博士(農学)山田一茂 学位論文題名
積雪気 候値の メッシュ化と利用に関する研究 学 位論文 内容の要 旨
本論文は、図56、表9、179ぺージからなる和文論文で、別 に21編の参考文献が添えられている。本論文の構成は8章で
、その要旨は次―のとおりである。
我が 国にお ける気象 観測地点は、約21x21kmに1点の割合 である。 しかし、農耕地ではより密な気象データの要望が強 い。そのため「類似の地理的・地形的条件下では同じ気候値 が分布する」との前提条件のもとに、積雪地帯の農耕地等に ついて、気象観測地点のデータを使用して、積雪日数、最深 積雪を約lkm のメッシュ単位で求める手法を開発した。 さら に、開発したメッシュ気候値とオオムギ、果樹の特性から、
北陸地方について雪害を回避し、安定した農業を行うための 栽培適地のメッシュ図を開発した。
第1章は緒言で、既往の研究成果を踏まえて、本研究の目 的を述べている。すなわち、メッシュ気候値や積雪に関する 既往の研究を述べ、従来の気候の等値線図などでは農業利用 に十分でないことを指摘した。そのため、約lkm 単位で求め たメッシュ気候値が必要であり、また多雪地帯は農業,生産や 農作業に積雪が大きく影響することから、積雪気候値のメッ シ ュ 化 が 要 望 さ れ て い る こ と に つ い て 論 述 し た 。 第2章は「積雪データに関する.統計解析」である。北陸の 積雪日数、最深積雪の観測データについて、統計的解析から 変動特性を調べ、解析データの条件(年次、期間、観測地点
) を 明 ら か に し て 、 再 現 期 待 値 等 を 算 出 し た 。 積雪日数は変動係数が約20〜 50%、周期が35年前後である こと、最深積雪では変動係数が約30〜80%、周期が5〜10年の 問と20〜30年の間にあることが判明した。また、全観測期間 ―187―
の平均値に対するずれは、平均化期間10年で土20%前後、30
〜40年で土5%前後、60年で土3%以内となる。 これより、代 表性のある平均値や再現期待値の計算は、短期の気候変動の 影響が除かれる、約2反復の周期を含んだ1911〜1970年のデー タを用いることが妥当であると認められた。 このデータをも とに、5年、10年、20年に1回の確率で起こる積雪日数、最深 積雪(再現期待値5年、10年、20年の値)を計算し、メッシュ 化のためのモデル開発の基礎データとした。
第3章は「積雪日数のメッシュ化」である。北陸地方につ いて、韵.lkm 単位の積雪日数を計算した。すなわち、国土数 値情報を用い地理的・地形的条件を16種類定義し、モデルの 変数とする地理・地形因子を設定した。それぞれの値は、観 測地点から東西、南北各約31x 31km(31x 31メッシュ)のほぼ 正方形の面積ユニットを設け、国土数値情報を用いて計算し た。これらの地理・地形因子を説明変数とした解析を行い、
平均積雪日数、再現期待値5年、および再現期待値20年の3つ のモデルを開発した。
モデルの推定値と観測値の差が土10%以内の地点は、58観 測地点のうち平均積雪日数で43地点、再現期待値5年の積雪日 数で47地点、再現期待値20年の積雪日数では51地点であった
。したがって、本モデルによって農耕地の積雪日数を約lkm の 実 用 的 な 単 位 で 推 定 で き る こ と が 確 認 さ れ た 。 第4章は「最深積雪のメッシュ化」である。最深積雪の地 理的・地形的特徴から、モデルの変数である地理・地形因子 を13種類定義した。これより、平均最深積雪および再現期待 値5年、10年、20年の最深 積雪の4っの モデル を開発した。
モデルの推定誤差が土20%程度となる地点は、58観測地点 のうち11〜 15地点あった。観測データが少なかった地区で誤 差が大 きいが 、各モデ ルの推 定値と観 測値と の相関係数は O. 93〜O.94であり、農耕地の最深積雪を約1km の実用的な単 位で推定することができた。
第5章は「メッシュ気候図の開発」である。北陸地方の約 25,OOOkm の地域を対象に、第3章と第4章で開発したモデル を用いて、積雪日数については平均値と再現期待値5年、最深 ‑ 188−
積雪 に っい ては 平均 値、 再 現期 値10年お よび 再現 期待 値20年 の計5種 類の 約lkm 単 位 のメ ッシ ュ気 候図 を 作成 した 。そ の 結果 、 メッ シュ 気候 図と 従 来の 気候 図と は良 く 一致 して おり
、さ ら に従 来の 気候 図で は 得ら れな かっ た詳 細 な局 地分 布と
、確 率 的事 象で ある 再現 期 待値 の気 候値 を示 す こと がで きた
。こ れ によ り、 全く 新し い 積雪 情報 を提 供す る こと が可 能と なった。 これらのメッシ ュ気候図は、高度な専門的知識を必 要と せ ず作 成で き、 合理 的 かっ 高い 精度 で推 定 でき る点 で優 れていると認められた。
