奈良教育大学学術リポジトリNEAR
オーストラリアの音楽教員志望学生は日本伝統音楽 をどのように感じるか。
著者 奥 忍
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 25
ページ 25‑33
発行年 1989‑03‑01
その他のタイトル How do Australian Music Students in Teacher Training Institutions Accept Japanese
Traditional Music?
URL http://hdl.handle.net/10105/6676
オーストラリアの音楽教員志望学生は 日本伝統音楽をどのように感じるか。
奥 忍
(音楽教室)
要旨:現代の日本では、自分達の耳は既に西洋化しており日本伝統音楽は自分 達から遠く隔たったものである、と感じている人が少なくない。本研究はこの ような人々が日本伝統音楽に近づくための方法を探ることを目的に行われた。
生来西洋音楽を土壌とする人々は日本伝統音楽をどのように感じるのであろう か。私は調査結果から、導入期に効果のあるジャンル、音楽的要素についての 示唆を得ようとした・アンケートの対象者はアデレード在住の昔楽教員志望学 生で、日本伝統音楽に関する講義の直前と直後の2種類が採られている。.
キーワード 日本伝統音楽・音楽教員志望学生・アンケート調査
1.はじめに
日本の音楽教育は明治以来西洋音楽指向で進められてきた。その結果、現在では日本伝統音楽 はごくわずかの人々にしか愛好されず、大多数の日本人からは表面上遠いものとなっている。こ の現象は・例えば家庭における諸楽器の保有率からも読みとることができよう。私が1983年に 1〕
奈良県天理市前栽小学校で行った調査によれば、リコーダーは1oo%の子どもが保有、ピアノ を保有する家庭は45.O%、(電子)オルガンは44.O%で、他の西洋管弦打楽器も保有されていた が、日本伝統楽器の箏は10.4%、三味線1,O%、他はなし、という状態であった。また、全日 2〕
本音楽教育研究会が1987年に行った「子どもの好きな教材は」全国調査では・「嫌われる曲は 日本音楽に集中する」という結果が出ている。更に、私が1988年に奈良県下の「音楽」担当数 3〕
貝を対象に行った調査では、「日本音楽は現在の日常生活とは無関係である」という記述が幾つ か見られた。
さて・ここで・一般レヴェルの日本の状態から現代音楽界の最先端に目を転じてみよう。この 世界では日本の伝統音楽が果たしている役割は少なくないと言われている。第二次世界大戦以後
日本伝統音楽はリズム、音色、構成原理等の点で、インド音楽やインドネシア音楽と並んで西洋 音楽とは異質の音楽的要素を西洋の作曲家たちに提供してきたのである。それらの諸要素は西洋
How do Austra1ian Music Studen七s in Teacher Training Insti七uti㎝s A㏄ept Japanese Tradi七ional Music?
Shmobu OKU(Department of Mus1c,Nara Unlvers1ty of Educat1on,Nara)
一25一
音楽の歴史の上に新しい視点を投げかけ、現代作曲家たちに活力を与えてきたのである。また、
世界的に高い評価を得ている武満徹、諸井誠、三木稔等の作品は日本伝統音楽の諸要素を積極的 に活かしたものと考えられる。では、日本伝統音楽はせいぜい前衛音楽として意味があるにすぎ ず、一般の日本人にはもはや無意味なものなのだろうか。
小泉文夫の業績のひとつは、表面上日本伝統音楽と無関係になってしまったように見られる現 代の日本人の音楽的感受性、音楽行動が実はわらべうたや歌謡曲の中に脈々と生き続けているこ
とを明確に論証したことにある。わらべうたや歌謡曲に見られる音楽的要素は日本伝統音楽に共 通する日本人の音楽性である。従って、現代の一般的日本人にとって日本伝統音楽は決して無縁 のものではない。現代の一般的日本入は自らが感じているように日本伝統音楽に対して異邦人で はないのである。しかし、自分の音楽的感受性は既に西洋化しており、日本伝統音楽の語法をも はや解すことができない、という意識を持っ人々がそれを再び自分のものとする、と欲すれば、
どのようなアプローチが可能なのだろうか。
この問題を解決へと導くヒントを得るための有効な手段として、西洋音楽を音楽上の母国語と する人々が日本伝統音楽をどのように感じるか、という点についての調査が考えられる。彼らの 聴き取りを日本人のそれと比較することによって、日本人の感受性が本当に西洋化しているのか どうか、しているとすれぱどの程度なのか、更に、多少なりとも西洋化した耳には日本伝統音楽 のどの面が最もアピールするのか、等々の示唆を得ることができるからである。私はこの調査の 第一段階として、オーストラリアの音楽教員志望の学生を対象にアンケートを行った。本稿はそ の結果を考察したものであ乱
2.調査方法 1、調査方法
2、
調査項目
:質問紙法。日本伝統音楽に関する講義(講師:筆者)の直前に質問紙I、直後 に質問紙■を記入。
:質問紙Iは表工、質問紙IIは表2に示されてい孔
表1 質問紙I
QUEsTIONAIRE I
1.
(P1ease indicate whether you are
Are you interested in non−Westem Inusic?
MALE FEMALE )
Very much←一一÷
not at a11What sort of non−We呂tem music are you interested in most?
Are you interested in Japanese traditional music?
Very much トー一十
not at a114.
5.
6.
7.
Why are you interested in it?
Why are you not interested in it?
Have you ever1istened to Japanese traditiona1music?
YES NO
If so,what kind of music was it?
Do you remember the p1ace and date?
Did you enjoy it?
Very much ←一一一一÷
not at a11表2 質問紙皿 QUEST1ONAIRE II
1.Is Japanese traditiona1music enjoyab1e for you?
