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博士(農学)樋口学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博 士 ( 農 学 ) 樋 口 学 位 論 文 題 名

醤油関連乳酸菌のアミノ酸分解とその利用に関する研究 学位論文内容の要旨

    多く の 細菌 が有機酸、 アミノ酸を脱炭酸する事が 知られている。発酵食品の発 酵過程でも 乳酸 菌に よ る有 機酸の脱炭 酸が知られており、醤油諸 味中でも観察されている。こ うしたアミ ノ 酸 の 脱 炭 酸 の 生 理 的 意 義 は 、 比 較 的 最 近 ま で ま っ た く 知 ら れ て い な か っ た 。   乳 酸菌 の アミ ノ酸脱炭酸 は、多くの場合アミン類を 生成するなど、産業上有用と いうよりは 有 害 で あ る 場 合 が 多 い が 、 産 業 上 有 用 な 乳 酸 菌 の ア ミ ノ 酸 脱 炭 酸 と し て は 、醤 油 乳酸 菌 Tetragenococcusん10philusのー 部の 菌 株によるアス パラギン酸の脱炭酸が挙げら れる。この 反応 は醤 油 をま ろやかにす るため醸造ヒ好ましいもの であるが、その遺伝的背景は まったく知 られていなかった。

  更 に、 ア スパ ラギン酸脱 炭酸性の乳酸菌は有用であ ることはわかっていたが、実 用上はファ ージ汚染の問題から連 続的に安定して使用するの が困難であった。

  こ のよ う な背 景のもとで 本研究の目的は、醤油関連 乳酸菌のアミノ酸脱炭酸の生 理的意義を 明らかにし、特に醸造 産業上有・用なアミノ酸脱炭酸菌である醤油乳酸菌のアスパラギン酸H覚炭 酸性 の遺 伝 的背 景を明らか にし、さらにこうしたアス パラギン酸脱炭酸陸醤油乳酸 菌を実用化 する目的でファージ抵 抗性菌株を育種することで ある。

1.醤油汚染菌Lactobacillus sp. StTain El株のクンレタミン酸:ッ.アミノ酪酸対向輸送に伴う   エネルギー 生成

  減塩 醤油 や醤 油 含有 調味料は細 菌汚染により発泡事故を起こ すことがある。こうした発 泡の 原因菌 は乳酸菌であり、アスパラギ ン酸をアラニンに脱炭酸す る乳酸菌とグルタミン酸をY,ア ミ ノ酪 酸(GABA)に 脱炭 酸す る乳 酸菌 が ある 事が 知られている 。アスパラギン酸をH剋夷酸 する 汚 染 菌Lactobacillus sp. M3株 に つ い て は ア ス パ ラ ギ ン 酸脱 炭酸 に 伴い 、proton‑motive metabohccycleによルエネルギーを生成す ることが報告されている。

  汚染菌ム放 比齔:洫ロsp.E1株は醤油中 のクシレタミン酸を脱炭酸 する乳酸菌である。この脱 炭 酸 反 応 は 觚P生 成 を 伴 う 事 が 観 察さ れた 。こ のArP生 成 はナ イジ ェリ シン に より 完全 に阻 害 さ れ 、バ リ ノマ イシ ンで 部 分的 に阻 害さ れる こ とか ら、 主と してproton・mo伍veぬeの△

pH成分 が関 与し て いる こと が示 唆さ れ た。 また 、ッ |ザ 血 るdohe珂 北arbodiimideのCCD)に よ りATP生 成が 阻害 され ることから 、proton.motiv,eforceがH゛.パIPaseによルパIP生 減エ ネ ル ギ ー に 変 換 さ れ る と 考 え ら れ た 。 ま た 、 細 胞 外 に 高 濃度 のGABAが存 在す る時 、AIP生 成 が 阻 害 さ れ た 事 か ら 、 ク ル タミ ン酸 の 取り 込み はGABAとの 対向 輸送 であ る 事が 示唆 され た 。こ の菌 のグ ル タミ ン酸脱炭酸 酵素はピリドキサル酵素であ り酵素活性は、主として細 胞質 画 分に 存在 した こ とか ら、脱炭酸 に共役したポンプ酵素ではな いと考えられた。これらの 結果 か ら 、 こ の 菌 の グ ル タ ミ ン 酸 脱炭 酸に 伴 い、 グル タミ ン 酸とGABAの電 気化 学 的に 不等 価な

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antiportとグルタミン酸脱炭酸に伴う細胞内プロトン消費により生成したproton・mot:h′e forceを用いて、DCCD感受性王p・ATPaseによりAロが生成すること、すなわち、アスパラ ギン酸脱炭酸菌Lactobacmussp.M3株と同様、proton一moti、怡metabohcCycleによルエネル ギーを生成していることが示めされた。

