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博 士 ( 医 学 ) 大 森 哲 郎 学 位 論 文 題 名

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博 士 ( 医 学 ) 大 森 哲 郎

学 位 論 文 題 名

精 神 分 裂 病 様 症 状 発 現 薬 Phencyclidine の      薬 理 作 用 に 関 す る 研 究

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  Phencyclidine (PCP)は,乱用者に精 神分裂病様症状を惹起し,分裂病患者の病状を増悪 させる。したがって,この薬物の作用機序の解明は,精神分裂病の病態理解にも通じる重要な課 題である。本研究は,PCPの薬理作用を検討し,精神症状発現機序を考察することを目的とし て いる 。現 在の と ころPCPの向 精神 作用 のメ カ ニズ ムの 詳細は不明であるが ,同薬物は dopamine (DA) の 取 り 込 み を 阻 害 し て 間 接 的DA作 動 薬 と し て 働 く こ と , およ びN・ methyl―Dーaspartate (NMDA)型グルタミン酸受 容体の非競合的拮抗薬として 作用するこ とが知られている。本研究では,PCPのこの2っの性質を同一実験系で比較検討するべく,ラッ 卜 線条 体切 片を 灌 流し ,自 発性 お よびNMDA誘発 性DA遊 出に対するPCPの影響 を調べた。

  実験には ,Wistar―King雄性ラッ卜(250―300g)を用いた。断頭 後,すみやかに脳を取 り出し,氷上において,brain cutting blockを用いて,厚さ2.Ommの線条体を含む冠状面を切 り出した。これをMcIlwain tissue chopperで500um厚にスライスし,約10片の線条体切片を,

内容積約100ロ1のchamberに封入した。 酸素95%,二酸化炭素5%の 混合ガスで飽和したマ グネシウム イオンを含まないKrebs緩衝 液を,0.sm87minの流速で,37℃の恒温槽中におい て灌流した 。基礎遊出量を観察後,PCPを添加したKrebs緩衝液に切 り換えて,DA遊出反応 の 変 化 を 測 定 し た 。NMDA誘 発 性DA遊 出 に 対 す るPCPの 影響 を調 べる 実 験で は,PCPを 含 有す る緩衝液で30分間灌流した後,PCPとNMDAの両者を含む緩衝液に切り換 えた。灌流 液 中に 遊出 され るDAお よび3,4−diphdroxy―phenylacetic acid (DOPAC)は, アルミ ナ抽出し,電気化学検出器付き高速液体ク口マトグラフィーによって定量した。基礎遊出量に対 する薬物添 加後の反応遊出量の比を取り ,分散分析とStudent Newman‑Keuls testを用いて 統計解析した。

  その 結果 ,1uM以 上の 濃 度のPCP存在下におい て,濃度依存性に灌流液中のDA量すなわ ちDAの 自 発 性 遊 出 量 の 増 加 が 認 め ら れ た 。 す なわ ちPCPの 間接 的DA作 動作 用は1uM以

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上 の濃 度で 発現 され た と言 うこ とが でき る 。ま たDA同様 にDOPACの自発性遊出も1皿M以 上 のPCP濃度 に おい て増 加し て いた 。DOPACの増加は,DAの合 成の促進を反映している可 能 性が ある 。一 方NMDAは, 線条 体切 片からDAの遊出を促進し た。先の検討で,この効果 はMg゜゛存在下で消失し,NMDAの競合的拮抗薬および非競合的拮抗薬はこれを抑制すること,

さらにNMDA受容 体ア口ステリック調節部位の 拮抗薬もこれを抑制するこ とを明らかにして い る。 これ らの 所見 は ,DAの放 出がNMDA受容体によって調節 されていることを示してい る 。本 研究 では ,こ のDA遊 出反 応を ,NMDA受容 体機 能の 生 化学的指標として用い,PCP のNMDA受 容 体 拮 抗 薬 と し ての 性 質を 調べ た。 そ の結 果,PCPは濃 度依 存性 にNMDA誘発 性DA遊出を抑制 することが判明した。この効 果はO.lpMという低濃度においても有意であっ た。抑制の様式は非競合的であり,IC50は280nMであった。

