博士(医学)若狹 哲 学位論文題名
ウ サ ギ 脊 髄 虚 血 再 灌 流 モ デ ル に お け る astrocyte 活性化と遅発性運動神経細胞死に関する検討 学位論文内容の要旨
【 目的 】 胸 腹部 大 動 脈手 術 に おけ る 脊 髄障 害 は 最 も回 避 す べき 合 併 症の ひ と っで あ る. ー過性 虚 血後 の 脊 髄障 害 の 原因 は 虚 血再 灌 流 障害 と 考 え られ て い るが , 再 灌流 直 後 から 認 めら れる障 害 の 他 に 遅 発 性 障 害 も 存 在 す る . 脳 で は 虚 血 に より 活 性 化さ れ たreactive astrocyteでGFAP (glial fibrillary acidic protein)の発現が亢進しており,astrocyteと遅発性脳細胞障害との関連が指 摘 され て い るが , 脊 髄に お い てそ の 関 連性 を 検 討 した 報 告 はな い . 本研 究 の 目的 は ,ウ サギ脊 髄 虚 血 モ デ ル を 用 い て 虚 血 再 灌 流 後 の 脊 髄 に お け るastrocyte活 性 化 をGFAP発 現 量の 半 定 量 的測定で評価し,神経細胞障害との関連性を検討することである.
【 対象 と 方 法】 脊 髄 虚血 モ デ ルは ウ サ ギ腎 動 脈 下 腹部 大 動 脈バ ル ー ン閉 塞 モ デル を 用い た.虚 血 時 間 と 温 度 は 従 来 の 我 々 の 検 討 で 即 時 型 障 害 と遅 発 性 障害 が 混 在す る39℃15分 とし , 体 重 2.8kgー3.5kgの 雄New Zealand White Rabbit 18羽 を 用 いて 検 討 を行 っ た .全 身 麻 酔下 に 大 腿 動 脈 か ら バ ル ー ン カ テ ー テ ル を 腎 動 脈 下 に 挿 入 ,バ ル ー ン拡 張 に より15分間 の 脊 髄 虚血 を 誘 発 し た . 再 灌 流 後7日 日 ま で24時 間 毎 にJohnsonら の 方 法 に 基 づ ぃ た5段 階 の 神 経 機 能 評 価 を行っ た(0:後脚 運動麻痺,1=重度の不全対麻痺,2:筋力低下/跳躍不能,3〓失調性運動/いぴ っ な跳 躍 ,4: 軽 度 の運 動 失 調,5= 正常 機 能 ) .ま た24時 間,3日船 よぴ7日後に6匹ず っのウ サ ギ を犠 牲 死 させ , 脊 髄を 取 り 出し て 組 織学 的 , 免 疫組 織 学 的検 討 を 行っ た . 組織 学 的検 討はパ ラ フア ン 封 埋し た 脊 髄か ら 作 製し た4ルm切 片 標 本にHematoxylinーEosin染 色を 行 い 光学 顕微鏡 で 観 察 , 正 常 脊 髄 前 角 細 胞 数 を 計 測 し た , 免 疫 組 織 学 的 検 討 は 凍 結 脊 髄 の 切 片 標 本 を 抗 GFAP抗 体で 免 疫 染色 し , 陽性 反 応 領域(GFAP positive area fraction)をコンピ ュータ で半定量 的 に分 析 し た. デ ー タの 統 計 学的 分 析 は, 非 連 続 変数 に はWilcoxon signed rank testを,連続 変数に はOne−way analysis of variance及 びTukey Smultiple comparison testを用い,変数間の 相 関 はlinear regression testで 評 価 し た . 全 て の検 討 はP―value0.05未 満 で有 意 と した .
【 結果 】Johnson scoreに基 づ く 神 経機 能 評 価で は24時 間 後 と3日 後 の間 に 有 意差 を 認 めなかっ た が ,24時 間 後 と 比 べ5日 目 以 降 で 有 意 なscoreの 低 下 を 認 め た(24時 間 後4.67土0.52,7日
後2.17土0.76;p二 ニ0.0312). Johnson scoreと 前角 細 胞数 の問 には 有意 な線 形相 関が 認め られ (r2=0.6128,p二 ニ0.0026),24時間 後に 比べ7日 後で 正 常前 角細 胞数 は有意に低下した(24時間後 31.08土1.37,7日 後21.32土0.59;p二 二 ニ0.0016).免 疫 組 織学 的検 討で は, 脊髄 白質 にお ける GFAP発 現 は 再 灌 流24時 間 後 に 比 べ3日 後 以 降 亢 進 し て お り ,GFAP positive area fractionも 有 意 な 拡 大 を 認 め た(24時 間 後4.43土0.65%,3日 後5.95土1.10%; p=0.0236 vs 24時間 後,7日 後6.24土2.89%;pニニニ0.0004 vs 24時間後).GFAP発現率と正 常前角細胞数およびJohnson score と の 間 に は 再 灌 流 後24時 間 で は 相 関 を 認 め な か っ た が ,3日後 では 有意 を負 の線 形相 関を 認め た ( 前 角 細 胞 数 ;r2=0.9296,p=0.0021,Johnson score; r2=0.7987,p=0.0164).
