博士(医学)丸藤 哲 学位論文題名
実 験 的糖尿病 ラット における 心筋 p 受容体 機構の 変化 に 関 する 薬 理 学的 研 究
学位論文内容の要旨
I. 緒 言
ヒ ト に お い て 糖 尿 病 病 態 が 長 期 間 持 続 す る と 心 機 能 異 常 が 発 現 し 心 不 全 に 移行 す る こ と も 稀 で は な い と 言 わ れ て い る 。 実 験 的 糖 尿 病 動 物 で はp受 容 体 を 介 す る 心 筋 収 縮 反 応 の 抑 制 が 良 く 知 ら れ て い る 心 機 能 異 常 の ー つ で あ る が 、 こ の 機 構 は 十 分に は 明ら か に され て い な い。 そ こ で、streptozoto cinに よ る 実 験的 糖 尿 病ラ ットを 用い て 、p受 容 体 を 介 す る 心 筋 反 応 性 低 下 の 機 序 を 解 明 す る こ と を 目 的 に 本 研 究 を お こ な った 。
皿 . 実 験 方 法
(1)糖尿病の 作成:8週齢 のWistar rattrこstreptozotocin 45mg}kgを尾静脈より静注して 糖尿 病を作 成した。 対照群 はcitrate buffer solutionのみを 静注し、 糖尿病 作成4‑6週後 に以下の実験を行った。
(2)機 能 的 実 験 : 動 物 よ り 、 左 室 乳 頭 筋 を 摘 出 し 、1Hzで 電気 的 に 駆動 し な がらi‐ soproterenol,norepinephrine,epinephrine,forskolin,dibutylic‑cAMP(DBcAMP),IBMXを累 積的 に作用 させその 濃度反 応曲線を 得た。 栄養液はKrebS‐Henseleit(K・H)液を 使用し た。
(3) 受 容 体 結 合 実 験 : 摘 出 心 臓 を 冷 却 恥 緩 衝 液 中 で 摩砕 し 遠 心を 繰 り 返し 蛋 自 濃 度1‐2mg/rnlの膜標品を作成した。[12亀]−iodocyanop血d0101くICYP)の膜標品の結合飽和 実 験 を 急 速 吸 引 濾 過 法 に て 行 っ た 。 非 特 異 的 結 合 はlOルMpropr孤0101存 在 下 で 測定 し た。 解 離 定 数(Kジ およ び 最 大結 合 能 (Bmax) はScatchardの 方法 を 用 いて 求 め た。p 受 容体 サ ブ タ イプ の 割 合を 決 め るた め に 、isoproteren01お よ びpエ `p:受 容 体 の選択 的阻 害薬であ るaten0101,ICn18,551を用い てP司 ‐I(:YPの結 合阻害実験を行った。I. soproterlen01を 用い る 場 合は100ルMGppNH:p存 在 下 で同 様 の 実験 を 行 った 。 結 果は、
MunSon等 の 非 線 形 最 小 二 乗 法 に 従 い 解 析 し 、 解 離 定 数(KI)はCheng等 の方 法 に 従い 求めた。
(4)Adenylate cyclase活 性の測定 :Salomonの方法に若干の修飾を加えadenylate cyclase 活性を 測定した 。活性 薬としてisoprot.erenol, NaF,GppNHp,f orskoHnを用い濃度反応 曲線を 得た。ま た、迅9pro他ren01の最大活 性に対 するatenolo・l,ICIn8,551の抑制効果 も 検 討 し た 。bopro缸enolを 活 性 薬 と し て 用 い る 場 合 は100ルMGTP存 在 下 で 実 験 を 行った。
(5)Phospholambanリ ン 酸 化の 測 定 : 摘出 心 臓 をIindemann等 の 方法 に 従 いImgen(b ボ 法 に よ り1.5mCi32Piを 含 有す るK−H液 で 再 還流 法 で 灌流 後10ルM迅 叩rot囲弧01を含 む 同 液 で4分 間 灌 流 し た 。 そ の 後 凍 結 し た 各 心 臓 よ り 筋 小 胞 体 を 単 離 しSDS電 気 泳 動 を 行 いI血demann等 の 方 法 に 従 い 筋 小 胞 体phoshpolambanの り ン 酸 化 を 測 定 し た 。 放 射活性の測定はimage孤鴫囎(F、uj奴BAs2000冫を用いた。[ア‐32P]‐」6冊の叩甜fi・caCtivi‐ げはEn餌and&Wabhの方法で測定した。蛋自定量はL0wヴ法で行った。
]I[.結 果
Streptozotocin投 与によ り血糖値 は著明 に増加し た(range; 486 ‑ 775 mgtdl)。 糖尿病 ラ ット心筋では、
(1)各catecholaminesでp受 容 体 を 介 す る 陽 性 変 力 作 用 は 濃 度 依 存 性 に 惹 起 さ れ た が そ の 程 度 は い ず れ の ア ゴ ニ ス ト に お い て も 対 照 群 に 比 較 し て顕 著 に 減弱 し 、forsko‑
