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博 士 ( 農 学 ) 建 部 雅 子

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 建 部 雅 子

学 位 論 文 題 名

窒素栄養の制御による作物品質成分の改善に関する研究 学位論文内容の要旨

  今 日 の 作 物 生 産 に お い て は 収 量 の み な ら ず 品 質 が 重 要 な 課 題 で あ る 。 窒 素 栄 養 は 作 物 の 生 育 、 収 量 だ け で は な く 、 品 質 成 分 に も 大 き な 影 響 を 与 え る 。 し か も 最 適 窒 素 条 件 は 収 量 の み に 注 目 し た 場 合 と 、 品 質 を 加 味 し た 場 合 で は 異 ぬ る と 考 え ら れ る 。 本 研 究 は 、 水 稲 、 イ モ 類 、 葉 菜 類 を 研 究 の 対 象 と し て 、 栄 養 、 安 全 性 、 食 昧 等 品 質 に か か わ る 成 分 す な わ ち 硝 酸 、 ア ミ ノ 酸 、 タ ン パ ク 質 、 糖 、 ア ス コ ル ビ ン 酸 お よ び シ ュ ウ 酸 の 窒 素 栄 養 に よ る 変 動 を 明 ら か に す る と と も に 、 代 謝 過 程 で の 成 分 相 互 の 関 連 を 知 る こ と に よ り 、 こ れ ら 品 質 成 分 の 含 有 率 を 好 ま し い 方 向 に 制 御 す る 窒 素 施 用 法 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し て 実 施 し た 。 得 ら れ た 結 果 の 概 要 は 以 下 の 通 り で あ る 。

1.水 稲 子 実 の 品 質 成 分 に お よ ば す 窒 素 栄 養 の 影 響

  1) 玄 米 の ス ク ロ ー ス は 出 穂20日 目 以 降 玄 米 中 に 一 定 量 存 在 す る 成 分 で あ り 、 そ の 含 有 率 は 窒 素 施 用 量 の 増 加 に 伴 い 、 ま た 施 用 時 期 が 遅 い ほ ど 低 下 し た 。 さ ら に 良 食 味 品 種 で あ る コ シ ヒ カ り で 日 本 晴 よ り 高 く 、 登 熟 期 間 の 気 象 条 件 が 良 好 で あ っ た1990年 に 多 雨 の1991年 よ り 高 い を ど 、 食 昧 が 良 好 と な る 条 件 で 含 有 率 が 高 か っ た こ と か ら 、 ス ク ロ ー ス 含 有 率 は 食 味 と 関 連 が あ る と 推 測 さ れ た 。 玄 米 の 遊 離 ア ミ ノ 酸 、 グ ル コ ー ス 、 フ ル ク ト ー ス 含 有 率 は 登 熟 に と も な い 急 激 に 低 下 し 、 窒 素 処 理 に よ っ て ほ と ん ど 変 化 し な か っ た 。 い ず れ も2 次 枝 梗 粒 よ り1次 枝 梗 粒 で 、 ま た 粒 厚 が 大 き い ほ ど 低 く 、 そ れ ら の 含 有 率 の 低 下 は 登 熟 度 を 表 す と 考 え ら れ た 。

  2) 白 米 の 全 タ ン パ ク 質 お よ び ア ル プ ミ ン 十 グ ロ ブ リ ン 、 グ ル テ リ ン 、 プ ロ ラ ミ ン 含 有 率 は 、 窒 素 施 用 量 が 増 す ほ ど 、 ま た 施 用 時 期 が 遅 い ほ ど 上 昇 し た 。 、 し か し 、 全タ ンパ ク質 に 占 め る 各 タ ン パ ク 質 の 割 合 は 窒 素 栄 養 条 件 に よ っ て 変 化 し な か っ た 。 タ ン パ ク 質 の う ち プ ロ ラ ミ ン の 割 合 が 増 す と 水 稲 の 食 味 が 低 下 す る と の 説 が あ る が 、 窒 素 に 対 す る 反 応 の 違 い か ら 特 定 の タ ン パ ク 質 と 食 味 と の 関 係 を 明 ら か に す る こ と は で き な か っ た 。 全 タ ン パ ク 質 中 に 占 め る プ ロ ラ ミ ン の 割 合 に は 年 次 間 お よ ぴ 品 種 問 で 差 が み ら れ た 。 ま た 冷 害 の 被 害 の 大 き か っ た 水 稲 、 粒 厚1. 8mm未 満 の く ず 米 、 弱 勢穎 花等 でプ ロラ ミ ンの 割合 が低 く、 これ は 遅 れ て 登 熟 す る 子 実 で は グ ル テ リ ン よ り 遅 く 蓄 積 の 始 ま る プ ロ ラ ミ ン の 割 合 が 低 か っ た た め と 考 え ら れ た 。

