博 士 ( 理 学 ) 高 橋 昌 史
学 位 論 文 題 名
SHP2 ホスファターゼによる parafibromin/Cdc73 の 機能制御に関する研究
学位論文内容の要旨
SHP2は 進 化 的 に 高 度 に 保 存 さ れ た 非 受 容 体 型 チ ロ シ ン ホ ス フ ァ タ ー ゼ で あ り 、 哺 乳 動 物 細 胞 に お い て 細 胞 質 な ら び に 核 内 で そ の 発 現 が 観 察 さ れ る 。 細 胞 質 に 存 在 す るSHP2は 、 細 胞 増 殖 を 強 く 促 すRAS‑ERK経 路 の 活 性 化 お よ び 細 胞 運 動 ・ 細 胞 骨 格 制 御 に 関 与 す る こ
゛ と が 知 ら れ て い る が 、 核 内 に 分 布 す るSHP2の 生 物 活 性 は 不 明 で あ る 。SHP2はPTPNIヱ 遺 伝 子 に コ ー ド さ れ 、 そ の 機 能 獲 得 型 変 異 の 存 在 が 先 天 性 発 達 障 害Noonan症 候 群 、 あ る い は 小 児 骨 髄 単 球 性 白 血 病(JMML)に 代 表 さ れ る 多 様 な ヒ ト 癌 に お い て 明 ら か に さ れ て お り 、 ヘ リ コ バ ク タ ー ピ ロ り の 慢 性 感 染 が 引 き 起 こ す 胃 発 癌 に お い て も 決 定 的 な 役 割 を 担 う こ と か ら 「 癌 タ ン パ ク 質jと し て 知 ら れ て い る 。 し か し な が ら 、 発 癌 プ ロ セ ス に 密 接 に 関 与す るSHP2の 基 質 タ ンパ ク 質 は 今 日 まで に 明 ら か にさ れ て い な い。
本 研 究 で は 、SHP2が 保 有 す る 未 知 の 生 物 活 性 な ら び にSHP2依 存 的 な 発 癌 分 子 機 構 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 に 基 質 ト ラ ッ プ 型SHP2変 異 体 な ら び に 質 量 分 析 を 組 み 合 わ せ た 網 羅 的 なSHP2の 基 質 ス ク リ ー ニ ン グ を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 転 写 制 御 な ら ぴ に ポ ス ト 転 写 制 御 に 深 く 関 わ る 核 内PAF複 合 体 構 成 タ ン パ ク 質 の ひ と つ 、parafibromin/Cdc73をSHP2 の 新 規 基 質 分 子 と し て 同 定 し た 。 ヒ ト に お い てparafibrominは 副 甲 状 腺 癌 の 癌 抑 制 タ ン パ ク 質 と し て 単 離 さ れ た 分 子 で あ り 、 ヒ ス ト ン メ チ ル ト ラ ン ス フ ェ ラ ー ゼSUV39H1の 活 性 化 を 介 し て 癌 遺 伝 子cyclin D1お よ びc‑m ycの 転 写 を 抑 制 す る こ と が 示 さ れ て い る 。 一 方 、parafibrominは[3‑cateninと の 複 合 体 形 成 を 介 し て 、 細 胞 癌 化 に 深 く 関 わ るWnt経 路 の 標 的 遺 伝 子(cyclin D1、c‑m ycな ど ) を 転 写 活 性 化 す る こ と も 明 ら か に さ れ て い る 。 本 論 文 で は 、SHP2に よ るparafibromiIlの チ ロ シ ン 脱 リ ン 酸 化 がpara6bromin‐p.Catenin の 複 合 体 形 成 な ら び に そ れ に 伴 うB‐cateninの 核 内 蓄 積 を 誘 導 し 、 そ の 脱 制 御 がWntシ グ ナ ルを 活 性 化す ること を明ら かに した。 また、para£.br01ユニlin.p.catenin複 合体 形成が 同時 にpara6bromin‐SUV39H1依 存 的 な 転 写 抑 制 を 解 除 す る こ と 、 な ら び に 核 内 基 質 para6.broDlinの チ ロ シ ン 脱 リ ン 酸 化 に 重 要 な 役 割 を 担 うSHP2の 核 内 移 行 が 増 殖 亢 進 シ
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グナル
(RAS経路など)によって促進することを見出した。
本論文により、
SHP2は細胞質でRAS‑ERK シグナル経路の活性化を促進するのみなら ず、核内でWnt シグナル活性化因子として機能することが明らかにされ、SHP2 の異常活 性化が多くのヒト癌発症に関与すると考えられている
RAS‑ERK経路及びWnt 経路を同 時に脱制御することが示された。
―刎ごo―
学位論文審査の要旨 主査 教 授 坂口 和靖 副査 教 授 村上 洋太 副査 教 授 高岡 晃教 副査 教 授 鈴木 孝紀 副査 教 授 畠山 昌則
(東 京大学大 学院医学 系研究科)
学 位 論 文 題 名
SHP2 ホス ファターゼ による parafibromin/Cdc73 の 機能 制御に関す る研究
チロシンホスファターゼSHP2 は細胞質および核内に局在し、その脱制御が若年性骨髄単球性 白血病
