博士(医学)大原行雄 学位論文題名
Quantirtative and qualitative studies of red cell ferritin in refractory anemia of myelodysplastic syndrome
( 骨髄 異形成症候 群の不応 性貧血に おける 赤 血 球 フ ェ リ チ ン の 量 的 , 質 的 検 討 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
目的
骨髄 異 形成 症 候 群(MDS)は1982年FABグル ー プに よ り 提唱 さ れ5つのサ ブタイ プ から な っ てい る 。 これ ら の中 で 慢 性骨髄単 球性自血病(CMML)を除くと ぃずれ も不 応性貧血(RA)が 病態の基 本をなし ており、 その異常 は主に赤血球系にあると される。
一方 、フェリチ ンは鉄貯 蔵蛋白と して知ら れ、生体 の鉄代謝状態を鋭敏に反映 する ため臨床で は血清フ ェリチン が体内の 鉄貯蔵量 を知る指標として頻用されて いる 。しかし、 炎症、感 染症、肝 障害など により変 動するのが問題である。その 点、 赤血球フェ リチンは これらに 影響され ることが 少なく、より正確に体内の鉄 動態を反映すると考えられる。
そ こ でMDSの5型 の 中 か らRAに つ い て 赤 血 球 フiリチ ン を 量的 、 質 的に 検 索 し、この疾患における病態を鉄代謝の面から検討した。
材料および方法
1)赤 血球 溶血液:RA患者10名、 健常成人53名(男24名 、女29名)よ ルヘノヾ リン採血20mlを得、microcrystalline celluloseとa‑celluloseを重量比1:1に混合し たカ ラムを通し て自血球 および血 小板を除 去し、得 られた赤血球を生食浮遊液と し 、そ の 一 部で 赤 血 球数 を 測定 、 残 りは蒸留 水を加えて 溶血させ 、凍結融 解の 後、10、OOOg、20分間遠 心し上清 を検体と した。フ ェリチンは抗ヒト肝フェリチ ンポ リクローナ ル抗体を 用いたIRMA(Immunoradiometric Assay)法で測定し、先に 測 定 し て お い た 赤 血 球 数 で 除 し て 赤 血 球1個 当 た り の 量 と し て 表 し た 。 2)等 電点電気泳 動法(IEF):1)で得られた赤血球溶血液を70℃15分間加熱し、
氷冷 の後10,OOOg、20分 間遠心、上清を一昼夜透析した後、pH 3.5‑10、pH 4‑6の ampholineを1:4に 混 合 し た カ ラ ム に て800V、15時 間 、4℃ に て 泳 動 し た 。
3) 赤 血 球 内 鉄 量 : 溶 血 液 の 鉄 量 を 原 子 吸 光 計 に て 測 定 し 、 溶 血 液 作 製 時 に 計 測 した赤血球数で除して一個当たりの鉄含有量とした。
4) レ ク チ ン親 和性 :Concanavalin‑A(Con‑A)、wheat germ agglutinin(WGA)、lentil lectin(LCA)、Ricinus communis(RCA)に 対 す る 親 和 性 を そ れ ぞ れWorwood、Yama moto、Kornfeld、Bhavanandanらの方法に準じて検討した。
結果
1)赤血球フウリチン量:健常成人男子の値は14.3士10.3 ag/cell(ag 10.l8g),健常 成人女子の値は7.5士3.6ag/ceHでありStudent.st‐testにて有意差を認めた(pくO.01)。
RA症 例 で は 10例 中 , 9例 が 増 加 ( 36. 9‐ 3, 920ag/ cell) を 示 し た 。 2) 赤 血 球 フ ェ リ チ ン のIEF: 健 常 成 人5例 ( 男3例 、 女2例 ) で は 、 い ず れ も ほ ぼ p15.1‐5.7にフ ェリ チ ンが 認め られ た。 一方 、RA症例 では かな りの 不均 一性 が みら れ た 。 そ の 値 は 、 骨 髄 に お け る 赤 芽 球 系 の 形 態 異 常 の 程 度 と 関 連 す る と 考 え ら れ 、 赤 芽 球 に お け る 形 態 異 常 の 割 合 が 多 く な る ほ ど フ ェ リ チ ン の 等 電 点 は 酸 性 側 に偏位する傾向がうかがわれた。
3)赤 血球 内鉄 量:健常成人の赤血球内鉄量 は男子128土9fg/cell(fg=1ぴ1 g)、女子 130土9りcelIで あ り 、 性 差 を 認 め な か っ た 。RA症 例 の 値 は 、 赤 血 球 フ ェ リ チ ン 量 の 増 加 に も か か わ ら ず 健 常 成 人 の 値 に 比 較 し て 差 は ほ と ん ど み ら れ な か っ た 。 4) レ ク チ ン 親 和 性 : 検 討 し た4種 の レ ク チ ン 、Con‐A、WGA、LCA、RCAの い ず れ も がRA症 例 お よ び 健 常 人 の 赤 血 球 フ ェ リ チ ン と は 親 和 性 を 示 さ な か っ た 。 考案
