博 士 ( 獣 医 学 ) 末 吉 益 雄
学 位 論 文 題 名
Treponerna hyodysenter む Qe の 実 験 感 染 雛 モ デ ル の 作 出 お よ び 下 痢 発 生 機 序 に 関 す る 形 態 学 的 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
Treponema (T.)hyodysenteriaeは 豚 赤 痢 の 原因 菌 で , 豚 に経 口 授 与 し た 場合 に 本 症 を 発 症す ること が明ら かにさ れて おり, 特定の マウス でも 該菌に よって 感染す ることが報告されてい る 。 著者 は , 比 較 的取 扱 い の 簡 単な 雛 を 用 い て 感染 実 験 を 行 い,F hyodysenteriaeが 雛の盲 腸に 定着し ,かつ 豚赤痢 発症 豚の大 腸病変に類似した病変が起きることを確認することができた。
こ の こ と は 豚 赤 痢 の 感 染 モ デ ル と し て 雛 が 極 め て 有 用 で あ る こ と を 示 唆 し て い る 。 本 研 究では ,孵化 後24時 間以内 に雛にF hyoめ,senteriaeをO.smEずつカ テーテ ルで経 口的 に 投与 した。 まず, 投与後7日 および14日目 に雛を 殺処分 し,細菌学的および病理学的に検査した。
該菌 は盲腸 ,とく に盲腸 本部 の粘膜 に最も 多く付 着し た。10 個/縦 の菌 浮遊液を投与した雛で は , 感染 後7日 目 およ び14日目に 該菌が 高率 に定着 するこ とが確 認さ れた。l07個 /紺の 菌浮遊 液 を 投 与 し た雛 の 感 染 後7日 目 で は , 全て の 雛 の 盲 腸か らF hyodysenteriaeが 分 離さ れ , 該 菌が 定着し ている ことが 確認 された 。しか し,14日目で は,全 ての雛 から は分離されず,分離菌 数 も 低値を 示した 。l08個/縦 の菌 浮遊液 を授与 した雛 群の 投与後14日目で は, 該菌が 多数盲 腸 粘膜 に付着 し,そ の一部 が固 有層に 侵入し ている のが 観察さ れた。 病変と しては,盲腸粘膜にお ける 上皮細 胞の剥 離,固 有層 におけ る水腫 ,充・ 出血 および 細胞浸 潤が認 められた。これらのこ と か ら,F hyoめ,senteriaeが 雛 の 腸管 , と く に 盲腸に 定着し ,病 変が惹 起され ること が確認 され た。
っ ぎ に ,T. hyoめ'senteriaeを雛 に投 与した 後,経 時的に3日 間隔で 殺処分 し, 該菌の 盲腸 への 定着, 盲腸粘 膜への 付着 状態お よび盲 腸粘膜 の病 変発現 過程を 検索し た。その結果,菌投与 後3日目に はす でに該 菌が盲 腸に定 着し ている ことが 明らか となり ,該 菌の定 着は実 験終了 まで 持 続 してい た。該 薗の盲 腸粘 膜表面 への付 着は, すでに ,菌 投与後3日 目に, 陰窩の 上皮細 胞表 面お よび絨 毛表面 で観察 され ,6日 目で は,一 部小菌 塊とし て付 着し,9日 目および12日目では,
菌塊 はさら に大き くなり ,陰 窩腔内 あるい は絨毛 表面 に付着 し,一 部上皮 の剥離部にも認められ
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た。15日目お よび18日目で は,さ らに多 数の 該菌が 粘膜表 面に付 着し ており ,上皮細胞間および 固 有 層へ の 侵 入 も 認め ら れ た 。21日 目 に は ,盲 腸 内 容 物 から のF hyodysenteriaeの 分離菌 数 値は 最も高 く,該 菌は陰 窩腔 内,上 皮細胞 間,杯 細胞内 およ び固有 層内に 多数認められた。24日 目に も,該 菌は上 皮細胞 間お よび固有層内に侵入していた。一方,盲腸粘膜上皮の病変としては,
はじ めに, 上皮細 胞の微 絨毛 の配列 の乱れ がみら れ;っ ぎに ,上皮 細胞の 剥離および軽度の過形 成が 認めら れた。 菌投与 後21日 目には それら の病 変は激 しさを 増し, とくに 粘膜表層の壊死・剥 離 お よ び 上 皮 細 胞 の 過 形 成 が み ら れ , 豚 赤 痢 で 見 ― ら れ る 大 腸 病 変 に 類 似 し て い た 。 以 上の 成績か ら, 経口投 与され たァ, hyodysenteriaeは 雛の盲 腸に速 やかに 移行 し,そ こで 増殖 し定着 するこ とが確 認さ れ,さ らに, 粘膜に 付着し た菌 拮塊を 形成し 始め,それが大きく発 達す ること が観察 された 。ま た,該菌は上皮細胞への付着とともに,その細胞間に侵入するため,