2.カ ン シ ョ 、 バ レ イ シ ョ の 品 質 成 分 に お よ ば す 窒 素 栄 養 の 影 響

  1) カ ン シ ョ 、バ レイ ショ の総 アス コル ビ. ン酸 含有 率は 、光 合 成部 位の 葉身 で最 も高 く、

貯 蔵 部 位 の 塊 根 、 塊 茎 で そ れ に 次 ぎ 、 通 導 組 織 の 葉 柄 で は 低 か っ た 。 塊 根 、 塊 茎 の 総 ア ス コ ル ビ ン 酸 含 有 率 は 収 穫 期 に 向 け て ゆ る や か に 上 昇 し た 。 窒 素 施 用 量 に 対 し て は 各 時 期 、

(2)

各 部 位 で 一 定 の 傾 向 は み ら れ ず 、 基 肥 窒 素 の 影 響 は 明 ら か で な か っ た 。   2)カン ショにお いて葉身の総アスコルビン酸含有率は生育盛期の尿素葉面散布により上 昇し、 遮光処理 によって低 下した。 一方,塊 根においてはこれらの処理によって総アスコ ルビン 酸含有率 は変化せず 、総アス コルビン 酸含有率を一定に保っような機構が存在する と考えられた。

  3)総ア スコルビ ン酸含有率とグルコース含有率との問には生育盛期の葉身では正、生育 盛期、 収穫期の 塊根、塊茎 では負の 相関関係 が存在し、アスコルビン酸と基質である糖の 量的関係は部位により異なった。

  4)カンショ塊根、バレイショ塊茎の総アスコルビン酸生産量は最高1. 2gm ‑。であった。

塊根、 塊茎のア スコルビン 酸はその 生産性お よび窒素や遮光処理に対する含有率の安定性 からみて、極めて有用な栄養成分であると言える。

3.葉菜類の品質成分におよばす窒素栄養の影響

  1)窒 素施用量 を0から30gNm‑。に増加することにより、ホウレンソウとコマツナの硝酸態 窒素 含有率は 急激に上昇し、追肥をおこなった15、30gNm・2区では収穫期においても高かっ た。 一方、総 アスコルビ ン酸含有 率は低下 し、スク ロース含有率はOgNm‑。区で、グルコー ス含 有率はlOgNm・2区で最も高く、さらに窒素施用量を増すと低下した。しかし、ホウレン ソウ の全シュ ウ酸含有率 は窒素施 用量の増 加に伴い 葉身では 上昇した が葉柄では低下し、

地上部全体では差がなかった。

  2)水 耕条件で 、培地のKの 比率が高 いほどホ ウレンソ ウの水溶 性シュウ 酸含有率が上昇 し、Caの比率が 高いほど不 溶性シュ ウ酸含有 率が上昇 した。ホ ウレンソ ウのCaと不溶性シ ユウ 酸はほぼ 同当量存在 し、シュ ウ酸はカ ルシウム 塩として 沈殿して いると理解された。

  3)ホウレンソウの還元窒素(全窒素―硝酸態窒素)含有率と全シュウ酸含有率の間には正 の相 関関係が あった。硝 酸態とし て作物に 吸収され た窒素は 、体内で 還元される際に硝酸 イオ ンとバラ ンスしてい たカチオ ンが過剰 になり細 胞内pHは上 昇するこ とになるが、これ を中 和するた めに有機酸 が作られ るとされ ている。 ホウレン ソウにお いて生成される有機 酸の 大部分は シュウ酸で あった。 代謝反応 を利用し 、水耕培 地窒素中 のアンモニア態窒素 の比 率を高め ることによ ってホウ レンソウ のアンモ ニア態窒 素吸収量 を増加させ、全シュ ウ酸含有率を低下させることが可能であった。

  4)露 地栽培で シュウ酸含 有率を低 下させる 窒素施用法を検討した。緩効性窒素肥料であ る被 覆尿素お よび被覆リ ン安を条 施するこ とにより 、ホウレ ンソウの 全シュウ酸含有率を 低下 させるこ とができた 。特に被 覆リン安 の施用に より、シ ュウ酸含 有率は硫安施用の47

〜 72%と大きく低下した。

  5)一 般に、畑 圃場に施用 されたア ンモニア 態の窒素肥料は硝酸化成菌によって速やかに 硝酸 に変化す る。しかし 、被覆尿 素および 被覆リン 安の条施 により、 溶出したアンモニア 態窒素は、施肥後22日目の条施部位を含むO〜  15cmの土層にそれぞれ10.O、16. 3mg/乾土10 Og存在 した。ま た被覆リン安区では収穫期にもアンモニア態窒素が16. Img/乾土100g存在し た。 したがっ て被覆リン 安区では 生育期間 を通して 常にアン モニア態 窒素がゆるやかに供 給され、ホウレンソウに吸収されたと考えられる。

  6)水 耕培地で アンモニア 態窒素の 比率を高 めることにより、また露地栽培で被覆窒素肥 料を 条施する ことにより 、シュウ 酸のみな らず硝酸 含有率も 低下し、 糖、総アスコルビン 酸含有率は上昇し、品質は好ましい方向へと改善された。

(3)

  

