博士(医学)角 哲雄 学位論文題名
海 馬 およ び扁桃 核発 作に対 する Phenobarbital の抗けいれん作用
一 キ ン ド リ ン グ モ デ ル と 慢 性 投 与 法 を 用 い た 検 討 一
学位論文内容の要旨
I〜 研究目 的
脳の一 定部 位を一 定の刺 激条件 で反 復電気 刺激す ると, 当初の わず かなて んかん様反応が増強 し,っ いには 全身 けいれ んを呈 するよ うにな る。 動物で みられ るこの よう なキンドリング現象は 二次性 全般化 を示 す部分 てんか んのモ デルと 考え られ, とりわ け海馬 ある いは扁桃核キンドリン グモデ ルは, ヒト 側頭葉 てんか んの至 適動物 モデ ルとみ なされ ている 。さ らに,他のてんかん発 作モデ ルとの 比較 から, キンド リング モデル は難 冶てん かんの モデル とし ても有用と考えられて いる。 このモ デル に対す る薬物 の影響 はてん かん 治療と の関連 から興 味が もたれ,多くの研究が なされ てきた が, その大 部分は 扁桃核 キンド リン グモデ ルを用 い,し かも 薬物の急性効果を検討 したも のであ った 。しか し,ヒ ト側頭 葉てん かん では海 馬に焦 点を有 する ことがむしろ多いこと から, 海馬キ ンド リング モデル での検 討がよ り重 要であ ろうと 思われ る。 またヒトてんかん治療 との関 連から ,薬 物の効 果は慢 性経口 投与下 で検 討され るべき である と考 えられる。さらに,転 移 側 で の キ ン ド リ ン グ け い れ ん に 対 す る 薬 物 の 影 響 は , ほ と ん ど 検 討 さ れ て い な い 。 以上の 観点 から, 本研究 では, 薬物を慢性経口投与し,血中レベルが定常状態に達した時点で,
一次側 および 二次 側の海 馬なら びに扁 桃核キ ンド リング けいれ んの変 化を ,比較検討した。また てんか ん原性 獲得 にかか わる個 体の素 因と薬 物効 果の関 係にっ いても 検討 し,それらの結果をふ まえて ,側頭 葉て んかん の難治 性と焦 点部位 およ び個体 の素因 との関 連に っいて考察を加えた。
II. 対 象と 方 法 実 験1
ペン ト バル ビター ル麻 酔下で ネコ頭 部を脳 固定 装置に 固定し ,2極ある いは3極の 慢性深 部
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電極を 両側扁 桃核外 側核 ・背側 海馬・ 視床背 内側核 に挿 入し, 刺激あ るいは 記録用に供した。
後上 シ ルビ ウス回 には単 極電極 を装 着した 。刺激 は定電 流刺激 装置 を用い て1日1回 ,1秒間,
後 発 射 閥 値 (ADT)を 刺 激 強度 と し て 行 った 。 最 終 段 階の 全 身 け い れん が5回 連 続し て 出 現 した 時 点 で キ ンド リ ン グ 完 成と し , 次 い で 全身 け い れ ん 誘発 閾 値(GST) を定め た後 ,薬物 投与 を 開 始 し た。 本 実 験 で は薬 物 と し てPhenobarbital (PB) を 用 い た。 まず 体重あ たり6 mgを15日 間投与 した 。血中 レベル が15〜25皿g/施に あるの を確認 し,16日目か ら先に 定め た GSTよ り100ロA高 い 値 で1日1回 刺 激 し , 得 ら れ る 発 作 発 展段 階 と 後 発 射持 続 時 間 を 検 討 した 。 引 き 続 き, 体 重 あ た り12mgのPBを 投 与 し, 血 中レベ ルを35〜50ロg/kgと して 同様の 実 験 を 行 っ た 。 な お , 海 馬 刺 激 ・ 扁 桃 核 刺 激 と も そ れ ぞ れ9頭 の 成 ネ コ で 行 っ た 。 実験2