21
3.
4,
5.
Very much not at an Which piece do you1ike most among the pieces we1istened to tod包y?
Why do you1ike it?
P1ease1ist any e1ements which you fee1are simi1ar to Westem music,
P王ease1ist any e1ements which you fee1are dissimi1ar to Westem music,
P1ease write your impressions of Japanese traditiona1music一
Thank you very much。
3.調査対象:オーストラリア、アデレード在住の音楽教員志望学生53名。所属および内訳は 表3の通りである。
表 3
教 育 機 関 名 人 数 内 訳
South Austra1ia Co11ege of Advanced Education Schoo1of Music,Ade1aide Conege of TAFE
29 (♂12♀11不明6)
24 (0712 ♀ 12)
4.
5.
調査日時:1988年8月23・24日
講義内容:日本伝統音楽の特性について簡単な紹介をした後、表4に沿って行われた。表 〕
4の①〜⑧は講義で用いられた音楽である。①〜⑦はレコード、⑧は講師自身 による実演である。なお、箏は平調子と雲井調子に調弦された2つの小さなモ デルが学生たちに回され、彼らはそれらを弾いてみることができた。⑥は時間 の関係で省かれた。
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3.結果と考察
ここではこの講義の前後に行われたアンケートIとIの結果についてポイント別に考察を行う。
アンケート対象者の人数が少なく、また男女は殆ど同数であり、しかもその間にどの点でも殆ど 差が見られなかったので・統計は全体でとられてい孔
ポイント1 非西洋音楽に対する興味について
図1に見られるように、彼らの多くは非西洋音楽に興味を持っており、「全然興味がない」は 11.32%である。興味の対象にはアフリカ音楽を挙げる者が多く、次いでインド音楽、日本音楽 である。オーストラリア・アボリジニの音楽は2名が挙げたに過ぎず、隣国のインドネシアと並 んでいる。南オーストラリア州は東海岸に比べると、アボリジニの人口が多く、またドイツ系の 移民も多く、一方アジア系の移民はまだそれほど多くはないことでも知られているが、図2で見
る限り、学生の音楽的関心は主にアジア・オセアニアに向けられている、と言えるだろう。
図1Q.I−1
あなたは非西洋音楽に 興味をもっていますか。
四色 ^、、
・ ξ脇肥
a l ituo lo.3梛
脇含
量Σ=鮒
図2 Q.I−2どの種の非西洋音楽に興味をもっていますか。
アフリカ インド 日本
アジア
オリエンクルアボリジニ インドネシア
}束 吋帽
ポリネシア
アラブ ロシア
クロアチア東洋
24.53%
16.98 13,21 7,55 5,66 3,77 3,77 3,77 1,87 1,87 1,87 1,87 1,87 1.87
ポイント2.日本伝統音楽に対する興味について
図2では3位の日本伝統音楽ではあるが、これだけを取り出して尋ねると、かなりの者が興味 を抱いていることが分かる(図3)。興味を持つ理由として挙げられた点は以下の3項目にまと めることができる。
図3 Q,I−3 1a〕異質性一45.28% 響き、楽器、様式、好奇心等。
あなたは日本の伝統音楽に (b)美的価値一24.51% 繊細、柔和、情緒的、色彩的な音 興味をもっていますか
。川砧舳 色、おもしろいリズム等。
念.
緑 ま続ζ簑億:豊続幾由は以下のようにま
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35.8眺 とめることができる0 81i^le
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(a)知らない一違いすぎている、本当に理解可能かどうか疑問・等。
(b〕美的価値一リズム・テクスチュア・音色等に違和感があ乱 (C)日本文化に興味がない
ポイント3.日本伝統音楽の経験について
日本伝統音楽を聞いたことのある者は全体の約%で、聞いたことのない者は%である。聞いた ことがあっても何を聞いたのか忘れてしまった者も多いが、箏を24.24%、能を9,09%の者が 挙げている。これらを聞く機会は自らコンサートに行った者21.21%、高校や大学での音楽関係 の時間が同じく21,21%で多い。第3の供給源はTVの7.55%で、他の機会は記されていなかっ た。図4はまた、それらの日本音楽体験をどの程度享受したか、をも表している。楽しく聞いた 者も多いが・楽しかった・という記憶のない者も少なくない。
図4 Q.I−5Q.I−7
あなたは日本の伝統音楽を聞いたことがありますか。 外円Q.I−5 あなたはそれを楽しみましたか。 内田Q.I−7
ポイント4 今回の講義で聴いた日本伝統音楽について
図5は講義後、日本伝統音楽の享受の程度を尋ねた結果を表したものである。この項目につい ては2つの教育機関で差が大きく現れた。very muchを5点にして1頂に下がり、not at anを
1点に換算した場合、SACAEの平均点は2.93,S.D.1,39、一方、ACTAFEの平均点は3,70,
S.D.O.88で5%水準で有意芳がある。このような差が現れた原因は確定できないが、講義を行っ たホールの状況・講義者の精神状態・学生の状態等が考えられる。
図5 Q.皿一1
日本の伝統音楽はあなたに ざ峨仰
1−1 ッ㍑;す机 伽:虜
帥。r㎎o
内田 ACTAFE 29.〃Z ㎜。止 。 川曲 27・螂 HtHo 35・1%
20.O眺
鵜漱
図6 Q.I−7とQ.■一1の比較
very much
much aVerage a1itt1e
not at a11
』
5
4
大
凡例日§1壬二1
グラフ内の数字はQ.I−7 でどう答えたか、を表す。
5 :very]nuch
4:much
3 =average 2=a1itt1e
1 :not at a11