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博士(農学)堀江和美 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(農学)堀江和美 学位論文題名

木質構造限界状態設計法に関する基礎的研究 学位論文内容の要旨

  限界状態設計法は、構造物が通常の使用に支障をきたす過度の変形や損傷を生じない限 界の状態(使用限界状態)や、建物が倒壊を免れる限界の状態(終局限界状態)に注目し、

そのような限界を超える確率(損傷や破壊を生じる確率)を、構造物の耐用期間を通し、

一定限度以下に抑えようとする構造設計法である。

  このような考え方を、実務設計に適用するための現実的な方法として、荷重・耐力係数 法が用いられている。荷重・耐力係数設計法の体系は、現行の建築基準法が基本としてい る許容応力度設計法と形式的に同様であり、設計耐力(=耐力係数x耐カの公称値)≧設 計荷重効果(=荷重係数x荷重効果の基本値)と表現される。現行の許容応力度設計法と 大きく異なる点は、安全性・使用性の確保に対し、荷重や耐カの確率変動や安全性・使用 性にっいての確率的信頼性が考慮されていることである。

  本研究は、この設計法をわが国の木質構造に適用するにあたって、定量的評価上の懸案 事項となっていたいくっかの課題に対して検討を加え、「木質構造限界状態設計指針」の提 案を可能としたものである。

  第2章では、確率分布パラメータに及ぼす推定手法の影響にっいて検討した。構造部材 の耐カを評価する場合、仮定する確率分布モデルによって、計算される破壊確率が異なる。

このため、どのような確率分布モデルを採用するかは、限界状態設計法による定量的評価 の重要な因子となる。

  確率分布モデルの適否について定量的に論じるためには、まず標本から母数(パラメー タ)を推定する手法についての検討が必要になる。この手法としてはこれまで、最尤法、

積率(モーメント)法、線形最小二乗法、非線形最小二乗法、Foschiらの方法などが提案 されている。そこで、これらの推定手法がパラメータ算出におよぼす影響を製材の曲げ強 度、曲げヤング係数に注目して検討し、赤池情報量規準(AIC)を用いて、各種の確率分布 モデルの適合性について検討した。その結果、分布パラメータの算出が常に可能なこと(計 算結果が必ず収束すること)、打ち切ルデータにも対応できることなどから、最尤法が最も 適しているとの結果を得た。

  この推定法を適用して、正規分布、対数正規分布、2Pワイブル分布、3Pワイブル分布を 比較した結果、確率分布モデルとしては、ワイブル分布、特に物理的意味の明確な2Pワイ ブル分布が適していることを示した。

  第3章では、ワイブル分布の下側許容限界値の算出法について検討した。荷重・耐力係 数法を適用する際には、許容応力度法と同様に、強度の公称値が必要である。この公称値 は、下側5%値(信頼水準75%)とされることが多い。

  その算出方法は、確率分布形を仮定して算出する方法(パラメトリック法)と順序統計 量として算出する方法(ノンパラメトリック法)とに大別できるが、破壊確率の計算は確

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率 分布 形を 仮定 して 行う こと が一 般的であるため、公称値はパラメトリック法を用いて算 出 する のが 望ま しい と考 えら れる 。しかし、正規分布及び対数正規分布の公称値について は パラ メト リッ ク法 によ る算 出方 法が確立しているのに対し、ワイブル分布については、

これまでノンパラメトリックが主流となっている。

  そこ で、 正規 分布 及び 対数 正規 分布 におい て用 いら れて いるK値を利用して、ワイブル 分 布の 下側 許容 限界 値を 算出 する 手法を誘導した。この手法による数値シミュレーション を 、正 規分 布、 対数 正規 分布 、ワ イブル分布に対して行い、その定量的な妥当性を確認し た。

  第4章で は、構 造部 材の 設計 (破 壊) 点に およ ばす 確率 分布 モデルの影響にっいて検討 し た。 部材 例と して 床梁 と母 屋を 取り上げ、それらの終局限界状態と使用限界状態におけ る 設計 点を 、曲 げ強 度、 曲げ ヤン グ係数に対し、正規分布、対数正規分布、2Pワイブル分 布 、3Pワイ ブル 分布 を仮 定し て算 出し、適用する確率分布モデルによる相違を比較し、以 下の点を明らかにした。

1.設計点に関する確率分布の影響

(1) 100%のデータから算出したパラメータを用いた場合の、床梁および母屋の使用限界状 態 にお ける 設計 点は 、信 頼性 指標 (〆)が一定値を越えると、仮定分布による差が生じ、

対 数正 規分 布、3Pワ イブ ル分 布、2Pワイブル分布、正規分布の順に設計点の値が小さくな る。

(2)下 側裾 野15% のデ ータ から 算出 した パラ メー タを 用い た場 合には、実用的な目標信頼 性 指標 の範 囲内 では 、仮 定分 布に よる差異がほとんど生じない。この傾向は、特に変動係 数の小さい場合に明白である。

