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博士(農学)山中拓哉 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(農学)山中拓哉 学位論文題名

夕バコモザイクウイルスの増殖に関与するシロイヌナズナァ〇〃ヱ 遺伝子のクローニングならびに TMV‑Cg 株の全塩基配列の決定

学 位 論 文 内 容 の要 旨

  ウ イル スは 自身 が生 理活 動を 行う 「場 」を 持た ず、 それぞ れのウイルスに特異的な宿 主細 胞内 にお いて のみ 増殖 する こと がで きる 。従 って 、すべ てのウイルスは宿主由来の 特異的な因子との相互作用のもとに増殖する。

  真 核生 物の プラ ス鎖RNAウ イル スの 感染 細胞 内に おける 増殖 機構 は未 だ不 明の 部分 が 多い 。そ の原 因の ーっ とし て、 ウイ ルス 増殖 過程 にお ける未 知の宿主因子の関与が上げ ら れ る。 現在 、こ の宿 主因子 の研 究は 、ウ イル スRNAの複 製機 構の 研究 にお ける 中心 的 な 興 味の 対象 のー っと なって いる 。近 年、 ウイ ルス のゲ ノムRNA複 製活 性画 分に 含ま れ る宿 主由 来の タン パク 質が 生化 学的 手法 によ りい くっ か同定 された。本研究の目的は、

シ 口 イヌ ナズ ナを 用い た遺伝 学的 手法 によ って 、植 物の プラ ス鎖RNAウ イル スの ーつ で あ る タ バ コ モ ザ イ ク ウ イ ル ス(TMV)の 増 殖 に 関 与 す る 宿 主因 子 を 同定 をす るこ とに あ る。

  ウ イル ス側 の研 究材 料とし てはTMVの中 でも シ口 イヌナ ズナ 植物 体に おい て効 率よ く 増殖するTMV‑Cg株(crucifer strain isolated from grllc)を使用した。TMV・Cg株はモザ イク 斑を 示し た北 海道 のニ ンニ クか ら分 離さ れ、 血清 学的に はアブラナ科系統のトバモ ウ イ ル ス と 近 縁 で あ る 。 本 論文 で は 、ま ずTMV℃g株の全 塩基 配列 の同 定を おこ ない 、 その 配列 上の 特徴 を明 らか にし た。TMV℃g株のゲノムRNAの全長は6,303塩基であった。

これ は、 現在 まで に塩 基配 列が 決定 され たト バモ ウイ ルス属 のウイルスの中では最も短 い も の の ー つ で あ る 。 ゲ ノ ム上 に は 他 の ト バ モ ウ イ ル ス と 同 様 に4つ の大 きな 読み 枠

(ORF)が 見い ださ れ、 ゲノ ム構 成、 塩基 配列 およ びアミ ノ酸 配列 は他 のア ブラ ナ科 系 統のトバモウイルスと共通の特徴を示した。

  植 物側 の研 究材 料と してはTMVの増 殖が 野生 型株 より低 く抑 えら れる シ口 イヌ ナズ ナ のめmヱ(tobamovirus旦Hltiplication)突然変異株を使用した。f0岡i変異は劣性変異であ り、TMVの一 細胞 内に おけ る増殖 を抑制する。また、亡〇mヱ変異株において、TMV・Cg株 感 染 時にTMVコ ート タン パク 質の 蓄積 が野 生型 株と 比較し て低 く抑 えら れる のに 対し 、 調べ た限 り、 他の ウイ ルス の増 殖には影響を与えない。従って、野生型の丁〇Mヱ遺伝子 産 物 はTMVRNAの 一 細 胞 内 に お け る 複 製 をTMV特 異 的 に サ ポ ー ト す る 宿 主 因 子 で ある と考えられている。

(2)

  TOM1遺 伝 子 を ポ ジ シ ョ ナル クロ ーニ ング 法に よル クロ ーニ ング するこ とを 目指 し、

TOM1遺 伝 子 座 の 遺 伝 的 マ ッ ピ ン グ を お こ な っ た 。RFLPマ ッ ピン グ に よ り 、TOM1遺 伝 子座 はシロ イヌ ナズ ナ第4染色体下部にあることを示した。次に約3,000のマッピングラ イ ンを 用 い た 詳 細 な 遺 伝 的マ ッピ ング をお こな った 。そ の結 果、TOM1遺 伝子 座が シロ イ ヌ ナ ズ ナ 第4染 色 体 上 の22 kbの 領 域 の 中 に 存 在 す る こ と を 明 ら か に し た 。   この 領 域 に 対 応 す る 様 々 なDNAク ロ ー ン を 用 い てTOM1遺伝 子を 含む領 域の 整列 クロ ー ンの 集 団(contig)を 構 築 し た 。 こ れ ら のDNA断 片 をT‑DNAベク タ ー に サ ブ ク ロ ー ン 化し 、アグ ロバ クテ リウ ムを用いてtomj.i突然変異株に導入し、形質転換体を得た。得 ら れた 形 質 転 換 体 の 内 、 共 通 す る6 kbのDNA領 域 を 持 つ2つのT‑DNAクロ ーン 由来 の形 質転 換体に おい て、TMVの増殖が野生型株と同程度のレベルに回復した。このことより、