第6章 は 「 メ ッ シ ュ 気 候 図 の 利 用 」 で ある 。オ オム ギ の収 量と 積 雪日 数、 果樹 の雪 害 と積 雪深 の関 係を 調 べ、 適地 判定 基準を示した。 この基準 から、メッシュ気候図を用いた平均 積雪日数と再現期待 値5年の約lkm 単位でのオオムギの栽培適 地を 示 した 。栽 培適 地は 、 平均 積雪 日数 下で は 平野 の内 陸部 まで 広 く分 布す るが 、再 現期待値5年下では海岸などの一 部に 限定されることが判 明した。 この判定は、各地区の年毎の積 雪日 数 の多 少と 収量 の変 動 に一 致し てい る。 こ のた め、 再現 期待 値5年の 適地 区分 を 利用 する こと に よっ て、 積雪 日数 が5 年 に1度 の 割 合 で 多 く 、 オ オ ム ギ の 収 量 減が 見 込ま れる 地区 にオ オ ムギ を導 入・ 栽培 す るこ との 決定 、お よ び積 雪日 数の 短 縮 方 法 な ど の 対 策 を 判 断 す る こ と が で き る 。 さ らに 、平 均 最深 積雪 に加 え、 再 現期 待値10年 の最 深積 雪 と再 現 期待 値20年の 最深積雪を 併用し、棚栽培果樹の約lkm 単位 ご との 栽培 適地 を示 し た。 再現 期待 値の 併 用に よっ て、
「最適地は、傾斜地 を除き管理を適正に行うことで雪 害をお おむね回避できる」、 「.適地は、約10年に1回の確率で起こる 多雪 年 には かな りの 雪害 が 起こ るた め対 策を 講 じる 必要 があ る」、 「可能地は、平年 積雪以下の時には被害をほぼ回避で きる が 、降 雪に 応じ て対 策を必要とする年が多く、約10年に1 回の 確 率で 起こ る大 雪時 に は、 棚上 や樹 体か ら の除 雪あ るい は積 雪 深を 減ず るた めの 手 段を 備え てお くこ と が不 可欠 であ る」などを示すこと ができた。 この栽培適地図から、石川・
富山 県 にお ける 最適 地は 、 石川 県の 西海 岸と 富 山湾 の海 岸、
適地 は 両県 の平 野か ら能 登 半島 、可 能地 はそ の 内陸 部に 分布 ―189―
することが判明した。これらの地区は1〜数集落単位で長期的 な危険性の推定と、それに対する管理・対策方法の検討・選 択が可能である。
以上の再現期待値を加えたメッシュ気候値による新しい栽 培適地の評価方法は、農業生産現場で総合的、長期的な視点 から気候立地や栽培管理の策定に際して、実用的な情報とし て利用できると認められた。.
第7章は総括、第8章は結言である。
以上のように本研究は、農耕地等の積雪日数、最深積雪を 約lkm .のメッシュ単位で求める方法を開発し、北陸地方につ いてメッシュ気候図の作成、 メッシュ気候値による実用的な 栽培適地のメッシュ図、および新しい栽培適地の評価方法を 確立した研究である。これらの成果は農業生産のための気候 立地計画や栽培管理、積雪災害防止法の策定・実施などに実 用的水準で利用できることを示した。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
、積雪気候値のメッシュ化と利用に関する研究
本 論 文 は 、 図56、 表9、179ぺ ー ジ か らな る 和文 論 文 で、 別 に21編 の参 考 文 献 が 添 え ら れ て い る 。
我 が 国 に お け る 気 象 観 測 地 点 は 、 約21x 21kmに1点 の 割 合 で あ る 。 し か し 、 農 耕 地 で は よ り 密 な 気 象 デ ー タ の 要 望 が 強 い 。そ の た め「 類 似の 地 理 的・ 地 形 的 条 件 下 で は 同 じ 気 候 値 が 分 布 す る 」 と の 前 提条 件 の もと に 、積 雪 地 帯の 農 耕 地 等 に つ い て 、 気 象 観 測 地 点 の デ ー タ を 使 用 し て 、 積 雪 日 数 、 最 深 積 雪 を約1 km゜ の メ ッ シ ュ 単 位 で 求 め る 手 法 を 開 発 し た。 さ ら に、 開 発し た メ ッシ ュ 気候 値 と オ オ ム ギ 、 果 樹 の 特 性 か ら 、 北 陸 地 方 に つい て 雪 害を 回 避し 、 安 定し た 農 業 を 行 う た め の 栽 培 適 地 の メ ッ シ ュ 図 を 開 発 し た 。
