博士(医学)広村忠雄 学位論文題名
嚢胞性甲状腺腫瘍の超音波診断 …病理所見との対比検討…
学位論文内容の要旨
はじめに
日 常の 甲 状 腺の 超 音波 検 査 (US) では、嚢 胞性病変に 遭遇する 頻度が多 い
。これら嚢 胞性病変 は多彩な 所見を呈 する。ま た針生検 に関しても嚢胞性腫瘍 5よ充実性腫 瘍よりも 偽陰性例が多く、術前診断としての針生検上の問題点が指 摘されてい る。
今 回、 病 理 診断 の 確定 し た 嚢胞 性 甲状腺 腫瘍の術前US所見を病 理組織像 と 対比 ・ 分析 し 、 嚢胞 性 腫瘍 のUS質 的 診断、 至適生検部 位につい て検討を 加え た。
対象 及 び方 法
甲 状腺 手 術389症例496病変を対 象に1)充 実性、嚢胞 性腫瘍別 の病理診 断結 果の 集 計・ 分 析 、2)嚢 胞 性腫 瘍 のUS形 態分 類 、 病理 組 織 像と の 対比 ・分 析 3)術 前 針 生検 ( 穿 刺吸 引 細胞 診 ) の成 績 の集 計 ・ 分析 を 行っ た 。US装置 は 主 に ア ロ カ SS D‑i2s、650( 7.5MHz機 械 セ ク タ ー ) を 使 用 し た 。 結果
1) 病 理診 断 結果 : 嚢 胞性 腫 瘍153病 変中88病変 (57.5%)は 腺腫様甲 状腺腫
(Ad.G)であり 、colloid cyst(広義 のAd.G)22病変 (14.4%)、 腺腫20病変
(13.1% )、乳頭 癌19病変(12.4%)、ろ 胞癌3病変 (1.3%)、 単純嚢胞1病変
(0.7%)であった。
2)US形 態分類、 病理所見 との対比 :typeI;lcm以下 の小嚢胞 、type II(a); lcm以 上の嚢胞 、type II(b); II(a)にlcm以 下の小隆起 を伴うもの、type III; typeII(a)にlcm以上の乳 頭状隆起を伴うもの、type IV;嚢胞の片側に充実性部分 が 存 在 するも の、typeV;不 規則な嚢 胞変性が 分布し、 複雑な嚢 胞形態を呈 する も の、type VI(a);腫瘍内に三カ月状、半月状の嚢胞変性が多発するもの、typeVI (b); 腫瘍内に 類円形嚢 胞が多発するもの、type VII;充実性腫瘍内に小さな嚢胞 を1、2個示す もの、以 上7型に分類された。病理結果から良性はtypeI,II(b),VI (a)の100%、VIIの88%、type II(a)の87%,VI(b)85% ,type IVの60%、type III.Vの20%であ った。良 性腫瘍の多 くはAd.Gであ りtypeIの91%(colloid cyst
)、type VI(a)の100%、type II((b)の93%、II(a)の81%、Vl(b)の71%を占めてい た 。Ad.Gの嚢 胞 壁 は線 維 組 織で 構 築さ れ、嚢 胞壁隆起 性部分も 肉芽組織で あっ た 。type VI(a)の三カ 月状の嚢 胞はAd.Gにおけ る過形成 結節の辺縁に分布し、結 節 による圧 排が三カ 月状の嚢胞 形態の原因であった。一方悪性はtype III,Vの80
% 、type IVの40% 、VI(b)の14% 、type Il(a)の12% 、VIIの11% にみ られ 、そ の う ちtype III,IV.Vは 全 て 乳 頭 癌 で あ っ た 。 尚 、 悪 性 の86% は 乳 頭癌 であ り、14
% は ろ 胞 癌 で あ っ た 。 腫 瘍 細 胞 密 度 分 布 を 調 べ た 結 果 、type IIIは 嚢 胞 内 充 実 性 部 分 に 癌 集 落 が 多 く 、 嚢 胞 壁 に は 少 な か っ た 。typeVは 嚢 胞 内 充 実 性 部 分 、 嚢 胞 周 囲 問 質 に 、 他 のtypeで は 嚢 胞 周 囲 問 質 に 腫 瘍 細 胞 が 多 く 分 布 し て い た 。 type IIIの 嚢 胞 内 乳 頭 状 腫 瘤 に お け るechogenic fociは砂 粒小 体で あっ た。 腫瘍 径 に お い て 悪 性 腫 瘍 は 平 均40mmで 良 性 腫 瘍 の 平 均28mmよ り 有 意 に 大 き か っ た 。type IIIの 乳頭 癌はtype II(a),II(b)のAd.Gよりも有意に大きく、特に嚢胞内乳 頭 状腫 瘤径 は平 均24mmで あっ た。
3) 針 生 検 の 結 果 :280人293病 変 に 対 し 術 前 穿 刺 吸 引 細 胞 ( 嚢 胞 性69病 変 、 充 実 性224病 変 ) が 施 行 さ れ 、 嚢 胞 性 、 充 実 性 腫 瘍 各 々 のspecificityは96% 、93