【 考察 】神 経細 胞の 中に は 虚血 後の 再灌 流に よル エネ ルギ ー代 謝が 回復してもそのまま数 時間ー 数 日 後 に 細 胞 死 に 至 る , い わ ゆる 遅発 性細 胞死 を起 こ すも のが 存在 する .脊 髄で は, ウサ ギに お い て 虚 血 再 灌 流 後 の 遅 発 性 選 択 的 運 動 神 経 細 胞 死 が 報 告 さ れ て お り , 臨 床 に お い ても 胸部 大 動 脈 瘤 手 術 後1ー5日 で の 遅 発 性 脊 髄 障 害 が 報 告 さ れ て い る . ラ ッ ト 脳 梗 塞 モ デ ル では 梗塞 巣 の 遅 発 性 拡 大 が 知 ら れ て お り , 梗 塞 周 辺 領 域 のastrocyteに お け るsioo口 合 成 の up−regulationと の 関 連 性 が 報 告 さ れ て い る .Astrocyteは虚 血に より 活性 化さ れ, 肥大 して reactive astrocyteへと 変 化す る,Reactive astrocyteで はGFAPの 合成が亢進している. 本研究 で は , 一 過 性 脊 髄 虚 血 モ デ ル を 用 い て 虚 血 再 灌 流 後 の 脊 髄astrocyteの 組 織 学 的 変 化 を 経 時 的 に 分 析 し た . 再 灌 流 後24時 間 で はastrocyteの 細 胞 質 は ま だ 小 さ くGFAPの 発 現 も 少 量 だ っ た が,3日後 には 明ら かな 形態 変化 が認 めら れ,reactive astrocyteが増加しGFAP positive area fractionも 有 意 に 拡 大 し た . こ れ ら の 結 果 は 脳 梗 塞 モ デ ルに おい てastrocyteのGFAP免疫 活性 が 虚血 再灌 流後48ー72時 間 頃よ り強 く現 れて くる とい う報 告と 一致 する.また本研究では 再灌流 後3日経 過し た個 体群 にお いて ,GFAP positive area fractionと正 常前 角細 胞数 お よびJohnson scoreと の問 に有 意な 負の 相関 が認 めら れた が,24時 間 後で は有 意な 相関 が認 めら れな かっ た.
こ の こ と か ら 再 灌 流 後24時 間 で脊 髄障 害が 顕在 化し て くる 個体 では 虚血 によ る直 接的 障害 が強 く 影響 して おり ,3日 後に 見ら れる 遅発 性神 経細 胞障 害 にはastrocyteの活性が影響してい ること が 示唆 され た. また ,7日 目で はastrocyte活 性が 維持 され てい るに もかかわらず神経細胞 障害は 進 行し てお り, 両者 の相 関 性は 低い と考 えられた, Reactive astrocyteの細胞障害機序は ,亢進 したSl00ロがiNOS(inducible nitric oxide synthase)を誘導することでnitric oxide等が産生されて ニ ュー ロン を障 害す ると 考 えら れて いる .本 研究 では ,astrocyteの 活動 性の 指標 であ るGFAP発 現 を 半 定 量 的 に 評 価 す る こ と で , 一 過 性 脊 髄 虚 血 モ デ ル に お け る 遅 発 性 脊 髄 前 角 細 胞死 の程 度 とreactive astrocyteに おけ るGFAP免 疫活 性と の相 関性 を初 めて 証明することができた .この GFAP発 現 の 半 定 量 評 価 法 は , 今 後 様 々 な 脊 髄 保 護 法 の 実 験 的 評 価 に お い て 応 用 で き る 可 能 性がある.
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
ウサギ脊髄虚血再灌流モデルにおける
astrocyte 活性化と遅発性運動神経細胞死に関する検討
胸 腹 部 大 動 脈 手 術 後 の 虚 血 性 脊 髄 障 害 は 最 も 回 避 す べ き 合 併 症 の ひと つで ある .一 過 性 虚 血 後 の 脊 髄 障 害 の 原 因 は 虚 血 再 灌 流 障 害 と 考 え ら れ て い る が , 再灌 流直 後か ら見 ら れ る即 時性 障害 の他 に遅 発性 障害 が存 在す る. 脳で は 虚血 によ り活 性化 されたastrocyteと 遅 発 性 神 経 細 胞 障 害 と の 関 連 が 指 摘 さ れ て い る が , 脊 髄 に お い て そ の関 連性 を半 定量 的 に 検 討 し た 報 告 は な い . 本 研 究 の 目 的 は , ウ サ ギ 脊 髄 虚 血 モ デ ル を 用い て虚 血再 灌流 後 の 脊髄 にお けるastrocyte活性 化をastrocyteの 骨格 形 成蛋 白で あるGFAP(glial fibrillary acidic protein)発 現の 半定量的測定法で評価し,神経細胞障害と の関連性を検討することで ある.