健 常 成 人 に お け る 赤 血 球 フ ェ リ チ ン 値 は 、 男 女 で 有 意 な 性 差 を 認 め た 。 こ れ は 女 子 で は 月 経 等 に よ り 鉄 の 出 納 が 負 に 傾 き や す く 、 鉄 欠 乏 を き た し 易 い 状 態 に あ る た め と 考 え ら れ た 。 一 方 、RA症 例 の 赤 血 球 フ ェ リ チ ン 値 は10例 中9例 で 高 値 を 示 し た 。 こ れ ら の 症 例 で は 鉄 剤 投 与 、 輸 血 な ど を 受 け て お ら ず 、 フ ェ リ チ ン の 高 値 が 血 清 鉄 、 総 鉄 結 合 能 、 血 清 フ ェ リ チ ン 、 赤 血 球 内 鉄 量 の い ず れ と も 相 関 を 認 め な か っ た こ と か ら 、 鉄 以 外 の 因 子 に 影 響 を 受 け て い る こ と が 示 唆 さ れ 、 原 疾 患 に関係すると考えられた。
赤血 球フ ェリ チン のIEFの結 果で は、 健常 成人 にお いて は男 女と もほぼp15.1―5.7 に フ ェ リ チ ン が 認 め ら れ 、 フ ェ リ チ ン 量 と し て は 性 差 が 認 め ら れ る も の の 、IEF よ り み た 蛋 白 質 の 泳 動 性 に 性 差 は 認 め ら れ な か っ た 。 こ れ に 対 し てRA症 例 の 赤 血 球 フ ェ リ チ ンIEFパ タ ー ン は 種 々 の 分 布 を 示 し 、 健 常 成 人 の 結 果 と 比 較 し て も 酸 性 側 や 塩 基 性 側 に 偏 位 し て 一 定 の 結 果 は 得 ら れ な か っ た 。 し か し 、 骨 髄 に お け る 赤 芽 球 系 細 胞 の 形 態 と の 関 連 で は 、 形 態 異 常 が 強 け れ ば 強 い ほ ど フ ェ リ チ ン の 等 電 点 が 酸 性 側 に 偏 位 す る 傾 向 が う か が わ れ た 。 す な わ ち 、 骨 髄 の 全 赤 芽 球 に 占 め 量彪態異堂(蠱墜ロ!墾!赴童査士昼壼差球Q割盒壷!釜皇!!垂竺い墮E睦おいて赤血球フェ
リチンが酸性側に偏位し、酸性フェリチンの増加することが示唆された。このこ とは2 年間にわたって輸血をせずに経過観察することが出来た症例で、血清鉄や 血清フェリチンなど体内の鉄代謝状態を示すパラメータにほとんど変化を認めな かったにもかかわらず、骨髄の赤芽球系細胞の形態異常が増悪するのと並行し て、IEF におけるフェリチンの等電点が著しく酸性側に偏位した事実からも支持 されるものと考えられた。一方、レクチン親和性の結果より、RA におけるフェ リチンの酸性化に糖鎖は関与していないことが示唆された。骨髄における赤芽球 系細胞の形態異常と、赤血球フェリチンのIEF における酸性化との間の関係は未 だ不明であるが、同じく無効造血を示し、赤芽球系細胞の形態異常を示す巨赤芽 球性貧血にはこのような所見の認められないことから、自血病化し易いとぃう特 徴 を も つ 本 疾 患 の 本 態 に 関 連 し た 知 見 で あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。 結語
骨髄異形成症候群の不応性貧血では、赤血球フェリチン量の増加がみられる
が、体内鉄動態とは直接に関係しないことが示唆された。さらに、等電点電気泳
動法における酸性側への偏位という形で示されたフェリチンの質的変化は、骨髄
における赤芽球系細胞の形態異常の多寡と密接に関係することが示唆された。
学位論文審査の要旨
学 位論 文題名
Quantitative and qualitative studies of red cell ferritin in refractory anemlaofmyelodySplaStiCSyndrome
( 骨髄 異形 成症 候群 の不応性貧血における赤血球フェリチンの量的 、質的検討)
目的
骨 髄 異 形 成 症 候 群(MDS)は5つ の サ ブ タ イ プ か ら な り 、 そ の 中 で は不 応性 貧血(RA)が 病態の基本であり、その異常は主に赤血球系にあるとされる。
一 方 、 フ ェリ チン は鉄 貯蔵 蛋白 とし て 知ら れ、 赤血 球フ ウリ チン は炎 症、 感染 症、 肝 障 害 な ど に より 変動 する 血清 フェ リチ ン に対 して 、そ れら に影 響さ れる こと が少 なく 、 より正確に体内の鉄動態を反映するとして注目されている。
そ こ でMDSのRAに お け る 赤 血 球 フ ェ リ チ ン を 量 的 、 質 的 に 検 索 し 、 こ の 疾 患 に お け る病態を鉄代謝の面から検討した。
材料および方法