2.設計点と公称値の比較

(1)終局限界状態の場合、公称値としての下側5%値(信頼水準75%)を基にした基準強度 特性値を用いれば、目標信頼性指標を確保できる。

(2)使 用限 界状態 の場 合、 設計 点は 基準弾性特性値(50%値(信頼水準75%))付近に存在 する。

  第5章で は、耐 力係 数に およ ばす 確率 分布 モデ ルの 影響 につ いて検討した。強度の公称 値 を下 側5%値(信頼水準75%)、曲げヤング係数の公称値を平均値として、荷重・耐力係 数 を算 出し 、樹 種や 等級 の違 いに より荷重・耐力係数の値がどのように異なるのかを比較 し、以下のような結果を得た。

1.終 局限 界状態 にお ける 耐力 係数 や主 荷重 の荷 重係 数は 、対 数正規分布仮定の標準偏差

( ぎ) や2Pワイ ブル 分布 の形 状係 数(m)に よっ て決 まる 。こ れらの値は樹種や等級によ っ て異 なる ため 、画 一的 な荷 重・ 耐力係数を用いることはできない。また、主荷重以外の 荷 重 係 数 の 値 は 、 目 標 信 頼 性 指 標 、 樹 種 、 等 級 に よ ち ず ほ ぼ 一 定 で あ る 。 2.終 局限 界状態 での 耐力 係数 の値 は、公称値を下側5%値(信頼水準75%)とすると、地 震 荷重 を含 むか 含ま ない かで 、標 準偏差や形状係数の影響が異なる。しかし、公称値を平 均 値 と す れ ば 、 地 震 荷 重 を 含 む か ど う か に よ ら ず 、 同 様 の 傾 向 と な る 。   第6章で は、現 行の 許容 応力 度設 計法 の信 頼性 指標 を算 出し た。実務設計では設計者が 目 標信 頼性 指標 を設 定し て、 提示 された荷重・耐力係数を用いて設計を行うことができる が 、設 計者 各人 が目 標信 頼性 指標 を決めることは実際には難しく、既往の設計法による構 造 物と 同程 度の 安全 性を 目標 とす る方法(既存設計法のキャリブレーション)を採用する の が最 も現 実的 であ ると され てい る。このためには、既往の設計法による構造物が、実際 に ど の 程 度 の 信 頼 性 指 標 を 持 っ か が 、 設 計 資 料 と し て 示 さ れ て い る 必 要 が あ る 。   荷重 ・耐 力係 数は 、目 標信 頼性 指標と各効果の確率分布形、平均値/基本値または平均

(3)

値/公称値から算出可能である。そこで、平均値/基本値または平均値/公称値を変動係 数で表現する計算式を誘導し、荷重・耐力係数の算出法を求めた。このキャリブレーショ ンを行うことにより、現行の許容応力度設計法に従って設計された構造物が、各種の設計 条件に対し、どの程度の信頼性指標を持っかを算出した。

  第7章では、限界状態設計法に関するわが国の現状と、この設計法を適用することの実 際上の利点、また今後この設計法を定着させ、定量的な改善を行うための課題について論 じた。

(4)

学位 論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 助教授 教授

平 井 卓 長 澤 徹 小′泉章 小 松 幸

  学 位 論 文 題 名

平(京都大学生存圏研究所)

木質構 造限界状 態設計 法に関す る基礎的研究

  本 論 文 は 図26、 表24、 文 献55を 含 む 総 頁 数89の 和 文 論 文 で 、 他 に 参 考 論 文6編 が 添 え ら れ て い る 。

  限 界 状 態 設 計 法 は 、 構 造 物 の 使 用 に 支 障 を き た す 過 度 の変 形 や 損傷 を 生 じ ない 限 界 の状 態 ( 使用 限 界 状態 ) 、 構 造物 が 倒 壊を 免 れ る限 界 の 状態 ( 終 局限 界 状 態) な ど に 注目 し 、 そ の 限 界 を 超 え る 確 率 ( 損 傷 や 破 壊 を 生 じ る 確 率 ) を 、 構 造 物の 耐 用 期間 を 通 し 、一 定 限 度 内 に 抑 え よ う と す る 構 造 設 計 法 で あ る 。 こ の 設 計 法 を 実 務 設計 に 適 用す る 現 実 的方 法 と し て 、 荷 重 ・ 耐 力 係 数 法 が 提 案 さ れ て い る 。 荷 重 ・ 耐 力 係 数 法が 現 行 の許 容 応 力 度設 計 法 と 大 き く 異 な る 点 は 、 安 全 性 ・ 使 用 性 の 確 保 に 対 し 、 荷 重 ・ 耐カ の 確 率変 動 や 安 全性 ・ 使 用 性 に っ い て の 確 率 的 信 頼 性 が 考 慮 さ れ て い る こ と で あ る 。

  本 研 究 は 、 上 記 の 設 計 法 を わ が 国 の 木 質 構 造 に 適 用 す るに あ た って 解 決 す べき 、 い くつ か の 定 量 評 価 上 の 課 題 に 対 し 、 以 下 の よ う な 詳 細 な 検 討 を 加 え た も の で あ る 。 1. 確 率 分 布 パ ラ メ ー タ に 及 ぼ す 推 定 手 法 の 影 響 に つ い て の 検 討

