博 士 ( 農 学 ) 趙 慧 卿
。 学 位 論 文 題 名
サ イ シ ウ モ ミ 種 子 の 発 芽 特 性 及 び 菌 害 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
サイ シウ モミ .(Abies koreana Wilson)は、 韓国の固有樹種であり、近年、桔死する 個 体 が 増 え , 後 継 樹 の 更 新 が 少 な い た め , 林 分 衰退 を懸 念す る報 告が 出さ れて いる 。 衰 退 現 象 の 詳 細 は ま だ 解 明 さ れ て お ら ず 、 生 理 ・生 態的 な検 討も 加え られ てい ない 。 本 研 究 で は 、 サ イ シ ウ モ ミ の 更 新 初 期 段 階 に お ける 生理 ・生 態的 特性 を解 明す るた め に 、 韓 国 で 最 も 大 面 積 に サ イ シ ウ モ ミ 林 が 厳 正 保護 林と して 保全 され てい る済 州島 の 漠 拏 山 で 更 新 の 実 態 調 査 と 種 子 発 芽 に 大 き な 影 響を 与え る温 度、 水分 、光 の有 無に 対 す る 種 子 の 発 芽 反 応 に つ い て の 基 礎 試 験 を 行 い 、 現 地 で 越 冬 さ せ た 種子 か ら 菌 を 検 出 ・分 離し 、接 種試 験に より 菌に よる 発芽 阻害 を検証 した 。
第1章 序論
韓 国 に お け る 関 連 研 究 の サ イ シ ウ モ ミ の 分 布 、林 分構 造の 特徴 をレ ビュ ーし 、サ イ シ ウ モ ミ 林 の 維 持 に は 生 理 ・ 生 態 的 研 究 が 不 可 欠で ある こと を示 した 。ま た、 類似 す る 北 海 道 の 研 究 事 例 か ら 、 針 葉 樹 天 然 林 に お け る天 然更 新阻 害の 要因 とし て菌 害の 重 要 さを 指摘 した 。
第2章 サイ シウ モミ の更新 状況 と環 境
漢 拏 山 サ イ シ ウ モ ミ 林 に お い て 稚 樹 の 分 布 状 態の 特徴 を把 握し 、稚 樹分 布の 良好 地 と 不 良 地 に つ い て 、 温 度 を 中 心 に 環 境 条 件 を 検 討し た。 サイ シウ モミ 林分 は高 い林 分 密 度 (1,560本/ha)で、 純林 を形 成し 、稚 樹は 林内 では 見られ ず、L関 数に よる 解析 で は 、 林 縁 部 サ サ 密 生 地 の 岩 周 辺 に 集 中 分 布 し て いる と判 定さ れた 。林 内は うつ 閉し て お り 、 積 雪 期 間 が サ サ 地 と 岩 陰 に 比 べ て 比 較 的 長く 、平 均気 温も 低い 傾向 を示 した 。 林 縁 部 の サ サ 地 で は サ サ が 密 生 し 、 厚 い 落 葉 層 のた め種 子発 芽・ 定着 が妨 げら れる こ と が 予 想 さ れ た 。 し か し 、 サ サ 地 の 中 で も 岩 の 周辺 は表 土の 裸出 した スペ ース が存 在 し 、 種 子 の 発 芽 と 実 生 の 成 長 に 好 適 な 条 件 を 与 え る 可 能 性 が あ る と 考 え ら れ た 。 第3章 サイ シウ モミ 種子の 発芽 特性
本 試 験 で は 北 海 道 に 自 生 す る モ ミ 属 で 遺 伝 的 な類 縁性 が高 く、 混交 樹種 も類 似し 、 天 然 更 新 の 容 易 な ト ド マ ツ の 発 芽 特 性 と の 比 較 が有 効で ある と考 えて 比較 試験 を行 っ た 。 試 験 に 用 い た 種 子 は 、 採 取 年 に 試 験 を 行 っ た 明 暗処 理 の サ イ シ ウ モ ミ を 除 き2樹 種 と も 前 年 秋 に 採 取 さ れ 低 温 貯 蔵 庫 に 保 管 さ れ て い たも の を 用 い た 。2樹 種 の 種子 は 低 温 (15℃ ) と 高 温 (30℃ ) で は 発 芽 率 が か な り低 下し たが 、螢 光灯 (種 子上 の照 度
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26001ux) による 8 時間日 長処理で 2 樹種と も発芽率が 有意に高く なり、加光により発 芽が 促進された。ただし、最適温度(サイシウモミ: 20 ℃、トドマツ: 25 ℃)では、
明暗 処理聞で有意差が認められず、ほぼ等しい発芽率を示し、最適温度下では光の促 進効果を受けないことが予想された。
