博 士 ( 農 学 ) 本 多 和 茂
学 位 論 文 題 名
デ ル フ イ ニ ウ ム 属 の 交 雑 育 種 お よ び 胚 珠 培 養 に よ る 雑 種 育 成 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
デルフィニウムは、近年の切花鮮度保持技術の向上によって切花主要品目のーつになり つっあるが、古くから専ら花壇植栽用に利用されて来たため切花・鉢物用の品種の発達 は遅れている。また、最近盛んになってきたフラワーアレンジヌントやガーデニングを 背景とした花卉に対する関心の高まりや需要の多様化に伴い、デルフイニウムの生産場 面においても多様な切花・鉢物用の品種に対する要望が強い。これに対応して品種育成 を進めるには、これまで園芸的に利用されていないデルフィこウム属原種の再評価と改 良に加えて、園芸品種を含め、これらの原種を用いた種間交雑育種が極めて有効な手法 である。本論文は、このデルフイニウム属種間交雑育種を推進するために必要となる基 礎的事項についての研究成果を述べたもので、その内容の要旨は以下のとおりである。
I.開花期間と雌雄器官の成熟および雌蕊の受精能力
一花の開花期間は、平均5.6〜14.0日で、原種に比ベ園芸品種で短い傾向が見られた。
柱頭の成熟は、全ての種において雄蕊の開葯が終了した後に起こった。このことから本 属は雄性先熟であると判断されたが、その程度は種により異なり、原種では開葯終了1〜 5日後に柱頭の成熟が見られ雄性先熟の程度が大きかったのに対し、園芸品種では、この 程度は極めて小さく、雌雄同熟に近かった。一方、雌蕊が受精能カを保持している期間 は、柱頭が成熟した日から3〜5日問で、原種では園芸品種に比ベ長い傾向が見られた。
この期間内で種内交配を行うと、柱頭成熟当日に交配した場合に最も結実率が高く、得 られた 種子100粒重も大きかったことから、柱頭成熟当日が交配適期と判断された。
n.花粉の培養条件と稔性評価および長期貯蔵法
花粉稔性評価を目的とした好適な花粉培養条件は、ショ糖15%、ホウ酸50〜100ppm を含むpH5.1の1%寒天培地で、培養温度は15〜20℃であった。実際の交配によらない 花粉稔性の評価法として、染色法と培地上での発芽試験法とを比較したところ、染色法 による花粉の染色率、培地上での発芽率いずれも、被検花粉を用いた交配における結果 率との間に統計学的に有意な正の相関が認められた。相関係数と得られたp値の比較か ら、培地上での発芽試験が花粉稔性の評価法として信頼性がより高いと判断された。
25℃で貯蔵した花粉の培地上での発芽率は貯蔵10日後から急激に減少し、60日後に
は 全 ての 種 に おい て5%未 満 に なり 、 貯 蔵180日 後には全 く発芽 は見られ なくなっ た。
ま た25℃ で10日 間 貯蔵 した 花粉を交 配に用い た際の 結果率は 、新鮮 花粉の結 果率の1/2 以下 に減少し 、その 後貯蔵日 数が増 すと結果 率はさ らに減少 していっ た。一 方、―30℃ で貯 蔵した花 粉は、 貯蔵180日後で も新鮮花 粉に対 する発芽率の低下は20%程度で、22.4
〜 61.5%の 良好な発 芽率を示 した。 これらの 花粉を 用いて交配した時の結果率と新鮮花 粉 を 用 い た 場 合 の 結 果 率 と の 間 に は 統 計 学 的 な 有 意 差 は 認 め ら れ な か っ た 。
m.雑種育成のための胚珠培養の適用
1.わい性原種への花色導入(二倍体原種X二倍体原種)
わい性で青色花を有するD. grandiflorumと花色導入系統として橙赤色系のD.cardinale あるいはD. nudicauleとの間で正逆交雑を行った。全ての組み合わせで種子は得られたが、
発芽率は低く、雑種は得られなかった。しかし、胚珠培養を行った結果、D. cardinaleXD. grandiflorumおよ びD.grandiflorumXD.nudicauleで個体が得られ、これらの個体はアイ ソザ イ ム 分 析に よ り 雑種と判 定され た。雑種 は全て高 性とな り、目的 とした 花色のわ い 性 系 統 は 得 ら れ な か っ た が 、 胚 珠 培 養 に よ る 雑 種 育 成手 法 の 有効 性 が 確認 さ れ た。
2. 倍 数 性 の 異 な る 種 間 で の 雑 種 育 成 ( 四 倍 体 園 芸 品 種 X二 倍 体 原 種 ) こ れ ま で本 属 に おい ては倍数 性の異 なる種間 での雑 種育成は 困難とさ れてき たが、胚 珠培養により倍数性の異なる四倍体のD. hybnidum cv. Galahadと二倍体のD.grandiflorum 間で 個 体 が 得ら れ 、 その染色 体数か ら雑種と 判定され た。こ の雑種は 草勢が 強く、花 茎 数も 両 親 よ り多 か っ た。これ は三倍 体の特徴 が現れた ものと 判断され 、この ことは、 本 属 に お け る 人 為 三 倍 体 の 園 芸 的 利 用 の 有 効 性 を 示 唆 す る も の と 考 え ら れ た 。 培 養 中 の胚 の 発 育に 及ぽす培 地中の 多量塩基 類の濃 度(培地 濃度)の 影響に ついて、