(JMML)を初めとする血液癌ならびにピロリ菌感染が引きこす胃癌、さらには小児血液癌 の発症リスクを増進する先天奇形
Noonan症候群に密接に関与する癌タンパク質である。哺乳動物 細胞で
SHP2は細胞質 においてRAS 経路を活性化し、細胞増殖を亢進するが、その詳細な分子機 構は明らかにされていない。一方で、核内に分布する
SHP2に関しても、核内移行およぴ活性化 の分子機構が不明であり、核内SHP2 の生物学的役割は未だ明らかにされていない。このような 背景からSHP2 活性化が引き起こす発癌の分子メカニズムの解明には更なる研究成果が待たれる 状況にある。
本研究は、SHP2 の基質候補分子を網羅的にスクリーニングすることで新規基質分子を同定し、
その機能解析を通してSHP2 依存的な発癌分子メカニズムを解明することを目的としており、筆 者は上記目的を達する以下の有益な知見を得て、その研究成果を本学位論文として纏めている。
第1 章では、基質トラップ変異型
SHP2と特異的に結合するSHP2 基質候補分子を質量分析によ り網羅的に同定し、転写の開始、伸長および転写後修飾の制御に関与する核内タンパク質複合体、
RNA polymerase II‑associated factor (PAF)
複合体がSHP2 の基質となる可能性を見出した。
第2 章では、PAF 複合体の主要な構成タンパク質の1 つ、parafibromin/Cdc73 が細胞内でチロシ ンリン酸化を受ける ことを見出し、そのりン酸化部位としてチロシン(Y) 残基290 番、293 番お よぴ315 番を同定した。また、SHP2 がparafibromin のチロシンリン酸化部位(Y290 ,Y293 ,Y315) を
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基質 とし て 脱リ ン酸 化す る こと を明 らか にし 、 核内 チロシンキナーゼc‑Ablがparaflbrominチロシ ンリン酸化の責任キ ナーゼの1っであることを見 出した。
第3章 では 、SHP2によ るpara血brominの チロシンリン酸化がparaflbrominlp.catenin複合体の形 成を 促進 す るこ とを 明ら か にし 、こ れと は逆 にAblキ ナ ーゼ の発 現がpambromin一p‐catenin複合 体形 成を 抑 制す るこ とを 示 した 。ま た、SHP2が 促進 する核内でのpar面bromirp−catenin複合体の 形 成 が 細 胞 質 ― 核 間 を 往 来 す るD‐cateninの 核 内 集 積 を 促 進 す る こ と を 見 出 し た 。 第4章 で は 、 筆 者 はSHP2がp釘aflbromilp‐catenin複 合 体の 形成 を介 してWnt経路 標 的遺 伝子
(c‐けり c,の′c伽DDの転写を活性化するこ とを明らかにし、マウス生体を用いてSm唸脱制御によ るWnt経 路 の 活 性 化 を 示 し た 。Par面brominは ヒ ス ト ン メ チル トラ ンス フェ ラ ーゼSUV39H1との 相互作用を介してc− けザおよびめ´c跏D|遺伝子の転写を抑制するが、筆者はp甜曲bromirp.c舛enin 相 互 作 用がSUV39H1に依 存し た 転写 抑制 を乗 り越 え 、Wm標的 遺伝 子 (c‐ ″り 協 グc伽DJ)の 転写 を 活 性 化す るこ とを 明 らか にし 、癌 抑 制タ ンパ ク質 とし て 知ら れるpara6brominがチ ロ シン 脱リ ン 酸 化 に依 存し て増 殖 /癌 化を 促進 す るこ とを 示し た。 最 後に 筆者 は、 本研 究 で見 出し たSHP21 paraflbrominlWnt経 路の 制 御機 構に つい て検 討 し、pa刪6brominのチ ロシン脱リン酸化を促すSHP2 の核内移行がRAS経路 の活性化によって促進され ることを見出した。
こ れ を 要 す る に 、 本 論 文 はSHP2に よ る 核 内 基 質 分 子pambrominのチ ロシ ン脱 リン 酸 化を 介し たWntシ グ ナ ル 活 性 化 機 構 を 新 た な 細 胞 内 シ グ ナ ル 伝 達 経 路と し て同 定し たも ので あ り、SHP2 がこ れま で 知ら れて いたRAS経路 に加 え てW・nt経路 を連 動し て活 性 化す るこ とを世界に先駆けて 明 ら か に し た も の で あ る 。SHP2が 標 的 と す るRAS経 路 お よ びWnt経 路 は 細 胞 増 殖 な ら びに 細胞 分化 の制 御 に関 わり 、そ の 脱制御は癌を初 めとした多様な疾患の発症 に密接に関与することから、
筆 者 が 本 研 究 で 得 た 新 た な 知 見 はSHP2脱制 御に 起 因し た発 癌な ら ぴに 先天 奇形 発症 の 分子 メカ ニズムの解明に対し て貢献するところ大なるもの がある。
よ っ て 著 者 は 、 北 海 道 大 学 博 士 ( 理 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 あ る も の と 認 め る 。