1) 赤 血 球 溶 血 液 : RA患 者10名 、 健 常 成 人53名 ( 男24名 、 女29名 ) よ り 得 たへパリン採血20 mlをmicrocrystalline celluloseとa‑celluloseを1:1に混合したカラム を 通 し て 白 血球 およ ぴ血 小板 を除 去し 、 蒸留 水を 加え て溶 血さ せ、 遠心 後の 上清 を検 体 と し た 。 フ ェ リ チ ン は 抗 ヒ ト 肝 フ ェ リ チ ン ポ リ ク ロ ー ナ ル 抗 体 を 用 い た IRMA(Immunoradiometric Assay)法で 測定 し、 別に 測定 して おい た赤 血球 数で除して赤血 球1個当たりの量として求めた。
.2) 等電 点電 気泳 動法(IEF):1)で得られた赤血 球溶血液を70℃で15分間加熱し、遠心 後 の 上 清 を 透 析 し 、pH3.5‑10、pH4―6のampholineを1:4に混 合し たカ ラム で800V、15 時間、4℃にて泳動した。
3) 赤 血 球 内 鉄 量 : 溶 血 液 の 鉄 量 を 原 子吸 光計 で測 定し 、先 に測 定し てお いた 赤血 球 数で除して一個当たりの鉄含有量とした。
4) レ ク チ ン 親 和 性 :Concanavalin―A(Con‑A)、wheat germ agglutinin(WGA)、lentil lectin(LCA)、Ricinus communis(RCA)に対 する 親和 性を それ ぞれWorwood、Yamamotoヽ Komfeld、Bhavanandanらの方法に準じて検討した。
結果
1)赤 血球 内フ ェリ チン量:健常成人男子の値は14.3土10.3ag/cell(agニニ1018g),健常 成人女子の値は7.5士3.6ag/cenであり、Studentlst‐testにて有意差を認めた(pくO.01)。RA症 例では10例中,9例が増加(36.9―3,920ag/ceu)を示した。
保三 雄 信輝 崎 橋 宮西 石 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
2)赤血球フIエリチンのIEF:健常成人5例(男3例、女2例)では、ほぼpI5.1‑5.7に フェリチンが認められた。一方、RA症例ではp14.5‑6.9に散在性に分布して一定の傾向 を認めなかった。しかし、そのpl値は骨髄中の形態異常を有する赤芽球細胞の割合が多 く な る ほ ど 減 少 、 っ ま り 、 酸 性 側 に 偏 位 す る 傾 向 が う か が わ れ た 。 3)赤血球内鉄量:健常成人の赤血球内鉄量は男子128土9fg/cell(fg=10‑lsg)、女子130 土9fg/cellであり性差を認めなかった。RA症例の値は、健常成人の値に比較して差をほ とんど認めなかった。
4)・ レク チン 親和 性: 検討した4種のレクチン、Con‑A、WGA、LCA、RCAのいずれ もが赤血球フェリチンとの親和性を示さなかった。
考案
健常成人の赤血球フェリチン値は、男女で有意な性差を認めた。一方、RA症例の赤 血球フェリチン値は10例中、9例で高値を示した。これらの症例では鉄剤投与、輸血な どを受けておらず、血清鉄、総鉄結合能、血清フェリチン、赤血球内鉄量のいずれと も相関を認めなかったことから、フェリチンの高値は鉄以外の因子に影響を受けてい ることが示唆された。
赤血球フェリチンのIEFの結果では、健常成人においては男女ともpl5.1‑5.7にフェリ チンが認められ、IEFよりみた蛋白質の泳動性に性差は認めないと考えられた。これに 対してRA症例の赤血球フェリチンIEF像は種々の分布を示し、酸性側や塩基性側に偏位 して一定の傾向を認めなかった。しかし、骨髄における赤芽球系細胞の形態との関連 では、全赤芽球に対して形態異常(dysplasia)を有する赤芽球の割合が多いほど、IEFにお いて赤血球フェリチンが酸性側に偏位し、酸性フェリチンの増加する傾向が認められ た。一方、レクチン親和性の結果より、フェ1Jチンの酸性化に糖鎖は関与していない ことが示唆された。
骨髄における赤芽球系細胞の形態異常と、赤血球フェリチンのIEFにおける酸性化と の間の関係は不明であるが、同じく無効造血を示し、赤芽球系細胞の形態異常を示す 巨赤芽球性貧血には認められない所見であることから、自血病になりやすいとぃう特 徴 を も つ 本 疾 患 の 本 態 に 関 連 し た 知 見 で あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。 結語
骨髄異形成症候群の不応性貧血では赤血球フェリチン量の増加がみられるが、体内鉄 動態とは直接に関係しないことが示唆された。さらに、等電点電気泳動法における酸 性側へのシフトとぃう形で示されたフェリチンの質的変化は、骨髄における赤芽球系 細胞の形態異常の多寡と密接に関係することが示唆された。
以 上よ り、 本研 究は 博士 (医 学) の学 位論 文と して妥 当な もの と判 断さ れる 。