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博 士 ( 農 学 ) 山 下 直 子

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 山 下 直 子

学 位 論 文 題 名

小 笠 原 に 侵 入 し た 木 本 種 ア カ ギ の 生 理 生 態 と 環 境 保 全 に 関 す る 研 究

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  本研究は、小笠原諸島に侵入した木本種アカギの侵入成功要因について、生理生態学的アプ口 ーチ により 、森林生態系における外来樹種と競合在来樹種のもつ特性、および実際に侵入が起 きて いる場 所におけ る環境が どのよ うな相互 作用を もっかを 分析し、考察したものである。

内容は、大きくわけて.5つのサブテーマで構成されており、1)アカギの侵入が最も顕著である林 分における群集構造と動態調査、2)野外調査における各生活史段階ごとのデモグラフイックな現 象の解明、3)アカギの開花特性、4)森林の撹乱を想定した光環境の変化に対する生理生態的馴化 について、5)アカギの生活史全体を対象とした推移行列モデルによる繁殖抑制に効果的な生活史 段階の解析、最後にそれらの結果を総合し、アカギの繁殖抑制対策および在来樹種の保全につい て考察したものである。

  小笠原諸島母島の桑の木山湿性高木林におけるアカギのサイズ構造は、小さなサイズの個体数 が多くL型分布を示しており、更新が順調に行われていることが示唆された。一方の在来樹種は、

各サイズクラスの頻度分布がまばらであり、生活史初期段階での特性が、アカギの優占を決定づ ける重要なステージであると考えられた。種子生産量と発生する実生量について5年間のデモグ ラフイー調査を行った結果、アカギは種子の健全率が高く、また種子の発芽成功率も高かった。

さらに林内土壌中で埋土種子を形成することから、種子落下のない年にも実生を供給することが 可能であることが明らかとなった。発芽した実生の生存率は在来の遷移後期樹種であるシマホル トノキよりも高く、′林内では多くの実生パンクが形成されていた。さらに、シマホルトノキの種 子が、外来種のクマネズミによる被食率が高いことも、シマホルトノキの更新を妨げ、アカギの 実生の優占をさらに有利にするのに貢献していることも明らかとなった。これら2種の外来種の 作用によって、小笠原の在来樹種が減少しているというのは、外来種同士の相互作用が、在来の 生態 系に加 速的にインパクトを与えている1つの例といえる(Yamashita etaL2003 in press)。

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  アカギの開花個体の平均胸高直径は、雌は雄よりも大きく、雌の繁殖コストが高い可能性が示 唆された。また個体群の性比は雄に有意に偏っており、さらに性転換個体の存在も確認された。

性転換はどちらの方向にも確認され、特に雄から雌になる割合が高かった。以上の結果から、個 体群がより成熟した後には、性比が1ニ1に近づく可能性が示唆された(Yamashita and Abe 2002)゜   台風による森林の大規模な撹乱の起きる小笠原諸島では、林内の光環境は林冠ギャップの形成 とその閉鎖によって変動することが予想される。さらに、アカギの侵入が林冠ギャップにおいて 著しく、大型台風の襲来後にアカギの個体数が増大したことから、ギャップの形成および閉鎖を 想定して、光環境の変化に対する葉の光合成能カの変化とその後の成長について、アカギと在来 樹種を比較した。その結果、光の増加に対してアカギは光阻害からの回復が他の在来樹種に比べ て最も 早く、 葉の光合 成能カ が最も増 加し、さ らに新 しい葉の 展開速度、成長量も高かった (Yamashita etaL2000)。さらに、葉齢に着目して馴化能カを検討した結果、光の増加と減少の両方 の光環境の変動に対して、個葉と個体レベルの両方で生理的形態的に高い馴化能カをもつことが 明らかとなった(Yamashita etaL2002)°

  本研究により、幅広い生理的特性をもちなおかつ耐陰性のある植物が、在来植生への侵入に成 功する可能性があることが示唆された。アカギは林内で実生が定着し、林冠ギャップが形成され た際に高い馴化能カによりすばやく適応できるために、在来樹種に比べて早く成長し、繁殖サイ ズにまで達することが可能であると考えられる。閉鎖林内で大量の実生パンクの存在、光環境の 変化に対する高い馴化能力、小笠原諸島の台風による森林の大規模な撹乱、としゝう条件の組み合 わせが、アカギの林冠ギャップでの優占および在来樹種の更新場所の占拠を可能にし、この種が 移入からわずか100年余りの数世代の個体群において、侵入成功を果たしたことにっながったと 考えられる。

  アカギの生活史を推移行列モデルによって構成し、各生活史段階の個体群維持への依存性の強 さを評価した結果、個体群の期間増加率スは1.035であり、今後もこのまま放置すれば、年々個 体群サイズが増大していくポテンシャルをもつことが明らかとなった。また個体群変動へ及ぼす 影響カ は、非開花木>雌木〉雄木の順で高かった。今後これらのステージ(すなわち胸高直径 5cm以 上の個 体)を目 標とす ることが 、繁殖抑 制対策 にとって 効果的 であると 考えら れる。

アカギが小笠原の森林生態系に侵入してから約100年が経っており、すでに森林生態系の一部と なりつっあるため、アカギの駆除および在来樹種の保全事業の実行にあたっては、他の希少種、