第 1章 は 緒 言 で 、 既 往 の 研 究 成 果 と 本 論 文 の 目 的 な ど を 述 べ て い る 。 第2章 は 「 積 雪 デ ー タ に 関 す る 統 計 解 析 」 で 、 メ ッ シ ュ 解 析 の た め の デ ータ の 属 性 を 調 べ 、 使 用 す る デ ー タ を 整 理 し て い る。 す な わち 、 北陸 地 方 の積 雪 日 数 、 最 深 積 雪 の 観 測 デ ー タ に つ い て 、 統 計 的 解析 か ら 大き い 変動 特 性 と周 期 性 の 存 在 を 示 し 、 こ れ を も と に モ デ ル 化 の た め の解 析 デ ータ の 条件 を 設 定し た 。 そ の 結 果 、 短 期 の 気 候 変 動 の 影 響 が 除 か れ る1911〜1970年 の58観 測 地点 の デ ー タ を 解 析 に 使 用 す る こ と が 妥 当 で あ る と し た 。こ の デ ータ を もと に 、‑5年 、10 年 、20年 に1回 の 確 率 で 起 こ る 積 雪 日 数、 最 深 積雪 ( 再 現期 待 値5年、10年、20 年 ) の 値 を 明 ら か に し た 。
第3章 は 「 積 雪 日 数 の メ ッ シ ュ 化 」 で 、 北 陸 地 方 に つ い て 約1km 単 位 の 積 雪 日 数 を 推 定 す る モ デ ル を 開 発 し た 。 す な わ ち、 国 土 数値 情 報を 用 い 地理 的 ・ 地 形 的 条 件 を16種 類 定 義 し 、 モ デ ル の 変 数 であ る 地 理・ 地 形因 子 を 設定 し た。
こ れ を 用 い て 、 観 測 地 点 を 中 心 と す る 東 西 、 南北 各 約31x 31kmの 地 形 総合 デ ー タ か ら 平 均 積 雪 日 数 お よ び 再 現 期 待 値5年と20年の 積 雪 日数 を 推定 す る3つ のモ デ ル を 作 成 し た 。 モ デ ル の 推 定 値 と 観 測 値 の 差が 土10% 以 内の 地 点 は、 北 陸地 方 の58観 測 地 点 の う ち 平 均 積 雪 日 数 で43地 点 、 再 現 期 待 値5年 で47地 点 、再 現
― 1911
夫豊 明 郁 徹 口田 澤 堀松 長 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
期待値20年で51地点であり、約lkrri2の実用的な単位で積雪日数が推定できる ことを確認した。
第4章は 「最 深積 雪の メッシ ュ化」である。最深積雪の地理的・地形的特徴 か ら、 モデ ルの変 数で ある 地理 ・地形 因子 を13種類 定義し た。これを使用し て、平均最深積雪および再現期待値5年、10年、20年の最深積雪の4っのモデル を開発した。観測データが少いために推定誤差が士20%程度となる地点もあっ たが、4つのモデルの推定値と観測値との相関係数はO. 93〜O.94で、各最深積 雪を約lkm 単位で推定できることが確認された。
第5章は「メッシュ気候図の開発」である。北陸地方の約25,OOOkD12の地域 を対象に、.第3章と第4章で開発したモデルを用いて、積雪日数にっいては平 均 値お よび 再現期 待値5年、最 深積雪については平均値、再現期値10年および 再現期待値20年の約lkrri2単位のメッシュ気候図を作成した。このメッシュ気 候図と従来の気候図とは良く一致し、さらに従来の気候図では得られなかった 詳細な局地分布と、確率的事象である再現期待値の気候値が明らかとなった。
これらのメッシュ気候図は全く新しい積雪情報を提供するものであり、また新 たな気象観測データや専門的な知識を必要とせず作成でき、高い精度で推定で きる点で優れている。
第6章,は「メッシュ気候図の利用」である。オオムギの収量と積雪日数およ び果樹の雪害と積雪深の関係を調べ、適地判定基準を設定した。この適地判定 基 準お よび 平均積 雪日 数と 再現期待値5年の積雪日数のメッシュ気候値から、
約lkm 単 位の オオ ムギ 栽培適 地のメッシュ図を作成した。また、平均最深積 雪および再現期待値10年と再現期待値20年の最深積雪メッシュ気候値を併用し て、棚栽培果樹の約1krri2単位ごとの栽培適地のメッシュ図を作成した。再現 期 待値 のメ ッシュ 気候 図を 利用することによって、1〜数集落単位で長期的な 雪 害 の 推 定 と 、 そ れ に 対 する 管 理 ・ 対 策 方 法 の 検討 ・選択 を可 能に した 。 以上 のよ うに本 研究 は、 農耕地等の積雪日数、最深積雪を約1km゜のメッシ ユ単位で求める方法を開発し、北陸地方についてメッシュ気候図の作成、およ びメッシュ気候値による実用的な栽培適地のメッシュ図や新しい栽培適地の評 価方法を確立した研究である。この成果は、学術的ならびに実用的に高く評価 される。よって審査員一同は、別に行った学力確認試験の結果と合わせて、本 論 文の 提出 者山田 一茂 は、 博士 (農学 )の 学位 を受 けるの に十分な資格があ るものと認定した。
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