  構 造 部 材 の 耐 カ を 評 価 す る 場 合 、 確 率 分 布 モ デ ル に よ って 、 計 算さ れ る 破 壊確 率 が 異な る 。 こ の 確 率 分 布 モ デ ル の 適 否 を 論 じ る に は 、 ま ず 標 本 分 布か ら 母 数分 布 を 推 定す る 手 法 の 検 討 が 必 要 で あ る 。 こ の 研 究 で は 、 製 材 の 曲 げ 強 度 、 曲 げヤ ン グ 係数 に 注 目 し、 最 尤 推 定 法 、 積 率 ( モ ー メ ン ト ) 法 、 線 形 最 小 二 乗 法 、 非 線 形 最 小二 乗 法 、Foschiら の 方法 に つ い て 、 赤 池 情 報 量 規 準(AIC)を 指 標 と し て 検 討 を 加 え た 。 そ の 結 果 、 計 算 結 果 が 必 ず 収 束 す る こ と 、 打 ち 切 ル デ ー タ に 対 応 で き る こ と な ど か ら 、 最 尤法 が 最 も適 し て い るこ と を 示 し た 。

  最 尤 法 を 適 用 し て 、 正 規 分 布 、 対 数 正 規 分 布 、2Pワ イ ブ ル 分 布、3Pワ イブ ル 分 布を 比 較 し た 結 果 、 確 率 分 布 モ デ ル と し て は 、2Pワ イ ブ ル 分 布 が 最 も 適 し て い る こ と を 示 し た 。 2.ワ イ ブ ル 分 布 の 下 側 許 容 限 界 値 の 算 出 法 に つ い て の 検 討

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  荷 重・ 耐力 係数 法を 適用 する 際に 必要 な強度の公称値は、下側信頼水準75%の5%値と され るこ とが 多い。その算出方法は、確率分布形を仮定して算出する方法(パラメトリッ ク法 )と 順序 統計量として算出する方法(ノンパラメトリック法)とに大別できるが、破 壊確 率の 計算 にあたっては、パラメトリック法による公称値を算出するのが望ましい。し かし 、ワ イブ ル分布にっいては、これまでパラメトリック法による算出方法が示されてい ない 。そ こで 、正 規分 布に おけ るガ 値を 利用して5%値を算出する手法を誘導し、数値シ ミュレーションによってその妥当性を検証した。

3.構 造 部 材 の 設 計 点 に お よ ぼ す 確 率 分 布 モ デ ル の 影 響 に っ い て の 検 討   床 梁と 母屋 の曲げ強度、曲げヤング係数を取り上げ、終局限界状態と使用限界状態にお ける 設計 点を 各種の確率分布モデルに対して計算し、実用的な目標信頼性指標の範囲内で 設計 点を 求め るに は、100% のデ ータ を用 いるより、下側裾野15%のデータからパラメー タを 算出 する 方が、確率分布仮定による差が小さくなり、安定した評価が可能になること を示 した 。ま た、 終局 限界 状態 では 、公 称値として下側信頼水準75%の5%値を、使用限 界 状 態 で は 、 下 側 信 頼 水 準75% の50% 値 を 用 い る の が 適 当 で あ る こ と を確 認 し た 。 4.耐力係数におよぼす確率分布モデルの影響にっいての検討

  上 記の 公称 値を指標として荷重・耐力係数を算出し、各樹種、等級に対するその値を比 較し、以下の結論を得た。(1)終局限界状態における耐力係数や主荷重の荷重係数を決める 分布 パラ メー タは樹種や等級によって異なるため、これを考慮した荷重・耐力係数の設定 が必要である。(2)終局限界状態での耐力係数に及ぼす標準偏差や形状係数の影響は、公称 値を 下限 推定 値とすると、地震荷重を含むかどうかで異なるが、公称値を平均値とすれば そのような違いは生じない。

5.現行の許容応力度設計法の信頼性指標の算出

  限 界状 態設 計法では、設計者各人が目標信頼性指標を設定することが許されている。し かし 、こ の設 定は実際には難しく、既往の設計法と同程度の安全性を目標とするのが現実 的で ある とさ れている。このためには、既往の設計法による構造物が、実際にどの程度の 信頼 性指 標を 持っかを、設計資料として示しておく必要がある。そこで、現行の許容応力 度設 計法 に従 って設計された構造物の、各種の設計条件に対する信頼性指標を算出し、限 界 状 態 設 計 法 を 実 務 に 適 用 す る た め の 目 標 信 頼 性 指 標 を 提 示 し た 。   以 上の 検討 により、わが国の木質構造に限界状態設計法を導入するために必要な基礎手 法の 確立 と数 値評価資料の整備を行った。この成果により、日本建築学会における「木質 構造 限界 状態 設計指針」の提案を可能とし、わが国の木質構造設計に大きな前進をもたら した。

  よ って 審査 員一同は、堀江和美が博士(農学)の学位を受けるに十分な資格を有するも のと認めた。

参照

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