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博 士 ( 農 学 ) 佐 藤 幸 恵

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 佐 藤 幸 恵

学 位 論 文 題 名

ス ゴ モ リ ハ ダ ニ 種 群 の多 様 化 に 関わ る 社 会 構 造 変 異 と そ の 維 持 に 関 す る 研 究

学 位 論 文 内 容 の 要旨

    スゴ モリ ハダ 二「 種群 」(the celariusspeciesgroup)は、イネ科に寄生し、

造巣性で亜社会性であるという基本的な生活型が共通しているが、行動、寄主植物、

巣 サ イ ズ や 巣 を構 成 す る 集 団 サ イ ズ に 多 様 化 が み ら れ、 系統 的には1つ のク レー ド を な す 近 縁 種の グ ル ー プで ある (Sakagami2002)。 この 種群 の種 を形 態か ら区 別するのは難しく、かってはタケスゴモリハダことして単一種だと考えられていた。

し か し 、 斎 藤 と 高 橋 (1980) が 、 同 じ サ サ 上 に 生 息 す る タ ケ ス ゴ モ リ ハ ダ 二   (S幽i勿絶fr加yc わusce鰤us(Banks)当時)の巣サイズと胴部背毛の長さに変 異を 見い だし て以 来、 形態 のみな らず 、行 動や社会性にも多くの変異が発見され、

それ らの 間に 生殖 的隔 離も あるこ とか ら、 現在日本国内に分布するものだけでも、

6つ の 型 (3種 十3型 ) ( な お 、S酊toefむ2004で は 、5種1変 異 型 ) に 分 類 さ れ てき た。 さら に、 近年 この 種群が 中国 、韓 国においてもイネ科植物に分布している こ と 、 日 本 と 同 様 に 多 く の 種 や 変 種 に 分 化 し て い る こ と が わ か っ て き て い る

(Zhangefd2000;S甜toef甜2004) 。 こ の 種 群 の 特 徴 と し て 、 ハ ダ ニ 類 の 中 では最も高次とされる社会性をもつこと、、そして種群内では、.社会性の発達段階に さま ざま な変 異が みら れる ことが あげ られ る。これらの社会行動や個体間の社会的 関係 を詳 しく 検討 する こと で、種 群内 の種 分化機構にそれがどう関わってきたのか を 探 り 、 同 時 に そ れ ら の 特 性 が 生 ま れ た 原 因 を 明 ら か に し よ う と 試 み た 。   本 論文 では 、社 会性 を成 立させ てい る基 盤である広義の個体間コミュニケーショ ンシ ステ ムの 種間 変異 に注 目して 、ス ゴモ リハダ二種群の分化プ口セスの詳細の解 明を試みた。

  ス ゴモ リハ ダニ 種群 に属 するス スキ スゴ モリ ハダ 二(S.mjscan出jSaito)の、

オス どう しの 攻撃 性が 異な る兄妹 種間 の交 配システムを精査した。このハダニは、

スス キに 寄生 し、 集団 共同 営巣と 共同 防衛 がみられる社会性のハダニであり、オス はメスだけでなく、メスを含む巣をめぐって殺しあい、ハーレムをっくる。さらに、

オ ス ど う し の 攻 撃 性 の 強 さ が 異 な る 、HG型 とLW型 の2型 が あ る こ と が 明 ら か に なっ た。 そこ で、2型の 分化 プロ セス を知 るた めに 、ま ず、遺 伝的 交流 を調べたと こ ろ 、2型 間 に は 不 完 全 で は あ る が 生 殖 的 隔離 が あ る こと 、そ の生 殖的 隔離 は一 方向 の交 尾前 隔離 と、 両方 向にお ける 交尾 後接合前及び接合後隔離からなること、

型問 のハ イプ リッ ドは 正常 個体よ りも 生存 率および繁殖能カが著しく劣ることがわ かった。

  ま た、 地理 的分 布お よび 生態的 差異 を調 ぺたところ、マク口にみると北方にLW、 南 方 に はHG型 が 、 ま た 南 西 地 域 で は 標 高 の 高 い と こ ろ にLWが 、 低 い とこ ろ にH