こ の6 kbのDNA断 片 はtomi.i変異 を相 補す る能 カを 持ち 、こ の領 域内にTOM1遺伝 子が 存在することが分かった。

  この6 kbのDNA断 片 を プ ロ ー ブに シ ロ イ ヌ ナ ズ ナcDNAライ ブラ リーを 検索 した 。得 られ たcDNAクロ ーン の塩 基配 列と 、そ れと 相同 なexpressed sequence tag (EST)クロー ン の塩 基 配 列 を 統 合 し た 結 果 、 こ の 領 域 上 に1,215塩 基 、11個 の エ キ ソ ン か ら な る mRNAが コ ー ド さ れ て お り 、 こ の 配 列 上 に873塩 基 、291ア ミノ 酸か らな るORFが存 在す るこ とを見 いだ した 。こ れまでに分離された3つの互いに独立なtomヱ変異株(toml・j、 toml.2、tomヱ‑3)の変 異部位がすべてこの転写単位内に存在したこと、またノザン解析 によ り3つ のtoml変 異株 にお いて この転 写産 物の 蓄積 量が 野生 型株 に比 べて 減少 してい たことから、これを丁〇M1遺伝子と同定した。

  TOMl ORFか ら 予 想 さ れ るア ミノ 酸配 列に つい てコ ンピ ュー ター による ホモ ロジ ー解 析、 ならび にタ ンパ ク質 構造 予測 プロ グラ ムに よる 解析 の結 果、TOM1夕 ンパ ク質 は7回 貫通型膜夕ンパク質と予測された。

  TOM1夕ンノヾク質の細胞内局在を知るために、TOM1とgreen fluorescent protein  (GFP) の融合夕ンノヾク質をシロイヌナズナ野生型株のカルス培養細胞由来のプロトプラスト内 で一 過的に 発現 させ 、細 胞内 にお ける 螢光 の局 在を 観察した。その結果、少な<とも一 部の 螢光は 液胞 膜に 局在 する こと がわ かり 、TOM1タ ンバ ク質 を液胞 膜に 局在 する7回膜 貫通型夕ンパク質であると予測した。

  TMVを は じ め と す る 大 多 数 の プラ ス 鎖RNAウ イ ル ス のRNA複 製酵 素はそ の抽 出時 に必 ず膜 画分に 含ま れる こと が分 かっ てお り、 感染 細胞 内で何らかの膜と相互作用している と考 えられ てい る。 これ は遠 縁の ウイ ルス にお いて も保存されていることから、ウイル ス増 殖にお いて 重要 かつ 基本 的な 事象 であ ると 考え られる。しかしながら、その機構や 相互 作用を 必要 とす る理 由は 明ら かに なっ てい ない 。TMVのゲ ノム 上に コー ドさ れるタ ンパ ク質、 およ び生 化学 的に 同定 され た因 子は 、い ずれも膜結合性タンパク質ではない と 考え ら れ て い る 。 従 っ て 、TOM1夕 ン パ ク 質 はTMV増 殖 関連 分子 として は現 在の とこ ろ 唯一 の 膜 夕 ン パ ク 質 で あ る と 考 え ら れ 、TOM1タ ン パク 質はTMVの複製 酵素 と膜 とを っ な ぐ ア ン カ ー の 役 割 を 持 つ タ ン パ ク 質 で あ る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。   TOM1遺 伝 子 は プ ラ ス 鎖RNAウ イル ス の 宿 主 因 子 を 遺 伝 学的 に同 定した 最初 の例 であ り 、TOM1因 子 の 機 能 が 同 定 さ れ る こ と に よ りTMVの 増 殖 機構 の分 子レベ ルで の解 明、

(3)

中でも感染細胞内におけるウイルス複製関連分子の動態の解明が期待される。さらには 本研究を起点にプラス鎖RNAウイルスと宿主細胞との相互作用の研究における新たな局 面の展開が期待でき、ウイルス増殖機構の研究に大きく寄与するものと考えられる。

(4)