2.醤油乳酸菌乃tragenococcus halop轟む鱈D10株のプラスミドにコードされたアスパラギン   酸脱炭酸能

  醤油乳酸菌Tぬ向めめばD10は醤油諸昧中のアスパラギン酸をアラニンに脱炭酸し、醤油 の味をマイルドにする。この菌株をethdiumbromideによルキュアリング処理することによ り、アスパラギン酸脱炭酸能を欠落した株が高頻度で得られた。このことからD10株のアス パラギン酸脱炭酸能がプラスミド上にコードされていることが推定されたので、キュアリング 株のプラスミドプロフイールを調べた。アスパラギン酸脱炭酸能を欠落した株6株は、すべて 22kbのプラスミドpD1が脱落していた。一方、アスパラギン酸脱炭酸能を示した株6株およ び 親 株 はす べ て このpD1を 保 有し ていた 。pD1はS昆aによ る制限切 断で10kbと12kbの2 つの断片に分かれた。10kb断片の塩基配列を調べたところ、少なくとも2つのORFが見られ、

1っはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼに相同性が見られた。アミノ酸アミノトラン スフェラーゼとアミノ酸デカルボキシラーゼの近縁性からこのORFをアスパラギン酸デカル ポ キシラー ゼ遺伝子と推定し、AspDと名づけた。もうーつの0RFは12の膜貫通領域構造を 持っことが推定されたことからキャリアー蛋白質と思われ、アスパラギン酸キャリアーと推定 しAspTと 名 づけ た 。AspD,AspTはそ れぞれの 上流にRBS配列 が見られ 、AspDの下 流に AヨpTがあった。AspD上流にはプロモーター様配列も見られた。以上より、アスパラギン酸 デカルボキシラーゼ遺伝子AspDとアスパラギン酸キャリアー遺伝子触pTからなるオペロン 構造の存在が示めされた。

3.アスパラギン酸分解性醤油乳酸菌7btragenococcus halophilus Dl0株のファージ抵抗陸   株育種とその利用

  アスパラギン酸脱炭酸能を有する醤油乳酸菌Tぬlophilus Dl0のファージ抵抗性菌育種を 試みた。始めにファージ共存下に生育したコロニーより選択したが、それらのいくっかは不安 定な溶原株と考えられた。こうした株を醤油醸造に使用すると、前培養もしくは諸味中で予期 せぬファージ誘導をおこし、諸味乳酸発酵を不安定にする可能性があること、またこうした株 を使い続けることにより、工場のファージレベルが上昇し、抵抗性昧に感染しうる変異ファー ジの出現が早まると予想され、実用株には適さないと考えられた。そこでレプリカ法によルフ アージとの直接接触無しに抵抗性菌を1次選択した。さらに選択された候補株の中から、親株 と同 様の生育 曲線を描く株を2次選択した。この方法で得られたファージ抵抗性株No.1と No.4はどちらの株も親株と同様アスパラギン酸脱炭酸陸を示し、糖発酵性パターンも親株と 同一であった。これらの株のファージ吸着能は変化していなかったので、吸着以降のファージ 増殖過程のどこかが阻害されていると推定された。両株とも+D‑10以外のファージに対する感 受性の獲得は見られなかった。

  No.l株、No.4株とも液体暗地中のみならず諸味液汁や諸味中でもDl0のホモロガスファー ジ+D‑10共存下に良好な生育を示した。また+D‑10の増加もみられなかった。乳酸発酵終了時 に諸味の香りを官能的に調べたところ、変異株による諸昧は親株によるものと、官能的にも同 等であった。さらに酵母発酵後、5ケ月の熟成後でも、親株添むロ諸味と官能的な違いは見られな かった。以上の結果より、ファージ抵抗性変異株No.1、No.4は醤油醸造に使用しうる優良菌 株であると思われた。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

醤油関連乳酸菌のアミノ酸分解とその利用に関する研究

    本 論文 は5章か らな り 、図9、表26、文 献70;を 含 む総 頁数82の 日本 語 論文 である。別に 参 考論 文5編が 付さ れて い る。

  多 くの 細菌 が 有機 酸、 アミ ノ酸 を 脱炭 酸する事が知られ ている。発酵食品の発酵過 程でも乳 酸菌 によ る有 機 酸の 脱炭 酸が 知ら れ てお り、醤油諸味中で も観察されている。こうし たアミノ 酸 の 脱 炭 酸 の 生 理 的 意 義 は 、 比 較 的 最 近 ま で ま っ た く 知 ら れ て い な か っ た 。   産 業 上 有 用 な 乳 酸 菌 の アミ ノ酸 脱炭 酸と し ては 、醤 油乳 酸 菌乃tragenococcusん10philus の一 部の 菌株 に よる アス パラ ギン 酸 の脱 炭酸が挙げられる 。この反応は醤油をまろや かにする た め 醸 造 ヒ 好 ま し い も の で あ る が 、 そ の 遺 伝 的 背 景 は ま っ た く 知 ら れ て い な か っ た 。   そして、アスパラギン酸 脱炭酸性の乳酸菌は有用であることはわかっていても、実用上はファー ジ汚染の問題から連続的に 安定して使用するのが困難 であった。