% 、sensitlvltyは67% 、79%で 嚢胞 性腫 瘍のsensltlvltyが 有意 に低 かっ た。false negativeも 嚢 胞 性 腫 瘍 に 有 意 に 多 か っ た 。
考察
type IIIは 従 来 か ら 乳 頭 癌 に 特 徴 的 なUS所 見 と さ れ て き た が ,typeVも 乳 頭 癌 を 強 く 示 唆 し て い る と 考 え る 。type IIIの 嚢 胞 内 乳 頭 状 腫 瘤に 検出 さ れたechoge‑
nic fociCま 砂 粒 小 体 を 反 映 し 、 乳 頭 癌 の 診 断 を 裏 づ け る 所 見で ある 。こ れら 甲状 腺癌の嚢胞形態はtype II(a),III,IV.V,VI(b)が腫瘍増殖過程上の粘液産性,type VII が 腫 瘍 内 壊 死 に よ る も の と 考 え ら れ る 。type IIIの 乳 頭 癌 の 嚢 胞 形 態 は 、 腫 瘍 が 粘 液 を 分 泌 、 増 殖 し て い く 過 程 で な ん ら か の 機 転 で 循 環 障 害 が 発 生 し 、 変 性 、 液 化 が 起 こ り 嚢 胞 腔 が 拡 大 ・ 癒 合 し 、 か つ 腫 瘍 細 胞 が 脱 落 し て い く が 、 一 部 循 環 障 害 を ま ぬ が れ た 部 位 が 乳 頭 状 腫 瘤 の 形 態 と な っ て 嚢 胞 内 に 残 存 し た も の と 考 え ら れ る 。 こ の こ と は 病 理 組 織 学 的 に も 線 維 性 結 合 織 で 被 覆 さ れ た 嚢 胞 壁 に 少 数 な が ら 癌 細 胞 が 存 在 す る こ と 、 お よ び 癌 組 織 の 発 育 が 乳 頭 状 腫 瘤 に 限 局 し 周 囲 甲 状 腺 組 織 内 に 顕 著 に 進 展 し て い な い こ と よ り 裏 づ け ら れ る 。 そ の ほ か の 乳 頭 癌 の 嚢 胞 形 態 も さ ま ざ ま な 変 性 の 程 度 を 反 映 し た も の で あ り 、typeVは 循 環 障 害 が 軽 度 で あ り 大 き な 嚢 胞 形 成 に 至 ら な か っ た 状 態 、type II(a)は ほ ぽ 完 全に癌細胞が脱落した状態と考え る。
typeIはcolloid cyst,type Il(b),VI(a)はAd.Gに特徴的所見であり、特にtype VI (a)の 三 カ 月 状 の 嚢 胞 形 態 はAd.Gに 特 異 的 所 見 で あ る 。 こ れ は 嚢 胞 腔 が 多 数 の 過 形 成 結 節 に 圧 排 さ れ て い る た め 三 カ 月 状 を 呈 し た も の で 、Ad.Gの 病 態 を 反 映 し て い る 。 そ の 他 に み ら れ る 多 彩 なAd.Gの 嚢 胞 形 態 も 組 織 学 的 検 討 か ら コ ロ イ ド の 過 剰 蓄 積 、 さ ら に ろ 胞 の 融 合 ・ 増 大 と 進 行 し 、 . 古 く な り 線 維 化 し て い < 過 程 を反映しているものと考える。
甲 状 腺 癌 の 腫 瘍 細 胞 分 布 密 度 をUS分 類 別 に 調 べ る とtype III,Vの 嚢 胞 内充 実 性 部 分 , ほ か のtypeで は 嚢 胞 周 囲 問 質 に 多 く の 癌細 胞集 落が 検出 され 、嚢 胞壁 に は 腫 瘍 細 胞 は 少 な か っ た 。 こ の こ と はUS誘 導 下 生 検 を 施 行 す る 際 、 至 適 生 検 部 位 を 決 定 す る 上 で の 指 針 に な る と 考 え る 。
結 語
lcm以 下 の 小 嚢 胞 、 嚢 胞 内 に 小 さ な 隆 起 性 部 分 を 認 め る 嚢 胞 、 三 カ 月 状 の 嚢 胞 が 散 在 す る 腫 瘤 は 良 性 (Ad.G) で あ り 、4cm以 上 の 大 き な 嚢 胞 内 に2cm以 上 の 隆 起 性 病 変 を 伴 う も の 、 嚢 胞 性 、 充 実 性 部 分 が 入 り 組 み 複 雑 な 嚢 胞 形 態 を 呈 す る 腫 瘍 は 悪 性 ( 乳 頭 癌 ) で あ る 。 そ の 他 のUS typeに は 少 数 な が ら 悪 性 が 存
在し、補助診断として
US誘導下針生検を施行すべきである。ただし嚢胞液の
採取に終わらず、嚢胞内充実性部分、嚢胞周囲問質からの組織採取が必要であ
る。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
嚢胞性甲状腺腫瘍の超音波診断 …病理所見との対比検討…
【研究目的】