30 〜150 日の低温湿層処理により、発芽速度、発芽率は明らかに上昇した。低温湿層 処理 後トドマツ は 5 日目 前後から発 芽を開始したが、サイシウモミは発芽開始まで 10 日前後を要した。現地の積雪期間にほば等しい150 日問の低温湿層処理では,10 〜30 ℃ の各 温度における最終発芽率は,無処理種子に比ベ,サイシウモミで 8.5 〜1.7 倍,ト ドマ ツで 9.2 〜 2.1 倍まで増加した。低温湿層処理は低温での発芽率を著しく増大させ た。 サイシウモミの最終発芽率に達する日数は各発芽温度とも40 日前後、トドマツで 20 日前後を要した。低温湿層処理後の乾燥の影響は、 PEG (polyethylene glycol) 6000 溶 液に よる乾燥処理によってサイシウモミの発芽率はトドマツに比べ高い水ポテンシャ ルで 有意に低下し、サイシウモミ種子はトドマツ種子に比べ乾燥ストレスに影響され やすいと推察された。
第4 章サイシウモミ種子の菌害
漢拏 山で林内、ササ地、岩陰の各立地に播種し越冬させたサイシウモミ種子を回収 し発 芽率と菌の感染率を調べた。さらに、検出された菌については接種試験を行い、
病原性を検定した。越冬種子の発芽率は、ササ地のものが50 〜 68 %、岩陰では6 〜50 %、
林内では O 〜 40 %を示し、林内の発芽率はササ地に比ベ有意に低くなった。貯蔵種子か ら菌 は分離されず、現地で回収した越冬種子からは未同定の種を含め、約 20 種の菌が 分離 された。そ の中で感染 率 3 %以 上のもの 8 種を選び接種試験を行った。8 種のうち Racodium therryanum は北海道において針葉樹の天然更新阻害の大きな要因となってい るが、韓国では報告例がなく、本研究が最初の報告となる。菌による種子の感染率は、
R . therryanum の平均感染率が19.9 %と最も高くなった。R . therryanum はササ地と岩陰 に比 べ、林内で感染率が有意に高く、ササ地では感染率が最も低かった。越冬種子の 発芽率と感染率との間には R . therryanum では負の相関があり、発芽率の低下に関与す る こ とが 示 され た 。他の菌 は発芽率の 低下に関与 していなか った。積雪 期間と R . therryanum による感染率との間では正の相関が有意であり、他の菌では有意な相関は みられなかった。積雪期間が長いほどR . therryanum による感染率が高くなった。菌に 感染してから30 日後では活カ喪失率の変化は大きくなく、100 日後に尺, therryanum に よる 活カ喪失率は 0 ℃で 100 %と他の菌に比べ有意に極めて高い値を示した。23 ℃では 約 15 %と低下した。林内のサイシウモミ種子は冬季積雪期間中にR . therryanum により 活カを失うものが多いと予想された。
第5 章総合考察
以上 の結果から、サイシウモミの更新初期である種子段階では、低温湿層期間であ る積 雪期間と菌による影響を大きく受けると考えられる。林内で稚樹が存在しない原 因は、本研究で明らかになったR . therr yanum による菌害の可能性が高いと考えられた。
漢拏 山では立地による積雪期間の違い、温度条件及び菌の分布の違いがサイシウモミ
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の更新に影響していると推察できる。土壌水分が比較的高い立地に更新が制限される 可能性があるが,発芽期間がトドマツより長いことから,個体群としては晩霜害など による被害は回避しやすいこ。とも考えられる。本研究では岩の存在と更新の関係につ い´ては検討が不十分であり、今後の重要な課題である。
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査 教授 高橋邦秀 副査 教授 矢島 崇 副査 助教授 渋谷正人
副査 教授 小池孝良(北方生物圏フイールド 科学センター)
学 位 論 文 題 名
サ イ シ ウ モ ミ 種 子 の 発 芽 特 性 及 び 菌 害に 関 す る 研究
本 論 文 は5章、105頁 の和 文論 文で 、図31、 表16、 引用 文献110から なり 、 参考 論文2 編が添えられている。サイシウモミ(Abies koreana Wilson)は、韓国の固有樹種であり、
近年、生息域が減少し、林分衰退が懸念されて いるが、衰退現象の詳細はまだ十分に解 明されていない。本研究は、サイシウモミの更 新初期段階における生理・生態的特性を 明らかにするため、済州島漠拏山のサイシウモ ミ保護林での更新実態調査及ぴ種子発芽 に影響を与える温度、水分、光の有無に対する 種子の発芽反応について基礎試験を行う とともに、現地で越冬させた種子から菌を検出 ・分離し、接種試験により菌による発芽 阻害を検証した。