学 位 論 文 審 査 の 要旨 主 査    教 授    内 藤    哲 副 査    教 授    千 葉 誠 哉 副査    助 教授    石川雅之

学 位 論 文 題 名

夕バコモザイクウイルスの増殖に関与するシロイヌナズナTOM1 遺伝子のクローニングならびにTMV‑Cg 株の全塩基配列の決定

  本 論 文は7表 、34図 、 引用 文 献94を 含む 和 文101ページ からなり 、別に参考 論文2編 が添付さ れている 。

  真 核 生物 の プラ ス 鎖RNAウ イ ル スの 感 染細 胞 内に おける増 殖機構は未 だ不明の 部分 が多 い が 、そ の 原因 のーつに ウイルス 増殖過程 における 未知の宿主 因子の関 与が上げ られ る 。 近年 、 ウイ ル ス のゲ ノ ムRNA複 製 活性 画 分に含ま れる宿主由 来のタン パク質 が生 化 学 的手 法 によ りいくっ か同定さ れたが、 未同定の 宿主因子が 数多く存 在するこ と に 疑 問 の 余 地 は な く 、 新 た な 手 法 に よ る 宿 主 因 子 の 同 定 が 急 が れ る 。   本 論 文は 、 シロ イヌ ナズナの 突然変異 株を用い た遺伝学 的手法によ って、夕 バコモ ザ イ ク ウ イ ル ス(TMV)の 増殖 に 関 与す る 宿主 因 子 を同 定 した も の であ る 。 トバ モ ウ イ ル ス に 属 す るTMVに は 多 くの 系 統 が知 ら れて い る が、TMV‑Cg株(crucifer strain isolated from garlic)はシロイヌナズナで効率よく増殖する。一方、シロイヌナズナの toml (tobamovirus multiplication)変異は感染 細胞内に おけるTMVの 増殖を特 異的に 抑 制 し 、 従 っ て 、 野 生 型 のTOM1遺 伝 子産 物 はTMVの 感 染 細胞 内 にお け る 増殖 を サポ ートする 宿主因子 であると 考えられ ている。

  本論文の 内容は以 下のよう に要約さ れる。

1. TMV‑Cg株ゲノ ムRNAの全塩 基配列の 決定

  本 論 文 の 研 究 で 中 心 的 な 材 料 と し て 用 い たTMV‑Cg株 の 全 塩基 配 列 を決 定 した 。 TMV‑Cg株 の ゲ丿 ムRNAの 全 長 は6,303塩 基で あ り、 現在まで に塩基配 列が決定さ れた トバ モ ウ イル ス の中 では最も 短いもの であった 。ゲノム 上には他の トバモウ イルスと 同様 に4つ の 読み 枠(ORF)が 見い だ され 、 ゲ ノム 構 造 、塩 基 配列 な ら びに ア ミノ酸 配 列 は 他 の ア ブ ラ ナ 科 系 統 の ト バ モ ウ イ ル ス と 共 通 の 特 徴 を 示 し た 。 2.シロイ ヌナズナTOM1遺伝子の クローニ ング

  TOM1遺 伝 子座 の 詳細 な 遺 伝的 マ ッピ ン グ をお こな い、シロ イヌナズナ 第4染色体 上

(5)

の22 kbの領域の中にTOM1遺伝子が存在することを明らかにした。この領域に対応す る様々なDNAクローンを作製し、T‑DNAベクターにサブクローン化し、tomヱ突然変異 株に導入して形質転換体を得た。このうち2つのT‑DNAクローン由来の形質転換体にお いてTMVの増殖が野生型株と同程度に回復したことより、これら2つのクローンに共通 する6 kbのDNA断片がtomヱ変異を相補する能カを持ち、この領域内にTOM1遺伝子が存 在することを明らかにした。この領域に1,215塩基からなるmRNAがコードされている ことを見いだし、11個のエキソンに分断された873塩基、291アミノ酸からなるORFが 存在することを発見した。独立に分離された3つのtoml変異株の変異部位がすべてこの 転写単位の内部に存在すること、およびこれらの変異株においてこの転写産物の蓄積 量が野生型株に比べて減少していることを明らかにし、これがTOMl mRNAであると同 定した。

3. TOM1遺伝子産物の解析

  コンピューターによるホモロジー検索、ならびにタンパク質構造予測によりTOM1夕 ンパク質は7回貫通型膜夕ンパク質と予測された。TOM1と緑色螢光タンパク質の融合 夕ンパク質をシロイヌナズナ野生型株のカルス培養細胞由来のプロトプラストで発現 させ、細胞内局在を観察した結果、少なくとも一部は液胞膜に局在することを明らか にした。これよりTOM1夕ンパク質は液胞膜に局在する7回貫通型膜夕ンパク質である と推論した。

  多くのプラス鎖RNAウイルスのRNA複製酵素活性は、膜画分に含まれることから、

生体内では何らかの膜構造と相互作用していると考えられている。一方、TMVのゲノ ム上にコードされるタンパク質、そして本研究以前に発見されたTMV複製に関与する 宿主因子は 膜結合性夕 ンパク質ではないと考えられている。TOM1タンパク質はTMV 増殖に関連した分子としては最初の膜タンパク質と考えられ、このことからTOM1夕ン パク質はTMVの複製酵素と膜をっなぐ役割を持っタンパク質である可能性を考察した。

  以上、本論文においてTMVの細胞内における増殖に関与する宿主因子であるTOM1 遺伝子のクローニングに成功した。本論文はプラス鎖RNAウイルスの宿主因子を遺伝 学的に同定した最初の例であり、プラス鎖RNAウイルスと宿主細胞との相互作用の研 究に新たな研究方策を導入したものである。

  本研究の成果はTMVの増殖機構の分子レベルでの解明、とりわけ感染細胞内におけ るウイルス複製関連分子の動態の解明に大きく貢献するものと期待されるのみならず、

植物にウイルス耐性を付与するための基礎研究としても重要なものである。よって審 査員一同は、山中拓哉が博士(農学)の学位を受けるに十分な資格を有するものと認 めた。

参照

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