在来種を損なうことのないよう、周辺の環境や動植物への影響を十分調査した上で、慎重に計画 をたてる必要がある。

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学位論文審査の要旨

主査   教授   小池孝良 副査   教授   大崎   満 副査   助教授   船田   良 副査   助教授   植村   滋

副査   教授   可知直毅(東京都立大学理学研究科)

学 位 論 文 題 名

小笠原に侵入した木本種アカギの 生理生態と環境保全に関する研究

  本 研 究 は147ベー ジ の 和文 論 文 で 、引 用 文 献210を含 み 、8章 で 構 成さ れ てい る。

他に参考論文12編が添えられている。

  本研究 は、小 笠原諸島 に侵入した木本種アカギの侵入成功要因について、外来樹種と 競合在 来樹種 のもつ生 活史特性と生理特性、および実際に侵入が起きている場所におけ る 環 境 が ど の よ う な 相 互 作 用 を も っ か を 分 析 し 、 考 察 し た も の で あ る 。   小笠原 諸島母 島の桑の 木山湿性高木林におけるアカギのサイズ構造は、小さなサイズ の個体 数が多 くL型 分布を示 してお り、更新 が順調 に行われていることが示唆された。

一方の 在来樹 種は、各 サイズクラスの頻度分布がまばらであり、生活史初期段階での特 性が、 アカギ の優占を 決定づける重要なステージであると考えられた。種子生産量と発 生する 実生量 について5年間 の個体 群動態調 査を行 った結果、アカギは種子の健全率が 高く、 また種 子の発芽 成功率も高かった。発芽した実生の生存率は在来の遷移後期樹種 である シマホ ルトノキ よりも高く、林内では多くの実生パンクが形成されていた。さら に、シ マホル トノキの 種子が、外来種のクマネズミによる被食率が高いことも、シマホ ルトノ キの更 新を妨げ 、アカギの実生の優占をさらに有利にするのに貢献していること も明ら かとな った。こ れら2種の外 来種の作 用によ って、小笠原の在来樹種が減少して いると いうの は、外来 種同士の相互作用が、在来の生態系に加速的にインパクトを与え ている1つの例といえる。

  小笠原諸島は台風による森林の撹乱が起き、、アカギの侵入は特に大型台風の襲来後に 形成さ れる林 冠ギャッ プにおいて著しい。そこで林冠ギャップの形成および閉鎖を想定 し、光 環境の 変化に対 する生理的馴化能カについて、アカギと在来樹種を比較した。そ の結果 、光の 増加に対 してアカギは光阻害からの回復が最も早く、葉の光合成能カおよ

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びク口口フィルa/b比の増加量、新しい葉の展開速度、成長量が、在来樹種よりも高か った。さらに、葉齢に着目して馴化能カを検討した結果、光の増加と減少の両方の変化 に対して、個葉と個体レベルで生理的形態的に高い馴化能カをもつことが明らかとなっ た。アカギは林内で実生が定着し、林冠ギャップが形成された際に高い馴化能カにより すばやく適応できるために、在来樹種に比べて早く成長し、繁殖サイズにまで達するこ とが可能であると考えられる。閉鎖林内で大量の実生バンクの存在、光環境の変化に対 する高い馴化能力、小笠原諸島の台風による森林の大規模な撹乱、という条件の組み合 わせが、アカギの林冠ギャップでの優占および在来樹種の更新場所の占拠を可能にし、

この種が移入からわずか100年余りの数世代の個体群において、侵入成功を果たしたこ とにっながったと考えられる。

  本研究により、高い生理的馴化能カと耐陰性を併せ持つ植物が、在来植生への侵入に 成功する可能性があることが示唆され、侵入種の特徴を一般化する上で、有用な知見で あると思われる。

  これまでのデータを基礎に、アカギの生活史を推移行列モデルによって構成し、各生 活史段階の個体群維持への依存性の強さを評価した結果、個体群の期間増加率入は 1. 035であり、今後もこのまま放置すれば、年々個体群サイズが増大していくポテンシ ヤルをもつことが明らかとなった。また個体群変動へ及ぼす影響カの大きさを示す弾力 性は、非開花木>雌木>雄木の段階で高いことが明らかとなった。したがって繁殖抑制 対策では、これらのサイズ(すなわち胸高直径5cm以上)に至る前に個体数を抑える こと、またアカギは林冠ギャップで優占し繁殖を開始することから、駆除はギャップの 個体を中心に行い、在来樹種の更新場所を確保することが必要であると考えられた。

  アカギが小笠原の森林生態系に侵入してから約100年が経っており、すでに森林生態 系の一部となりつっあるため、アカギの駆除および在来樹種の保全事業の実行にあたっ ては、他の希少種、在来種を損なうことのないよう、周辺の環境や動植物への影響を十 分調査した上で、慎重に計画をたてる必要がある。

以上のように本研究では、大洋島へ移入した樹種の取り扱いに関する保全生態学的研究 で、希少生物の保護に対する指針を与える内容であり、得られた成果は学術的に貴重な ものであり、島嶼環境保全のための基礎資料としても高く評価される。よって審査員一 同は、山下直子が博士(農学)の学位を受けるに充分な資格を有するものと認めた。

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参照

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