前項 の1と 本項 に お いて 検 討 を行 っ た 結果 、 培 地濃度 と発芽 率との間 には一 定の関係 は なか っ た が 、発 芽 し た総胚珠 数に対 する得ら れた実生 数の割 合は、培 地濃度 が低くな る ほど 顕 著 に 高く な り 、通 常 の 濃度 のMS培 地 で は15.6% 、1/2MS培 地で は27.6% 、1/4MS 培地では43.8%であった。
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3.園芸品種(六倍体)と原種(二倍体)間での雑種育成
橙赤色系の花色導入を目的に六倍体の園芸品種であるべラドンナ系の白花D. belladonna cv. Casablancaと橙赤色系のD.nudicauleの間で胚珠培養を適用し雑種育成を試みた。その 結果D. nudicauleXD.belladorma cv.く'asablancaで雑種が得られた。しかし、雑種の花色 は両親 とは全く 異なる 青味紫か ら濃青味 紫とな り、花色 導入の目的は達成出来なかった。
N.原 種 と 園 芸 品 種 お よ び 胚 珠 培 養 に よ っ て 得 ら れ た 種 間 雑 種 の 花 色 素 の 分 析 橙赤色系のD. carぬnaたとD.門Hめc口Mをにはべラルゴニジンが、青色系のD.gm耐むめ刪m および 白色系D.緲ろnぬmcvl(謝al耐 にはデル フイこジンが含まれていた。得られた雑種 は全て デルフイ ニジン のみを有 していた 。この こ とから、デルフイニジンがべラルゴニ ジン に 対 し て遺 伝 的 に優 性 で ある と 推 察さ れ た 。ま た 、 白色 花 のD.ろgf切めMロcv. C謎ablancaにお いては 、アント シアニ ジンは一 切検出さ れなか ったにも かかわらず、D. nHdfcロHをXD. みピfぬめ′McvICasablancaより得られた雑種は青紫系の花色を持ち、デル フイニ ジンのみ を有し ていた。このことからD.ぬ馳め朋ロcv.CaSablancaは、色素本体と して デ ル フ イニ ジンを有 しては いないが 、デルフ イニジ ンを誘導 する遺 伝子(酵 素)を 持っている可能性が考えられた。
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分析した原種で、最も青色味が強かったD. grandiflorumは、cyanodelphinをアントシア ニン 色素総含 量の60% 以上と多く含んでいたのに対し、D. likiangenseは50%以下、さら に 得 られ た 雑 種は 全く含 まず、 これらの 花色は 青よりも むしろ紫 であっ た。この ことか らcyanodelphinの含量が 多くな ることで 花色は青 色味が強くなると考えられた。また、全 て の 雑種D. cardinaleXD.grandiflorum、D.grandiflorumXD.nuめcロHを そしてD. めめ襾d甜mcv.GmahadXD.呂′ロ′辺むめ川mで、D.gr口′ばガめrH胤が有するvioldelpmnの存在が 確認 された一 方で、cyanodelpmnは 一切検出 されな かった。 これは個 々のア ントシアニン の 遺 伝 に 関 し 、 異 な る 遺 伝 的 要 因 が 働 い て い る 可能 性 を 示唆 す る もの と 思 わ れた 。
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学 位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教 授 浅 教 授 大 教 授 佐 助教授 近
川 昭 一郎 澤 勝 次 野 芳 雄 藤 哲 也
学 位論文題 名
デ ル フ イ ニ ウ ム 属 の 交 雑 育 種 およ び 胚珠培 養による 雑種育成に関する研究
本 諭 文 は 、6章 か ら な り 、 図21、 表26、 文 献177を含 む 総 頁数130の 和文 論 文 で あ り 、 他 に 参 考 鷺 文11が 付 さ れ て い る 。
デルフィニウムは、近年の切花鮮度保持技術の向上により切花主要品目のーつ になりつつあるが、古くから専ら花壇植栽用に利用されて来たため切花・鉢物用 の品種の発達は遅れている。また、近年の花卉に対する関心の高まりや需要の多 様化に伴い、生産場面においても多様な切花・鉢物用の品種に対する要望が強い。
これに対応して品種育成を進めるには、これまで園芸的に利用されていない原彊 の再評価と改良に加えて、園芸品種を含め、これらの原種を用いた彊岡交雑育種 が極めて有効な手法である。本諭文は、このデルフィニウム属彊間交雑育種を推 進するために必要となる基礎的知見の蓄積と、従来の交雑育種に加わる新たな雑 種育成手法の確立を目的とし、以下の結果を得ている。
1‐開花期間と雌雄器官の成熟および雌蕊の受精能力
―花の開花期間は、平均5〜 14日で、原彊に比ベ園芸品種で短い傾向が見られ た。柱頭の成熟は、全ての彊において雄蕊の開葯が終了した後に起こったことか ら、本属は雄性先熟である事が明らかになった。雌蕊が受精能カを保持している 期間は、柱頭が成熟した日から3〜5日聞で、原謹では園芸品種に比ベ長い傾向 が見られた。この期間内で種内交配を行うと、柱頭成熟当日に交配した場合に最 も結実率が高く、得られた種子100粒重も大きかった。.
