白 の 感 染 に お け る 役 割 を 理 解 で き る と 期 待 さ れ る 。   審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位などもあわせ申請者が 博士(医学)の学位を受けるのに十分な資格を有するものと判定した。

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