博 士 ( 医 学 ) 小 山 奈 緒 子
学位論文題名
Aneuploidy of sex chromosomeslnbaSalCell CarCinoma :ItSClonalityandinVOlVement ●
inthedeVelopmentofCarClnogeneSlS
(基底細胞癌における性染色体数異常:その clonalityの 解 析 お よ び 癌 化 と の 関連 )
学位論文内容の要旨
I序文
基底細胞癌(BCC)は発症頻度の高い皮膚癌であり、その発症率も年々増加傾向にある。
近年、BCCにおける多様な染色体異常が報告され、またp53癌抑制遺伝子の変異や第 9番染色体長腕(q22‑31領域)上のpatched遺伝子の変異などが注目されている。これら の事実から、染色体異常もしくは遺伝子変異は、BCCの発症に強く関与していると考え られるが、その詳細な機序は未だ解明されていない。一方、BCCのclonalityに関して は、その発生が単一の突然変異細胞の自律的増殖によるとの報告や複数の細胞の混在か ら構成されるとの報告もあり、未だ不明な点が多い。
本研究では、BCC患者における分子遺伝学的解析並びにBCC組織のclonalityを解析 し、BCCにおける染色体異常と腫瘍細胞の癌化との関連阯を検討することを目的とした。
II.材料と方法
日 本 人BCC患 者18名 ( 男女 各9名 、 年齢40〜87歳、平 均年齢65.3歳) を研究対 象とした。各患者より、末梢血リンバ球、正常皮膚組織および腫瘍組織を採取した。腫 瘍組織の一部は短期培養を行ない、培養細胞はケラチン抗体による免疫染色を行った。
これらの検体を使用してQ・バンド法による分裂期細胞核の核型分析を行ない、さらに間 期細胞核における性染色体数異常を解析するため、XおよびY染色体のセントロメア 部分に対するDNAプローブを用いたFISH法を行なった。BCC患者の各種検体および健 常者末梢血ルンパ球間での性染色体数異常の頻度の比較は、有意差5%(P〈0.05)にて Fisher s検定により統計学的解析を行なった。BCCのclonalityを調べるため、X染色体 上のヒトandrogen receptor遺伝子(HUMARA)領域に存在するtrinucleotide (CAG)の 反復配列の違いによる遺伝子多型性を解析した。女性患者の各組織より抽出したDNAを 制限酵素HhaIに て処理後PCRを行い 、その電気 泳動によりX染色体 の不活性化様式 を分析し、腫瘍組織の細胞の由来を調べた。
III.結果
BCC患者12名より得ら れた腫瘍組 織の短期培養では、培養後14日目には腫瘍組織 の周囲に上皮様細胞の増殖が認められた。上皮様細胞は外側に生育した線維芽様細胞と は形態が異なり、癌細胞に特徴的なpilling up像を示し、BCC細胞に特異的なタイプ8 ―51−
および17に対する抗ケラチン抗体に特異的陽性反応を示した。BCC患者の末梢血1Jンノヾ 球のQ.バンド分染法による核型分析により、性染色体の欠失(45.X、・Yまたは45,X,
・X)が11名に認められた。また、短期培養細胞の核型分析では、12名全員に性染色 体の欠失が認められた。各患者の末梢血リンノヾ球、正常皮膚組織、腫瘍組織および短期 培養細胞の間期細胞核のFISH法による性染色体数の解析結果は、70歳以上のBCC患者 群における末梢血リンバ球の性染色体欠失の頻度が、男女共に健常者群よりも有意に高 値を示した。さらに、BCC患者群の各検体別の性染色体欠失およびその他の性染色体数 異常の発現頻度は、男女共に腫瘍組織のみならず正常組織において健常者群と比較して 有 意 に 高値 を 示し た 。女 性BCC患 者の 腫 瘍組 織 と正 常 皮膚 組 織の 細 胞を 用 い た HUMARA遺 伝子 のDNA解析 に よ るBCCのclonalityの解 析 結果 は 、正 常 皮膚 組 織の DNAを鋳型にし たPCRでは 、制限酵素HhaIによる処理の有無にかかわらず2本のノヾ ンドが認められ、正常皮膚組織は不活性化X染色体が父母の両方に由来する細胞の混 在(polyclonal)からなることが示された。一方、BCC患者の腫瘍組織のDNA解析では、
HhaIの処理により2本のうち一方のノヾンドが消失しており、腫瘍組織は不活性化によ りHhaIで切 断されなぃX染色 体が父母のどちらか一方にのみ由来する、単一細胞由 来(monoclonal)であることが明らかとなった。
IV.考察
本研究では、18名のBCC患者について染色体分染法による核型分析に加えて、FISH 法を用いて分子遺伝学的解析を行なった。Q.バンド分染法による核型分析の結果、性染 色体 の欠失が末梢血リンバ球では11名に、短期培養細胞では12例全例に認められ、