  こ のよ うな 背 景の もと で本 研究 の 目的 は、醤油関連乳酸 菌のアミノ酸脱炭酸の生理 的意義を 明ら かに し、 そ の中 でも 醸熾 業上 有 用な アミノ酸脱炭酸菌 である醤油羽.酸菌のアス パラギン 酸脱 炭酸 性の 遺 伝的 背景 を明 らか に し、 さらにこうしたア スパラギン酸脱炭酸性醤油 乳酸菌を 実用化する目的でファージ 抵抗性菌株を育種すること である。

1.醤 油 汚染 菌Lact06a五弛ssp.Stra血E1株のクシレタミン 酸:ッ.アミノ酪酸対向輸 送に伴う   エネルギー生成

  汚染菌ヱふ餓死ば皿絡sp.E1株は醤油中のクシレタ ミン酸を脱炭酸する乳酸菌で ある。この脱 炭 酸 反 応 は バIP生 成 を 伴 う事 が観 察さ れた 。 このAIP生成 はナ イジ ェリ シ ンに より 完金 に 阻 害 さ れ 、 バ リ ノ マ イ シ ン で部 分的 に阻 害さ れ るこ とか ら、 主 とし てproton‐motiveforceの

△pH成分 が関 与 して いる こと が示 め され た。 また 、N幣m(邪lohe}馴 .carbo曲mideのCCD) に よ ル バIP生 成 が 阻 害 さ れ る こ と か ら 、proton‐mobveforceがH゛‐ATPaseに よ りATP生 成 エ ネ ル ギ ー に 変 換 さ れ る と 考 え ら れ た 。 ま た 、 細 胞 外 に 高 濃 度 のGABAが 存在 す る時 、餌P 生 成 が 阻 害 さ れ た 事 か ら 、 グ ル タ ミ ン 酸 の 取 り 込 み はGABAと の対 向輸 送 であ る事 が示 唆 さ れた 。こ れら の 結果 から 、こ の菌 の クシ レタ ミン 酸脱 炭 酸に 伴い 、グ ル タミ ン酸 とGABAの 電 気化 学的 に不 等 価なantiportとグ ル タミ ン酸 脱炭 酸に 伴 う細 胞内 プロ ト ン消 費に より 生成 し

‑ 272

男 和

房 博

田 井

冨 松

授 授

教 教

査 査

主 副

(4)

たprotorrmotvef()rceを用いて、DCCD感受性Ip囎IPaseによりAIPが生成することが示 めされた。

2.醤油乳酸菌1rbtragenococcus ha向め血絡D10株のプラスミドにコードされたアスパラギン   酸脱炭酸能

  醤油乳酸菌Tぬ畑出放ぴD10は醤油 諸味中のアスパラギン酸をアラニンに脱炭酸し、醤油 の味をマイルドにする。この菌株をethidiumbrom托kによルキュアリング処理することによ り、アスパラギン酸脱炭酸能を欠落した株が高頻度で得られた。アスパラギン酸脱炭酸能を欠 落し た株6株は 、す べて22kbのプ ラス ミドpD1が 脱落 して いた 。pD1はSaaによる制限切 断で10kbと12kbの2つの断片に分かれた。10kb断片の塩基配列を 調べたところ、少なくと も2つのORFが見られ、推定されるア ミノ酸配列からアスパラギン酸デカルボキシラーゼ遺 伝子とアスパラギン酸キャリアー遺伝子と推定した。アスパラギン酸デカルボキシラーゼ遺伝 子AヨpDとアスパラギン酸キャリアー遺伝子AspTからなるオペロン構造の存荏が示めされた。

3,アスパラギン酸分解陸醤油乳酸菌乃tragenococcus halop証′zびD10株のファージ抵抗牲   株育種とその利用

  アスパラギン酸脱炭酸能を有する醤油乳酸菌Zゐa向p拉′エ西D10のファージ抵抗性菌育種を 試みた。始めにファージ共存下に生育したコロニーより選択したが、それらのいくっかは不安 定な溶原株と考えられ、実用株には適さないと考えられた。そこでレプリカ法によルファージ との直接接触無しに抵抗性菌を1次選択した。さらに選択された候補株の中から、親株と同様 の生育を示す株を2次選択した。この方法で得られたファージ抵抗t嚠朱NO.1とNO.4はファ ージ吸着能は変化していなかった。

  NOIl株、NO.4株と も液体培地中のみならず諸味液汁や諸味中でもD10のホモロガスファ ージ¢D・10共存下に良好な生育を示した。乳酸発酵終了時に諸昧の香りを官能的に調べたとこ ろ 、 変 異 株 に よ る 諸 昧 は 親 株 に よ る も の と 、 官 能 的 に も 同 等 で あ っ た 。   以上のように今回の申請者の研究による醤油関連乳酸菌のアミノ酸分解とその利用に関す る研究は、産業的に有用な醤油乳酸菌の遺伝的背景を解明するとともに新たな有用菌株の育種 を行ったものである。

  よって審査員ー同は、樋口猛が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有するものと 認めた

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参照

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