‑ 1359

(2)

G

型が生息するという、側所的な分布が見られた。さらに、その境界域を精査した ところ、同所的な生息がみとめられ、そこでは型間で経験する環境が同じであるに も関わらず、メスの休眠性が大きく異なることが判明した。さらに、同所的な2型 について、 その生活史 形質を調ぺ た結果、

HG

型はLW型よりも増殖能カが優れて いること、

HG

型が生息す る低地のス スキは

LW

型が生息する高地のススキよりも 両 型 に と っ て 寄 主 と し て 相 対 的 に 不 適 で あ る こ と が わ か っ た 。

  

生殖的隔離の状態から、

2

型は分岐後あまり時間の経過していない集団だと推察 され、また側所的な分布状態および境界域における生活史の比較結果からみて、分 化後に

2

次的にその分布を接した状態にあると考えられた。そして、分布境界は、

HG

型が増殖能力、交尾能カともに優れているにもかかわらず、休眠性が浅いため に、冬の寒さの厳しい北や山地において、休眠性が深くより寒冷地に適応したLW 型 を 駆 逐 で き な し ゝ こ と に よ っ て 維 持 さ れ て い る の だ と 判 断 さ れ た 。

  

さらに、2型が融合しないもうーつの要因として、異型間交配時における過剰の オス子の産出が考えられた。ハダこは単数倍数性で産雄単為生殖であるため、受精 卵からメスが、未受精卵からオスが発生する。したがって、適応度が劣るハイブリ ッドのメスの子の生産を抑制する能カをもっていると考えられる。この点を確認す るために、Hamilt on(

1969

)の「局所的配偶者競争」の理論にしたがって、1つ の巣内の産卵ヌス数を変化させ、子の性比が変化するかどうか調ぺた結果、スゴモ リハダニ種群のヌスは、産む子の性比を調節する能カをもつことが明らかになった。

  

メスが子の性比を調節する能カは、卵の受精/未受精の調節能カと同等であると 考えられ、2型間交配においてみられた過剰なオス子の生産は、

2

型の境界域で起 きる異型間交配に際して、ハイブリッドヌスの生産により被る不利益を軽減するヌ カニズムとしても働くであろう。これも、境界域を接しながら2型が融合しない理 由の1つであると考えられた。

  

ところで、スゴモリハダニ種群にみられる集団サイズや巣サイズの分化そのもの は、同じ寄主植物上に同所的に生息する多くの天敵ダ二類との相互作用を通じ、小 巣による防護と、大巣による共同防衛という相容れない2つの戦略分化がおこり、

その結果、中間形質の不適応によって分化したと考えられている(Mori 2000)。

このような分化が生じると、共同営巣上重要な巣内環境の衛生維持行動に変化が生 まれるはずである。そこで、同種群の種全体について、集団サイズや巣サイズの分 化と排出物 をめぐる個 体間のコミ ュニケーションシステムの関係を検討した。

  

その結果、スゴモリハダ二種群に属するすべての種がなんらかの排出場所の特定 化行動を示すことがわかった。さらに、それを実現している排出場所認識方法を調 べたところ、種間で幾っかの差異がみられた。これらをSakag甜iQ002)の系統情報 をもとに考察すると、祖先種では巣サイズと集団サイズがそれほど大きくなかった ため、巣の出入り口付近で排出するという物理的信号のみによる排出場所特化方法 で巣内環境汚染を回避していたと考えられた。集団で巣内に侵入してきた捕食者に 対して共同防衛行動をとる戦略を獲得した種(ススキスゴモリハダニとケナガスゴ モルハダ二S.めngusS甜to)では、巣サイズ及び集団サイズが社会の発展とともに 大きくなり、それに伴って排出物から揮発する化学情報を利用して排出場所を認識 するヌカニズムを進化させ、巣の1力所に排出するという行動を発達させたのだと 考えられた。また、この揮発性の化学情報物質が寄主植物由来のものであることを 解明し、ススキスゴモ1jハダこは、ササ寄生のケナガスゴモリハダニの糞に反応す るが、ケナガスゴモリハダニは、ススキスゴモリハダニの糞には反応しないことを 明らかにした。これによって、ススキスゴモリハダニがササ寄生のケナガスゴモリ ハダニから寄主植物を変えることで分化した種であることが推定され、それは分子