lin, IBMX, DBcAMPの 最 大 収 縮 反 応 も 有 意 に 対 照 群 よ り 減 弱 し て い た 。 鋤p受 容 体 数が 約500/0減少(Bmax; 138土16 vs. 78土6fmol/mg of protein)し ていた が、
リガ ン ド に 対す る 親 和性(KD; 99士17 vs. 115土13 pM)には 差はなか った。Isoprotere‑
nol,atenolol,ICI118,551はい ずれも[12司‑ICYPの結合を 濃度依存性に阻害しこれらの 曲線 を 解 析 する と 二 結合 部 位 モデルに 一致し た。Isoproteren01Itこ対す る高親 和性結合 部 位 の 比 率 は 変 化 し て お ら ず 、 こ の 高 親 和 性 結 合 部 位 はGppNHpに よ り 消 失 し た 。 またatenolol,ICI118,551の結合 阻害曲 線より検 討したp1/p:受容体 の比率 も変化し て いなかった。
(3)Isoproterenolによるadenylate cyclase活性の増加はat・enololによってのみ抑制され、
p2受 容 体 刺激 薬 で あるsalbu tamolでadenylate cyclase活性の 増加は 観察され なかっ た こと か らadenylate cyclase活性 の 増 加は 全 てpエ受 容 体を 介してい ると考 えられた 。さ らにisoproterenolをは じめNaF,GppNHp,forskolinいず れの活性 薬によるadenylate cyc‑
lase活性の増加も対照群との差は観察されなかった。
(4)刺 激 薬 非 存 在 下 で のphospholambanリ ン 酸 化 は 対 照 群 と 差 は な い が 、 対 照 群 で 認 めら れ たisopro terenol刺 激 に よるphaspholambanの り ン酸 化 の 著明 な 増 加は 認 め られ なかった。[y−32P]̲ATPのspecific activityは、対照群同様isopro terenol投与前後で変化 しなかった。
VI.結 語
糖 尿病 病 態 で み ら れ る 心 機 能 異 常 の ー つ で あ る心 筋p受 容体 機構 の変 化に つい て 実験的糖尿病ラット心臓を用い、機能的実験、受容体結合実験、aden yatecyCl譌e活 性 測 定 、 筋 小 胞 体ph僞phol弧lb孤 リ ン 酸 化 の 測 定 に よ り 解 析 し た 。 1.糖尿病心筋ではp受容体を介する陽性変力作用およびforskom,IBMX,DB(:AMP による陽性変力作用が顕著に減弱していた。
2.糖尿病心筋では声受容体が有意に減少しているがpユ/p:受容体比に差はなく、
親和性も変化していなかった。
3.糖尿病心筋における迅op刪e噺01に対する高親和性結合部位の比率も変化してい なかった。
4.p受容体刺激、f0岱kol血,GppNHp,Nぜによるadenyl眦叩1鵠e活性の増加は糖尿 病病態で十分に保たれていた。
5.糖尿病心筋では声受容体刺激による卩漑mk血aSeAを介する筋小胞体phosphola‐ mb齟のりン酸化が障害されていた。
以上 よ り 、 糖 尿 病 ラ ッ ト 心 筋 に み ら れ るp受 容体 刺激 によ るcAMPを 介し た陽 性 変力作用減弱は、p受容体・G蛋白質‐Adenylatecycl譌e連関の変化によるものではな くpoteink血a闘Aによるph鏘phol弧心孤をはじめとする収縮に関与する蛋白質のりン 酸化過程の障害であることが示唆される。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
実験 的糖尿 病ラットにおける心筋儚受容体機構の 変化に 関する薬 理学的 研究
実験的糖 尿病動物 の心機能 異常にロ 受容体を介する心収縮反応の抑制がある が、その 穣序は十 分に明ら かにされ ていない。 そこで、申請者は、streptozot ocinによる実 験的糖尿 病ラット を用いて 卩受容体を介する心筋反応性低下の穣 構を解明することを目的に本研究をおこなった。