嚢 胞性 甲 状腺 腫 瘍 は超 音 波検 査 (US)で 多 彩 な所 見 を呈 し 診 断に 苦 慮す る。ま た針生 検 診 断 も偽 陰 性例 の た め確 実 では な い 。こ のよ うに嚢胞性 甲状腺腫 瘍はUSおよ び針生検 診 断上問題 点が多い が、文献は 少ない。 本研究の 目的は病 理診断の 確定した嚢胞性腫瘍の 術 前US像 を 形態 か ら 分類 し 良・ 悪 性 の鑑 別 診断の 可能性を検 討、特徴 的US所見を 組織学 的 に検討し 様々な嚢 胞形態の形 成過程を 類推する ことであ る。また 嚢胞性甲状腺癌におい て 嚢 胞 壁周 囲 の癌 細 胞 密度 分 布を 調 べ 診断 に有 益なUS誘導下 生検部位 を決定す ることも 目的とする。
【対象と方法】
1984年1月 か ら1992年12月 ま で 北 大 第1、 第2外 科 で 手 術 さ れ た 甲 状 腺 腫 瘍389症 例 、496病変 が 対象 で あ る。 こ の中 、 嚢 胞性 腫 瘍は153病 変(31%) ; 良性131病変(86
% ) 、 悪性22病 変(14% )である 。これら を対象にUS所見の形態 分類を行 い、特徴 的LTS 像の病理組織像、嚢胞性癌における腫瘍細胞密度分布を調べた。
【研究結果とまとめ】
US形 態はI(lcm以 下の嚢胞 )、II(a) (lcm以上の嚢胞)、II(b)(II(a)にlcm以下の小隆 起 を 伴 う) 、III(lcm以上 の隆起病 変を伴う 嚢胞)、IV(嚢胞に充 実性部分 が偏在) 、V
(嚢胞性と充実性が複雑に混在)、VI(a)(三カ月状の嚢胞が散在)、VI(b)(類円形の嚢胞が 散 在)、VII( 充実性腫 瘍内に小さ な嚢胞) の7型に分 類された 。これらtype分類別の病理 結果から【,II(b),VI(a)の100%が良性、I.Vの80%、IVの40%が悪性、ほかtypeには数10% に悪性が存在した。Iはcolloid cyst. II(b). VI(a)は腺腫様甲状腺腫(Ad.G)を示す特異的US 像 、【II.Vは乳 頭癌の可 能性が高い 所見であ った。組 織学的検 討から多 くのAd.Gの嚢胞壁 は 線維化し 、II(b)のポリ ープも肉芽 組織であ った。VI(a)に みられた 三カ月状嚢胞形態は
男
郎
之
和
和
紘
坂 嶋
藤
宮 長
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授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
Ad.G
の過 形成 結節 によ る圧排 所見 の結 果で あり 、こ れは
Ad.Gの病 態を 反映 して いる重 要
,な所見であった。
III
の内腔の隆起病変には多数の癌細胞集落がみられ、一方嚢胞壁は線維化し少数の癌細
胞が 存在 して いた 。ま た隆起 病変の嚢胞壁付着部から外方への進展は少なかった。従って 腫瘍 が嚢 胞壁 から 発生 したも のではなく、粘液分泌過程で腫瘍細胞が脱落、変性した結果 形成 され たこ とが 推測 される 。V は腫瘍変性が軽度、rI(a) は完全に腫瘍細胞が脱落した状 態と 考え られ る。 術前 穿刺吸 引細胞診を検証した結果、嚢胞性腫瘍のほうが充実性腫瘍よ り有意にsensitivity が低く,false negative が高かった。嚢胞性甲状腺癌22 病変の嚢胞周囲 の腫 瘍細 胞密 度を 調べ た結果 、癌細胞の集落は嚢胞壁に少なく、嚢胞周囲問質および嚢胞 内隆 起病 変に 多か った 。この こと から 針生 検の 偽陰 性例 を減 らす ため にUS 誘導 下で嚢 胞 周囲 問質 、嚢 胞内 隆起 病変か ら積極的に腫瘍細胞を採集することが必要であると考える。
口頭 発 表 時 お よ び 個 別 審 査 に お い て 、 長 嶋 教 授 よ り 多 くの
US}夕 ーン 分類 に至 った 理由、充 実性 腫瘍 のUS 診断 、乳 頭癌 以外 の嚢 胞性 甲状 腺癌 のUS パ ター ンと 病理 組織 の変遷 の過程 につ いて 、加 藤教 授か らUS バタ ーン の亜 型分 類の 臨床的 意義 、細 胞密 度と 針生検 との 関 係 に つ い て 、 犬 山 教 授 か ら
CTで 同 様 の 分 類 が で きな いかど うか 、古 舘教 授か ら
colloid cyst内のstrong echo の成因、生検部位としての嚢胞周囲問質の位置について質問 がなさ れた が、 学位 申請 者は概ね妥当な回答を行った。副査の長嶋・加藤両教授にはそれ ぞれ個別に面談し、試問の結果、両教授の判定は合格であった。