2.花粉の培養条件と稔性評価および長期貯蔵法
花粉 稔 性評 価 を 目的 と した 好 適 な花 粉 培養 条 件 は、 シ ョ塘15% 、ホウ酸50‑‑
1 00ppmを 含 むpH5.1の1% 寒 天 培地 で 、培 養 温 度は15 ‑ 20℃で あ っ た。 こ の 培地 上での発芽 試験法と 被検花粉 を用いた 交配にお ける結果 率との間に は、統計 学的 に有意な正 の相関が 認められ た。
‑30℃ で 貯蔵 し た 花粉 は 、貯 蔵180日後 で も新 鮮 花 粉に 対す る人工培 地上での 発芽 宰の低下は20%程度で 、良好な 発芽宰を 示した。 また、こ れらの花粉 を用い て交 配した時の 結果宰と 新鮮花粉 を用いた 場合の結 果宰との 間には統計 学的な有 意差 は認められ なかった 。
3.雑種育成のための胚珠培養の適用
わ い性で青 色花を有 するD・ grandiflorumと 花色導入系銃として橙赤色系のD・ cardinaleあ るいはD. nudicauleと の同で正 逆交雑を 行った。全ての組み合わせで 種 子は得 られたが 、発芽率 は低く、 雑謹は得 られなかっ た。しか し、胚珠 培養を 行 っ た 結果 、D.cardinaleXD.gnm嫐 げM朋お よ びn呂朋 門 田 細mXD.み ば批ロロセ で 個体が 得られ、 これらの 個体はア イソザイ ム分析によ り雑種と 判定され た。目 的 とした 花色のわ い性系統 は得られ なかった が、胚珠培 養による 雑種育成 手法の 有効性が確認された。
これまで 本属にお いては倍 教性の異 なる彊間 での雑種育 成は困難 とされて きた が、胚珠培養により倍数性の異なる四倍体のD.轟y加洫mcv.(湖ahadと二倍体のD. 鄒刪ザみ甜m間あるいは六倍体の園芸品種であるD.ぬぬあ´釘坿cv‐C認ablancaとD. ぬ 鰄 凹 ロ 昆 と の 聞 で 個 体 が 得 ら れ 、 そ の 染 色 体 数 か ら 雑 種 と 判 定 さ れ た 。 培養中の 胚の発育 に及ぼす 培地中の 多量塩基 類の濃度( 培地濃度 )の影響 を検 討 した結 果、培地 濃度と発 芽率との 間には一 定の関係は なかった が、発芽 した総 胚 珠数に 対する得 られた実 生数の割 合は、培 地濃度が低 くなるほ ど高くな った。
4‐ 原 彊 と 園 芸 品種 お よび 胚 珠 培養 に よっ て 得 られ た 彊 聞雑 種 の花 色 素 の分 析 橙 赤 色 系 のD. cardinaleとD.nudicauleに はぺ ラ ルゴ ニ ジ ン、 青 色系 のD. graruliflor umおよび白色系D. hybrrdum cv. Galahadにはデルフィニジンが含まれて い た。 得られた 雑種は全て デルフィ ニジンの みを有し ていた。 このこと から、デ ル フ ィ ニ ジ ン が べ ラ ル ゴ ニ ジ ン に 対 し て 遺 伝 的に 優 性 であ る と推 察 さ れた 。 分析し た原彊で 、最も青色 昧が強か ったDI grandiflorumは、cyanodelpmnをア ン 卜シ アニン色 素総含量の60%以上と 多く含ん でいたの に対し、D.蹴ぬ轄 弸eは 50%以下 、さらに 得られた雑 種は全く 含まず、 これらの 花色は青 よりもむ しろ紫 で あ っ た。 こ のこ と か らcyanodelpmnの含量が 多くなる ことで花 色は責色 昧が強 くなると考えられた。また、全ての雑種で、D.雪r。耐批 ′Mmが有するvioldelpmn の 存 在 が確 認 され た 一 方で 、cyanodelpmnは― 切検出さ れず、こ れは個々 のアン 卜 シア ニンの遺 伝に関し、 異なる遺 伝的要因 がーいて いる可能 性を示唆 するもの と考えられた。