BCC患者の各種組織において性染色体欠失によるモザイク核型が高率に発現しているこ とが判明した。さらに、間期核FISH法による解析では、男女とも性染色体数異常が高頻 度に発現し、この傾向は加齢に伴い著明になることが明らかになった。特に、70歳以上 では男女共にBCC患者群における発現頻度は健常者群よりも有意に高値を示した。これ らの結果から、BCCの発症と性染色体数異常の増加との聞には強い関連性があると推測 される。
本研究では、腫瘍組織や短期培養細胞ばかりでなく、BCC患者の各種正常組織におい ても性染色体数の異常によるモザイクが高頻度に認められた。このことから、X染色体 上のHUMARA遺 伝子の多型 性を分析し 、X染色体の不活性化様式を調べることにより BCCのclonalityについて解析を行った。この結果、BCC患者の正常皮膚組織は健常女 性の末梢血リンパ球と同様にpolyclonalな細胞集団から成る一方、BCC患者の腫瘍組織 は不活性化X染色体が両親の一方にのみ由来するmonoclonalな細胞集団から構成され ていることが明らかになった。
これらの事実から、BCCの腫瘍組織は性染色体数の異常を含めたモザイク細胞集団で あるにもかかわらず、その細胞の由来はmonoclonalであることが判明した。これらの 結果を考慮すると、BCCの腫瘍組織に高頻度に発現する性染色体数の異常は、単一細胞 に由来するBCCの増殖過程で発生してきたものと推測される。BCCについては、癌抑制 遺 伝子 で あ るp53お よ び、 第9番 染 色 体上 に 存在 し体節 形成に強く 関与してい る patched遺伝子の変異が既に報告されており、各種癌遺伝子や癌抑制遺伝子の突然変異 などの異常の集積がBCC発生の誘因であることが示唆されている。こうした知見と本研 究結果から、BCCは幾つかの遺伝子に生じた突然変異の結果、自律的増殖能を獲得した 単一細胞に由来すると推定される。本研究で認められたように、BCC患者の腫瘍組織の みならず正常組織における性染色体数異常の発現頻度の増加は、こうした各種癌遺伝子
や 癌抑 制遺 伝子 の突 然変 異の 生じる 可能性の増大を示唆しており、BCCの発生と密接な 関 係が ある と推 測さ れる 。以 上の研 究結果より、BCC患者に特徴的に認められた性染色 体 数異 常を 詳細 に解 析す るこ とは、BCCの癌化機序の解明や発症の危険度の推測が可能 なばかりでなく、予後の診断などの臨床応用に有益な情報をもたらすものと考えられる。
学位論文審査の要旨
学位論文題名
Aneuploidy of sex chromosomeslnbaSalCe11 CarCinoma : ItSC10nalityandinVOlVement ●
lnthedeVelopmentofCarClnogeneSlS (基底細胞癌における性染色体数異常:その c10n 甜 ity の 解 析 およ び癌 化と の関 連)
基 底細 胞癌(BCC)は発 症頻 度の 高い 皮膚 癌で あり 、そ の発 症率 も年 々増加 傾向 にあ る 。 近 年 、BCCに お い てp53癌 抑 制 遺 伝 子 や 第9番 染 色 体 長 腕(q22−31領 域 ) 上 の patched遺 伝 子 の 変 異 な ど が注 目さ れて おり 、染色 体異 常も しく は遺 伝子 変異 はBCC の発症に強く関与していると考えられるが、その詳細な機序は未だ解明されていない。
一 方 、BCCのclonalityに 関 して は、 その 発生 が単 一の 突然 変異 細胞 の自 律的増 殖に よるとの報告や複数の細胞の混在から構成されるとの報告もあり未だ不明な点が多い。
本 研 究 で は 、BCC患 者 に お け る 分 子 遺 伝 学 的 解 析 並び にBCC組織 のclonalityを 解析 し、BCCにお ける染 色体 異常 と腫 瘍細 胞の 癌化 との 関連 性を 検討 する ことを 目的 とし た 。 日 本 人BCC患 者18名 ( 男 女 各9名 、 年 齢40〜87歳 、 平 均 年 齢65.3歳 ) を 研 究対象とし、各患者より、末梢血リンノヾ球、正常皮膚組織および腫瘍組織を採取した。
腫瘍 組織 の一 部は 短期 培養 を行 ない 、培 養細胞 はケ ラチン抗体による免疫染色を行っ た 。 こ れ ら の 検 体 を 使用 し てQ‑バン ド法 によ る核 型分 析を 行な い、 さら に詳細 に性 染 色 体 数 異 常 を 解 析 す る た め 、Xお よ びY染 色 体 の セ ン ト 口 メ ア 部 分 に 対 す るDNA プ 口 ー ブ を 用 い たFISH法 を 行 な っ た 。BCCのclonalityを調 ぺる ため 、X染色体 上の ヒ トandrogen receptor遺 伝子 (HUMARA)領 域に存 在す るtrinucleotide (CAG)の反 復 配 列 の 違 い に よ る 遺伝 子 多 型 性 を 解 析 し た 。 女 性 患 者の 各組 織よ り抽 出し たDNA を 制 限 酵 素HhaIに て 処 理 後PCRを 行 い 、 そ の 電 気 泳 動 に よ りX染 色 体 の 不 活 性 化 様 式 を 分 析 し 、 腫 瘍 組織 の 細 胞 の 由 来 を 調 べ た 。 そ の 結果 、BCC患 者12名より 得ら れた 腫瘍 組織 の短 期培 養で は、 培養 後14日目に は腫 瘍組織の周囲に上皮様細胞の増殖 が認 めら れた 。上 皮様 細胞 は外 側に 生育 した線 維芽 様細胞とは形態が異なり、癌細胞 に 特 徴的 なpilling up像 を 示 し 、BCC細 胞 に 特 異 的 な タ イ プ8およ び17に 対 す る 抗