1360 ‑

(3)

系統分析の結果とも矛盾しなかった。

    

以上をまとめれぱ、オスの攻撃性を異にするススキスゴモリハダニの2型が、

生殖的隔離の状態から、ごく近縁な姉妹種あるいは半種とみなすべき存在であるこ と、それらが分布境界域において、それぞれの適応の違いによって側所的分布を維 持していることが示された。また、社会構造維持に関するコミュニケ―ションシス テムの違いから、ススキスゴモリハダニは、ササ寄生性のケナガスゴモリハダニか ら、ススキ寄生性へと寄主を変化させて分化したものであることが明らかとなった。

1361

(4)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

スゴモリハダニ種群の多様化に関わる 社会構造変異とその維持に関する研究

  本 論 文 は 、 図 表 を 含 め162ペ ー ジ 、 引 用 文 献96か ら な り 和 文 で 書 か れ て い る 。 他 に 参 考 論 文7編 が 添 え ら れ て い る 。

  ス ゴ モ リ ハ ダ ニ 「 種 群 」(the celariusspeciesgroup)は 、 イ ネ 科 に 寄 生 し 、 造 巣 性 で 亜 社 会 性 で あ る と い う 基 本 的 な 生 活 型 が 共 通 し 、 ま た 形 態 的 な 類 似 性 が 高 い が 、 行 動 、 寄 主 植 物 、 巣 サ イ ズ や 巣 を 構 成 す る 集 団 サ イ ズ に 多 様 化 が み ら れ 、 系 統 的 に は1 つ の ク レ ー ド を な す 近 縁 種 の グ ル ー プ で あ る(Sakagami2002)。 こ の 種 群 の 特 徴 と し て 、 ハ ダ 二 類 の 中 で は 最 も 高 次 と さ れ る 社 会 性 を も つ こ と 、 そ し て 種 群 内 で は 、 社 会 性 の 発 達 段 階 に さ ま ざ ま な 変 異 が み ら れ る こ と が あ げ ら れ る 。 本 研 究 で は 、 こ れ ら の 社 会 行 動 や 個 体 間 の 社 会 的 関 係 を 詳 し く 検 討 す る こ と で 、 種 群 内 の 種 分 化 機 構 に そ れ が ど う 関 わ っ て き た の か を 探 り 、 同 時 に そ れ ら の 特 性 が 生 ま れ た 原 因 を 明 ら か に し よ う と 試 み て い る 。

  ま ず 、 ス ゴ モ リ ハ ダ 二 種 群 に 属 す る ス ス キ ス ゴ モ リ ハ ダ 二 (Stigmaeopsis miscanthi(Saito))の 、 オ ス ど う し の 攻 撃 性 が 異 な る 変 異 型 間 の 地 理 的 分 布 お よ び 生 態 的 差 異 を 調 べ た 。 日 本 全 体 で み る と 北 方 に 攻 撃 性 の 弱 いLW型 、 南 方 に は 攻 撃 性 の 強 HG型 が 分 布 し 、 ま た 南 西 地 域 で は 標 高 の 高 い と こ ろ にLWが 、 低 い と こ ろ にHG 生 息 す る と い う 、 側 所 的 な 分 布 が 見 ら れ た 。 さ ら に 、 そ の 分 布 境 界 域 に お い て は 、 同 所 的 な 分 布 が 認 め ら れ る こ と が 判 明 し た 。