9頭 の ネコ を 用 い , う ち6頭 で は , 一次 側 を 背 側 海馬, 二次側 を対側 扁桃 核,3頭で は一次 側を 扁 桃核 ,二次 側を対 側背側 海馬 と定め ,実験1と 同様の 手順で 一次側 キン ドリン グを完 成 させ た 。7日 間の 休 止 期 間 の後 , 二 次 側 キン ド リ ン グを完 成させ た。PB投与16日 目よ り一次 側 , 二 次 側 を 交 互 に1日1回 刺 激 し た 。 其 の 際 , ま ずADTを 刺 激 強度 と し , 次 いで100〃A づ っ 強 度 を 上 げ なが らADTから400〃A高 い 値 ま で刺 激 を 加 え , 得ら れ る 発 作 発展 段 階 と 後 発射持 続時間 を検討 した 。
皿.結 果 実験l
ADT,GSTと も2群 間 に 差 は 無か っ た 。 し か し, キ ン ド リ ング 完 成 ま で の刺 激 総 数 は ,扁 桃 核キ ンドリ ング群 で25.3回 ,背側海馬キンドリング群で39.O回であり有意の差が認められた。
PB6 mg/kg投 与時 , 後 発 射 持続 時 間 は 扁 桃核 群 で対 照の78% ,背 側海馬 群では33%ま で短縮 し た(pく0. 05)。また ,発作 発展段階は扁桃核群で3.3,一方,背側海馬群では1.4まで退行 し た (pく0. 05)。 さ ら に扁桃 核群で は5回の再 刺激の うち少 なく とも1回, 最終全 般けい れ ん を 発 現 し た ネコ が9頭中6頭 いたの に対 し,゛ 背側海 馬群で は9頭中わ ずか1頭に すぎな かっ た (pく0. 05)。PB12mg7kg投与 時にも ,海馬 群で より抑 制され やすい 傾向を 示し たもの の,
後 発射 持続時 間,発 作発展 段階 のいず れも有 意の差 は認め られ なかっ た。また,後発射すら出 現 し な い 完 全 抑制 は ,12mg7kg投 与 時 で さ え も扁桃 核群11%,海 馬群33%にす ぎなか った。
ま た , キン ド リ ン グ 完成ま での刺 激総 数が少 ないネ コほど ,PBに 抵抗性 を示し ,完成 した
も同 様であ った。
実験2
二 次 側 で のADTは 一 次 側の そ れ と ほ ば同 様 であ った 。また 、いず れの部 位が二 次側 であっ ても 転移現 象は同 様に認 められ た。 すなわ ち,扁 桃核が 二次 側の場 合は平均2.5回の刺激で,
背側 海馬が 二次側 の場合 には平 均2.7回の刺 激で, 最終 段階の 全般け いれんが出現している。
PB投 与 後 の 変 化を 見 る と,一 次側 ,二次 側にか かわら ず,扁 桃核 キンド リング けいれ んは 背 側海 馬のそ れより も抑制 されに くい ことが 示され た。す なわ ち,二 次側扁桃核キンドリングけ いれ んでさ えも, 一次側 背側海 馬の それよ りもPB抵 抗性 であっ た。
IV.考 察
扁桃 核はけ いれ ん発現 にかか わる運動系との連絡が強固であるため,発作は容易に全般化する。