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査 査
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主 副
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ケラチン抗体に特異的陽性反応を示した。Q―バンド分染法による核型分析により、
性染色体の欠失(45,X,―Yまたは45,X,―X)が11名のBCC患者の末梢血リンバ球 および12例全例の短期培養細胞におぃて認められた。各患者の末梢血リンバ球、正常 皮膚組織、腫瘍組織および短期培養細胞のFISH法による性染色体数の解析結果は、
70歳以上のBCC患者群 における末梢血リンバ球の性染色体欠失の頻度が、男女共に 健常者群よりも有意に高値を示した。さらに、BCC患者詳の各検体別の性染色体数異 常の発現頻度は、男女共に腫瘍組織のみならず正常組織において健常者群と比較して 有意 に 高値 を 示し た 。 女性BCC患 者の 腫 瘍組 織 と正 常 皮 膚組 織 の細 胞を用 いた HUMARA遺 伝 子 のDNA解 析 の 結 果 は 、 正 常 皮 膚 組 織 のDNAを 鋳 型 に し たPCRて は、制限 酵素HhaIによる処理の有無にかかわらず2本のバンドが認められ、正常皮 膚組織は不活性化X染色体が父母の両方に由来する細胞の混在(polyclonal)からなる こと が 示さ れ た。 一 方 、BCC患 者 の腫 瘍組織のDNA解析では 、HhaIの処理に より 2本の うち一方の バンドが消失しており、腫瘍組織は不活性化によりHhaIで切断さ れないX染色体が 父母のどちらか一方にのみ由来する、単一細胞由来(monoclonal) であることが明らかとなった。これらの結果から、BCC患者の腫瘍組織は性染色体数 の 異 常 を 含 め た モ ザ イ ク 細胞 集 団で あ る にも か かわ ら ず、 そ の細 胞 の由 来 は monoclonalで あることが 判明した。BCCにつ いては、p53癌抑制遺 伝子および 第9 番染色体上に存在し体節形成に強<関与しているpatched遺伝子の変異が既に報告さ れており、各種癌遺伝子や癌抑制遺伝子の突然変異などの異常の集積がBCC発生の誘 因であることが示唆されている。こうした知見と本研究結果から、BCCは幾っかの遺 伝子に生じた突然変異の結果、自律的増殖能を獲得した単一細胞に由来すると推定さ れ、BCC患者の腫瘍組織のみならず正常組織における性染色体数異常の発現頻度の増 加は、こうした各種癌遺伝子や癌抑制遺伝子の突然変異の生じる可能性の増大を示唆 して おり、BCCの発 生と強く関 連している と推測され る。以上の 研究結果よ り、
BCC患者 に特徴的に 認められた 性染色体数 異常を詳細 に解析することは、BCCの癌 化機序の解明や発症の危険度の推測が可能なばかりでなく、予後の診断などの臨床応 用に有益な情報をもたらすものと考えられた。口頭発表において、副査西信三教授 から末梢血リンパ球の性染色体数異常はBCCに特異的か否か、またその解釈について、
副査藤本征一郎教授より末梢血リンバ球の性染色体数異常と末梢血癌細胞の存在との 関連、高齢者での性染色体欠失の機序、BCCの臨床型・組織型と染色体数異常との関 連等にいて質問があった。さらに副査杉原平樹教授よりbasal cell nevus syndromeにお ける染色体異常ならぴに分子遺伝学的解析に関する知見について、また主査加藤紘之 教授より健常者における末梢血リンバ球の性染色体数異常についての解釈、BCC患者 の末梢血リンバ球の性染色体数異常の多寡と臨床的病態との関連、ならびに臨床面に おける本研究の意義に関して質問があった。いずれの質問に対しても、申請者は自己 の研究結果ならぴに文献を引用して概ね妥当な回答をした。審査員一同は、本研究の 成果を高<評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども併せ申請者が博士(医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 充 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。