  こ れ ら2型 の 生 活 史 形 質 を 調 べ た 結 果 、HGLWよ り も 増 殖 能 カ が 優 れ て い る こ と が わ か り 、 寄 主 植 物 の 適 合 性 を 調 べ た 結 果HGが 生 息 す る 低 地 の ス ス キ はLW型 が 生 息 す る 高 地 の ス ス キ よ り も 両 型 に と っ て 寄 主 と し て 相 対 的 に 不 適 で あ る こ と が わ か っ た 。 次 に 、 生 活 史 形 質 で 優 るHGが 、 好 適 なLWの 寄 主 に 進 出 し な い 理 由 を 調 べ た 結 果 、 境 界 域 に お い て 同 所 的 に 分 布 し て い るHGLWの 間 で メ ス の 休 眠 性 が 大 き く 異 な り 、L Wが 寒 冷 域 に 強 い 適 応 性 を も つ こ と が 判 明 し た 。

  次 に 、HGLWと が ど の よ う な 遺 伝 的 交 流 を 行 っ て い る の か を 知 る た め に 、 交 配 シ

裕 明司

   

   

正光 藤訪 川 齋 諏前 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副

(5)

ステムを精査し、2型間には不完全ではあるが生殖的隔離があること、その生殖的隔 離は一方向の交尾前隔離と、両方向における交尾後接合前及び接合後隔離からなること、

型間のハイブリッドは正常個体よりも生存率および繁殖能カが著しく劣ることがわかっ た。

  2

型が交雑によって融合しない要因の

1

つとして、異型間交配時における過剰のオス 子の産出が重要だと考えられた。ハダニは単数倍数性で産雄単為生殖であるため、受精 卵からメスが、未受精卵からオスが発生する。1つの巣内の産卵メス数を変化させ、子 の性比が変化するかどうか調べた結果、スゴモリハダニ種群のメスは、産む子の性比を 調節する能カをもつことがわかり、この能カが異型間交尾に際して、ヌス子を産まず、

本来は少数しか産まないオス子を多数産みだして、異型交配時のダメ―ジを軽減する効 果をもつと判断された。

  

以上、分布状態、生殖的隔離、境界域における生活史および季節適応特性の比較から、

これらの2型は、異所ないし異時的に分化後、

2

次的にその分布を接した状態にある集 団だと推定された。そして、分布境界は、HG型が増殖能力、交尾能カともに優れてい るにもかかわらず、休眠性が浅いために、冬の寒さの厳しい北方や山地において、休眠 性が深くより寒冷地に適応した

LW

型を駆逐できないことによって維持されているのだ と判断された。

  

さらに、スゴモリハダ二種群の種全体について、.集団サイズや巣サイズの分化と排出 物をめぐる個体間のコミュこケーションシステムを検討した。その結果、この種群に属 するすべての種が、なんらかの排出場所の特定化行動を示すが、それを実現している排 出場所認識方法には種間で差異のあることがわかった。大型の巣を作るススキスゴモリ ハダニとケナガスゴモリハダニでは、排出物から揮発する化学情報を利用して排出場所 を認識するヌカニズムをもつこと、この化学情報物質が寄主植物由来のものであること を解明した。また、ススキスゴモリハダニは、ササ寄生のケナガスゴモリハダニの糞に 反応するが、ケナガスゴモリハダニは、ススキスゴモリハダニの糞には反応しないこと から、前者がササ寄生の後者から寄主植物を変えることで分化した種であることが推定 された。

  

以上のように、本研究はハダ二類において近縁グループの多様性がうまれ維持されて いるメカニズムについて、生殖的隔離、競争と季節適応というさまざまな側面から解明 し、ススキスゴモリハダ二

2

変異型が半種ないし兄妹種であること、それらが分化後2 次的に接触した状態にあることを明らかにした。さらに、スゴモリハダこ種群の社会行 動における化学的コミュこケ―ションの存在をはじめて解明したことは、学術的に高く 評価される。よって、審査委員一同は、佐藤幸恵が博士(農学)の学位を受けるに十分 な資格を有するものと認定した。

参照

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