  以上 の結 果は,ラット線条体DA神経終末からのDAの放出過 程に対し,PCPが方向の異な る2っの 作用 を 有す るこ とを 示 して いる。すなわち,PCPは間 接的DA作動薬としてDAのシ ナ プス 間隙 内濃 度を 上 昇さ せる 一方 で,DA神経終末上のNMDA受容体刺激によって生じる DAの 放 出 は 抑 制 す る 。NMDA誘 発 性のDA遊 出に 対 するPCPの 抑 制効 果は ,自 発 性の 遊出 に は影 響を 与えない低い濃度にお いても発現されるので,PCPは低濃度ではNMDA受容体活 性化の阻害を通 してDAの遊出には抑制的に働 き,濃度が高くなると間接 的DA作動作用が加 わ って ,DAのシ ナプ ス 間隙 濃度 を高 める と 推定 され る。NMDA誘 発性 のDA遊出 に 対する PCPの抑制様式が 非競合的であり,Icsoが280nMであったことは,受容体 結合実験の報告と 一致している。

  ここ で得 られ たPCPのDA神 経 終末 における二重の作用が,PCPの向精神作用にどのよう に関与している かは不明である。しかしこの 結果は,PCPが比較的弱い間接的DA作動薬であ ると同時に,強 い非競合的NMDA拮抗薬として 作用することを同一実験系 において明示して いる。すなわちPCPの向精神作用や動物の行 動への効果は,低濃度ではNMDA阻害作用によっ て生じ,濃度が 高くなると間接的DA作動作用が加わって発現することを示唆している。正常 人における精神病症状惹起作用や分裂病患者における症状の増悪は,少量のPCPの単回注射で も 生じ ると される。したがって,PCPの精神分裂病症状発現は ,NMDA受容体に対する作用 に基づいている推定される。

  PCPに よっ て出現する精神分裂 病様症状の発現機序がNMDA受 容体遮断にあることを示唆 する今回の結果は,精神分裂病の生物学的基盤を考える上でも興味深い。今後精神分裂病におけ るNMDA受 容 体 機 能 や グ ル タ ミ ン 酸 神 経 伝 達 異 常 の可 能性 を 検討 する 必要 が あろ う。

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学位論文審査の要旨

  Phencyclidine(PCP)は,乱用者に精神分裂病様症状を惹起し,分裂病患者の病状を増悪 させる。したがって,この薬物の作用機序の解明は,精神分裂病の病態理解にも通じる重要な課 題である。本研究は,PCPの薬理作用を検討し,精神症状発現機序を考察することを目的とし てい る。 現 在の とこ ろPCPの 向精 神作 用 のメ カニ ズムの詳細は不明であ るが,同薬物は dopamine(DA)の 取 り 込 み を 阻 害 し て 間 接 的DA作 動 薬 と し て 働 く こ と , お よ びN・ methyl―D・aspartate (NMDA)型グルタミン酸受容 体の非競合的拮抗薬として作用するこ とが知られている。本研究では,PCPのこの2っの性質を同一実験系で比較検討するべく,ラッ ト線 条体 切 片を 灌流 し, 自発 性 およ びNMDA誘 発性DA遊出に対するPCPの 影響を調べた。

  実験には,Wistar・King雄性ラット(250―300g) を用いた。断頭後,すみやかに脳を取 り出し,約10片の線条 体切片(2.OxO.5xO.5mm)を ,内容積約100ロ1のchamberに封入し,