実験には、8週令の /ista「系ラットtこstreptozotocin (STZ) 45tn8/k9を尾静 脈から投与して作製し′こ糖尿病動物を用い、溶媒であるcitrate buffer液のみ を与え′ こ動物を 対照群とした。STZ授与4ないし6遇後に以下に簡述する実験に 供した。(I)機能的実 験:電気 的に駆動 している左 室乳頭筋 の等尺性 張カを測 定し、isoproterenol、epinephrine、norepinephrineによるロ受容体を介する 陽性変力作用および受容体をバイパスする刺激藁であるforskol in、dibu t>tl ic ーcAMP (DBcAMP)、|Bl'lXの陽性変力作用の濃度作用関係を検討した。(2)受容体 結合実験:摘出した心臓から得′こ膜標品を用いて、ロ受容体の特異的リガンド である[1251].i odocyanopindolol([125 IlICYP)の結合飽和実験から、Scatch ardの方法に よルロ受 容体数と 解離定数 を求め′こ。さらに、ロ1/B2受容体の 割合およ び高親和 性結合部 位の比率 を決めるた めに、ロ1およびロ2受容体の選 択的拮抗藁ならびにisoproterenolを用いて[:1251]|CYPの結合阻害実験をおこ ぬった。(3)Adenylate cyclase活性の測 定:Salomonの方 法に若干 の修飾を加 えadenylate cyclase活性を測定した。活性藁としてisoproterenol、NaF'、Gpp NHp、forskolinを用いこれら薬物の濃度反応曲線を得′こ。また、isoprotereno lによるadenVlate cyclase最大活性に対するatenolol、lC1118,551の抑制効果 も検討し た。(4)Phospholambanリン 酸化の測 定:Lan8:endorff法で濯流してい る摘出心臓を用い、Lindeiann等の方法に従い筋小胞体phospho|alllbanのりン酸 化 を 測 定 し ′ こ 。 得 ら れ ′ こ 実 験 結 果 は 次 の 通 り で あ る 。 糖尿病動 物の心筋 で誼、(1)対照群動物に比べて、isoproterenol、epinephr ine、norepinephrineによる ロ受容体 を介する 陽性変力 作用の著明 な滅弱を 認
夫 修
哉
盛
秀
野 物
藤
菅 劔
齋
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
め、 さらに、 受容体を バイパス するが同 じ細胞内情報伝達系を利用するforsko lin、|BHX、DBcAMPの最大収縮反応も有意に減弱していることを明らかにした。
(2)対照群動物に比較して、ロ受容体数が約50X減少していることを認め′こ。し かし、[125|lICVPに対する親和性、af,enolol、|C1118,551による結合阻害曲線 から 解析して 得られた ロ1/ロ2受 容体比、isoproterenolに対する高 親和性結 合部 位の比率 は変化し ていない ことを明 らかにした 。(3)ロ受容 体を介す る刺 激(、isoprotereno|)、受容体とadenylate cyc|aseを連関させているG蛋白へ の刺 激(NaF、t、JppN‖p)、adenylatecyclase直接の刺激(forskolin)による 心 筋adenyIatecyclase活 性 の亢進 には、糖 尿病ラッ トと対照 ラットの問 に差 が認められないことを明らかにし′こ。さらに、isoproterenolによるadenylate cyclase活性 の亢進に は月1受容 体のみが 関与していることをサブタイプ特異的 拮抗藁を用いて証明し′こ。(4)しかし、ロ受容体を介する心臓筋小胞体phosph ola雨banのりン酸化が糖尿病ラットで顕著に抑制されていることを見いだした。
以上 の実験結 果から、 糖尿病病 態でみら れる心機能異常のーつである¢受容 体 を 介す る 陽 性変 力 作用 の 減 弱は 、 ロ受 容 体 一G蛋白 ―adenylatecyclase連 開 の 変化 に よ るも の では な く 、proteinkinaseAによ るphosphoIambanを はじ め と する 収 縮 に関 与 する 蛋 白のり ン酸化過 程の障害に よると結 諭してい る。
口頭 発表に際 して、劒 物教授か らロ受容 体反応減弱に開する従来の考え方、
糖尿 病患者の 心不全に 対する有 効な治療 藁にっいての考え方、齋藤(秀)教授 からS↑Zの心直 接作用の 有無、ロ 受容体数 滅少の穣序、石橋教授から想定され るproteinkinaSeAの 異 常 の 接 序 、phosphoIamban以 外 にproteinkinaSeAの 基貿 蛋白のり ン酸化異 常の検討 の有無な どについて試問があったが、申請者は 概ね 適切に応 答した。 また、小 池、北畠 両教授から塘尿病モデルの適切性、臨 床 病 態 と の 関 連 に っ い て 有 益 な 示 唆 な ら び に 助 言 が あ っ た 。 なお 、副査の 劒物教授 および齋 藤(秀) 教授より個別に面接試問を受け、合 格と判定されている。
本研 究は、実 験的糖尿 病病態に おけるロ 受容体を介する心筋収縮反応減弱の 穣序 に新しい 考え方を 提唱し、 かつ、臨 床で観察される糖尿病性心機能異常の 理解 に貴重な 示唆を与 えるもの であるの で、博士(医学)の授与に値すると評 価する。よって、合格と判定する。