実 験 モ デ ル は ウ サ ギ 腎 動 脈 下 腹 部 大 動 脈 バ ル ー ン 閉 塞 モ デ ル を 用 いた .虚 血時 間と 温 度 は39℃15分 と し , 体 重2.8kg'‑3.5kgの 雄New Zealand White Rabbit 18羽を 用い て検 討 を 行 っ た , 再 灌 流 後7日 目 ま で24時 間 毎 にJohnson scoreに よ る6段 階 の 神 経 機 能 評 価 を 行 い ,24時 間 ,3日 お よ び7日 後 の 機 能 評 価 の 後 に 各6匹 ず つ 動 物 を 犠 牲 死 さ せL4/5レ ベ ルの 脊髄 を採 取し てHematoxylin―Eosin染色 による正常神経細 胞数の計測を行った,さら に 抗GFAP抗 体 を 用 い て 免 疫 組 織 染 色 を 行 い ,GFAP発 現 の 程 度 を コ ン ピ ュ ー タ ー で 半 定 量 的 に 計 測 し てastrocyte活 性 の 指 標 と し た(GFAP positive area fraction).
脊 髄 神 経 障 害 は 再 灌 流 後24時 間 以 降 も 遅発 性に 進行 が見 られ ,Johnson scoreと 正常 神 経 細 胞 数 の 低 下が 認め られ た,Astrocyteは再 灌流3日 後以 降で 明 らか な活 性化 が見 られ , GFAP positive area fractionも有意に増加が認められた.GFAP positive area fractionと正常 神 経 細 胞 数 の 間 に は 再 潅 流24時 間 後 で は 有 意 な 相 関 が 見 ら れ ず ,astrocyteは 即 時 性 障 害 には あま り関 与し てい ない と考 えら れた ,し かし3日後 には 両者 に有 意な 負の相関が認め ら れ,astrocyte活 性が 高 いほ ど神 経細 胞数 が少 ないという結果となった.一方で7日後では 相 関 が 見 ら れ な か っ た . こ の3日 後 に お け るastrocyteの 活 性 化 は 虚 血再 潅流 後遅 発性 神 経 細胞 障害 の原 因あ るい は結 果と なっ てい る可 能性が考えられた . Astrocyteは障害神経細
郎 之
信
喜 裕
喜
居 井
崎
松 筒
岩
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
胞によって活性化され神経細胞に保護的な働きをすることが知られているが,一方で脳にお いては活性化astrocyteがsiooBやiNOS(inducible nitric oxydase synthase)を誘導して細 胞障害を来すことが報告されており,脊髄においても同様の機序が考え得る.従って活性 化astrocyteが遅発性脊髄障害の原因となっているかを検証するために,これらの蛋白発現 を分 析 しastrocyte関与 の 詳細な 機序を検 討してい くことが今 後の研究 課題であ る.
本研究でastrocyte活性の指標に用いたGFAP positive area fractionは活性化astrocyte の細胞質 肥大や突 起の延長 といった 細胞の拡大 を染色部 位の面積 で,骨格 蛋白である GFAP発現の亢 進を染色 濃度によ って同時 に評価可能 で,astrocyte活性の半定量的評価 法 と し て 今 後 様 々 な 脊 髄 保 護 法 の 研 究 に 応 用 可 能 と 考 え ら れ た . 公開発表では,副査の岩崎教授から薬剤によるastrocyte抑制の可否とその臨床応用の 可能性に関して,また再灌流後の脊髄後角細胞の変化にっいて等の質問がなされた.同じ く副査の筒井教授からは虚血再灌流時のastrocyte活性化の機序と役割にっいて,主査の 松居教授 から遅発 性障害発症に関する本研究の虚血条件の妥当性に関して等の質問がな された. 申請者は 自らの実験結果,臨床体験,この分野に関する文献などをもとに,誠 実にかつ妥当な回答を成しえた.
本研究は ,虚血再 灌流後の遅発性脊髄神経障害の機序解明の一端を担い,胸腹部大動 脈瘤治療の今後の展開に重要な寄与をするものと評価される.
審査員一 同は,申 請者の学 識に合わ せて,この 研究が関 連領域研 究と臨床 成績の進展 に成果を 評価し, 大学院課程に茄ける研鑽や単位取得なども併せ申請者が博士(医学)
の学位を受けるのに充分な資格を有するものと判定した.