1.実態調査
漢 拏山 のサイシウモミ 林では稚樹は林内に分布せず、L関数による解析から林縁部サ サ密生地の岩周辺に集中分布していると判定さ れた。林内はうつ閉しており、積雪期間 がササ地や岩陰に比べて長く、平均気温も低い 傾向を示した。林縁部のササ地の中に分 布する岩周囲には表土の裸出した狭いスペース が存在し、種子の発芽と実生の成長に好 適な空間条件を与える可能性が高いと考えられ た。
2.種子の発芽特性
発芽試験は、系統遺伝学的に最も近縁とされ 、天然更新が容易なトドマツとの比較が 有効であると考えて比較試験を行った。発芽試 験では吸水速度、発芽時の含水率、光及 び低 温湿 層処 理に よる 促進 効果 を調 べた。発芽時の 含水率は2樹種とも100%前後で発 芽温 度に よる 差は 認め られ なか った 。 螢光 灯( 種子 上の 照度26001ux)による8時間日 長処 理に より、2樹種とも発芽が促進されたが、最適 温度(サイシウモミ:20℃、トド マツ:25℃)では、明暗処理による有意差は認 められず、光の促進効果は極めて弱いと 考えられた。30 ‑150日の低温湿層処理により、発芽速度、発芽率は明らかに上昇した。
現地 の積 雪期間にほぼ等 しい150日間の低温湿層処理 では、10、15、20、25、30℃の各 温度における最終発芽率は,無処理種子に比べ ,サイシウモミで8.5〜1.7倍,トドマツ で9.2〜2.1倍まで増加し低温で促進効果が大き かった。最終発芽率に達する日数は各発
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芽温 度と もサ イシ ウモ ミで38日 前後 、ト ド マツ で24日前後を 要し、トドマツでは低温 湿層処 理後直ちに発芽を開始するが、サイシウモミは発芽開始 まで数日を要した。低温 湿層 処理 後、PEG6000溶 液による乾燥処理によってサイシウモ ミの発芽率はトドマツに 比べ高い水ポテンシ ャルで有意に低下し、乾燥ストレスに影響されやすいと推察された。
現地 で回 収し た越 冬種 子の 発芽 試験 によ り 林内 の越冬種子の 発芽率はササ地に比べ有 意に低くなった。
3.菌害による更新阻 害
越冬 種子ーの菌の平均感染率はRacodium therり,cmumが最も 高く19.9%であったがサ サ地と 岩陰に比べ、積雪期間が長い林内での感染率が有意に高 くなった。発芽率と感染 率との 関係は凡therryanumが負の相関となり発芽率の低下に関 与することが示された。
培 養 に よ り 約20種 の 菌が 分離 され 、感 染率3%以 上の もの8種 を 選び 、接 種試 験を 行 った 。8種の う ち兄therryanumは北海道において針葉樹の天然 更新阻害の大きな要因と して報 告されているが、韓国では未発見であり最初の報告であ る。兄therryanumに感染 させ 、O℃で 低 温湿 層後30日 では サイ シウ モミ 種子 の活カ喪失率は大きくなく、100日 後の 活力 喪失 率は100% と他の菌に比べ有意に極めて高い値を 示した。林内のサイシウ モミ 種子 は冬 季積 雪期 間中に兄thenycmumにより活カを失うも のが多いと予想された。
以上 の結果から、サイシウモミ種子の発芽は、低温湿層期間 である積雪期間と菌によ る影 響を 大き く受 け、 林内 で稚 樹が 存在 し ない 原因 は兄thenyanumに よ る菌 害の可能 性が高 いことを示した。サイシウモミ林縁部ササ生地に存在す る岩周囲がサイシウモミ の更新 立地となっているのは、積雪期間の違い、温度条件、土 壌水分及び菌の分布の違 いが影 響していると推察した。サイシウモミは発芽速度が遅く 発芽期間が長く,低温湿 層後、 トドマツのような一斉発芽による生息域の確保は難しい が、晩霜害など突発的な 気 象 害 に よ る 被 害 は 回 避 し や す く 、 個 体 の 維 持 に は 有 利 と 考 察 し た 。 本研究は、サイシ ウモミ種子の発芽について基礎的な生理・生態的性質を明らかにし、
更新阻害要因として 兄therryanumによる菌害の影響が大きいことを韓国で初めて示した。
これらの結果は、学 術的に高く評価されるとともにサイシウモミ林の今後の持続的管理に 重要な更新適地の情 報を提供するものであり、審査員一同は、趙慧卿が博士(農学)の学 位を受けるのに十分 な資格を有するものと認めた。
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