一方 海馬で は興奮 系の みなら ず抑制 機構も またよ く発 達して いるこ とが知 られている。扁桃核キ ンド リング は海馬 のそ れに比 し容易 に形成 された が, それは このよ うな両 部位の特性を反映した も の と恩 わ れ る 。 また 完 成した キンド リン グけい れんは 扁桃核 でよ りPB抵抗 性を示 した 。この よう な差異 を生ず る理 由とし て,よ り強い てんか ん原 性が扁 桃核キ ンドリ ング群で獲得されたこ と , ま たPBの 作 用 機 序 のひ と っ と し て 後シ ナ プ ス 性 反応 の 増 強 が あげ ら れ て お り,GABA系 の よ く発 達 し た 海 馬で ,PBがよ り有効 に働く ことな どが考 えら れる。 このよ うに, 焦点 部位に よっ て薬物 の効果 発現 の程度 が異な るとい う今回 の所 見は, ひと側 頭葉て んかんでの治療抵抗性 の 程 度が 一 様 で は 無い と いう臨 床的事 実を 説明す るひと っのて がか りにな りうる ものと 思われ る。
また ,今回 の研 究から ,キン ドリン グが 容易に 形成さ れたネ コのキ ンド リングけいれんはより 強い 薬物抵 抗性を 有す ること が示さ れた。 この結 果は 薬物へ の反応 性に反 映されるてんかん原性 の程 度と, てんか ん準 備性獲 得にか かわる 素因の 強さ が密接 に関連 するこ とを示唆する所見と考 えら れ,側 頭葉て んか ん患者 の難冶 性が患 者自身 の素 因によ って規 定され る可能性を示すものと 思わ れた。
扁桃 核,背 側海 馬いず れの部 位にお いて も,後 発射の 出現を 抑制す るこ とは,高い血中レペル を維 持して もなお 難し く,特 に扁桃 核では いわゆ る辺 縁系発 作の抑 制も困 難であった。以上の結 果か ら,本 研究の 実験 条件下 におい ても, キンド リン グモデ ルが難 冶てん かんの動物モデルとし て有 用であ ること が再 確認さ れた。
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学位論文審査の要旨 主 査 教 授 山 下 格 副 査 教 授 阿 部 弘 副 査 教 授 田 代 邦 雄
キンド リング 現象は 二次 性全般 化を示 す部分 てんか んの モデル と考え られ, とり わけ海馬ある い は扁 桃核キ ンドリ ングモ デルは ,ヒ ト側頭 葉てん かんの 至適 動物モ デルと みなさ れている。こ の モデ ルに対 する薬 物の影 響はて んか ん治療 との関 連から 興味 がもた れ,多 くの研 究かなされた が ,そ の大部 分は扁 桃核キ ンドリ ング モデルを用い,しかも薬物の急性効果を検討したものであっ た 。し かし, ヒト側 頭葉て んかん では 海馬に 焦点を 有する こと がむし ろ多い ことか ら,海馬キン ド リン グモデ ルでの 検討が より重 要で あろう と思わ れる。 また ヒトて んかん 治療は 長期間の経□
服 薬が 原則で あるこ とから ,薬物 効果 の判定 も慢性 経口投 与下 でなさ れるべ きであ ると考えられ る 。さ らに, 転移側 でのキ ンドリ ング けいれ んに対 する薬 物効 果は, 臨床で 見られ る二次性てん か ん原 性にた いする 薬物の 影響と の関 連で重 要であ るにも かか わらず ,ほと んど検 討されていな い 。申 請者は これら の点を 考慮し て, 以下の 実験を 行った 。
実験方 法:慢 性深部 電極 を両側 扁桃核 外側核 ・背側 海馬 ・視床 背内側 核に挿 入し ,定電流刺激 装 置 を 用 い て1日1回 , ! 秒 間 , 後 発 射 閾 値(ADT)を 刺 激 強 度 と し て刺 激 を 加 え た。 最 終 段 階 の 全 身 けい れんが5回 連続し て生 じた時 点でキ ンドリ ング 完成と し,次 いで全 身けい れん 誘発 閾 値 (GST) を 定 め た 後 ,Phenobarbital(PB)を6mg/kg,15日 間 投 与 し , 血中 レ ベ ル か15