37℃ のKrebs緩衝 液を ,O,smE/minの 流 速で 灌流 した 。緩 衝 液にPCPやNMDAを添加して それらの薬物がDA遊出 に与える影響を調べた。灌流 液中に遊出されるDAは,電気化学検出 器付き高速液体ク口マトグラフィーによって定量した。基礎遊出量に対する薬物添加後の反応遊 出 量 の 比 を 取 り , 分 散 分 析 とStudent Newman・Keuls testを 用い て統 計 解析 した 。   その結果,1ロM以上の濃度のPCP存在下に おいて,濃度依存性に灌流液 中のDA量すなわ ちDAの 自 発 性 遊 出 量 の 増 加 が 認 め ら れ た 。す なわ ちPCPの 間接 的DA作 動作 用は1uM以 上の 濃度 で 発現 され たと 言うことができる 。一方NMDAは,線条体切片か らDAの遊出を促 進した。予備的研究で ,この効果はMg2゛存在下で消失し,NMDAの競合的あるいは非競合的 拮抗薬はこれを抑制す ること,さらにNMDA受容体ア ロステリック調節部位の拮抗薬もこれ を抑 制す る こと を明 らか にしている。した がってこのDA遊出反応はNMDA受容体の薬理学 的プ口フィルをよく表現していると言える。本研究では,この反応を,NMDA受容体機能の生 化学 的指 標 とし て用 い,PCPのNMDA受容体拮 抗薬としての性質を調べた 。その結果,PCP は 濃 度 依 存 性 にNMDA誘 発 性DA遊出 を抑 制す る こと が判 明し た。 こ の効 果はO.luMと い う低濃度においても有 意であった。抑制の様式は非競合的であり,IC50は280nMであった。

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格 哉

   

   

下 藤

山 斎

授 授

教 教

査 査

主 副

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  以上 の結 果か ら,PCPは低 濃 度で はNMDA受 容体 活 性化 の阻害を通してDAの遊出には抑 制的に働き,濃 度が高くなると間接的DA作 動作用が加わって,DAのシナ プス間隙濃度を高 めると推定され る。このようなDA神経終末 における二重の作用が,PCPの向精神作用にどの ように関与して いるかは不明である。しか しこの結果は,PCPが比較的弱い間接的DA作動薬 であると同時に ,強い非競合的NMDA拮抗薬 として作用することを同一実 験系において明示 し てい る。すなわ ちPCPの向精神作用は,低濃 度ではNMDA阻害作用によっ て生じ,濃度が 高くなると間接 的DA作動作用が加わって発現することを示唆している。正常人における精神 病症状惹起作用や分裂病患者における症状の増悪は,少量のPCPの単回注射でも生じるとされ る 。し たがって,PCPの精神症状発現は,NMDA受容体に対する作用に基づ いていると推定 される。

  PCPによって出現する精神症状は幻覚妄想にとどまらず感情の平板化,思考障害,現実感の 喪失にまで及び 精神分裂病の病像の全体に 近似する。この症状の発現機 序がNMDA受容体遮 断にあることを 示す本研究の結果は,精神 分裂病の生物学的基盤としてNMDA受容体神経伝 達低下を想定できる可能性を示唆している。

  以上の発表に際し斎藤秀哉教授より4点質問を受け回答した。(1)少量PCPによるDA放出抑 制が精神症状に っながるのか,NMDA阻害によるカチオンの流入減少が関係あるのか。−シナ プス後膜における後者の作用が重要と考える。(2) DA再取り込み阻害能Jま関係あるか。一作用 濃 度か らみ てNMDA阻 害 作用 がよ り強く関連し ていると思う。(3)選択的NMDA阻害薬MK‑

801には精神症状はあるのか。一報告されている。しかし病像の詳細にっいては明確ではない。

(4) In vivo dialysisは用いないのか。―用いているが,本研究の目的にはMg゜゛の影響を制御 できるin vitroの実験の方が適切であった。

  本研究は,乱 用により精神分裂病様症状をきたすPhencyclidineの薬理作用を検討し,NM‑

DA受容体を介するグルタミン酸系の関与を推定したもので,従来のドパミン仮説に加えて,精 神分裂病の病態 の理解に寄与するところが大きく,博士の学位に値するものと判定された。

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参照

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