本研究において、窒素施用量の増加は水稲および葉菜類にとって好ましい品質成分を低

下させ、好ましくない品質成分を上昇させることを示した。しかし収量との関連でむやみ

に窒素を減らすわけにはいかない。またシュウ酸のように窒素施用量では制御できない成

分も存在した。そこで、量だけではなく吸収される窒素形態を変えることにより、品質成

分を制御しうることを明らかにした。このことにより窒素栄養による品質成分の制御がよ

り自在になり、制御の範囲が広まっていくものと考える。

(4)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

窒素栄養の制御による作物品質成分の改善に関する研究

  本 論 文 は 、 図32、 表41、 引 用 文 献81を 含 む 総 頁 数108の 和 文 論 文 で あ り 、 別 に参 考論 文19編が 添え られ てい る。

  本研究は水稲、イモ類、葉菜類において栄養、安全性、食味等品質にかかわる成分の 窒素栄養による変動を解析し、これらを好ましい方向に制御する窒素施用法を明らかに することを目的として実施したものである。得られた結果の概要は以下の通りである。

1.水稲子実の品質成分におよばす窒素栄養の影響

  1)玄米のスクロースは出穂20日目以降玄米中に一定量存在し、その含有率は窒素施用 量の 増加に伴い、また施用時期が遅いほど低下した。さらに品種や気象など食味が良好 とな る条件で含有率が高かったことから、スクロース含有率は食味と関連があると推測 された。

  2)白米の全タンパク質およびアルブミン十グロブリン、グルテリン、プロラミン含有 率は窒素施用量が増すほど、また施用時期が遅いほど上昇したが、全タンノくク質に占め る各 タンパク質の割合は窒素栄養条件によって変化しなかった。プロラミンの割合が増 すと 水稲の食味が低下するとの説があるが、窒素に対する反応の違いから特定のタンパ ク質と食味との関係を明らかにすることはできなかった。

2.カンショ、バレイショの品質成分におよばす窒素栄養の影響

  1)カンショにおいて葉身の総アスコルビン酸含有率は生育藍期の尿素葉面散布により 上 昇し 、遮 光処 理によって低下した。一方,塊根においてはこれらの処理によって総ア ス コル ビン 酸含 有率は変化せず、含有率を一定に保っような機構が存在すると考えられ た。

  2)総アスコルビン酸含有率とグルコース含有率との間には葉身では正の、塊根、塊茎     ―261 ‑

秋 孝

介

利 頼

隆

野 山

野

   

   

多

但 青

波

授 授

授

教 教

教

査 査

査

主 副

副

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で は負の相 関関係が 存在し、 アスコルビン酸と基質である糖の量的関係は部位により異 なった。

  3)カンショ塊根、バレイショ塊茎の総アスコルビン酸生産量は最高1. 2gm一2であり、

そ の生産性 および窒 素や遮光 処理に対する含有率の安定性からみて、極めて有用ぬ栄養 成分であると言える。

3.葉菜類の品質成分におよばす窒素栄養の影響

  1)窒素施 用量を0から30gNm‑。に増加することにより、ホウレンソウとコマツナの硝酸 態窒素含 有率は急 激に上昇 したが、 総アスコル ビン酸と スクロー ス含有率は低下し、グ ルコース 含有率はlOgNm‑。以上で低下した。一方、ホウレンソウの全シュウ酸含有率には 窒素施用量で差がなかった。

  2)ホウレンソウの還元窒素(全窒素―硝酸態窒素)含有率と全シュウ酸含有率の間には 正の相関 関係があ った。作 物体内で の硝酸還元 にともな い有機酸 が生成されるという代 謝反応を 利用し、 水耕培地 窒素中の アンモニア 態窒素の 比率を高 めることにより、ホウ レンソウ のアンモ ニア吸収 量を増加 させ、全シ ュウ酸含 有率を低 下させることが可能で あった。

  3)露地栽 培で、被 覆尿素お よび被覆 リン安を条施することにより、ホウレンソウの全 シュウ酸 含有率を 低下させ ることが できた。こ れらの条 施により 、溶出したアンモニア 態窒素が 条施部位 を含む土 層に存在 したことか ら、被覆 窒素の施 用により生育期間を通 して常に アンモニ ア態窒素 がゆるや かに供給さ れ、ホウ レンソウ に吸収されたと考えら れる。

  4)水耕培 地でアン モニア態 窒素の比 率を高めることにより、また露地栽培で被覆窒素 肥料を条 施するこ とにより 、シュウ 酸のみなら ず硝酸、 糖、総ア スコルビン酸含有率も 好ましい 方向ヘ改 善された 。ホウレ ンソウとコ マツナで は品質成 分の面からみると窒素 施用量は 少ない方 が望まし いが、収 量との関連 でむやみ に窒素を 減らすわけにはいかな い。窒素 の量だけ ではなく 、吸収さ れる窒素形 態を変え ることに より、品質成分を制御 しうることを明らかにした。

  以上のよ うに、本 研究は窒素 栄養が各 種作物の品質成分におよばす影響を解明すると ともに、 窒素施肥 法によって 作物の品 質成分を改善しうることを明らかにした。これら の知見は 学術的に 高く評価さ れると同 時に、高品質作物の生産のために大きな貢献をな すもので ある。よ って審査員 一同は、 建部雅子が博士(農学)の学位を受けるに十分な 資格を有 するもの と認めた。

    ―262―

参照

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