結果 として 多くの 上皮細 胞が 変性・ 剥離し ていた 。
そ こ で , 豚 赤痢 の 発 症 機 序 を解 明 す る こ とを 目 的 と し ,雛 にF hyodysenteriaeを 経口投 与 し, 投与後21日目に その 雛を殺 処分し て,盲 腸粘 膜病変 を詳細 に観察 した。 その結果,ほとんど の雛 の盲腸 は萎縮 し,粘 膜が 肥厚し ,白色 あるい は赤色 の水 様性の 内容物 を盲腸内に認めた。組 織学 的には ,粘膜 表層の 上皮 細胞の 剥離, 好塩基 性の短 縮し た上皮 細胞の 過形成,有糸核分裂像 の増 数およ び杯細 胞の過 形成 が認め られた 。
これ らの粘 膜病変 は粘 膜表層 の上皮 細胞の 変化 に基づ き,上 皮細胞 の剥離 ・脱落が著明な病変 と塩 基好性 の短縮 した上 皮細 胞およ び杯細 胞の過 形成が 著明 な病変 のニっ に分けられた。これら のニ っの病 変を観 察した とこ ろ,上 皮細胞 の剥離 の著明 なも のは, 透過型 電子顕微鏡的観察では 微絨 毛が疎 らとな り,細 胞質 内では糸粒体が腫脹し,核濃縮が認められ,変性あるいは壊死に陥つ てい た。ま た,こ の病変 では 該菌の 粘膜組 織内侵 入も著 明で あった 。該菌 の盲腸の固有層への侵 入経 路は, 上皮細 胞間の 細胞 間接着 複合体 を通過 して侵 入す る経路 および 上皮細胞のエンドサイ ト― シスで 細胞内 に取り 込ま れ,固 有層に 達する ニっの 経路 が観察 された 。該菌の侵入が認めら れた 上皮細 胞は糸 粒体の 腫脹 ,核の 濃縮等 の退行 性変化 が認 められ た。該 菌はさらに上皮細胞層 下の 基底膜 に沿っ て深部 まで 侵入するため,上皮細胞は固有層から剥離・脱落した。このように,
該菌 の組織 内侵入 は粘膜 にお ける病 変の発 現と密 接に関 連し ていた 。
上皮 細胞の 過形成 が認 められ たもの では, 上皮 細胞層 は塩基 好性の 短縮し た上皮細胞から構成 され ,多く の核分 裂像が 表層 付近に まで認 められ た。ま た, この上 皮細胞 の微細構造としては,
不規 則な配 列を呈 したが 少数 の短い 微絨毛 が存在 し,細 胞質 にはり ボゾー ムが多数観察され,端 網層 は不明 瞭で, 糸粒体 は少 数であ った。 このこ とから ,過 形成し た上皮 細胞は未分化な細胞で
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あ り, このよ うな上 皮細胞 の異常 な過 形成病 変は表 層の上 皮細 胞の壊 死,剥 離および脱落に伴う 陰 窩深 部から の上皮 細胞の 再生・ 更新 による もので あるこ とが 示唆さ れた。 未分化な上皮細胞の 不 明瞭 ナょ端 網層に は膜で 包まれ た微小水疱が多数認められ,また,それらの上皮細胞間は著明に 拡 張し ,その 中には 膜に囲 まれた 水疱 が存在 した。 さらに ,拡 張した 陰窩の 上皮細胞の内腔表面 に は舌 状の隆 起が認 められ ,一部 ,陰 窩腔内 に流出 してい た。 これら の所見 は組織から腸管腔内 へ の液 成分の 流出を 示唆し ていた 。さ らにま た,杯 細胞の 過形 成も認 められ ,陰窩開口部からの 粘 液の 分泌像 も認め られた 。
以 上 の 実験 成 績 か ら ,豚 赤 痢 で み られ る 大 腸 病変 は,アhyo〔 りsemerぬeの組織 内侵 入と密 接 に関 連して 発現し ,下痢 の発生 は, 第一に 上皮細 胞の広 範囲 の剥離 ・脱落 による吸収不全,第 二 に, 吸収機 能とし て未分 化な上 皮細 胞の置 換によ る吸収 不全 ,また ,第三 として,組織から腸 管 腔内 への液 成分の 分泌増 加に起 因し ている ものと 考えら れた 。さら に,豚 赤痢発症豚の下痢便 で しば しば観 察され る粘液 は杯細 胞の 過形成 による 粘液分 泌過 多が関 与して いることが示唆され た 。血 便は上 皮細胞 の著明 ナょ剥 離・脱落によって露出した固有層からの出血に起因していること が 示唆 された 。
以上述 べたよ うに, 本研 究では ,他の 実験動 物と比 較し て,経 済的に 安価である孵化直後の雛 を 豚の 代替動 物とし て使用 するこ とに よって ,雛の 盲腸に 豚赤 痢発症 豚の大 腸病変に類似した病 変 を容 易に作 出する ことが でき, 雛の 盲腸はT. んッ0め′semerぬeに よる豚 赤痢の極めて有用な 感 染モ デルと なり得 ること が明ら かと なった 。また ,詳細 に雛 盲腸モ デルの 病変を検索すること で 豚 赤 痢 に み ら れ る 下 痢 の 発 生 機 序 に 関 し て も 新 し い 解 析 を 提 示 す る こ と が で き た 。