〜25ぷg/ 紺 に あ る の を 確 認 後 ,16日 目 か らGSTよ り100〃A高 い 値 で1日1回5日 間刺 激 し , 得 ら れ る 発 作発 展 段 階 と 後 発射 持 続時間 を測定 した。 引き 続き,P B12mg/kg( 血中レ ベル35〜 50〃 9/ 紺 )で 同様の 実験を 行っ た。な お,海 馬刺激 ・扁桃 核刺 激とも9頭 の成ネ コを用 いた。
次 の 実 験 で は,6頭 で 一 次側 を 背 側海馬 ,二 次側を 対側扁 桃核,3頭 で一次 側を 扁桃核 ,二次 側 を 対 側 背 側海 馬と定 め, 一次側 キンド リング 完成 後,二 次側キ ンドリ ングを 完成 させ,PB6 mg/
kg投与後 の変化 を,一 次側 ・二次 側間で 比較し た。
結果と 考案: キンド リン グ完成 までの 刺激回 数は, 扁桃 核群で25.3回, 海馬群 で39.O回であっ た 。PB6 mg/kg投 与 時 , 後 発射 持 続 時 間 は前 者 で78%, 後者 で33% まで短 縮,発 作発展 段階も 最 終全 般けい れんを5と すると 扁挑核 群で3.3,海 馬群で は1.4まで低下した。さらに前者では再
す なわ ち 海 馬 で は扁 桃 核 に 比し, キンド リング がお きにく く,ま たPBに より容 易に発 作の改 善 が見ら れた 。二次 側キン ドリン グけい れん にっい ても, 両者の 問に は同様 の関係がみられた。薬 物効果 発現 の程度 が焦点 部位に よって 異な るとい う今回 の所見 は側 頭葉て んかんでの治療抵抗性 が一様 では ないと いう臨 床的事 実を説明するてがかりのひとっになりうるものと思われた。また,
容易に 形成 された キンド リング けいれ んほ ど,よ り強い 薬物抵 抗性 を示し た。この結果は,てん かん準 備性 獲得に かかわ る素因 の強さ と薬 物への 反応性 に反映 され るてん かん原性の程度が密接 に関連 する ことを 示唆す る所見 と考え られ ,てん かん患 者の難 治性 が患者 自身の素因によって規 定 され る可能 性を 示すも のと思 われた 。PB12mg7kgを 与えて も発作 の完全 抑制 は扁桃 核群11% , 海 馬 群33% に 過 ぎ ず , 一 旦 発 作 焦 点 を 生 じ た あ と の 難 治 性 が う か が わ れ た 。 以上 の発表 に対し以下の質疑応答が行われた。(1)完全抑制されたものとされなかったものの差 異は何 か。 ―焦点部位と個体の素因が異なっていた。(2)血中濃度の違いが抑制の程度と関係した 可能性 はな いか。 ―血中 濃度は 一定範 囲に とどめ たので その可能性は低い。(3)ひとのてんかんで も素因 の問 題は存 在する か。― 難冶性を規定する要因のひとっと考えられる(以上阿部弘教授)。
(4) PBを用 いた 理由。 ―キン ドリン グを確 実に 抑制す ること が知ら れて おり,今回の研究目的に 適った 薬物 と考え られた ため。(5)本 実験 での薬 物投与 法を慢性投与法とよんでいいか。―注射単 回投与 を急 性投与 とし, それに 対する 意味 での慢 性投与 である。(6)ひととネコでは有効血中濃度 が異な るか 。―ほ ぼ同じ レベル にあっ た( 以上田 代邦雄 教授) 。
本研 究は, 扁桃核 および 海馬 のキン ドリン グモデ ルを作 成し て薬物 を長期 投与し部分てんかん の経過 ・予 後が焦 点の部 位や二 次焦点 の形 成,個 体の素 因など に関 連する ことを明らかにしたも ので, 臨床 面にお いても 特に難 治性側 頭葉 てんか んの病 態の理 解に 貢献す るところが大きく,博 士の学 位に 値する ものと 判定し た。
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