学位論文審査の要旨 主査 教授 波岡茂・郎 副査 教授、清水悠紀臣 副 査 教 授 板 倉 智 敏 副 査 教 授 小 沼 操
豚赤 痢は昭 和40年 代にわ が国に 侵入 し多大 の被害 を与え て現在 に至 っているが,該疾病の豚結 腸に おける 感染機 序,出 血性 下痢に 至る病 理変化 など に関し ては不 明な点が多い。そこで著者は
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F hyodysenteriae(トレポネーマ)が雛に感染することから,これが豚赤痢のモデル動物 として有用であることを明らかにし,っいで詳細な盲腸病変の形成,出血の成因などにっいて光 学顕微鏡ならびに透過型および走査型電子顕微鏡によって解析を行った。本論文は和文128頁か ら成り参考論文15篇を付している。
著者はまず,l08の卜レポネーマを孵化後24時間以内の雛に投与したところ,その14日後には 該菌が多数盲腸粘膜に付着し,一部が,固定層に侵入していた。この場合,盲腸粘膜における上 皮細胞の剥離・固有層における水腫,充・出血および細胞浸潤が認められ,トレポネ―マが雛の 盲腸に定着し病変を惹起することが明らかにされた。
っぎに,トレポネーマを雛に投与した後,経時的に3日間隔で殺処分し該菌の盲腸における定 着,盲腸粘膜への付着および病変発現過程を検索した。その結果,トレポネーマ投与後3日目に はすでに該菌が盲腸に定着していることが明らかとなり,その定着は実験終了の24日目まで持続 していた。定着は陰寓の上皮細胞表面および絨毛表面で観察され,上皮細胞間および固有層への 侵入も認められた。一方,盲腸粘膜上皮の病変としては,まず上皮細胞の微絨毛の配列の乱れが みられ,っいで該細胞の剥離および軽度の過形成が認められた。さらに粘膜表層の壊死・剥離お よび上皮細胞の重度の過形成がみられ,これらの変化は豚赤痢でみられる大腸病変に類似してい た。以上の成績から,経口投与されたトレポネーマは雛の盲腸に速やかに移行し,そこで増殖定 着したのち粘膜に付着した菌は塊を形成するとともに,該菌は上皮細胞間に侵入するため結果と して多くの上皮細胞が変性・剥離することが明らかとなった。これらの粘膜病変は粘膜表層の上 皮細胞変化に基づき,上皮細胞の剥離・脱落が著明な病変ならびに塩基好性の短縮した上皮細胞 および杯細胞の過形成が著明な病変のニっに分けられた。すなわち,上皮細胞の剥離の著明なも のは,透過型電子顕微鏡的観察では絨毛が疎らとなり,細胞質内では糸粒体が腫脹し,核濃縮が 認められ,変性あるいは壊死に陥っていた。卜レポネーマの盲腸粘膜固有層への侵入経路は,上 皮細胞間連絡複合体を通過して侵入するものおよび上皮細胞のエンドサイトーシスで細胞内に取 り込まれ固有層に達する二通りのものが観察された。このようにトレポネーマの細胞内侵入は粘 膜における病変の発現と密接に関連してた。一方,過形成した上皮細胞は未分化な細胞であり,
このような上皮細胞の異常な過形成病変は表層の上皮細胞の壊死,剥離および脱落に伴う陰高深 部からの上皮細胞の再生・更新によるものであることが示唆された。未分化な上皮細胞の不明瞭 な端網層には膜で囲まれた微小水泡が多数認められ,またそれらの上皮細胞間は著明に拡張し,
その中には膜に囲まれた水泡が存在した。さらに,拡張した陰窩の上皮細胞内腔表面には舌状の 隆起が認められ,一部は陰窩腔内に流出していた。これらの所見は組織から腸管腔内への液成分
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の流出を示唆していた。さらにまた,杯細胞の過形成も認められ,陰寓開口部からの粘液の分泌 像も観察された。
これらのことから,豚赤痢でみられる大腸病変はトレポネーマの組織内侵入と密接に関連して 発現し,下痢の発生は第一に上皮細胞の広範囲の剥離・脱落による吸収不全,第二に吸収機能と して未分化な上皮細胞の置換による吸収不全,また第三として組織から腸管腔内への液成分の分 泌増加に起因しているものと考えられた。さらに,豚赤痢発症豚の下痢便でしばしば観察される 粘液は杯細胞の過形成による粘液分泌過多が関与していることが,また血便は上皮細胞の重度の 剥 離 ・ 脱 落 に よ っ て 露 出 し た 固 有 層 か ら の 出血 に起 因し てい る こと が示 唆さ れた 。 このように著者はトレポネーマを雛に感染させ,豚赤痢の疾患モデルを作出することによって 今まで不明な点が多かった該疾病の感染および赤痢発症の機序を明らかにした。これらの知見は 今後の豚赤痢の研究推進のうえに貢献するところが大きい。よって審査員一同は末吉益雄氏が博 士(獣医学)の学位を受ける資格を有するものと認める。
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